ここは全年齢対応の小説投稿掲示板です。小説以外の書き込みはご遠慮ください。

運命戦記リリカルEXTRA.AC改 外伝2、silent line後編
作者:起源くん   2012/10/07(日) 20:10公開   ID:L0gu7.dO5Yw
外伝2、silent line後編

クライド達を乗せたジープは、荒れ果てた大地を走っていた。
後部座席からクライドは周りを見ると、何台ものジープが一緒になって走っていた。

「これ全部、この世界に持ち出した物なのか?」

クライドがそう聞くと、レイヴンは首を横に降った。

「いや、元々この世界にあった物だ。この世界の各地に様々な施設があり、その一つから持ち出した物だ」

「それって大丈夫なのか? 急に壊れたりしないのか?」

「確かに何台かは動かなかったが、整備をして何台かは使えるようにした。まぁ、これ以上の贅沢は言えないからな」

「それはそうだが・・・・・」

それでも不安を抱くクライドであったが、隣に座っているリンディの事を考えれば、かなりマシだと思えた。

「雑談は終わりですよ御二人方。敵です」

「え?」

エマに言われ外を見ると、先日襲って来た機械兵とは別タイプが襲ってきた。

「どうやら新しいタイプのようです。武装はマシンガンにシールド、下半身は四輪といった所です」

「エマ、運転代わってくれ。小僧、お前は右側から近づいて来る奴を、俺は左側をやる」

「分かった!」

レイヴンとクライドは、ジープから身を乗り出しながら機械兵に向かって、魔力弾を放ち始めた。




それから数週間の月日が過ぎ去った。
機械兵や他のミグラントの襲撃を掻い潜り、silent lineはもう目と鼻の先だった。
意外にもミグラントの人間はクライドとリンディを良くしてくれた。
二人が管理局の人間だと隠している事もあるが、それでも二人を仲間として扱ってくれているのも事実であった。
クライドも、ミグラントはチンピラや犯罪者のイメージが強かったが、いざ接してみると、意外と良識がちゃんとしている者達ばかりであった。中では変わり者いたが、悪人とは呼べる人間はいなかった。
そんな中、クライドは一人岩の上で月を見ていた。

「どうしたんだ? こんな所に一人でいて?」

するとレイヴンがやって来て、クライドの隣に座りホットミルクが入ったカップを渡した。

「ホットミルクだ。これを飲むと良い、暖まるぞ」

「あ、ああ、ありがとう」

クライドはそれを受けとると、一口飲んだ。

「美味しいな・・・・・」

「そう言って貰えるのはありがたいが、粉ミルクで作った奴なんだ」

「粉って・・・・・俺は赤ん坊か!?」

「そう怒るな。牛乳ってのは保存が難しいんだ。それに、粉ミルクって言っても、全部が赤ん坊用って訳じゃない」

「そうなのか?」

「ああ、といっても牛乳には劣るがな」

そう言って、レイヴンも一口飲んだ。
それから二人はしばし無言で月を眺めた。
するとクライドが口を開いた。

「なぁレイヴン、一つ聞いていいか?」

「答えられる範囲ならな」

「お前は何故ミグラントになったんだ?」

「・・・・・それを答えるのは難しいな」

「何故だ? お前だって最初からミグラントだった訳じゃないだろ?」

「それは違うぞクライド、俺は最初からミグラントだったんだ」

レイヴンは自分の過去をクライドに話した。

「それじゃ・・・・・お前の体には―――」

「そうだな・・・・・ロストロギアが埋め込まれているって事になるな」

「・・・・・」

「どうした? こいつを回収したいのか?」

ロストロギアの回収は、管理局の本分なのだが、クライドは首を横に降った。

「そんな事をしたら、アンタは死ぬだろう? 殺人はしたくない」

「俺は元々死人だ。死体に戻るだけだ」

「アンタにとってはそうかも知れないけど、俺にとっては殺人だ」

「・・・・・そうか」

沈黙がしばらく続いた。
この世界の夜はとても静かで、恐ろしくもなるが、穏やかな気持ちにさせてくれる。

「他の奴らはどうしてミグラントなったんだろう・・・・・」

クライドは、後ろを見てポツリと呟いた。
彼らは焚き火の周りで、楽しそうに談笑をしていた。
リンディも、その中に交じっているのを見える。
そんな彼等が、ミグラントというならず者には見えなかった。

