「はい、警視庁。わかりました。」
豊原の張りのある声が響く。
「なんですか?また事件ですか?」
そう今江が言うと、豊原は「そうよ。公園で絞殺死体が発見された。すぐに行くわよ」と言った。
現場は、大きな池のある公園だった。4月のため、桜が燦々と咲いている。
だが駆けつけると、遺体がなかったのである。
瀬戸山「え?嘘だろ?」
吉本「そ、そんなバカな…」
署に戻ると、目撃者の男性・寺島亘が事情聴取を受けている。
「だから本当に見たんですって。首に縄が巻き付けられた死体を。」
「それはいつ頃の話ですか?」
「朝7時半頃。会社に行くために車走らせてて。少し運動しようとあの公園で走ろうと思ったら、突然死体が」
「それは本当か?」
「ああ、本当ですよ。嘘じゃないですってば」
一方会議室では、捜査会議が開かれていた。
刑事課長の森岡恵一が「遺体は公園内の何処かにあるはずだ。必ず見つけ出せ。今はそれが最重要任務だ」と命令する。
取り調べを担当した刑事らも森岡も、寺島の証言は本当だと思っているようだ。
捜査会議が終わると、刑事の高柳剛と山川洋介が廊下でうわさ話をしている。
高柳「なあ山川、あの男の証言は嘘だったんじゃないのか?」
山川「一体何のために。」
高柳「寺島は別の犯罪を隠すために、殺人事件の目撃者になりすました」
山川「あの人がそんなふうには見えませんけどね」
高柳「人は見かけによらないんだよ。それに俺が言ってるのはもしかしたらの話だよ。」
今江が考え込んでいると、豊原が話しかけてくる。
「ねえ今江くん、あの公園のどこかに遺体があるんじゃないの?」
「あの公園の中って?例えば?」
「地面の下とか、池の中とか」
「それはどちらも考えられなくはないですよね。現にまだ捜査してないわけですし」
突然電話が鳴る。
「はい。わかりました。」
「おいみんな、ショッピングセンターがあった空き地で男の刺殺体が発見されたぞ。今すぐ急行だ」
現場には男の死体があった。背中を刺されており、どうやら即死だったようだ。
瀬戸山「運転免許証から身元がわかりました。男の身元は西村貴晴、34歳。建設作業員です。」
吉本「ここは一体…?」
この土地を買収していた不動産会社の社員・川上信夫は答える。
「ここはかつてショッピングセンターが存在してたんですが、10年前に事件が起き、それが尾を引いて…。」
瀬戸山「未解決事件とは?」
「ここはね、昔若い女の子が拉致されて暴行された現場なんですよ。現場近くを通った通行人がボロボロの女の子を見て通報。だけど犯人たちは覆面をしてたから、結局事件は時効を迎えたんですよ。」
瀬戸山「被害者の少女はその後どうなったんですか」
「さあね。俺は知らないよ。こんなこと言うのもあれだけど、事件のことは忘れていて、元気にやっていてほしいね。」
捜査本部では、この両事件に関する話が行われていた。
「じゃあ豊原と今江は公園の事件の方を、瀬戸山と吉本は空き地の事件の方を捜査してくれ。いいな。」
今江と豊原が公園につくと、遺体が隠されている場所を調査する。
「どこにあるんだろうか。おっとっと、マンホールの蓋で転びそうになったよ」
「もしかしたら、もうこの公園にはないのかもね。事件があった昨日から検問が張られてるし、その前に遺体は別の場所に運搬されてる」
「それじゃあもうこの公園に証拠は…」
「ここに遺体があったっていうなら証拠は必ず出てくる。それでも証拠が出てこないっていうことは、もしかして…」
「あの証言はやっぱり嘘?」
「それか、遺体と思われた人物は実は生きていて、寺島が通報しに行った隙を見て公園から…」
するとそこには、現場付近から不審な白髪混じりの男が逃げていった。すぐに豊原が取り押さえ、公務執行妨害で逮捕する。
今江「あなたは一体誰なんですか?」
男「知らねえな。俺を捕まえるぐらいなら未解決事件の一つや二つ、解決してみたらどうだ」
今江「何も話さないのか…。」
するとそこに、豊原が入ってきた。
豊原「あなたはイノウエカツヤさんですね。10年前に起こった女子高生暴行事件の被害者遺族の」
男「よくわかったな。俺のことが。10年前に指紋を取られたから、そこからか?」
豊原「ええ、そうです。あなたは井上勝也さんですね。」
そう言い、豊原は10年前の被害者遺族に関する捜査資料を取調室の机に提示する。
井上「あの事件を解決できなかったあんた等に要はない。さっさと返してくれ。」
今江「そうはいかないんですよ…」
取調室から退出する今江。すると何かを思い出して電話をかける。
「おいタカ、10年前にあの空き地で起きた事件の被害者遺族の名前、分かるか?」
電話の向こう(「被害者の名前は。井上愛海、当時18歳。被害者遺族は父親の井上勝也さんと妻の…)
「ありがとうタカ、事件の全容が見えてきた。電話切るわ」
捜査資料を読み直す。
<10年前、友人とショッピングセンターに行っていた井上愛海は、友人と分かれた直後、目出し帽を被った男3人組に暴行された。
当時不良グループのリーダーだった菊池翔真と、その仲間だった西村貴晴・安田健矢、いずれも20歳が疑われたが、証拠不十分で釈放…>
「目撃された遺体の正体であり、西村貴晴を殺したのはあなたですよね。」
取調室に座っていたのは、井上勝也であった。
目撃された遺体の正体は、警察の捜査を撹乱するための井上の罠だった。
「はじめはあの男を殺してやろうと思ったよ。そう思って、あいつを殺すために尾行していた。そしたらあいつ、泣いてたんだよ。『俺はなんてことを』って。あいつは、俺がいるのを知らずに、『俺に子供を育てる資格なんかない』ってな。
それで俺はあいつに聞いたんだ。あいつは事件の後すぐに足を洗って、今では彼女ができて、妊娠してるんだってよ。『自分が子供を育てていいのか』って」
「俺は自分の身元を明かして、『あの子は優しいから、きっと許すよ』と言ったよ。でも、他の二人のことはどうしても許せなかったんだ。」
罪を悔いている菊池のことは許せた井上だが、愛海を死に追いやったことにまったく罪の意識を感じていない共犯の2人のことは許せなかった。
菊池からは共犯者のことを聞き出し、犯行に及んだのであった。
豊原はそんな井上に「罪を償って、奥さんと娘さんが待つ自宅へ帰りましょう。たとえ命が尽きても、心の中では生き続けるんです」と諭すのであった。