これは、なのはとフェイトが出会う前、今から数年前、レイヴンがフェイトとが出会った時の話である。
ミッドチルダの南部にあるアルトセイム地方。
そこは、ミッドチルダの中では辺境とされており、自然が豊かな土地である。
そこに、二人の少女がいた。
金髪のツインテールの少女とオレンジ色の髪にいぬ耳がついていた少女だ。
「いっくよ〜フェイト!」
「うん、いつでもいいよアルフ」
二人はボールを投げ合ったりして遊んでいた。
すると、アルフは鼻をクンクンと動かした。
「どうしたのアルフ?」
「うん・・・・・何か変な臭いがすんだ・・・・・何か焦げ臭いような・・・・・後、鉄の臭いも・・・・・」
アルフはより詳しく調べる為、よりいっそう臭いを嗅いだ。
「これは・・・・・血の臭いだ!」
「え!?血の臭いって!」
アルフは狼を素体に作られた使い魔である。なので、人間の何千、何万倍の嗅覚を持っている。
そのアルフが、血の臭いがすると言っているのだから、間違い無いのだろ。
「それって何処からするの?」
「森の奥からするよ」
アルフは森の方を指をさす。
まだ昼間なのに、森は暗く、奥の方まで見えずにいた。
「行こうアルフ」
「フェイト!?本気かい!?」
「うん、もしかしたら怪我をしている人がいるかも知れない。もしそうなら、助けないと―――」
「でも・・・・・リニスが言ってたよ。森には昼間でも入らない様にって・・・・・」
「それは一人の時だけだよ。それに、アルフがいるから、迷ったりなんかしない。そうだよね?」
「あったり前じゃないか!私はフェイトの自慢の使い魔だよ!」
アルフは胸を貼って言った。その表情は自信に満ち溢れている。
「それなら大丈夫だね。それじゃあ、行くよアルフ」
「オッケー!」
二人は暗い森の奥へと入って行った。
アルフは臭いを頼りに森を進み、フェイトはその後について行った。
奥へ進めば進むほど、森の雰囲気はだんだんと不気味になっていく。
「ねぇアルフ・・・・・まだ着かないの?」
フェイトは少し心細くなり、アルフに訪ねた。アルフも、その事を察したのか、引き返す事を提案した。
「それなら戻るかい?血の臭いっても、ただの動物の臭いかも知れないし――」
いくらアルフでも、人間と動物の血の臭いは判別出来ない。彼女のいう通り、動物の血かも知れない。
しかし、フェイトは首を横に振り―――。
「ダメだよ。もし人だったら大変だし、もしかしたら遭難者かも知れないんだよ?せめて確認はしないと」
「わかった。フェイトがそう言うんだったら、あたしも手伝うよ」
「ありがとうアルフ。それじゃあ、先に進もう」
「おお―!」
二人は、ひたすら森の奥へと進んだ。
森の雰囲気は、相変わらず不気味だが、フェイトには心強い使い魔がいた。その事が、彼女を勇気付けた。
それから十数分くらい歩き、アルフは鼻をクンクンと動かし始めた。
「臭いが近くなった・・・・・すぐ近くだよ!」
アルフはそう言うと、その臭いの元に走り始めた。
「ま、待ってよアルフ!」
フェイトは慌ててアルフの後を追った。それもその筈、もし見失ったりでもしたら、今度はフェイトが遭難者になってしまうからである。
フェイトは必死に走った。しかし、アルフの脚は早く、見失うわない様にするのがやっとだった。
そして、アルフが立ち止まった。フェイトは急いでアルフの元に走った。
「フェイト!あそこだよ!」
フェイトは指をさした方向を見た。その場所に太陽の日がさしており、そこには黒い髪に、黒いロングコートを羽織った青年が木に寄りかかりながら、座っていた。
「あの・・・・・大丈夫ですか・・・・・」
フェイトは恐る恐る声を掛けた。
