――時に2199年。
地球は日本を中心としての科学技術の急激な発展や外宇宙からの漂着物の解析などの結果、それまでとは飛躍的な、例えれば一万年分以上の科学進歩が考えられないほどに、短期間で起こった故と、増えすぎた人口への対策で宇宙へ進出していった22世紀中盤頃には宇宙でも有数の科学力を誇るようになっていた。だが、宇宙に進出するようになっても人類同士の争いは絶えることはなかった。22世紀も終盤に入った西暦2187年。コロニー群の1つサイド3がジオン公国を名乗り、地球連邦政府に戦争を起こした。戦争は人型機動兵器“モビルスーツ”を有するジオン側が優位に立っていたが、中盤に差し掛かった頃、地球連邦軍がガンダムという、当時としては画期的な高性能機を開発したことで状況が一変。ガンダムとその兄弟・派生機、量産型MS群の活躍で戦局は地球連邦優位に傾き、大方の予想よりも早く、ジオン軍は追い詰められ、その結果、翌年1月に終戦合意がなされる。この戦争を“一年戦争”と言う。しかしその戦乱も、今日の戦争への序曲でしかなかったのだ。その2年後のデラーズ紛争、その更に2年後に起こった軍内部の内乱のグリプス紛争、それに続く二度に渡るジオン残党の蜂起ネオ・ジオン戦争。これら長き戦いで失われた人口は軽く60億を超える。そして、戦いの中で宇宙戦艦として黄泉国から蘇った、かつての日本海軍の象徴であった戦艦大和。その宇宙戦艦ヤマトが星間帝国“ガミラス”を打ち破った数年後の2197年に起こった新たな宇宙文明国家の白色彗星帝国の戦争。この戦いで払った犠牲は大きかった。白色彗星帝国の最終兵器たる巨大戦艦の前に、当時の連邦宇宙軍の本星防衛艦隊の旗艦であったアンドロメダを初めとする連邦宇宙軍本星艦隊の半数以上が失われ、さらに戦争終盤、スーパーロボットと称された超兵器のマジンガーZなどの軍団もZは大破、ゲッターロボはパイロットの一人の巴武蔵が戦死するという打撃を受ける。しかし、人類は絶体絶命の状況を打破すべく切り札を投入した。そしてグレートマジンガーやゲッターロボGなどの各種人型機動兵器の働き、そして、ヤマトが交流した反物質世界の人間“テレサ”の犠牲という大いなる代償を払い、ズォーダー大帝を討ち取る事に成功し、戦争は連邦軍の最終的な勝利に終わる。




――一方、ミッドチルダ新暦67年。プレシア・テスタロッサ事件、闇の書事件という、2つの大きな事件から数年の時が経過し、2つの事件において、事件を解決した立役者の一人である、第97管理外世界`地球`出身の魔導士“高町なのは”は異世界を管理・統制する時空管理局に正式に入局する一方、地球での平凡な小学生生活も続け、平穏な日々を送っていた。

――この物語はそんな、決してお互いに知りえないはずのない世界の人物たちから始まる。



 


―西暦1999年12月 日本 東京都練馬区

「ドラえも〜ん!! 」

彼の名は野比のび太。一見するとどこでもいそうな小学生である。彼には他の小学生とは違うところがいくつか存在する。未来のロボットが家にいること、それと――



「今日はまたどうしたのさ、泣いてちゃわかんないよ」

のび太は目から涙を流し、鼻に鼻提灯を作って、部屋で漫画雑誌を読んでいた青く丸い頭で短足な姿の猫とも狸とも取れる姿のロボット、彼の子孫が一族の暗い運命を変えるために22世紀の野比家から送り込まれた存在―
名は“ドラえもん”に抱きつく。

「うわぁ〜ん!!」

ただひたすら泣きじゃくるのび太。彼等にとって、このような光景はもはやおなじみとなっていると言っていい。これがもう一つの普通の小学生とは異なる点。何故かは分からな地域の小学校に通う小学生の身分を長く続けているところであった。


「うぐっ、うぐっ……ねえ、ぼく本当にしずかちゃんと結婚できるんだよね!?」

「当たり前じゃない。この間みたでしょうが。何そんなに涙目になってんのさ」

涙目になりながらも凄まじい勢いでドラえもんに詰め寄る。完璧に自分が将来結婚するはずのクラスメイトの女の子の源静香との未来に疑心暗鬼になっていた。これをいさめるのも大変な苦労である。ドラえもんの苦労はいかほどか。長年の付き合いからか、ドラえもんののび太の扱い方は慣れたものである。
諭すように言い聞かせてのび太を落ち着かせる。だがこれで事が済めば良いのだが、
そうは問屋が卸さない。

「だってしずかちゃん、最近出木杉とばっか話してるんだもん!僕と話をしてくれな〜い!!」

ここで言う出木杉とは、クラス一の秀才である容姿端麗かつ文武両道な少年。まったく驕らない気さくな態度から女子からの人気も高い。射撃とあやとり以外の何をやらせても人並み以下な自分と殆ど正反対な出木杉を恋のライバル視しているもの、純粋に彼の友情を感じている面もある、実に微妙な関係である。


「当たり前だよ。出木杉君と話すほうが断然面白いし。静香ちゃんの気持ちもわからんわけでもない。」

ドラえもんは冷静にのび太の心に突き刺さる一言を何気なく発する。子守りロボットとして造られた割には白けた態度だが、これがドラえもんの意外な一面であり、妙に現実主義者的な側面を見せた。


「酷いよドラえもん〜!!あ〜ん!! 」

のび太は通常ではありえないほどの涙を流して泣き叫ぶ。

「要は君としずかちゃんの結婚風景を見れば安心するんでしょ?」

「そうそう。その通り!!」

「だったらタイムテレビで見ればいいじゃないか。」

ドラえもんはポケットからタイムテレビを取り出し、スィッチを入れる。
そこに映し出されたのは未来の風景だった。

「あ、間違えてダイヤルを22世紀の終わりごろに合わせちゃった」

「へえ、 22世紀の終わり。面白そうじゃない。見ようよ。ね〜いいでしょ?」

「うん。僕もここまで未来は見たことはないしね。」


ドラえもんとのび太はその風景に見入った。しかし。ここでドラえもんはある違和感を覚えた。

目の前に映し出された風景は西暦2199年。ドラえもんのいた2125年よりも80年以上未来のはず。しかし、2125年では確かにあったはずの未来的な建物等は無く、風景もほとんど現在と変わりないのだ。交通機関も21世紀初頭とそんなに代わり映えしない。しかし自分達の時代とは違う点が一つだけ存在した。それは4階建てのビルほどもある武器を持った巨大ロボットが街を闊歩しているのが写ったのである。それも戦闘中のようで大砲を撃つような音が断続的に響いている。爆発の閃光が時々瞬き、20mの巨体同士が剣などを持って騎士のように斬り合いをする。彼等の常識からは考えられないが、明らかに起こっている出来事である。


