はやてが病院に担ぎ込まれてから、ヴォルケンリッター達は担当医から話を聞いていた。
「麻痺が思った以上に進行しています。このまま行けば、一ヶ月には心臓まで進行します」
「そんな・・・・・」
「何とか! 何とかならねぇのか!?」
「我々も色々手を尽くします。だから、希望は捨てないで下さい」
担当医から話を聞き終わったヴォルケンリッター達は、病院を出た。
「急がねぇとはやてが!」
「そうだな、最早手段を選んでいる時間は無い」
「魔力を持ったものを片っ端から蒐集するのね・・・・・」
「多少危険だが、やむおえん。このままペースでは間に合わん」
「どっちだって良い! はやてを救うんだ!」
ヴォルケンリッターは、闇の書を完成させるため、次元転移をした。
すべては、はやてを救うため、彼女達は阿修羅となった。
傷が癒えたクロノは、自分の部屋で、最近目撃情報が増えているヴォルケンリッター達の情報を整理していた。
今週だけで、三十件の目撃と襲撃があった。
魔力を持った原生生物や管理局員、更にはミグラントも次々と襲っていた。
(今までの彼女達とは違う・・・・・何かあったのか?)
彼女達の行動に疑問があったが、問題はそこではなかった。
(派手に動き過ぎる・・・・・このままじゃ・・・・・)
フライトナーズが動き出すかも知れないし、コーテックス商会が本腰を入れるかも知れない。
どちらにしても、ただではすまない。
(出来れば、そうなる前に確保したいが・・・・・)
そう考えていると、ミグラントのコミュニティーで、情報収集をしていたレイヴンから通信が入った。
《クロノ、不味いぞ》
「どうした?」
《コーテックス商会が、ヴォルケンリッターの賞金を上げた。額は一人辺り三千万だ》
「三千万だって!?」
《これ程の懸賞金を出すって事は、奴ら本気でヴォルケンリッターを潰すつもりだ》
「彼女達の居場所は!?」
《わからない。情報料もはね上がっていて、弱小や貧乏ミグラントじゃ買えん程だ》
「わかった。金なら何とかするから、どうにか情報を手に入れてくれ」
《了解、後で泣きつくなよ》
そう言ってレイヴンは通信を切った。
クロノも、管理局からの新情報が無いか調べ始めた。
とある管理外世界では、ヴィータが原生生物と戦っていた。
「ギカントシュラーク!」
ヴィータの一撃が、原生生物を打ちのめす。
動かなくなったのを確認すると、彼女は魔力を取り出すが――――。
「こんなんじゃ全然足りねぇよ!」
取り出した魔力結晶は、半ページも満たなかった。
(くそっ! このままじゃはやてが――――)
そう考えていると、突如魔力弾がヴィータに迫る。
「!?」
ヴィータはグラーフアイゼンでそれを弾き、周囲を見回す。
そこには二十人近くのミグラントが取り囲んでいた。
「見つけたぜ、賞金首!」
「何なんだテメーらは!」
「俺達はコーテックス商会傘下のミグラントだ! 知らないだろうが、お前に懸賞金が掛かっている」
そう言って、男が見せた手配書の額は何と、三千万を超えていた。
「お前達全員捕まえりゃ、一億は軽く超える。だから大人しく―――」
リーダー核の男が手を降り下ろす。
「捕まりな!」
それを合図に、ミグラント達は一斉にヴィータに襲い掛かった。
「やれるもんなら・・・・・やってみな!」
ヴィータは受けて立つと言わんばかりに、真正面からミグラント達とぶつかり合った。
ヴィータが来なくなってからも、優人は毎日のように公園で待ち続けた。
もしかしたら、もう来ないかも知れない。それでも優人は待ち続けた。
すると、目の前に魔力反応を感知する。
(これは・・・・・転移魔法?)