しかし、青年に返答は無い。まるで死人みたいだった。
「あの・・・・・」
フェイトは青年の体を揺り起こす。しかし、青年は起きなかった。
そこでフェイトは気づいた。青年に触れた自分の手が、血に濡れている事を―――。
「フェイト!その血は――」
「アルフ!急いでリニスを呼んで!早く―――!」
フェイトがそう叫ぶと、アルフは一目散に駆け出した。
フェイトは再び青年に呼び掛けた。
「あの!大丈夫ですか!」
「・・・・・うっ」
青年は少し声を上げた。
フェイトはその声を聞けて、青年が生きていた事にホッとした。
「あの!今助けを呼びましたから、もう大丈夫ですよ!」
すると青年は口を開き、フェイトに向けて言った。
「・・・・・ね、」
「ね?」
「眠い、寝かせてくれ―――」
そう言うと、青年は再び目蓋をを閉じた。
それを見たフェイトは、慌てて青年を起こそうとした。
「だ、ダメですよ!寝たら死んじゃいます!起きてくださーい!」
フェイトの叫びが、森中に木霊した。それでも青年は、起きようとはしなかった。
「・・・・・んっ、」
青年が目を覚ますと、そこは何処かの屋敷の一室であった。
すると、すぐ近くにいた女性が声を掛けて来た。
「気がつきましたか?」
「ここは?」
「ここはプレシア・テスタロッサの屋敷です。申し遅れましたが、私は家庭教師兼、家政婦のリニスです」
リニスは丁寧にお辞儀をした。
「ああ、ご丁寧にどうも、俺は・・・・・レイヴンとでも呼んでくれ」
「はい、それではレイヴン、早速ですが質問です。一体何があったのですか?」
レイヴンが発見された時の状態は、ともかく酷いとしか言えない程の怪我だった。
コートのおかげで、傷の具合はよくわからなかったが、傷は深く、生きているのが不思議なくらいだった。
「大したことじゃない」
「大したことじゃないなら、あんな怪我はしません。ちゃんと答えて下さい」
レイヴンは、どうにか話をはぐらかそうとしたが、リニスに追及され、とうとう観念し、話始めた。
「わかった。話す、怪我は仕事が失敗した時に受けたんだ」
「仕事って・・・・・なんですか?」
「・・・・・傭兵(ミグラント)だ」
ミグラント、この名は傭兵の一般的な呼び方である。
彼らは、依頼があれば何でもする人間で、一般的には犯罪者の予備軍など言われている。
「ミグラント・・・・・ですって!!」
リニスは咄嗟にデバイスを構えた。リニスはミグラントの事をある程度知っていた為、危険を感じたのだ。しかし―――。
「安心しろ、何もしない。出て行けって言うなら、今すぐ出て行くさ」
そう言ってレイヴンは起き上がり、体に巻かれた包帯を取ろうとした。それを見たリニスは、慌てて止めた。
「いけません!貴方、酷い怪我だったんですよ!最低でも三ヶ月は安静に―――」
リニスの言葉は続かなかった。
包帯を取ったレイヴンの体には、傷一つ着いていなかった。その事に、リニスは唖然とした。
「貴方は・・・・・一体・・・・・」
「俺か?俺は――死人だ」
レイヴンは静かに告げた。自分は死人だと、リニスはその言葉が理解出来なかった。
「それは一体―――」
コンコンと、ドアのノック音がした。扉が開き、そこから現れたのはフェイトだった。
「リニス、あの人の様子は――あ、」
フェイトはレイヴンの姿を見た。その体に傷が無かったのに疑問を浮かべた。
「もう大丈夫なの?血がいっぱい出てたけど・・・・・」
「ああ、確かに血は出てたが、傷の方は大したことじゃなかった」
「そうなんだ。良かった・・・・・あ!自己紹介がまだだったね。私はフェイト、フェイト・テスタロッサ」
「フェイトか、いい名だな。俺はレイヴンと呼んでくれ」
「うん、わかったよレイヴン。ところで―――」
