※注意※
 本編とは全く関係のないネタです。時系列とかも完全に無視したネタ作品なので、そこをご了承の上ご覧ください。




 織斑一夏だ。早速だが、目の前に――

「わたくちの話をきいてまちゅの!?」

 幼女がいた。
 クルクル巻き毛の金髪幼女。イギリスの代表候補生。ブルー・ティアーズの専属パイロット。セシリア・オルコット、御年八歳。まあ、見た目の話ではあるが……。
 セシリアの妹とか、隠し子なんてオチはなくセシリア本人。
 母性の象徴とも言えるあのふくよかだった胸は見る影もなく、悲しいほどにぺったんこになっていた。

「で、どうやったら戻るんでちゅの?」
「一週間……」
「いっしゅうかん?」
「薬の効果が切れるまで、どうにもならないらしい……」

 ――ガーン!
 という効果音が聞こえてきそうなほど、大きなショックを受け、膝をつくセシリア。こうなった原因は、俺が『正木』から間違って持ってきたドリンクにあった。
 てっきり前に飲ませてもらった正木特製の疲労回復ドリンクだと思った俺は、日々の訓練で疲れていると思って、そのドリンクをセシリアにお裾分けしたのだが、結果はこの通り……何故か、セシリアは幼女化してしまった。
 いや、セシリアだけではない。

「イチカ、これはなんなのよ!」

 鈴もだ。

「太老さんの作った年齢詐称薬だったらしい……」
「そんなものをあたちたちに飲ませたわけ!?」
「本当にすまん!」

 一応、貰っていいか工房の人には尋ねたんだ。そしたら、好きに持って行っていいと言う話だったので一ケース貰って帰ったのだが、そこに変装用の試験薬が紛れているとは思ってもいなかった。
 学園に潜り混んでいる秘書さん達が妙に若かった理由にも、これで合点が行った。
 だがこの薬、効果が切れるのに一週間かかるそうだ。

「かいじょやく≠ヘないんでちゅの?」
「太老さんならどうにかなるって話だけど、出張中らしくて……」

 一応、連絡をするにはしたが、出張で一ヶ月は帰って来ないという話だった。
 そう言うわけで、薬の効果が切れるまで我慢してもらうしかない。
 まあ、身体に害はないと言う話だし、一週間我慢すればいいだけの話なのだが……。

「いいわ……でも、責任をとってもらうからね!」
「でちゅわ!」

 俺に拒否権は……あるはずもなかった。





異世界の伝道師外伝/一夏無用 番外編『あいえちゅ学園』
作者 193






「お子様ランチ二つと、日替わり定食お願いします」
「あたちたちを子供あちゅかいするな!」
「そうでちゅわ! これでも立派なれでぃ≠ナちゅのよ!」
「いや、そうはいうが……食いきれないだろ?」
「「むー」」

 高校一年生。十五歳にして、子供を持つ親の苦労を体験することになるとは思わなかった。
 だが、こうなったのは俺の責任だ。夕食時とあって食堂には大勢の女生徒の姿があった。注目を集めているが、自業自得と思って諦めるしかない。
 前から少し気になっていたことだが、IS学園の食堂に何故お子様ランチがあるのかは俺にもわからない。一応メニューに載っていない隠れメニューなのだが、密かにファンが多いらしい。

「イチカ、あっちの席があいてるわよ!」

 器用に背中をよじ登り、鈴は俺の肩にちょこんと乗っかった。
 幼女化しても猫みたいなところは変わっていない。『監視塔』といってきゃっきゃ騒ぐ姿だけをみれば、子供そのものだった。
 というか、髪を引っ張るな。髪を。

「セシリア、無理するな。俺が持ってやるから」
「むー、リンさんだけずるいでちゅわ! わたくちも肩車してほしいでちゅ!」
「突っ込むのそこ!?」
「ずるいでちゅわ! かたぐるまー!」

 鈴が肩に乗っかってるのをみて、自分もと駄々をこねるセシリア。
 丸っきり駄々をこねている子供だ。
 英国貴族の誇りはどうした。レディじゃなかったのか?

