なのは達が襲撃を受けて数週間が過ぎ去っていた。
本局のメンテナンスルームには、プレシア、リニス、マリーの三人はレイジングハートとバルディッシュの強化の仕上げを施していた。
「まったくもう・・・・・貴方がこんな事を提案する子とは思いませんでした」
【すみませんマイスター】
「わかっているなら、こんな無茶な強化プランを提案しないで下さい」
【フェイトの為です。これは絶対に譲れません】
「はぁ、どうしてこんな頑固になってしまったのかしら・・・・・」
リニスはため息をつきながらも、バルディッシュにカートリッジシステムを組み込んでいった。
プレシアとマリーもレイジングハートに組み込んでいる最中である。
「なるべくカートリッジロードの衝撃を穏和するようにしておいたけど、これにも限度があるから、無理はしないで頂戴ね」
「あと、連続ロードもあまりしないように、インテリジェントはアームドより丈夫じゃないからね」
【ありがとうございます二人とも】
「さて、それじゃ二機を持っていきますね」
そう言って、マリーはレイジングハートとバルディッシュを持ってメンテナンスルームを出て行った。
マリーが出て行くのを確認すると、プレシアが口を開いた。
「ところでリニス。貴方は行かなくて良いの?」
「な、なんですか急に?」
「とぼけても無駄よ。顔に書いているわよ」
「うっ・・・・・」
リニスは思わず顔を伏せてしまった。
フェイト達の力になりたい気持ちはあるが、主であるプレシアを置いて行ってしまうのは、使い魔としてどうかと思う気持ちがあった為、彼女はここに留まっていた。するとプレシアは―――。
「行って来なさいリニス」
「プレシア・・・・・ですが・・・・・」
「私なら大丈夫よ。少なくとも本局にいる限り安全よ。それよりも、フェイト達の力になって頂戴」
「プレシア・・・・・わかりました」
そう言って、リニスはマリーの後を追った。
「行ってらっしゃい・・・・・私のもう一人の娘・・・・・」
リニスには聞こえないように、プレシアは呟いた。
夕暮れ時のビルに、シャマルを除く三人のヴォルケンリッターがいた。
「蒐集が少し遅れてしまっているな。ここいらで遅れを取り戻すぞ」
「な、なぁ、もしこの前のアイツみたいになったら・・・・・」
ヴィータが言っているのは、数週間前に蒐集を行い血を吐いた少年の事だった。
優人の安否を知らない彼女達は、彼が生きているかどうかさえ知らなかった。
「それでも、我々はやらなければならない。そうでなければ・・・・・主が死ぬ」
「それは・・・・・そうだけどよ・・・・・」
「ヴィータ。どうしてもと言うなら、私とザフィーラだけで蒐集を行うが?」
「だ、誰がびびっているって! あたしは余裕でやれる!」
そう強がりながら、ヴィータは次元転移をしていった。
するとシグナムが、ザフィーラに頼み事をした。
「ザフィーラ、しばらくヴィータと一緒にいてくれないか?」
「我は構わぬが、ヴィータが嫌がるぞ?」
「構わん。少々効率が落ちるが、今のヴィータはシャマル同様、蒐集を恐れてしまっている」
また、あの少年みたいな事が起こるかも知れない恐怖を感じたシャマルは戦線を離脱し、はやての警護に専念する事になった。
ヴィータも、殺さなければ良いと、今まで軽い気持ちで蒐集を行っていたが、蒐集による殺害があるかも知れないと、少なからず恐怖を抱いていた。
(それでも、私達はやると決めたんだ。例え相手を殺してでも・・・・・)
「シグナム?」
「ん? どうしたザフィーラ?」
「・・・・・いや、何でも無い」
そう言って、ザフィーラはヴィータの後を追って転移した。
シグナムから僅かに感じた殺気に不安を抱いて―――。
アースラでは、なのは達に強化されたレイジングハートとバルディッシュの受け渡しをしていた。