「フェイト、そろそろ勉強の時間ですよ。部屋に戻りなさい」
フェイトはレイヴンと会話しようとしたが、それをリニスが止めた。
レイヴンがミグラントである以上、フェイトに危険が及ぶ可能生があると考えたのだろう。
「え、でもまだ時間に・・・・・」
「いいから!部屋に戻りなさい!」
「わ、わかった・・・・・それじゃあレイヴン、またね」
そう言って、フェイトは部屋を出ていった。
リニスは、少し厳しく言ってしまったと後悔したが、目の前の青年がミグラントである以上、フェイトを遠ざける必要があると判断したのだ。
「別に、俺はあんた達に危害を加えるつもりはない」
リニスの考えを見透かしたのか、レイヴンはそう言った。
「・・・・・ミグラントは犯罪者の予備軍って聞きましたが?」
「それはごく一部だ。勘違いしていると思うが、傭兵って言っても何でも屋みたいな物だ」
「何でも屋?」
「護衛や荷物の輸送、遺跡の探索に危険な原生生物の退治、そういった依頼をこなすんだ。まぁ、中には犯罪ギリギリの物や、犯罪ぐるみの依頼を受けるミグラントもいる」
「貴方は・・・・・どちらのミグラントですか?」
「前者だ。まぁ、今回は依頼主に騙されて痛い目にあったがな」
「そうですか・・・・・」
リニスはしばし考え込み、そして口を開く、何かを期待するように―――。
「あの・・・・・何の依頼でも受けて下さるんですよね?」
「依頼によるが・・・・・どんな依頼だ?」
「えっと・・・・・親子の仲を取り持つ事を・・・・・」
「おいおい、それは赤の他人の俺がやるより、家政婦のあんたの方が適任だろう?」
「そうです・・・・・よね。すみません、今の話は忘れて下さい・・・・・」
リニス自身も、何故こんな事を依頼したかわからなかった。
ただ、誰でもいいから自分の主を救って欲しいという気持ちが彼女にはあった。
リニスが俯いていると、レイヴンが声を掛けた。
「・・・・・何か訳ありみたいだな。詳しく話してくれ」
「え?受けて下さるんですか?」
「俺に出来るかどうかわからんが、情報を無しには何も出来ん」
「・・・・・わかりました。お話します」
リニスは、フェイトの親のプレシアについて話始めた。
彼女がフェイトを蔑ろにしている事、何とか説得しようとしたが、聞き耳を持たない事、そして、彼女がレベル4以上の肺結腫を患っている事をレイヴンに伝えた。
「なるほどな、だがリニス、まだ肝心な事を言っていないな。“プレシア・テスタロッサが何をしているか”」
「っ!?・・・・・それは、必要な事ですか?」
「必要な事だ。プレシアが、体を投げ売ってでもやり遂げようした事がある筈だ。でもなきゃ、レベル4の肺結腫になったにも関わらず、ここに籠っている筈がない。教えて貰うぞ」
「・・・・・わかりました。お教えいたします。プレシアはここである研究をしているんです」
「ある研究?」
「はい・・・・・それは、死者を・・・・・自分の娘を蘇らせる研究です」
「それは、フェイト以外に娘がいたのか?」
「はい・・・・・名はアリシアと言います」
リニスは語る。
ある日、隠し部屋で、フェイトそっくりの少女の遺体を発見した。
その事をプレシアに追求すると、彼女の口から意外な真実が出た。
「なるほど、フェイトにアリシアの記憶を転写しようとしたのか」
「ええ・・・・・ですが、それは失敗に終わってしまいました」
フェイトはアリシアの記憶をちゃんと受け継いではいた。しかし、人格、利き腕、魔導師の資質、魔力光など、アリシアに程遠い人物になってしまった。
「そうか、それでプレシアはフェイトを遠ざけているのか・・・・・」
「ええ、あの子は失敗作だと・・・・・プレシアはそう言いました」
