僕の名前は今江倫哉。正義感が強かった僕は、大学を卒業後警視庁に就職し、交番勤務から所轄に異動して数年。諦めずに刑事課への希望を出し続けて、ようやく所轄の刑事課へと異動が決まった。
「刑事の嗜み」と、自費で買った黒いジャンパーを着込んだ谷口は、土地勘の薄い街を歩きながら所轄署へと向かっていた。
署の中へ入り、刑事課がどこか迷って。そんな時
「おはよう!異動したの?どこに入るつもり?」
振り返るとそこにはスーツ姿の女性が。軽くパーマのかかった髪の毛を後ろで結んでおり、身長は170以上はあるだろうか。俺とさして身長差はないだろう。
「あなたは?」
「刑事課の豊原有子よ。今日から君は私の後輩よ?よろしくね。」
「よ、よろしくお願いします」
俺はそう言うのが精一杯だった。
室内に入ると、俺を見るなり他の刑事はコソコソと噂をし初めた。
「おい、あいつが今度来るやつか?」
「ああ、そうらしいな。
豊原と組まされるなんてな。あんな女っ気のないやつと組むのは正直同情するよ」
(ん?豊原?たしかあの先輩が豊原と名乗っていたな…え?もしかしてあの人嫌われてるの?)
俺は正直、不安だった。だって嫌われてるのには何かしら理由があるからだ。そんな嫌われ者と組んだら絶対ひどい目に遭わされるって…っていうかさっきのあの人と組むのか俺。
そんなことを考えていると、豊原さんがやってきた。
「ここの空気はどう?」
「あ、まだ入ったばかりなのでなんとも…」
「もう知らされてると思うけど、君と組むのはこの私。ビシバシしごいてあげるからね」
「うわぁマジか…辞めようかな…」
「冗談よもちろん。今どきそんなことしたらパワハラになっちゃうわよ。」
俺は苦笑いするしかなかった。
「おう、早速パトロールだ。みんなすぐに行ってくれ。今江、お前も行くぞ。豊原くんから教えてもらいなさい」
そう言われて、早速覆面パトカーに乗った。
覆面パトカー内では、俺は正直元来の怖がりが出てしまった。もちろん豊原さんはそれを見抜いていた。刑事の勘ってやつか。
「今江くんってもしかして怖がりなの?私が守ってあげるから心配しないで」
「あ、はい…実は怖がりです…お化け屋敷とか好きなんですけどね笑
女の人に『守ってあげるからね』なんて言われるなんて、俺ってほんと不甲斐ないっすよね」
「わかってるんならよろしい」
そんなこんなで何事もなく初めてのパトロールは終わった。
家に帰って、お父さんから電話が来た。
「あ、もしもし倫哉か?俺だ。どこに異動したんだ?」
「内勤だよ。安心して」
しれっと親に嘘をついてしまった。親に心配をかけたくないがゆえの嘘だ。いわゆる「優しい嘘」だ。
何かのドラマに、ある刑事がずっと追い続けていた犯人が実はとっくの昔に死んでいたのに「犯人を逮捕した」と嘘をついた人がいたけど、優しい嘘ならついても許されるんじゃないだろうか。というか許されるべきだ。
翌日もパトロールがあった。まあ毎日パトロールがあるなんてな。でも殺人事件の捜査よりはマシか。
パトロールの時、助手席の俺は運転席にいた豊原さんに「聞きたいことがある」と言った。なぜ他の刑事に嫌われているのかを知りたかったからだ。だけど、寸前で怖くなり、慌てて別の話にした。
「豊原さんって、身長何センチですか?172の俺とほぼ身長差ありませんよね。」
「私の身長?173よ。あなたより1cm高い。」
「そうですか…俺より身長高いですね。」
でもどうしても彼女が嫌われているのかを知りたくて、刑事課長室に行った。
(刑事課長・森岡恵一…)
「池内課長、どうして僕とコンビを組んでる豊原さんという人は他の刑事に嫌われてるんですか?」
「ああ豊原か。あいつは刑事としては優秀だが、組織にあまり馴染めないタイプなんだよ。
ある事件があった。。結局その事件は迷宮入りしてしまったがな」
「そうなんですか…ありがとうございます」
そう言って俺は課長室を退出した。
それを聞いて、俺はもっと豊原さんのことを知りたくなった。
「豊原さん、趣味ってなんかありますか?」
「私の趣味?私の趣味は何だろう…泳ぐことかな。水泳教室に行ってるわ。後はボクシングかな。時々スパーリングもする」
「へーそうなんですか。かっこいいですね。憧れます。」
これは全く嘘偽りのない僕の本心だ。僕はかっこいい女子に憧れるんだ。高校のとき親とスキーに行った先で遭難してしまったとき、同級生の女子に助けてもらった。ヤンキーみたいな感じで苦手だったけど、嬉しくて嬉しくてその後すっかり仲良くなった。それがきっかけで「自分も誰かを助けたい」と思うようになった。
仕事は大変だけど、誰かが救われるんだ。頑張ろう。