グレートマジンガーを追って、光子力研究所から発進したマジンカイザーであったが、日本のとある付近に差し掛かった所で`一瞬`だけ連邦軍のレーダーサイトから消えた後、復帰したが、何故かストライカーユニットとほぼ同じ規模のレーダー反応が「一個」増えていた。連邦軍の担当者は付近のウィッチが合流したのだと(ちょうどウィッチ達が近くの空域で演習中であったため)思い、気にも留めなかった。だが実際はウィッチとは全く違う「何か」であった。兜甲児は思いがけず『連れてきてしまった』`それ`に詫びたという。その何かの正体は何か。少なくとも今は多く語れない。だが、『男性に代わって女性が社会の主導権を握り、それをある兵器が実現させた世界』から兜甲児が連れてきてしまった、パワードスーツを纏った一人の日本人の少女ということだけは確かであった。何事も無く飛行するマジンカイザーのコックピットで兜甲児は少女の今後について考えを巡らしていた。共に「飛びながら」。
「まいったなぁ……どうしよう」
……と、諦めのため息をつく兜甲児。降りたらその少女にいい詰めよられるのは間違いない。どう説明するか、留学途中であった頭で必死に考えるのであった。
―グレートマジンガーはインドのマドラス基地へ向けて飛行していた。中国とロシア地域のほとんどが兵団の手に落ちている以上、同大陸を突っ切って飛行するのは如何にグレートマジンガーと言えど、単機では危険である。回り道をしつつ連邦軍がなんとか食い止めている沿岸地域を通ってインドへ向かう。
「鉄也さん、着いたかぁ?」
『今、マカオを通りすぎるところだ。まだまだだぞ』
グレートの手で眠っている西沢義子はストライカーユニットを外しているが、念のためストライカーユニットはロープでグレートの手に固定している。風に飛ばされないように。香港で休憩を挟みながら2人は一路、インドへ向かっていた。
「烈風の航続距離は紫電改よりはマシ、零式より短いからまだ使えねえか……」
『烈風か……こっちじゃ実戦に参加できなかった上に、カタログスペックが完成した時期が戦争再末期なのに1942、3年頃の水準だったから散々に言われてるんだよな』
「国情の違いかねぇ。ここじゃ烈風はなんか評価低いが、あたいの世界じゃ零式の正統後継機だって言うんでウィッチから人気高いんだけどなぁ」
『まあ、実戦未参加兵器のことなんてどうとでも言えるからな。ジオンのモビルスーツなんかによくあるんだよな……マニアの間で』
戦闘機として不遇の運命を辿った烈風であるが、西沢の世界ではウィッチ達が待ち望んだ零式の正統後継機として名を馳せている。西沢に回されたストライカーユニットはその先行量産型のA7M1である。ちなみに501の坂本美緒少佐も配備を熱望している一人で、使用している「紫電」一一型と二一型に不満を持ち、零式の特性を受け継き、最新鋭機らしい速度を機動性と両立している烈風を使いたいと軍上層部に要望書を書いているとか。
2人の眼下にはマカオの風景が広がっている。中国統治時代やポルトガル植民地時代の残滓が残る街並みが広がる。各時代の色々な街が入り交じるこの地を飛ぶグレートマジンガー。
『もうじきタイに入る。そうしたらタイ料理をおごってやるから、食事はもうちょっと我慢してくれ』
「本当!?いやったぁ!!あれ食ってみたかったんだ〜」
西沢はタイ料理を食べられる事を鉄也から教えられると、うれしそうにはしゃいで破顔した。西沢は未来の人間の目で見ると、言動などから実年齢よりも数歳ほど若く見られるらしく、鉄也も自身より年下なのは間違いないが、多分16歳くらいであろうと見込んでいた。しかし実際は彼とそんなに変わらず、18歳になったばかりである。それを知ったら彼はどういう顔をするのであろうか。
