とある管理外世界で、一人の女性と数名の魔導師達が戦っていた。
いや、戦いといえるものでは無く、女性が一方的に男達をぶちのめしていた。
「弱いな、こちらはまだ剣すら抜いていないのだぞ?」
「このアマ!」
男の一人が斧型のデバイスを振りかざすが、女性に当たらず、逆にカウンターパンチを喰らう。
「ぐはぁ!」
「てめぇ〜、俺達がコーテックス商会傘下のミグラントだと知っての事か!?」
男の一人が叫ぶが、女性は関心無さそうに呟く。
「雑魚に興味はない。大人しく魔力を明け渡せば、これ以上危害は加えないのだが?」
「女一人にここまでやられて黙ってちゃ、ミグラントが廃るってもんだ! 野郎共! やっちまえ!」
リーダーらしき男の号令の元、男達は一斉に女性に襲いかかった。
女性はため息をつきながら、剣に手をかける。
「シュランゲバイゼン!」
女性が手にした剣は連結刃になり、襲いかかって来た男達を一振りで凪ぎ払った。
「さて―――」
「ひっ!」
女性は、一人になったリーダーの男に歩み寄る。
男はあまりにもの恐怖に尻餅をついて動けなくなっていた。
「それでは貴様の魔力を貰うとしよう」
「う、うわぁぁぁぁ!」
男の叫びは空に響いた。
時空管理局本局にあるオフィスで、一人の少年と一人の青年が、お互いに向かい合いながら座っていた。
「それで? 話はなんだ? クロノ執務官殿?」
「単刀直入に言うと、仕事を依頼したい」
クロノがそう言うと、幾つかの資料を渡す。
資料の内容は、ミグラントや管理局、一般魔導師、果てには魔力を持っている原生生物までもが、襲われ魔力を抜かれている状態で発見されていた事が書かれていた。
「こいつは・・・・・例の通り魔って奴か」
「知っているのかレイヴン? 管理局はまだこの事件を公表していない筈だが・・・・・」
レイヴンは資料をクロノに返しながら話した。
「コーテックス商会から伝達が有ったんだ。襲撃した奴等を始末または生け捕りにしろって――――」
「待て、コーテックス商会ってなんだ?」
「おや、執務官にしては勉強不足だな。少しはミグラントについて勉強した方が良いぞ?」
レイヴンは皮肉な笑みを浮かべ、クロノに言った。
クロノは少しムッとしたが、少しでも情報が欲しかった為、レイヴンに教えて貰う事にした。
「それなら、教えてくれないか? ミグラントの事やコーテックス商会について」
「やれやれ、特別に授業料はタダにしてやる。いいか、コーテックス商会っていうのはだな――――」
コーテックス商会、管理局が管理しているミグラント以外、様々なはぐれミグラントチームをまとめている組織である。
主だった活動は、盗品や各種物資の売買、それと仲介の役割を受け持っている。
その力は絶大で、コーテックス商会に逆らうミグラントチームは壊滅すると言われている程である。
「おい盗品って、思いっきり犯罪組織じゃないか!?」
「確かに犯罪組織だが、他の犯罪組織とはわけが違う」
「例えば?」
レイヴンは人差し指を立たせながら解説を始めた。
「先ずは組織力。あの荒くれもの束ねているんだ。普通の組織なら、あっという間に内部崩壊するだろう」
「なるほど」
「次に情報網、管理局が入手しづらい管理外世界の情報も、あそこでなら簡単に入手出来る。おかげで、ロストロギア回収率は圧倒的に高い」
「し、仕方がないだろう! こちらは許可が降りない限り、管理外世界に干渉出来ないんだ!」
「だからだよ。はぐれミグラントなら、そんなのお構い無しにロストロギアを回収できるからな。最後に戦力だ。総合的に見て、コーテックス商会の方が上だろうな」
「根拠は?」
「管理局は戦力をあちらこちらにばら蒔きし過ぎている上に、有事の際でも集まりづらいだろう? 逆にコーテックス商会は、召集を掛ければ、瞬く間にはぐれミグラント達が集まる。しかも、かなりの質量兵器や兵器用ロストロギアを保有している。ぶつかり合えば十中八九コーテックス商会が勝つだろうが・・・・・奴等はそんな事をしない。何故だか分かるか?」
