「なんて、固え野郎だ!!」
キタンの爆撃も、ヨーコのライフルも全てが通用しない。
先の二体のガンメンと共に現れた赤いガンメン。
その硬い装甲と、素早い動きに翻弄され、一同は苦戦を強いられていた。
「アキトの奴は何してやがる!!」
「兄ちゃん、そっちに行ったよ!!」
「くそっ! 破れかぶれだ!!」
手に持っていた手榴弾を全てガンメンに向かって放り投げるキタン。
周囲の断崖が崩れ去り、赤いガンメンを飲み込んでいく。
「どうでい!!」
「さすが、兄ちゃん!×3」
「やる時はやるもんね」
ヨーコ達、女性陣の歓声が飛ぶが、瓦礫が周囲に吹き飛び、中から件の赤いガンメンが無傷の状態で姿を現す。
「なんて、デタラメな奴だ」
「でも、これ以上先に進ませるわけに行かない!!」
「やるしかねえってことか……ておい! カミナ、何してやがる」
一同の前に背を向けて、赤い顔面を見つめるカミナ。その目には強い決意が宿っていた。
「気に入った! あのガンメンは俺がいただく!」
「「「「「……は?」」」」」
カミナの不可思議な言動についていけない一同。
「アイツには俺が乗るって言ってんだ!!」
カミナのその訳のわからない言動に更に困惑する一同……
「このバカ! 人がガンメンに乗れるわけないでしょうが!!」
「いや、でもアキトの奴は出会ったときに、敵のガンメン奪って操縦してたしな……」
「そ、そうなの? どこまでデタラメなのよ……アキトって……」
キタンの一言に、アキトの更なるデタラメっぷりが発覚して呆れるヨーコ。そんなこととは知らず、カミナの言葉は続く。
「獣やアキトにも乗れてんだ! 俺に動かせない訳がないだろうが!!」
どんな根拠があってか、自信満々で言うカミナに呆然とする一同。
と言うか、獣人と同じ扱いのアキトの立場は……
紅蓮と黒い王子 第8話「だから、違うんだってば――!!!」
193作
「……新型か」
「アキト、アノ赤イ機体、他ノガンメンノ数倍ノ出力ガアル」
ユーチャリスを岩陰に隠し、バッタ達を使い様子を伺っていたアキトは対抗策を考えていた。
「現状の武器では、生身であのガンメンを倒すのは難しいか……ラピス、グラビティブラストは撃てるか?」
「多分、最大出力デナケレバ撃テル。デモ、今ノエンジンノ出力ジャ、ドウヤッテモ1発ガ限界」
「1発か……」
ユーチャリスの完全なメンテが出来ない以上、出来るだけグラビティブラストは温存しておくべきかアキトは悩む。
しかし、現状の武装ではあのガンメンを倒す手段がほとんどないのも事実だった。
「アキト、ラガンガ、赤イガンメンニ向カッテル」
「なに?!」
モニタに映し出されたのは、ラガンに乗り込んだシモンとカミナの姿だった。
アキトの脳裏に先刻のラガンの力が浮かぶが、今回は相手もあの時とは比較にならない。
「くそ、何を考えている?! ラピス、ユーチャリスを出すぞ」
「ウン」
ゆっくりと上昇し、ユーチャリスはシモン達が待つ戦場に向かった。
「いいとこに来たぜ! 兄弟!!」
岩から飛び降り、ラガンに乗り移るカミナ。
「兄貴! アイツらだ!! アイツらが地震をおこしてたんだ!!」
赤いガンメンが地表に降り立ったときに起きた衝撃。シモンはそれが自分の両親を殺した、地下の地震の正体だと考える。
「そう言うわけか。なるほど」
「アイツらが父さんたちを殺したんだ!!」
ガンメンを鬼の様な形相でにらむシモン。その様子を見てカミナが口を開く。
「落ち着けシモン。熱くなるのはいい。だが、焦るな」
「でも、兄貴……」
「まあ、聞け。まず、俺があの赤いガンメンをいただく」
「え? 兄貴、操縦できるの?」
