レイヴンがテスタロッサ家に厄介になって、半年が経過した。
レイヴンはちょくちょくミグラントの仕事で屋敷を出るが、二、三日で帰って来る事を繰り返していた。
その間、フェイトはリニスにある大魔法を教えてもらっていた。
「はい、そこまで!」
「ハァ、ハァ、ハァ―――」
フェイトは息を切らしながら、地面に座り込んだ。
「スフィアの数、十八ですか。良い調子ですよフェイト」
「ありがとうリニス・・・・・でも、まだ半分だよ」
「いいえ、ストレージでここまでやれるのは十分です。もし、インテリジェントなら目標数を越えていますよ」
「そうだけど、無い物ねだりしてもしょうがないよ」
フェイトの優等生な答えに、リニスは内心微笑んだ。
もし、密かに作っている。フェイト専用インテリジェントデバイス、バルディシュの事を知れば、どんな反応するか。今から楽しみだからである。
(それは、今夜のお楽しみですね)
今日は、フェイトの誕生日である。
リニスは誕生日プレゼントとして、バルディシュを渡す計画をしていた。
きっとビックリするだろうと思い、リニスは指導を続けた。
テスタロッサ邸、そこでレイヴンは重要な事実をプレシア達に聞かされるのだった。
「今日がフェイトの誕生日!?」
「あら?話してなかったかしら?」
「初耳だぞ・・・・・それに、さっき帰って来たばかりだ」
レイヴンはミグラントの仕事を終え、テスタロッサ邸に帰って来たばかりである。
今回は珍しく長引き、一週間以上掛かってしまった。
「で?どうするんだい?プレゼント、まだ決めてないだろう?」
アルフの指摘は当たっている。今日がフェイトの誕生日だと、先程知ったばかりなのだから。
―――と、そこに、魔法の練習を終えたフェイトとリニスが帰って来た。
「ただいま・・・・・あ!レイヴン!」
「お帰りなさいレイヴン、今回は長かったですね」
「ああ、ただいま。今回はトラブルがあった所為で、長引いた」
レイヴンは、まるで何事もなかったかのように挨拶をした。
するとフェイトは、おずおずと話し掛けた。
「ねぇ、レイヴン。今日なんだけどさ―――」
「今日?何かあるのか?」
その言葉にフェイトは、レイヴンは自分の誕生日を知らないものだと勘違いをした。
「ううん、何でも無い・・・・・私、着替えてくるね」
フェイトは知らない事にションボリしたが、教えていない事もあり、それ以上は言わずに出ていってしまった。
「ちょっとレイヴン!アンタ、なに嘘を言っているのさ!」
「嘘?・・・・・どういう事ですか!」
アルフとリニスは、凄い剣幕でレイヴンを問いつめた。
とりあえず、事情を説明する為に、先程のやり取りをリニスに話した。
「つまりこういう事ですか?フェイトの誕生日だと知っていたにも関わらず、知らないフリをした。ということですか?」
「まぁ、そんな所だ」
「一応、弁明は聞くけど、納得出来なかったら噛みつくよ!」
アルフは牙を光らせながら、レイヴンに最終勧告を告げる。
「わかったから落ち着け!本当の事を話したら、アイツの性格上、絶対に気を使わせてしまうだろう?」
レイヴンが言うには、もし今日がフェイトの誕生日だと先程初めて聞いたと言ってしまうと、彼女は―――。
『知らなかったなら、仕方がないよ。誕生日プレゼントなんて気にしなくて良いから』
―――と、言って来るだろう。
そうなったら、余計にプレゼントを渡しづらくなる。
「そこで、知らないフリをして、誕生日プレゼントを用意し、サプライズで渡す。これが俺の計画だ!」
レイヴンは、ドーンと宣言をした。
「――で?プレゼントはどうするの?」
「とりあえず、参考がてら、お前達のプレゼントを教えてくれないか?」