「それは人それぞれだと思うが、束縛されたくないから、ミグラントなるって輩が多いと聞いている」

「束縛されたくない? どういう意味だ?」

「次元世界は数多にあるのに、それを管理局が規制をしてしまっている。もちろん、そうしないと秩序が乱れるのは分かるが、多くのミグラントはまだ見ぬ世界を、まだ見ぬ文化を、まだ見ぬ人を、まだ見ぬ冒険を望んでいる」

「・・・・・・・・・・」

「ようは束縛されない、自由な生き方をしたいってことだ。まぁ、中には金目当ての奴等や、本当に犯罪者って奴がいるがな」

レイヴンは茶化すように言い、ホットミルクを飲み干す。
そして今度はレイヴンが、クライドに質問して来た。

「それでクライドは、管理局にどうして入ったんだ?」

「お、俺は・・・・・」

クライドは口ごもったが、ポツポツと話始めた。

「昔、テロにあって、その時に管理局の人に助けられたんだ。その時から、この人みたいに、誰かを助けられる人間なりたいと思ったんだけど・・・・・」

「けど?」

「なかなか上手くいかなくて・・・・・執務官試験を四回も落ちてしまったんだ・・・・・俺には才能が無いのかな・・・・・」

クライドは誰にも言わなかった弱音を、初めて言った。その相手がレイヴンだったのは、知り合って間もない事もあったが、彼の事をそれなりに信頼出来る人間だと、この旅で理解したからである。
そしてレイヴンは、クライドにこう言った。

「クライド、お前は執務官になる事が夢なのか? それとも、誰かを助ける正義の味方になる事か?」

「そ、それは、正義の味方ってのは恥ずかしいけど、誰かを助けるような人なりたいんだ」

「それなら、執務官になるって事に関しては通過点に過ぎないじゃないか?」

「通過点?」

「そう、一つの通過点だ。仮に執務官になれなくても、人を助ける方法はいくらでもある。それがダメなら、別の道を模索すればいい。お前はまだ若いのだから、焦る必要は無い」

「あ――――」

レイヴンの言葉に、クライドは気づいた。
どうやら自分は、執務官になる事に拘り過ぎていたのだと。執務官になれなければ、夢は実現しないと思っていたのだ。
しかし、執務官は夢の叶える為の道の一つに過ぎず。その道がダメなら、引き返し、別の道を探せばいいのだ。そう考えると、随分気が楽になった。

「まぁ、俺が言ってやれるのはここまでだ。後はお前次第だ」

そう言って、レイヴンはその場を立ち去った。
残ったクライドは一人、温くなったホットミルクを飲みながら、月を眺めていた。




そして、この旅の終着点に着いた。
旅は過酷ものであり、百人未満のミグラント達は既に半数以下に減っていた。
それでも彼らは、silent lineにたどり着いたのだった。

「よし、行くぞ!」

レイヴンの号令と共に、数十人のミグラント達は、silent lineに乗り込むのだった。
しかしそこは、想像以上の苦難が待っていた。

《敵が想像以上に・・・・・うわぁ!》

《これ以上は無理だ! 離脱する!》

《くそぉ! 囲まれた!》

《こんな所で・・・・・》

《誰か! 近くにいないのか!?》

無線機越しに、ミグラント達の断末魔や助けを呼ぶ声が聞こえる。
彼らはsilent lineの罠に掛かってしまい分断されていたのだ。

「くっ!」

クライドは彼らを助けにいこうとしたが、レイヴンに腕を掴まれる。

「おい、何処にいくつもりだ?」

「決まっている! 彼らを助けに―――」

「今から行っても間に合わない。それよりも、先に急ごう」

「なっ、彼らを見捨てるのか! 仲間なんだろ!?」

クライドには信じられなかった。
僅か数週間であったが、それでも、苦楽を共に過ごした仲間だとクライドは思っていた。それを見捨てるなんて、クライドにはとても出来なかった。