「後で肩車でも好きなのしてやるから、ここで駄々をこねないでくれ」
「なんでも? 約束?」
「うっ……約束だ」
「それじゃあ、いいでちゅの! お馬さん、お馬さん♪」

 小さなイギリス貴族は監視塔よりも、お馬さんをご所望のようだ。
 二人のお子様ランチは、それぞれイギリスと中国の国旗が刺さったピラフに、エビフライとハンバーグ、少量のナポリタン。果物にオレンジとデザートのプリンがついた基本に忠実なメニューだった。

「ほら、鈴。口の周りにケチャップついてるぞ」
「むぐ……」

 ハンカチで、鈴の口の周りを拭いてやる。縮んだのは身体だけとはいっても、肉体に精神が引っ張られている所為か、やはり子供っぽい。いや、丸っきり子供と言ってよかった。
 なんというか、歳の離れた手の掛かる妹を見ている気分だ。

「ううっ……」
「どうした、セシリア?」
「リンさんばっかり……」

 ぷくーっとリスのように頬を膨らませるセシリア。
 鈴ばっかり構っていたから、拗ねてしまったらしい。子供の扱いは難しい。

「セシリアは綺麗に食べて偉いな」
「ちゅくじょたるもの、このくらいは当然でちゅわ」

 それを言うなら『淑女』だ。
 舌足らずな喋り方で胸を張るセシリアは、妙なところで可愛らしかった。


   ◆


「一夏め……」

 一夏が鈴とセシリアと仲良く夕食を取っているのを、箒は物陰から観察していた。
 普段なら割って入るところではあるが、今の鈴とセシリアは誰の目から見ても子供そのものだ。
 中身が十五歳とわかっていても、見た目があれでは面と向かって怒りにくい。子供に嫉妬するのもどうかという葛藤があった。

「一夏って意外と子煩悩なところがあるんだね」
「うむ、あれなら、よい嫁になれるな」
「当然だ。ああみえて一夏は家庭的だからな」

 シャルロットとラウラの話に、それは当然だと箒は答える。千冬が家では意外とだらしないというのもあるが、一夏には両親がいないこともあって子供の頃から千冬に養ってもらっているという思いが強く、せめて家のことだけでも自分が担当して姉を楽させてやりたいと、料理から裁縫、家事全般を一夏が担当していた。
 子育ての経験は確かにないかもしれないが、そこらの同年代の女子よりもずっと家庭的だ。何年も続けてきたことだけあって、家庭科のスキルは特にズバ抜けていた。
 その点でいえば、『よい主夫(ヨメ)になれる』――というラウラの見識は間違っていない。世界で唯一ISを操縦できる男という点を差し引いても、今や女が社会にでて活躍する時代。一夏はかなりの優良物件と言えた。

「ラウラ、どこに行くつもり?」
「当然、混ざる」
「いや、混ざるって」
「大丈夫だ」
「その自信はどこからくるの!?」

 自信満々で一夏の元に向かうラウラを、箒とシャルロットは追った。
 その自信はどこからくるのか?
 ラウラの自信の原因は、ドイツにいる黒ウサギ隊の副隊長のアドバイスにあった。
 鈴とセシリアが幼女化したのを確認した後、すぐにラウラは隊に連絡を取ったのだ。
 そこで聞かされた重要な一言。それが、ラウラの覚悟を決めた。

「鈴、セシリア」
「……なに?」
「……このせきはゆずりませんわ」

 突如現れたラウラを警戒する鈴とセシリア。一夏の服の裾を掴み、絶対にここから動かないという意思を示す。
 だが、そんな二人の予想の斜め上を行き、ラウラが取った行動は思いもよらぬものだった。

「私のことは、これから『ファーティ』と呼べ」
「「……は?」」

 ドイツ語でファーティとは、『パパ』を意味する言葉だ。
 そんなことを突然言われれば、驚くのは当たり前。
 突然、目の前に現れた女に『父と呼べ』と言われたも同じだった。

「あたちがなんで、あんたのことをそんな風に呼ばないといけないのよ!?」
「そ、そうでちゅわ! なぜ、そんな話になるんでちゅの!?」

 声を荒げる鈴とセシリア。

「一夏が母親(ムッティ)なら、ふたりの父親(ファーティ)が私となるのは当然のことだ」

 ラウラの筋が通っているのか通っていないのかよくわからない持論に、鈴とセシリアは頭を抱えた。
 ラウラは普段から一夏のことを『嫁』と呼んでいる。一般常識から考えれば呼び方は逆だが、日本では気に入った相手のことを『俺の嫁』と呼ぶ習慣があるとの話から、ラウラは『一夏は私の嫁』と思い込んでいた。
 で、一夏の子供なら、それは自分の子供でもあるとラウラは言いたいわけだ。