「別に良いよ。あたしはぬいぐるみ」
アルフは、綺麗にラッピングされた犬のぬいぐるみをレイヴンに見せた。
「アルフにしてはまともだな・・・・・」
「それってどういう事だい!」
「お前の場合、肉――とか言い出しそうだから・・・・・」
「最初はそのつもりだったけど、リニス止められた」
アルフは何でだろう?――と首を傾げ、レイヴンはやれやれとタメ息をついた。
「プレシアは?どんなプレゼントなんだ?」
「私は洋服にしたの。リニスにフェイトの好きな色を教えて貰い、その色の洋服を取り寄せたわ」
何でも、ミッドで有名なブランド商品らしく、値段もそれなりにする物らしい。
「最後にリニス。お前は何をプレゼントするんだ?」
「はい、インテリジェントデバイスをプレゼントするつもりです」
リニスの言葉に、レイヴンは固まってしまった。
「もしかして、アレが完成したのかしら?」
「ええ、性能も申し分無いですよ。あれなら、フェイトを助けてくれます」
「ちょっと二人とも!コソコソしてないで、あたしにも教えておくれよ!」
三人は楽しそうに会話をしているなか、レイヴンはようやく口を開いた。
「えっと・・・・・リニス?もう一度聞くが、インテリジェントデバイスをプレゼントするって・・・・・」
「はい、以前からプレシアの依頼で、フェイト専用のデバイスを製作していたんです」
「ええ、リニスには、お金がいくら掛かっても構わないと言って作らせていたわ」
二人の話によると、レイヴンが出会う以前から製作がスタートされており、完全にフェイト専用のワンオフ機になっている物らしい。
「ちょっと待て!いくらつぎ込んだんだ!?」
「ざっと見積もっても・・・・・三千万くらいは・・・・・」
「三千万・・・・・だと・・・・・」
レイヴンは言葉を失った。
インテリジェントデバイスは高性能な面、扱いが難しい上に高級品でもある。
安くても、数百万もする代物なのだ。
それなのに、リニスはフェイトの為に三千万のデバイスを製作したのだ。
「どうかしたのレイヴン?」
「何だか、顔色が悪いみたいですが・・・・・」
「変な物でも拾い食いでもしたんじゃない?」
「とりあえず、お前らが親バカなのはわかった・・・・・」
「「「?」」」
先程の話は置いといて、レイヴンはフェイトのプレゼントを何にするかを考える事にした。
フェイトは自室にいた。リニス達が誕生日パーティーの準備が終わるまで、部屋で待って欲しいとの事だ。
ベットの上で、枕を抱き締め、先程のレイヴンのやり取りについて考えていた。
(誕生日の事、話しても良かったのに、どうして話させなかったんだろう・・・・・)
どっちみち、夜になればレイヴンだって、誕生日パーティーに出席するのだから、話しても問題にならないはず。しかし―――。
(でも、それだとプレゼントをねだるみたいで、カッコ悪いよね・・・・・)
彼女にとって、プレゼントはオマケであり。一緒に祝って貰う事が、彼女にとっての誕生日プレゼントなのだから。
「フェイト〜〜!準備出来たよ〜!」
アルフがフェイトを呼びに来た。
どうやら、誕生日パーティーの準備が出来たようだ。
「わかった。今行くよ」
アルフと共に部屋を出て、リビングに向かって行った。
そして、リビングのドアの前についていった。
「さあ、どうぞ〜〜」
「う、うん・・・・・」
フェイトはゆっくりと扉を開く、するとクラッカーが鳴り響いた。
「「「誕生日おめでとーーー!!!」」」
「あ、ありがとう皆!」
「さぁ、こっちだよフェイト」
「う、うん」
フェイトはアルフに案内され、ケーキがある席に座る。そして、ケーキに刺さったロウソクに火がつけられた。
