本局内にある、とあるバーで、リンディとプレシアは二人で酒を飲んでいた。
「いいのかしら? お酒なんて飲んで?」
「たまには息抜きも必要よ。レティも誘いたかったけど、生憎仕事が残っていたみたいなのよ」
「だから私を誘ったの?」
「ええ、レイヴンはああ見えてお酒が好きじゃないのよね」
そう言って、リンディはグラスに入ったウィスキーを飲む。
プレシアも同じようにウィスキーを飲む。
「・・・・・ウィスキーを飲むのも久し振りね・・・・・」
「あら? そうなの?」
「アリシアが死んだ後、あの子を生き返らせようと躍起になっていたから・・・・・」
プレシアは当時の事を思い出し、浮かない顔をする。
「・・・・・ごめんなさい。少し軽率だったわ」
「別に良いのよ。今はあの子がいる。その幸せに気付かせてくれた彼には、本当に感謝しているわ」
「そうね・・・・・彼には助けられてばっかだわ」
そう言って、リンディは再びカクテルを飲む。
ふと、プレシアはリンディにあることを尋ねた。
「ねぇ、聞いてもいいかしら? 彼との馴れ初めは?」
「え? レイヴンから聞いてないの?」
「彼がリンクスになった経緯以外の事は話してくれないのよ」
そう、レイヴンはリンクス戦争後の話は一切しない。
あまり語りたく無いようにも見えるのだ。
「彼らしいわ・・・・・良いわよ。少し長くなるけど?」
「別に構わないわ。時間はたっぷりあるし」
「フフ、そうね。それじゃ話すわ」
そう言って、リンディは鴉との出会いを語り出した。
今から二十年前のある出来事が切っ掛けであった。
新暦四十五年、グレアムが指揮をしていた艦に二人の少年少女が乗船していた。
「待ちなさいクライド! 話は終わっていないわよ!」
リンディ・ハーヴェイ、当時十四歳。
「うるさい! 説教はうんざりだ!」
クライド・ハラオウン、当時十六歳。
この頃のクライドは荒れていた。執務官試験を四回も落ちてしまった事が原因でもある。
「落ちてしまったのは仕方が無いでしょ! 次を頑張れば・・・・・」
「次だって! 簡単言うじゃない! 他の奴等は二回、三回で受かっているのに、俺は四回も落ちているんだ! もう後が無いんだよ!」
クライドが焦るのも無理は無い、執務官試験は難しく、合格者はほんの僅かしか出ない。
五回試験に落ちた者は適性が無いとまでいわれてしまうのだ。
「だからって焦っても仕方が無いでしょ! 今は調査任務に集中しないと―――」
「そんな無駄な事をしている場合じゃないだよ!」
「そんな事は無いんじゃないのかな〜?」
「ロッテか・・・・・」
クライドの目の前に立っていたのは、リーゼロッテであった。
彼女は、クライドの態度に酷くご立腹の様子だった。
「試験に落ちたくらいでカリカリし過ぎ、女の子に当たるなんて、カッコ悪いわよクライド」
「別に当たってるなんて―――」
「そう? アタシには、リンディに八つ当たりをしているにしか見えないだけど?」
「うっ」
そう睨みつけると、クライドは後退りをした。
ロッテは彼の師匠であり、苦手とする人物でもある。
「ロッテさん。私達に何か?」
「そうそう、お父様が呼んでいたわよ。今回の調査任務ついて」
二人はなんだろうと思いながら、ロッテと共にグレアムの元に向かった。
艦長室。そこで二人はとんでも無い任務を言い渡される。
「俺達二人だけで調査ですか!?」
「ああ、そうだ。このサイレントと呼ばれる世界の調査を二人でやって貰いたい」
サイレントと呼ばれる世界、そこは無人世界でありながら豊富な資源がある事が分かり、その採掘を開始したが採掘隊から連絡が途絶えたのだ。
「お言葉ですが艦長、俺達が調査する程の事でしょうか?」
「ほう? それはどういう事かね?」
「事前調査で、この世界に生命体が一切いない事が分かり、危険性が無いと判断されました。そんな場所の調査に、我々がやる程では無いと思います。ミグラントの連中に任せておけば・・・・・」
「クライド! 貴方って人は!」
「まぁ待ちなさいリンディ。確かにクライドの言う通り、確かにあの世界に生命体は無く、危険性は無いと判断された」
「それなら―――」
「だからと言って、調査をしない理由にはならない。もしかしたら、何かトラブルで通信が出来ない状態なのかも知れない。そもそも、生命体がいないからといって、未開の世界は絶対に安全とは言えないのだよ」
