ヴォルケンリッター出現後、二人は彼女達の話を聞いた
はやてが闇の書の主として選ばれた事、闇の書について、自分達ヴォルケンリッターについて、そして魔法の事を。
最初は半信半疑だったはやてだったが、信じる事にした。
処遇に関して、はやてとアーチャーは口論になったが、結局アーチャーが折れてしまい。ヴォルケンリッターを八神家に迎える事になった。
とりあえず、蒐集はしないということになり、ヴォルケンリッター達は戸惑いながら、八神家の一員になった。
それから二ヶ月後、八神家の日常とはいうと―――。
「はぁ!」
「むぅ!?」
八神家の小さい庭で、アーチャーとシグナムは竹刀を持って打ち合っていた。
流石は剣の騎士と呼ばれるだけあって、アーチャーを終始圧倒している。
元々アーチャーは投影宝具を用いて戦うスタイルなので、アーチャーが劣勢なのは当たり前であるが、それでも彼は食い下がる。
ガウェインと渡り合った事は伊達ではなく、シグナムも攻めきれずにいた。
「シグナム、アーチャー、朝ごはんが出来たわよ」
シャマルの声で、今日の朝稽古は終わりを告げた。
その事にシグナムは不満で、アーチャーはホッとした。
「今日は一本取られずにすんだか・・・・・」
「くっ、五勝三敗四十三引き分けか・・・・・アーチャー、貴様は守ってばかりでいないで、たまには攻めて来い」
アーチャーは基本、守りに徹する事が多く、シグナムはその守りをなかなか崩せず、いつも時間切れで終わる事が多いのだ。
シグナムはそれが少し不満であった。
「無茶を言うな。剣の腕前は君の方が断然上なのだから、守るだけで精一杯だ」
「そんな事は無い、お前の剣の腕は一流だ。私が保証する」
そう言われて、アーチャーは少し嬉しかった。
剣の才能は無いと言われ続けた自分の腕が、一流と言われたからである。
「ほら二人とも! はやてちゃん達が待っているわよ!」
「ああ、すまない。今行く」
シャマルの催促に促され、二人はリビングに入っていった。
八月、もう夏である。
朝食を済ました後、アーチャーはザフィーラを連れて散歩に出掛けて行った。
「今日も暑くなりそうだな」
《熱中症に気を付けろと、テレビでも言っていたな》
ザフィーラは基本的に家の外では、念話のみで会話するよう心掛けている。
もし、喋ったりなんかしてしまえば、大騒ぎ間違ないであろう。
「今日はいつもとは違うコースにするか?」
《我は別に構わん》
「了解した」
二人はいつもとは違う散歩コースを歩く事にした。
以外と思うが、ザフィーラはこの散歩を気に入っており、毎日欠かさずに行っているのだ。
二人は歩いていると、一人の女性が大声を上げた。
「引ったくりよ―! 誰か捕まえてー!」
見ると、スクーターには若い男性二人が乗っており、片方の男の手にはバックが握られていた。
「ザフィーラ!」
《承知!》
アーチャーは、ザフィーラのリールを手放すと、ザフィーラは物凄いスピードでスクーターに迫った。
「な、何だこの犬!? おい! もっとスピードを上げろ!」
荷物を持っている男性は、スクーターを運転している男に叫ぶ。しかし、狼の走行速度は約時速五十kmに対して、スクーターの走行速度は約時速三十km。
ザフィーラは瞬く間にスクーターに追い付く。
「ワァオ!!」
「うわぁぁぁぁ!」
ザフィーラはスクーターに飛び付き、男達は転倒する。
バックを口に加えると、ザフィーラは女性の元に駆け寄った。
「あ、ありがとうございます」
「いえ、当然の事をしたまでだ。なぁ? ザフィーラ」
「ワァオン!」
女性はアーチャーとザフィーラに頭を下げ、その場を後にした。
アーチャー達も、散歩の続きを再開した。
その一部始終を、二人の少女が見ていた。
「すずか、今の写真に取った?」
「バッチリだよ。アリサちゃん」
「早速戻って記事にするわよ!」
二人の少女は、嬉しそうに何処かに行ってしまった。
昼過ぎのとある公園。今日はその広場で、老人達のゲートボール大会が開かれていた。
老人達が大勢いるなかで、一人だけ少女が交じっていた。
少女はスティックを振り、ボールを転がす。ボールは見事、ゴールポールに当たった。
