「珍しいわね、孝のほうから誘うなんて。どういった風の吹き回し?」
「まぁ、たまにわな。」
僕が麗と一緒に帰るのは本当に久しぶりのことだ。小学生だった頃は毎日一緒に帰っていたが、年が上がるにつれてなんとなく気恥ずかしくなり、麗に誘われても断ったりしていたのだ。
「そういえば孝、今日始業式が始まる前どこ行ってたの?永と探したんだけど全然見つからなかったんだけど?」
「あぁごめん。少し知り合いの先輩と話をしていたんだ。」
「先輩?孝に知り合いの先輩なんかいたっけ?」
「僕にだって先輩の知り合いくらいいるさ。」
「そう?孝ってそんなに交友広いほうじゃないじゃない。」
まぁ本来なら僕と冴子には面識がないはずだからな、部活に所属してない僕に先輩と関わる機会なんてそうそうない。
「余計なお世話だよ。」
「ふふ、孝の知り合いか~誰だろう?」
2人で並んで桜並木を歩く。横を歩く麗の顔をちらりと見る。元気に振る舞っているが、今日の出来事は麗の中に重くのしかかっているはずだ。僕はどうするべきなんだろう…やり直せるのではなどと思ったもののこの調子では全然ダメだ。
その後も麗とは他愛のない会話を交わしながら帰り道を歩いていく。そろそろ僕の寮が見えてきた。
「あ、そろそろお別れだね。明日も朝迎えに行くからちゃんと準備しておいてね。」
「あぁ、わかったよ了解。」
結局何もできなかったなぁ…まぁ仕方ないか…
いや、一言だけども声をかけよう。このままじゃ何も変えられない一瞬だが永と一緒に歩く麗の姿を思い出した。
歩き始めていた麗の後ろから声をかける。
「麗、つらかったら言ってくれ。僕にできることならなんでもするよ。」
麗の足が止まる、振り向いた麗の目には涙が浮かんでいた。
「孝、私、私ね…」
泣き始める麗、僕は麗を落ち着かせるため麗を連れて近くの公園に入った。
麗はしばらく泣いていた。ようやく麗は落ち着きポツリ、ポツリと留年についての話を始めた。
警官である麗の父親の紫藤議員の汚職の捜査に対しての圧力として、議員の息子であり、僕らの学園の教師である紫藤浩一が麗の成績を改竄し、留年させたのだ。奴らのいた世界での紫藤の振る舞いそして麗にしたことは僕に心の底からの怒りを覚えさせた。
「麗…」
なぐさめの言葉をかけようとした。けれど、僕の頭に前に麗に言われた言葉が響く。
「慰めないでそれだけはイヤ!あなたはいつもそうだから私永に話して…」
僕はキツく唇を噛んだ。あの時の麗はこれからを考え前に進もうとしていた。
今僕の前にいる麗も戦おうとしているのだろう。
前の僕と同じ失敗はしない、麗の心を踏みにじるような真似はしたくはない。
話終えた麗は俯いて黙ってしまった。
僕は麗の肩をそっと抱き寄せ一言だけ
「麗、頑張れ。僕も麗のことを支えるから…」
どれくらい時間がたったのだろう学校を出たのは二時頃だったのに日が傾き始めていた。
春もまだまだ肌寒い。僕はベンチを立ち麗と自分の分のホットココアを自販機で買ってくる。
「飲むか?」
麗は差し出した缶を受け取り、小さな声で
「ありがとう。」
と言った。
また黙りこむ麗、僕はまた失敗してしまったのか?不安がこみあげてくる。
「ねぇ、孝。」
麗の口が開いた。
「話聞いてくれてありがとう。私頑張る。あいつらに負けたくないもん。」
麗の瞳には決意がうかがえた。
「あぁ、僕も応援するよ。」
「うん、すっかり遅くなっちゃった。もう帰らないと。」
「あぁそうだな。また明日。」
「うん、また明日。」
手を振る麗の顔には笑顔が浮かんでいた。
部屋に戻りベッドに横になる。
「麗を元気づけられたよな…」
僕の心には今度は上手くできたと思い安堵が広がる。
なんだかすごく疲れた。もう寝てしまおうか…
目を閉じようとしたら、携帯が鳴り始めた。
メール?誰だ?
携帯を開くそこには
「毒島冴子だ。登録をよろしく頼む。携帯番号は080 **** **** だよ。」
冴子からだった。
「了解です(^^)」
アドレス帳に登録して返信した。しばらくすると冴子から返信が来た。
「ありがとう。父以外で私用でメールをするなんて君が初めてだよ。」
その文面を見て少し嬉しさを感じる。
どう返信しようか考えていると、冴子から電話が来た。
「も、もしもし。どうしたんだ冴子急に電話なんて?」
「いや、メールというのは少々まどろっこしくてな。こうして電話したほうが要件が手短に済むだろう?」
「まぁ、確かにそうですけど…」
「ふふ、男子と電話で話すのも父以外では君が初めてだよ孝。」
嬉しいけれど、返答に困るようなことは言わないでくれ冴子!
「えーっと、そ、その要件というのは?」
「うん、奴らが現れるのがわかっているなら備えだけでもしておいた方がいいと思ってね。」
「備えですか…懐中電灯や非常食とかですか?」
「そうだ、本当は武器などの調達もしたいのだがさすがに厳しいだろうからな。」
「ははは、確かにそうですね。それに周りに危険を伝えるのも難しいでしょうね。」
「世界の終わりを信じろというのはさすがに無理だよ。」
世界の終わりか…それが数日後には再び訪れるはずなんだよな。
「冴子、必ず…必ず生き延びよう。大切仲間たちと共に…」
「うん。そうだね。急な連絡すまなかったな。ではまた明日学校で」
そう言って冴子は携帯を切った。
奴らが現れるんだよな…今の日常は壊れる…
「できることはちゃんとやらないとな…」
大切な人たちを守るために自分の命を守るために
「よし、こんなもんか。」
懐中電灯や非常食を用意していたらなんだかんだで、普段そろそろ寝る時間だった。
風呂に入り、ベッドに入ろうとした時携帯が鳴った。
「誰だよ、こんな夜に…」
携帯を開くと差出人には宮本麗とあった。
「今日はありがとう。孝に話してよかったよ。明日の朝も一緒に学校行こうねo(^▽^)o」
「いいよ。 おやすみ。」
僕は返信し、思わず笑みがこぼれる。
「よし、寝るか。」
僕はベッドに入りゆっくりと眠りに落ちていった。