僕は奴らが現れるのではと考えるとその日の夜は眠ることなどできなかった。
窓から日差しが差し込む。奴らが現れることなく朝を迎えられたようだ。僕はテレビのスイッチを入れてニュースを確認する。どのニュース番組も奴らに関するようなことは流れていなかった。
「なんで昨日奴らは現れなかったんだろう…」
僕の頭の中でそのことが渦巻く。タイムスリップしたはずなら、間違いなく昨日が奴らが現れ僕たちの世界が壊れ始めた日だったはずだ。しかし、奴らは現れなかった。いったいどういうことだ?全くわからない。もう、奴らは現れないのか?
「とりあえず学校の支度をするか…」
重たい体を引きずって洗面所へと向かった。
「だーかーらなんで昨日授業サボったのよ!理由をいいなさいよ。」
「いや、だからちょっとだるかったんだよ。」
登校している時から教室に着いても麗の尋問が続く。
そういえば昨日メール来てたもんな…奴らのことで頭いっぱいでこっちのことすっかり忘れてた…
「なんなのよ!はっきりしないわね。だいたい孝はそうやって昔から…」
「もう、あんたたち朝っぱらからうるさいわね!」
高城がこちらに歩み寄ってくる。
「そういえば小室あんた昨日授業サボってたわね。それも女の先輩も一緒に!ずいぶんといいご身分ね。」
いきなり爆弾を投下された。
そういえばあの時高城も授業サボってたんだっけ。ということは昨日冴子といるのを全て見られていた…?まずすぎるぞ…
「女の先輩…?」
麗の表情が険しくなる。
「あんたたちが2人で話してるせいで私のサボリ場所取られたのよ!どうしてくれるのよ!」
高城が僕のことを睨んで文句を言ってくる。
この状況はヤバ過ぎる。この2人相手はキツいどうにか切り抜けないと…
僕は近くに座る永に目を向ける。永はニコッと笑顔を見せてから目をそらしやがった。
裏切り者め!
「ねぇ、孝どういうこと…」
麗が僕の目を見て問いかけてくる。
「いや、えっと…」
どうすれば、どうすればいいんだ!
キンコーンカンコーン
窮地に立たされた僕を助けるかのようにチャイムが鳴る。
先生が教室に入ってくる。
「ちっ!」
高城が露骨に舌打ちして自分の席に戻る。怖い…
麗も自分の席に戻っていく。不機嫌なオーラが全開だ…
授業が始まっても僕はこのことと、奴らのことで頭がいっぱいで授業にまったく身が入らなかった。
昼休みになった。いつも永と麗と3人で昼食を食べる。
「麗、昼飯にしよう。」
永が麗のことを誘う。
「ごめん、今日はちょっとパス。2人で食べてくれる。」
やっぱりさっきのことのせいかな…マズいな…
麗が僕の方に歩み寄ってくる。
「ねぇ、孝今日の放課後はもちろん暇よね。」
「あっ、あぁ…」
「なら今日は私部活休みだし2人で帰りましょ。」
「わかった。」
「じゃよろしくね。」
そういって麗は教室を出て行った。
麗は終始笑顔だったがプレッシャーが尋常じゃなかった。
「ま、頑張れよ孝。」
そういって僕の肩を叩く永、僕は今日の放課後どうなってしまうんだ…
ホームルームが終わるとすぐに麗が僕の席にやってくる。
「じゃ孝帰りましょう♪」
そういって僕の手をとる麗。
「ちょ、ちょっとこんな皆いるのに手なんて握るなよ。」
クラスメイトの何人かがおもしろ半分で僕と麗を見ていて正直恥ずかしい。しかし、麗は僕の言うことを無視して手を引っ張ってどんどん歩いていく。
下駄箱で靴を履き替えると今度は腕を組んできた!
「おい、麗どうしたんだよ?」
「なんで別に嫌じゃないでしょ?」
そりゃ嫌じゃないけどさ…むしろ嬉しいくらいさ!
