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過去の栄光〜光と影の兄弟〜
第1話 努力の弟と才能の兄 追憶
(オリジナル)
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昔、弟、斎藤 洸也《さいとう こうや》は落ちこぼれと、俺、斎藤 陰梨《さいとう かげり》は天才と呼ばれていた。
別に、洸也が人より物覚えが悪いとか何か出来ないとかで落ちこぼれと言われていた訳ではなかった。それどころか何事も要領が良く、そつなくこなせていた。
ただ、ただ悪かったのが、俺が圧倒的に弟よりも出来が良かったことだ。
「同い年で兄弟なのに、2人は似てないわねぇ。」
と幼稚園で他の父兄に言われるくらいに。
俺は幼稚園に入る頃には既に小学校の勉強をし、幼稚園の終わりには小学校で習う勉強を終えた。
最初は、喜んでいた記憶がある。
何せ、周りの同世代の友達は俺に羨望の眼差しを向け、両親は俺を見る度に賛美の言葉をかけてくる。ガキだった俺はすっかり天狗になっていた。
だからだろう。
弟が、洸也が精神的に追いつめられている事に気づかなかった。
そんなときだった。
あの事件が起きたのは.....そして、俺が変わったのは。
事件が起きたのは夜中の2時を回った辺りだったと思う。
突然、ピーポピーポとサイレンを鳴らしながら、救急車が俺の家の前に止まった。
その時、俺は寝ぼけていたが好奇心というやつが無意識に働き、気づけば布団を押し退け、玄関に出ていた。
外に出るとそこには必死な顔をした救急隊員が頭から血を流した弟を救急車に乗せていた。
それを見て、俺は一気に目が覚め、そしてそこにいた両親に何があったかを聞いた。すると、両親が平然とした口調でこう言ったのだ。
「何、たいしたことじゃない。洸也が2階から飛び降りただけだ。それよりも洸也、お前は明日から小学校だろ?早く寝なさい。こんなことで寝坊したら、目も当てられないぞ。お前は洸也よりも有能なんだからな。」
と。
そう言った両親からはまるで弟が、まるで他人かのような印象を感じた。
そして、そこでやっと気づいた。
俺が天才と呼ばれ始めていた頃から、弟とまともに遊ぶことはおろか、ろくに口もかわしていなかった事に....
あの夜から、俺は天才をやめた。そして俺は変わった。
今まではどんな事をしても誰よりも出来たのに、今ではどんな事をしても誰よりも出来なくした。
勉強のレベルもわざと周りに合わせた。そして、将来有望と言われたボクシングもやめた。
極めつけに両親とは口を聞かなくなった。
そんな俺の様子に、両親は慌てていた。
変わる前の俺ならそれを心配と受け取っただろうが、今の俺なら分かる。
両親が心配しているのは俺ではなく、自分達の[天才]がいなくなること、ということに。
そんな日常が始まって、早3ヵ月が経った。
その日は弟の退院の日で俺は1人で、弟を迎えに行った。
両親はもうすでに信頼するのに値しないとわかったからだ。
だが、洸也は、いつまでたっても出てこなかった。
.....後から聞いた話だが、洸也は叔父の家に引き取られたらしい。
だがそんなこと、俺に関係なかった。
それからも、天才に戻ることなく、ただ、平凡に生き、両親達を失望させた。
俺が高校生に上がる頃には、両親は俺に構わなくなり、俺に話しかける事もなくなった。
そんな時だった。あの電話がかかってきたのは.....
その電話は叔父からだった。
といっても、別に洸也と話をさせるため、とかではなく、高校受験の合格のお祝いの言葉と当たり障りのない世間話をしただけだった。
その時に洸也の事も聞き、驚いた。
あの洸也が今じゃ、俺が諦めたボクシングで全国大会に出るほどの腕前で、勉強も上の中、だそうだ。
そして、次の叔父の言葉で俺は耳を疑った。
「......洸也は如月高校に入学する予定だよ。」
如月高校!俺が3月に通う事になっている高校だ。
俺は叔父に、なぜそんなことをいったかと聞いたが、叔父は終始、「他意はない」と言っただけだった。
そして、3月。
俺はブレザーの制服に着替えるとからっぽの鞄を持ち、部屋を出た。
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