【Side:一刀】

「雄々しく、勇ましく、華麗に?」
「ええ、まあ……」

 歯切れの悪い様子でそう言葉を漏らし、額に冷や汗を滲ませる諸葛亮ちゃん。その反応も話を聞けば、分からない話では無かった。
 諸侯との軍議を終えて帰ってきた諸葛亮ちゃんから、その場であった話を聞いていたのだが、それは想像していた以上に酷い物だった。
 一致団結して洛陽を目指すというのは分かる。だけど、どうやって洛陽を目指すとか、そうした具体的な話は一切無かった。
 実際のところ軍議と言うよりは、諸侯の腹の探り合いで軍議どころでは無かったと言うのは分かる。
 しかしそれ以上に、河北の雄とまで呼ばれる袁紹が、俺が心配した通りの空気の読めない人物だった事が一番の問題だったようだ。

 ――雄々しく、勇ましく、華麗に

 これが作戦の内容だと言うのだから驚きだ。こんなもの子供にさえ、作戦でもなんでも無い事が分かる。

 ――連合軍は真っ直ぐに街道を行き、正面突破で途中にある難関、シ水関・虎牢関を抜き洛陽に向かう

 という無茶苦茶な作戦とも呼べない内容が、袁紹の提案した作戦だった。それに二つ返事で賛成したという袁術も相当なものだ。
 この大人数だ。洛陽までのルートは確かに限られているが、それにしても何の策も無しに正面突破は難しい。
 数の上ではほぼ互角とはいえ、地の利は相手の方にある。そんな事で勝てるようなら軍師は要らない。
 しかし、それを堂々と言ってのける袁紹と言うのは大物なのか、ただのバカなのか。
 多分、後者だと思われるが、それにしても空気が読めていなかった。諸侯が呆れるのは無理のない話だ。

「……で、結局どうなったんだ?」
「袁術さんが総大将。袁紹さんはその……」

 結局なんだかんだで総大将は発起人の袁術に決まったそうだが、それに袁紹が納得していないらしく軍議そっちのけで荒れるに荒れたそうだ。
 それで昼過ぎから始めた軍議が今の今まで、太陽が完全に西に沈むまで続いたとの話だった。
 ご苦労様としか言えない話だ。さすがの劉備さんも疲れきって、天幕で今は一休みしているらしい。
 そんな状況で明日の早朝に洛陽に向けて出発すると言うのだから、不安で成らない幕開けだった。

「曹操さんが仲裁して、ラスボスと言う事に……」
「ラスボスって……」
「なんでも天の言葉で最後の最後に登場する凄い力を持った王≠ノ与えられる名前だとか……」

 あっているのか? 何かの皮肉のつもりか?
 いや、天の御遣いとも深い親交があるって話だし、絶対に分かってて言ってるんだろうな。曹操は……。
 ああ、なんか本当にどうでも良くなってきたんだが……。本当に大丈夫なのか? この連合は?
 それは諸葛亮ちゃんも同じ事を考えているようで、ただ軍議に参加しただけだと言うのに何日も徹夜で書類仕事をこなした後のように疲れきった表情を浮かべていた。

「後、もう一つ良くない話が……」
「まだ、何かあるんだ……」
「……先陣を私達が務める事になりました」
「ああ、そうなんだ。先陣を……へ?」
「意趣返しのつもりのようですね。商会は黄巾党の一件で、特に袁紹さんには良くない印象を持たれていますから」

 斥候の情報によると、シ水関に詰める兵は凡そ八万という話だ。そこを幾ら精鋭揃いとは言っても、一万にも満たない義勇軍で攻め落とせなんて無茶な話だった。
 しかし一番多くの兵力と権限を持ち、発起人である袁家の二人に言われては断るに断れない状況だったそうだ。
 過去の話を持ち出してネチネチと、相当に性格がねじ曲がっているな。そうは言っても、決まってしまったものはどうしようもない。
 今はどうやって、この難問を乗り越えるかが重要だ。だから諸葛亮ちゃんも、こんな話を俺にしたのだろう。大して助けになれるとは思えないが、自分に出来る限りの事はやろうと心に決めた。