リニスの目に涙が溜まっていた。
フェイトはプレシアに好かれようしたが、肝心のプレシアはフェイトを認めない事に、リニスは悲しんでいた。
しかしレイヴンは、リニスの話を聞いて、ある疑問を浮かべた。
(記憶転写しただけで、人格、利き腕、魔導師の資質が変わるとは考えづらい・・・・・記憶転写以外の措置もされたのだろう。そう考えれば、フェイトとアリシアの相違が出たのも納得できる。だが、プレシアがそんな失敗する要素を増やす措置をするとは思えん。あるいは第三者が・・・・・)
「あの・・・・・どうかしましたか?」
考え込んでいると、リニスが心配そうに聞いてきた。
レイヴンは考察を一旦保留にすることにし、目の前の依頼を片付ける事にした。
「いや、何でも無い。話は戻すが、プレシアを何とかしてくれって事だな?」
「はい、何とか考え直してくれればいいんですけど・・・・・」
「何とかできるかもしれない・・・・」
「そうですよね・・・・・何とかできるわけ・・・・・え?」
リニスは耳を疑った。
あれだけ自分が説得出来なかったプレシアを、この青年は意図も簡単に出来ると告げたのだから―――。
「で、でも!一体どうやって説得するんですか!プレシアは、アリシアを取り戻す事しか考えていないんですよ!」
「ああ、それだよ。話に聞くと、今のプレシアは、アリシアの事で頭が一杯だ。そのせいで、視野が狭くなっている。なら、アリシアに会わせればいいだけの事だ」
「え?それはどういう―――」
「続きは後で言う、先ずはプレシアに会わせてくれ」
「・・・・・わかりました。こちらです」
そう言うと、リニスは扉を開き、廊下を出た。レイヴンはその後を追った。
屋敷の端にある、プレシア部屋の前で来た二人は、どう呼び出すか、話し合っていた。
「どうします?普通に呼んでも取り合ってくれませんよ?」
「・・・・・ともかくプレシアに、俺が話があると、伝えてくれ」
「わかりました」
そう言って、リニスは扉をノックした。
「プレシア、貴女に話があると、言う方がお見えになりましたけど、如何しま―――」
「追い返しなさい」
プレシアと思われる声は、リニスの言葉を待たずに返答した。
「やっぱりダメでした・・・・・」
「なるほど、これは重症だな」
「どうしましょう・・・・・これでは、話を聞いてくれません」
「まぁ、こうなる事は想定内だ。後は任せろ」
そう言うと、レイヴンは扉の前に立ち、扉に向かって思いっきり―――。
「ふんっ!」
蹴り砕いた。
扉は見るも無惨な姿になってしまった。
それを見たリニスは唖然としていたが、レイヴンはそれを放置し、部屋に入って行った。
すると奥には、白衣を着た女性が居た。
「あんたがプレシアか?」
「・・・・・」
女性は返事をせずに、研究に没頭していた。その後ろ姿は、何かに取りつかれているようだった。
「おい、聞こえているんだろう?返事をしたらどうだ?」
「・・・・・」
「はぁ、わかった。返事をしなくていいから、そのまま聞いてくれ」
「・・・・・」
「死者蘇生の方法を知っている」
「(ピクッ)」
死者蘇生の単語に、プレシアは反応し、振り返った。
その顔には、生気が全く無かった。
「それって・・・・・本当?」
「ようやく、話を聞く気になったか」
「答えなさい、死者を・・・・・アリシアを蘇らせられるの?」
プレシアは、すがるようにレイヴンに聞いてきた。
レイヴンの目から見ても、心身共に限界を越えているのは明白だった。今の彼女なら文字通り、犯罪だろうが何でもするだろう。
「話すさ、取り合えず、長話になるから、お茶でも飲みながら話そう」
「・・・・・わかったわ。リニス、お茶の用意を」
