神聖暦115年、私はA国のX男爵家に生まれた10歳の少年だ。前世の記憶があるものの、それは断片的で、Qと呼ばれ、竜のような轟音と火が上がる不思議な世界で暮らしていた記憶がかすかに残っている。
この世界では、10歳になると「祝福の儀」または「スキル決定日」と呼ばれる重要な儀式がある。与えられるスキルが人生や職業を左右するため、私は冒険者になりたいと密かに夢見ていたが、家族には言えなかった。X男爵家は代々騎士として王国に仕えることが伝統だったからだ。
産業革命期のような技術レベルで、蒸気機関や歯車技術が発達しているこの世界では、スキルや魔法が重要な役割を果たしている。緊張しながら神殿に向かい、スキルボードに触れた私に与えられたのは「会話」というスキルだった。初対面の人とも自由に会話できる能力だが、攻撃系でも、回復系でも、支援系でもない。一見すると役立たずに思えるこのスキルに絶望し、気を失ってしまった。
目が覚めると自分の寝室にいた。これからどうすればいいのか。騎士になるための剣術訓練も始まるはずだったが、このスキルでは難しいかもしれない。しかし、もしかしたらこの「会話」スキルが、私の夢への新たな扉を開くかもしれない。そう考えながら、私は未来に思いを巡らせた。
その日の夕方、父親に連れられて森に入った。しかし、父は私を置いて去ってしまった。捨てられたのだ。この森には魔物が存在する。魔物には大きく分けて二種類あり、生まれつき魔物であるものと、生まれた後に魔物になるものがいる。
私が住む世界には、生前の世界のような生物が存在し、魔物もその生物に似た形態や生態を持っている。この森はコボルトが出るそうだ。コボルトは背丈が人よりやや高く、豚の頭を持つこともある緑やピンク色の魔物だ。他にもオーガは角が生えた人型の魔物で、マッチョな戦闘狂として知られている。
森の中で一人取り残された私は、恐怖に震えながらも、自分の「会話」スキルが何か役に立つかもしれないと考えた。もしかしたら、魔物と交渉できるかもしれない。あるいは、森に住む精霊や他の生き物と意思疎通ができるかもしれない。そうでなければ生きていけない。
暗闇が迫る中、私は自分の能力を信じ、この危機を乗り越えようと決意した。「会話」スキルが自分の運命を変えることを願って。
夜が深まるにつれ、森はますます不気味さを増していった。木々のざわめきが風にのって聞こえ、時折遠くで獣の鳴き声が響く。突然、茂みが揺れ動き、そこから大きな影が現れた。オーガだ。筋骨隆々とした体に、牛のような角が生えている。私は恐怖で足がすくんだが、「会話」スキルを思い出した。
震える声で、私は話しかけた。「助けて、まだ死にたくない!」
オーガは一瞬驚いたような表情を見せたが、すぐに怒りの形相に戻った。「人間の子供か。お前を食べてやる!」
通じた。やはり「会話」は魔物とも自由自在に会話ができる。「待って!私はこの森に捨てられたんだ。それに、あなたの力になれるかもしれない。人間の世界のことなら何でも教えられる。」
オーガは立ち止まり、首をかしげた。「人間の世界のこと?それが俺にどう役立つというんだ?」
ここだ、と私は思った。「人間の村の弱点とか、どこに食べ物がたくさんあるかとか。そういう情報を教えられる。」
オーガは考え込んだ様子で、しばらく黙っていた。そして突然、大きな声で笑い出した。「面白い小僧だ。お前を食べるのはもったいない。俺についてこい」
オーガは私を連れて歩き始めた。私は恐る恐る尋ねた。「どこへ行くの?」
「俺たちの村だ。お前を族長に会わせる」
私は安堵と不安が入り混じった気持ちで、オーガについて行った。これが新たな自分の運命を作るのか、それとも最後の時となるのか。ただ一つ確かなのは、「会話」スキルが私の命を救ったということだった。