「はい、レイジングハート・エクセリオンとバルディッシュ・アサルト。大切に扱ってね」
「はい! ありがとうございます! マリーさん!」
「リニスもありがとう」
「私としては、カートリッジシステムをあまり使って欲しくは無いんですが・・・・・」
「諦めろリニス。こうなってしまった以上、手遅れだ」
二人が強化された愛機を受け取ったところで、作戦会議を行う事にした。
「彼女達が地球を拠点にしているのはわかったが、何処にいるのかまではまだ判明していない」
「どうするんだい? 地球をしらみ潰しに探すのかい?」
「無人世界じゃないんだから、飛んで探すのは無理だ。それよりも確実な方法があるんだが・・・・・」
そう言うと、レイヴンはリニスの方をじっと見つめた。
「な、なんでしょう?」
「リニス・・・・・少し危険だが、頼めるか?」
レイヴンは、自分が考えた作戦を、その場にいる全員に話した。
「は、はい! 私で良ければ!」
こうして、ヴォルケンリッターを捕まえる作戦が開始されるのだった。
なのは達がアースラでデバイスを受け取っている頃、優人は何時もの日常を送っていた。
闇の書は、一度蒐集した相手は二度と蒐集対象に出来ない性質がある為、優人は襲われないだろうとの判断だった。
もっとも、優人にはそれを知らされておらず、魔術が使えないという理由から今回の戦いに外されてしまったのだ。
放課後、学校が終わり帰ろうとした時、アリサとすずかがやって来た。
「ちょっと優人。なのはとフェイトはどうしたのよ?」
「最近二人が学校に来ていない事?」
「うん。一緒に暮らしている優人くんなら、何か知ってるんじゃないかなって」
優人は本当の事を話すかどうか迷ったが、自分も事態がどうなっているかわからなかったので、知っている事を話した。
「通り魔って・・・・・大丈夫なの!?」
「クロノ達が動いているから、しばらくすれば解決してくれると思う」
「優人くんは手伝わなくて良いの?」
「・・・・・」
「優人くん?」
「今の俺、魔術が使えないんだ。だから、足手まといなんだって」
「え!? それって―――」
「もういいかな? 少し、一人になりたいんだ」
そう言って優人は教室を出ていってしまった。
二人は、それをただ見ているしか出来なかった。
深夜の街に一人の女性が歩いていた。格好からして、大学生だろうか。
彼女が歩いていると、一人の若い男性が声を掛けてきた。
「そこの彼女♪ 今暇かい?」
女性は声を掛けられた事にうろたえながらも、返事をした。
「すみません。ちょっと用事が・・・・・」
「嘘はいけないな〜、さっきからこの辺をぐるぐる回っているじゃん」
「えっと、それは・・・・・」
すると男は、女性の腰に手を掛けた。
「どうせ彼氏に約束をすっぽかされちゃたんでしょ? そんな薄情な男の事なんか忘れて俺と――――」
すると、男の頭に光る球が直撃した。男の言葉と意識が途切れた。
辺りが騒ぎ出す前に、女性は路地裏に隠れ、そして―――。
《ちょっとレイヴン! いくらなんでもやり過ぎです!》
普通の女性服を着たリニスが、レイヴンに念話をした。
彼の作戦はこうだった。
顔が割れていないリニスを使って、ヴォルケンリッターを誘いだすというもの。名付けて――――。
『キャット・フィッシング作戦だ!』
彼のネーミングセンスはともかく、人手が少ない以上、有効な作戦だった。
リニスは、簡易変身魔法で、耳と尻尾を完全に隠し、更に一般人の格好して街を徘徊していたのだった。
《助けてやったのに、そんな言い草は無いだろう?》
《だからって! 一般人の人に向けて狙撃はやり過ぎです!》
《安心しろ、非殺傷設定にしている》
《殺傷設定だったら一大事ですよ!》
リニスは怒鳴りながら、レイヴンに言った。
彼は現在リニスから四km離れたビルの屋上に狙撃形態のホワイトグリントで、リニスの周辺を見張っていたのだ。
