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東京所轄刑事物語 第1話「除幕式の死体の謎」
作者:悠一   2024/08/08(木) 01:26公開   ID:FavXYaaTXGM
「もしもし、警視庁。はい、わかりました」
「どうしたんですか、豊原さん」
「殺人事件発生よ。創成大学で殺人事件よ。」
「分かりました。すぐ行きます」

現場は、大学の校舎。
「どうもこの大学の名誉教授・木戸英太郎の記念碑除幕式で、女の死体が見つかったそうなんですよ」
そう言ったのは刑事の瀬戸山尚夫。
「あ、こちらです」
第一発見者の守衛が事件現場まで案内する。
「彼は?」
「第一発見者でこの大学の守衛・元木隆一さんだ」
瀬戸山がそう尋ねるとそばにいた坊主頭の刑事・吉本健太が語る。
「今日は仁王名誉教授の日本化学会功労賞受賞を祝う祝賀会が開催されてたみたいんだけど、幕を開けたその中からオブジェにもたれかかる女性の死体が発見されたそうなんだ」
被害者の死因は脳挫傷と思われ、後頭部から大量の出血をしていた。だが遺体のあった場所に血痕はなかった。それは被害者が何処か別の場所で殺害され、オブジェのところまで運ばれたことを意味していた。
「ん?この人のまつ毛、薄いオレンジの化粧品のような粉がついてる」
豊原は遺体のまつ毛に変わった色の化粧品のような粉がついていることに気が付き、鑑識員の森内聡に鑑定を指示した。


一方その頃、瀬戸山・吉本は聞き込みをしていた。
大学の応接室には、木戸の他、木戸の元弟子であった教授・武本秀夫、武本の腰巾着的存在の助教授・井口智昭、挙動不審な様子の助教授・斉藤隆明、そして斉藤の助手である大学院生・藤川晶がいた。
「この人物に、見覚えがありますか?」
その場にいた全員の顔色が変わる。
「私はそんな人知らないな」「僕も知りません」「わ、私もです…」「僕も…」
だが、皆知らないふりをしていた。
署の扉が開くと、瀬戸山が入ってくる。
「運転免許証から被害者の身元が判明しました。江藤希という女です。彼女はクラブのホステスで、しかも木戸名誉教授のお気に入りだったです。」
「でも瀬戸山、みんな知らないって言ってたぞ」
そう吉本は怪訝そうな顔を浮かべる。
「いや、しかし何かがあるはずだ。大学に聞き込みに行くんだ」
課長代理・池内克也が口を挟む。

豊原はまず、斉藤から攻めることにする。
「斉藤さん、あなた達はこの女性を知っていましたよね。なのになぜ『知らない』なんて言ったんです?」
斉藤は少し悩むも、結局はすべてを打ち明ける。
「木戸先生、実は店のママと愛人関係にあったんです。木戸先生には結婚を控えた娘がいることもあって、すべてをもみ消そうと、僕たちにも店にも何も話すなと圧力をかけてたんですよ…
あの…これ、私から聞いたっていうのは内緒ですよ?木戸先生に逆らったら、この研究室にはいられません…」
「情報の出どころは絶対に内緒にしますから。ご安心を」
(か、かっこいい・・・)
そう言う豊原の姿を見て、今江は豊原への尊敬を更に強めた。
しかし、その場で今江は井口とぶつかってしまう。
「あ、すいません…ちょっと気が動転してまして…」
平謝りの今江に、井口は「まあまあ落ち着きましょう。これ、キノコの生える場所に関するデータなんですよ。興味あります?」と。
今江は見ようとしていたが、豊原は「だめよ。あんたの仕事はそれ見ることじゃないんだから」と注意して、今江を連行するように退出した。

署の面々は、大学の関係者が結城を妬んで殺したとにらむ。
「あ、もしもし豊原さん?森内です。出ましたよ鑑定結果。遺体のまつ毛に付いていたのは「オドガン菌」という菌だった。このオドガン菌は培養すれば違法薬物の原料にも、成功してはいないものの抗がん剤にもなりうる菌なんですよ。」

静岡から被害者の母親が遺体の確認のために来た。
「あの子、花屋さんで働いていると言っていたのに、ホステスだったなんて…」
希の母親・育子は泣いていた。
「いや、しかしお母さん。この人は働いている所は嘘だったけど、他は本当のことを話していたと思いますよ。例えば娘さんは一週間に一回は電話してましたか?」
吉本がそう尋ねると、育子は「ま、まあ。」と答えた。
「それだけで娘さんの全てを否定するのは良くないですよ」
吉本はそう語った。死んだ人間には反論すら許されない。吉本は気の毒に思っているのだろう。
「そういえば、あの子『好きな人がいる』みたいなこと言ってたわ。その人との結婚資金を稼ぐためだったのかしら…」

「一週間にいっぺん電話するような娘は信用できるな。俺の娘は上京してからどこで何してるんだかな。もともと娘との仲はあんまり良くなかったが、数年前に離婚してからは全く話を聞かない。カミさんも教えてくれないしさ」
そう池内は寂しそうに話す。