「……」

ドラえもんは絶句して二の句が告げないようだ。だが、2人をさらに驚愕させる物が場面に現れた。
「あ、あの空に浮かんでる黒い斑点のような大群はなんだろう?」

「待って。拡大してみる」


ドラえもんはテレビのダイヤルを操作し、場面をロボット同士の戦いから切り替える。

「そ、そんな馬鹿な!?」

のび太は思わず叫んでいた。 目の前に写っているのは彼らと因縁の深い敵であり、最も苦戦させられた組織の1つだった鉄人兵団と呼ばれた異星人の軍隊だった。

――見間違えるはずもない。あの黒いボディー、あの一つ目。そして中央を飛ぶ金色の図体をした指揮官ロボ。それらが“22世紀終盤の世界にいる”。この光景は2人を唖然とさせるのには十分すぎた。かつて自分達の手で歴史から消し去ったはずのモノが未来に存在するのである。しかも自分達と戦った時同様に地球に襲来した。これで平静を保てと言う方が無理である。

「ドラえもん、これって戦争だよね?しかも地球と鉄人兵団の……星間戦争……!」


のび太はあまりにも凄い光景についてこれずに唖然とした表情を浮かべている。

「あ、あ……。そんな馬鹿な!?奴らはしずかちゃんとリルルが確かに……」」

ドラえもんもまた、明らかに動揺していた。自分の時代より80年未来に鉄人兵団が復活している。それも地球と戦争を繰り広げている。その事実がドラえもんの心を激しく揺さぶっていた。


「ドラえもん、落ち着いて!君が慌ててどーすんのさ!」

「あ、ああ……。すまない」

「これはどういうこと?」

「見ての通りさ。鉄人兵団が復活したのさ。本来、起こるはずの時代から200年遅れでね」

「な、なんだって…!?それじゃあの時僕たちがしたことは!?」

「おそらく、鉄人兵団の進化と地球への侵攻を遅らせただけさ。歴史を変えても、どこかで流れが元に戻ると言う話を聞いたことがある。つまり進化の過程で鉄人兵団が出現するのは歴史上の必然だった」


ドラえもんの言う、この現象はどこかの時代の流れを変えたとしても、結局は同じような結果に至るというもので、SFのタイムトラベルを行う作品で多く見られるケースである。


例として挙げれば、“もし、第2次世界大戦で日本やドイツを大戦に勝たせたとしても、戦闘で得た資源の分配や体制の違いから結局、対立していき、日独の冷戦になるなどだが、
彼らが目にした光景はまさにこの現象そのものであった。歴史の流れをどこかで変えても結局はどこかで同じような事柄が起こるという時間の流れに起こりえるありふれた現象。ドラえもんとのび太は例えようのない虚しさに襲われていた。

「そんな……鉄人兵団は歴史上で必要な進化だっていうの!?」

「…たぶんね。でも何故こうなってしまったんだ?皆目見当が付かない」



ドラえもんは深刻な表情でタイムテレビの場面を見ている。


「原因はわからないの?ほら、前に西遊記の主役になって妖怪達と戦った時みたいにさ」

のび太は過去に一度、妖が人間を支配した歴史に改変されたのを元に修正した事件を思い出し、懐かしそうな声を出した。しかし今回はそう単純ではない。


「あの時みたいに年代が特定できればいいんだけど、今回はどの年代でこうなったかまったくわからない。この時代に行けばわかると思うんだけど…」

「西暦2199年、とんでもない未来だけど…行けば何かがわかるかも知れない。僕はとりあえずみんなに電話してくる!」


そういうとのび太は階段を駆け下りていった。冒険になると、のび太は普段の性格が鳴りを潜め、ここぞという時に勇ましさを感じさせる性格になる。この一面はドラえもんが関心させられるところでもある。

「のび太くんたら、こういうことになると急にかっこよくなるんだから…」

ドラえもんもとりあえず何故兵団が復活したかを探るべく、タイムテレビを操作する。

――未来に何があったんだ!?くっ…。


タイムテレビを凝視しながらドラえもんは戸惑うドラえもんであった。




――のび太が電話機に走ってから30分ほどで彼の親友達が野比家に集合した。皆、のび太やドラえもんと長き年月を共にしてきたかけがえの無い仲間である。のび太から電話があるや否や、すぐさまそれぞれ家を飛び出し、駆けつけたのである。



「…と言う訳」

「そ、そんな…鉄人兵団が…」

「復活したって言うのかよ!?」


メンバーの内の紅一点“源しずか”と、かれこれ、長くこの町のガキ大将に君臨し続ける‘永遠のガキ大将“剛田武”――通称ジャイアン――が信じられないと言った声を出す。
すぐさま、のび太が普段の彼からはとても想像できないほどに冷静な声でその疑問に答えた。
「ああ、僕達も信じられなかったよ。だけど…これは事実だよ、みんな」

「のび太ってこういうことになるとかっこよくなるなぁ…」

メンバーの最後の1人の小柄な少年”骨川スネ夫“がのび太に感心するようなそぶりを見せた。のび太もその事は自覚していたのか、苦笑を浮かべる。

「20回以上も大冒険してればこうもなるさ。それに今回のこの事は、僕達が守った地球がまた奴らにメチャクチャにされかねないんだ」

「けど未来の地球には軍隊だってあるんだろ?それに宇宙戦争なんか始めて僕達が勝てるはずない!」

そこまで言った時、ジャイアンが呆れた声でスネ夫に言い放った。

「その台詞、ピシアと戦った時も言ってたよな。あの時も勝てたんだ!今回も勝つ!」

「2人とも、今はそんなことで言い合ってる場合じゃない!」

一喝するドラえもん。――そう。あの戦いで友達になれたと思っていた敵側のロボットの美少女“リルル”と言う大きな犠牲を払って兵団の存在を抹消したと言うのに、何故、彼らが復活し、今また未来の地球の平和を脅かしているのか。


「ねえ…ドラちゃん。何のためにリルルは消滅したの?これじゃ無駄死にじゃない…!あたし達がやった事は何だったの!?」

この出来事にしずかは取り乱し、目に涙を浮かべて号泣する。この事実はかつての自らの行為を否定されたも同然だからだ。

「いいや、無駄じゃなかった。君がやってくれたことで地球は救われた。今回はザンダクロス達はいないけど、また僕達がケリをつければいいだけだ」

ドラえもんは自らの決意を表すようにしずかに優しく微笑む。のび太も同様の気持ちだろうか、凛とした表情を浮かべた。


「よおし、これで話は決まったぁ!さっそく未来の世界へ殴りこみだ!! 」

「おう! 」

「しょうがない…こうなったら…おおおっ! 」

スネ夫もやけくそになって叫ぶ。ジャイアンが仕切る格好で5人は矢次にのび太の机の引き出しに隠されているタイムマシンに乗り込む。のび太の息子の代からその曾孫の代まで使い込んでいる、年代もののタイムマシンではあるが、幾度かの改良により性能は上がっている。2125年以降の未来へのタイムトラベルにも十分耐えうるはずとドラえもんはタイムマシンのスイッチを入れ、エンジンを始動させる。
「いざ未来の世界へ!!」

