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はぐれ勇者の鬼畜美学〜はぐれ勇者と魔弾の射手〜
第二話『自室での出来事』
(はぐれ勇者の鬼畜美学×PARADISE LOST(一部設定))
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腕を取られ地面に押さえつけられる形となった瑞樹はそれでも首だけを動かし“偽物”を睨みつける。

「何をする気ですか? 言っておきますが私は佐渡家に関する機密情報など知らないし、知っていたとしても拷問されても口を割りませんよ」

「だ・か・ら、オレは本物だと何度言えば・・・・・そうだ、ならオレが知ってるキミの秘密を語ってみせるよ。そうすれば信じてもらえるだろ?」

と、悪辣な笑みを浮かべる修二。

「ふん、私に秘密なんてものは―――――」

「一二歳の夏だったか。オレに付き合ってホラー映画見た次の日に漏らしたんだよな。ただ、気づいたのが早かったからすぐに証拠隠滅してたけど」

「―――――ッ!」

途端に顔を真っ赤にする瑞樹。

「ばれてないと思ってたかい? 実は一生懸命布団を乾かしてるキミを目撃しててね。他にも、そうだな。十三歳の秋くらいに廊下に飾ってあった時価五百万はする花瓶が割れる事件があっただろ。丁度その時地震があったからそのせいで落ちたと思われているけど、実際は地震でバランスを崩したキミが咄嗟に花瓶を掴んだせいで落ちたんだ」

今度は顔を真っ青にして口をパクパクとさせる。
彼女の無表情がここまで崩れるのは本当に久しぶりだと思いながら、修二はさらに暴露を続ける。

「十四歳の冬には厨房でボヤを起こしかけたのもキミだし、十五歳の春には―――――――」

「も、もうやめてぇえええええええ!!」

流石に限界がきたのか。
修二の言葉を遮って、丁寧な言葉遣いを殴り捨てた瑞樹の絶叫が屋敷中に響き渡った。




―〇●〇―

「つ、つまり修二様は異世界に召喚されて、そんな風になったという訳ですか?」

「その通り。理解してくれたかい?」

ようやく本物だと信じてもらえた修二は、とりあえず互いに椅子に座って机挟んだ状態で何が起きたかを説明することにした。
ちなみに、瑞樹はいつもの無表情スタイルに戻っている。

「確かにそれなら納得できるのですが、それにしても―――――」

チラリ、と視線が修二の顔を向く。
瑞樹とて異世界の存在は知っている。
三十年ほど前から十代の少年少女たちが異世界に召喚されるようになったのは一般常識だ。
ならその基準を満たしている修二が召喚されてもおかしくはない。
しかし、

「幾らなんでも変わり過ぎ、だろ?」

瑞樹の疑問を察したのか、修二は先読みして答える。

「ま、オレも色々あったのさ。色々とね・・・・」

一瞬、どこか懐かしいような、そして悲しそうな表情を浮かべる。
が、それは淹れ直したコーヒーと共にすぐに呑み込まれた。

「ま、それは置いといて、これからの話をしようか」

修二はコーヒーカップを机に置き、本題に入る。

「この世界に帰ってきたことでオレは“帰還者”って扱いになる。この意味が分かるよな」

「・・・・バベルですか」

バベル。簡単に言ってしまえば異世界からの帰還者達を管理・保護し、そして戦争の道具とする機関。
彼らは決して帰還者を見逃さない。
おそらくすでにこの屋敷宛に東京の特別自治区にあるバベルへの入学要請書が届いている筈である。
もし一週間以内に登校しなければバベルから職員が派遣され取り押さえられるはめになる。

「別に行きたくない訳じゃない。むしろ行きたいくらいだ」

修二は真剣な表情で言う。
行かないという選択肢は最初から存在しない。そうでなくてはこの世界でやると決めたことをやれないからである《・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・》。
今はまだ誰にも語る気は無いが、いつか必ず成し遂げる。
己が心に誓った事を修二は決して忘れない。

「その前に、当主様や真一《しんいち》様に説明の必要があると思いますが」

瑞樹の口から出た名前に、修二は顔をしかめた。

「兄貴はともかく、親父は何も言わないさ。あの人にとってオレは欠陥品だからね」

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