「戦場とゲームと」 ZOCってなあに
 今日は初めまして、宜しくお願いします。
 何から手を付けようかと少し考えましたが結局ここから始める事にしました。
 先に結論を言ってしまうと、「盤上に置かれた部隊コマ(ユニット)の戦力そのもの」なのですが、ではなぜそうなのかという事をこれから少し見ていきます。

【部隊】
 いわゆるZOC(Zone of Control)、部隊コマの周囲6マス(Hex)に支配地域が発生するゲームといえば、作戦級、部隊規模は軍団、師団、旅団、連隊、くらいでしょうか。大隊以下の規模だと、戦場の年代にも左右されますが射撃戦に推移してZOCがあったりなかったりというカンジで、文字通りの作戦戦術級という分類の境界にもなります。ここではwikiでも、「一正面の作戦を遂行する能力を保有する最小の戦略単位」とされる事が多いとされる、師団に着目してみます。
 歩兵師団でおおむね兵員1万前後。一口に1万といいますが、これ、書きながら思い付いたんですが、社員100人の中小企業が100社の規模!と考えるとけっこう師団ってスゴくないですかそうですか当たり前ですか。まあたかが中隊ですら200人、つまり2コ中小企業部隊(もう止めなさい)ですからね。と、ここまで書き進めてくれば趣旨も見えて来ると思います。
 そうです、盤上では僅か1つの紙のコマに過ぎませんが、あの中には多数の兵員と各種銃砲火器がぎっしり詰まっているのです。
 師団であれば実質、連隊〜大隊単位で存在する戦闘集団が有機的に戦力を発揮し結果、師団として機能しているのがあの、隣接周囲に発生する支配地域、ZOCの実相です。師団のZOCの範囲、マス目の線(ヘックスサイド)に中隊くらいの小部隊が展開し実際の戦線が形成されていると思えばなおイメージが喚起されるでしょう、陣地マーカーでもあれば守備線として完璧ですね。

【効果】
 という事になれば、基本戦力が師団のゲームで大隊にはZOCが無い、というルールや、戦闘結果で混乱したらZOCが無くなる、という現象についても理解しやすいのではないでしょうか。川の対岸に及ばない、戦力半減もありますね。
 戦場では様々な戦局が現れます。極端な例では、「敵のZOCに入ろうとしたら部隊が壊滅してしまった」という、何が起きたのか良く判らないポルナレフ的とでも表現するしかないような事も起こります。
 WW2東部戦線、序盤〜中盤ではドイツ軍との練度格差で攻勢に出たハズなのに何故か大損害、とか、ソ連軍は何度も苦杯をなめていますし、西部戦線でもあの有名なヴィレル・ボカージュ(ヴィレ、でもう変換候補が)の戦闘などそのレア・ケースになるでしょう。しかしここに敢えて“レア”と表記した通りですので普通は、「ZOCに入ったら移動停止」の処理がされます。
 戦線後方での部隊再配置を表現する「戦略移動」では、移動開始、終了ともに敵ZOCの離脱、侵入を禁止されたりします。「鉄道移動」など移動力無限、とも表現されますね。敵ZOCを無視しての乗車が不可能、鉄道から下車した直後の部隊はつまり戦闘不能、だから敵のZOCに入れない事も、ここまで来ればもう自明でしょう。