突然のカミナの進言に怒りも忘れ、疑問が浮かぶシモン。
「心配ねえ! お前はどうやってラガンを動かしてる?」
「なんか、このレバーを握ってたら、動かし方が頭に流れてくるって言うか……」
「それだ! 要は気合≠チてこったろ!!」
真っすぐ向かってくるラガンに、赤いガンメンは気付き向き直る。
「突っ込め! シモン!!」
ラガンを捉えようと、両脇にいた他の二体のガンメンが腕を振り下ろすが、遠距離から放たれたライフルの弾丸がガンメンの腕に当たり、攻撃をそらす。
「まったく、世話が焼けるんだから」
ヨーコの放った弾丸にバランスを崩すガンメン。
――ドガンッ!! 勢いよく振り下ろされた腕が、赤いガンメンの方にそれ、仲間同士で攻撃しあう格好となる。
転倒したガンメンの上にラガンは降り立つと、コクピットのある口を手足で押さえ開け放つ。
「ぬわぁ、なななななぁ!!」
「出な、交代だ」
突然、コクピットをこじあけられ驚く獣人に、刀を突きつけ脅すカミナ。
獣人は慌ててコクピットから逃走し、その場所にカミナが座る。
――ブブゥー!! エラー!!!
赤いマークがメインディスプレイに表示され、ガンメンはピクリとも動かない。
「くそっ! どうなってやがるっ!!」
――ドガンッ!! 起きあがってきた二体の顔面がカミナの乗っている赤いガンメンとラガンに迫る。
「よくも、ギューザック小隊長を!!」
「小隊長の仇っ――!!」
仲間がやられたことで怒り狂った二体のガンメンがカミナのガンメンを殴り飛ばす。
――ドオオォォン!!
岩肌に叩きつけられたカミナのガンメンを見た獣人たちは、目標をラガンに移す。
「うわああぁぁぁ!! 兄貴っ!!!」
――やられる。シモンがそう思った瞬間、ユーチャリスから閃光が放たれた。
「ギャアアアァァァァ!!!」
半身を根こそぎ持っていかれ、物凄い轟音を上げ爆散するガンメン。それを少し後方で見ていた、もう一方の獣人に動揺が走る。
「なっ! なんだ、今のは?!」
光が来た方角を探す獣人。ユーチャリスを発見すると、その姿を見て驚愕に揺れる。
「空を飛ぶメカだと?! あんなものを人間どもが持ってるなんて」
「ラピス、どうだ?」
「一体ニ命中。アノ赤イガンメンニハ、カミナガ乗リ込ンデル」
「カミナが? 機体を奪ったと言うことか。……しかし、こちらももう武器が無い」
機体の航行を維持する為に、最低まで出力を抑えて放ったグラビティブラストだったが、それでも次弾を撃てるほどにエネルギーは溜まっていなかった。
「こうなったら、あいつらに掛けるしかないか……頼んだぞ。シモン、カミナ」
「くそっ、何で動かねえ!! 気合がたんねえぞ!! カミナ!!!」
カミナは焦っていた。シモンやアキトには動かせる。それなのに、自分だけこんなところで踏み止まってる訳には行かないと。
――ドクンッ! 心臓の高鳴りを感じる。吹き飛ばされた衝撃で地面がえぐれ、その中から人骨が姿を見せていた。
カミナの背中に死の恐怖が迫る。
自分はこんな所で死ぬのか? 親父に追いつけないまま、何も出来ないまま……
だが、男は笑っていた。
あの夕焼けに染まった赤い荒野を思い出しながら……
「俺は、こんなとこでくたばる訳にはいかねえんだよ」
カミナの瞳に闘志が宿る。
すると、先程まで真っ赤になっていたディスプレイの色が緑に変わり、ゆっくりとその機体が動き出す。
「なめるなよ……糞ガンメンども」
ギシギシと音を立てながら起き上がるカミナのガンメン。
「俺を……」
カミナのガンメンの目が光、そして上空へと姿を消す。
「俺を誰だと思ってやがる――――キィーック!!!」
