アキトはゲンドウに連れられ、ネルフ本部内を歩く。

そんな中アキトは意識下で警戒を始めていた。

無論、怪我を見てくれたのはネルフの付属病院だった事を探索中に知ったので、あくまで念の為だ。

とはいえ、だ。

ゲンドウは自分の事をこの組織の司令だといった。

アキトはその事に強い警戒心を抱いていた。

アキト自身が知っている最高管理職についた人間といえばアカツキ・ナガレが上げられるが、そのアカツキの姿を見ていたからこそ解る事もある。

組織の最高管理者は、私情などだけでは動かない。

其処には必ず自分にとって益になる事がある。

もっとも、アカツキに限っては其処の部分は少し甘い所もあったのだが。

―――恐らく、自分は此処で何かをやらされるのだろう。

組織のTOPが直々にする話だ。

そうそう良い事は無いだろう。

アキトはそう考えていた。

そしてその予想はほぼ当たってると言えた。



シルフェニアリレー企画
黄昏の夢
the red world and true black

第八話  見えない未来(あした)



ゲンドウに連れられたアキトは、一つの部屋の前に到達していた。

司令室だ。

どうやら、話は其処で行なわれるようだ。

ゲンドウがIDカードを差し込むと、軽い電子音と共にドアが開いた。

―――暗い、な。

アキトはまずそう思った。

五感が著しく低下している今、このような薄暗い部屋だと途端に何も見えなくなる。

完全に暗闇ではないが、電気はついてない。

外の光が差し込んでいるが、それが余計に見えにくくする要因となる。

そういった関係で部屋全体が薄暗くなっているのだ。

どうにかゲンドウの気配を辿りつつ、部屋の中に入る。

どれだけ希薄だろうが、気配を探る事は木蓮式の初歩である。

マスタークラスにもなると『気配』を探る事に関しては正に超人だ。

「……で、そろそろ用件の方を伺いたいのだが? ついでに、電気をつけて貰えるとありがたい。正直殆ど『見えてない』んでね」

「よかろう」

アキトの不躾な物言いにも、ゲンドウはすんなり答えた。

明かりがともると其処にはゲンドウ以外にもう一人、初老の男が居た。

銀髪だか白髪だかの髪をオールバックにしている。

「はじめまして。私はネルフ副司令の冬月と云う者だ」

そのまますぐそばにあるソファーに座るよう促される。

アキトは普通、こんな司令室にソファーなどあるのだろうか、などとくだらない事を考えつつ其処に座る。

丁度真正面にある机に備えつきの椅子にゲンドウが座る。

冬月はその隣に控えている。

「単刀直入に言おう」

ゲンドウが手を口の前に持ってくるポーズ――所謂ゲンドウポーズだ――を構えつつ切り出す。

「我々に協力してくれないかね? 天河 アキト君」

その後を継ぐように冬月が言った。

「協力?」

「そう、協力だ。こやつは口下手なので私が変わりに説明させて貰うが……」

其処でアキトが聞いたのは以下のような事だった。

人類の天敵である使徒と呼ばれる存在、それに対抗する為に開発されたロボット――正確には人造人間だが――エヴァンゲリオン。

使徒迎撃都市であり、
スーパーコンピュータに管理されたこの町、第三新東京市。

その詳しい情報。

そして協力とは使徒に対抗する為の技術の提供だった。

どうやら、アキトが第三使徒との戦闘中に飛び込んで来た謎の物体の中に居た事はばれているようだった。

恐らく監視カメラにでも引っかかってたのだろう。

戦闘中だったのだから普段よりも感知しやすかったのかも知れない。

しかし、そもそも自分が協力できる事などあるのだろうか?