「そんなの分かりきっている。管理局が無くなれば、次元世界の秩序が無くなるからだ」
時空管理局に対して反感を持つ者が多いが、実際この組織が無いと困るのもまた事実でもある。
「そうだ。もしそうなれば、取り引き相手も激減し、コーテックス商会は自然と力を失う。逆にコーテックス商会が無くなれば、はぐれミグラントの大半が好き勝手暴れるだろう。だから管理局も、コーテックス商会の存在を黙認しているんだ」
(―――と言っても、実際はあちらこちらで小競り合いが起きているんだがな・・・)
管理局の中には潔癖症な人間もおり、そう言った輩が許せないと、強引に取り締まろうとするしたり。逆にコーテックス傘下のミグラントは大半が管理局を嫌っており、密かに戦闘行為を行っているのだ。
「・・・・・・・・・・」
レイヴンの言葉に、クロノは黙ってしまった。
管理局自体が黙認している犯罪組織がいる事に、ショックを受けていた。
「そんな落ち込むなクロノ。秩序ってのは、表と裏があって始めて保たれる物なんだ。綺麗ごとでは世界は救えない。逆もまた然り」
「・・・・・別に、落ち込んでなんかいない。少し驚いただけだ」
「そうか・・・・・さて授業を続けるぞ」
「まだ続くのか!?」
「あと少しで終わる。さて、コーテックス商会傘下のミグラントの中には、違反者もいる」
「違反者?」
「ああ、コーテックス商会は基本、無益な殺生は許して無い。何故なら、管理局を刺激させる上に、利益が無い。コーテックス商会にはあまりにもメリットは無いからな」
「・・・・・利益があるなら人を殺すのか?」
クロノは睨みつけるが、レイヴンはそんな事お構い無しに、話を続けた。
「それはミグラント次第だ。コーテックス商会はそんな事まで関与しない、ただ売買をしたり、依頼の仲介をするだけだからな。ただし、先程の違反者は別だ。あっという間に懸賞金がつけられ、そのミグラント及びミグラントチームは始末または生け捕りにされるだろう。管理局につき出された違反者もいたな」
レイヴンは懐かしそうに言った。
どうやら過去に、管理局につき出されたミグラントがいたようだ。
「これで授業は御仕舞いだ。仕事の話をしよう・・・・・依頼内容は?」
そう言うと、レイヴンの表情は一際真剣な物になった。
「依頼内容は、この通り魔の確保だ。報酬は五百万で―――」
「他を当たれ」
「おい! 五百万で不服なのか!?」
クロノがそう言うと、レイヴンはやれやれとタメ息をついた。
「大金だよ。普通の仕事ならな・・・・・この通り魔は相当の手練れなんだぞ?」
「そんなのは分かっている。だから君に依頼を頼んでいるんだ」
「分かっていない。コーテックス商会の情報によると、魔導師ランクAAAのミグラントが返り討ちにあったらしい」
「AAAランクが!?」
AAAランクの魔導師は管理局無いでも数%しかいない強者である。それを返り討ちにしたとなると。
「相手はAAAランク以上か、オーバーSに匹敵する実力者って事になる・・・・・」
「そうだ、そのうえ相手は四人。五百万じゃ割りに合わない」
クロノが知っているは、DからAAランクの魔導師がやられているという情報だけだった。
だから相手はせいぜいAAランク以上だと、勘違いしていた。
「・・・・・確かに五百万だと割りに合わない。幾らなら受けれる?」
クロノがそう言うと、レイヴンはニヤリと笑った。
「先ずは、前金として三百万。依頼を終えたら五百万だ。それと、一人捕獲に付き四百万だ」
「ちょっと待て! いくら何でも法外過ぎる!」
クロノのは机を叩きながら叫ぶが、レイヴンは平然としながら こう告げた。
「コーテックス商会の懸賞金は、一人辺り八百万だ。三人全てだと二千四百万にもなる。それなら、それ同等の報酬を要求する」
「くっ、だがそんな金、経費で出せる訳ないだろう!」
クロノがそう言うと、レイヴンは譲歩案を出した。