ユーチャリスに目を奪われていたガンメンに向かって、飛び蹴りを食らわせるカミナ。
その衝撃に耐え切れず片足をバラバラに四散しながらも、敵のガンメンを大きく吹き飛ばす。
「兄貴っ!」
「わりい……ちっともたついちまった」
そう言うとラガンを片手に持ち、カミナは投手の様なフォームを取り、構える。
「え、ええっ?」
「とどめはお前だ! 気合入れろよ!! シモン!!!」
――グワッ! と大きく振りかぶると、そのままラガンを敵のガンメン目掛けて投げつける。
「喰らえ! 必殺!! 漢の魂、完全燃焼!! キャノンボールアタ――ック!!!」
「ウ、ウソでしょ――っ!!!」
シモンの悲鳴が飛び交うが、ラガンはドリルを先端に形状を矢のように変え、敵のガンメン目掛けて一直線に進む。
「ヌオッ!!」
獣人は咄嗟に身をひねってラガンを交わす。
「ギャハハッ!! どこ、狙ってやがる!!」
小馬鹿にするようにカミナを見る獣人だったが、カミナの瞳には自信と信頼の色が浮かんでいた。
「へっ、そいつはどうだかな?」
断崖に突っ込んだラガンが中をグルッと旋回し、背後から獣人のガンメンに迫る。
「ハッ?!」
背中から一気にガンメンを貫くラガン。
そのまま高速で移動しながら、最後はカミナのガンメンの掌に収まった。
「ウ、ギャアアァァァ!!!」
絶叫と共に、大きな音をあげて爆散するガンメン。
その様子を岩陰から見ていた、獣人達の隊長は大慌てで逃げ出していた。
「……ちょっと格好いいかも」
ヨーコの意外な一言にキヤル達が驚く。
「ヨーコ、アレが好みなのか?」
「じゃ、ダーリンから身を引くのね?」
「……これで競争相手が一人脱落です」
「ちょ、ちょっと皆して何よ! 私は別にカミナのことなんて!!」
ヨーコの言ったカミナ≠フ名前に反応してニヤける姉妹達。
「ま、アキトのことは俺にまかせな」
「ダーリンは私が幸せにするからね〜」
「……お幸せに」
プルプルと肩を震わせながら顔を真っ赤にするヨーコを尻目に、姉妹達はその場を立ち去る。
「だから、違うんだってば――!!!」
ヨーコの絶叫は空しく響き渡った。
海を越えた先にある巨大な大陸、そこに聳え立つ1つの要塞があった。
逆円錐を思わせるその形は、下から上に行くほど大きくなるようにそびえ立っている。
その雲にも届く大きな建造物は、周囲を淡く光る螺旋状の帯で纏われ、異様な雰囲気を放っていた。
――王都テッペリン。それがこの要塞の名前であり、獣人達を治める王、螺旋王の居城の名である。
「これが報告のあった謎の機体か」
「――見たこともない制御機構をしている為、動かすのは困難。ガンメンとは違う未知の機体のようですな。全く、どこから迷い込んだのか?」
王都の一角、大聖堂のような広い空間に、真紅の絨毯がびっしりと敷き詰められている。
その場所に、砂漠にいた獣人グアームと、一人の男が立っていた。
男は、褐色の肌に大きな体格。白いマントを羽織り、頭部に髪は無く、髭をボサボサと生やしている。
その場にいるだけで他の者は膝を折ってしまうほどの強い存在感を放っていた。
この男こそ螺旋王、名をロージェノムと言う。
二人の目の前には黒光りするボディに、ところどころ破損した人型のロボットのような物があった。
「もしやと思ったが、そう言う訳でもないようだ」
ロージェノムの頭に過ぎったのは、嘗ての敵であった異星人達の存在。だが、記憶にあるどれともこの機体は一致しなかった。
「見たこともない制御機構か。しかし、これも機械である以上、一つ方法がある」
ロージェノムが合図をすると地面から、青く長い髪をした一人の少女が姿を現す。
その見た目から、年の頃は14、5歳と言ったところか?