グレアムの言葉は何処までも正論で、クライドは反論出来なかった。
「・・・・・分かりました。それでは早速調査に向かいます」
「うむ、二人とも充分気をつけて行きなさい」
「「は!」」
二人はグレアムに敬礼をし、部屋を退室した。
二人がいなくなったのを確認すると、アリアとロッテは口を開いた。
「いいんですかお父様? 二人だけで行かせて・・・・・」
「そうだよ。アタシの勘だと、かなりヤバイ事になっていると思うし、しかもクライドはああだし―――」
「確かに、不安要素はある。しかし、彼処には彼がいる。きっと助けになってくれる」
「彼って・・・・・どうして分かるんですか?」
「数日前、彼から連絡が入り、サイレントに関する情報欲しいと言って来たのだよ」
「アイツ・・・・・」
「それでどうしたんですか?」
するとグレアムは、悪戯な笑みを浮かべながら言った。
「なに、情報を渡す代わりに、一つ頼み事をしただけだよ。私の部下の助けになってくれと―――」
「まさか! 最初っからそのつもりで!?」
アリアの問に、グレアムは静かに頷いた。
「彼の話によると、依頼はsilent lineと呼ばれる遺跡の調査。しかも、その殆どがはぐれミグラントで構成されている。もし、大勢で調査を行ってしまえば、彼等との戦闘が起きるかも知れん」
「逆に少数ならば、彼が何とかしてくれると、お考えなのですね?」
「でも、それってかなり危険なんじゃ・・・・・」
「そうかも知れん。しかし、私はクライドに成長して欲しいのだ。彼は本来、執務官になってもおかしくない実力を持っている。しかし、周りと自分を比べ過ぎてしまう所があるのだ。私は今回の任務で、それを克服して欲しいと思っている」
「それは分かりますが・・・・・」
「大丈夫だ。あの子達と彼を信じよう」
グレアムは写真立てを手に取る。
そこには若き日のグレアムとリーゼ達と、一人の青年、レイヴンが写っていた。
クライドとリンディは、荒廃した世界の空を飛んでいた。
「そろそろ発掘隊がいると思われるポイントよ」
「分かっているリンディ。さっさと調査して終わらせよう」
「クライド! グレアム提督も言って言っていたでしょ! 未開の世界は安全とは言えないって、そんなんだと命を落とすわよ!」
「ふん、事前調査をキチンとしているんだ。危険な訳・・・・・」
次の瞬間、クライド達は目を疑った。
採掘隊がいるはずポイントには、襲撃の後があったのだ。
テントは焼かれ、設備や機械も全て破壊されていたのだった。
「これは・・・・・一体誰が・・・・・」
「クライド! 生存者を探すわよ!」
「あ、ああ・・・・・」
二人はサーチャーを使い、周囲と生存者を調べたが、周囲には何もなく、生存者もいなかった。
「ダメね・・・・・生存者はいないわ。そっちは?」
「こっちも駄目だ。周囲を調べたが、何もない」
「一体誰が・・・・・」
「こんなの分かりきった事だ。はぐれミグラントの奴等がやったに決まっている」
はぐれミグラントの中には、こうして盗賊みたいな事をやらかす連中もいるとクライドは知っていた。
しかし、リンディはその説を否定した。
「もしミグラントの仕業なら、何故設備まで破壊をするの? 設備を使えば資源を手に入れられるし、それに金品には手をつけて無いわ。強盗目的とは思えないわ」
「なら誰が? 誰が何の目的で彼らを襲ったんだ?」
「分からないわ。もう少し調べてみないと・・・・・」
「その前に、グレアム提督に報告だ」
クライドは通信を開き、グレアムと連絡を取ろうとした。
しかし、謎のジャミングで通信を妨害されてしまった。
「駄目だ。ジャミングが酷くて、通信が繋がらない」
「・・・・・一度、艦に戻りましょう。私達だけじゃ危険すぎるわ」
「そうだな、リーゼ達と一緒なら調査も進むだろう」
クライド達は、次元転送で艦に戻ろうとした。
しかし、次元転送は発動しなかった。
「どういう事だ!? 何で発動しない!」
「ちょっと待って! 調べて見るわ」
リンディは魔法で原因を調べてみた。すると、ある事が判明した。
「ここから南西に数百キロメートルの地点に、次元転送を阻害する何かがあるみたいだわ」
「それをどうにかしない限り、俺達はここから出られないって訳か・・・・・なら、行くしかないか」
二人は、その場所に向かって飛び出した。
いくら数百キロメートル離れようと、空から行けば、数時間程度着く筈だった。