「「「「ハッピーバースデー、トゥーユー♪ハッピーバースデー、ディアフェイトー♪ハッピーバースデー、トゥーユー♪」」」」
歌と共に、フェイトに拍手が送られた。
「さぁフェイト、ロウソクの火を消して下さい」
「一息で消せたら、願い事が叶うらしいわ」
「願い事・・・・・」
フェイトは、大きく息をしながら、ある事を願った。
(いつまでも、皆と一緒にいられますように―――)
そして、一気に息を吹き、ロウソクは全て消えた。そして再び、フェイトに拍手が送られる。
「それじゃあ!早速・・・・・」
「ダメですよ!先ずはプレゼントが先です」
「ああ、そうだった!じゃあ、あたしから――はい!フェイト」
アルフは、綺麗にラッピングされた犬のぬいぐるみをフェイトに渡す。
「わぁ〜可愛い。ありがとうアルフ!」
「えへへ♪」
「それじゃあ、次は私ね」
プレシアは、洋服が入った箱をフェイトに渡した。
「開けてもいい?」
「ええ、良いわよ」
フェイトは箱を丁寧に開けると、中には黒いワンピースが入っていた。
「母さん、これ着てみていい?」
「良いわよ。その為に買ったもの」
「うん!」
フェイトはワンピースを持って、リビングを出て行き。しばらくして、ワンピースを着て戻って来た。
「ど、どうかな?」
フェイトはクルッと一回転をして、四人に見せた。
「うんうん、似合っているよフェイト!」
「はい、フェイトにピッタリだと思います」
「そうね、これにして良かったと思うわ」
「えへへ、ありがとう」
フェイトは最後に、何かを期待するようにレイヴンの方を見た。
「ど、どうかな?」
「・・・・・ああ、よく似合っているぞ」
「あ、ありがとう」
フェイトは顔を真っ赤にしながら言った。
しかし、その表情は何処か嬉しそうであった。
「それでは、次は私の番ですね」
リニスは、三角形の黄色い宝石をフェイトに手渡した。
「アクセサリー?」
「フェイト、私が言う言葉を続けて言って下さい」
フェイトは、?マークを浮かべながらも、リニスの言葉を続けて言った。すると―――。
【ユーザー登録完了】
宝石は、一本の杖に変形した。
「これって・・・・・デバイス?」
「ええ、この子の名前はバルディシュ。貴女の為に生まれた子です」
リニスは、バルディシュの事について全てを話した。
その事を聞いたフェイトは、嬉しそうにバルディシュを抱き締めた。
「私の為に・・・・・」
「大切に扱って下さいね」
「うん!大切にするね!」
フェイトはバルディシュを待機モードに戻す。
「これからよろしくね。バルディシュ」
【yes sir】
「それじゃあ、最後は俺だな」
「え?」
「え?じゃあない。俺だけプレゼントを用意していない訳無いだろう?」
「でも、私の誕生日知らなかったんじゃ・・・・・」
「今日聞いて、今日用意した。他の三人には劣るかも知れないが、これで勘弁してくれ」
そう言って、レイヴンは一つの懐中時計を手渡した。
「これは?」
「俺が使っていた物だ。ミッドじゃあ、あまり見掛けないが、昔の時計だ。蓋を開けてみてくれ」
「うん」
フェイトは蓋を開けると、デジタル式ではない、長針と短針で示す時計だった。
「フェイトには悪いが、俺にはこれしか用意出来なかった。気に入って貰えると嬉しいが・・・・・」
「本当に貰って良いの?」
「ああ、と言うか、貰ってくれないと俺が困る」
「うん、わかった。大切にするね」
どうやら、フェイトは気に入ってくれたようだ。
それを見て、レイヴンはホッと一安心した。
こうしてプレゼントは行き渡り、パーティーは本格的に始まるのだった。
幸せの絶頂にいるフェイトだったが、この数ヵ月、彼女はプレシアの病の事を知るのだった。