アキトは疑問に思った。

あれだけのロボットを開発出来るのならそれだけの技術力があると言う事だ。

恐らくネルガルでもあのような物は作れないだろう。

特にA.Tフィールドと呼ばれる一種のバリアー等は、聞いた限りだとディストーションフィールドよりも遥かに高性能だった。

ディストーションフィールドではあそこまでの効果は望めないだろう。

「技術提供、か。何故、と聞いても良いか?」

「我々に有益になりそうなものを取り込むのに、問題があるかね?」

「………」

冬月の言うとおりだった。

自分達に益があるのなら、多少のリスクを負ってもそれを手に入れるのが組織だからだ。

だが、アキトはその後ろに何かきな臭いものを感じ取っていた。

五感が著しく低下してからそういった人間の『裏』とでもいうべきものや、感情などを感じ易くなっていたアキトにはおぼろげながらそれが感じ取れたのだ。

しかしこれは自分一人の判断で決めてしまって良い問題なのか。

其れがもっとも考えなければいけない事だった。

しかし今はナデシコに連絡する手段が無い。

向こうでこちらを見つけてくれるのを待つしかないのだ。

しかしそんな時間の余裕を持たせてくれるとは思えない。

「……一週間ほど時間をくれ。その間に考えを纏める。其れ位の時間を貰っても構わないだろう?」

結局、アキトが出した答えはそれだった。

この一週間の間にナデシコから接触があれば良し。

そうでなければ自分でどうにかするしかあるまい。

行き当たりばったりな考えだったが、アキトにはそれしか思いつかなかった。

「問題無い」

ゲンドウのその一言で、本日の会合はお開きとなった。

「……所でその間俺は何処に居れば良い? あいにく、今は手持ちが無い」

「ジオフロント内にある職員用の部屋の一室を貸そう」

ゲンドウは流石に仕事があるので、案内は冬月がする事になった。

こうしてアキトは一週間の間ジオフロントで生活する事となったのだった。



◆ ◆ ◆



「―――碇君、入って来なさい」

碇シンジはその声を聞いて教室の中へと入った。

昨夜、行き成り同居人である葛城ミサトから学校に通う事を告げられたシンジは、しかし学校に通う事にあまり乗り気では無かった。

依然居た所での陰湿的なイジメの事もあったが、それ以上に何日か前に自分が病院に運んだ青年―天河 アキト―の事が気になっていたのだ。

ミサトの話では既に退院したらしく、あの日以降シンジがアキトの姿を見る事は無かった。

自分がかつて、これ程までに特定の人物の事を気にした事があっただろうか?

シンジはその事実にひどく驚いていた。

自分の事なのに、と少し自虐的に考える。

そんな事を考えてるうちに何時の間にか自己紹介を終えていたらしい。

無意識とは怖いものだ。

「碇君、席は空いている所を好きに使いなさい」

考えた末に真っ先に目がついた所に座る。

そんなこんなで授業が始まった。

授業も半ばに差し掛かったところで、シンジの使う端末にメッセージが入った。

<碇クンがあのロボットのパイロットって本当? Y/N>

ロボット、とはエヴァンゲリオンと呼ばれてたあれの事だろうか?

シンジは考えた。

少し考え、NOと答える。

<ウソウソ、知ってるんだからね。本当は乗ってるんでしょ? Y/N>

躊躇したが、結局YESと打ち込んだ。

これ以上嘘を言っても意味が無いと思ったからであり、そして対応するのが面倒になったからである。

これをネタに何かを言われるのは明らかだった。

その回答を打った瞬間、教室が歓声に包まれた。

どうやら今のやり取りはクラス全体に知れていたらしい。

質問攻めにあったシンジだが、自分とて知ってる事は少なかったので答える事が出来ない質問の方が多かった。

―――質問攻めにあってるシンジは、教室の隅で眼鏡を光らせる少年には気付かなかった。

それがとある事件の発端になるとは、この時誰も知る由は無かった。



ガシャンッ!

