「おはようございます」
いつものように挨拶する今江。
「あ、君確か今江くんだっけ?」
突然、警察の制服を着た一つ結びのセミロングの女性が、突然声をかけてくる。
「あなたは?」
「私は総務の山内。昨日貴方遅刻したでしょ」
「あ・・・」
今江には心当たりがあった。昨日友人たちと同窓会に行っていたからだ。ちなみに警察官になったという事はまだ友人たちには言っていない。
―昨日の夜―
岩田津矢『高校卒業してから会ってなかったけど、トモはどこに就職したの?』
今江『俺?公務員だけど』
武岡展将『公務員かぁ、どこに就職したの?』
今江『それはちょっと言えないけど…』
杉村智『お前昔っからグロいのとか苦手だったから、少なくとも警察・消防・自衛隊はないな』
(笑いが起きる)
今江『ちょっとぉ〜笑(お前らには隠してるけど、俺親の影響で2サス好きなんだよ、グロいの苦手だけどね)』
山内敦子。彼女は総務課の警部補。署のことは何でも知る「お局様」的存在であり、誰が言ったか「署のコンピューター」だ。
今江「おはようございます。今朝廊下で総務の山内さんっていう人に『昨日遅刻したでしょ』って言われて」
豊原「あの人にならそりゃバレるよ」
(プルルルル…)
「もしもし、事件ですか?すぐ行きます」
現場はショッピングセンターの駐車場。車に寄りかかった遺体が。
太田刑事「免許証に名前が残ってました。鈴木陽真、26歳。この近所にある会社の社員です。」
関川刑事「証券会社の?」
太田刑事「ええ。どうやら夕飯を買いに来ていたようです」
「こ、この人…」
瀬戸山である。彼は被害者の高校時代の友人であったのだ。
関川刑事「瀬戸山、お前、被害者と友人だったのか?」
瀬戸山「中学の頃の同級生です。まあクラスは1回も一緒にならなかったんですけどね」
池内「タカ、お前、ガイシャと同級生だったのか。何か悪い噂とか聞いたことないか?」
瀬戸「悪い噂…特には…あ、でも、一つだけありました。
あのすいません、豊原さんは少し席外しててください。」
豊原は「私は大丈夫よ」と言う。
瀬戸は語り始める。
「中学2年の頃、鈴木のクラスの何人かが同級生の母親をレイプしたとか、」
流石の刑事課でも、流石に沈黙が走る。
「あくまで噂ですよ。でも当時鈴木のクラスのやつで一人見かけなくなったのがいるから、その子の親かな、なんて思いました」
「当時の担任の先生は?」と豊原が聞く。
「あのクラスの先生は数学の木村先生でした」
当時のクラス担任・木村章夫に話を聞くが、木村は「そんな話、確かに聞いたことありました。でも皆多くは語らなくて…」と言葉を濁すばかり。
瀬戸が家に帰る。瀬戸山は父親と二人暮らしである。
瀬戸の携帯にメールが来ていた。送り主は同級生の若原であった。
<瀬戸、B組の鈴木が殺されたの知ってるか?>
<それうちの署の管轄みたいで、俺も捜査に参加してますわ。
それより、B組で同級生の母親を襲ったとか、そういう話覚えてる?>
翌日
「おうタカ、同級生と連絡とかしてるだろ。なにか聞けたか?」
池内がそう聞くと、瀬戸山は話し始める。
10年前にレイプされたのはいじめられっ子の母親であった。当時、いじめっ子たちはカツアゲをしており、そのことを知ったいじめられっ子の母親が、今まで奪い取ってきた金を返すとグループのたまり場であるリーダーの家の物置に誘いだされ、そこでレイプされていたのである。
あまりの酷さに皆絶句していた。まさに鬼畜の所業であった。
一方、鈴木の勤務先には本部の宮森と堀内が向かっていた。
スリーピーススーツで禿頭の初老の男性―社長の日高文昭と大柄なオールバックの男性――人事部長の伊東高之が応接していた。
「鈴木くんが殺されるなんて、驚きです。」
「全くですよ。なぜ彼が殺されたのか、理由がさっぱりわからんな。帰宅途中に襲われたんだ、きっと通り魔かなにかだろう」
現在、平川は高校教師になっていた。倫哉は「あんな悲惨なことがあって、よく教師を目指そうと思ったな…」と思っていた。
「平川先生イケメンだよね〜」
「マジで平川の授業受けるの楽しみ」
「一見儚げだけど話好きで楽しいのがいいよね。絶対男子にも好かれてるよああいうタイプは」
どうやら平川は生徒に人気の教師のようだ。
「あの失礼します。警察の者ですが、平川先生っていらっしゃいますか?」
事務員にそう尋ねると、平川を呼んでくると言い、その場から立ち去った。
