クロノは、今回の事件。
ジュエルシード事件の報告書を作成していた。
[ジュエルシード事件。
始まりはユーノ・スクライアが現場監督していた発掘所襲撃事件からである。
襲撃犯であるアルバート・レスターは、単独で現場を襲撃。
その後、ユーノ・スクライアと交戦中、ジュエルシードが発動し、ユーノ・スクライアは第九十七管理外世界に飛ばされ、現地の住民に助けられる。
高町なのはと衛宮優人、以下の二名は魔力を持っている事から、ユーノ・スクライアの要請でジュエルシードの収集を開始する。
一方、違法渡航者のフェイト・テスタロッサとその使い魔のアルフは、アルバート・レスターにそそのかされて、ジュエルシードの収集を開始する。
ジュエルシード収集する二組は、交戦を幾度もしながらジュエルシードを集めを続けた模様。
我々が駆けつけた時には既に半数近くのジュエルシードは封印されていた。
その後も、ユーノ・スクライア、高町なのは、衛宮優人の三名はジュエルシードの収集に協力。そしてフェイト・テスタロッサの説得に成功する。
しかし、アルバートの次元跳躍魔法による攻撃によって、フェイト・テスタロッサが収集したジュエルシードを奪われる。
しかも、彼女の母、プレシア・テスタロッサの使い魔、リニスからプレシア・テスタロッサがアルバート・レスターの手によって誘拐された事が判明した。
事態は悪い方向に傾いたが、衛宮優人の考案した作戦により、アルバート・レスターの居場所の特定とプレシア・テスタロッサの救出に成功する。
しかし、アルバート・レスターを逮捕に至らず。
現在ジュエルシードを持って逃亡中」
クロノは報告書を書き終えて、一息ついた。
今回の事件は解決に至らず。結局痛み分けで終わってしまったと、クロノは思っている。
因みに、フェイトはジュエルシードの力で、プレシアの病を治した。
フェイトの想いが余程強かったのか、病だけではなく、ある程度若返ってしまった。
それを見たリンディは、凄く羨ましそうにしていた。
「クロノくん! まだ報告書を書いていたの? 早くしないと始まっちゃうよ!」
「分かっているエイミィ。今行くって」
クロノは支度すると、エイミィと共にアースラのモニタールームに向かった。
モニタールームには、リンディ、エイミィ、クロノ、プレシア、リニス、アルフ、レイヴン、ユーノ、優人の九人がモニターを見ていた。
そこには、フェイトとなのはが映し出されていた。
「制限時間は三十分、準備は良い?」
《《はい!》》
二人はバリアジャケットを展開し、戦闘体制をとる。
何故こんな事になったというと、時間を少し遡る。
フェイトがプレシアになのは達を紹介するとき、話題に―――。
『フェイトとなのは、どっちが強いの?』
その一言で、二人はアースラ内にあるトレーニングルームで模擬戦をする事にした。
「それじゃ、レディ・・・・・ゴー!」
エイミィの合図と共に、フェイトは一瞬でなのはに近づき、バルディシュで切りつけた。
しかし、それを予想してたかのように、なのははレイジングハートで受け止めた。
「速い! なんてスピードだ!」
「確かに、僕でも一瞬見失った。けどそれ以上に――」
「フェイトの一撃を防ぐなんて・・・・・」
フェイトのスピードに驚くユーノとクロノだが、それ以上にそのスピードについてこれたなのはにも、驚いていた。
しかし、レイヴンはこのカラクリを見破っていた。
「衛宮・・・・・と言ったな。初撃の“アレ”お前の入れ知恵だろう?」
「どういう事だい?」
「フェイトの初撃、アレは熟練者でも防ぐのが難しい完璧な不意打ちだ。しかし、それを防ぐという事は、あらかじめ予測しないと無理だ」
「えっと・・・・・それじゃ、優人くんがそれを教えたって事ですか?」
「それは本人聞けば分かる。で、どうなんだ?」
レイヴンがそう聞くと、優人は素直に答えた。
「フェイトの戦闘スタイルを考えると、最初は必ずクロスレンジで攻撃すると思ったんだ。レイジングハートも同じ予想をしてたけど、俺は死角からじゃなくて正面から来るってなのはに伝えたんだ」
「・・・・・どうしてそう思った」
「フェイトはこれまで、なのはの死角から攻撃を仕掛ける事が多かったから、その裏をかくんじゃないかなって――――」
優人の分析を聞いて、レイヴンは理解してしまった。
少なくとも彼は、とんでもない修羅場を幾度もくくり抜けた事があり。