「そこで北郷さんにお願いしたい事があります」
「俺に?」
「はい。北郷さんにしか出来ない仕事です」

【Side out】





異世界の伝道師外伝/天の御遣い編 第62話『北郷隊』
作者 193






 翌朝。予定通り、偵察を兼ねて先に出発した義勇軍本隊から少し離れた位置で、俺は自分の隊≠率いてシ水関を目指していた。
 それは、諸葛亮ちゃんの言うように、確かに俺にしか出来ない仕事だった。

「あらん? そんなに心配しなくてもいいわよん。ご主人様は私が護ってあ・げ・る・から」
「あ、ありがとう……。頼りにしてるよ」

 クネクネと身悶えながら、俺に暑苦しいウインクを浴びせてくる貂蝉。心配の元凶が目の前に居るとは、さすがに言えなかった。
 結論から言おう。貂蝉を主力とする遊撃部隊の隊長に任命されてしまったのだ。その理由は、貂蝉の舵取りを出来るのが俺を置いて他にいないという話からだ。
 貂蝉担当として、この重要且つ大切な任務を全うして欲しい、と諸葛亮ちゃんに頭を下げて頼まれては断るに断れなかった。
 もう貂蝉担当と言うのは、義勇軍の中で暗黙の了解と化しているらしい。これこそ噂に聞く『孔明の罠』と言う奴か。

(い、いや……考えようによってはチャンスだよな?)

 出番が巡ってきたと前向きに考えれば、雑用をしているよりは確かにマシではある。命あっての物種ではあるが、後方で雑用ばかりしていても大きな成果は期待できない。手っ取り早く薬代を稼ぐためにも、なんらかの功績を上げなくてはならないのは事実だ。
 義勇軍に参加する事を決めたのも金のため、当初の目的を果たすために必要な事だったからだ。その事を考えれば、これは好機と言えなくもない。

 ――女の子だけに戦わせるのはちょっと、お世話になったお返しをしたい

 と言う想いも確かにあったが、何よりも俺達には先立つ物が必要だった。
 あれだけ法外な金を普通に働いて返すのは、まず不可能と言って良い。それこそ多少のリスクを承知の上でなんとかしないと。
 しかしこの隊には、もう一つ大きな問題が隠されていた。

「皆、お通夜みたいな顔をしてないで元気よく行こうぜ! ほら、笑顔、笑顔!」
「でも……」
「なあ……」

 隊の士気は最低だった。それもそのはず、貂蝉と同じ部隊と言う事で彼等は貧乏くじを引かされたと思っている。
 人気の楽進隊や関羽隊なんかと比べれば、俺なんか無名も良いところだし貂蝉は確かに腕は立つがこの見た目と性格だ。
 やる気に満ち溢れ、希望に胸を膨らませて出発した頃の気持ちはどこかに消し飛び、今はこの調子。
 諸葛亮ちゃんから託された役目は思いの外、重い物だと言う事に気付かされた。

(どうにかしないと、戦う以前の問題だぞ!?)

 このままでは隊として機能するかも怪しい。チャンスだとか、それ以前の問題だ。下手をすれば全滅の危険も十分にありえる。
 なんとかして味方の士気を上げなくては……せめて少しでもやる気を出して欲しい。
 何か良い方法はないか、と考えているところにあるアイデアが浮かんだ。
 やる気が無いのであれば、やる気をださせてやれば言い訳だ。自分ならどう言った時にやる気がでるか、それを考えれば簡単な話だった。

「そんな事でどうする! お前達は情けなく無いのか!?」

 馬を止め、突然大声で怒鳴りつけた俺を見て、何事かと驚く兵士達。
 だが、ここでやめる訳にはいかない。重要なのは、ここからだ。

「確かにお前達の気持ちは分かる! 俺も男だ! こんな男ばかりのむさ苦しい環境よりは出来る事なら可愛い美少女と一緒が良い!」

 やる気が無いのであれば、言って聞かせるしかない。それにこれは俺の本音でもあった。
 ここ最近、色々とあり過ぎて鬱憤が溜まっていたのかもしれない。ロリコンに間違えられるし、挙げ句には男色疑惑まで持ち上がるしで散々な目に遭ってばかりだ。そして義勇軍に参加してみれば、雑用の果てに貂蝉担当という男としてとても悲しくなる役目を与えられる始末。そう、この隊に編入された兵士なんて、今の俺に比べればまだマシな方だ。