―欧州戦線
「フハハ……ハハハッ!!来るがいい剣鉄也、そして兜甲児……このゲッター軍団で貴様らに地獄を見せてくれる!!」
欧州のとある地でミケーネ帝国の技術により黄泉国から蘇った、兜甲児、いや兜家にとっての仇敵であったドクターヘルの腹心「あしゅら男爵」が暗躍していた。あしゅらは元来のミケーネの臣民として行動しており、今はミケーネ帝国の闇の帝王の配下として行動している。なのはを撃墜したゲッターロボ號も闇の帝王より手渡された手駒である。つまり彼はなのはをこの世界に留ませた原因を作った張本人でもある。
ミケーネ闇の帝王は時空管理局の行動を注視しつつ、百鬼帝国と同盟を結んだ。すべては兜甲児、剣鉄也、流竜馬達の打倒のため。そのために並行時空から様々な兵器を入手し、自らの手中に収めていた。
その内の一つで、流竜馬らの駆る真ゲッターロボを打倒するための切り札は今、あしゅら男爵の手中にある。仁王立ちで無数の本来のゲッターと色違いのゲッターロボGの各形態が鉄人兵団と地球連邦軍を問わず、すべてをゲッタービームやゲッターサイクロンなどの超兵器を使ってなぎ払い、阿鼻叫喚の地獄絵図を出現させる。
「さあ、世界最後の夜明けに懺悔せよ!ぬわぁははははははぁ……!!」
まるで並行時空で凶気に堕ちた早乙女博士の如き言いようで、あしゅら男爵は高笑いする。ゲッターを悪に利用する闇の帝王達。それに反応するかのように日本でゲッター炉を唸らせる真ゲッターロボ。そしてそれに呼応するかのように目に瞳が出現する『本来』のゲッタードラゴン。ゲッタードラゴンはまるで何かを急ぐように少しづつ進化を始める。欧州戦線で猛威を奮うゲッターGの本来の姿がいったい何であるか理解しているかのように……。
欧州の町をまるでかつてのとある有名なアニメのワンシーンのごとく炎に包み、全てを塵に還していく無数の真紅のゲッタードラゴン。人も動物も建物も全てが炎の中に消えていく。文明の破壊者のように闊歩するその姿は現地の人々に絶対的な恐怖を埋めつけ、現地の行政府をミケーネに屈しさせた。そこにはかつての「お許し下さい、ドクターヘル」と常に作戦失敗を咎められ、謝るような情けない姿はなかった。今、そこにあるのはミケーネの有能な臣民としての姿であった。この予想外の事態に、開催された地球連邦議会は紛糾したもの、最終的に国防族の「ジョン・バウアー」議員とゴップ議長の提言でスーパーロボットの全面的投入とロンド・ベル隊を始めとする軍・民間問わず、動かせる実働戦力を準備が整い次第、欧州戦線へ順次派遣することが全会一致で採択された。
―日本 呉
呉に帰港した(2199年当時、ロンド・ベル隊旗艦のラー・カイラムの地球での母港は呉である)ラー・カイラムの格納庫では一機のモビルスーツの整備が進められていた。RX−93「νガンダム」のフルアーマー形態「FA-93HWS`νガンダム HWS装備型」である。これは強化型のHi-νガンダムが1944年に送られて実戦テストを行なっている都合上、受領ができないアムロのためにアナハイム・エレクトロニクス社が既存のνガンダムの強化策としてハワイ戦の途中より行なっているフルアーマープランである。その全武装が全てフォン・ブラウン市より届き、装備が行われていた。
「ようやく来たか……ヘビー・ウェポン・システム……」
アムロ・レイは格納庫に搬入される物資を見るなりそういった。彼はF91などの新型機が登場したことで必然的に起る、νガンダムの相対的性能低下を懸念しており、そのためアナハイム・エレクトロニクス社の提案したヘビー・ウェポン・システムの導入を了承し、彼による設計の一部見直しを経て配備されたわけである。ハイパー・メガ・ライフルなどの追加武装が格納庫のウェポンラックに置かれる。
