ここは海鳴市にある聖洋小学校。そこでは、文化祭の日が迫っていた。
「それじゃ多数決で、シンデレラをやる事になったわよ」
委員であるアリサが黒板にデカデカと、シンデレラという文字を書いた。
「それじゃ、次は役決めに入るぞ。誰か推薦または、やりたい人は手を上げてくれ」
もう一人の委員である優人が、次々と役割とそれを演じる人の名を書き出していく。
そして、シンデレラの役割を決める番になった。
「魔法使い役はすずか・・・・・っと、次はシンデレラだけど、誰かやりたい人は?」
しかし、誰一人手を上げる者はいなかった。
「ちょっと! 誰かいないの!?」
アリサがそう叫ぶが、やはり誰も手を上げなかった。
「誰もいないなら、俺達で決めるけど・・・・・いいか?」
それを肯定するかのように、クラスは静まった。
優人はクラスをみまわすと、なのはと目が合った。
「なのは、シンデレラやってみるか?」
「え!? 私!?」
「そうね。案外はまり役かもね。はい、なのはに決定!」
「え〜〜〜! そんな!」
なのはは何とか抗議をしたが、アリサに全て却下されてしまい。結局、シンデレラを演じる事になった。
「それじゃ次は意地悪な継母だけど・・・・・アリサで良いよな?」
「ちょっと! 何であたしなのよ!?」
「何となく、イメージに合いそうだから・・・・・皆はどう思う?」
優人がそう聞くと、クラスの皆は、なのはを虐めているアリサの姿が容易に思い浮かべられ、ウンウンと頷いた。
「アンタ達・・・・・覚えていなさいよ!」
アリサはワナワナと怒りを震わせながら、役決めを進めていった。
そして、最後の役決めを始めた。
「最後の王子役だけど・・・・・誰かいないか?」
先程のシンデレラ役を決めた時のように、誰も手を上げなかった。
それを見たアリサは、チャンスとばかりに―――。
「誰もいないんじゃ・・・・・優人、アンタやってみない?」
「俺が?」
「そうよ。あと、アンタに拒否権は無いから♪」
「横暴だな!?」
「うるさい! アンタだって似たような事してんだから! これで相子よ!」
こうして、シンデレラの役決めは無事終わり、本番に向かって練習が始まった。
放課後、クラスの皆は劇の練習をしていた。
まだ日が浅い為、動きがぎこちない。その中で特になのはが―――。
「ちょっとなのは! また台詞間違っているわよ! 同じ所を何回間違えば気がすむのよ!」
「ご、ごめんねアリサちゃん・・・・・」
「もう一回やるわよ!」
アリサとなのはのやり取りを、一部始終を見ているクラスの皆はこう思っていた。
(((まさに、継母とシンデレラだな)))
口には出さなかったが、見事に二人ははまり役であった。
なのはが劇の練習をしている頃、優人は小道具や大道具作りをしていた。
「魔法使いの杖はこんなんでいいか?」
「うん、ありがとう衛宮くん。でも、劇の練習をしなくて良いの?」
小道具担当の子が心配してくれたが、優人は頷きながら答えた。
「俺の出番は最後の方だから大丈夫。それにあの調子なら、まだ掛かりそうだし・・・・・」
そう言って、優人はなのはの方を見る。
また台詞を間違えて、アリサに怒られていた。
「個人練習なら家でもやれる。それならこっちを手伝った方が良いと思って」
「そう、それならお願いね」
「おーい衛宮、こっちを手伝ってくれないか?」
今度は大道具担当の子が、優人を呼んでいた。
優人は急いで、大道具の方の手伝いに行った。
こうして、劇の練習と準備は夕方近くまで行われた。
それから数週間後、劇の練習と準備は終盤に入っていた。
優人もようやく劇の練習に加わったのだが―――。
「どうか、この私と踊ってはくれませんか?」
「え!? えっと・・・・・は、はい―――」
「カット!! なのは! アンタまた台詞を間違っているわよ! しっかりしなさい!!」
継母役兼監督のアリサが叫ぶ。
先程から、王子にダンスの相手に誘われるシーンから一歩も進んでいなかったのだ。
「まったく、他の所はちゃんと出来るのに、どうしてここだけ出来ないのよ?」
アリサがそう聞くと、なのはは恥ずかしそうにしながら、アリサだけに聞こえるように話した。
「優くんが真顔で演技している姿を見ていると、何かドキドキしちゃって・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
アリサは無言でなのはの頭をポカポカと殴り始めた。
「痛い! 痛いよアリサちゃん! どうして殴るの!?」
「うっさい! 何かこう・・・・・腹がたったのよ!!」
そう言って、今度はなのはの頬っぺたを横に伸ばした。
彼女の頬っぺたは、餅のようにビローンと伸びた。
「ひたひ! ひたひって!!」
「ふん! 今回はこれで許して上げる。ちゃんと家でも練習する事! いいわね!?」
そう言って、アリサは帰って行った。
クラスの皆も、下校の準備をしていた。
すずかは、心配そうになのはに訪ねた。
「なのはちゃん、大丈夫?」
「うう、アリサちゃん・・・・・酷いよ・・・・・」
なのはは赤くなった頬っぺたをさすりながら答えた。