白い肌の上は、身体の大事な部分を隠すように、螺旋状に包まれた黒いプロテクターの様なもので覆われている。
「
紛い物
よ。貴様でも役に立つときが来た」
「螺旋王っ! まさか、この過去の遺物を使われるつもりで?」
「グアーム、私の決めたことに何か反論があると言うのか?」
「い、いえ……とんでもない。全ては螺旋王の御心のままに」
ロージェノムの威圧に礼服をし、口を紡ぐグアーム。
「さあ、見せてみろ。貴様の力をっ!!」
手を大きく広げ、ロージェノムが言葉を発すると、少女は足の先端部分から体全体をドリルの様な形状に変化させ、サレナの腹部に吸い込まれていく。
――瞬間。サレナの身体が眩い光り放つ。
破損していた箇所が完全に修復していき、その見た目すらも変化させていた。
黒いボディに変わりはないが、背中からは翼の様なものが生え、左手からは手を挟むように二つのドリルが付いている。
しかし、何よりも驚いたのはその圧倒的とも言える存在感だった。
通常のガンメンとは比べ物にならない威圧感を、その黒い機体から放っていた。
「こ、これは……」
グアームにも驚きが走る。謎の機体だったとはいえ、まさかこれほどのパワーを秘めているとは思わなかったのだ。
「この機体の力、もしくは実験体の影響力か? どちらにせよ、これはこの星の物ではない」
外宇宙、もしくは別次元からもたらされた可能性がある。
技術体系が自分達の知るものから逸脱しすぎている事から、ロージェノムはそう考えていた。
「ガンメンを生身で倒し、これを持ち込んだと言う異邦人か」
ロージェノムの口元に笑みが浮かぶ。
「グアーム、貴様にこれを預ける。その異邦人をこの螺旋王の下に連れて来い」
「は、ははっ!」
頭を深く下げ、膝を突くグアーム。
そんな中、サレナの中の少女は知るはずもない一人の男の名前を口にしていた。
「アキト……」
……TO BE CONTINUED
あとがき
193です。
プロローグから遂にここまでやってきました。1〜4話は原作前、5話〜8話は原作に沿った主人公達の出会いのシーンになっています。
いよいよ動き出したオリジナル展開。と言うかここまで来るのに長かった……。
当初予定していたプロットの話数よりも多くなるのではと冷や汗かいてます;
この少女は後で明らかになりますが、通常のコアドリル、ラガンとも異なる存在です。
設定を思いついたのは宇宙の海(デススパイラルフィールド)に沈んだ、沢山のラガンを見たときですね。
ラガンが地中に眠っていたように、嘗ての戦いの遺物が他にも眠っていても不思議ではないんじゃ?と言う解釈です。
螺旋女官のような人型のコアドリルといい、ちょこっと挟む回想からも過去の戦いでは色んな形状があったのではないかと。
それにその強さが目立ちますが、ロージェノムは技術者として優秀だったと思われます。
1話の方でも書きましたがナデシコとグレンラガンという異色の組み合わせをするに当って、オリジナル設定も加えてあります。
正直、グレンラガンはその設定自体がスケールでかすぎるというか、難しい理論関係なしに熱血ご都合主義なんでw
今回は二話同時掲載です。引き続き、続きをお楽しみ下さい。
ちょっとリアルの諸事情で、月曜日は更新できるか怪しいので保険です。
次回は、一時の休息。だが、その平和の裏で確実に忍び寄る影。アキトの前に現れた謎の少女とは?
紅蓮と黒い王子は定期連載物です。毎週木曜日の夜定期配信です。
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