「確かにそうかも知れない。だが、アイツらはミグラントだ。それなりの覚悟をして来ている」

「それでも・・・・・俺は見捨てるなんて出来ない!」

そう言って、クライドはレイヴンの腕を振り払おうとしたが、レイヴンの腕は外れなかった。

「クライド、人間にはやれる事、やれない事がある。今俺達がやれるのは、最深部まで行き、この遺跡を機能停止する事だ。そうすれば、遺跡内にいる仲間達は全員助かる」

「・・・・・それは分かっている。けど!」

「仲間達を助けに行くのは、それがやれる奴に頼めばいい」

レイヴンがそう言った瞬間。再び無線機から声が聞こえる。

《こちらシューティング、仲間の救助は任せろ!》

《フォグだ、仲間の一人を救出。離脱させた後、他の仲間の救援に向かう》

《セキュリティの一部を解除したわ。これで閉じ込められている人を助けられるわ》

《手こずっているようだな。手を貸そう》

続々と、仲間を助けに行く声が無線機越しに聞こえてくる。そして最後にエマからの通信が入る。

《レイヴン、貴方の指示通り、フォグ達を動かしました》

「助かったぞエマ。これで何人かは助けられる」

《お礼は帰ってから頂きます。それよりも、報告があります》

「何だ?」

《セレが消えました》

レイヴンは耳を疑った。
セレは、怪我で動けないリンディと一緒にエマ率いるバックアップチームに残した筈なのだが―――。

「誰もセナを見なかったのか? リンディは?」

《残念ながら、少し目をはなしたら、セレの姿は何処にもいなかったらしいです》

「・・・・・分かった。取り合えずセレの捜索は後回しだ。今はsilent lineの機能を止めるのが先だ」

《分かりました。それとリンディがクライドと話がしたいそうです》

「分かった。手短にな」

そう言うと無線機をクライドに渡した。
クライドはそれを受け取った。

「リンディか?」

《・・・・・ええ》

「話ってのは?」

クライドがそう聞くと、リンディは不安そうな声で、話始めた。

《上手く言えないんだけど・・・・・無事に帰って来てね》

「ああ、心配するな。ちゃんと帰ってくる」

《うん・・・・・待っているわ》

リンディがそう言うと、再びエマに代わった。

《そこから先は、無線機でも通信出来ません。幸運を祈ります》

エマからの通信が終わり、レイヴンは先に行こうとしたが、立ち止まっているクライドの姿が目にとまった。

「どうした?」

「すまないレイヴン。お前の事を誤解していた」

「別にいい。そんな事より、さっさと終わらせて、セレを探しに行くぞ」

「ああ!」

二人は更に奥へと駆け出した。




二人は多数の機械兵を蹴散らしながら、更に奥へと進んで行った。
互いが互いにフォローをしながら、見事なコンビネーションで最深部の部屋の前にたどり着いたのだった。
「ここに、silent line全体を制御しているコンピュータが・・・・・」

「行くぞクライド、気を引き閉めろよ。こういうのは大抵コンピュータを守っている奴がいるんだ」

「ミグラント勘か?」

「いや、経験談と言ってもいいだろう。ともかく開けるぞ」

「開けるって・・・・・まさか!?」

「レールキャノン!」

レイヴンが放った砲撃は見事に扉を破壊した。

「乱暴し過ぎだ! 何があるか分からないんだぞ!」
「いちいち扉をご丁寧に開ける必要ないだろう。この方が手っ取り早・・・・・ん?」

「そう言う問題じゃ・・・・・セレさん?」

扉の向こうには、一人の女性がいた。セレ・クロワールである。

「どうして・・・・・ここに?」

クライドは少し混乱していた。数十分前に彼女が行方知れずという報告を受けたにも関わらず、彼女がここにいる事に・・・・・いや、それよりも不可解な事がある。

(どうして、僕達より先にこの部屋にいるんだ?)

