キャットフィッシング作戦が失敗して、しばらく経過した。
あれ以降、ヴォルケンリッターの動きが掴め無い状態だった為、なのは達はつかの間の日常を送っていた。
今現在、体育の授業で男女のチームに別れて、ドッチボールをやっているのだ。
「優人! 覚悟しなさい!」
アリサは優人目掛けて勢いよくボールを投げる。
「おっと!」
優人は難なく受け止めた。
「ちょっと! 大人しく当たりなさいよ!」
「残念だけど、勝負は手を抜かない主義なんでねっと!」
そう言いながら優人が放ったボールはアリサの足先に当たり、バウンドして優人に戻っていった。
「ちょ!? それ反則でしょ!」
「戻って来たボールをキャッチしちゃ行けないルールは無い。それ!」
「にゃ!? わたし!?」
優人が次に狙ったのはなのはだった。
魔導師としては優秀な彼女だが、魔法が絡まないと運動音痴の少女でしかない。
なのはは、ボールをかわす事も取る事も出来ず、当たってしまうが、地面に落ちる前にフェイトが拾ってくれたお陰でアウトにはならなかった。
「大丈夫なのは?」
「フェイトちゃん!」
ボールを持ったフェイトは、優人を見据えて。
「優人、覚悟!」
「何かスイッチ入ってない!?」
フェイトが放ったボールは豪速球で優人に向かっていった。
優人は辛うじてかわし、その後外野から放たれたボールをキャッチした。
「もう一度なのはに―――」
「また!?」
「させないよ!」
「―――と、見せかけて!」
優人が放ったボールはカーブし、なのはを庇おうとしたフェイトに当たる。
「しまった!」
「よし! フェイトを打ち取った!」
優人チームは歓声を上げ、フェイトは当たった事にションボリした。
「ゴメンね二人とも・・・・・」
「そんな事ないよ! フェイトちゃんは頑張ったよ!」
「うん、後は私達に任せてね」
男子チームは優人を含めて残り五人。少女チームはなのはとすずかしか残っていなかった。
(すずかを倒せば勝ったも同然!)
優人はすずか目掛けて、変化球で投げた。
しかし、すずかは余裕綽々で受け止めた。
「なっ!?」
「お返しだよ!」
すずかの放ったボールは早く、優人はかわす事も出来ず顔面に直撃してしまい、意識を失ってしまった。
「だ、大丈夫ですか?」
「うん・・・・・何とか・・・・・」
優人の意識は、U-Dのいる空間にあった。
どうやら気絶するか、寝むりにつくと、たまに意識がここに飛ぶ事がある。
理由は未だにわかっていない。
「さて、今日は何を話そうか?」
「そうですね・・・・・サンタさんの話を聞きたいです!」
「わかった。サンタってのは・・・・・」
U-Dと出会う度に、優人は彼女に色んな話を聞かせた。
地球の文化、風習、友人や家族の事。一人ぼっちの彼女の為に、色んな話を聞かせた。
「クリスマスの日に、子供達の為にプレゼントを配るですか・・・・・・・・・・」
「U-Dは、サンタさんに何を頼みたい?」
「私ですか?」
U-Dはうーん、うーんと考えていたが、やがて首を横に振った。
「私はいいですよ・・・・・だって、ここから出られませんし・・・・・」
そう言って、U-Dは俯いてしまった。それを見た優人は――――。
「U-D。願わなければ、どんな願いだって叶わない。必要なのは願いを持つ事だと思う」
「願いを・・・・・持つ?」
「うん、願いの内容は重要じゃ無い。重要なのは、その願いを最後まで持ち続ける事。それさえあれば、どんな願いだって、いつか花を咲かせるよ」
「・・・・・そうですか・・・・・それなら―――」
U-Dは優人に向かって、自分の願いを言った。
「私はここから出たい! 外に出て、優人さんや他の皆と遊びたいです!」
そう叫んだ後、U-Dは魄翼の中に閉じ籠ってしまった。
彼女は、何かと魄翼の中に隠れる事が多い。こうなると、中々出てくれない。
「う〜〜、あんな大声で叫んでしまいました〜〜。恥ずかしいです〜〜〜」
「そんな事ないって」
「本当ですか?」
「うん、ここには俺とU-Dしかいないから大丈夫」
「それでも恥ずかしいですよ〜〜〜」
結局U-Dは、魄翼から出てくれなかった。
学校が終わり、優人は図書館に来ていた。
U-Dに話す事柄を増やす為である。
「うーん、歴史はにしようかな・・・・・それとも・・・・・」
そんな事を考えていると、見知った顔を見つけた。すずかである。
どうやら車椅子の少女と一緒にいるようだ。
「すずか。奇遇だな」
「あ、優人くん。優人くんも図書館に?」
「ああ、知り合いの子が、色々話をしてくれってねだるから、こうして話題集め、そっちは?」
「ちょっと図書館で知り合った子とね、紹介するよ。八神はやてちゃん」
「初めまして、八神はやてや」
「初めまして、俺は衛宮優人。すずかとは友達なんだ」
すずかの話によると、はやては幼い頃から足が不自由で、ずっと車椅子での生活をしているらしい。
「これから家でお茶会やるんやけど、優人くんもどうや?」
「俺は―――」
優人は時計を見る。
そろそろ待ち合わせの時間になる頃だった。
「悪いけど、この後用事があるから、また今度」
「そうなんや・・・・・それならしゃーない」
「また明日学校でね優人くん」
「ああ」
そう言って、優人が図書館から出ていく事を確認すると、それまで隠れていたシャマルが出てきた。
「あ、シャマル。何処に行ってたんや?」
「ちょ、ちょっと気になる本があって」
「どんな本や?」
「うっ・・・・・これです・・・・・」
そのタイトルとは、“月の姫ムーンファンタズム”という魔法少女物の小説だった。
実際は誤魔化す為に、適当に本棚からとった物で、興味なんてこれぽっちも無かったのだが――――。
「・・・・・ま、まぁ、本の趣味は人それぞれや」
「そ、そうだね。魔法少女に憧れる人もいると思いますよ」
(私、こんな趣味はありませーん!)
