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呪術廻戦if〜“死”が視える少女〜 第一話:巫詩姫
作者:亀鳥虎龍   2024/05/16(木) 21:24公開   ID:5OJ6yzoy51A
 突然の事であった。

横断歩道を歩いていた時だ。

「え?」

車に轢かれそうになった少年を、身を挺して護ったのである。

ガシャァーン!という轟音と共に、“彼女”は吹き飛ばされしまった。

所謂、交通事故だ。

原因は飲酒運転で、運転手の過剰なアルコール摂取である。

救急車に運ばれ、“彼女”は緊急搬送された。

だが、本人は知らなかった。

この事故が、自身の人生を大きく帰る事を――。










―第一話:巫詩姫―









 かんなぎ詩姫しきが目を覚ますと、そこは病院であった。

上半身を起こすと、窓に映った自身の姿を見ると、

「(あ…包帯?)」

顔の右側に、包帯が巻かれていた。

中学三年生の彼女は、自身に起こった事を整理する。

暦は2017年の12月中旬。

「(確かあの時……)」

学校からの帰りであった。

偶然横断歩道を渡ろうとした少年が、乗用車にぶつかりそうになったのだ。

信号は、歩道側が青。

明らかに車側が無視をしている。

コレを見た詩姫は駆け寄り、少年を守るように体を覆った。

そして次の瞬間、少年を守ったまま、彼女は撥ねられてしまう。

事故の原因は酒気帯び運転で、運転手も搭乗前に、居酒屋でジョッキ5杯分のビールを飲んでいた事が判明された。

コレが決め手となって、運転手は道路交通法違反で逮捕された。

「(そうだ……私、はねられたんだっけ……。 あの子…大丈夫かな?)」

頭の中を整理した詩姫であったが、同時に自身が助けた少年の顔を思い出す。

彼は無事だったのかと――。









 少しした後、医者が訪問する。

精密な検査を受け、彼女は顔に巻かれた包帯を解く。

鏡を見ると、彼女は目を大きく見開いてしまう。

顔の右側には、額から右目の下にかけて、大きな傷跡が残ってしまったからだ。

声は出なかったが、内心では驚愕を隠せない。

「………」

沈黙するだけの詩姫であったが、同時に気付いてしまう。

「(……なに、コレ?)」

それは奇妙な“線”が、右目の視界に広がっていたのだ。

この“線”に違和感を持つ詩姫であったが、彼女に更なる追い撃ちが襲いかかった。

「実は……言いにくい事なのですが……」

医者の口から出た言葉に、彼女は更に驚愕してしてしまう。

「え……」

それは母親が、見舞いに向かう途中で事故に遭ったのだ。

原因は、運転手の脇見運転。

運転中に電話に出てしまい、そのまま信号無視を行ってしまったのだ。

小学5年の時に父親を亡くし、母子家庭で育った詩姫にとって、この話しはガラスが割れるような衝撃だった。

この瞬間、巫詩姫の心は、完全に壊れてしまった。











 顔に傷を負い、母を失った詩姫。

退院できたとしても、顔の傷で周囲から白い目で見られる。

学校に来れたとしても、イジメの対象になるかもしれない。

そんな気持ちが、彼女の心を締め詰める。

だが、そんな時だった。

扉をノックする音が聞こえ、詩姫は「どうぞ」と答える。

「お邪魔しま〜す」

呑気な声と共に扉を開けたのは、実に奇妙な男であった。

全身黒い服で白い髪、両目を黒い眼隠しで覆っている。

見た目からして約20代であるが、彼は詩姫の方へと歩み寄った。

「巫詩姫さんだね?」

「はい……アナタは?」

この問いに対し、男は楽しそうに答える。

「僕は五条ごじょうさとる。 キミに話しがあって来たんだ」

「?」