「アリサちゃん、この劇を成功させたい一心なんだよ。許して上げてね?」
「分かっているけど・・・・・」
「とりあえず、帰ったら練習をしようなのは。じゃないとまた頬っぺたつねられるよ」
「それはもう嫌!」
なのはは、二度とつねられない用にすると心に誓うのだった。
文化祭前日の夜、優人となのはは優人の部屋で、劇の練習をしていた。
最初の頃に比べてぎこちさや、照れがなくなり、スムーズに台詞を言えるようになった。
「これだけ出来れば、本番は大丈夫そうだ」
「うう、明日の事を考えると何か緊張するよ・・・・・」
「大丈夫、あれだけ練習したんだから、上手くいくよ」
優人は緊張するなのはを、安心させようとした。
しかしそれでも、なのはは未だに緊張していた。
「だって・・・・・お父さん達が録画したやつをフェイトちゃん達が見るんだよ? 緊張するよ〜〜」
そう、今回の劇の内容を録画して貰い、ビデオレターとして送ることになっていたのだ。
フェイト達が見る事になっているので、なのはは一層緊張していた。
「だから大丈夫だって、いつも通りにしていれば、きっと上手くいく。その為に皆で頑張って来たんだから、もっと自分を信じよう」
「自分を信じる・・・・・そうだね。自分を信じてやってみるよ」
「うん、それじゃあ最後にもう一度だけやろう」
「うん!」
二人は最後の練習をしてから、明日に備えて眠るのだった。
文化祭当日、各クラスは出し物に誠意を出していたが、優人のクラスでは問題が発生していた。
「シンデレラのドレスが破けたですって!?」
「ご、ごめんなさい・・・・・」
何と、子道具担当の子が誤ってシンデレラ用のドレスを破いてしまったのだ。
破れ方はかなり酷く、修復には一日掛かる程であった。
「どうする? ドレスが無きゃ、劇はやれないぞ?」
「今回は中止するしかないか・・・・・」
クラス全体は諦めの雰囲気の中、優人はある方法を考えていた。
「アリサ、ちょっと来てくれ。後、なのはとすずかも」
優人は三人を呼び出し、他のクラスの子には聞こえないように話始めた。
「話って何よ?」
「ドレスの事だけど・・・・・なのはのバリアジャケットで代用出来ないか?」
「私のバリアジャケットを!?」
「ああ、なのはのバリアジャケットは見た目がドレスみたいだから、何とかなると思うんだけど・・・・・どうかな?」
三人はしばし考えた。
確かに優人の言う通り、なのはのバリアジャケットは制服をモデルにしている為、ドレスのように見えない事もなかった。
「うん、私それで良いよ。このまま諦めたくない!」
「あたしも、なのはに賛成よ。せっかくあれだけ練習したんだから、意地でもやるわよ!」
「そうだね。この劇を成功させようね」
こうして、なのはのバリアジャケットを代用する事になった。
クラスの皆には、ドレスの代わりがあると、そして、台本の一部を変更すると事を伝えた。
そして、劇が始まった。
劇は順調に進み、そして魔法使いとシンデレラが出会い、魔法でドレスに着替えるシーンに入った。
「これは魔法の宝石、これに願いを思えば、叶えてくれるのよ」
「これが・・・・・」
魔法使い役のすずかは、レイジングハートをなのはに渡した。
なのはは祈るように、レイジングハートを握り閉めた。
《レイジングハート、お願いね》
【了解です。マイマスター】
照明は消され、その間になのははバリアジャケットを展開させた。そして、照明が再び点灯すると、歓声が沸いた。
一瞬でドレス姿になった事に、観客の人達が驚いたからである。
そして劇は続き、シンデレラが十二時に帰るシーンである。
「もう十二時・・・・・いけない! もう帰らないと!」
「まだ十二時じゃないか、パーティはこれからだよ?」
「ごめんなさい・・・・・さようなら!」
そう言って、なのはは台本通りに動こうしたが、あろうことか躓いてしまったのだ。
「キャア!」
「っ!?」
優人はなのはを転ぶ前に、彼女の体を支えたが、これでは台本通りの展開は出来なくなってしまった。
(ど、どうしよう・・・・・)
なのはが混乱している間、優人は軌道修正の行動をしていた。
目線で、アリサにこう伝えた。
(照明を一瞬落としてくれ)
伝わるかどうかは賭けだったが、見事アリサに伝わり、一瞬照明は消された。
《なのは、バリアジャケットを解除して、早く!》
なのはは、優人に言われるがままにバリアジャケットを解除し、みすぼらし衣装に戻した。
照明が再び点くのと同時に、優人はアドリブを始めた。
「おお!? 何と!? それが貴女の招待だったのですか!」
優人はなのはを起こしながら、アドリブを続けていった。
「しかし、貴女がどのような姿であっても、私は貴女に惹かれたのは事実。どうか、私の妻になってはくれないだろうか?」
あまりにも真剣なアドリブに、なのはは自然と頷きながら―――。
「私で良ければ、貴方の妻にして下さい」
そう言って、優人の手をギュッと握り締めた。
こうして劇は無事に終わったが、最後のアドリブの台詞が、あまりにもの恥ずかしかったので、ビデオレターを送るのを渋るなのはだったが、それはまた別の話である。