6.
7時頃部屋がノックされ、入ってきたのは山瀬先生だった。
「昨日の話の続き、聞かせてもらってもいいですか?」
授業が始まるのは8時15分からなため、そこまで長引かなければ大丈夫だろう。それに、もし遅れたとしても山瀬先生が話をつけてくれるだろう。言い出したのは山瀬先生の方だ。
「いいです。私が理科室から消えたときのことですね?」
「はい。」
「あのとき、急にグラウンドにとばされて、ダークサイダーと再戦させられたんです。」
山瀬先生の顔が強張った。そりゃあ、美夢もいない中で再戦となると、固まるのも無理はない。
「先生、ドラズパ!っていうゲーム知ってますか?」
「ああ、聞いたことはありますが...。」
「その中のキャラクターに、ラクアスっていう、ドラゴンみたいな翼が生えたのがいるんです。まるでそのラクアスみたいに、技を出して倒しました。」
すると山瀬先生は驚きと恐怖が入り混じったような、よく分からない表情をした。
「...じゃあ、今の紺崎さんも特殊能力が使えるということですね?」
「まあ、そういうことに...」
まだ話している途中だったが、山瀬先生が急に口を挟んできた。
「ちょっと待ってください!水原さんの特殊能力に似た技を使うキャラクターっているんですか?」
今度はなぜか期待が込められているような表情になった。なぜこんなにコロコロ変わるんだろう。
「そうですね...。」
名前は忘れたが、ものを変形させる技を持っているキャラクターは2人いる。
「2人くらいいます。明確ではないですが。」
「なるほど...。もう一度水原さんの部屋にいきましょう。本人に聞くのが早そうです。」
もっともだ。本人はドラズパ!をやり込んでいるため、私よりもよっぽど詳しいだろう。
私の部屋のドアを開け、美夢のドアノブへ手を伸ばした。
「あいつ、帰ってこないな。」
僕はU-0735。あいつと呼ばれたのは、U-0508のことだ。この世界では、全てアルファベットと数字で名前を表す。U-0508は、反抗してきたチキュージンを殺すとか言って出ていった。
「...死んだんじゃないのか?あいつ、思い上がりが激しいからな。どっちにしろ、あんなやついないほうがいいだろ。」
僕の声にみんなが共感する。
「ただ...。この世界のやつが特殊能力を持たないはずのチキュージンにやられたとなると、これはこれで問題だな。」
僕らを殺れるのは特殊攻撃でのみ。もしくは、特殊能力によって強化されたものでのみだ。
つまり、
「少なくとも、特殊能力を持つものがいるってわけだな。」
「ああ。」
「無駄に警戒させたくはないが...もしかすると、この現状を救ってくれるかもしれないからな。」
最近妙に空間の亀裂が多く起きている。この世界の崩壊にもなりかねない。
そして、チキューにも影響があるかもしれない。ただ、U-0508のように反抗するものも出てくる。あたりが沈黙に包まれたその時、耳をつんざくような声が聞こえた。
「U-0508が殺された!一人の...チキュージンに...。どうなってんだよ⁉」
「落ち着け。U-3715。こっちのエネルギーが向こうに流れ出して、その影響を受けたチキュージンが特殊能力を得たんだろう。」
そう言って聞かせるが、なかなか落ち着く素振りを見せない。
「それだけならいいよ⁉ワンパンされたんだ!」
これには、さすがに驚愕した。特殊能力を使い慣れている我々が、使い慣れていないチキュージンにワンパンされるなんて、ありえない。ことは思ったよりも大変なことになっているかもしれない。