5人は意気揚々と未来へのタイムトラベルを敢行した。これが新たな冒険の幕開けであった










――西暦2199年 地球 地球連邦軍極東支部


「ブライト、今度の敵はどこの異星人だ?」

「ああ。なんでも別の銀河の軍隊で、鉄人兵団と言うらしい。その一部隊が日本近海に接近中だ。そこで我々に出動要請が出されたわけだ」


基地の通路で話をしている彼らはこの時代の地球圏を統治する国家にして、人類の悲願であった全ての国家の統一を成し得た地球連邦政府の保有する軍隊であり、20世紀頃に構想された国連常設軍の流れを汲む地球連邦軍の中でも、数多の戦乱を地球側の勝利に導き、最強を謡われる艦隊のロンド・ベルの指揮官“ブライト・ノア”と、彼の長年の戦友であり、部下でもある連邦宇宙軍きってのエースパイロット“アムロ・レイ”である。


今回の事態に対しての対応として彼らが召集されたのである。


「科学要塞研究所と新・早乙女研究所からは鉄也くんとゲッターチームが召集に応じてくれた。じきにこの基地に到着するはずだ」

この時代には日本列島などで多くの未知の資源やエネルギーが発見されており、その研究が盛んに行われている。しかし必然か、そのエネルギーを悪事に利用しようとする輩も多い。そこで強大な力を持つ機体――俗に言う、スーパーロボット――が造られた。その多くが実戦に投入されたが、白色彗星帝国との戦いで一部を除いた機体は皆、戦闘不能状態に追い込まれていた。今回、援軍として派遣されてきたのは即応で動ける状態にある2機であった。一機はスーパーロボットの始祖的存在であったマジンガーZの正当後継機“グレートマジンガー」”同じく戦闘用に開発された合体型スーパーロボット“ゲッターロボG”である。元々ゲッターロボは宇宙開発用として造られたが、強力になっていく敵に対抗するために純然たる戦闘用の新型機の開発が行われた。その成果がゲッターロボGなのである。


「……やはり甲児君の怪我は治っていないのか?」

「鉄也君の話だと、まだZがまけたショックから立ち直れていないらしい」

ブライトはかつての仲間の一人の事が気がかりだった。それは悪の野望から地球を守る為に戦い、遂に陥落した黒鋼の城。その操縦者“兜甲児”。前大戦で失われた犠牲は大きかった事を示す事例の一つである。マジンガーZの敗北は全ての人々に衝撃を与えた事件であったと同時に、当時の戦線の情勢すら一時的に変えてしまった重大な出来事であったからだ。


「しかし…、ああも無残に破壊されてしまったとは未だに信じられん」

「甲児君、立ち直ってくれればいいんだが…。あいつらは何と言っている?」


あいつらとは、エースとして多くの戦争で部隊の戦線を支えた人物。ガンダム系の高性能機を駆って、戦線で名を馳せ、戦局を左右するとまで言われ、人類の革新“ニュータイプ”と名声を欲しいままにした者達。


「2人とも準備が出来次第、こちらに向かうと連絡が入った」

「本当か?」

「なんでもたまたま一緒のところで出くわして、その関係らしい」

「あいつ等らしいな」

会話を交わしていく内にジェットエンジンの轟音が響いてきた。どうやらグレートマジンガー達が到着したようだ。

「来たか。たしか外に出るにはこのドアだったな」



ブライトとアムロは最寄のドアを開けて外に出る。
それぞれのパイロット達が機体から降りてブライトとアムロに敬礼する。ゲッターロボGの“流竜馬”、“神隼人”“車弁慶”。それにグレートマジンガーの“剣鉄也”。いずれも血気盛んな10代後半の若者ばかりだが、
侮れない事に彼らは先の戦乱で人類に勝利をもたらした“英雄”なのだ。一癖ありそうな面構えと言っても過言ではない顔つきは彼等の持つ勇ましさを表していた。


「お久しぶりッスね、ブライトさん」

「うむ、みんなよく来てくれた。積る話もあるだろうが、君達にはさっそく作戦会議に入ってもらう」


「了解。相変わらず人使い荒いですね」
鉄也が諦めたように言う。やれやれとため息をついている。

「こればかりは治してほしいなぁ〜なぁリョウ」

弁慶もここぞといわんばかりに呟く。

「おい、2人ともグダグダ言うのは後にしやがれよ」

「へいへい。わかってるって」



竜馬の言葉でこの場は収まったが、 2人ともブライトの人使いの荒さにまいっているそうだ。
かく言う竜馬もなんだかんだでトホホホとため息をつきながら作戦会議室に向かう。それをブライトは気付いているのだろうか。






――同時刻 日本 某所

「何かの反応が?」

「ああ。反応があった地点から一番近いのは高町、お前だ。行ってくれるか?」

「了解!」


――この通信に答えた11歳ほどの少女の名は“高町なのは”。地球人では珍しく、類まれな魔法の才能の持ち主。かつて、2つの事件を解決に導いた“時空管理局”きっての若きエースの一人。


――ちなみに時空管理局とは、多くの平行世界を傘下に収めている世界間機構であり、軍隊と警察、裁判所の3つを合体させたような組織である。彼女はそこに属していた。彼女は地球では平凡な小学5年生の小女である。笑顔を絶やさない明るい性格であるが、軍隊に近い性質を持つ組織に所属しているせいか、最近は凛々しさも感じさせるようになったと言う、魔法が使える以外は普通の女の子である。彼女は演習帰りに思いがけないエネルギー反応の調査を命じられた。しかしこの時、彼女の運命は思いもよらない方向に暗転していた。



「あれをテストの相手になさるのですか?……様」

――男と女の半身が合体した様な容姿の人物が彼より上位に位置する地位を持つ巨人に話しかける。巨人は玉座から腰を上げると同時に答た。

「魔導師ならゲッターロボ號のテストにちょうど良い。調子はどうか?」

「機体は問題ありませんが、パイロットはいかがしますか?」
「まだ奴らの洗脳は終わっていないのだろう?クローンの巴武蔵を使う」

「ハッ!しかし管理局にこの場所を知られる事に」

「かまわん。知ったところで今は何もできんよ。あの連中にはな」

「わかりました」

とある場所に隠された基地から3つの発進口が開放される。どうやら司令官らしき人物は管理局を蔑視しているようで、憮然とした声で命令を発した。

「ゲッター1、2,3、発進準備完了!」

その場にいた兵士から発進準備完了の報告がなされる。

「発進させろ!」

彼の号令で3機の戦闘機が発進する。その姿はかのゲットマシンに酷似している。3機は音速を遥かに超える速度でなのはに迫った。



「ふ、ふぇ!?いきなり何なの!?」



突如襲撃してきた3機の戦闘機と思しき兵器はミサイルやバルカン砲などで攻撃してくる。牽制とはいえ、こちらの砲撃を容易く回避したところを見ると、奇抜な見かけによらず機動性は良いようだ。ミサイルを放ったとおもうと、戦闘機の編隊は上空に向けて上昇を始めた。その次の瞬間、なのはは己が目を疑った。3機編隊の戦闘機がそれぞれロボットと思しき形態に変形していくのだ。先頭の蒼い機体から順に合体していく様は敵ながら壮観であった。



