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呪術廻戦if〜“死”が視える少女〜 第二話:神守珠護
作者:亀鳥虎龍   2024/05/23(木) 15:24公開   ID:5OJ6yzoy51A
 4月の上旬。

とある麓にある公舎。

呪術師を育成する教育機関、東京都立呪術高等専門学校。

巫詩姫は今日、この学校の生徒になった。

「ようこそ、呪術高専へ」

不敵な笑みを浮かべながら、五条は彼女を歓迎する。

「ここが、私のスタート地点……」

改めて決意を固め、詩姫は門を潜ったのである。

その頃、同時刻の京都にて、

「ここが俺の…スタート地点」

一人の少年が、一軒の門を潜ろうとしていた。









―第二話:神守珠護―









 時は遡って1月の中旬。

少年――神守かみもり珠護たまごが、街中を歩いていた。

子の頃の彼は、自身の進路に悩む中学生。

しかし自身には、別の悩みがあった。

「(さっきから鬱陶しいな……)」

背後から自身の後を追っている存在。

外見は人間に近いが、姿は異形。

珠護がこの体質を持ったのは、物心が着いた時からだ。

幼少の頃は、幻覚を見ていると錯覚していた。

しかし成長するにつれ、姿形がはっきり見えるようになったのだ。

それでも幻覚ではないかと考え、精神科に診て貰った事もある。

医者からは、受験を間近に控えたストレスが原因ではないかと言われた。

「マジでどうなってんだよ?」

深くため息を吐き、そのまま自宅へと向かうのだった。










 自宅に着いた珠護は、玄関の扉に手を伸ばす。

ゆっくりと扉を開けた瞬間、何かの臭いが鼻腔に伝わる。

「!?」

それは血の臭いで、家全体に充満していたのだ。

思わず中へ入ると、両親の無事を確認に向かう。

「父さん! 母さん!」

茶の間に向かったが、珠護は思いもよらない光景に驚く。

それは、血の海に沈んでいた両親の姿。

「何だ、子供がいたんか?」

そして、日本刀を持った男が立っていた。

全身黒の着流しで、長い黒髪を結んでいる。

更に刀には、奇妙な何かを感じた。

「う…あ……」

恐怖で声が出ない珠護。

「まあ、ええわ。 悪く思わんでな。 こっちも仕事やから」

そう言って男は、彼に向けて刃を振るった。

バサリと体を裂かれ、その場で倒れたのだ。









 珠護が目を覚ますと、そこは病院であった。

「え?」

唖然とした彼であるが、突然ノックが聞こえた。

「入るわよ」

扉が開くと、一人の女性が入って来た。

巫女を思わせるような和装で、顔の右側には大きな傷。

だが長い黒髪が、その容姿を艶やかにさせる。

「私は呪術高専京都校のいおり歌姫うたひめよ」

「あ、神守珠護です」

この女性――庵歌姫を目にした珠護は、彼女の佇まいに惹かれてしまう。

「早速だけど、良いかしら?」

「な、何ですか?」

「単刀直入に言うわ。 アナタのご両親は亡くなったわ。 救急車が到着する前から、既に死亡だったそうよ」

「………そう、ですか」

歌姫の口にした内容に、珠護は何処か冷静だった。

家の中に充満した血の臭い、血の海に沈んだ両親の姿。

どう見ても助からないと思ったからだ。

「それともう一つ……ご両親を殺した人物は、今も逃走中。 警察も追ってるそうよ」

「………」

両親の死を受け入れられず、顔を俯かせる珠護。

そんな彼に、歌姫はこんな提案をした。

「ねえ、ウチの学校に来ない?」

「え?」

「アナタには、術師になれる素質があるわ」

「術師?」

「京都府立呪術高等専門学校。 呪術……つまり『呪い』を学ぶ学校よ。 是非、キミに来て欲しいの」

「なぜ……?」

首を傾ける珠護に対し、歌姫は怪訝な顔で呟く。

「実を言うと、ご両親を殺した犯人は、恐らくだけど呪詛師の可能性があるわ」

「呪阻師?」

「呪術で殺し屋紛いの生業を行ってる連中の類よ。 医者をやってる知り合いからの報告で、ご両親の遺体から、僅かな呪力の痕跡があったそうなの」

「……一つ、聞いていいですか?」

「……何?」

犯人の詳細を聞いた珠護は、歌姫に尋ねたのである。

「今の俺の強さで、そいつに勝てる見込みは?」

「はっきり言うわ。 見込みは0ゼロ。 今のアナタじゃ、返り討ちが関の山よ」

「………そっか」

当然の事だと分かっていたが、それでも悔しさだけが募った。

「…強くなりたい」

涙が出るほど悔しさと、己の弱さに対する苛立ち。

そんな中で呟いた言葉。

同時に、彼は決意を固めた。

「お願いします。 俺を、呪術高専に入れて下さい。 俺は強くなりたい。 自分と同じ悲劇を出さないために、強くなりたいです!」

迷いのない曇りない目。

