※本作品は『異世界の伝道師』0話からの分岐IFルートです。 先に『異世界の伝道師』の本編0話をご覧になることを強くオススメします。



【Side:太老】

 突然だが俺は今、リリカルな世界で科学者という職業に従事している。

「太老様。御茶のお代わりは如何ですか?」
「ありがとう、ウーノさん。ん? そういや、スカさんは?」
「また、研究室に籠もられています。もう三日になるかと……」

 ウーノ。イタリア語で数字の一を意味する名前で、戦闘機人の長女で下に四人の姉妹を持つ。
 この名前を聞いた時、ちょっと安直過ぎないか、と思ったのは言うまでもない。現在はスカリエッティの女房役というか、助手兼秘書のような役割を担っている。もっと簡単に述べると、この秘密研究所のお母さん的存在だ。ただ、それを本人に言うと怒られるから内緒だ。
 この研究所の持ち主で、彼女達の生みの親であるはずのスカリエッティでさえ、本気で怒ったウーノには頭が上がらないほどだ。

「またか……。あの人も一度研究にのめり込むと見境が無くなるんだよね」
「太老様もドクターの事を言えないと思いますが……」

 失礼な。俺をあんなマッドサイエンティストと一緒にしないで欲しい。

 彼女の生みの親、ジェイル・スカリエッティは一言でいうと変人だ。
 俺が知っている原作『魔法少女リリカルなのは』ではバリバリの悪役で登場していたが、実際に話してみるとそんなに悪い人では無かった。
 銀河アカデミーに行けば、普通に居そうな変人。変人の中の変人とでも言うべきマッドの頂点『白眉鷲羽』という伝説を間近で見て育ってきた俺からしてみれば、スカリエッティと言う人物はまだ変わり者≠ニいう程度の変人という認識で収まっていた。
 とはいえ、あんなのと一緒にされるのは甚だ遺憾だ。こんな一般人を捕まえて酷い話だと思わないか?

「太老様がこちらに来られてから、もう二年が経ちますね」
「ああ、そう言えば、もうそんなに経つんだね」

 取って置きの御菓子を出し、ウーノの入れてくれた御茶を楽しみながら、ほのぼのと午後のティータイムを満喫する。
 そう、今から二年前。ミッドチルダ近くの次元の海をプカプカと漂流しているところをスカリエッティに拾われたのが、彼女達と一緒に暮らし始めた切っ掛けだった。
 生身で次元の海を漂流している人間を見かけたのは初めてと興味を持たれてしまい、そこからスカリエッティとは科学談議を通して趣味を分かち合い、今の関係に至ると言う訳だ。

「そう言えば、ずっと部屋に籠もって何に熱中してるんだ?」
「私達の身体のパワーアップ計画を思いついた、と仰っていましたね……必殺技がどうの。後で確認しておかないと」
「そういや戦闘機人だっけ。君達の身体も面白いよね」
「太老様ほどではありませんけど……。太老様は私達を全然恐れませんよね?」
「サイボーグなんて珍しくもなんともないからね。人工知能に肉体を与える技術だって、あっちでは遙か昔に確立された技術だし」

 天南特例などで知られるバカの代名詞、天南静竜。アイツも全身をナノマシン改造されたサイボーグだ。技術的にいえば、彼女達よりも遥かに高度な。
 戦闘機人というのは誕生時に人為的な処置を施す事で機械と人の身体を融合させ、常人を超える能力を持つ存在を生み出す技術、と言う話だが生体強化やサイボーグ化、果ては肉体からの脱却など、あちらではもっと進んだ技術が日常の中で当たり前のように使われている。恒星間技術の発達していない初期文明段階の世界ならいざ知らず、その程度の事で道徳や倫理がどうの言う段階はとっくに終わっている世界から俺はきたのだ。

「それにメンテナンスとかは確かに必要だけどメリットもあるだろう? ちょっと丈夫な身体と特殊な才能を持って生まれたくらいに思っておけばいいんじゃない?」

 これは本音。正直言って彼女達が何者か、とか生まれがどうかなんて俺には関係ない。今、本人達が幸せならそれで良いんじゃないか、って考え方だ。
 生まれ方は選べないが人生は選べる。偶々戦闘機人という特殊な身体に生まれただけの話で、それは直接ウーノ達には関係のない話だ。
 正直、戦闘機人なんて俺の知り合いからみれば、まだまだ一般人の域を出ない。魎呼は言うまでもなく、樹雷の闘士や皇族と比べれば、まだ全然可愛いものだ。本物の怪物と呼ばれる存在を知っている俺から見れば、彼女達は普通の人間と変わりない。
 生体改造や生命操作など、スカリエッティの得意とする分野は世間的に受けが良くないらしい。やはり、その辺りも文化の違いなのだと思わせれた。まあ無理矢理するとか、違法研究所は確かにやり過ぎな側面があってダメかと思うが、それも善し悪しだろう。
 実際、スカリエッティの開発した技術は医療分野でも大きな貢献をしているというし、都合の良いところばかり見て負の側面に目を向けたがらないのは人間の悪い癖だ。