「チェェェェンジ!!ゲッターァァァァァ……號!」

叫びと共に一機の巨大ロボットがなのはの前に姿を現した。その名もゲッターロボ號、かのゲッターロボやゲッタードラゴンの流れを汲む、3機合体型スーパーロボットであるが、初代やGとは違い、ゲッター線と呼ばれるエネルギーを動力には用いていないが、そのポテンシャルは高く、ゲッターGと対等の能力を持つ恐るべきスーパーロボットだ。なのはを襲ったのはまさにそれであった。





「う、嘘ぉ!?巨大ロボットに合体した!?」

驚きを隠ししれない様子でそのロボットを見上げる。



――そ、そんな!?この世界にこんな物が存在しているなんて!――

青を基調としたカラーリングはまるでSFの主人公メカのような印象を与えている。大きさも並のビルくらいはあると見積もればいいだろうか。

「ナックルボンバー!! 」

不意にゲッター號の拳の部分が音速以上の速さで撃ち出された。俗に言う“ブーストナックル”やロケットパンチの類である。なのははとっさに回避を選んだ。超音速以上の高速で何トンもあるような大質量の兵器を生身の身体に食らえば無事ではすまない。それにあれだけの質量では並の防御は意味をなさないだろう。防御を諦め、回避に専念した。
しかしこの瞬間、彼女は自分の体の異常に気付いた。




――あれ……?おかしい……体が思うように動かないッ!?

彼女は9歳の時から魔導師として事件に関わってきた。しかしその幼すぎる年齢ゆえに自分自身の肉体にかかる膨大な負担に気付かなかった。それが今最悪の形で現れたのだ。なのはは自身の動きが普段よりも鈍っている事に焦りを、体の悲鳴に気づけなかった自分への怒りを感じつつも戦闘に臨む。


「うっ……くぅ……!やっぱり思うように動けない……でも…こんなことで負けるわけにはいかないの!」


「フハハハ……いつまで避けられるかな?レッグブレード!!」

だが、敵は更に追い打ちをかける。ゲッターロボ號の脚部より鋭利な刃“レッグブレード”が展開され、なのはに向けてその凶刃を奮う。彼女は完璧な体調ではないもの、小回りが効く機動でなんとかレッグブレードの刃を避けていく。



――どういうことなの!?このロボット…どう考えても今の地球の科学じゃ造れないはずだよ!?それに何で日本語!?この世界って無人世界のはずだよね……?


――そう。この巨大ロボットから発しられている言語はどう聞いても彼女の故郷の世界の母国の日本で使われている言語―日本語―であったからだ。しかもこの世界はつい数年前に行われた探査によれば、無人という判定を受けた世界のはずなのに、だ。

「アクセルシューター、シュート!!」

戸惑いつつも魔法で攻撃を仕掛けるが、よほど堅牢な素材を装甲に用いているのか、こちらの誘導弾による攻撃にもさほど堪えた様子は見られない。


「アクセルシューターじゃダメ……なら、アレいくよレイジングハート!」

All rightと応える、この杖はのは彼女の愛杖であり、常になのはをサポートしてきたレイジングハート・エクセリオン。なのはは魔力増幅用のカートリッジ――見かけは弾丸に近い―を装填すると、自身の最も得意とする攻撃である、魔力による砲撃体勢に入った。


「ディバィィィン…」


なのはが砲撃を撃つ動きを見せると同時に ゲッター號のコックピットで操縦者であるクローン体の巴武蔵は不敵な笑みを浮かべた。その笑みは彼の生気のない瞳と相まって不気味ささえ感じさせる物だった。チャージなどさせんと言わんばかりにさらなる動きを見せた。両腕の拳を組み合わせると同時に、拳にプラズマを帯びたエネルギーと竜巻を発生させ、それを一つに併せ、瞬時に臨界状態になったエネルギーをなのはが砲撃を放つよりも早く、一気に解き放った。

「マグフォースサンダーァァァッ!! 」

叫びと組み合わせた両腕から竜巻を伴った高圧電流を撃ち出すゲッターロボ號。この技はゲッターロボ號の持つ超兵器の一つで、竜巻の射線軸にいるすべてを薙ぎ払う。要するに対人用にしてはあまりにも威力過剰な代物なのだ。マグフォースサンダーは凄まじい大きさの竜巻となってなのはを襲った。
竜巻に飲まれたなのはの身体を轟音と共に烈風がカマイタチのように切り刻んでいき、 斬られた傷から鮮血が噴出し、彼女のジャケットを赤く染めてゆく。悲鳴を上げる暇すらないほどに、加速的に増大していく出血のせいで意識が薄れていくのが自分でも理解できた。視界がぼやけ、手足の感覚もだんだんと無くなって行く。自分はこのまま死んで行くのだろうかと涙を流す。次の瞬間、彼女をとどめの何万ボルトもの高圧電流が直撃し、痛みを自覚する前に、なのはは意識を消失させた。

――みんな……ごめ……ん……


仮にもエースである自分が未確認とは言え、大して反撃する間も与えられぬままに落とされた。彼女にとって初めてのことだった。現に同僚からも、“なのはがそこらの兵器などに後れを取るなど、万に一つもありえない”と評されていたし、自分もそれを当然としていたし、自負してもいた。



 
――果たして、これは幼いうちに強大な力を持ってしまい、その力に溺れた彼女への罰なのだろうか。やがて膨大な電流の負荷に耐えきれなくなったレイジングハートが激しい爆発を起こし、爆炎が上がる。ゲッター號はなのはの撃墜を確認すると、その力を誇示するかのように再び戦闘機に分離し、悠々と大空へ消えていった。



この短い戦闘が後に、管理局によってなのは撃墜事件と呼ばれる事件の顛末である。現場に時空管理局の救援部隊が到着した時、現場には膨大な血痕と、何かが爆発した形跡が残されているだけで、武装隊を動員しての必死の捜索にも関わらずなのはの姿はどこにも確認されなかった。



救援に駆けつけたなのはの同僚“ヴィータ”はこの凄惨な現場の状況に愕然とした表情を見せた。辺り一面を赤く染める血の跡。どう考えても生存しているのか怪しい状況だった。
そして彼女が持っていたデバイスのレイジングハート・エクセリオンの一部分らしき残骸が転がっているなど、まさに生存は絶望的な状況だった。