「凄いですねあのライフル」
「ああ、圭子君か。あのライフル、一応精密射撃もできるというが……どうもね」
アムロに加東圭子が話しかけてくる。階級は加東圭子の方が一階級上(少佐)であるが、年齢的にアムロのほうが上なのと、実戦経験もアムロに対し一歩譲るので、圭子は普段、アムロに対して年の功の要領でアムロに敬語を使って接していた。(もちろんTPOは理解しているので公の場ではアムロは圭子に対し配下としての言葉遣いになるが)
「どうしてです?」
「精密射撃を行なうと隙が大きい。近頃のモビルスーツ戦じゃビームシールド持つ機体も増えてるし、クロスボーン系列のショットランサーは厄介だ。果たしてあのライフルでビームシールドをぶち破れるか……」
アムロはコスモ・バビロニア建国時の動乱でビームシールドの威力をまざまざと目撃した一人。その当時に目撃したそこそこ強力なはずのヌーベルジムVの専用ライフルの攻撃を完璧に防ぐ防御力。ウェスバーやダブルビームライフルなどの強力な火器でなければ撃ちぬけないというのはコスモ・バビロニアの動乱を経験した連邦軍兵士には恐怖として染み付いている。それはアムロも例外ではない。いつもガンダムタイプを使用できるわけでは無いので、軍の制式機の火力アップを上層部に意見具申を行なっていた。その結果がウェスバーの制式採用であり、ハイパーメガライフルや「ビームマグナム」の試作となって現れた。
「心配なんですか?」
「ああ。コスモ・バビロニアやザンスカールとの戦争を生き残った兵士は皆、そういう心配をするのさ。俺もそうだ。ビームシールドはあの時、それだけ革新的だったのさ」
「撃ちぬけない恐怖ってのは私もありますね。ネウロイが出てきて、装甲が強化された新型だったときは軽く絶望感味わいました」
「戦いってのはそういうものさ。終わりのない競争みたいなものにも例えられる。ある兵器が発達すればその兵器に対抗できる……って具合にどんどんエスカレートする」
「人間ってやっぱりそういう生き物なんでしょうか」
「かもな。いくらニュータイプになろうが動物としての本能は変えられないんだろうな……だから戦いは起こり続ける。凝りもせずに」
「でも戦いを止めるために私たちがいる……そういうわけですね」
「ああ」
(シャア……俺はあくまで人類に絶望はしない。あの時の言葉は嘘じゃない)
アムロと圭子は会話を続ける。その時の圭子は少し楽しそうだった。その様子を目撃した穴拭智子はあまりの衝撃に飲んでいたコーヒーを吹き出してしまったとか。
−兜甲児は最強の魔神、マジンカイザーと共に一時的に並行時空へ転移してしまっていた。
その時間は兜甲児の体感時間にして、およそ数ヶ月。その間、甲児は色々と苦労して生活費を工面していた。
マジンカイザーはその世界では世界のパワーバランスを変えうるどころか、ある兵器によって変革してそれが安定した社会をも三度変革させ得る力を持つので秘匿し、元の世界に戻る方法を模索しつつ、あくまで一市民として生活していた。その内にある少女と知り合った。その少女の名は篠ノ之箒。ポニーテールが印象的な少女である。甲児は不可抗力ではあるが、
間違って銭湯の女湯に入ってしまうという失態を犯した。
それで旅行中で、銭湯に入りに来ていた彼女に更衣室で竹刀を持って追い回されるという事態に陥った。
「待ってくれ、これは事故なんだぁぁぁ〜!!せ、せ、せっ……説明するから!!」
「女湯に入る奴のどこが事故だ〜!!待てぇ!!」