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その翌日、今江と豊原は育子がいる希の自宅に来ていた。
育子を気にかけつつも事情を聞き、部屋の中を調べた2人は「好きな人」との思い出の品であろうキーホルダーや映画の半券などが大切に保管されていることに気づく。
さらには、希が肝臓の悪い育子に「好きな人に教えてもらった」と言って、「チャーガ」というきのこのお茶を勧めてくれたという情報から、今江がぶつかった時に見た資料がキノコについての資料であったことを思い出した。
更に豊原は思い出の品の中から6桁の数字が書かれたメモを見つける。大切にしまわれていた様子から「好きな人」が渡したものであると思われた。

今江と豊原は再び井口を尋ねると、やはり井口はチャーガの研究をしていた。
「井口さん、全てを話してください」
井口が語ったことによると、婚約相手がいながらも井口と希には肉体関係があり、希が言っていた「好きな人」とは井口のことだった。
「待ってくださいよ。あくまでも精神的なつながりはなかったんですからね。」
どうやら井口は希のことを都合の良い存在としか見ていなかったようだ。

一方、瀬戸山と吉本は井口と同じ研究者として出世を競い合う立場である准教授の斎藤のもとに向かっていた。斉藤はちょうど研究室へ入るところだったが、暗証番号を間違えていた。
ポケットから紙切れを出し正しい暗証番号を入力して入室しようとしたその時、瀬戸山たちが斉藤に詰め寄る。その時、豊原が来る。
豊原は希の自宅から見つかった数字は研究室の暗証番号だと考え、片っ端から入力して回っていた豊原は、ちょうど瀬戸山たちが斉藤を問い詰めている現場に出くわしたのであった。
3人で斉藤の研究室の中を調べると、血痕を拭き取った跡が見つかった。血痕は希のものだった。そして、斉藤は細菌の研究に明け暮れており、その中の一つにオドガン菌もあった。
しかし斉藤は抗がん物質のためにオドガン菌を研究しており、希を殺す動機はない。
「斉藤さん、あなた暗証番号を間違えてましたけど、どうしてですか?」
豊原は斉藤が暗証番号を間違えていたことに言及した。
すると斉藤は「昨日から暗証番号が変わったんです。暗証番号変えたのは私じゃなくて、助手の藤川です。」と言った。

藤川のことを調べるとギャンブルで借金があり、その返済のためにドラッグをバラまいているという噂まであった。
署に連行された藤川は全てを告白する。
希を殺したのは藤川だった。
事件の日も藤川は斉藤の研究室に忍び込み、オドガン菌を盗んでいた。その途中に希が研究室に入ってきたため、焦った藤川は希を殺してしまったのだった。
そして暗証番号を変えてから外に運び出し、気が動転していたためにそれが何かも考えずに、オブジェに置いた。つまり、全くの偶然だったのである。
藤川に残っていた僅かな良心で被害者の目を閉じさせた際、指についていたオドガン菌が希のまつ毛に付着し、藤川の犯行を暴く証拠になったのだった。
藤川は「天罰だったのかな。神様の」と自分の罪に思いを馳せる。


藤川の逮捕により事件は解決したことになるが、まだ残っていることがあると刑事課の面々は大学へと向かう。希が斉藤の研究室にいた理由がまだ明らかになっていないのである。
「井口さん、これ貴方が書いたものですよね。つまり、あなたが原因で希さんは殺されたんですよ!」
希の部屋から見つかったメモを井口に見せ、強い口調で詰め寄る今江。筆跡鑑定の結果、それは間違いなく井口の筆跡だった。
動機を語り始める井口。
井口は斉藤の研究が成功し自分より先に出世されるのを阻止するため、希を利用して研究の邪魔をさせようとしていたのだ。

今江は希の井口への気持ちを踏みにじるような行為をし続けた井口に怒り、ついには井口の胸ぐらを掴んでしまう。
井口は「あんた警察官だろ、そんなことしていいのかよ!」と叫ぶが、その場にいた豊原は知らん顔である。


「やっぱりまずかったよね…」
署に戻った今江は豊原にこう打ち明けるも、豊原の反応は意外なものだった。
「まあ、あれだけ酷いやつだったからね。気持ちはわかるよ」
そう優しくフォローされた今江は、豊原の部下になってよかったと思ったのであった。


事件解決後、道場に電気が点いているのを見て、今江は不審に思い見に行く。
するとそこには、見知らぬ女性とボクシングの試合をしている豊原がいた。
(ガコッ)
その僅か一瞬のとき、敷かれているマットに沈む豊原の姿が。
「クソッ!次は勝つぞ〜」
「ちょっと怖い…w」
相手の女性が帰った後、豊原は今江を見つける。
「あれ、今江くん、どうかしたの?」
「豊原さん。そういえばボクシングやってるって言ってましたよね。でもまさか道場でやってるなんて…」
「今江くんも来る?」
「あ、いえいえ…遠慮しておきます…」

こうして、今江の最初の事件は幕を閉じたのであった。


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疲れたわ。眠い。
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