――八月初頭
 ギラギラと輝く太陽。日照りで熱された縁側に、山の風に攫われた風鈴の涼しげな鈴の音が軽やかに響き、蒸すような夏の暑さを、ほんの少し心地のよい物へと和らげてくれる。
 その鈴の音に対抗するように、『ミンミン』と鳴り響く蝉時雨が、暑い夏の訪れを知らせてくれていた。

「ああ……暑いな」

 あれから二年ほど経ち、俺も七歳の誕生日を迎えた。
 去年から、『正木の村』の外れにある小学校に通っており、今では普通の友達も少なからずいる。
 ちなみに『正木の村』というのは山の麓にある村落の事で、一般人も住むには住んでいるが、村人の殆どは『正木』の血縁者や関係者という、とんでもない村だ。
 勝仁が地球に降り立ち約七百年。その血を引く子孫の数は、かなりの人数に上っている。
 正木の村も今でこそ解放されているが、その昔は外界との交流を殆ど持たない隠れ里だった。

 その理由となっていたのは、勝仁の子孫、樹雷皇家の血を引く彼等『正木家の人間』が、地球人に比べ長命な事にあった。
 延命調整せずとも老いが短く、普通の人間に比べて遥かに長命な彼等は、普通に暮らそうとするだけでも色々な危険と問題を孕んでいる。
 正木の村はそうした彼等を、『長寿』の秘密を探ろうと、よからぬ事を企てる者達から保護する、といった目的もあった。

 しかし今では、その村も少しずつではあるが外界との交流を持ち、宇宙とは何の関係もない純粋な地球人も暮らしている。
 正木の血縁者も、成人して宇宙で暮らす者もいれば、地球に帰ってきて偽りの姿で生活する者、様々だ。

「太老さん、夏休みの課題は終わりましたか?」
「うん、後でやるから大丈夫。というか今更、小学生の勉強なんて復習にもならないし」
「そうかも知れませんが、真面目にやらないとダメですよ? 自由研究で必要な物があったら言ってください。去年みたいに、鷲羽様の工房で妙な物を作って持って行かないでくださいよ? あれ、後で誤魔化すのが大変だったんですから」
「うっ……遂、調子に乗ってしまった事は深く反省してます」
「それならいいのですが……」

 ノイケの言う『自由研究』とは、去年作っていった『動く模型』の事を言っているのだろう。
 子供らしくロボットの模型でも作って提出しようと思っていたが、いつの間にか作る事に熱中してしまって、気付けば本物のロボット(ガーディアン)が出来ていた……とかそんなよくある話だ。
 その後、どういう訳かロボットが暴走、散々暴れた挙げ句、校舎を半壊させるといった事件にまで発展した。それに関しては、余り深く追及しないで欲しい。

 そして俺はと言うと、相変わらず、どちらが本当の家か分からないほど柾木家で過ごす日々が続いており、鷲羽(マッド)に弄ばれる日々は変わらず、最近では以前からやらされていた体力作りの基礎鍛錬も終え、勝仁に習って本格的に剣術の修行も始めていた。
 以前に、母さんと 鷲羽(マッド)が良からぬ企てをしているところを覗き見た事があるが、その時に偶然目にした『正木太老ハイパー育成計画』の内容が気になって仕方ない。
 今のこの状況も、幼少期からずっとやらされているアカデミーの勉強も、間違いなくその計画の一部だという事は分かっていたからだ。

 とは言え、剣術の方はともかく、アカデミーの勉強、正確には技師としての勉強なのだが、そちらの方は楽しくやれていた。
 架空や空想の物としてしかイメージのなかった超科学の数々が、目の前にあり、実際に触れ、体験できるのだ。
 しかも、知識や経験として確かに身についているので、鷲羽(マッド)ほどではないが、今では簡単な物なら自作も出来る。
 それだけでもワクワクするし、未知の技術を学べる事、好奇心と想像を掻き立てる物に出会える事は、単純に楽しかった。

(あの実験がなければ、という条件付きだがな……)