首を傾げる詩姫であるが、男――五条悟はこう言った。

「実は僕、キミのお母さんとは知り合いなんだ」

「え?」

とんでもない事を言った五条であったが、彼は普通に話しを進める。

「実はお母さんの家系の“巫家”は、先祖代々から伝わる退魔師の家系なんだ」

「え、初耳です」

「あ、やっぱり?」

「私が聞いてるのは、母の実家は名家と言う事と、四人姉妹の末っ子で、一番上の伯母が家を継いだ後、母は家を出たと……」

「うん、そうだよ。 ただ、その少しした後に問題が起こったんだ」

「問題?」

「三人の伯母達の家族が、家の家督争いを勃発しちゃったんだよね♪」

「………………はい?」

笑いながら、サラッととんでもない発言を放った五条。

流石の詩姫も、困惑を隠しきれないでいる。

「元々巫家は、最初に生まれた女性――つまり『長女』が家督を継ぐという仕来たりがある」

「え〜と……それで?」

「伯母夫婦も三組とも、長女が生まれたんだよね」

「……ん?」

「そしたら、三人は一斉に「自分の娘が家督に相応しい!」って言い争ったんだよね」

「……母からは、何も聞いてなんですけど…」

「うん。 キミのお母さん――沙良さらさんは家督とか、後継ぎの話しに興味なかったから」

「(昔からサバサバした性格のは知ってたけど、とんでもない家柄の人だったんだ)」

今まで明かされなかった母親の素性を知り、詩姫は思わず呆れてしまう。

「実は一度だけ実家から電話があったらしいんだけど、「自分は子供を後継ぎにする気はないから除外して構わない」とか言ってたよ」

「(そういえば……母の実家には一度も行った事はなかったな。 逆に父の実家には、何度か行った事があるけど)」

幼き日の記憶を辿りながら、詩姫はそんな事を内心で呟く。

「それで、五条さんは私に何か?」

「実はキミのお母さんから「自分に何かあったら、娘をお願いしたい」って頼まれてね、キミを僕が勤めている学校に入学させたいと思ってる」

「え?」

「進路希望、まだでしょ?」

「ええ…まあ……」

「勿論、キミにその気があるならの話しだけど」

不敵に笑みを浮かべるが、詩姫は少し考えていた後、

「お願いします」

すぐさま返答したのである。

「それじゃ、来年の三月末までに準備をしてね」

「あの、その学校って、名前はなんて言うんですか?」

校名を尋ねられ、五条はすぐに答えた。

「東京都立呪術高等専門学校……だよ♪」

それだけ言い残し、彼は病室を出たのである。








 病院を出た五条は、一台の車に乗り込む。

「お疲れ様です」

運転席には、眼鏡をかけたスーツ姿の男が座っていた。

「どうでしたか?」

眼鏡の男――伊地知いじち潔高きよたかが尋ねると、五条もすぐに答える。

「医者の話しじゃ、3日後には退院できるそうだよ」

「そうですか。 しかし、驚きました」

「何が?」

「例の巫家の少女と、七海さんの任務先が同じ病院だなんて」

「そうだね。 今回の任務は、七海に頼んで、僕も同行するよ」

「それで、どうするんですか?」

「夜まで待つよ。 それまで、何処かで時間潰しとこ」

「分かりました」

そんな会話をしながら、二人が乗った車は、駐車場を後にした。









 その夜。

寝付けなかった詩姫は、五条が訪ねてきた事を思い出す。

「勢いよく言っちゃったけど、大丈夫なのかな?」

そんな事を考えながえていたのだが、ある事に気付いた。

「!?」

それは僅かながら、鳴き声が聞こえたのである。

「(誰かいるの? でも――)」

因みに詩姫の病室は、二階にある個室であるため、彼女以外の患者はいない。

ベッドから降り、声が聞こえた方角へと足を運ぶ。

「確か、廊下の方だったよね」