「俺だってな、我慢してるんだぞ!」

 こんな世界に飛ばされて、全てのはじまりが貂蝉のキスだったなんて悲惨すぎるだろう?
 それにその後だって……。不幸比べをするつもりはないが、貂蝉と同じ隊になったくらいで落ち込むなんて温い、温すぎる。
 俺なんて、俺なんて、俺なんて……。今までの事を思い出すと薄らと涙すら浮かんできた。

「しかし、それで本当に良いのか!? 楽進隊は強い! 関羽隊は強い! しかし、どれだけ強く勇敢でも彼女達は女の子だ! 女に護られてばかりで悔しくないのか!?」
「それは……」
「でもなあ……」

 一騎当千の猛者とはいえ、武人である前に彼女達は女の子だ。近代であれば『男女差別反対』と言われそうな常套句だが、そこには男の意地もある。

 ――強ければそれでいいのか?
 ――力の無さを言い訳にして、護られる事をよしとする男に惚れる女が居るだろうか?

 戦う気が無いのであれば、どうして戦場に来た。戦う前から気持ちで負けていては、そこでお終いだ。
 貂蝉と一緒は確かに辛い。精神的な苦痛は計り知れないものだろう。だがしかし、そこを我慢してこそ得られる物がある。
 俺はそれを彼等に知って欲しい。剣を持つ意味、戦う意味を今一度考えて欲しかった。

「それに考えてみてくれ! 本当にそれでお前達は良いのか? これを好機だとは思わないのか!?」
「……好機?」

 一人の兵士が俺の言葉に反応し、興味を示すかのように疑問の声を上げる。

「そうだ、これは好機だ! 俺達の男を見せる絶好の機会だと俺は思う!」
「そうは簡単に言いますけど、現実的な問題が……」

 彼等の言いたい事は分かる。俺達凡人がどれだけ努力したところで一騎当千の猛者に届くはずもない。
 しかし、そこで諦めてしまっては全てが終わりだ。

「それでも精鋭と呼ばれる義勇軍の一員か! 俺が言いたいのはそういう話ではない! 考えてみろ、確かに御遣い様を助け出すのは俺達の目的の一つだが、卑劣な宦官や董卓の手に捕らえられているのは御遣い様だけか!」
『――ッ!?』

 俺の言いたい事に気付いた様子で、兵士達の間で動揺が走った。

「ま、まさか……」
「そのまさかだ。俺が好機と言った意味が分かったか。捕らえられているのは、あの張三姉妹も一緒だ。それをもし俺達が武功を上げ、救出に貢献したら彼女達はどう思うだろうか?」
「それは感謝されて……」
「そう、感謝されるはずだ。握手してもらえるかもしれない。近くで感謝の言葉を囁いてもらえるかもしれない。上手く行けば、彼女達の歌を独占して聴く事だって夢ではないはずだ!」

 更に大きなどよめきが走る。その瞬間を想像した者も少なくないはずだ。この時、俺は張三姉妹の話を聞いていてよかったと思った。
 幾ら天の御遣いが慕われていると言っても男だ。塔に囚われの姫が男では、どうしても盛り上がりに欠ける話となる。
 しかし忘れては成らないのが、救出すべき人物は何も天の御遣いだけでは無いという事実だ。

 正直な話、商会の一部には天の御遣いの非常識さが話題となって、『助けに行く必要があるのか?』という空気も漂っていた。
 特にその凄さを間近で見続けてきた自警団の団員などは、逆に相手の心配をする者達も居るくらいだった。
 商会で聞いた噂通りの人物なら、同じ人間かも怪しい人だ。正直、あの商会を見ていると心配するだけ無駄という結論しか出て来なかった。

「まだあるぞ。ここで活躍すれば、他の女の子達の印象だってきっとよくなる。必ず注目が集まるはずだ。このままならお前達はただの負け犬だが、ここで活躍して帰れば晴れて英雄の仲間入りだ!」