 しかし、鷲羽(マッド)の実験に付き合わされるのは正直困っていた。

 ――気を失って、気付けば実験室にいた

 何て事は数え切れないほどあるし、新発明の実験とかいって、試作型ガーディアンの相手までさせられた事がある。
 とても、子供への仕打ちとは思えん。そんな事が、自分の足で歩けるようになった頃から、ずっと続いているのだ。
 最近はなくなったが、『栄養ドリンク』と称した怪しげなドリンクを無理矢理飲まされ続けた時期もあった。
 他にも、目の前には白衣をきたナース姿の鷲羽(マッド)、俺は診察台に括り付けられていて――

『や、やめろ! ショッ●ー!』

 いや、まあ……本当に色々な事があったと思う。しかし、これはネタではなく、全て現実に起こった事だ。
 この日本で、これだけ濃い人生を送っている七歳児は、そうはいないのではないだろうか?

太老兄(たろうにい)、何一人でブツブツ言ってるの?」
「みゃあ!」

 柾木剣士(まさきけんし)――『柾木信幸(まさきのぶゆき)』と旧姓『正木玲亜(まさきれいあ)』の間に生まれた男の子で、現在は四歳。
 天女曰く、『幼い頃の天地によく似た可愛らしい男の子』との事だ。
 俺も詳しくは知らないが、このまま順調に成長すれば、『異世界の聖機師物語』の主人公として後に活躍する事になる少年だ。
 普段は月に数回。大体、土日や祝日を利用して柾木家に遊びにきているのだが、夏休みになったのを境に、毎日のように遊びにくるようになっていた。

「みゃみゃ、みゃあ!」
「兄ちゃんのところ? うん、一緒に行こうか。太老兄も行こうよ」

 普段から野山を駆け回って遊んでいるような野生児なので、どうにも魎皇鬼(ヒューマノイドタイプ)とは息が合うようで、こうして一緒に行動している事が多かった。
 それに、四歳児とは言っても侮ってはいけない。体力だけなら、勝仁の鍛錬を受けている俺と変わらないくらいにある。
 俺と一緒で、鷲羽(マッド)のいいように玩具にされている様子なので、知らない内に改造でもされているのではないか、と少し心配だった。

(まあ、剣士の場合……自覚が無いのか? 器がでかいのか? 能天気その物だが……)

 いや、そういう意味では、俺の方は……もう既に改造されていても不思議ではない。
 その内、朝起きたら腰に変なカタチのベルトがついていて、ポーズを取ったら変身できるようになっていた、とか冗談でも勘弁して欲しい。
 こんな事を言ったら、面白がって本気でやりかねないので、口が裂けても鷲羽(マッド)には言えないが……。
 今はそんな事にならないように、ただ祈るだけだ。

「眠いんだ……お前達だけで行ってきてくれ。それに、ニンジン畑は見飽きた」

 最近は毎朝、朝早くから、裏山で勝仁と剣術の稽古に励んでいるので、瞼が重く、本気で疲れていた。
 それにここの畑は、魎皇鬼の所為で、その殆どがニンジン畑になってしまっている。
 見渡す限りニンジン、何処を掘ってもニンジン、ニンジンニンジンニンジンだらけで、楽しい事など何もない。
 確かにニンジンは美味しいが、それが原因で毎日のように食卓に並んでみろ。
 今更、畑にまで行ってニンジンをみたいとは思わなくなる。

「みゃあ……」
「太老兄……」

 目をウルウルと涙で滲ませ、お強請りするように上目遣いで、こちらを見てくる魎皇鬼と剣士。
 天女が見たら間違いなく『あ〜ん、もう可愛い!』などと言って抱きしめているところだ。
 だが、俺にこんな攻撃など……

