フェイトとプレシアが和解してから、数週間が経過した。
和解してからというと、プレシアはアリシアを埋葬し、研究を辞めた。
そして、フェイトの為に母親らしい事をするようになった。
今日も、リニスと共に朝食の準備をするのが日課になっていた。
「母さん、リニス、おはよう」
「おはよ〜う!」
「おはようフェイト、アルフ。今、朝食を持って来るわ」
プレシアはせっせと、朝食を運んだ。すると、ある人物が来ていない事に気がつく。
「あら?レイヴンは?」
「まだ来ていないみたいですが・・・・・」
「あたし!起こして来るよ!」
アルフはそう言うと、一目散にリビングを出ていった。
そして、何やら悲鳴が聞こえ、しばらくすると、アルフはレイヴンを連れてやって来た。
「アルフ・・・・起こし方って物があるだろう・・・・・何でボディプレスなんだよ!」
「いつまでも寝てる方が悪いんだ!早くしないと、リニスとプレシアが作った朝食が冷めちゃうよ!」
「やれやれ・・・・・」
レイヴンはタメ息をつきながら、席につく。
彼がここに留まっているのは訳があった。
あの後、レイヴンは報酬を受け取り、一度は屋敷を去ったのだが、どうやら家主に死んだと思われてしまい。住んでいた場所を売り払われてしまった。
しかも、報酬は借金+法外な利子で消えてしまい、無一文。
いく宛の無いレイヴンは、ダメ元で、テスタロッサの屋敷に居候出来ないか頼んでみた。すると―――。
『貴方なら、大歓迎よ』
こうしてレイヴンは、テスタロッサ家に居候しているのだった。
朝食を済ませると、レイヴンは立ち上がる。
「それじゃあ行くぞ二人共、今日は少々キツメだぞ」
「うん、私は大丈夫だよ」
「どーんと来い!」
三人はそのまま、屋敷の外に出ていった。
レイヴンがテスタロッサ家に来てから、彼はフェイトとアルフに魔法の実技を教えている。
ミグラントの依頼は毎日来る訳ではなく、下手すれば一年中依頼が来ない時もある。
そんな訳で、暇潰し・・・・・もとい、家賃がわりに、フェイトに実技を教えているのだった。
広い草原の中。三人は今回の模擬戦の反省会をしていた。
「攻撃とスピードはなかなかだが、防御はかなりお粗末だな」
「ごめんなさい・・・・・」
「いや、謝る事では無いんだが・・・・・」
「そうだよフェイト!ただ、レイヴンが強すぎなだけさ!」
落ち込んでいるフェイトを、アルフは励ました。
この数週間、レイヴンと模擬戦を行っている二人だが、一度も勝ててなかった。
「敗因は何だと思う?」
「はい!レイヴンが強すぎからです!」
「当たり前だ!こっちはそれでメシを食っているんだ!」
元気よく答えたアルフに、思わず突っ込むレイヴン。その間、フェイトは真面目に考えていた。
「まぁ、まだ経験が少ないから難しいと思うが、とりあえず言っておく」
レイヴンは指を一つ立てた。
「まず一つ、先程も言ったが、フェイトの自身の防御力が低い事」
二つ目の指を立てる。
「二つ目は、二人の連携が上手くいっていない。特にアルフ、お前は突っ込み過ぎだ」
その言葉に、アルフはしゅんとした。
続いてレイヴンは、三つ目の指を立てる。
「三つ目は、相手の防御を崩す突破力が無い事だ。わかるか?」
「うん・・・・・」
模擬戦の時、フェイトの攻撃は一度もレイヴンの防御魔法を突破出来なかった。
「バリアブレイクはアルフの方が上手いから、アルフに防御を崩してもらってから、自分で止めを刺す方法もあるが、もし分断されたらどうする?」
「えっと・・・・・」
「そんな事なんないさ!フェイトはあたしが守るから!」
「アルフがそう思っても、分断される時は分断されるものだ。そんな根性論より、もっと確実な方法を考えろ」
「へ〜〜い」
「・・・・・大きな圧縮魔力刃で切るとか?」
「それも一つの方法だ。ホワイトグリント」
【ブレイドモード】
レイヴンはホワイトグリントをブレイドモードにし、そこから通常より二回り大きな魔力刃を生成した。
「確かにこれなら、相手の防御を切り崩せるが、今のおまえに扱えるか?」
フェイトは、ホワイトグリントをじっと見た。
全長はフェイトの身長の二倍くらいあり、幅はフェイトが隠れるくらい広いものだった。
「・・・・・ちょっと無理かな?」
「少なくとも、今のおまえだと、振り回されるのがオチだ」
「う〜〜ん・・・・・」
「仕方がない、ヒントをやろう。ある世界のことわざだ。“塵も積もれば山となる”」
「ん?それってどういう意味だい?」
「言葉通りの意味だ。どんなに小さい物でも、重ねていけば大きな山になるって意味だ」
「?? さっきの話とどう繋がるんだい?」
「それくらい、自分で考えろ」
「ケチ!」
「何だと!」
二人が口論している最中、フェイトは一生懸命に考えた。そして、ある事を思いつく。
「一発だけじゃなく、大量の・・・・・例えば、フォトンランサーで相手の防御を削るとか!」
「正解。もっと正確言えば、相手の防御ごと削るだ。見てろよ」
そう言うと、レイヴンはブレイドモードからガンナーモード、ハンドガン形態にした。
そして一発、大岩に撃ち込み、一部を削りとる。
「このように、一発だけじゃ、あの岩は砕けない。しかし、数百発なら―――」
今度は一発だけではなく、何百発の魔力弾を岩に撃ち込んだ。
岩は魔力弾の嵐によってみるみる小さくなり、跡形もなく削り取られた。