クライド達が突入してから数時間が経過したが、彼女が僅か数十分、しかもクライド達より先回りしている事に―――。

「セレさん・・・・・貴女は一体・・・・・」

「お待ちしておりました。レイヴン、クライド。貴方がたならここまで来ると、信じていました」

セレは、今までとは違う、とても冷淡な口調で喋り出した。

「・・・・・なるほど、あのメールも、俺達をこの世界に閉じ込めたのも、機械兵達をけしかけたのも、全部お前の仕業か?」

レイヴンの言葉を肯定するように、セレは頷いた。

「はい、私が全て仕組みました」

「どうして・・・・・どうして何だ!? 何故こんな事を!?」

「それについては、この世界の歴史を話さなくてはなりません」

この世界の滅亡までの歴史をセレは語り出した。

「この世界は戦争が絶えず。その結果、地上は人が住めない程の環境汚染が広がりました。そこで人々は、地上の僅かな資源施設を残し、地下に逃れたのです」

「それが、各地にあった施設の名残か・・・・・」

「そうです。そして、これ以上の争いを起こさないように、人を管理するコンピュータが開発されました」

「人を・・・・・管理する?」

「はい、その名はIBIS。人々が作り出したプログラムです」

そう言うと、セレは後ろを見る。
そこには巨大な長方形の形をした黒い建物が建っていた。

「それがIBIS・・・・・?」

「はい、IBISは当初の人々の願い通りの管理をしていました。しかし、月日が経つと、人々はIBISの管理を不満に覚え、再び争うようになりました」

そう語るセレは、何処か悲しそうな表情をしていた。

「そして、IBISはある答えを出したのです・・・・・人間は争いしか出来ない、愚かな存在だと―――」

セレの言葉を聞いた二人は、この世界の結末を容易に想像出来た。

「IBISは人間を駆逐したのです。一人残らず・・・・・」

「・・・・・それが、この世界の結末・・・・・」

「・・・・・この世界の出来事は分かった。しかし何で俺達を閉じ込めたり、機械兵を襲わせたりしたんだ?」

「IBISは、この世界の人類を淘汰し終わった時、長い眠りについたのです。そして、ある人間達がsilent lineに近づいた為、再起動したのです」

「採掘隊の人達か!?」

「はい、そしてIBISは再び、人間を襲うように機械兵達に命令を出したのです」

これが、この世界で起きた一連の出来事であった。
しかし、まだ疑問も残っていた。

「何故俺達を呼んだ? お前の目的は何だ?」

「あなた方を呼んだのは、IBISの破壊・・・・・私の破壊をお願いしたかったらです」

「え?・・・・・それはどういう・・・・・」

「・・・・・まさか、おまえは―――」

「はい、私はIBISのプログラムの一つです」

その言葉に、二人は言葉を失った。
今まで接して来た彼女が、プログラムだなんて思わなかったからである。

「プログラム・・・・・君が?」

「はい、IBISの防衛プログラムです。IBISの破壊を目論む人間の排除するために作られました」

「そんなお前が、何故IBISの破壊を望む?」

「それは―――」

レイヴンの質問に、セレは少し戸惑っているような感じがした。
しかし、それは一瞬で、またすぐに冷淡な口調で答えた。

「それは、IBISが間違っているからです。そして、間違いは正す必要があります。しかし、私はIBISを破壊出来ない。そこで私は、ミグラントの存在を知り、彼らを招く事にしました」

「・・・・・なるほどな、よく分かった。取り合えず、その後にあるIBISを破壊すればいいんだな?」

「はい、その為に私を破壊しなくてはなりません」

そう言うと、セレの身体は変化していった。
彼女の身体に、あらゆる武装が施され、所々にアーマーが装着されていった。

「シリアルを確認・・・・・XAー26483・・・・・登録確認・・・・・端末セキュリティ機動・・・・・防衛モードに移行・・・・・防衛システム機動・・・・・22ー4フェーズ・・・・・」

「待ってくれセレ! 君と戦うなんて―――」

「何ボサッとしている! 来るぞ!」

「排除開始」

そう告げると、セレはブレードでクライドに斬りかかった。
それを、レイヴンがブレイドモードのホワイトグリントで受け止めた。

「クライド! ここは戦うしか無い!」

「そんな! 彼女は、リンディの看護をしてくれたんだぞ! それだけじゃない、怪我をした俺達を何度も助けてくれた仲間なんだ! それを・・・・・」

クライドは迷っていた。
数週間という短い期間であっても、一度芽生えた情は、簡単には消えない物である。
ましてや、数時間前まで仲間だった人物に武器を向けるなんて事は、クライドには出来なかった。