「後少しだな。以外とすんなり行けそうだ」
「油断しないでクライド。発掘隊を襲撃した犯人の事もあるし、この世界は何か―――」
そこでリンディは気づく、目的地から何かが飛んでくるのを、それが前を飛んでいるクライドを狙っていた事を。
「クライド! 避けて!」
「え?」
クライドもリンディの声で気づく。飛んでくる物は砲撃であった。
しかしそれに、クライドは一瞬気づくのが遅かった。
(砲撃!? 何処から!? 防御!? 回避!? 間に合わ―――)
「クライド危ない!!」
リンディはクライドを体当たりして、砲撃の射線から外した。
しかしその代償に、リンディは被弾し、そのまま墜落していってしまった。
「リ、リンディィィィィ!!」
クライドは落ちていくリンディを助けようとした。
しかし、砲撃は以前とクライドを狙っていて、思うようにリンディの救出が出来なかった。
「くそっ! 安全じゃなかったのかよ!」
クライドは砲撃をかわしながら、リンディが落ちていった場所に向かった。
クライドは魔法を駆使して、リンディの行方を探していたが、一行に見つからなかった。時間がどんどん過ぎ去り、焦り始めて行く。
(何処だ・・・・・何処にいるんだリンディ・・・・・)
すると、サーチャーの一つがリンディを発見した。
ここから少し離れた場所にいるらしい。
クライドは砲撃の事を考え、飛行魔法を使わずリンディの元に走った。
(リンディ・・・・・無事で居てくれ!)
そして、その場所に行くと、倒れているリンディを発見した。
「リンディ!!」
クライドは急いで側に駆け寄り、脈を測った。
リンディの脈は確かに打っており、気絶しているだけであった。
その事実に、クライドはホッとした。
「まったく・・・・・心配かけるなよな・・・・・」
しかし、まったくの無事では無い。
あちらこちら傷だらけであり、左腕と右足の骨は折れていたのであった。
(こんな事なら、もう少し入念の準備をしておけば良かった・・・・・)
クライドは後悔していた。
簡単な任務だと決め付け、準備を怠った事に――。
(ともかく、ここじゃ手当ても出来ない。一旦採掘隊のキャンプ跡地に戻ろう。彼処に何かあるかも知れない)
クライドはリンディを担ぎ、歩き出した。
飛行魔法が使えない以上、歩いて行くしかない。ここから歩きだとかなりの距離になるのだが、今のクライドには、それしかリンディを救う方法が思い付かなかった。
「死ぬんじゃないぞリンディ・・・・・」
リンディにそう言いながら、クライドは歩き出した。
それから数十分、クライドは妙な気配を感じていた。
誰かにつけられている感じがするのだ。
(誰だ?・・・・・もしや! 採掘隊を襲った奴か!?)
もし敵なら最悪の事態であった。
リンディを背負っている状態では戦えない。今襲われたら、ひとたまりも無いのであった。
(敵かどうか分からないが、リンディを安全な場所に――!)
クライドは走り出した。
すると気配も、クライドの後を追うようについて行く。
その反応に、クライドは敵と認識した。
(やっぱり敵か!)
クライドはデバイスを起動させ、地面に向けて魔法を放った。
「スティンガーショット!」
地面に着弾した魔力弾によって、砂煙が立ち上がる。
その隙に、クライドは岩場に向かって走り出した。
「ここなら・・・・・」
リンディを岩影の一つに隠し、クライドは敵を迎え撃とうとした。
「そこにいるのに分かっている! 大人しく出てこい!」
クライドは岩影に向かって叫ぶ、すると出てきたのは、人型のロボットだった。
「な、何だコイツは・・・・・」
「・・・・・」
するとロボットは、手に持っている銃をクライドに向けて放った。
「くっ!」
クライドは弾丸をシールドで防ぎ、魔法を放つ。
「スティンガーショット!」
クライドの魔力弾がロボットに迫る。
しかし、それを驚異的な跳躍力でかわした。
「何!?」
そのままロボットは、空中でクライドに向かって発砲。
何発かは地面に当たり、砂煙が上がる。
ロボットはそのまま着地しようとした。その時―――。
「ブレイズキャノン!」
クライドが放った砲撃魔法はロボットに直撃、ロボットは粉々に吹き飛んだ。
「や、やった・・・・・くっ!」
クライドは片膝を着いた。
先程の銃撃で、弾が何発か彼の肉体を貫いていた。
(奴が何だったのか分からないが、これで危機を――!?)