「あ、は、はい!今すぐに!」
リニスは一目散と部屋を出て行った。
そして、リニスが戻って来る頃には、プレシアとレイヴンがある程度の自己紹介を済ました後だった。
「それで?貴方の言う死者蘇生の方法は?」
「順に追って説明する。まず、死者蘇生の技術についてだ。この技術は、新暦以前に確立している」
「そんなバカな訳無いでしょう!私は、あらゆる方法を探した。けれども、そんな方法は無かった・・・・・だからproject・Fに全てを賭けたのよ!」
プレシアは、机を叩きながら叫んだ。そうでも無いと、今まで自分がやって来た事は、全くもって無意味だと認めてしまいそうだった。
一方レイヴンはいたって冷静で、紅茶を飲みながら、話を続けた。
「落ち着け、順に追って説明すると言っただろう?先ずは、ある世界の話をしよう」
“かつてフロムと呼ばれた世界では、ある国家があった。その国家は、徹底した管理体制を世界中の人々に強いてきた。
服装や食事、睡眠、職業、スケジュール、教育、階級による絶対的な上下関係。
人々は息苦しさを感じ、中には反乱を起こす者もいた。
しかし、その国家には、あるミグラントを雇っていた。
かつて、最強のミグラント集団、レイヴンズ・アークという一団である。
彼らは反乱が起きると、ことごとくレジスタンスを葬った。
なすすべが無かったレジスタンスは、ある賭けをした。それは、死者を兵器に使う事だった。
とある研究者、コジマ博士はある物質を発見した。それは、全く未知の物質で、博士はこの物質を、自分の名前を取ってコジマ粒子と名付けた。
この粒子は、粒子状だと何も意味をなさないが、ある一定の濃度を保つと、生命を活性化させたり、有害物質を消したりする事が出来た。
更に濃度を上げると、バリアの用に展開が出き、プラズマ砲みたいに放つ事も可能だった。
コジマ博士は、その粒子を結合し、コジマ粒子の結晶体。コジマコアを生み出す事に成功。
そしてそれを、死体に埋め込む実験をした。
結果は、一応成功したと言えよう。しかし、二十二個作製し、埋め込んだが、蘇生に成功したのは僅か八体しかいなかった。どうやら、適合できる者や出来ない者があるらしい。
その八体を、リンクスと呼んだ。
その後はあっという間だった。
リンクス達は、瞬き間にレイヴンズ・アークを全滅させ、国家を滅ぼした。これを国家解体戦争と呼ばれる事件である”
レイヴンは一通り話終えて、一息ついた。
プレシアは、興味深く聞き、レイヴンに質問して来た。
「なるほどね、確かに興味深い話だわ。けれど、どうして貴方が知っているのかしら?」
「簡単な話だ。俺もリンクスだからだ」
その言葉に、二人は驚愕した。
つまり、目の前の青年はかつて死体だったということ、しかし、何処からどう見ても死体には見えなかった。
「もしかして、傷が塞がったのも・・・・・」
「ああ、心臓に埋め込まれている、コジマコアのおかげだ。こいつから生成したコジマ粒子によって傷が塞がるんだ。だから、致命傷であっても、コアが破壊されない限り、死ぬことはない」
それを聞いたプレシアの目に、再び狂気が宿る。
「素晴らしいわ・・・・・それをアリシアに埋め込めば・・・・・あの子は!」
すると、プレシアはいきなり立ち上がり、その衝撃で椅子とテーブルは倒れ、彼女の細い腕は、レイヴンの首を締め付けた。
「プレシア!?何をしているんですか!」
リニスは止めようとしたが、レイヴンは手で遮った。
レイヴンは、首を締められているのにも関わらず、平気で念話をした。
《悪いがプレシア、リンクスはそんな事では死なない。殺すんだったら、コアを破壊する事だ》