「クライド、お前には帰りを待っている女性がいるんだろ?」

その言葉に、リンディの顔が思い浮かんだ。
レイヴンは、セレのブレードを弾いた。
するとセレは距離を取り、ビットを放った。ビット達は、レイヴン達にレーザーを放つ。
レイヴンは、プロテクションでクライドごと防御する。

「彼女だけじゃない、他の奴らだって、俺達がsilent lineを止めてくれると信じて待っているんだ」

これまでの旅路を共にしたミグラントの人達の顔が思い浮かぶ。
ビットの攻撃に、レイヴンのプロテクションに亀裂が走り出した。もう長くは持たないだろう。

「セレだって、こんな事を止めて欲しいと願っている。なら、俺達が彼女をIBISから解放するんだ」

セレはビットを格納すると、胸部にエネルギーを集中させた。恐らく強力な砲撃で、プロテクションごと破壊するつもりなんだろう。

「クライド―――」

「ああ、分かった。やるさ―――ブレイズキャノン!」

クライドはデバイスをセレに向けて、ブレイズキャノンを放った。
魔法は直撃し、胸部のエネルギーが暴発した。

「損傷率・・・・・70%・・・・・戦闘続行・・・・・」

ボロボロになりながらも、セレは戦う事を止めなかった。
今度は手に持っているライフルで、クライド達を攻撃する。

「レイヴン!」

「分かった!」

二人は、左右に別れ、挟み撃ちの形をとる。
セレはビットで、二人を攻撃する。
レイヴンはブレードで弾き、クライドは見事にかわした。

「スナイプショット!」

クライドが放った魔力弾が、ビットを全て撃ち抜く。
ビットを失ったセレは、ライフルでクライドを撃ち抜こうとしたが、それをレイヴンに斬られ、クライドのスナイプショットで全身の関節を撃ち抜かれた。

「これで終わりだ。セレ!」

レイヴンの一撃が、セレを切り裂いた。

「・・・・・損傷率・・・・・・・・・・90%オーバー・・・・・戦闘続行・・・・・不納・・・・・」

セレの身体はノイズにまみれながら徐々に透けていった。
プログラム体である彼女は、肉体を残さず消滅する運命であった。

「・・・・・防衛プログラム・・・・・機能停止・・・・・レイヴン・・・・・クライド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」

それだけ言って、セレ・クロワールはこの世から消え去った。




それからというもの、silent lineは完全に機能停止し、機械兵達も全て動かなくなった。
衛星からの砲撃が無くなり、次元転送が行えるようになり、各ミグラント達はそれぞれの場所に帰還していった。
クライド達も、通信が出来るようになった事で、グレアム達に連絡をとっており、間もなく向かえに来てくれる予定だった。

「これでお別れだなクライド。短い間だったが、楽しかった」

「俺の方こそ、アンタに色々教わった。ありがとう」

二人は握手を交わした。
ミグラントと管理局、本来相反する存在だが、旅を通して、お互いに友情を感じていた。

「レイヴン達はこれからどうするの?」

「特に予定は無いが、いつかセレに添える花を持ってくるつもりだ」

「そう・・・・・」

その言葉を聞いて、リンディは俯いた。
セレ・クロワールの正体は、クライドとレイヴンは誰にも教えなかった。
セレは、silent lineの内部で死んでいたと、皆に伝えたのだった。