「よっしゃあ!」
「おお! ナイスじゃヴィータちん!」
「へへン、これくらいどうって事ねぇ」
ヴィータは得意気に言った。
彼女がゲートボールを始めて二ヶ月くらいだが、みるみる腕を上げて、今日の大会に出場したのだ。
(ちょっと喉乾いたな・・・・・)
「ジイちゃん達。ちょっと飲み物買ってくる」
「おお、気を付けて行ってくるんじゃぞ」
「大丈夫だって、そんじゃ行ってくる」
ヴィータは早足で、自販機のある場所に向かって行った。
その途中、二人の少年少女に擦れ違った。
「優くん、よくそんなのを飲むよね? 余計に暑そうになると思うんだけど・・・・・」
少女がそう指摘する。
確かに、今日は暑いのだが、少年の顔は異常な程の汗が流れている。
彼の手には、“超激辛麻婆ドリンク”と書かれていた缶ジュースがあった。
「確かに暑いけど・・・・・何かこれを飲むと、懐かしい感じがするんだ。前にこんな味を口にしたような・・・・・」
「前にって・・・・・優くんはいつも麻婆豆腐を激辛にして食べてるじゃない・・・・・」
少女は少し呆れながら、少年と共に歩いて行った。
ヴィータは二人の会話を特に気にせず、自販機に向かった。
一方はやてとシャマルは、いつも通りのデパート地下にあるスーパーに買い物をしていた。
「今夜は何にしようか・・・・・」
「う〜ん、そうね・・・・・」
二人が悩んでいると、一人の中年男性が声を掛けて来た。
彼は馴染みの肉屋の店長だった。
「いよ奥さん。今日ははやてちゃんとお買い物かい? 旦那さんは?」
「もう! 何度も言いますが、私はアーチャーとは結婚なんてしてません!」
シャマルは、他のヴォルケンリッターの中では家庭的な雰囲気を出している。
その為か、アーチャーとセットでいる時、二人は夫婦みたいに見えてしまうのだ。
「ははは、そんな怒るとせっかくの美人が台無しだ」
「そやね、おっちゃん言う通りや。それにアーチャーとシャマルは、ホンマ夫婦に見えるで」
「もう、はやてちゃんまで・・・・・」
シャマルは項垂れてしまった。
アーチャーと夫婦と言われるのは我慢出来るが、この前はヴィータの母親と間違われてしまう事が起きてしまった。
(私って、そんなに老けて見えるのかしら・・・・・そりゃあ、年齢設定はシグナムより上だけど・・・・・)
ネガティブ思考のシャマルを尻目に、肉屋の店長とはやては話をしていた。
「それで、何を悩んでいるんだ?」
「えっとな、今夜の献立を何がええんか、悩んどるんや」
「それなら、いい肉があるんぜ」
そう言って、肉屋の店長が見せた肉は分厚い牛肉であった。
「それってステーキ用の肉? 少し高いんじゃ・・・・・」
シャマルは小さく呟く。
アーチャーから、無駄遣いをするなと言われている為、あまり高級な食材は買えないのだが、店長ははやて達にしか聞こえないように話した。
「いつも贔屓になっているから、半額でいいよ」
「え!? ホンマにええの!?」
「もちろんさ、はやてちゃんには美味しい物を食べて、早く足を治して欲しいからね。他のお客には内緒だよ」
店長が悪戯な笑みを見せると、はやてとシャマルもつられて微笑んだ。
「それじゃ、頂こうかしら」
「へい! 毎度!」
二人は六人分の肉を買い、その場を後にした。
アーチャーはバイトの酒屋からの帰り道にシグナムと鉢合わせした。
「む、シグナムか、道場帰りか?」
「ああ、そちらもバイトの帰りか?」
「そうだ、今日は早く切り上げられたからな」
二人は一緒に夜道を歩いた。
セミの鳴き声が響く夜。シグナムは不意に空に浮かぶ満月を見た。
「そう言えば、我らが目覚めた夜も、こんな満月だったな」
「覚えているのか?」
「そうだな・・・・・自分でも不思議だが、あの夜の月は今でも鮮明に覚えているのだ」
「そうか・・・・・」
「今の主になってから、私達は変わったと思っている。以前の私達は、ただ主の命令を従うだけのプログラムだった筈が、今の生活を楽しいと思えてしまう。笑ってしまうだろう? 人間ではない我等が人並みの感情を持つなんて・・・・・」