「……ヴィータ」

隊員の一人が促すように彼女の肩に手をかける。

「嘘だッ!!アイツが落とされるわけねえ!!こんなことが……こんなことがあるはずねぇんだ!!」

ヴィータは事実を受け入れられず、時より体を震わせて涙を拭おうともせずにふらふらと歩きだす。

「気持ちは分かる。だがこれは事実だ!」

「てめえ、なのはは、なのはは死んだっていうのかよぉ!?」


ヴィータは隊員のバリアジャケットを荒々しく掴んで怒りを露わにするが、顔には涙を浮かべている。戦友が死んだことを信じられず、ただ泣くことしかできない。


「俺だって信じたくは無い!だがこの状況から言ってそうとしか考えられん!」

「く、くううう……くっそおおおおおおおおおおおお!!!あたしが、あたしがついてれば…ちくしょぉぉぉぉ!! 」


それは戦友を失ったというやり場の無い悲しみの発露でもあった。地面に拳を何度も叩きつけて、感情のままに慟哭の叫びをあげた。もちろん彼女だけでなく、救援に当たっている全員が悲しみを抑えるような悲痛な表情で現場を見つめていた。
こうしてこの日は歴史に、管理局にとって最大の損失を出した日として記録される事になった。彼女の事を知る誰もがこの悲報を信じられないと口を揃えたが、行方不明となったのが未知の管轄外世界だったがため、表立っての捜索は不可能に近く、周囲の捜索は続けられたもの、手掛かりを掴むことも叶わす、なのはの消息の調査は打ち切られてしまった。



――では、撃墜されたはずのなのはは、一体どこに消えたのか。実は彼女は爆発から間もなく、たまたま近くを飛行中だった連邦空軍のディッシュ連絡機の乗員によって保護されていたのである。爆発を観測したパイロットが機体を向かわせてみると、重傷を負った一人の少女が倒れているのを乗員の一人が発見、着陸して直ちに保護したのである。



連絡機の機内では重傷患者の応急処置に負われていた。考えられるかぎりの処置でどうにか一命を取り留めるには至ったが、まだ安心できない状況であった。

「この子はいったい何故あんなところに?」

「さあ?身分証明書らしきものを見てみたが、どうやら名前からして日本人のようだが、時空管理局なんて組織など聞いたこともない。それに彼女が持っていた杖には高度な人工知能が搭載されているようだ」
「何のために?」

「わからん。とにかく近くを航行中の海軍か宇宙軍の艦船はないのか?この機の設備では応急処置が精一杯なんだぞ」

「まあ落ち着きたまえ。君達がうろたえてどうする?」

「こ、これは中将閣下!」


少女の治療に当たっている兵士から中将と呼ばれた彼の名は“ミスマル・コウイチロウ”。地球連邦宇宙軍本星防衛艦隊の第3地球軌道艦隊司令長官を努める連邦軍の誇る名将の一人。だが、その欠点は超がつくほどの親バカ。大学生の一人娘を溺愛しており、娘のことになると、なりふり構わず行動してしまう点が玉にキズであった。しかし一度、仕事モードに入れば、名将の誉通りの有能ぶりを発揮する。彼は対鉄人兵団の太平洋方面戦線の指揮を執るべく、この機体で極東支部に向かっていたが。機が直面したこの事態にうろたえる兵士達を落ち着けるため、医務施設があるこの一角に足を運んだのである。



「この子の容態はどうなのかね?」

「ハッ。応急処置ではありますが、治療用ナノマシンの注入を行った事でどうにか安定しましたが、やはりちゃんとした施設のある艦船でないとこれ以上は…」

「あいわかった。極東支部にラー・カイラムが寄港しているはずだ。彼らにこの子を託す。直ちに連絡をとってくれたまえ」

「了解!」


コウイチロウは連絡要員の兵士が去ったこの一室で少女が助かる事を心から願い、自身も治療の手伝い――と、言っても包帯などを巻く簡単な作業だが――に当たった。見たところ小学生ほどだろうか。まだこんなに幼い少女が何故こんなにも痛々しい傷を負っていたのか?疑問が頭に浮かぶが、今はそれどころではない。彼らを乗せた機は日本の上空に到達しつつあった。











4日後 日本の関東地方


「この次元世界でなのはが消息を絶ったんだね?」

「ああ。くそっ!あたしがあいつの傍にいていれば…」

「ヴィータのせいじゃないよ。気づいてあげられなかったのは私も同じだよ」

「すまねえな。お前にまで迷惑かけちまって」


ヴィータと会話をしているこの小学生程度の年の頃の金髪の少女は“フェイト・T・ハラオウン”。消息を絶ったなのはの一番の親友であり、戦友でもある11歳の小学5年生である。彼女は親友の悲報を知らされるも、戦死の可能性を断固として否定、執務官である義理の兄のクロノ・ハラオウンや提督を務め、管理局本局内でも高い発言力を持つ義理の母のリンディ・ハラオウンの計らいもあって、執務官に仮任官され、独自になのはの捜索に乗り出したのである。2人はこの世界の首都と思しきこの町を散策していたが、町並みなどの風景にある一種の既視感を感じていた。


「ねぇヴィータ。さっきから思ってたんだけど、ここってどう見ても日本、それも東京だよね?」

フェイトは先ほどより覚えていた既視感をヴィータに問いかける。するとすぐに答えが帰って来た。

「どう見たって東京だな…。あそこに都庁のビルも見えるしなぁ」

彼女の腕にはコンビニで買ったと思しき新聞を持っている。そして新聞を広げ、目を通している。

「お、おいテスタロッサ…、これを見てみろ!」

「何々?えぇと……」

フェイトはヴィータに促されるように、新聞記事に目を通す。そこには信じがたい事実が書かれていた。新聞の日付は“西暦2199年6月”と記されており、新聞の記事には『地球連邦政府、宇宙軍の増強を正式決定。サイド2、フロンティアサイド駐留部隊には新型可変戦闘機配備の模様。新マクロス級の追加建造、ヱルトリウム級二番艦“アレクシオン”の建造が急がれる…』と大きく報じられていた。


「……冗談じゃないよね?エイプリルフールとかの」

思わず疑問を声に出すが、6月だとすると、エイプリルフールはとっくのとうに終わっているし、辺りを行きかう人々の様子から真実と判断するしかなかった。



「あたしも一瞬何のジョークだと思ったぜ。けど本物らしいな」

「すると、なのははこの世界の軍隊か何かに保護されたのかな?」

「あたし達がいたところは軍の演習場に使われる無人地区だったみたいだし、たぶんな。それにしてもすげえな。日常関係以外の軍事技術は凄く発達してるみたいだしよ」


ヴィータはこの世界を一目見た感想を率直に言う。その言葉は実に的を得ていた。ただしあることを除けばだが。彼女らは街を闊歩しつつ、どう考えても日本としか思えない光景の広がるこの世界に驚きを隠しきれなかった。ビル、山々・そして道路を行き交う人々。何もかが地球とまったく同じなのだ。驚かないはずがなかった。