その分析力はそれによって培った物である事を―――。
(どんな修羅場を潜って来たんだ・・・・・)
優人がどんな修羅場をくぐり抜けたのかは、レイヴンは知らない。
一つ言える事は、なのはやユーノより戦闘経験がある戦士だという事である。
「あ! 二人が動き出した」
優人の声で、再びモニターに眼を戻す。
フェイトはスピードで撹乱しながら、魔法撃ち出し。
なのはも、フェイトの魔法を迎撃しながら、反撃をしていた。
時おりフェイトの死角からのクロスレンジ攻撃をするが、なのははそれらを全て防ぎ、逆に砲撃を喰らわせていた。
「フェイトがここまで苦戦するなんて・・・・・」
「ですが、なのはって子は、無駄撃ちが多いです。このペースなら、直ぐに魔力切れを起こす筈――」
「だが、フェイトの体力もそろそろ限界の筈。魔力切れを狙うか、決めにいくか・・・・・」
「フェイトー! 頑張れー!」
「なのはも負けるなー!」
それぞれが応援と解説をしている中、クロノはある定説を思い出す。
「ドミナントか・・・・・」
「ドミナント? 何だいそれは?」
「ドミナントって、先天的戦闘好適者の事かしら?」
「プレシア、知っているのですか?」
「ええ、先天的戦闘好適者っていうのは、僅かな期間で一流戦闘力を出す才能を持つ人の事よ」
「簡単に言うと、戦いの天才って奴だ」
その言葉に、その場にいる全員が納得した。
フェイトも才能はあるが、数年間、キチンとした訓練を受けている。
一方、なのはは僅か一ヶ月半程度、その彼女がフェイトと互角の戦いを繰り広げているのだ。
「まさに彼女の為の言葉よね・・・・・」
「あれ? その定説って風評だったんじゃ・・・・・」
「根拠が無かったから、風評って言われてたけど、彼女を見ていると信憑性が増すよ」
ドミナントの存在は今まで、絵空事だと言われたが、なのはの存在は正にドミナントを証明するものだった。
「それなら、もう一つの定説はどうなのかな?」
「もう一つって?」
「エイミィ、流石にそんな奴はいないって、それこそ風評だよ」
「んん? 何の話だい?」
「それってイレギュラー説の事かしら?」
「イレギュラー?」
「変異的戦闘適応者。本来、戦闘に適してない人、一般人が極限状態、あるいは過酷な戦場で戦闘適応者になる事よ。ドミナントと違って、訓練での成長スピードは普通。だけど、戦いを通して破格の成長をし、強く進化するっていう説よ」
「そんな奴がいるのかい?」
「あくまで仮説よ。まぁ眉唾物なのは確実でしょうね。仮にいたとしても、一般人が戦場に出れば、大抵は命を落とすわ」
「それってなのはに当てはまらない? 一応彼女、戦いも通して強くなったから・・・・・」
ユーノの言葉に、プレシアは首を横に降って否定した。
「言った筈よ。一般人って、彼女は魔法に関して一般人の枠を超えているわ。ドミナントなのかも知れないけど、イレギュラーじゃないわ」
「そうですか・・・・・」
「おい、モニターの方を見ろ、そろそろ決まるぞ」
レイヴンの声で、全員がモニターを注視した。
フェイトはフォトンランサーファランクスの発動準備をしていた。
一方なのはは、フェイトのバインドを振りほどこうとしていた。
「フェイトのフォトンランサーファランクス! これで決まった!」
そして、魔法が放たれる。
なのはは、バインドを解き、シールドを三枚展開するも、フォトンランサーの集中放火によって、一枚、二枚、そして最後の三枚目も破壊され、フォトンランサーの雨に撃たれた。
「試合終了だな、それじゃ・・・・・」
「まだ終わっていない。見てくれ」
優人が指差す、そこにはなのはが居た。
「フェイトのフォトンランサーファランクスに・・・・・耐えきったの!?」
「しかもバリアジャケットが再構成されてるよ!」
「恐らく、防御を全てデバイスに任せて、バリアジャケットの再構築に専念したのだろう」
「なんて無茶な事をする子なの・・・・・」
「それよりも、その魔力は何処から出しているの? なのはちゃんの魔力残量は十%切っているんだよ?」
「それは、これから分かる事だ」
クロノの言葉通り、なのはは周囲の魔力を集めだし始めた。
「集束魔法!? あの子いつの間にこんな上級技術を!?」
「これは不味いよ・・・・・フェイトのフォトンランサーファランクスの魔力も集まってるから・・・・・」
今までの魔力を一点に集中させ放つ集束魔法。
恐らく受ければ、撃墜は免れないだろう。