「そんな事を仰るのは太老様くらいです」

 そう口にしながらも、ウーノはどこか嬉しそうだった。





異世界の伝道師外伝/リリカル編 プロローグ
作者 193






 話は続く。口にしたのは三杯目の御茶。やはり、ウーノの入れてくれた紅茶は美味しい。

「今でも忘れられません。太老様が初めてここに来られた時の事は……後始末が物凄く大変だったのですよ」
「いや、それってスカさんの自業自得だよね?」

 余程溜まっていたのか、半分愚痴に近い昔話を延々と聞かされていた。
 涙ながらに当時の事を語るウーノ。俺が気絶している間にスカリエッティが、俺の身体を勝手に調べようとして色々と困った事があったらしいのだが、そこはスカリエッティの自業自得と言っておく。俺は悪くない。
 白眉鷲羽の研究所すら破壊した俺のパーソナルデータの機械との相性の悪さは筋金入りだ。
 ここのセキュリティシステムもなかなか強固だが、さすがに鷲羽(マッド)の研究所と比べると紙とも言える薄さだ。無謀にも程がある。

「太老様が異常なだけです……」
「ウーノさんって遠慮無くズバズバ言うよね」

 何だかんだで、そうして付き合うようになって二年。彼女達とは良好な関係を築いていた。
 今はどうやって生計を立てているかというと、ここで研究をして開発した物を管理世界の企業に売却してパテントを得て、その収入で趣味の研究三昧の生活をしていた。スカリエッティも大体同じようなものだ。
 一番のお得意様は管理局地上本部。現在、メキメキと頭角を現して来ているというレジアス・ゲイズ准将。彼が、俺のお得意様だったりする。
 小型の魔力駆動炉を搭載したガーディアン・システム通称GSが好評で、『管理局の人材不足の問題が一気に解決した』と大喜びで感謝されたのが記憶に久しい。GPでも標準装備の一つとして採用されている物で、あちらでは特に目新しい物ではない。こちらのは出力不足の問題もあってあちらでいうCランク程度でしかないのだが、それでもAランク魔導師一人分くらいの戦闘力は有していた。
 多分、あちらで言うところのAランクのガーディアンなら、管理局に五パーセントしか居ないというAAAクラスの魔導師とも渡り合えるはずだ。
 尤も、動力炉を魔力に限定している以上、それだけの物を造り出す事は不可能だが、それでも人材に乏しい管理局では喜ばれていた。

 だが、これで管理局の抱える問題が全て解決したかというと、そう単純な話でもない。
 現在のところ、GSを喜んで使っているのは地上本部だけだ。本局の方は魔導師至上主義の傾向が特に強いようで、GSの存在を危惧する傾向さえ見え隠れしていた。挙げ句にはきちんと管理法の規定範囲でしか造っていないのに、浅知恵を振りかざして質量兵器と罵るバカもいるくらいだ。本当に困ったものだと思う。
 まあ、俺からしてみれば、仕事さえちゃんとやってくれるのであれば、どちらでも良い話なのだが。
 パテントで金はちゃんと入ってくるし、俺自身に損は無いから特に気にしていない。地上本部だけでも実際かなりの上客だし、研究資金や生活に不自由はない。

 だが、そんな俺にも一つだけ悩みがあった。それは――

 ストライカーズの原作フラグ潰しちゃったんじゃね?