「どうも、私が平川です。一体何があったんです?」
応接室、今江・豊原と平川が話をしていた。
「スズキヨウマ…いったい誰のことです?」
平川は被害者の名前を聞いても知らん顔をしている。
「あなたは被害者に壮絶ないじめに遭っていたようですね。」
その話を出すと、一瞬平川は動揺したが、すぐに気持ちを取り戻した。
「ああ、でも、僕をいじめていた奴の名前なんて、もう覚えてませんよ。どうせ母のことも知っているんでしょう。」
そう言うと平川は語り出した。
「あの時、母はあの男たちに犯されて、よがり声を上げていたんです。
実は僕、父はいません。あの当時は僕と母と当時まだ小学生の弟の3人暮らしでした。父は僕が小学生の頃にビルの屋上から落ちて亡くなっています。」
やがて、平川は「母はずっと性欲を処理できずあのとき快楽に負けてしまったのかもしれません。」と絞り出すように答えていた。
平川は続けて
「僕はそれから学校にも行かず母もそれにたいし何も言いませんでした。母も半分鬱のようになっていましたが小学生の弟にだけは悟られまいとしていました。
しかし母がレイプされた事はすぐに町の噂になりました。この町であっという間に広まりました。
当然というか一連の行為は写真に撮られていて、同級生の母親というのがネタになったのか不良グループがそれを幾人かのクラスメイトに見せびらかしたようです。」
さらに続ける
「数週間ぐらい後、ダブルのスーツを着た白髪でオールバックの大柄な男が訪ねてきました。県議会議員の藤木大助氏、名前は知ってました。
実はその議員は母がレイプされた物置がある家に住んでいるいじめっ子の一人の親族でした。同居しているわけでもなく、いじめっ子の一人は分家で名字も違うのでその議員がいじめっ子の祖父だということを僕達は知りませんでした。」
「無理に思い出さなくていいですけど、名前覚えてますか?」豊原はその男の名前を問う。
「確か森田…フルネームは覚えてません。」
「恐らく森田は主犯たちから親族の権力故に巻き込まれたんでしょう。
その議員は当然孫が悪い仲間に巻き込まれたのをよく知っていたので、慰謝料や示談金を渡す代わりに、この事をなかった事にしてこの町から出て行って欲しい、というような事を言いました。
もう母には選択肢はありませんでした。そのお金を受け取り藤木議員の言うとおりにして僕らは逃げるように町を出ました。
向こうは数千万単位を渡そうとしていましたが、母は『お気持ちだけで結構です』と受け取りを拒否しました。母とその議員の会話によると、結局1000万円を受け取ったようです。」
「高校時代からはそれなりに幸せでした。自慢じゃないですけどモテるんですよ。結構告白とかされました。でも恋をする気力はもちろんない。振りました。
あれから10年以上経ちますが、今となっては1度のレイプで大金を手に出来て実は美味しかったのではないかと、他ならぬ母がそう思っているようです。もちろん僕もですけどね…。」
「そんなことがあって、よく教員を目指そうと思いましたね。」今江が失言し、豊原に頭を叩かれる。だが、平川はそんなことはどうでもいいと言わんばかりに
「もうあんな事が起きないように教師を目指したんです。それにあの悲惨な思い出を塗り替えたかった。
今となっては、あのことは僕の恐怖が見せた幻だったんじゃないか…そんな風に思えてなりません…。」
「やっぱり、14年前のいじめの被害者だった、平川誠が犯人でしょうか」
「事件は日曜日に起きています。当然平川にはアリバイはありません。」
「いや、違う。犯人は別にいる。」
向かった先は被害者の勤務先。
「鈴木さんは犯人の服を掴んでいました。家宅捜索令状は簡単に取れます。犯人はあなたですね。日高社長」
犯人として名指しされたのは社長の日高であった。
「あなたの口座を調べさせていただきました。あなた5年前に投資に失敗し、多額の借金を背負っていますよね。
しかし、ここ1年で一気に返済している。あなたが裏金作りの主犯で、その一部を借金返済に充てたんじゃないんですか」
立花は動機を語り出す。
「あいつは真面目な男のふりをして、私を恐喝してきたんだ。『俺も裏金作りに加担させろ』と、脅迫してきたんだ。奴は俺の言うことを聞かないとあんたたちのやっていることをばらすと言ったんだ。だからあの日、会社近くのショッピングセンターの地下駐車場で話そうと言って誘い出し、殺す計画を立てたんだ…。」