「それなら、雇われている間だけで良いから、ホワイトグリントの整備の無料提供。それなら、前金を百五十万、依頼終了時に二百万、一人辺りの捕獲に付き百五十万で良いぞ」
「最大八百万か・・・・・ギリギリ出せるが、そんなので良いのか?」
「ああ、俺達ミグラントは大抵が自腹なんだよ。だからデバイスが破損なんかすれば、報酬はマイナスになったりもする」
そう、ミグラントの仕事は補償などない。経費は全て自腹、依頼を達成しても報酬はマイナスになったり、最悪、借金地獄に陥ったりする時もある。
「そうか・・・・・ミグラントも大変なんだな・・・・・」
「分かってくれたのなら結構。この条件を呑むか?」
レイヴンの条件は、クロノにとって好都合だった。
元々、彼のデバイス等の面倒を見る予定だったので、値下げをしてくれたようなものだった。
「その条件で良い」
「そうか、それなら・・・・・なんだこの紙は?」
クロノが一枚の紙をレイヴンに見せた。
何かの契約書のようで、クロノの名前と、その横に空白欄があった。
「一応決まり何でね。ミグラントを雇う時、雇い主と雇うミグラントの署名が必要なんだ」
「面倒だな・・・・・」
そう言いながら、名前を書き、クロノに手渡した。
「これで受理出来る。僕は行くが、何か必要な物はあるか?」
クロノがそう聞くと、レイヴンは少々考えながら、ある物を要求した。
「カートリッジだ。それなりの数を頼む」
「カートリッジを? 君のデバイスはカートリッジシステムが搭載されているのか?」
カートリッジシステム、古代ベルカが開発したシステムである。
魔力が込められた弾丸をロードする事によって、通常より高い威力魔法を放つ事が出来る。
本来アームドデバイスに搭載されている物だが、近年では研究され、他のデバイスにも搭載出来るようになった。
しかし、扱いの難しさと術者とデバイス本体の負担が大きい為、使用者が殆どいないのが現状であった。
「搭載されているが、アレを使う度にデバイスを整備しなくちゃいけないんだ。今回は、整備費用はそちら持ちだから、遠慮なく使わせて貰う」
「もしかして・・・・・最初からそのつもりだったのか?」
「当たり前だろう? そうじゃなかったら、誰が値下げなんかするか」
どうやらクロノが考えていた事を見抜いていたらしく、悪辣な笑みを浮かべていた。
クロノは、少し腹立ったが、貴重な戦力が手に入ったので、よしとした。
「あ、そういえば、一つ頼みがあるんだが・・・・・」
「え!?、まだあるのか!?」
クロノは驚きながらも、レイヴンの頼みを聞くのだった。
それから数日、地球にいる優人達はいつも通りの日常を送っていた。
いつも通りの新聞部メンバーは、揃って帰宅していると、前から一人の少女と子犬がやって来るのが見えた。
「ん? あれって―――」
優人が指をさすと、三人は少女に気づく、少女の髪にはあのリボンが二つ結ばれていた。
「間違いない! フェイトちゃんだ!」
「ち、ちょっと待ちなさいよなのは!」
なのはは、少女がフェイトだと気づいた瞬間に駆け寄った。
他の三人も、なのはの後を追っていった。
「久しぶりなのは。元気だった?」
「うん! 元気だよ! 優くんも、アリサちゃんも、すずかちゃんも元気だよ! フェイトちゃんの方は?」
「うん、母さんも元気だし、リニスも元気だよ。レイヴンは・・・・・少しだらけてたけど、元気だよ」
二人は両手を握り締め合いながら、お互いの近状を話し合った。しばらくすると、他の三人も追いついて来た。
「まったく、一人だけ行かないでよね! 久しぶりフェイト、そっちは元気みたいね」
「うん、まだ色々あるけど、みんな元気だよ」
「あれ? アルフがいないみたいだけど・・・・・」
「本当だ、アルフさんは一緒じゃないの?」
四人は辺りを見回すが、いるのは小さい子犬だけで、アルフの姿を確認する事が出来なかった。
「あたしはここにいるよ」
「アルフさん?」
アルフの声がしたが、肝心な姿は確認出来ずにいた。