シグナムは苦笑しながら言った。
所詮自分達はプログラム。人間にはなれないのだと、言っているようだった。
しかし、アーチャーは――――。
「プログラムだからどうだって言うのだ? 私は、プログラムとして生まれたが、人として生きようとした者を知っている。人として生まれながら、化け物になる事を選ぶ奴だっている。生まれは重要じゃない、どのように生きるかだ」
「どのように生きるかか・・・・・」
「シグナム、君が人として生きようとするなら、君は立派な人間だ。私が保証する」
アーチャーは笑顔を見せながら言ってくれた。
人として生きようとするなら、それは立派な人間だ。その言葉に、シグナムは嬉しかった。
「・・・・・感謝する」
「ん? 何か言ったか?」
「さてな、それよりも早く帰るぞ。主達が待っている」
「そうだな。早く帰らないとヴィータがまた睨みそうだ」
「ふふ、違いないな」
二人は、家族が待っている暖かい家へと急いだ。
――――――――――
キャラステータス
シグナム
使用魔法 古代ベルカ式
得意魔法 炎熱系魔力付加
デバイス レヴァンティン
ステータス
筋力 B+
耐久 B+
敏捷 C+
魔力 B
幸運 C
スキル
騎士道精神(B)
一対一の状況下のみ効果が発動。
筋力、耐久、敏速のステータスがブーストされる。
魔力変換資質・炎(B)
デバイスを使わずに魔力を変換出来る。炎属性の魔法の能力が上がる。
心眼・偽(B)
第六感による危機回避。
ヴォルケンリッターのリーダーを勤める女性。剣の騎士または烈火の将と呼ばれている。タイマンならヴォルケンリッター最強。はやての扱い方に戸惑っていたが、現在は順応している。
朝はアーチャーと稽古したり、近所の道場で臨時講師をしながら過ごしている。
シャマル
使用魔法 古代ベルカ式
得意魔法 治癒系
デバイス クラールヴィント
ステータス
筋力 E
耐久 C
敏捷 D
魔力 B
幸運 A
スキル
探索(A)
目的の物を探しあてる。あるいは、探し物をみつける。
策謀(C)
謀をめぐらし、仲間の窮地を脱する能力。自分が戦闘領域外にいるとき発揮する。
医療知識(B)
医療関係の知識を有している。
詳しいことは不明だが、古代ベルカ式の医療知識を持ち合わさっている。
ヴォルケンリッターの参謀を勤めている女性。
シグナム同様、処遇に困惑していたが、ヴォルケンリッターの中で最も早く順応した。
社交性の高さから、アーチャーと同様、近所から信頼されている。また、はやての保護者的な立場から、アーチャーと夫婦関係にあると誤解されている。
ザフィーラ
使用魔法 古代ベルカ式
得意魔法 防御系
デバイス 無し
ステータス
筋力 B
耐久 A+
敏捷 C
魔力 C
幸運 D
スキル
ベルカ古流武術(A)
詳細は不明だが、ベルカの古流武術を修得しており、近接格闘能力が上昇する。
Aランクなら達人の域。
堅牢(A+)
防御体制とった時のみ、耐久がブーストされる。
威風(B)
精神干渉を無効にし、ある程度の敵の戦意を削ぎ落とす。
ヴォルケンリッターの守護獣。
人間形態と動物形態の2つがあるが、はやての要望で普段は動物形態になっている。
当初はその風貌と大型犬という事もあり、近所には怖がられていたが、車に跳ねられそうになった子供を助けた事により、八神家の名犬として、近所の子供達の人気物になった。
ヴィータ
使用魔法 古代ベルカ式
得意魔法 防御粉砕系
デバイス グラーフアイゼン
ステータス
筋力 A+
耐久 B
敏捷 D
魔力 C
幸運 B
スキル
防御破壊(B+)
一定ランクの防御なら、無条件で破壊する事が出来る。
戦闘続行(A)
致命傷でない限り、瀕死の状態でも戦闘可能
底力(C)
瀕死の状態で、一度だけ筋力をEXにする事が出来る。
ただし、このスキル使用後は必ず戦闘不能になる。
ヴォルケンリッターの一員である少女。
少々気難しい性格の為、なかなか日常に馴染めなかったが、ある日老人達のゲートボールに交じった事により、それなりに楽しい日常を送っている。
はやてが買ってくれた兎のぬいぐるみは、今も大切にしている。