しばらく歩いているとズンと、地震のような地響きがしたと思えば、見たこともないような、彼女たちの常識から見ても“非常識”な巨大な人型ロボットが現れた。一つ目を輝かせ、銃や斧で武装した、如何にも兵器然とした姿に唖然とさせられてしまう。彼女たちは知る由もないが、それらは過去の戦争に敗れ去ってもなお、連邦に抵抗を続ける者達。彼らの物言いを借りるならば、“宇宙移民者の地球からの呪縛を解き放すつための正義の剣”とでも言うべき存在。その名もジオン公国軍。彼らはその生き残りの残党なのだ。ザクUF2、ドム・トローペンなど、かつての戦争で使われた名機で構成される残党軍の部隊。
この時代では旧式化した兵器ばかりだが、並の連邦軍の部隊では到底太刀打ちできない老練さを持つ彼らはちょうど近くの駐屯地を襲う途中だったのである。もちろん迎撃に出た敵を蹴散らしながら。

「お、おい。あれって……ロボットだよな」

「う、うん。だけどあんな物を200年くらいで作れるわけが……!?」

フェイトらからすれば滞在していた21世紀序盤の地球の科学力の常識から普通に進歩を重ねていては22世紀になったくらいでは作れそうにない巨大人型ロボット。その戦闘を呆然と見つめる。目の前に広がるのはSF映画などではない、現実に繰り広げられる戦闘。街を守る側であろう白いゴーグルアイの方のロボットは何かの刃が欠けるように次々と破壊されたり、行動不能にされていく。このような事態を静観するフェイトでは無かった。




「お、おいテスタロッサ!お前……」

「バルディッシュ・アサルト、セ―ットアップ!!」


ヴィータが制止する間もなく、すでにフェイトは戦闘態勢に入っていた。街が戦闘で破壊されて行く光景を目にしては、黙ってはいられなかったのだろう。これには諦めがついたらしく、ヴィータも援護に入った。

2人はちょうど防衛側の白いロボット―地球連邦地上軍の主力機のヌーベルジムVが蹴散らされるのと入れ違う形で介入した。この2人の介入者に己の目を疑ったのはジオン残党軍の方だった。

「隊長、俺達は夢を見てるんですかね」

「センサーにしっかり反応がある。まるで昔のアニメを見ている気分だ。だからといって、引き下がるわけにはいかん」

残党軍の小隊長は自機――ドム・フュンフ――の外部スピーカーのスイッチを入れた。

『何のつもりだね、お嬢ちゃん達』

穏やかな口調で目の前に立ちふさがる少女たちに話しかける。彼としては子供を戦場に巻き込む事は避けたいようだ。


「あなた達をこれ以上進ませるわけにはいきません。ここであなた方を拘束します」

そのまだあどけさを感じさせる外見に見合わない落ち着きを見せる金髪の少女。腕にはエネルギーで刀身が形成される――グフのヒートサーベルのようなものか?――サーベルのようなものが握られている。もう一人の方はハンマーである。なんとも物騒である。

「どうして……、どうしてこんな事すんだよっ……答えろ!テメエら!!」


――もう一人の赤紙のお下げの髪形の少女の問いに私はこう答えた。それは宇宙移民者――スペースノイド――の理想、我々が戦い続ける理由でもあったからだ。

『我々は理想のために戦っている。宇宙移民者―スペースノイドの地球からの開放を実現するために』


―そう。これこそジオン公国が掲げた「理想」であり、宇宙移民者達の悲願。彼らはこのために軍に生命を捧げたのだ。


しかしそんな物言いも、フェイト達には信じられない。いくら太それた理想を掲げても、今、行っているのは単なるテロ行為ではないか。このために何も関係のない人々を巻き込んだというのか。


「こんな事間違ってる……!!あなたたちのかってな理想のために多くの人が死んで行くなんてッッ!」

――金髪の少女の怒りは理解出来る。確かに私たちが行っているのは、体制側から見ればテロの一言で片付けられる行為である。だが、戦争というのは単純に正義や悪で分けられるほど甘くはないのだ。


『……では、君たちに聞くが、どうして争いが起きる?どうして無くならないと思う?』
「なっ……?」

『簡単な事だ。理由など、怨恨、生存権を得るため、資源のため……などいくらでも考えつく事だ。そしてどちらにもそれなりの正義がある……過去の戦争を見てもそうだ。百年戦争、日本の戦国時代、日清・日露戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦、湾岸戦争……、それこそ例を挙げればきりがないほどにあるのだよ』



フェイト達は彼に反論できなかった。これこそが戦争の真理である。彼女たちはこの時期はまだ管理局の掲げる理想を純粋に信じていただけになおさらショックであった。それこそ勢い良く殴られたような衝撃だった。

「たしかに世の中の摂理はそうかもしれない。だけど……私はあなた達を止めるッ!!」


フェイトは猛然とデバイス“バルディッシュ・アサルト”を構えながら自身の優に10倍はあろうドム・フュンフに突っ込む。なんとも光景としては奇妙である。フェイトはこの時、初めてモビルスーツと戦ったのである。


『いいだろう。ならば止めてみせろ。魔法使いのお嬢さん!」


――私は魔法使いと言った。彼女たちの姿はそう呼ぶにふさわしかった。
愛機にヒートサーベルを持たせ、黒いマントを羽織った少女を迎え撃った。








――人と機械―大きさにして、約17mほども差がある戦い。しかし、フェイトやヴィータにはその差を覆し得る力を持っている。不思議と負けるという考えは思い浮かばない。彼女らはこの地において初めて、人型機動兵器対魔道士の戦いを行った。







「はあああああっ!!」

猛然とドム・フェンフに突っ込むフェイト。音速のスピードを持ってして一気に目の前のモビルスーツを切り裂くつつりだろう。しかしその目論見は彼女の想像を超える俊敏さと柔軟性を備えたモビルスーツの前に外れる事となった。

彼女のデバイス“バルディッシュ・アサルト”の出力はMSの持つビーム・サーベルと比較しても決して引けは取らない。しかしジオン系MSがビーム兵器の開発に到るまでに装備していたヒート系装備もビーム・サーベルとの切り結びが可能なのである。どういうわけかその原理はデバイスの魔力とも当てはまり、鎌状のバルディッシュの魔力の金色の刃とヒートサーベルがぶつかり合い、火花を散らす。


「……!凄い力だ……ッ!」


グイグイとドムの腕部の力がフェイトにかかる。さしもの彼女も核融合炉の生み出すパワーの前には押し切れず、一進一退の状態が続く。他所でザクを相手に優位に持ち込んでいるヴィータを比べ、苦戦を強いられている感は否めない。


『ほう。少しは楽しませてくれる』


ドム・フェンフの胸部の砲口が眩いばかりの閃光を発する。拡散ビーム砲である。出力は低く、目くらましにしかならないがその場からの離脱などには役に立つ。閃光でフェイトを怯ませると、すぐさまホバーで離脱。僚機と合流する。