 という事だったりする。
 今から十数年後に起こるであろう原作フラグを潰してしまった可能性が高い。
 誤解の無いように言って置くが、意識してやったのではない。気付いたら、こうなっていたのだ。
 結構自重無くやってしまったような気がしなくはないが、それだけここが居心地がよかったという事でもある。

 最高評議会の三脳も、『お爺ちゃんお小遣い頂戴!』というと快く研究資金を用立ててくれる太っ腹。
 実際に彼等と接してみて思ったが、よくよく考えてみるとスカリエッティもレジアスも、彼等の後に居る最高評議会だって善人とは言えないが悪人とは言い難い。スカリエッティは研究さえ出来れば基本的にそれで満足だし、レジアスと最高評議会は管理世界の安寧を本気で願っている。それは平穏に暮らしたいと願う、俺の目的にも適う物だった。
 だから、可能な範囲で協力していると言う訳だ。

 管理局という組織自体は確かに問題点も多いが、それなりに機能している事は確かだ。
 組織が肥大化すれば問題が出て来るのは当然で、歴史がある組織なら尚更腐った部分が浮き彫りになってくる。有り体にいえば、良い事よりも悪い事ほどよく目立つ。問題はその時に自浄機能が働くかどうかだが、現状を見る限り体制批判を真っ向からするほど不安定な訳ではない。寧ろ、管理世界に限っていえば安定している方だと俺は思う。
 管理局という組織が多くの事件を解決し、幾つもの世界の平和を守ってきたのもまた事実。
 ならば全てを真っ向から否定するのではなく、良いところは伸ばしてやった方が世のため人のため、というのが俺の考え方だった。

 まあ、結局のところそれも建て前なのだが。趣味を兼ねて色々とやっていると、原作フラグが潰れていたと言う訳だ。
 とはいえ、気にするほどの事でもないだろう。まだ原作ヒロインにも会ってないし、管理世界と管理外世界では会うような事もない。
 白い悪魔とお近づきになりたいとは思わないし、このまま迎えがくるまで趣味に専念して平穏無事に生きよう、と気楽に構えていた。

「ちょっとは気が晴れた?」
「……はい。すみません。色々と話を聞いて頂いて」
「いや、気にしなくて良いよ。ウーノさんも色々と大変だろうしね……」

 彼女には本当にお世話になっているしな。的確なアドバイスは出来ないが、話をするだけでも少しは楽になるはずだ。
 手間の掛かる妹に、もっと手間の掛かる主人の相手を毎日のようにさせられている彼女には同情する点は多々ある。
 正直、家族と上司に苦労ばかり掛けられている彼女を見ていると、他人事のように思えなかった。






 それから一週間経って、ようやくスカリエッティが自分の研究室から出て来た。

「スカさん、ウーノさん心配してましたよ。研究に没頭するにしても程々にしてください」
「いやー、すまない。君の手掛けたロボットの技術を戦闘機人に応用できないか、と思ってね」
「……ロケットパンチでも付ける気ですか? もしくはおっ●いミサイルとか」
「それも捨て難かったのだが、ウーノに止められてしまったよ」

 残念そうに話すスカリエッティ。まあ、そりゃ止められるわな。
 ロケットパンチは何とか許せるとしても、おっ●いミサイルなんて付けられたら羞恥心から当事者は自殺しかねない。
 スカリエッティの話では、結局フレーム強化や装備の改修など、基本能力の向上に留めたらしい。色々と新装備を考えていたらしいのだが、全て事前に却下されたのだとか。
 さすがウーノ。一番スカリエッティとの付き合いが長いだけあって、マッドの扱い方を心得ている。容赦がない判断力だ。

「ところで君の迎えはまだ来ないのかね?」
「来ませんね。まあ、どっちかというと来て欲しくないというか、微妙なところなんですけど……」

 俺が異世界から来た事はスカリエッティには話してある。
 転生や原作知識云々は伏せてあるが、こことは違う平行世界からやってきた事は伝えてあるので、多分こっちに送った本人がそのうち迎えに来るだろう、と伝えてあった。
 そう言って二年。一向に音沙汰無しなのだが、特に気にしていない。勝仁だって七百年以上行方不明扱いだし、数年放置されたからと言って気にするほどの事でも無かった。寧ろ、ようやく訪れたこの平穏な時を満喫したいとさえ思っている。

 それに俺の身体の問題もある。こっちに来てから俺にも魔法が使えないかな、と自分の身体を調べる機会を得たのだが、どうやら魔法は使えないが俺もバッチリ普通の身体では無い事が判明していた。
 どちらかと言うと、魔導師よりも戦闘機人に近い存在と言えるのかも知れない。