「でも、ほら見てる人とかいるしさ。」
「ふーん一つ先輩の彼女がいるから私にこういうことされると困るってこと?」
「!、か、彼女なんていないよ!冴子_さんとは別にそうゆう関係じゃない。」
「ならいいじゃない。私は別に嫌じゃないし♪」
笑顔を向ける麗その顔には微かに安堵が見られるような…
麗の体が僕の体にくっつく気になる女の子との密着と周りの視線で僕は自分の顔が赤くなっていくのがわかる。
そんな感じで麗といつも違う感じで帰り道を歩いていく。僕の寮まであと少しとなる。
「じゃあ、麗僕の寮もうつくから「私なんかお腹減っちゃたな〜甘いもの食べたいかも。」
「な、なら橋の向こうの喫茶店行くか?」
「うん!私あそこの限定パフェ食べたかっただよな〜」
そう言って意味ありげな顔で僕を見てくる麗。なるほど昨日の一件はこれで手を打ってやるってことかな?こういうことに鈍い僕だがなんとなく感じ取る。
「わかった。僕が奢るよ。」
「やった♪孝ありがと。」
本当は寮暮らしの身としては痛い出費だが喜ぶ麗の顔を見るとそんなことは忘れてしまいそうだ。
「うーんすごくおいしい♪」
僕と麗は以前麗が一週間だけバイトしていたという喫茶店にいた。
「そりゃよかったよ。」
僕も注文したコーヒーを飲む。確かにこの店はなかなか値が張るぶんおいしい。
「仕方ないからこれで昨日のことはチャラにしてあげる。」
やっぱりあのサインはこういう事だったか。
「で、孝は本当に毒島先輩とは付き合ってないのね?」
「あぁ本当だよ。」
「そう。」
まぁ正直なところは冴子のことも気になっているのだが…
パフェを食べ終えた麗と雑談をする。そしたら、麗がいきなりこんなことを言ってきた。
「最近孝なんか変わったよね?」
「そうか?」
「うん、なんか前より頼りになる気がするかな。」
確かに奴らが現れて僕の中で何か変化はあったかもしれたいな。それに、今の僕はあの時のやり直しをしたわけだし…
「ま、相変わらず全然ダメなところもあるけどね。」
皮肉っぽく麗がいう。
「孝は今年も何か部活やらないの?」
「部活か…」
確かに奴らがこのまま現れなければそういう選択肢もあるよな…
「なんか、武術とかやろうかな。」
奴らが現れた時のためにもやっておくと違うだろうな。
「武術かー永もやってるし空手とか?」
「でも永は道場でやってるんだよな…なら剣道とか?」
それを聞いて麗が僕をいぶかしむような目で見てくる。
「確か剣道部の主将って毒島先輩よね?」
「別にそれは関係ないよ。まぁ確かに途中入部だから知り合いがいたほうが都合いいけど。」
「でもなんで急に武術なんて?」
「もし何かが起きたときに麗や大切な人たちを守る力が欲しいと思ったんだ。」
「な、何恥ずかしいこと言ってるのよ!」
顔を真っ赤にする麗。
「僕そんな恥ずかしいこと言ったか?」
「もう、いいわ!そろそろ帰りましょう。」
「あ、あぁそうだな。」
店を出る僕と麗。なんだか麗が嬉しそうだ。
「そっか私のことを守るか…」
麗が小さく何か言ったようだが聞き取れない。
「麗、なんか言ったか?」
「ううん、なんでもない。」
僕と麗は喫茶店をあとにした。
近くまで来たし麗を家まで送っていく。そうしたら麗の母親の宮本貴理子さんに会った。
「おばさんお久しぶりです。」
「あら孝ちゃんじゃないの。」
宮本貴理子 麗の母親で警察官。そして元レディースのヘッドだ。
「お母さんどうしたの?外になんか出て。」
「それがね正ちゃんの仕事で出てるから迎えに行こうと思ったら急に帰れなくなったって連絡が来てね、もう夕飯作ったのに。」
おばさんは僕の顔を見て
「そうだ孝ちゃんも今日一緒に夕飯食べればいいのよ。」
「えぇぇお、お母さんちょっとそれは…」
「なんで別にいいじゃない。」
そして麗の顔を覗き込む。
「ははーん、なるほどねぇ。」
とおばさんは顔をニヤニヤしだした。
「よしじゃあ孝ちゃんも一緒に夕飯決定♪」
こうして僕は宮本家で夕飯をご馳走になった。