「隊長、あの嬢ちゃん達けっこうやりますね」

「ああ。ラケーケンバズを装備している機は直ちに掃射!あのハンマーの嬢ちゃんを黙らせろ」


小隊長の指令はすぐさまドム・トローペンのパイロット達に伝えられ、直ちに掃射が開始された。MS用のバズーカは大口径の大砲を放つのと同じ意味を持つ。これにはザクを愛機“グラーフアイゼン”でタコ殴りにしていたヴィータも「じ、冗談じゃねー!!」と言わんばかりに防御、もしくは回避に移させるほどの威力だった。耳をつんざく轟音とともにドム系特有の大口径バズーカ砲による攻撃が開始される。その光景は壮観であり、往時に連邦軍を恐怖させた火力はヴィータに牙を抜き、凄まじい爆炎で彼女の姿を覆い尽くした。艦船すらも轟沈させる破壊力から魔力による防壁で身を守ったが、完全ではなく、ヴィータの防護服――彼女らの言うところのバリアジャケット、ヴィータのは騎士甲冑と呼称する――の上層を完全に焼き尽くし、彼女が大事にしていた帽子をも跡形もなく吹き飛ばした。


「……ッ!!テメェらぁぁぁっ!!」


帽子――これには主の八神はやてからもらった人形の“のろいうさぎ”がデザインされており、ヴィータはとても大切にしていたを吹き飛ばされたヴィータは瞳の色が変わるほどに激怒し、突進した。

近くにいたザクUF2の頭部を吹き飛ばし、本命であるドム・トローペンのみに照準を合わせる。これにはドム・トローペンのパイロット達も肝を冷やした。
何せロケット推進のついたハンマーを持った幼女が突進してくるのだ。これにはある意味で恐怖を覚えてしまう。




「……正気か!?」

一人のパイロットが思わず焦りの表情と声を出す。ヴィータの捨て身の突撃は鬼気迫る勢いであり、訓練された軍人である彼らをしてもかすかに恐怖を覚えた。人など簡単に粉砕せしめる弾丸の火線が飛び交う中をボロボロの衣服のままでハンマーを構えた少女が突撃してくるのだ。かつての戦争で日本兵が得意とした白兵戦の光景の再現のように彼らジオン兵には思えた。



「うおおおおおおおあああああッ!!」


既にハンマーは突撃に最適な形状―ラケーケンフォームに変形を完了していた。
かなりのスピードが出ている状態で攻撃を食らえば比較的装甲の厚いドムと言えど、ただですむとは思えない。MSの照準能力では人のような小さいものに攻撃を当てるのは至難の業だ。迎撃の火線はヴィータの機動により回避され、もはや攻撃の回避はできない。

「ぶち抜けぇぇぇぇっ!!」


ヴィータはドム・トローペンの胸部にラケーケンハンマーを当てた。普通ならこれで大概相手の装甲を貫けるはずであり、実際なのはと敵対していた当時には彼女のバリアを粉砕した。だがこのは火力にドムの超硬スチール合金製の装甲は辛うじて耐えて見せた。ビーム攻撃以外の攻撃なら並のMS用火器では決定打を与えられない強度の賜物だが、大きく凹み、もう一度は耐えれない事を示していた。だが、これだけで攻撃は終わるわけはない。



「撃ち抜け、雷神!!はあああっ!!」

そこに追い打ちのフェイトのザンバーの打ち下ろしをくらい、一機が破壊された。これが非公式であるが、魔道士によるMS撃破の初記録であった。

「ヴィータ、まだ戦える?」

「おう!こんくらいで参るアタシじゃねえ。テメエこそアイツらにやられんじゃねえぞ」

「うん!」


2人は互いを鼓舞しながらなお戦闘を継続した。その戦闘は地球連邦軍にキャッチされていた。








――ヌーベルジムVが旧式機に手も無く――と、言ってもジムVと言えど、この頃は旧型に分類されているが――捻られたという報告がなされた地球連邦軍は実戦経験豊富な宇宙軍が――この時代の連邦軍は改革派が息を吹き返し、軍の統合運用が進められていた。旧式機が多い地上軍は空軍を除けば、殆どが2線級の戦力であり、必然的に最新装備を持つ宇宙軍に白羽の矢がたった――迎撃の任を引き継ぎ、機動性で圧倒するために可変機と中新型機で臨時部隊が編成された。連邦軍の可変MSはこの頃にはかつての戦乱で悪名高いティターンズが採用していた機種は殆どが政治的理由で退役に追い込まれており、その代わりに官軍側のエゥーゴが開発したZガンダムとその派生・量産型が大半を占めていた。当然ながら攻撃部隊の機体もZガンダム系列の可変機で編成されていた。かつてのカラバが用い、その後に正規軍が正式採用したZプラスを主力に、現行主力機のジェガンとその派生機に変わる宇宙軍の次期主力機として配備され始めたジャベリンも数機ほど含まれていた。

「大尉、Zプラスの受け取りに来ていきなり実戦ですか」

「ああ。まあ冷や飯食わされて来た俺達が重宝されるようになったのは嬉しいが、こうも頻繁に駆り出されると疲れる」


大尉と呼ばれた男―アムロ・レイ―は母艦の入港地に程近い宇宙軍基地に呼び出されるなり、いきなり実戦に駆り出されるのに愚痴をこぼした。彼は連邦軍きってのエースであり、連邦で唯一、戦後も正規軍に残った、人類の革新――ニュータイプとして覚醒を遂げた者である。最もアムロにはこれしか食い扶持が無かったためと、彼の存在を軍が手放さないだけの話だが。


「確かにそうですね」

「ゼータプラスの調整は済んでいるな?」

「ハッ。整備班からの報告によればいつでも発進できますとの事です」

「よし、今すぐ発進出来るものはすぐに出てくれ。上空で編隊を組みしだい、目的地に向かう」



この時期、連邦軍には佐官クラスの軍人が不足していた。度重なる戦乱で佐官クラスの大半が戦死しており、そのかわりに戦功を立てて尉官に上り詰めた人間が多数を占めており、本来ならば佐官レベル以上の仕事である出撃命令も尉官が下すという有様だった。なので、連邦軍は規則にある、“士官学校未卒の軍人は佐官以上に昇進不可能“の項目を削除するかの検討が始まっていた。

――余談はここまでにして、アムロは自身のパーソナルマークがマーキングされた――元はアナハイム・エレクトロニクス社のZプラスのシンボルマークであったのだが、アムロが自身のパーソナルマークとして使用したため、そっちの意味で有名となってしまった――Zプラスに乗り込み、僚機と共にウェイブライダー形態で目的地に向かった。