甲児は伊達にスーパーロボットの搭乗者をしているわけではなく、彼女の竹刀の攻撃を全て見切って回避する芸当を披露。マジンカイザーの武器には剣が含まれており、剣戟を繰り広げる事もあるので自然に身についたと思われるが、仮にも箒は剣道の全国大会優勝者という経歴の持ち主である。その攻撃を見切る芸当は中々できない。彼女としてもこれには驚き、若干動揺した素振りを見せる。
「はぁぁっ!!」
「そうはさせるかよ!!」
凄まじい速さで振り下ろされる竹刀を甲児は必死の形相で真剣白刃取りで受け止める。甲児の普段の技能がここで生かされた形となった。力はスーパーロボットの重い操縦桿を日頃から動かしている甲児の方が上なので、箒が竹刀を押そうとしてもびくともしない。この時、甲児は祖父がマジンガーZを与えてくれた事を再び心から感謝した。
「あらいけない。出した男湯の案内表示を間違って女湯の方に置いてたわぁ」
……との番頭の老婆の声で甲児は身の潔白を証明される事になり、息を大きく吐き出し、安堵した。
「すまないな。追い掛け回してしまって」
「普通に考えりゃ当然さ。こっちこそごめん。俺は兜甲児。よろしくな」
「ん?どっかで聞いたような名前だな……。まあいい。私は篠ノ之箒。よろしく頼む」
「あ、ああ。それはよく言われるんだよな……」
甲児はそう言って誤魔化したが、内心は凄く動揺した。自分の戦いが並行時空ではアニメーションとして放映されている事は剣鉄也から伝え聞いていたのでその点を疑ったのだ。その場では言われなかったが、数週間後に箒が某大手中古品ショップで少年漫画の棚
で、ある漫画を見たとき、甲児の容姿がその漫画の主人公と全く同じ(文字通りに全てが)姿であることに驚愕。偶然かと思ったが、姿だけでなく名までも全く同じというのはあるはずはない。それで真相を確かめるべく、甲児と再会しようとしたのだが、甲児は生活費を工面すべく各地を転々としていたので、会えぬままであった。
−そして。やがて彼と箒を引き合わせる事件が発生する。
「ミノフスキー粒子は散布したな」
「ハッ。戦闘濃度よりも10%ほど多く散布しました」
「ご苦労。これでレーダーと通信は使えん。闇の帝王の仰せの通りに作戦を実行せよ」
「ハッ」
日本上空に出現した超巨大な爆撃機。1970年代の少年漫画にありがちな悪のメカというのをそのまま「名は体を表す」の要領で体現したその機体は「飛行要塞グール」。
戦死したドクターヘル=地獄大元帥のかつての居住地であった地獄城周辺でドクターヘルの遺体を回収する際に、
ミケーネの調査隊に回収されたグールの予備パーツを基にミケーネの技術を加えて新造した機体。それを指揮するはあしゅら男爵と同じく、闇の帝王により蘇生された形のブロッケン伯爵。彼は最早、ドクターヘルの配下ではないためなのか、生前のナチス・ドイツ軍人時代の軍服を着込んでいる。彼らもミノフスキー粒子の有効性は理解していたので、ミノフスキー粒子で、日本各地のレーダーサイトを無効化し、その膨大なペイロードを活かした絨毯爆撃を行った。
21世紀頃の戦闘機では絶対に到達不能な高高度にとどまった上でだ。
「よろしいのですか伯爵」
「我々の目的は防空網を黙らせ、ISとやらを奪取する事だ。自衛隊や米軍と大げさに事を構えることでは無い。潜入部隊の進行具合は?」
「現在、IS学園のネットワークにハッキングし、防衛設備を掌握した模様。出動不能に追い込むとの事。」
「よろしい」
彼らはまずIS関連施設が揃う日本のIS学園という学校兼関係者育成施設を掌握すべく、事前に警備関連に人員を送り込む手法を取った。作戦開始と共に施設ネットワークを掌握し、学園を封鎖する事が第一目標であった。