それを聞いたプレシアは、レイヴンから離れ、魔法を放とうするが、病に伏せた体では思うように動かせず。レイヴンにあっさり組伏せられた。
「くっ、離しなさい!」
「俺の話を最後まで聞いたのなら、離してやる。どうだ?」
プレシアは、組伏せられたまま考えた。
体調が万全なら、勝てたも知れないが、今の体は病に伏せている。この状態でレイヴンに勝てるとは思えなかった。
「・・・・・わかったわ。もう、奪うような事はしないわ」
プレシアは組伏せられたまま答えた。
その表情は、失意に染まっていた。
レイヴンは、プレシアを離すと、再び椅子に座った。
「話を続けるぞ。まず、コジマコアを埋め込むに当たって、問題点もある。先ずは一つ目、適合出来るかどうかだ。こればっかり運次第だな。二つ目は、アリシアの肉体が耐えられるかどうかだ、流石に、子供の死体に埋め込む事はしなかったらしいからな、どうなるかわからない。三つ目―――」
三つ目の問題点を言おうとした時、プレシアの口が開いた。
「貴方、一番肝心な問題を忘れているわ・・・・・コジマコアっていう物が無ければ意味が無いじゃない」
「・・・・・確かに、プレシアの言う通りです。レイヴン、貴方以外にコジマコアを持っている方はいるんですか?」
リニスの問いに、レイヴンは首を横に振った。
「いや、国家解体戦争の後、コジマ博士は死去した。その後は、リンクス戦争が起こり、俺を除く二十一人のリンクスはコジマコア共にこの世を去っている。」
国家解体戦争の後、いくつかのコロニーに別れ、資源巡ってを争いが始まった。
リンクスの数も八体から二十二体に増え、各コロニーの最終兵器として使われ、結果的に二十一体のリンクスは、戦場に消えていった。
「それじゃあ意味が無いわ。それとも、貴方のコアを使わせてくれるのかしら?」
皮肉たっぷりに言うプレシア。
彼の方法は、コジマコアがある前提なのだ。しかし、肝心のコジマコアは一つしか無く、それはレイヴンの体に埋め込まれている。
誰が、会ったばかりの人間に、大切なコアを渡すのだろうか?渡す筈がない、だからプレシアは奪おうとしたのだ。
しかし、彼の口から、予想とは違う言葉が出た。
「そのつもりだが?」
「そうよね、見ず知らずの人間に、渡すなんて・・・・・え?」
プレシアは耳を疑った。この青年は、会ったばかりの人間に、自分のコアを提供すると言ったのだ。
「ま、待って下さい!貴方のコアを使うって事は、貴方からコアを摘出するんですよね?そしたら、貴方はどうなって・・・・・」
「どうなるも何も、俺はコアによって生かされている。コアを失えば、ただの屍に戻るだけだ」
「それじゃあ!死ぬようなものじゃないですか!」
「死ぬんじゃない、元々俺は屍だ。それが元に戻るだけだ」
「屍って・・・・・」
リニスはレイヴンの言葉が理解出来なかった。
彼の傷を手当てした時、確かに温もりがあった。とても屍には思えなかった。
「事情はどうあれ、使わせてくれるのならありがたいわ。それじゃあ、早速準備に取りかかるわ」
「待って下さいプレシア!話はまだ・・・・・」
リニスはプレシアを引き止めようとしたが、彼女は聞く耳を持たず、部屋を出て行ってしまった。
「・・・・・どうしてなんですか?」
「何がだ?」
「どうして、自分の命を投げ出そうとするんですか!」
「・・・・・俺は、お前の依頼を遂行しようとしただけだ」
「え?そんな事の為に・・・・・死んだら報酬を受けとれ無いんですよ!」
「ああ・・・・・まったく馬鹿げた事をしたもんだ」
「それならどうして・・・・・」
「放って置けなかった。ただそれだけだ」
そう言うと、レイヴンはプレシアの後を追って部屋を出た。
リニスはそれをただ見送るしか無かった。