頬を殴られた反動で後ろのフェンスにぶつかる。

シンジを殴った少年の瞳は怒りに爛々と輝いてる。

少年の名は鈴原トウジ。

シンジが転校してから数日後に学校に来た―正確には休んでいたらしい―少年だった。

その後ろには眼鏡をかけた少年の姿があった。

「悪いね。トウジの妹、こないだの『コト』で怪我しちゃったらしくてね」

眼鏡をかけた少年、相田ケンスケが言った。

こないだの『コト』―――間違い無く使徒との戦闘の事だろう。

「ワシはきさんを殴らな気がすまんのじゃぁ!!」

もう一撃。

「……僕だって、好きで乗ったんじゃない」

小さく呟いたその言葉は、誰にも届く事は無かった。

「今度は足元よぅ見て戦うこっちゃな!」

怒りもあらわに、トウジはその場を後にした。

其処には殴られたシンジだけが残った。

頬を押さえるその泣きそうな顔は、何処か迷子の少年を思わせるものだった。


翌日。

シンジが学校に登校し教室に入ると、教室中から白い視線を集める事になった。

シンジはその目に見覚えがあった。

―――そう、『妻殺しの子』として見られるものと同じだったのだ。

昨日の一件は既にクラス中に知れ渡っていたのだ。

相変わらずトウジが睨み付けて来る中、シンジは一人自分の席へと向かうのだった。



◆ ◆ ◆



場所は変わってナデシコ。

ルリはアキトが失踪してから今まで、アキトの探索を続けていた。

コミュニケが置いてある事に焦ったが、其処はイネスの力でアキトの体内に打ち込まれたナノマシンの位置をトレースする事を可能に。

そしてつい先程、ハッキングで支配下に置いた監視衛星などと併用して遂に捕捉に成功したのだ。

「……第三新東京市」

アキトが現在居るであろう都市の名前を呟くと、ルリはその映像に目をやるのだった。

その後の調べの結果、アキトが現在ある組織に身柄を確保されている―無論まだ現時点では悪い意味ではない―事が判明した。

とはいえ、この中で現状アキトに接触できるのは単独ジャンプが可能なイネスしか居ない。

協議の結果、アキトの体の事もあり、今後の事を考えコミュニケを持ってイネスが行く事となった。

勿論当初はアキトの居る場所を知ったラピスが

「ワタシもアキトを迎えに行く!」

と言ったが、ラピスを連れて行きわざわざ弱みを見せる訳にもいかず。

結局はコミュニケを渡した後、真っ先にラピスに連絡を入れる事で手を打つ事になった。

こうして細心の注意を払いつつ、イネスが単身第三新東京市に向かう事となったのだった。

アキト、決断まで残り二日の時の出来事だった。








































後書きっぽい何か。

どもー神威です。

しかし、全くもって難産でした。

ぶっちゃけ丸投げ状態です。

そもそもアキトとラピスのリンクの状況が解らなかったので、現状では半分途切れてるような感じになっちゃってます。

ついでに何かシンジきゅんもヤバイ状況になってるし(ぁ

確か原作だと殴られた直後に使徒が来たと思うんですが、それだと微妙に展開速すぎる気がしたので、殴られイベントを早めて見ました。

だったらアキトやナデシコ組みの現状書けよ、って話しなんですがね。

何はともあれ次の人(恐らくくまさん)、頑張って下さい(ぁ

全く持って丸投げ状態で続く。




慣れぬ感想ゆえに、色々と平にご容赦を。

あれ?ここで終わり?
えっと、つーことは、この続きから自分が書くんですか?
くそー、やるな、神威さん。
正直、そう思ってしまった、くまです。
ですが、これでトウジ妹のお見舞いフラグが立ったので、それを最大限生かし(ry
(小学生にフラグってどうよ?
 まあ、特定一部の人は喜びそうですし、某所のオネバでもやってるけど…)
コホン。
ともあれ、アキトは決断を迫られ、シンジは殴られ、イネスは第3東京へ。
少しづつではありますが、物語が動きつつある様です。
現段階ではどうなるかは全くもって未定ですが、
出来うるなら、皆の足を引っ張らぬようにしたいと思います。
次話でお会いしましょう。
では



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