そもそも、彼の目的は闇の帝王が興味を持つ、この世界の重要兵器である「IS」のサンプルの奪取だ。この兵器は元々、次世代型の宇宙服として開発されたパワードスーツなのだが、ある出来事で凄まじいほどに圧倒的ポテンシャルを発揮せしめた事で戦車、戦闘機などの在来兵器に代わる抑止力として世界各国、特に先進国がこぞって抑止力として開発を進めている。開発国は日本で、米国の軍関係者の間では、かつて大日本帝国海軍が航空母艦の有用性を保有する空母機動部隊を以て示した事になぞらえて「JАPの奴らがまた新しい兵器の有用性を示しやがった」と揶揄する声があるとか。
ブロッケンの思惑は付近にいる操縦者を一人でもいいのでエネルギー切れに追い込み、捕獲する事。その為には各地の自衛隊及び在日米軍のレーダーサイトの一切を沈黙させ、更には援護の軍用機の発進を不可能にする必要がある。それで爆撃用に爆弾を積んでいるのだ。
万が一のために艦載機も積んである。闇の帝王の計らいで強力なものを。戦闘獣は数が足りないので動かせない(かつてのミケーネの実戦部隊の7大軍団は既に壊滅しているので、残存している戦闘獣は本土防衛用の近衛師団のみ)が、初代ゲッターロボのコピー機を複数積んでいる。元は宇宙開発用とは言え、この世界の大抵の兵器より遥かに強大だ。パイロットは巴武蔵のクローン人間を用意すればいいので楽だ。
「爆撃を敢行せよ」
「ハッ」
高高度より爆撃を敢行する飛行要塞グール。第一段は非装甲目標に損害を与えるためにクラスター爆弾(改良が重ねられた22世紀型)を使用している。複数散布される子弾が軍事基地の滑走路に火災を起こす。市街地は軍事基地を沈黙させてからの攻撃の予定なので、まだまだ攻撃はしない。
「よし、次弾はバンカーバスターを用意しろ」
「ハッ。バンカーバスターの準備を進めます」
ブロッケンは配下の兵士たちに地中貫通爆弾の用意を命じる。目的は格納庫で待機中の機体の破壊、あるいは地下施設を貫通、破壊せしめるため。発射準備完了の知らせと同時にブロッケンは意気揚々と発射を命じた。次いで艦載機の出撃をも命じた。
「発射準備完了したバンカーバスターは順次発射!!次いで降下しだい艦載機を発進させよ!!攻撃はさせるな。あくまで政府にゲッターロボの威力を誇示するのが目的だからな」
これは自衛隊や在日米軍に対する示威行動でもあった。既にISによって人型兵器への恐怖が軍部に染み付いている以上、全力出動の許可はたとえISを保有したとしてもおいそれと出そうとはしないのはブロッケン伯爵も元はナチス・ドイツ軍人の端くれなので、兵器を温存しようとする軍上層部の考えは理解できる。それ故に人々に恐怖を呼び覚ます為にあえてグールの高度を下げたのだ。グールの偉容は老人たちにはかつての東京大空襲などのB−29に対する恐怖を呼び覚ますだろうし、若者や壮年の年頃の人間達にはパニックを誘発させられるだろうという心理効果を狙ったのだ。
迎撃できぬように、各地の基地の滑走路は予め爆破し、さらに管制施設を破壊してある。たとえ政府が命令を発しても迎撃できぬようにするためだ。
「くっ、あの爆撃機……どういうつもりだ!?一体どの国が……!?ええい!!迷っていてはいられん!!」
箒は仲間たちに一切連絡がとれない状況でありながらも迎撃戦に臨む事を選択した。自衛隊や在日米軍は怖気づいたのか、気づいていないのかはわからないが、一向に迎撃に出てくる様子は無い。この場にいるIS操縦者は自分一人。ただの学生の身ではあるが、`姉`から与えられた、この力を信じるしか無い。
−あんな敵と刃を交える事への恐怖は無いわけじゃない。ここで私が……、私がやらなくては誰がやるんだ!!`一夏`を……みんなを……!