さらに、リニスの半径数百メートルには、なのは、フェイト、アルフの三人とアースラ所属の結界魔導師達が配置されていた。
《もう良いです。助けてくれたのは感謝します・・・・・けど、この格好はどうにかなりませんか?》
リニスが今着ている服は、上は白いセーターの上に、白いダウンジャケットを羽織っており、下は短めのスカートに黒いパンストを履いていた。
《? 何が問題なのか?》
《問題っといいますが、落ち着かないんです。いつもの服の方が・・・・・》
《言っておくが、家政婦姿の方がより目立つぞ? それに、俺は結構似合っているとは思うのだ――――》
突然レイヴンとの念話が途切れた。
そして、辺りの風景が変わり、街にはリニスしかいない状態になった。
「どうやら、釣れたようですね」
リニスは急いで路地裏から出ると、周囲を警戒し始めた。
すると、ゴスロリの少女と屈強な男――――ヴィータとザフィーラがやって来た。
「ワリィけど、大人しくしていれば、危害はくわえねぇ」
普段の彼女なら、先日のように気絶とかさせて魔力を奪うのだが、優人の一件以来、あまり相手に危害を加えないようにしていた。
しかし――――。
「かかりましたね!」
リニスがそう言うと同時に、ヴィータ達の結界を覆い被せるように、アースラの結界魔導師達の結界が張られた。
「!? これは!?」
「罠か!」
リニスは直ぐ様服を、家政婦着に変えた。
いい忘れていたが、リニスの家政婦着はバリアジャケットの役割もしている。
「こちらは管理局です! 直ちに武器を捨てて投降して下さい!」
リニスがそう言うが、ヴィータとザフィーラが従う筈も無く、戦闘体勢に入った。
「誰が従うかよ! シュワルベフリーゲン!」
ヴィータの鉄球がリニスに迫る。
リニスは落ち着いた様子で、ステッキ型のストレージデバイスを振るう。
「スピンセイバー!」
リニスが放った魔力刃が鉄球を切り裂く。
次にザフィーラが拳を叩き込もうとすると―――。
「おっと!」
「なに!」
シールドで簡単にいなされてしまい。逆に反撃を受けてしまった。
(コイツ・・・・・強ぇ・・・・・)
ヴィータとザフィーラは冷や汗をかいた。
すると、なのは達が駆けつけて来てくれた。
「リニスさん! 大丈夫ですか!?」
「私なら平気です。それよりも、相手に集中して下さい!」
「よぉーし! この前の借りを返してやる!」
(シグナムがいない・・・・・別行動しているのかな?)
「フェイト」
「うん、わかってるよリニス。今は目の前の敵に集中、でしょ?」
「わかっているなら良いんです。行きますよ皆さん!」
リニスの号令と共に、戦闘が開始された。
一方、結界の外では、クロノ、アップル、レジーナの三名が、先日優人のリンカーコアを奪った伏兵―――シャマルを探していた。
《アップル、レジーナ、見つけたか?》
《いえ、こちらは発見出来ません!》
《あたしもだ。ていうか本当に潜伏してんのか?》
《油断するな。伏兵っていうのは簡単に見つけられる物じゃない。レイヴン、そちらはどうだ?》
《こちらレイヴン。結界の周りにそれらしい人物は見え―――待て》
レイヴンはホワイトグリントのスコープを拡大させる。
すると、シグナムの姿を発見した。
《シグナムの姿を確認。真っ直ぐ結界に向かっているが・・・・・どうする?》
クロノは少し考えた。
迎撃に向かっても良いが、結界外だと取り逃がす恐れがある。しかし、彼女を結界に入れると、中にいるなのは達の負担が増えてしまう。クロノが出した答えは―――。
《僕達は引き続き伏兵の捜索を続ける》
《よろしいんですか執務官?》
《彼女達を信じよう。今は僕達のやれる事をするだけだ》
それを聞いたレイヴンは思わず微笑み、スコープを覗いて伏兵を探し始めた。