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この学校には、なぜか寮がある。一人一人個人の部屋になっているため、何ら抵抗はなかった。黙々と化学反応式を書いていると、美夢が入ってきた。
「あの...紺崎さん。数学教えてもらえない?」
確か美夢の数学の点数は58。この学校の偏差値からするとそこまで悪くはない。
「いいよ。上がって、そこ座って。」
「ありがとう。」
そういえば、美夢が他の人と話しているのはほとんど見たことがない。美夢の方も話し相手ができて嬉しいのか、笑顔が見られる。
「分からないところは?」
「えっと、ここの応用が分からなくて...。」
テストでも多く出題された問題。この応用ができなければ、一学期末のテストでとんでもない点数になるだろう。
「この問題が言いたいことは、これの値を求めること。だから、こっちとこっちでそれぞれ式を書いて解けば、xとyが出る。そこからさらに、この計算をしたら、クリア。」
「なるほど!」
それから数問の解き方を教えると、なにか語りだした。
「私さ、うまく人と話せなくって...それが、どうしても直せなくって...親がそれを嫌がって、無理矢理この学校に行かされた。もう帰ってくるなって...。」
私の親よりは理由があるが、まあ、普通に考えて美夢の親の狂っていそうだ。
「私も、親に突き放されて家帰っても一人。だから寮があるここに来た。」
「なんか、紺崎さんと私って似てるね。あっ...全部が全部...じゃないけど。逢えて良かった。」
今までこんなに優しくされたりすることがなかったので、なんだか変な気分になる。
これが喜びというものなのだろうか。
「教えてくれて、ありがとう。あと...こっちの部屋も来ていいよ。隣だけど。」
「また分からない問題あったら言って。勉強だけはできるから。」
「うん。」
そう言って美夢は出ていった。意外と親とのトラブルを抱えているやつって多いんだろうか。小学校の頃も友達なんてできずに孤立して、いつも単独行動で、やれと言われそうなことをして...他の人はよく感情っていうものを持っていられるな。私だって、多少の感情はある。でも、なんで悲しんでいるのか、なんでそう思うのか、全く他人の感情が理解できないのである。
「ったく。やっぱり感情ってあまりない方が生きやすいよ。」
そんな独り言をつぶやき、眠りについた。
翌日。7時のチャイムで目が覚めた。その時、ピキッという亀裂音がまた聞こえた。昨日書いていたのは、このピキッが出そうな化学反応式だったのだが、どう考えても起こらないはずだ。こんな場所では。精神的な問題なのか?自問自答しながらメガネを掛けると、ベットの端のほうに光を反射する何かが落ちていた。上を見ると、壁もないところに亀裂。そっと亀裂の先を除いてみると、よくおとぎ話とかで書かれているような、魔境のようなところが広がっていた。急いでスマホを手に取り、職員室に連絡する。
「もしもし?紺崎です。今、寮の部屋から電話しているんですが、大変なことがあって...。」
出てくれたのは森下先生だった。
「森下だ。紺崎、今は大丈夫か?」
「はい。ただ、なにもないはずの空間に亀裂が入っていて、その先に別世界が広がっているんですが。」
「冗談はやめろ。」
「冗談じゃありません。そもそも、冗談なら自分の足で職員室に行きますよ。ここを離れたら、変なことが起きそうなんです。」
やっぱりそうか。疑われるだろうとは思った。
「とりあえず行ってみる。ちょっと待っていてくれ。」
それで電話は切れた。よく見ると、先程より亀裂は広がってはいないものの、凄くエネルギーを感じる。今となっては、頭痛がするほどだった。
「来たぞー。うわっ。紺崎!このエネルギーは何だ?」
「私もわかりません。だけど、科学が通用しないだろうというのは分かります。」
その瞬間、その亀裂から今までで一番強いエネルギーが吹き出し、部屋が破壊された。先生がすでに、私以外の生徒をグラウンドに避難させていたらしい。おそらくだが森下先生がここの様子を送ったのだろう。
ものすごい突風に押され、5mほど飛ばされた。亀裂から出てきたのは、ダークサイダー《闇界者》だった。