四人がキョロキョロする姿を見て、フェイトはクスッと笑った。
「アルフ、そろそろネタバレしよ」
「あいよ、 子犬モード解除!」
すると小さい子犬から、大型犬のアルフの姿になった。
それを見た四人は驚いた。
「え、え〜〜!?」
「ど、どうなってんの!?」
「これも魔法なの? フェイトちゃん?」
「うん、大型だと色々目立つから、子犬の形態になれるようにしたの」
フェイトがそう言うと、アルフは再び子犬の姿に戻った。
「いや〜このフォームになるのに結構苦労したけど、おかげで恐がられずにすむからね」
アルフは尻尾をフリフリ振りながら、嬉しそうに言った。
以前、大型犬の姿をとっているとき、周囲からは畏怖の眼差しを受けていたが、この形態にしたとたんに周囲から、可愛いと言われるようになったらしい。
「ところで、フェイト達はどうして来れたんだ? まだ裁判最中じゃ―――」
「ううん、裁判事態は一ヶ月くらい前に終ったんだ」
「でも、裁判は半年は掛かるってクロノくんが・・・・・」
なのはがそう言うと、フェイトはあるカードを見せる。
そこにはフェイトの顔写真とミッド語が書かれてあった。
何が書かれているのか分からないなのは達だったが、レイジングハートが祝言を述べた
【おめでとうございます。フェイト】
「うん、ありがとうレイジングハート」
「え、レイジングハート、これが何か知っているの?」
【はい、フェイトは見事に嘱託魔導師になられたのです】
嘱託魔導師、管理局の派遣社員のようなものだが、それなりの権限を持つ事が出来るので、筆記、実技、面接などの試験がある。
「試験は大変だったけど、受かったおかげで早く裁判が終ったんだよ」
「もしかして、海鳴市に引っ越して来るの?」
すずかがそう聞くと、フェイトは少し残念そうな表情を浮かべながら答えた。
「残念だけど、違うよ。色々あって、母さんはまだ本局から出れないんだ・・・・・それに、海鳴市には一ヶ月くらいの滞在だから・・・・・」
「そうなんだ・・・・・せっかく会えたのに・・・・・」
なのはが残念そうな表情をしていると、アリサがパンと手を叩きながら話始めた。
「はいそこ、暗くならない。せっかく来たんだから、一緒にいる時くらい楽しみましょう?」
「うん、そうだね。せっかくフェイトちゃんが来てくれたんだから、思い出をいっぱい作ろうね」
それを聞いたなのはとフェイトの表情は明るくなった。
確かにまだ一ヶ月はこうして一緒にいられるのだから、楽しい思い出を残そう。
そう考えると、楽しくなるフェイトだった。
しばらく話した後、これからフェイトを連れて、海鳴市の案内と遊びに行くことになった。
すると、アルフは突然人間形態になった。
「それじゃ、あたしは先に挨拶に行って来るから、フェイトは楽しんで行って」
「あれ? アルフは行かないの? それに挨拶って―――」
「あれ? 話聞いてないのかい? この一ヶ月間は、高町家にホームステイして貰う事になっているんだけど・・・・・」
「お父さん達、一言も話して無かったよ?」
「もしかして、サプライズのつもりで黙ってたんじゃ・・・・・」
高町家とテスタロッサ家は、数ヵ月前に起きたジュエルシード事件を期に、ビデオレター等の交流を続けていた。
今回のホームステイも、前日に士郎達に知らされていたが、なのはと優人を驚かそうと、今まで黙っていた事を、二人はこの後知るのだった。
「もしかして・・・・・余計な事しちゃったかな?」
フェイトは、なのは達に一刻も早く会いたいが為に、高町家には寄らず、四人に会いに来たのだ。
「まぁ、別に良いんじゃない? これでも結構驚いたし」
「そうね、過ぎた事をこだわってもしょうがないわ。それよりも、今から遊びに行くわよ」
「う、うん! それじゃあアルフ、士郎さん達によろしくね」
「あいよ、楽しんで行っておいで」
アルフはフェイトを送り出し、高町家に向かい。
フェイトはなのは達と共に、街へ遊びに行くのであった。
新たなる事件が起きてる事も知らずに――――。