【交戦】


ZOCに入ってからも大変です、というか本番ですね。ZOCに入るのは“タダ”でも出るのは“有料”つまり移動コスト(MP)を消費するというゲームもあります。例えば既述のWW2西部戦線でノルマンディー上陸後に戦われた後半期、戦場は連合軍の圧倒的航空優勢の支配下にありました。連合軍空軍のZOCがドイツ軍の全軍を上空から覆っている様なモノです。これを表現する為か、コマンドマガジン「コブラ作戦」(SPI/CMJ)では晴天時のドイツ軍の移動力は額面の1/3まで低下します。そしてZOCからの離脱にMPを消費しますのでかなり絶望的です。吹けよ風呼べよ嵐、とばかりに天候決定ダイスロールにはかなり気合が篭ります。嵐を呼べば全力発揮できるのですから。
 一度ZOCに入ったら戦闘結果以外では移動不能というルールもあります。ゲーム通になると“強ZOC”なんて呼んだりします。具体例で最も有名なのがNAWシステム、Napoleon At War、という1975年の昔に米国のSPIという会社が出版した、フランスの有名な、あの英雄ナポレオン……ああそういえば近年コミックも出てますね、の戦いをテーマとする、1コンポーネントに4つの戦場をセットしたクアドリ、今風なら4in1のゲーム、の、ルールです。
 古典、SLGスタンダードの代名詞としてNAWシステムの名はしばし挙がりますがほんとにコレをプレイした人間は極少数でしょう、取り敢えず私はSPIコンポーネントは触った事はありますがプレイした事はありませんスミマセン。国内ではかつてホビー・ジャパン(HJ)がSLG雑誌「TACTICS」にその中の「マレンゴの戦い」をライセンスしていますのでコッチをプレイした人はそれなりの人数ではあるかもしれません。(英語ですが、オンラインのプレイ環境がありますのでurlを掲示しておきます。:https://www.hexwar.com/secure/games/napoleon-at-war/default.aspx)当時の戦場がどういうものかは前出コミックや各種映像、書物に任せますが敵のZOCに踏み込んだらあとはなるようにしかならない、容易ならざる敵前機動の困難を表現してのルールでしょう。
 これがそのまま現代戦の再現にも適用されたりするのがSLGの面白いところで、同じく雑誌付録としてライセンスされた「中国農場」「ゴランの戦い」(SPI/HJ)はアラブ・イスラエル間で戦われた第4次中東戦争がモチーフなのですが、平坦な地形で彼我が火力で釘付けになる砂漠を舞台にする現代戦と近世の肉弾戦が盤上では共に強ZOCで表現されるというのは興味深いと思いませんか思って下さい。いえマジメなハナシ、NAWであろうがチットシステム、或いはカードドリヴンでもとにかくその戦場を表現するのに相応しい手段が結局、良いルールでありシステムなのです。例えば同じ第4次中東戦争でも、少し戦域をスケール・ダウンし大隊規模の精密戦闘を描写した「スエズ’73」では、ZOCがあるのに射程と、おまけに臨機射撃まであるというスゴイ事になっています。が、これはこれで射撃戦により両軍が急速に消耗していく、苛烈な現代戦の雰囲気が実感……皆様ご想像通りにかなりプレイアビリティは低い、ですが。

【戦闘】
 本番、と称しつつ前置きが長すぎました。そうです!戦闘です。攻撃の、防御のためのZOCですので。ここでようやくCRT(Combat results table)、戦闘結果表を引っ張り出してます。戦場により、勝っても負けても損害続出のブラッディなモノ、押し合いへしあいでなかなか損害が出ないタイプと様々ですが大別すると後者区分のいわゆる「後退型」に着目します。最高比、或いは戦力差で殴ってようやく確殺出来るか、場合ではまだDR、防御側後退で凌いでセーフ、ぐぬぬという。
 後退型CRTを持つ戦場での定石が、攻撃目標を自軍部隊が展張するZOC包囲下に絡め取り後退を強制しこれを除去する俗称“囲んでポン”です。でもちょっと待って下さい、後退して除去?。少しヘンですよね、いきなりこのルールを読んだら。
 然しながら文頭からここまでZOCについてお付き合い願った読者諸兄姉には、その想起される盤上での戦術状況がなるほど、除去なのだなともうご納得かと。
 DR、後退の戦闘結果は、既にして攻撃が成功したその戦果を表現しています。再び戦闘を師団規模と規定すると酷薄ですが、小隊や中隊、万の軍勢が数十数百の損害でどうこうはなりません。このままだと師団として壊滅の危機に瀕する、と師団長が決断し上級司令部が許可したからこそ戦闘正面を放棄しての後退なのです。これが、後退先にも同様のZOC、敵部隊が発揮する銃砲火力が及んでいたらどうなるか。投降か、最後の一兵まで勇戦敢闘したのかは判りませんが結果は共に壊滅です。因みに、戦場そのものをそのまま「囲んでポン」してしまったのが戦史上でも唯一無二とされる、遥か紀元前、ローマとカルタゴの戦いで起こった「カンネー(カンナエ)の戦い」です。少しでも歴史や戦史に公私問わず触れる立場、これを読んでいる貴方も当事者です、「カンナエ殲滅戦」を知らないと少し恥ずかしいので今ここで覚えておきましょうきっと将来何処かで出くわします。そういえばハンニバルを主人公にしたコミックも近年出ていますね。