ゆっくりと扉を開け、廊下へと出る。

「気のせい…だよね?」

そう思っていたのだが、まさにその時である。

ゴシャァァァン!という音が、どこかで聞こえたのである。

「何!?」

驚いた詩姫は、音が聞こえた方角へと駆けだす。

「(確か、一階の方だったはず!)」

階段を降りた詩姫は、驚きを隠せないでいる。

「何、アレ?」

一階のロビーに向かうと、そこには血塗れの看護師と、

「キヒヒヒヒヒヒ……」

大きなトカゲの様な異形の存在だった。

明らかにこの世の生物ではない。

そう直感した詩姫であったが、同時に看護師の方へと視線を向ける。

「(まだ息がある!)」

ゆっくりと足を運ぶ詩姫だったが、異形は視線を彼女に向けると、

「キシャァァァァァァ!」

彼女へと襲いかかったのだった。








 駐車場に車を止め、車内からスーツ姿に髪が七三分けの男が降りて来る。

「すみません、七海さん。 無理な頼みを引き受けて貰って」

「いえ、構いませんよ」

七三分けの男――七海ななみ健人けんとは、自身に謝罪をする伊地知を宥める。

「とりあえず。 その少女の無事と、患者や医師達の安否確認。 そして呪霊の討伐……それで良いですね?」

「うん、任せたよ♪」

後から降りた五条は、七海からの確認に首を縦に振る。

しかし、その時だった。

ゴシャァァァァン!という轟音が、入り口から聞こえたのである。

「!?」

三人が視線を向けると、何かが転がって来た。

「くっ!」

それはなんと、巫詩姫であった。

「え、詩姫!?」

「もしかして、あの子ですか?」

「みたいですね」

詩姫の姿に驚く五条。

そして彼女の姿を見た七海と伊地知は、すぐさま察しがついた。

だが、それと同時に、

「シャァァァァァ!」

異形の怪物が、ゆっくりと歩んで来たのだ。








 呪霊じゅれい――。

人々の持つ『負の感情』によって生まれた『呪い』が、生物の姿となって現れた存在。

その呪霊が、詩姫に襲いかかろうとしていた。

先程の襲撃によるものか、彼女の額には血が流れていた。

「………」

ゆっくり立ち上がった詩姫は、視線を呪霊へと向ける。

同時に、彼女は右目で強く睨む。

すると右目の視界には、例の“線”が現れ、更に呪霊にも存在する事が判明した。

「(やっぱり、幻覚じゃなかった)」

右目に映るものにだけ存在する“線”。

「(もしかすると……使える?)」

何かを思いついた詩姫は、すぐに辺りを見渡す。

すると偶然、五条の姿を目にした。

「五条さん!」

「うん?」

「何か、武器になるようなものある? 出来れば刃物で」

コレを聞いた五条は、伊地知に呟く。

「伊地知。 確か、フルーツナイフ買ってたよね? 鞘付きの奴」

「え、はい。 買いましたけど?」

「貸して?」

「え、分かりました」

そう言うと伊地知は、袋から取り出したフルーツナイフを五条へと渡す。

ナイフを受け取った直後、五条は詩姫へと投げ渡した。

「詩姫、使って!」

投げ飛ばされたナイフを、詩姫は迷いなく受け取る。

そして鞘を抜き、ナイフを逆手に持ったのである。








 ナイフを構える詩姫を目にし、伊地知が慌て出してしまう。

「ごごごご五条さん! 何を考えて!?」

「落ち着けよ」

呆れながら彼を窘める五条に対し、七海は冷静な態度で尋ねる。

「何を狙ってるんですか?」

「まあ、見てなって」

もったいぶる五条であるが、何故か不敵な笑みを浮かべた。

そんな中、詩姫と呪霊の戦闘が始まった。

「シャァァァァァァァ!」

呪霊は大きな腕を振るうも、詩姫はそれを避ける。

「(そこ!)」

更にナイフを振るい、“線”に沿って呪霊の腕を切断したのだ。