クライドは背後からの攻撃に反応し、デバイスで斬撃を防ぐ。
その正体は、先程のロボットと同じ型の物であった。
違うとすれば、先程の奴は銃を持っていたが、今襲って来ている奴は剣を装備していた。
「くっ・・・・・このぉ!」
クライドはデバイスに思いきり力を込め、ロボットを吹き飛ばした。
しかし、今度は違う場所から火が迫って来た。
それをプロテクションで防ぐ。
「三体目か・・・・・」
新たに現れたロボットは、火炎放射機を装備していた。
クライドは二機のロボットに挟み撃ちになってしまった。
その上、血を流し過ぎた為、意識も朦朧としていた。
状況は最悪。だが、クライドは退こうとは考えなかった。
(ここで俺がやられたら・・・・・リンディが!)
今のクライドの頭の中には、それしか考えていなかった。
しかし、ロボット達はそんな事をお構い無しに、クライドを仕留めに掛かろうとした。
その時、一発の魔力弾が、火炎放射機の燃料タンクに直撃。ロボットはその爆発に巻き込まれ破壊された。
(!? いったい誰が!?)
クライドは撃って来た方向を見ると、全身黒ずくめの青年がいた。
剣を持っていたロボットは、クライドを無視し、青年に斬りかかろうとした。
すると青年は、デバイスを銃型から剣の柄に変形し、そこから魔力刃を発生させ、ロボットを一刀両断にした。
(一体・・・・・なに・・・・・もの・・・・・)
そこでクライドは意識を失い、倒れようとした所を青年に支えられた。
そして、青年はクライドと岩場に隠されたリンディを抱え、その場を去った
クライドは目を覚ますと見知らぬ場所に寝ていた。
「ここは・・・・・」
辺りを見回すと、どうやらテントの中らしい。
体を見ると包帯が巻かれており、誰かが手当てをしてくれたらしい。
すると、一人の青年が入って来た。
「目が覚めたか?」
「お前は?」
「そう言うお前は? 何故彼処にいた?」
「俺は任務で、この世界の調査に来ている」
「任務?・・・・・お前は局員か?」
「そういうお前は局員じゃないな。一体何者だ?」
青年は、クライドの話を聞いてタメ息をついた。
「おい小僧、むやみやたらに局員って公言しない方が良いぞ。ミグラントの中には管理局を恨んでいる者もいる」
「ミグラント・・・・・だって!?」
「そうだ。ここはミグラントのキャンプベースだ」
「そんなのはおかしい! この世界は管理局の許可無しで、入っていい世界じゃない! 何処の所属だ!」
「やれやれ・・・・・ここにいるのは管理局に登録されていない。お前達がはぐれミグラントと呼ぶ奴等しかいない」
その言葉を聞いて、自分が窮地に陥っている状態だとクライドは理解した。
はぐれミグラントの大部分は管理局を心良く思っていない者が多く、大抵出会えば小競り合いが起きるのだった。
(不味い・・・・・何とか逃げ出さないと)
逃げ出す事を考えているクライドに対して、青年は至って普通にしていた。
「安心しろ、危害を加えるつもりは無いし、お前達が局員だってバラすつもりも無い。今は傷を治しとけ」
そう告げると、青年はテントから出ようとした。
「待ってくれ! もう一人仲間がいたんだ! 彼女は―――」
「別のテントにいる。お前と違って彼女は重傷だが、命には別状は無い」
「そうか・・・・・」
「もういいか?」
「最後にもう一つ、何故俺達を助けた?」
その問いに、青年は不敵な笑みを浮かべながら―――。
「お前には、利用価値があった。ただそれだけだ」
それだけ言うと、青年は今度こそテントを出ていった。
青年ことレイヴンは、クライドが寝ているテントから出てきた。
もうすでに夕方になっており、空は赤く染まっていた。
そこに、一人の女性がレイヴンの元にやって来た。
「いいのですか? あの二人、管理局人間ですよ。この事が他のミグラントに知られれば―――」
「お前が心配する事じゃない。それよりも状況はどうなったエマ?」
エマ・シアーズ。彼女は今回レイヴンをサポートしてくれるミグラントである。
主にオペレータやマネージメント担当である。