――不意に“ゴウンゴウン”とジェット機のエンジン音のように甲高い音が響き、遠くの空に胡麻粒の様な点が現れ、近づいてくる。それは高度を下げてグングンと急降下してくる。一見するとジェット戦闘機のように思える。しかしこのようなロボットに戦闘機で対抗できるのだろうか?2人がそう思った瞬間、戦闘機がおもむろに人型ロボットへ変形した。
その間0・何秒。あっという間との表現が相応しいだろう。フェイトとヴィータの前にオレンジと白のツートンカラーで塗装されたスタイリッシュな外見の機体が姿を表したのである。そして肩にはパイロットのパーソナルマークと思しきAの文字をモチーフにした文字が確認出来た。どこかで見たような外見の、ヒーローメカ然とした風体だった。

『君たち下がるんだ。戦闘に巻き込まれたいのか!』

戦場から下がるように促す声が響き、そのロボットは残党軍と戦闘を開始する。人間のようなツインアイとシャープな顔立ちなど、フェイト達が先程まで戦った機体とは全く異なる形状である。モノアイの機体と敵対している事から、ゴーグルの機体と同じ組織の所属であることは容易に想像出来る。


「連邦の新手か!」

ドム・フュンフを駆る小隊長は汎用機のジム系より高性能な第3世代機の可変MSが投入された事実にも狼狽えることは無かった。
それは現在の連邦軍には一年戦争末期のジオン軍並に熟練兵が不足しており、最新高性能の機体を持て余している事をこれまでの活動で熟知していた。

―そこに旧式機を駆る自分たちの付け入る隙があると考えた。だが、目の前の機体を駆るパイロットは熟練した腕に加え、ニュータイプの力を持っている事に彼らが気づくのにそう時間は掛からなかった。




――被弾を最低限に抑え、なおかつ正確な攻撃が出来、反応速度は常人のそれを超越している。これらの事実を照らし合わせると、自ずとそう結論づけるしかなかった。


「そこだ!!」

アムロの駆るZプラスの動きは正に鬼神のような強さであった。瞬く間にドム・トローペンを撃破され、ドムは無残な姿を晒す。そして神業的な機動でジオン軍残党らの攻撃を回避し、同時に何機もの機体を相手どっている芸当などがそれを裏付けている。


「……まさか本物に出くわすとは。しかしアレと言えど万能ではない」

Zプラスがわずかに見せた隙を彼は見逃さなかった。死角に回り込み、比較的装甲の薄い箇所である頭部に向けて弾速のあるサブマシンガンに火器を持ち替え、連射した。

「何っ!?しまった!」

さすがのアムロもこれには対応が遅れてしまい、回避は無理だった。シールドは本来の目的には使えない(Zプラスのシールドに当たる箇所には電子機器が内蔵されているのでシールドとしてではなく、変形用のユニット扱いである)ので被弾が確実かと覚悟を決めた。
―だが。その直前で弾丸は咄嗟の判断で行動したフェイトが辛うじて防いだ。
彼女の持つスピードが有効に働いたのである。


「!?!?」


この摩訶不思議な出来事に連邦軍将兵の誰もが目が点になり、我が目を疑う『人間が魔法でMSの攻撃を防いだ』。中世の伝説でもここまで分かりやすく魔法と分かるような現象は余り見ないし、せいぜい日本のアニメで目にした程度だった。それが目の前で起こったのだ。思わず少女に目がいってしまう。


「君はさっきの……!?」

アムロはゼータプラスの外部スピーカーで自身への攻撃を魔法で防いだ少女に話しかけた。


「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。その力はいったい?」

「それは後でお話します。私たちに協力してくれるんですか?」

「そうだ。恩を返させてもらうよ。だが君たちばかりにやらせてはいられない。ここは任せてくれ」


フェイトの前に複数の連邦軍側のMSが降り立つ。パイロットの誰もが「女の子だけにいい格好はさせないぜ!!」と言わんばかりに鼻息を荒くしている。なんとも現金なものだ。


遅れて最新鋭のジャベリンも到着し、これで残党軍を掃討する準備は整った。

「各機、準備はいいな?」

「 何時でもOKです。魔法使いの嬢ちゃんもいいか?」
「は、はい。(あれ――?この人達、魔法なんて見たこと無いはずなのになんでこんなに順応してるのぉ〜?)」




ありえないほどにノリノリな連邦軍将兵たちに思わず閉口するフェイトとヴィータであった。












 ― 場所は変わって、東京 



「ここが2199年の東京?」

「そうだよ。そうだみんな、念のためにホンヤク・コンニャクを食べておいて。時代的に日本語が使われているか怪しいから」

「それもそうだな。おいドラえもん、お味噌味はあるのか?」

未来につくなりのジャイアンの要求にドラえもんは“トホホ”と呆れ顔をする。

「しょうがないなぁ…この味高いんだよ?」

ドラえもんはしぶしぶとジャイアンにホンヤク・コンニャクお味噌味を手渡す。

「おお、心の友よ〜!」


オーバアクション気味に踊りながらジャイアンは素早くたいあげる。他のメンバーもコンニャクを食する。

「ねえドラちゃん、これからどうするの?」

とりあえずの疑問をしずかが聞く。それに答えるようにドラえもんはこれからの計画をのび太らに告げた。


「とりあえずこの時代の情報を集めなくちゃ。国会図書館に行って歴史とかを調べたりするよ。僕の道具でもわからない事が多いからね。」


ドラえもんの言葉通り、国会図書館を訪れた5人は兵団がいつ確認されたのかなどを調べた。すると2198年末の新聞ニュースにこう書かれていた。

――謎のロボット集団、ハワイ基地を強襲!連邦軍は対応が遅れ、基地の放棄を余儀なくされた模様――との一面記事が大きく載っていた。




「兵団が来たのはここだな?それでどうなった?スネ夫、この日からのニュースを追ってくれ」

「がってん!」

彼らは兵団の動きがわかる記事を係員に頼み込んで印刷してもらい、一つにまとめた。それによると兵団はハワイ真珠湾〜ミッドウェーを拠点に地球の軍隊と戦火を交えているらしい。ここでのび太が一つのことに気づいた。


「待って!そういえばリルルの姿が写ってないよ?」


そう。どの日付を見ても彼女と工作用ロボット「ジュド」(ドラえもん達はザンダクロスと読んでいる)の姿が見られないのだ。のび太が疑問に持つのも当然である。

「そういえば……もしもリルルが転生して、同様に作られていれば兵団と一緒にいるはずだよね」

「それがないつう事は…」

「リルルは兵団とは別の道を辿ったと言えるよ。のび太君が学校で見たリルルがそれを裏付けている」

そう。それが唯一、彼らの戦いで好転したと言える事実。しずかがリルルとの別れ際に告げたように天使に生まれ変わったのかもしれない……。彼らはそう信じていた。それがあの戦いで得られた彼女の幸福なのだから。
いや、信じずにはいられなかった。彼女はその身を犠牲にして地球を救ってくれた。たとえ転生したとしても、その心は決して悪に染まる事は無いと。



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