 心が揺れ始めている兵士達に、トドメとばかりに駄目押しの一言を投げつける。俺もそうだが、男に生まれて女の子にちやほやされたくない奴なんて、この世には居ないはずだ。一生に一度で良いから、女の子にちやほやされたい。甘い言葉を囁いて欲しい。そうでなければ死にきれない。そう考えている男達は少なくないはずだ。天の御遣いが、実は男からの評判が余り良くない理由の一つにこれがあると俺は睨んでいた。
 憧れの女性、好きな女性が別の男に夢中で面白い男はいない。それも平然と複数の女性を囲っているような男に惚れているとくれば尚更だ。
 なんと羨ま……いや、男の風上にも置けない奴。だからこそ、俺と彼等は分かり合えると確信していた。

「お、俺はやるぞ! 天和ちゃんに優しく声を掛けてもらうんだ!」
「俺もだ! そして人和ちゃんに握手してもらうんだ!」
「俺は地和ちゃんだ! 俺の妹を絶対に護るんだ!」
「俺は関羽様に褒めて頂きたいな。いや、寧ろ罵って欲しい……」
「そう言えば、お前は警備隊の出身だったな。俺はどちらかと言うと鳳統様や諸葛亮様が一番……」

 次々に隊に覇気が戻ってくる。先程までとは打って変わり、異常なまでの連帯感がそこにはあった。
 遂さっきまで、やる気の欠片もなかった男達と同じにはとても見えない。
 今なら、どんな相手が来ても負ける気がしない。それほどの力が、彼等の身体から闘気となって溢れていた。

「女の子にモテたいか!」
『おおっ!』
「天の御遣いのように美少女にちやほやされたいか!」
『おおっ!』
「ならば、俺に付いて来い! 一緒に男の夢を叶えようじゃないか!」
『おおおお――っ!』

 嘗て無い闘志。全員の意気込みが伝わってくるような、そんな一体感がそこにはあった。

「北郷様って、どことなく御遣い様に似ているよな」
「俺もそう思う。この人ならきっと……」
「ああっ、なんかやれるような気がしてきたぞ!」

 いや、あんな噂に聞く非常識な人と一緒にしないで欲しい。
 俺は至って普通の人間、一般人だ。全然、俺とは似ていないと思うぞ?

「私もご主人様の期待に応えちゃうわよん! 確りと私の雄姿を見てて頂戴ねん!」
「ここでやるな! ってか、何を見せる気だ!?」

 次の瞬間、貂蝉の事を忘れかけていた兵達の間で何かが音を立てて崩れ去り、恐怖を思い出したかのように悲鳴が飛び交う。
 折角上がった士気を再び取り戻すのに、また余計な時間を費やす結果となった。

【Side out】





【Side:朱里】

「朱里ちゃん。北郷さんの事なんだけど……」
「大丈夫だよ、雛里ちゃん。北郷さんなら、きっと上手くやってくれるよ」

 この義勇軍は将の質は高く兵の士気や練度こそ高いものの、定石には収まらない個性的な人物が集まり過ぎて、今一つ纏まりに欠けるのが大きな欠点だと私は思っていた。
 特にあの貂蝉さんの実力は、訓練で一太刀も愛紗さんに攻撃を入れさせなかった事からもかなり高い事が窺えるが、あの個性的過ぎる見た目と性格を御しきれる人物は残念ながらこの義勇軍には北郷さんを除いて誰一人いない。そうした事もあって敢えて北郷さんにお任せする隊には、意図的に実力は申し分ないが何らかの理由があって扱い難い、義勇軍の中でも特に個性的な人達を集中させてもらった。
 三羽烏の方々の隊は完成しすぎていて不用意に動かす事が出来ないし、主力の愛紗さんや鈴々ちゃんの隊は尚更、連携を乱す恐れのある個性的な兵や将を加える事は出来ない。北郷さんの隊を本隊から切り離し、遊撃部隊としたのもそのためだ。

 北郷さんには不思議な力がある。武力や知力では確かに一線で活躍する武将や軍師に及ぶほどではないけど、北郷さんには私達には無い魅力があった。
 商会に居る間、彼の周りから人の和が絶えた事は私の知る限り一度としてない。
 ほんの数日で商会の生活に馴染み、子供からお年寄りを問わず大勢の人達に慕われ名前で呼ばれている北郷さんを見て、私は以前にも増して桃香様と近しいものを彼から感じ取っていた。