「はあ……今度だけだぞ」

 今度だけ、と言いながら既に十数回。このウルウル攻撃は、とても強力だった。

【Side out】





異世界の伝道師/鬼の寵児編 第3話『柾木兄弟』
作者 193






【Side:天女】

「天女様、先程からにやついた顔で、何を見ておられるのですか?」
「うん、太老くんの写真をね。この間、お見舞いに行った時に写真を撮ってきたの」

 私の『マル秘太老くん写真集』に新しいコレクションが増えた。
 看病のついでに隠し撮……撮影した太老くんの寝顔写真だ。

「この子ですね。いつも天女様が話しておられる『太老くん』というのは」
「うわ、本当に可愛いですね。でも、これってアイリ様と同じ♂Bし撮――」
「…………」
「あははは……天女様、本当に可愛いお子様ですね!(馬鹿、それは絶対に言ってはいけない禁句よ!)」
「(ううっ……ごめん、遂)」
「でしょ、でしょ! 色々と話したい事は沢山あるんだけど、やっぱり――」

 同じ職場で働く子達に、地球のお土産代わりに太老くんの話を聞かせてあげる。これは帰ってくる度に行っている、謂わば恒例行事だった。
 ここは銀河アカデミーの施設内にある、とある格納庫。そう、銀河アカデミーの理事長であり、白眉鷲羽様の弟子。現アカデミー最高の頭脳と知識を持つ哲学士として知られる、『柾木アイリ』様の工房だった。
 素行に色々と問題のある方だが、理事長として、哲学士として、代わりの務まる人物が見つからないほど非常に有能な方だ。
 一応、私のお祖母様という事になるのだが、それはアイリ様の前では禁句となっている。『お祖母ちゃん』などと呼ぼうモノなら、鬼の形相で銀河の果てまでも追い掛けてくる、それが『柾木アイリ』という人物だった。

 そんな事でいらぬ波風を立たせたくはない。そういう事情もあって、私は素直に『アイリ様』と呼ぶようにしている。
 ちなみに天地にとってもお祖母様にあたる訳だが、天地も以前に『お祖母ちゃん』と言って失敗してしまった事があり、今では『お祖母ちゃん』ではなく『アイリさん』と呼んでいた。
 今のところ、第一声で最良の答えを導き出せたのは、私の知る限りアイリ様を知る人物を除けば、太老くんくらいだ。
 まあ、だからこそ、あのアイリ様に気に入られてしまっている訳なのだが――

「あの天女様……そろそろお仕事の方に」
「これから良いところなのに……」
「もう、十分に聞かせて頂きましたから!」
「……そう?」

 遠慮深い子達だ。そんな彼女達には、後日『太老くんブロマイド』をあげようと思う。
 さて、話が少し脱線したが、私はこのアイリ様の工房で今は働いていた。
 以前、この工房で製作した樹雷の次期主力戦艦『守蛇怪(かみだけ)』。西南ちゃんの最初の船となった量産艦の事だが……
 ああ、西南ちゃんと言うのは、フルネームを山田西南(やまだせいな)。GPや海賊の間では『ローレライ西南』の名で知られ、畏怖と畏敬の念を込めて、そう呼ばれているGP隊員だ。

 生まれつき確率変動に偏りのある子で、九羅密(くらみつ)家の美兎跳(みとと)様や美星(みほし)様といった『確率の天才』と同質の力を持っていた。
 もっとも彼の場合、確率変動の偏りは『不運』や『災難』といったマイナスの方へと傾いているので、いつも細々とした運の悪い事に巻き込まれている。
 だが、その才能を最初に見いだしたのが瀬戸様だった。
 切っ掛けは偶然。最初は彼のいつもの『不運』から始まった出来事だったのかもしれない。しかし、その偶然は彼の才能を、銀河に住む大勢の人々に知らしめる結果へと繋がった。

 その名が最初に知られる事と成った、海賊船の一斉拿捕。
 たった一隻の輸送艦で、四百隻以上もの海賊船を集めた功績は、囮艦史上、未だに一度も破られていない物凄い記録として、今も伝説のように語り継がれている。
 そして、銀河にその名を知らぬ者はいない、一国の運命すら変え、滅亡させた事もある稀代の大悪女――『ウィドゥー』。
 その彼女を捕らえ、いや正確には自首をさせたのも彼だった。
 その後も様々な功績を残し、巨大な勢力を誇っていた海賊集団ダ・ルマーギルドを壊滅させた経緯を持ち――
 更にもう一つ付け加えるなら、鷲羽様の作った魎皇鬼の妹艦と皇家の樹、それも第一世代のマスターでもあった。

(懐かしいわね。西南ちゃん、元気にやってるかな?)