コレを目にした歌姫は、優しく微笑みながら答える。

「分かったわ。 それじゃ退院後、準備をして頂戴ね」

「はい」

こうして歌姫は、病室を後にしたのだった。









 退院から少し経ち、4月上旬。

不動産を勤める親戚に依頼し、珠護は実家の土地を売却。

諸々の手続きを終え、必要な荷物を手に持つ。

「さて、行くか」

外へ出ると、歌姫が門の前に立っていた。

彼女の方へ歩み寄り、廻は深く頭を下げる。

「これから、お世話になります」

「ええ、こちらこそ」

そして車に乗り、二人は呪術高専へと向かったのであった。








 そして現在、珠護は学長室に案内される。

「学長、失礼します」

歌姫と共に入ると、ソファーには一人の老翁ろうおうが腰掛けていた。

和装姿で杖を携え、鼻や口にはピアスが着けられている。

「お主が件のわっぱか。 さあ、座るがいい」

「(何か…パンクな人だな……)」

そう思いながら、珠護はソファーに腰掛ける。

「学長の楽厳寺じゃ」

「神守珠護です」

学長の楽厳寺がくがんじ嘉伸よしのぶは一息入れると、ゆっくりと口を開く。

「ではまず、一つ問う。 お主は何のために、呪術を学びに来た」

この質問に対し、珠護は迷わず答えた。

「最初は、両親を殺した犯人を捜すための“復讐心”からでした。 でも、自分の中でこんな疑問がありました。 「本当にそれでいいのか?」、「復讐して誰が喜ぶのか?」と」

「ふむ……」

「考えて、悩んで、迷って……ようやく見つけたんです。 犯人は捜す。 でも復讐の為じゃない。 自分と同じ悲劇を生み出させない。 だから、ここに来たんです」

言葉に嘘はなく、楽厳寺もそれに納得する。

「久方ぶりに、真っ直ぐな若者に出会えた。 改めて、我が校に来てくれたな」

こうして神守珠護は、呪術高専京都校に入学したのだった。









 歌姫に寮の中を案内された珠護であったが、そこである人物と遭遇する。

「あら、東堂」

「ん、歌姫先生か」

がっちりした体躯で、顔に傷がある巨漢だ。

動物に例えるなら、ゴリラと言っても良い。

「初めて見る顔だな?」

「今日からここの生徒になる神守珠護よ。 神守、彼は東堂とうどうあおい。 ここの3年よ」

「神守珠護です」

「東堂葵だ。 ところで神守よ。 お前に一つ問おう」

「なんですか?」

すると彼――東堂葵は、こんな質問をしたのだ。

「お前は……どんな女が好みだ?」

「……はい?」

「因みに俺は身長タッパケツのデカイ女が好みだ」

首を傾げる珠護とは対照的に、歌姫は「またか…」という顔になる。

実はこの東堂、初対面の相手(主に男性)から“好みの性癖タイプ”を聞きだすという、あまりにも変わった質問をする癖があるのだ。

「え〜と……それって、意味があるんですか?」

「なに、ちょっとした品定めだ。 言ってみろ」

「そうだな……強いて言うなら……」

「(え? 答えるの!?)」

この問いに答えようとする珠護に、歌姫も流石に内心で驚く。

「年上で……身長タッパと包容力が高い女性ですかね」

「っ!!?」

それを聞いた瞬間、東堂の脳裏に……『存在しない記憶』が流れ込んだ。









 同じ中学に通う、学年を越えた親友。

互いに『背の高い女性が好み』という共通点だけで、意気投合した珠護と東堂。

そんな中、東堂はある決断を決めた。

「神守、俺は……高田ちゃんをデートに誘おう思う」

「マジでか!? 止めとけって! 先輩を慰めんの、めっちゃ面倒なんですよ!」

「いや何で振られるの前提なんだ?」

「え、ホントにやるの?」

「ああ。 放課後、誘ってみるよ」

こうして東堂は放課後、片思いの女子――高田ちゃんこと『高田たかだ延子のぶこ』をデートに誘いに向かった。

だが数分後、「予定があるから」という名目で断られた。

「うう〜……」

項垂れる東堂に、珠護はため息をしながら呆れた。

「だから言ったのに……。 諦めない姿勢は立派だけど」

それでも彼は、東堂の方に優しく手を置き、

「ま、元気出せよ。 たい焼きくらいは奢ってやるぜ」

一緒にたい焼き屋へと向かったのだった。









「ふっ…地元じゃ負け知らずか……」

「へ?」

『存在しない記憶』から現実に戻り、東堂は涙と鼻水を流しながら呟く。

「どうやら俺達は、“親友”のようだ」

「質問に答えただけなのに!? それに初対面ですよね!?」

流石に珠護もツッコミを入れてしまい、歌姫も苦笑してしまうのだった。

後に珠護は、東堂から『珠護ブラザー』と呼ばれる羽目になるのは、少し後の話し。

こうして、神守珠護の新たな生活が始まったのである。


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