シャマルは突っ込むの堪えながら、ぎこちない笑顔を作った。
夜の公園、優人は一人ベンチである少女を待っていた。
別に約束をしている訳ではなく、少女が来ないかも知れない。けれども優人は待ち続けた。すると――――。
「オメェも飽きねぇな、あたしが来ないって考えねぇのか?」
「やぁ、ヴィータ」
あの夜以降、優人はここでヴィータを待つようになっていた。
ヴィータはヴィータで、蒐集を終えると必ずこの場所に寄る事にしていた。
「今日はどうだった?」
「あんまり、やっぱ原生生物だけじゃ、はかどんねぇや」
そう言って見せた六つの魔力結晶は、あまり大きな魔力を放っていなかった。
ヴィータの話によると、これ六つで三ページ埋まるかどうからしい。
「蒐集って、意外と大変なんだな・・・・・」
「当たりめぇだ、そんなに簡単に埋まったら苦労しねぇ」
優人は、後どれくらいで完成するのかと尋ねたかったが、それでは探りを入れているみたいで、気が引けた。
「ところで、何であたしの事言わねぇんだ? 言っちまえば、あたし達を簡単に捕まえられるのに?」
「ヴィータだって、俺の事話して無いだろ? お互い様だよ」
「う、うるせぇ! あたしはいいんだよ!」
ヴィータと優人は、この事を誰にも言ってはいなかった。
優人は、ヴィータ達が悪い人とは思えず、蒐集には何か理由があると考え、彼女の力になりたいと思っていた。
ヴィータは、何となく話す気にはならなかった。
こうして二人の密会は、今日まで続いた。
「それよりも、今日は少し遅かったけど、苦戦した?」
「苦戦なんてしてねぇ!・・・・・・・・・・ちょっと手こずっただけだ」
今日の相手は、飛竜が二体同時だったらしく、一対一なら瞬殺出来たとの事。
「飛竜か・・・・・一度見てみたいな」
「辞めとけ、辞めとけ、弱っちいおめえが行ったら瞬く間に食われるぞ」
「それなら、赤い騎士に守って貰うよ」
「―――――っ!? な、何であたしがおめえの事を守らなきゃいけないんだ!」
「え? だって騎士って、弱き者を助け、強き者を挫くってのが、騎士の本分じゃないのか?」
「あたしははや―――や、闇の書の主の守護騎士だ! 普通の騎士じゃねえ!」
「そっか、それならしょうがない」
「・・・・・・・・・・まぁでも・・・・・手が空いたら、守ってやっても良いぞ・・・・・」
ヴィータがそう言って、そっぽを向いた。それを見た優人は微笑んだ。
(やっぱり、悪い子じゃないな)
「今日はもう帰る」
そう言って、ヴィータはベンチから立ち上がり、そのまま公園を出ようとした。
優人はそこでヴィータに向かって―――。
「ヴィータ! またな!」
「お、おう! またな・・・・・」
そう言って、ヴィータは走り出した。
優人も、家に帰る事にした。
家に戻ったヴィータだったが、ドアノブを開いた瞬間異変を感じた。
いつもなら開いている鍵が、今回に限って掛かっていたのだ。
(妙だな? この時間なら誰かがいる筈なのに・・・・・)
不審に思ったヴィータは、はやての警護をしているシャマルに連絡した。
《おいシャマル、家にいねぇみてぇだか、何処にいるんだ?》
しかし、シャマルの声は酷くうろたえていた。
《ヴィータ!? 大変よはやてちゃんが!》
「はやてがどうしたって!?」
《ともかく、急いで病院に来て頂戴!》
どういう事態が起きているのか、ヴィータにはわからなかったが、彼女は急いで病院に向かった。
ある薄暗い部屋に、アルバート・レスターとA・アサシンが、水晶ではやての様子を見ていた。
「アサシン。いよいよ大詰めだ、準備の方は?」
「滞りなく。それよりもマスター、この少年は如何いたします?」
そう言って、水晶に映し出された優人を指をさす。
「管理局に知らせる様子は無い。放って置いても問題は無いだろう。いざとなったら・・・・・」
「承知致しました。それでは――――」
そう言って、A・アサシンは姿を消した。
アルバートは十一年前、エスティアでの出来事を思い出す。
十一年前、アルバートはエスティアの乗員全員に魔術を掛け眠らせた。
その隙に、闇の書の主を介して闇の書にあるプログラムを加えようとした。
しかし、それを阻もうとした局員がいた。
クライド・ハラオウン、彼は魔術に対して抵抗力が僅かにあった。それ故に、アルバート魔術で眠る事はなかった。
両者がぶつかり合った結果、魔力余波で闇の書は暴走し、エスティアは沈む事になった。
乗員は魔術の後遺症で、当時の記憶が曖昧になってしまったのは、アルバートにとって好都合だったが、結局目的は果たせなかった。
(今度こそ手に入れるぞ・・・・・私が作った制御プログラム、ディザスターで―――)
アルバートは、水晶を握り砕いた。
闇の書の完成まで、後80ぺージ。