 前に一度帰ってきたかと思えば、また直ぐに飛び出して行き、現在は簾座(れんざ)連合に新しく出来たGP支局に出張中の彼。
 天地の二つ下の幼馴染みであり、清音母さんと入れ替わっていた頃から、私は彼の事を知っていた。
 正木の村に住んではいたが、彼自身は両親を含め純粋な地球人、樹雷や宇宙とは縁もゆかりもない子だ。
 色々と細々とした事で運が悪く、クラスメイトからも、先生からも、彼の不運に巻き込まれる事を嫌った周囲の人々から、ずっと避けられ、疎まれ続けてきた子。
 しかし、そんな境遇でありながら、厄介者扱いされてきた自らの『不運』を『才能』へと変え、どれも記録に残るような功績を残してきた――それが『山田西南』、GPの英雄『ローレライ西南』だった。

「でも……守蛇怪ね」

 私は当時の事を思い出しながら、目の前でドックに横たわる中型船を眺める。基本となる色や、少し外装などは違っているが、そこにあるのは間違いなく――あの『守蛇怪』だった。
 元々、樹雷の次期主力艦として量産を視野に入れ、造られた艦である以上、ここにこうして同じ物があっても不思議ではない。
 ただ腑に落ちないのは、この既に手を加えるところなど見つからない、量産型としては完璧なまでに仕上がっている守蛇怪を、『改造しろ』という指示だった。そして、その注文をアイリ様にだしたのは、なんと鷲羽様と瀬戸様だ。
 守蛇怪を改造などすれば、守蛇怪の利点とも言うべき量産性や維持コストという重要な面が、最悪の場合、損なわれると言った結果に繋がりかねない。
 個人用のカスタム艦なら、確かに考えられなくはないが、守蛇怪でそれをする理由が今一つ理解出来なかった。
 それならば、無理に完成した量産機を使わなくても、他に方法など幾らでもありそうなモノだ。
 鷲羽様ならば、もっと強力な新造艦を造るくらい、簡単な事だろう。手間暇を掛けて、守蛇怪を弄る理由が分からなかった。

「天女ちゃん、捗ってる?」
「アイリ様……というか、鷲羽様と瀬戸様はどうしてこんな無茶な注文をしてきたんですか? 単なる嫌がらせみたいに思えてきたんですけど」

 正直、この守蛇怪に関しては、哲学士『柾木アイリ』の第一工房で製作された傑作品だ。
 哲学士の第一工房といえば、哲学士が実際に製作の指揮を執る、国家機密に相当するレベルの重要な機密が集約されている哲学士の総本山ともいうべき場所。
 とても機密性が高く、例えアイリ様の秘書といえど、工房の関係者以外、滅多な事で立ち入るは出来ない、そんな場所だ。
 そんな機密の塊とも言える場所で、手間暇を掛けて造られた船。この船を改造するくらいなら、何度も言うが新造艦を造る方が遥かに手間が掛からない。
 新造艦の製作に設計から五年掛かると仮定して、この船はその倍以上、最低でも十年は時間が掛かっても不思議ではない。
 それだけ、一度完成を見た哲学士の船に手を加えるという事は、困難を極めるという事だ。

「ゲン担ぎらしいわ。それに、余り強力すぎても意味がないから程々に仕上げて欲しい、って事らしいわよ?」
「何ですかそれ……益々意味が分からないんですけど」
「私だって分からないわよ! 瀬戸様も鷲羽様も、何も教えてくれないんだもの! でも、あの笑みは絶対に何か悪巧みしている時の表情だったわ」

 何となくだが、その時の様子が手に取るように分かるようだった。
 アイリ様も、あのお二人の企みを余り深く追及して、藪をつついて蛇を出すような真似をしたくはなかったのだろう。
 ただの蛇ならまだいいが、飛び出して来るのは確実に、特大のアナコンダだ。