しかし、動きが速いフェイトに当てる事は至難の業、だから彼女は布石を打った。
「バインド! いつの間に!?」
「やった! これでなのはの勝ちだ!」
フォトンランサーファランクスを撃ったフェイトに、なのはのバインドを解く魔力は残されていなかった。
『行くよフェイトちゃん! これが私の全力全か―――』
そこでなのはの声が途切れた。
モニターも何も写し出さなくなった。
「エイミィ! 何が起きた!?」
「ちょっと待って! 今調べてみる」
エイミィは端末を操作し、原因を調べた。
するとモニターが快復し、映し出されていたのは、ダブルノックアウトしているなのはとフェイトであった。
「一体・・・・・何が起きたのかしら?」
「エイミィ、原因は?」
「えっとね、なのはちゃんの集束魔法が暴発して、その余波で、二人ともダウンしちゃったみたい」
「やれやれ、まだまだ課題が残っているみたいだな」
こうして、なのはとフェイトの模擬戦は引き分けで終わった。
模擬戦から一週間、その間色々な事があった。
フェイトはなのはと優人に、アリサとすずかを改めて紹介され、友達なった。
ユーノはクロノに、今回の事件の事後処理を手伝わされている。
プレシアは、アルバートについて事情聴取を受けているが、有力な情報は無い。
そして、保留になっていたフェイトの罪状は、アルバートに騙された事もあって、無断渡航だけになった。その上、捜査に協力もしたので、刑は軽くなるとの事。
何はともあれ、裁判を受ける為、時空管理局に出頭しなければならない。ユーノも、元の世界に戻る事になった。
今日はその日なのだが―――。
「遅い・・・・・見送りに来るって言いながら、遅刻するなんて・・・・・」
「少しぐらい待ってやれ、不良執務官」
「なっ!? 誰が不良執務官だ!」
「リンディから聞いたぞ。お前、今回の件で処分を受けるそうじゃないか?」
「うっ、あ、あれは・・・・・」
そう、ジュエルシードを半分強奪された上、ジュエルシードを無断使用もしたのだ。処分は免れなかった。
「いや、感謝している。お前の決断で、一つの家族を救ったんだ。ありがとう、クロノ」
「・・・・・」
「ん? どうした?」
「君が礼を言うとは思わなかったから・・・・・」
「俺は義を重んじる性格なんだ。どんな奴でも、礼を言う時は礼を言う」
「ふーん、意外だな・・・・・」
そんな会話をしていると、優人達がやって来た。
「遅い! 五分の遅刻だぞ!」
「うっさいわね! イチイチ細かい男は嫌われるわよ!」
「何だと!」
「何よ!」
「また始まったか・・・・・飽きないな二人とも」
どういう訳か、クロノとアリサは顔を合わせると口論をする事がある。
喧嘩するほど仲が良いとよくいうので、普段は放置するレイヴンなのだが、今回は仲裁に入った。
「お前らそこまでだ。アリサ、見送りに来たんだろ?」
「そうだったわ。フェイト、ユーノ、アンタ達にプレゼントよ」
アリサがそう言うと、なのはとすずかは、持っていたプレゼントを二人に渡した。
「ありがとう。開けてみても良い?」
「うん! 良いよ!」
二人はプレゼントを開けてみた。
フェイトはリボンで、ユーノは眼鏡が入っていた。
「皆で相談して決めたんだ。気に入ると良いけど・・・・・」
「わ〜ありがとう皆。大事にするね」
「おーい、そろそろ行くぞ」
クロノは二人を呼び出す。もう別れの時である。
ふと、なのははある事を思い出す。
「そうだ! レイジングハート、返さないと・・・・・」
そう言って、ユーノにレイジングハートを返そうとする。
すると、ユーノは首を横に振って。
「いや、レイジングハートはなのはが持ってて」
「いいの?」
「うん、僕じゃ使いこなせないし、なのはに使って貰った方が、レイジングハートも喜ぶと思う」
「ありがとう、ユーノくん。これからもよろしくね、レイジングハート」
【はい、マイマスター】
話は終り、フェイトとユーノは転送ポートに入る。
そして、最後の別れの言葉を言う。
「ありがとう皆! 皆の事忘れないから!」
「落ち着いたら、手紙を送るよ」
「ユーノもフェイトも、元気で」
「もう一度、遊びに来なさいよ!」
「またね、ユーノくん、フェイトちゃん」
「フェイトちゃん! ユーノくん! 私、二人に会えて、本当に良かったよ!」
それぞれ言葉を交わし、ユーノとフェイトは行ってしまった。
いつの日か、会えると信じて。
無印編 完