 生体強化――自分でやった記憶は無いので、恐らくは鷲羽(マッド)の仕業だと思う。
 しかも解析の結果、俺にとって嫌と言うほど見覚えのある物体『万素』を素材とした特殊なナノマシン技術が使われている事が分かった。
 現状、ここの設備だけでは細かい事までは分からないが、少なくとも百年、二百年くらいで俺は死なないという事だ。
 多分、それこそ魎呼をベースにしていると考えれば、数千年、数万年の時を延命調整なしに生きられる可能性だってある。それが分かった時点で全く焦りなどなくなっていた。
 何を考えて俺をこんな身体にしたのか知らないが、時間はたっぷりあるのだし、それならばそれで長い休暇と思って今の生活を満喫するだけの話だ。

「ふむ、残念だ。出来る事なら、私も君の世界を見てみたいのだがね」
「ああ、そう言えばそんな事をいってましたね」
「この世界には無い未知の科学力。君のその身体といい、発想といい、保有している知識と技術といい、まさに君の世界こそアルハザードと呼ぶに相応しい神秘の世界だ。私はそれをこの眼で見てみたいのだよ!」

 興奮した様子でそう語るスカリエッティ。まあ、確かにあの世界とこの世界を比べたら差は歴然だ。
 高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない、という言葉があるが、あちらの科学力はこちらの魔法を遥かに凌駕している。
 現に俺がこちらの技術で再現した装備品やロボットですら、管理局の本拠地ミッドチルダの最先端技術のレベルを大きく超える物だ。そこには天と地ほどの技術力の差があった。
 スカリエッティがこの世界で伝説として語られている、卓越した技術と魔法文化を持ちながら滅びた世界『アルハザード』を例に出したのも無理のない話だ。

 結論からいえば、俺がこちらの世界で開発した物は、向こうの工房に残してきた物に遠く及ばない。
 魔力を動力にするという時点で、大気中の魔力素を取り込み運用する関係でどうしても出力の限界があり、あちらの世界の動力炉よりも見劣りする物しか造れない。
 惑星を一撃で破壊するような出力の兵器と比べる方がおかしいのだが、ようは皇家の樹は例外としてもアカデミーで使われているような平均的な動力炉すら、こちらの技術と魔法という制限の中では再現が不可能という事だ。

 俺の発明品の多くはこちらの既存の技術を組み合わせて作った物ばかりなので、取り敢えず管理局の掲げる質量兵器禁止法にもギリギリ抵触していないし、ロストロギアのように未知の技術が使用されている訳ではないので、頑張って解析すれば誰にでも理解できる物ばかりだ。こちらの住人には無い発想と別のアプローチから、既存の技術を組み合わせ新しい物を造り出しているに過ぎない。
 ちなみにここでいうロストロギアとは過去に滅んだ超高度文明の遺産の事で、俺達の世界で言うところの大先史文明の遺産に近い物だと思ってくれていい。それが技術だったり魔法だったり、カタチは様々だが使い道の分からないその危険な代物を管理局は『ロストロギア』と呼び、管理・保管していると言う訳だ。
 物によっては、世界を消滅させるほどの力を有している物もある、というのだから確かに怖い話だと思う。管理局が危険視するのも無理はない。

(でも、その理屈でいくと、皇家の樹とかアウトだよな……)

 あちらの世界に管理局が行く事があったら、それだけで諍いが起こるのではないか、と思われるほどロストロギアだらけの世界だ。
 まあ、管理するどころか、それを上手く運用する技術があちらにはあるので、そこがこちらとの大きな違いだったりする訳だが……。

「君の話を聞いて、私も銀河アカデミーと言うところに通ってみたくてね」
「スカさんからしたら、あそこは楽園みたいなもんでしょうしね……」

 と熱く語るスカリエッティの話を聞きながら、そんな事を考えていた。
 取り敢えず、あちらは実際に神様とかそう言う存在が確認されている世界な訳で、アストラルの存在は疎か、高次元生命体との接触も果たしていないこちらの世界とは、文明にどれだけの差があるかなんて考えるまでも無い話だと思う。
 こちらには魔法というちょっと変わった技術が存在するのは確かだが、それも科学に取って代われるほど便利な物ではない。
 あちらの世界の常識を持ち合わせている俺からすれば、エコでクリーンなエネルギーという程度の認識でしかなかった。

 実際、先天的な力に頼らなくて良い分、汎用性などの側面からも生体強化やガーディアン・システムの方が有用性は高い。
 生体強化などは慣れるまで多少の訓練が必要だが、それでも誰にでも努力すれば扱える力である事に違いない。それが科学の良いところだ。
 管理局が年中人手不足で悩まされる結果になっているのも、変なところで魔法に拘りすぎる体質の問題の方が大きかった。