「このように、相手の防御事削る事が出来る。これが今のフェイトにとって最良の方法だな」
「うん!・・・・・あ、でも、それだと、魔法発動に時間かかるよね?相手だって待ってくれないし・・・・・」
「その辺は自分で工夫しろ、やり方は千差万別なんだから」
そう言うと、レイヴンは時計を見る。そろそろお昼の時間になる頃だった。
「そろそろ昼だ。メシにするぞ」
「「は〜い!」」
三人は、リニスが作ったサンドイッチを美味しそうに食べ始めた。
「ところで、レイヴンはどうしてミグラントになったの?」
フェイトの何気ない一言に、レイヴンの手が止まった。
「・・・・・聞いてどうする?」
「え、あ、その・・・・・ちょっと気になっただけ、別に深い意味は無いよ・・・・・ごめんね、変な事を聞いて・・・・・」
怒ってるいると勘違いしたのか、フェイトはレイヴンに謝った。
「謝る必要はない・・・・・聞きたいのか?」
その言葉に、フェイトはちいさく頷いた。
それを見たレイヴンは、静かに語り出した。
「と言っても、簡単な話だ・・・・・俺は、物心がついた時からミグラントだった」
「物心がついた時から?」
「ああ、よく覚えていないが、俺は戦争孤児だったんだ。その時に、レイヴンズ・アークと言うミグラントチームに拾われた。それから、リンクスになるまで所属していた」
「そうなんだ・・・・・ん?でも、レイヴンズ・アークって・・・・・」
「確か、リニスの話だと、国家解体戦争で全滅したんじゃ・・・・・」
「アイツ、そんな事まで話したのか・・・・・まぁ、その辺も話しておこう」
レイヴンは、遠い目をしながら語りだした。
「確かに、国家解体戦争で、レイヴンズ・アークのミグラントは一人残らず戦死した。しかしその後、リンクス戦争が起きた。リンクス戦争ってのは、幾つかのコロニーがリンクスを使った戦争だ。その一つのコロニー、アナトリアにはリンクスがいなかった為、存亡の危機に陥った。そこで、レイヴンズ・アークのミグラントを新にリンクスにする事にした。それが俺だ」
「じゃあ、レイヴンは戦争の為に、リンクスになったの?・・・・・」
「結果的にはそうなる。多分奴等は、レイヴンズ・アークの人間にコジマコアを搭載すれば、最強のリンクスが出来ると思ったのだろう・・・・・過大評価し過ぎだろ?」
レイヴン自嘲気味に笑うが、その顔は何処か懐かしそうにしていた。
「そんな訳で、俺は戦った。戦って、戦って、戦いまくった。そして、いつの間にか、たった一人になっていた・・・・・」
「それはどういう・・・・・」
「リンクス戦争で、結局アナトリアは滅んだ。俺だけを残して・・・・・」
そう言ったレイヴンの表情は、先程とは違い、とても悲しそうだった。
「ねぇ?レイヴンには帰る場所は無いの?」
「そうだな・・・・・レイヴンズ・アークとアナトリア、その二つがが俺の帰る場所だった・・・・・しかし、今はもう無い・・・・・」
「だったら、ここをレイヴンの帰る場所にして良いから―――だから、そんな悲しい顔はしないで・・・・・」
レイヴンは少し驚いた。
リンクス戦争以降、いろんな人物に出会ったが、そんな事を言われたのは初めてだからである。
「フェイト・・・・・生意気なガキだなっと―――」
フェイトの言葉に微笑みながら、レイヴンはフェイトの額にデコピンした。
「痛いよ〜」
「俺がそんな軟弱だと思ったのか?余計なお世話――」
「ちょっとレイヴン!フェイトに何て事をするんだい!あんまりフェイトをいじめると、リニス達に言いつけるよ!」
「うっ―――」
レイヴンは言葉を詰まらせた。
今の彼は無一文、屋敷を放り出されたら野宿生活を余儀されてしまう。
「もうアルフ、あまりレイヴンを困らせちゃダメだよ」
「良いんだよフェイト、こういうヒモ男にはビシッと言わなきゃ駄目だって、テレビで言っていたよ」
どうやら、昼ドラかなんなかの影響を受けたらしい。
確かに、ミグラントの仕事が無いレイヴンは、端から見てもヒモ男に見えてしまう。
「だ、誰がヒモ男だ!仕事が来れば百万や二百万、一気に稼げるわ!」
「そう言って、アンタまだ借金残っていだろ?」
またしても痛い所を突かれてしまった。
確かに、今の彼には借金が残っている。その額は、一千万を越えていたのである。
「う、うるさい!一千万何て・・・・・」
「ハイハイ、仕事が入ればでしょ?そう言って、仕事が入って来たのかい?一応、プレシアが肩代わりしてくれたけど、人としてどうなんだい?」
「そ、それは・・・・・」
全くもって、アルフの正論である。
屋敷に居候、借金の肩代わり、何もかも甘えている気がしてなら無い。
「だ、大丈夫だよ!レイヴンが働か無くても、屋敷にはいっぱいお金があるって母さん言ってたよ。それに、お金が無くなったら私が働くよ!」
「「・・・・・」」
フェイトの発言にレイヴンとアルフは、少し心配になってしまった。
確かにミッドの労働基準は変わっており、ちゃんと手続きをすれば、小学生でも働けるのだ。
しかし、子供に養って貰うのは如何なものだろうか?
「明日から、もっと必死に仕事を探す・・・・・」
「ああ・・・・・そうしておくれ・・・・・」
「??」
九歳の少女に飯を食わせてもらう何て事にならないように、明日から死にもの狂いで仕事を探す事を誓うレイヴンであった。