「余りいい報告では無いのですが、やはり過半数が離反しました。残っているのは貴方に賛同した者だけです」
「そうか・・・・・いや、むしろ好都合だな。これで纏まりが出来るからな」
「そういう考えもありますね。これが残った者のリストです」
そう言って、エマは一枚の紙をレイヴンに渡した。
そこに書かれている名前は、百人にも満たないかったが、レイヴンはある人物の名前に目が入った。
「フォグがこちらに残ってくれたのは幸いだ」
フォグ・シャドウ。ミグラント内では有名な傭兵である。
ミグラントになって日が浅いにも関わらず、かなりの功績を残している。
レイヴンも戦った事があるが、苦戦を強いられる程の実力があるのだ。
「所で、離反したミグラント達はどうします?」
「放っておけ、どのみちsilent lineに行かなければ、この世界から出られないんだ」
そう、レイヴン達もこの世界に閉じ込められていたのだった。
切っ掛けは、一通のメールから始まった。
[あなた方ミグラントに依頼します。silent lineの謎を解いて下さい。解いた方には、五億の賞金を出します。]
普通の奴なら、こんな怪しいメールの相手はしないが、ミグラントの連中は大概金の亡者なのだ。
五億の賞金に目がくらみ、この世界に来た奴らばかりである。
因みにレイヴンは、最初は乗り気ではなかったのだが、借金がある事もあってやむなくこの世界に来るはめになった。
一応、事前調査をした事もあって、ミグラント仲間と共に準備万端であった。
「エマ。一応他の奴等にも、夜襲を警戒させておけ」
「例の機械兵ですか?」
「それもあるが、離反した奴らの殆どが装備が不十分な状態だ」
「つまり、私達の積み荷を強奪する輩がいると?」
「ミグラントなら、やるだろ?」
「そうですね。見張り役を立てましょう」
「その辺はお前に任せておく。頼りにしているぞ」
「はい、お任せ下さい」
「それじゃ、各ミグラントチームのリーダーを集めてくれ。今後の方針について話したい」
「了解しました」
エマは、レイヴンの言う通り、各ミグラントチームのリーダーを呼びに行った。
レイヴンは余った時間を利用し、もう一人の局員、リンディの様子を見る事にした。
奥のテントに入ると、未だに寝ているリンディと、それを看病している女性がいた。
「容態はどうだセレ?」
セレと呼ばれた女性は振り返りながら答えた。
「とりあえずは大丈夫ですが、しばらくは戦えそうも無いです」
「それも重要だが、動けるのか?」
レイヴンの問いに、セレは小さく頷いた。
「動ける分には問題は無いです・・・・・ただ、かなりの負担にはなるでしょう・・・・・」
「動けるなら上等。じっとしていても奴等に襲われるだけだからな」
「そうですね・・・・・」
レイヴンの言葉に、セレは暗い表情をした。
リンディの怪我は決して軽くは無い。暫くは安静が必要なのだが、今この世界には安全な場所は無いのだ。
「それよりも、何か思い出したか?」
「すみません・・・・・まだ何も・・・・・」
セレは記憶喪失だっだ。
機械兵に襲われた所をレイヴン達に助けられ、現在は医者として働いている。
「そうか・・・・・あまり無理に思い出す必要は無い」
「はい・・・・・ありがとうございます」
「俺は会議に行く、彼女とアイツの事を頼む」
「はい、任せて下さい」
リンディとクライドの事をセレに任せて、レイヴンはテントを出ていった。
クライドとリンディがレイヴンに助けられてから一日が経過した。
彼は二人に、これまでの経緯と、これからの方針を話した。
「これが今回の経緯と、これからの方針だ」
「・・・・・ミグラントの連中は馬鹿なのか? 普通、そんなメール罠か何かと思うだろ?」
「俺もそう思うが、世の中には行かざる終えない時もある」
「お前みたいに借金している奴とか?」
「・・・・・」
「あのそれで・・・・・今後の方針は?」
「取りあえず、silent lineという遺跡を目指す。あそこに何かあるのはわかっているからな」
「ちょっと待て! ここから徒歩で行くのか!」
「それしか無いだろう? 空からだと、どうなるかは、お前達がよく知っているだろ?」