「人生がこれほど楽しく感じられるようになったのは君のお陰だよ。しかし、そうなると私もまだまだ死ねないな」
「スカさんって知的好奇心の塊みたいな人ですもんね」

 スカリエッティなら銀河アカデミーでもきっと上手くやっていけるだろう。そう思っている理由は彼の性格にあった。
 先に述べたが彼は変人だ。それも俺が知る中で、そこそこ上位に入る変人。この変人であるというのは、アカデミーでやっていけるか否かの最低条件だった。
 そしてアカデミーで研究者や哲学士を名乗る者に置いて、一番大切な物を彼は有していた。
 作品への愛情。それを持てない者は、あそこでは嫌われる。少なくともスカリエッティはその条件を満たしている。
 性格はちょっと歪んでいるが、科学者としては有能な人物だと俺は認めていた。マッドだけど。

「さてと、それじゃあ早速、あの()達のバージョンアップ作業をしてしまうかね。ウーノ」
『はい。何か御用でしょうか? ドクター』
「下の娘達を私の研究室に呼んでくれるか? 簡単なチェックを済ませた後、フレームの強化を行いたいのだが」

 空間モニターを出し、ウーノに連絡を取るスカリエッティ。
 一瞬、ウーノはスカリエッティの言葉に怪訝な表情を浮かべるが、直ぐに言われたとおりに妹達を呼びに行った。
 恐らく魔改造されるのではないか、と心配したのだろう。気持ちは痛いほど分かる。

「ん? そういや、ここ最近アイツらの姿を見かけないな」

 そう言えば、ここ一週間ほど下の四人の姿を見かけていなかった事を思い出した。
 いつもは何も言わなくても集まってくるような連中なのだが、まるで居ないかのように静かすぎる。

『た、大変です! ドクター!』
「どうした? そんなに慌てて……」
『あの娘達の部屋に、こんな書き置きが――』

 いつも冷静な彼女とは思えないほど焦った様子で、端末越しに四人の残した書き置きを俺達に見せるウーノ。
 そこには――

 ――お兄様が欲しがっていた物が見つかったので盗ってきます。暫く留守にしますが、どうぞ心配なさらないでください。

 と書かれていた。
 盗ってきますって……盗んでくるのかよ。『お兄様』って、この書き方からして多分、四番目の妹クアットロか。

「太老。彼女達に何か頼んだのかい?」
「いや、全然記憶に無いんだけど……。ああ、そう言えば今やってる研究で『次元干渉型のロストロギアとか欲しいな』って話した事あるような」
「……随分と物騒な物を欲しがるね」
「やれる事は一応試して置こうと思って。次元に干渉するのなら、それを使えば元の世界と繋ぐ扉を作れないかなと」
「なるほど……確かに可能性はあるか」

 どうやらウーノ以外の妹達(ナンバーズ)全員で出掛けたようだった。確かに欲しいとは言った記憶があるが、まさか本当に盗りに行くとは……恐るべき行動力だ。
 あっ、ウーノ怒ってるな。肩が小刻みに震えている。それを見たスカリエッティも場の不穏な空気を感じ取り、表情を引き攣らせていた。
 まあ、書き置きだけ残して黙って出掛ければそうなるか。帰ってきたらお仕置き決定だな。同情はせん。
 というか、どこに出掛けたんだ? アイツら。

『あの娘達の反応を探知しました。場所は第九七管理外世界――地球です』

 歴史の修正力か、はたまた数奇な運命の巡り合わせか、これが俺の物語(リリカル)≠フ幕開けだった。

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED




 あとがき
 193です。五千万ヒット記念の外伝という事で、リリカル編を用意してみましたw
 これもプロットは完成しているのですが、今のところは続きを執筆するつもりはないので、あくまで記念作品という扱いです。
 外伝のIFシリーズは、他にもマブラヴ、コードギアスなど色々とありますが、取り敢えず第一弾という事で。
 この話は書いても中編になる代物です。導入編から既にストライカーズなどのフラグが潰れてしまっている上に、色々とおかしな世界になってしまっていますからね。最初から太老の影響をモロに受けてしまった世界と言うべきかw

 記念やイベントに乗じて幾つか導入編だけ出して見て、反応次第では『恋姫†無双』が終わってからでも始めるかもしれません。
 ただ、このなのはは弐期以降のネタバレも少し混ざって居るので、そっちが進まないと出し難いんですけどね。
 理由は、導入から異世界にきて二年経っている事にあります。
 余り言うと続きが読みたくなるかもしれないので、この辺りでw

 また、本編の方でお会いしましょう。



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