「これが嫌がらせでもなんでも、完成させないと何をされるか……」
「確かに、あの方達の相手をするくらいなら、工房で船を造ってる方が楽ですね……」

 アイリ様と私。大きく溜め息を吐きながら漏らしたその一言は、心からの本音だった。

「ああ、それと……鷲羽様の紹介で来た、補充員を紹介しておくわね」
「はい? ここに補充員ですか?」

 ここは柾木アイリの第一工房。入る事を許されている人物というのは、それこそ本当に限られた者だけだ。
 先程のスタッフも、アイリ様や瀬戸様が連れてきた樹雷の娘達ばかり。人手が足りないからと言って、ここは機密性の高い情報ばかりを取り扱っているため、簡単に補充など利かない。
 それに哲学士の工房に出入りを許される補充員ともなれば、技師としても相当に有能な人物でなければならない。
 鷲羽様の紹介と言うからには、その心配はいらないだろうが、『一体どんな人物が?』と私は興味を抱かずにはいられなかった。

「正木かすみです。どうぞ、よろしくお願いします」
「か、かすみさん!?」

 そして現れたのは、私もよく知る意外な人物。
 太老くんの母親――正木かすみさんだった。

【Side out】





【Side:太老】

「太老くん、助かるよ。これなら思ったより早く、今日の分、片付きそうだ」

 天地に感謝されるのはいい。しかし俺は何故、この炎天下の中、畑仕事に精を出しているのだろう?
 一度振り返って見よう。剣士と魎皇鬼と一緒にニンジン畑にきて、汗水流して農作業に従事している天地を見た魎皇鬼が、自分も手伝いたいと『みゃあみゃあ』騒ぎ出したのが事の発端だった。
 で、またあのウルウル攻撃に晒された俺は――

(くっ! 何という陰謀だ!)

 気がつけばクワを持って畑仕事に精を出していた、と言う訳だ。
 そして、その原因と成った剣士と魎皇鬼は、途中で飽きたのか? 自分達だけ、さっさと森に遊びに行ってしまった。
 こうなってしまった以上、子供の気まぐれと思い、涙を呑んで諦めるしかない。

「持って帰るのは、ナスだったね」
「あ、はい」

 出掛ける時ノイケに、『ナスを取ってきて欲しい』と頼まれた。
 殆ど見渡す限りニンジン畑だが、柾木家で食す分の野菜くらいは、この畑でも少し栽培されている。
 大半はニンジン畑だが……九割? いや、九割九分……はニンジン畑か?

「でも、よくこんな広さの畑を一人で見れますね?」
「昔からやってる事だからね。今では慣れちゃったよ」

 考えてみると、よくこれだけ広大なニンジン畑を、ノイケが家事の合間に手伝っているとは言え、殆ど一人で見られるものだ。
 さすがは頂神を超える『宇宙一の農夫』と言ったところか? そこは素直に感心した。

 柾木天地(まさきてんち)――天女さんの弟で、剣士の異母兄。柾木家の大黒柱ともいうべき存在で、あの個性的な女性達をまとめ上げ、相手を務められるだけでも、俺は素直に天地を凄いと思う。
 性格は素直で真面目、優しいが悪く言えば優柔不断。見た目、人の良い極普通の農夫だが、その実は皇家の樹のサポートもなしに光鷹翼を作り出せる、訪希深や津名魅といった『頂神を超える可能性を持つ存在』というのだから、世の中、色々と分からないモノだ。
 簡単に言えば、銀河中を相手に戦争が出来るような女性達を魅了した、『宇宙最強の農夫』と言ったところだろうか?
 自分で言っていてなんだが、本当にとんでもない一家だと思う。この地球の柾木家もとい、天地家は――

「そういう太老くんだって、姉さんや鷲羽ちゃんの相手、それに(じっ)ちゃんと修行まで……大変だろ?」
「あれも……慣れみたいなもんですからね。天地さんこそ、大変でしょう? 彼女達≠フ相手は」
「あはは……分かるような気がするよ」

 渇いた笑い声を上げる天地。女性関係で苦労しているのは、お互い様だった。

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED



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