「ごめんなさい・・・・・私が目を離さかったらこんな事に・・・・・」

「お前のせいじゃない。人は、死ぬ時には死ぬもんだ。いつまで引きずっていると、今度はお前の番になるぞ」

「うん・・・・・分かったわ」

「それじゃ俺は行くぞ。お前達も元気でな」

そう言って、レイヴンは二人の前から去った。
二人は、その後姿を見えなくなるまで見送った。




それから数ヵ月後、クライドは見事に執務官試験に合格した。
今日はそのお祝いなのだが―――。

「何でお前がここにいるんだレイヴン!?」

「おかしな事を聞くな? お前が執務官試験に受かったって、連絡が来たからこうして祝いに来たんじゃないか?」

「一体誰が!?」

「アタシだよ」
その声の主は、ロッテであった。
その事にクライドは言葉を失った。

「何その反応、せっかくレイヴンと連絡して呼んだんだから、もっと嬉しそうにしなさいよ」

「・・・・・どういう事だ?」

クライドの反応に、アリアは合点がいった。

「レイヴン・・・・・貴方まさか、クライドに私達の関係を話していないのですか?」

「ああ、話す必要性が全くなかったからな」

「ハァ、貴方って人は・・・・・」

「単に、説明が面倒くさいだけだったんじゃないの?」

「さぁな、ご想像に任せる」

その後クライドは知った。彼が個人的にグレアムと長年の交友があった事。そして、あの世界でクライド達を助けて欲しいと頼まれた事を知った。

「最初っから助けるつもりだったのか?」

「どうだろうな? 余りにも使い物にならなかったら、見捨てるつもりだったからな」

何処まで本気が分からないが、レイヴンとの再会は嬉しいものだった。

「ごめんなさいクライド。遅く・・・・・レイヴン!? どうしてここに!?」

「おお、レイヴンか、久しいな」

リンディとグレアムも遅れて到着し、談笑をしながら、クライドの執務官試験の合格を祝った。




「それが、レイヴンとの馴れ初めよ」

リンディは追加のウィスキーを飲み干す。
かなり長い話になったのか、かなりの量の酒を飲んでいた。
一方プレシアは、話に夢中になっていた為、まだ二、三杯位しか飲んでいなかった。

「そんな事があったなんて・・・・・」

「でもねぇ、この事件は公にはならなかったのよ」

「あら? どうして?」

「管理局の人間が、ミグラントと一緒に事件を解決しました何て、上の方々が認める筈がないのよ。そんな事が知られれば、クライドは執務官にはなれなかったわ」

「それでどうしたの?」

「当時の私達の上司、グレアム提督の計らいで偽装とか隠蔽工作してくれたのよ。あの人、昔からレイヴンと交友があったから、こういうのに慣れていたの。今回のクロノ件だって、グレアム提督が色々してくれたおかげなのよ」

喋り上戸なのか、とんでもないスキャンダルを喋りまくっていた。
すると、レイヴンがやって来た。

「こんな所にいたのかプレシア。探したぞ」

「あら? どうしたの?」

「どうしたの? じゃない。時計を見てみろ」

レイヴンが指した時計を見てみると、午前三時を過ぎていた。

「もうこんな時間!?」

「フェイト達は心配していたし。リニスなんて、寝ないでお前の帰りを待っているんだぞ」

「ご、ごめんなさい・・・・・」

プレシアは深々と頭を下げた。

「分かったならそれで良いが・・・・・リンディはどうしたんだ?」


完全に酔いつぶれたのか、スヤスヤと眠り込んでいた。

「・・・・・プレシア、一人で帰れるな?」

「え、ええ、大丈夫よ」

「そうか・・・・・よっと」

レイヴンは酔い潰れたリンディを抱えた。

「リンディを部屋まで運ぶ、こんなんじゃ、部屋まで帰れないだろう」

「そうね、お願いできるかしら?」

「任せろ、お前は早く帰ってやれ」

そう言って、レイヴンはリンディを抱えたまま、バーを後にした。

「さて、私も帰るとしましょうか」

プレシアもバーを出ようとした時、店員に呼び止められた。

「お客さん、お勘定」

「え、ああ、はいはい、幾らかしら?」

それを見て、プレシアは驚愕した。何と十万を越えていたのであった。

(ど、どうしましょ・・・・・)

その後、リニスに足りない分を持ってきて貰い、彼女に怒られてしまったのだった。


■作家さんに感想を送る
■作者からのメッセージ
後編はかなり内容を省略しました。
全容書くと、何話になるか分からないからです。
次は、もう一つのプロローグ、アナザープロローグの予定です。
内容は、ある人物の聖杯戦争時の視点を描く予定です。
早ければ明日にアップ出来そうです。
テキストサイズ:18k

■作品一覧に戻る ■感想を見る ■削除・編集
Anthologys v2.5e Script by YASUU!!− −Ver.Mini Arrange by ZERO− −Designed by SILUFENIA
Copyright(c)2012 SILUFENIA別館 All rights reserved.