「あたちはあんたみたいなママは認めないわ!」
「わたくちもでちゅわ!」

 とはいえそんな話、鈴とセシリアの二人が許容出来るはずもない。

「ママ? 違う、一夏は『嫁』だ。だから、私が『父親』だ」
「えっと……ああっ、もう! 何、このややこしさ!」
「一夏さんが母親で……どういうことでちゅの!?」

 ラウラの言葉に、益々混乱していく鈴とセシリア。

「なるほど、その手があったか……」
「いや、それは違うからね!?」

 真剣に考え込む箒に、シャルロットの素早いツッコミが入った。


   ◆


 すやすやと気持ちよさそうな寝息をたてる鈴とセシリアを抱きかかえ、ベッドに運ぶ。

「やれやれ、こっちの苦労も知らず……」

 あの後は大変だった。
 女子達の間で『幼女化した鈴とセシリアの母親は誰か?』という謎のバトルへと発展し、鈴とセシリアの二人は『ママなんていらない!』と泣き叫び、収拾がつかないほど混沌としたところで千冬姉の雷が落ちた。
 騒ぎ疲れて寝てしまった二人を放っておくわけにもいかず、こうして部屋に連れてきたのだが、

「はあ……」

 いつも怒ってばかりの二人ではあるが、寝顔は天使のようだ。
 こんなに可愛らしい寝顔を見せられると、何も言う気にはなれない。

「さて、俺も寝るか」

 元々、寮の部屋は二人部屋ということもあって、幸いベッドは二つある。
 かなり大きめのベッドなので、今の鈴とセシリアなら一つのベッドで十分なはずだ。
 二人をベッドで寝かせ毛布をかぶせると、俺は隣のベッドに倒れ込むように横になった。

「ふわぁ……」

 今日は色々とあった所為か、ベッドに入ると眠気が一気に襲ってきた。
 心地よいまどろみに身を任せ、柔らかな布団に意識を溶かしていく。

(子育てって大変なんだな……)

 二児の父親になった気持ちで、夢の中に落ちていった。


   ◆


 ――で、どういうことだ?

「あたちのしゅぶたたべなさいよ……」
「一夏しゃんは、わたくちのお馬さんでちゅの……」

 朝起きると、両脇をガッチリ二人の幼女に固められていた。状況から察するに夜中に寝ぼけて、俺のベッドに忍び込んだらしい。
 これが同年代の女子なら慌てるところだが、幸い二人の今の姿は子供だ。中身は十五歳といっても見た目が八歳児に欲情するほど、俺は特殊な性癖をしていない。子供は好きだが断じてロリコンではなかった。

「おい、朝だぞ」
「うみゅ……あちゃ」
「ああ、朝だ。ほら、セシリアも」
「ふみゅ……一夏しゃん? ここはどこでちゅの?」

 まだ、寝ぼけているようだ。
 仕方無く俺はポワポワとした頭の二人を脇に抱え、そのまま洗面所に連れて行く。

「目が覚めたか?」

 冷たい水で顔を洗ってやると、ハッとした様子で二人が周囲をきょろきょろと見渡しはじめた。
 ようやく自分達の置かれている状況に気付いたようだ。

「まさか、ここってイチカのへや!?」
「一夏しゃんの!?」
「ああ、昨日は疲れて寝ちゃったみたいだから、取り敢えず部屋に連れてきたんだ」

 千冬姉の怒りに触れて、皆どこかに連れてかれてしまったしな。
 夜遅くに女子の部屋を尋ねるのも気が引ける。それにあの騒ぎの中心人物である鈴とセシリアを、他の女子に預けるのはどこか危険な気がした。
 だからといって子供だけにしておくわけにもいかず、部屋に連れてきたと言う訳だ。

「イチカの部屋でおとまり……」
「一夏しゃんは、そっちの趣味が……」

 ん、なんのことだ?

「こ、子供もたまには悪くないわね!」
「そ、そうでちゅわね!」

 昨日はあんなに怒ってたのに、どんな心境の変化があったのか、意外と順応するのが早い二人だった。





 ……TO BE CONTINUED



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