【作戦】
 ついでに少しだけ駒捌きの初歩の初歩でも。という訳で、どのコラムでどれだけの戦果が得られるのかとCRTを読み込む事もSLGをプレイする上で重要です。ムーヴとは即ち、盤上に、プレーヤが希望するCRTを割り振っていく行為であるとも換言出来るでしょう。圧倒的戦力で一方的に押しまくる戦いなんてまずありません(そう見えてもゲームとしての勝利そのものは難しかったり)。有限の戦力を最大限に生かす訓練として、オーソドックスな後退型CRTを持つSLGをプレイするのは良いと思います。敵戦線の弱点に強攻撃を仕掛け食い破り戦闘後前進で後背に回り込み、それからじんわりと押し込めば正面からはびくともしないハイタワーも比較的リーズナブルな戦力で吹き飛びます。戦力配分や戦闘解決手順の重要性が理解出来ますね。戦力を集中出来る弱点はどこか、確殺して突破できても攻勢が頓挫したら、今度は一転、突破部隊が孤立のリスクに晒されます。盤面を見据えての最善手、指揮官の決断、これぞSLGの醍醐味ですね。
 防御側も無論、弱点の背後に1ユニット置けるかどうかで包囲攻撃と戦線崩壊の危機を阻止できたりできなかったり。ムダ使いしていると決定的局面で戦力不足を招き、一気に敗勢へと傾いたりします。ココで6の目が出たら勝てた、負けたというのはやや興ざめかつ(過程もあれど)どうしようもありませんが、SLGでも「1歩損で負けた」という局面は現出します。これを理解し勝因、敗因を冷静に分析出来る様になったら十分なSLG棋力と言えるでしょう。私ですか?いやまあこうして言語化はできますけどねええ、理解と実行の間に横たわる広く深い狭間をたぶん永遠に(ry(遠い目)。

【補給】
 素人は「戦略」を語り、プロは「兵站」を語る。
 ま、私らSLGmaerはシュミゲーマーですので大いに戦略を語るワケですが(笑)、補給、大事ですね。兵站マーカーが直接盤上を移動するものまでありますし。補給切れで戦力半減、移動戦闘不能、最後は除去、とか。
 たいていはマップの端、或いは都市などの補給源から前線各部隊へ伸びる連絡線、補給線ですがこれはまずZOCで切断されますね、ZOCで切れない補給線は珍しいと思います。その上で、自軍部隊の存在が敵ZOCでの切断を無効化、補給線を接続出来るか否かを確認する形になるかな。戦場のテーマとして戦闘そのものより部隊の機動、運動戦により如何に敵を補給切れに追い込むかという戦いもあります。
 再びWW2東部戦線、時代は下がって1944年6月の事です。ソ連軍は戦中最大の反攻となった「バグラチオン作戦」を発動します。長期戦により兵力を消耗していたドイツ軍は膨大な物資に支えられる赤軍流の電撃戦に敗走を重ね、同年7月末までには開戦時の国境付近まで押し戻されました。作戦名は帝政ロシア時代に、前出ナポレオンが攻め込んで来た際の防衛戦である「祖国戦争」を舞台に活躍した将軍、バグラチオンに由来します。この一大作戦の中でのドイツ北部方面で繰り広げられた両軍の戦いを再現したのが「死闘!北方軍集団(Drive to Baltic)」(CMJ)です。

うーんでも、ここで紹介するのは少しアレかな。まず、指揮統制の概念を反映したシステムにより、SLGの一番の特徴でもある総ての部隊を同時に動か“せません”!、戦闘箇所も制限され、かつ本作の特徴でもある戦闘チットに振り回されます。しかも1ターンが3つのセグメントに分割され、当然の如く部隊はステップ持ちでと、システムそのものがかなりクセがあるのでまず理解そのものに手間取るかもしれません。ですが、数多くのリプレイがWeb上で公開されている通りに傑作の評価を与えられています。序盤は追うソ連に逃げるドイツ、そして増援の来援を待ってのドイツ軍の反撃と、かなりドラマチックな展開を見せます。機会があれば是非、チャレンジして貰いたい逸品です。
 さて、SLGではイロハのイ、初歩の初歩であるZOCに絡めてゲームと戦場の様相を幾つか実例を挙げつつ眺めてみましたが如何でしたでしょうか。……とする、と文章で規定されたルールを集積してSLGは成立しています。その通りにコマを動かしダイスを振ればプレイは滞り無く進行しますが、そこから一歩踏み込んでそれが当時の、何の状況の再現を意図したものなのか、と意識を向けてみると、SLGの“遊び方”に少し幅が出てくるんじゃないかと思うのです。



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