先日、リンディを撃ち落とした砲撃は、silent lineに近づく者を排除する対空砲らしく、それがあるかぎり空路は無理だと判断した結果である。
「それは分かっている! けど、今のリンディに徒歩は辛すぎる!」
そう言って、リンディの方をチラッと見るクライド。
彼女の左腕はギプスがつけられており、首に巻いたスカーフによって吊るされている状態。
しかも、右足も骨折していて、杖が無いと歩けない状態だった。
「仕方がない。悪いが我慢してもらうぞ」
「な、何だと!」
クライドは、レイヴンの襟首を掴み掛かった。
「こんな状態で歩かせるつもりか!? 遺跡まで何百キロメートルあると思っているんだ!」
「なら、彼女をここに置いていくつもりか? またあの機械兵に襲われるかも知れないんだぞ?」
「そ、それは・・・・・」
「救援は期待するなよ。どうやら、この世界に入って来れるが、出られない仕組みになっている。元凶を何とかしなければ、救援に来た奴も、俺達同様に閉じ込められる。ミイラとりがミイラになるって奴だ」
何もかもレイヴンの言う通りだった。
応援は呼べない、例え呼べても、自分達と同様閉じ込められてしまう。
留まっていても、先日クライドを襲った機械兵がまた襲って来るかも知れない。つまり―――。
「・・・・・この世界に安全は無く、silent lineに行くしかないってか・・・・・」
「ご名答。分かっているなら、行くぞ時間が惜しい」
そう言って、レイヴンは出発の準備に取りかかった。
他のミグラントの人間も同様にテントを畳み、荷物をまとめている。
そんな中、クライドは悔しさで唇を噛み締めていた。
自分がもっと注意をしていれば、リンディを怪我させずに済んだ。いや、彼女を守れる力があれば、ミグラントの連中に頼る必要もない筈。
結局の所、クライドは自分の無力に腹がたっていた。
「私なら大丈夫よクライド」
そんな様子を見かねたリンディは、クライドに優しく声を掛けた。
「何が大丈夫だ! お前の怪我は本来入院しないといけない程酷いんだぞ! その上、何百キロメートルを歩くんだぞ!?」
「それでも、私達は行かなといけないと思うの。このままだと、いずれグレアム提督達が、私達を探しにこの世界に降りてしまう。そうなってしまったらどうなるの?」
クライドはレイヴンの話を思い出す。
レイヴン達も次元転送を試したが、クライドたち同様転送出来ず。今度は小型艇で、直接脱出しようとしたミグラントもいたが、上空からの衛星砲に撃墜されてしまった。
どうやらこの世界の衛星軌道に砲台があって、降りてくる艦には攻撃はしないが、脱出しようとすると攻撃する仕組みらしい。
普段は岩とかに擬装されている為、レイヴン達も攻撃されるまで発見できなかったらしい。
「・・・・・グレアム提督達も、この世界に閉じ込められしまうか・・・・・」
「そうよ。そうなる前に、この世界の謎を解かないと、私達のように閉じ込められる人達はどんどん増えるわ」
「だがリンディ、ここから数百キロメートルもあるんだぞ? 乗り物があるならともかく、徒歩なんて・・・・・・・・・・は?」
「どうしたのクライド・・・・・・・・・・え?」
二人は目を疑った。
先程まで存在しなかったジープが突然現れたのだから。
「どうしたお前ら? 乗らないのか?」
「・・・・・ちょっと待て! 徒歩じゃなかったのか!?」
「少なくとも俺は徒歩だなんて、一言も言っていないが?」
「確かに言ってはいないが・・・・・そのジープは何処から出てきたんだ!?」
「何処からって、ずっとここにあったぞ?」
「ずっとって・・・・・・・・・・」
クライドは記憶を掘り返してみた。
ふと、不自然な砂山があった事を思い出した。
「まさか・・・・・ずっと隠していたのか?」
「ああ、貴重な足だからな。狙う輩がいないとは限らないからな。それより乗らないのか?」
レイヴンに色々言いたい事があったクライドだったが、取りあえずジープがあった事には助かったと思い。素直に乗ることにした。
こうして、silent lineへの旅が始まった。