すると現れたのは、ボロボロになったヴィータだった。
「ヴィータ!」
優人は急いで駆けつけた。
傷を見ると、切り傷や火傷、それに銃創まであった。
五体満足であるのが不思議であるくらい、傷ついていた。
「急いで病院に――――」
病院に連絡しようとすると、気がついたヴィータに止められた。
「余計な事・・・・・すんじゃねぇ・・・・・」
「でも・・・・・」
「あたしなら・・・・・大丈夫だ・・・・・」
そう言って立ち上がり、また何処かに行こうとするが、フラフラとしていた。
優人は、ヴィータの手を掴む。
「そんな体で何処に行くんだ?」
「オメェには・・・・・関係ねぇ・・・・・」
優人の手を振りほどこうとするが、ヴィータの力は、彼の手を振りほどけない程弱っていた。
「関係ある。このままじゃ、君が死んでしまう」
「だったら・・・・・どうすりゃいいんだよ!」
ヴィータは泣きながら叫んだ。
「このままじゃ、はやては一ヶ月後には死んじまう! それなのに、完成まで何十ページもあるんだよ!」
「・・・・・・・・・・」
優人の胸を弱々しく何度も何度も叩きながら、ヴィータはこれまでの不安と弱音を吐いた。
「はやてが・・・・・はやてが死んじゃうなんて・・・・・あたし嫌だよ!」
やがて叩くの止め、優人の胸ですすり泣きを始めた。
(そうか・・・・・この人達は大切な人の為に―――)
優人は、彼女達が蒐集を理由を、おぼろげながら理解した。
大切な人を助けたい一心で、闇の書の完成を願ったのだろう。
(それなら、やる事は一つだ)
優人は、ヴィータの肩に手をやると、治癒魔術を使った。
「recover」
するとヴィータは光に包まれ、傷だらけの体が瞬く間に治っていった。
「!? 傷が―――」
「ヴィータ、俺を君の主に会わせてくれないか?」
「えっ―――?」
「俺のrecoverは、対象の傷や麻痺や呪い等を治す事が出来る。病は無理だけど、免疫力を強化する事によって病気だって治せるかも知れない」
「・・・・・」
ヴィータは考えた。
優人をはやてに会わせる事は、シグナム達を裏切るも同然。しかし、優人の治癒能力はシャマルを軽く凌駕していた。
通常の魔法による治癒は、生きている細胞組織しか治癒、回復出来ない。切断や壊死、火傷を治すには、それを補う物が必要になる。しかし優人は、それを使わずに、ヴィータの体を直したのだ。
(もしかしたら・・・・・コイツならはやてを―――)
ヴィータは一大決心をした。
「なあ! はやてを助ける事が出来るだよな!?」
「治す事に関しては、自信がある」
「わかった。全部話す」
ヴィータは闇の書の事や、自分達ヴォルケンリッターの事、はやての麻痺が進行している事を全て話した。
「なるほど、だから君達ははやてって子の麻痺を治す為に、闇の書を完成させようとしたのか・・・・・」
「ああ、はやての麻痺は、闇の書が未完成のせいだ。だから、完成させちまえば麻痺が治る筈なんだ」
「・・・・・・・・・・」
優人はある疑問を感じた。
闇の書が何故蒐集を行わなかっただけで、持ち主であるはやての命を蝕むのだろうか、まるでそれでは――――。
(何かが、はやての命を貪っているみたいだ・・・・・)
「なぁ・・・・・やっぱ無理なのか?」
ヴィータは不安そうに言った。
優人が黙っている事に、不安を感じさせてしまったのだろう。
優人はそんな彼女を安心させようと、笑顔で答えた。
「あ、違う違う、少し考え事をしてただけ」
「本当か?」
「うん、麻痺なら治せるかも知れない。今日は面会時間は終わっているから、明日にしよう。明日なら学校も休みだし」
「わかった、明日だな。待ち合わせはここでいいんだな?」
「ああ、それでいい」
二人は、明日はやての病院に行く事を約束し、帰る事にした。
最後にヴィータが―――。
「また明日な!・・・・・ユウ!」
そう言って、ヴィータは照れくさそうに走り出した。
「また明日、ヴィータ」
聞こえるかどうかはわからなかったが、優人は返事をして、明日に備えるのだった。
ヴィータは未だに街を走り続けていた。
先程のやり取りの恥ずかしさと、はやてが助かるかも知れない嬉しさがあった為である。
(これで、これではやてが――――)
「ヴィータ」
その声を聞いて、ヴィータの心臓ドクンと跳ね上がった。
後ろを振り返ると、そこにはヴォルケンリッターの三人がいた。
(まさか・・・・・バレた?)
ヴィータの鼓動がドクドク早くなる。
シグナムが口を開き―――。
「敵に囲まれたと聞いたが・・・・・無事なようだな」
「お、おうよ! あんな雑魚、何人いようがあたしの敵じゃねぇ!」
どうやら気づかれていないようだった。その事にヴィータは安堵した。
「それで蒐集結果は?」
「ほらこれだ。雑魚だったけど、数が多かったから結構集まった」
そう言って、内心複雑な思いをしながら、集めた魔力結晶をシャマルに渡した。
シャマルが闇の書に蒐集している間。ヴィータはシグナムにこう言った。
「なぁシグナム。あたし少し疲れちまったから、しばらく休む」
「・・・・・・・・・・ああ、そうだな。ヴィータは少し張り切り過ぎている。たまには休みは必要だろう」
「ああ、そんじゃ後は頼んだ」
仲間に嘘をつく罪悪感に苛まれながら、ヴィータは家路につくのだった。
一方シグナム達は――――。
「シャマル、しばらくヴィータを監視してくれ」
「シグナムも思った?」
「ああ、普段のアイツなら、主が死にそうなのに休む何て事はまず言わん」
「そうね・・・・・あまりやりたく無いけど、もしもの事があるかも知れないわ・・・・・」
「頼む。行くぞザフィーラ、ヴィータのおかげで完成まで44ページ。この調子なら、今月中に完成するだろう」
「心得た」
シグナムとザフィーラ、シャマルはそれぞれ歩き出した。
闇の書の完成まで後44ページ。