切断された呪霊の腕は、その場で宙を舞う。

「斬った!?」

「っ!?」

コレには伊地知も七海も驚愕を隠せない。

対照的に五条は、更に口角を上げる。

「やっぱりね……『』してたんだ」

「ギギャァァァァァァァ!」

腕を切断され、叫びを上げる呪霊。

その光景に、七海がある事に気付いた。

「なっ!? 再生しない!?」

呪霊は名前の通り、呪いの力による負のエネルギー『呪力』で体を構成させている。

だが詩姫に切断された腕は、どういうワケか再生していない。

「再生“しない”というよりは、再生“出来ない”だね」

五条がそう言う中、詩姫の様子が一変する。

「(コイツを一撃で仕留める。 何か……急所を!)」

なんと左目にも例の“線”が見え、呪霊の腹部に大きな“点”が視えたのだ。

「そこね!」

一瞬で間合いを詰め、“点”の部分に刃を突き刺した。

「ギシャァァァァァァァァァァ!」

コレによって、呪霊は完全消滅したのである。








 目の前の光景に伊地知は驚きを隠せない。

「な、ナイフだけで…呪霊を!?」

「……五条さん、彼女の何を知ってるんですか?」

改めて七海に問われ、遂に五条は口を開いたのだ。

「巫家の人間には稀に、眼に映る者の生命を色で見分ける能力を持つ子供が生まれるんだ」

「眼で?」

「うん。 一族の人達は、その眼を『命火いのちび魔眼まがん』と呼んでるそうだよ。 命火の魔眼はサーモグラフィーカメラのように、生命を色で認識する事が出来るんだ。 体が『赤』の時は『強い生命』。 『黄』色は『平均』、『青』は『弱った生命』。 『黒』は『死亡』って感じでね。 因みに呪霊も『黒』だよ」

「成程。 しかし――」

「“命火の魔眼”だけでは、呪霊を倒せない――でしょ?」

「はい」

七海の疑問に対し、五条は更に話しを進めた。

「実はね、命火の魔眼には、とんでもない進化が隠されてるんだ」

「進化?」

「そう。 生死の境を彷徨うほどの瀕死から目覚めた時、更なる変異を遂げる。 その名は、『直死ちょくし魔眼まがん』だ」

「直死の魔眼?」

「この世に誕生した時から、万物には必ず『死』が内包されている。 生物に限らず、物質にも、概念にも、そして時間にも存在する。 直死の魔眼には、万物の『死』という概念を、“線”と“点”という情報で捉える事が出来るんだ」

「つまり彼女には、その万物の『死』が視える……という事ですか?」

「そう。 “線”をナイフでなぞれば、金属ですら紙きれのように切断でき、中心部である“点”を突けば、消滅させる事ができる。 呪力を使わなくても、呪霊を祓う事も可能だ」

「知っていたんですか? 彼女がその魔眼持ちだという事を?」

「いや。 けど、彼女が巫家の人間だと知った時、まさかとは思った。 でもまさか、手にしたばかりの魔眼で、ここまでやるとは思わなかったよ」

凛と立つ詩姫に視線を向け、五条は楽しく笑う。

「良いね。 良い感じにイカレてるよ、あの子」

こうして巫詩姫は、人生で初の呪霊討伐を成功させたのだった。









 時は流れ、2018年の4月上旬。

「…よし」

巫詩姫は、呪術高専の制服に袖を通す。

そして右目は、魔眼を隠すために眼帯をつけている。

母と住んでいたアパートを去り、外へと出た。

門の前には、五条悟が待っており、

「お!渡した制服、似合ってるね」

「どうも」

「それじゃ、準備は良いかい?」

「はい。 宜しくお願いします!」

「こちらも、宜しくね」

彼と共に車に乗り、その場から去ったのである。

こうして彼女の、呪術師生活が始まったのだった。


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