 人徳とでも言うべきか、彼には人を惹きつける不思議な魅力がある。
 私や愛紗さんの行いを軽く許してくれた度量の大きさといい、桃香様や太老さんと同じく、人の上に立つ者に必要な資質を北郷さんも持っている。
 もしかすると私の想像もつかないような、もっと凄い才能を秘めているのかもしれない。その結果は、この戦いが終わればはっきりとするはずだ。
 隊を一つ任せてみたのには、そうした理由もあった。私自身、北郷さんの可能性をこの目で確かめて見たかったのだ。

「あわわ……。そういう意味じゃ……」
「ああ、分かった。北郷さんと貂蝉さんの事?」
「えっと……うん」

 あの噂の事を雛里ちゃんはきっと気にしているのだろう。
 北郷さんが実は男色なのではないか、という噂が義勇軍の中で広がっていた。原因はきっと貂蝉さんとの仲の事だと思う。
 ずっと二人で旅をしてきたというお二人はとても仲が良くて、寝起きも一緒にされているという話だ。
 貂蝉さんは確かに物凄く変な人だけど、北郷さんの事を話す時だけは慈愛に満ちた凄く真剣な表情を浮かべる事があった。
 それにここだけの話、ある本を巡って桃香様や愛紗さんと廊下で揉めていたという話も広がっていた。
 事実、その噂のあった日から数日、桃香様の様子が特におかしかったのは私も覚えている。その原因となった本と言うのが――

「貂蝉さんと北郷さんは、その……凄くお似合いだと思うから。あんなに息のあった二人を引き離すのはどうかな、って」
「あうぅ……やっぱり朱里ちゃん勘違いしてる」
「勘違い?」

 雛里ちゃんの話に首を傾げる。勘違いも何も二人が仲良しなのは傍目から見ていても一目瞭然だ。
 雛里ちゃんの言う勘違いというのが、私にはよく分からなかった。

「違うの……。北郷さんが持っていた本は……実は私のなの」
「え? 雛里ちゃんの? でも、ヤオ……」
「あわわ! 朱里ちゃん! 口には出さないで!」
「はわ……ごめんなさい。でも、どうして?」

 書庫であった事。その時に落とした本を返してくれようとした北郷さんから逃げてしまった事。
 最初に北郷さんを避ける原因となった水鏡先生のところで南蛮象之臍之胡麻を台無しにしてしまった事など、これまでの経緯を雛里ちゃんの口から聞かされた。

「ごめん、ごめんなさい……。本当の事を知られたら、朱里ちゃんにも呆れられる。嫌われると思って……」

 涙をポロポロと溢しながら、心から反省した様子で申し訳なさそうに話す雛里ちゃん。
 確かに雛里ちゃんのした事はいけない事だけど、今の今まで誰にも話せなかった気持ちはよく分かった。
 何度か勇気を振り絞って北郷さんに謝りに行こうとはしたらしい。しかしズルズルと機会を作れないまま、今日まできてしまったそうだ。
 こうして私に話してくれる気になったのは、義勇軍の中に蔓延する北郷さんの噂に耐えきれなくなったから、と言う話だった。

「雛里ちゃん。ちゃんと北郷さんに謝った方が良いと思うよ」
「……うん、そうする。とても悪い事をしたと思うから……」

 以前に雛里ちゃんとは、『隠し事を互いにしない』という約束を交わした事がある。
 別々の主君に仕えるようになって、以前とは違い一緒に居る時間も少なくなってしまった。にも拘らず、こうして真っ先に相談してもらえた事が正直嬉しかった。
 道は確かに分かれてしまったけど、まだ私達は友達なんだ、とそう実感する事が出来たからだ。

「でも、正直に話してくれてありがとう。お友達だもんね。うん、私も協力するよ」

 北郷さんに謝るのは雛里ちゃんの役目。私に出来る事は、雛里ちゃんの罪悪感を少しでも減らしてあげる事くらい。
 そのためには北郷さんの誤解を解かない事には始まらない。まずは桃香様の誤解を解くのが先決だろう、と考えた。

【Side out】





 ……TO BE CONTINUED



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