拳を握りしめ、決意を固めると待機状態であったISを展開し、迎撃戦に臨む。
孤立無援の中での戦いである。自身とてどこまでやれるかわからない。だが、今はやるしかない。
彼女は空へ舞い上がった。
−兜甲児の方も飛行要塞グールの出現に泡を食っていた。一応は平和なこの世界の平穏を打ち破る地獄からの使者。異次元でありながらなぜ飛行要塞が存在するのかはわからないが、グールを食い止めるべく秘匿していたカイザーパイルダーの封印を解く。
「くそっ、こうしゃいられねえ!!カイザーパイルダー、GO!!」
カイザーパイルダーを緊急発進させると、おなじみの叫びで海に隠したマジンカイザーを浮上させる。
「マジーンゴー!!」
カイザーが浮上するのを確認するとカイザーパイルダーを変形させ、カイザーの頭部へドッキングを敢行する。
「パイルダーオ――ンッ!!」
マジンカイザーが目覚めの咆哮をあげる。次いでカイザーの大いなる力―紅の翼―を叫びと共に呼び寄せる。足裏の補助ロケットでジャンプし、空中で紅の翼と十字になる時、カイザーは空を飛ぶ。そして真の力を呼び覚ます。
「スクランダークロォ――ス!!」
―最強の魔神皇帝はこの世界に破滅をもたらすのか、それとも希望をもたらすのか。カイザーの胸の「Z」のエンブレムは彼、兜甲児とカイザーが一つになった証。それは後に語り継がれる魔神伝説の一幕。
兜甲児と篠ノ之箒の再会は戦闘という、非日常で叶うこととなった。だが、この世界において、本来「存在してはならない」はずのスーパーロボット「マジンカイザー」の出現が彼女-箒−の運命を大きく変えてしまうことになるとは、この時の甲児は思いもよらなかった。
−黄泉国から蘇りし、ブロッケン伯爵はゲッターロボと並ぶ切り札を用意していた。それはAIF−7S「ゴースト」。地球連邦軍の右派が失われた人的資源の補充が容易でないことを名目に配備させた「シャロン・アップル」事件で猛威を奮った無人戦闘機「X-9」の純粋な後継機。その性能は凄まじく、たとえ有人機の中では最新鋭のVF−25「メサイア」であろうとも、落とすのは容易ではない。しかもブロッケンはゴーストの隠されていた狂気「ユダ・システム」を解放しているほか、各種アップデートも行なっている。そのため速度・機動性は無人戦闘機の特性上、VF−25以降の機体でもなければ撃墜は困難であるほどである。ISの鹵獲にはちょうどいい代物だ。武装もこの時代のミサイルを超越するスピードと機動性を持つハイマニューバミサイル。威力も10発当たれば山を消し飛ばせる。いくらISと言えど、その防御性能はあくまで21世紀の兵器が基準(当たり前だが)となっている。それを一気に飛び越えた技術で造られた22世紀末の兵器は防ぎきれるとは言えない。その点を突くのだ。
「ISと思われる機影を確認。来ます」
「フン。このグールに挑むか。どこのバカだ……」
ブロッケンはISが迎撃に上がってきたという報告にも鼻で笑い飛ばした。余裕綽々である。
「格納庫を解放しろ。お嬢さんに絶望を教えてやれ」
グールの現在の高度は高度25000m。ゴーストが大気圏内でポテンシャルをフルに発揮できる領域である。耐熱限界を考えると、本来の速力の半分もでないマッハ6程度が速力の限界だが、それでもISさえも遥かに凌駕する速力、OTMと、極限まで発達した航空技術によって、ISに匹敵しうる機動性を持つ。
ブロッケンは余裕綽々で右腕に持つワインを飲み干すと、艦載機格納庫のハッチを解放。科学が生み出し、恐るべき『怪鳥』である、ゴーストバードに灯を入れる。起動したゴーストはフルチューンされたステージU熱核タービンエンジンを唸らせ、箒に絶望を思い知らせるべくその機体を飛翔させた。
「な、なんだ!?」
篠ノ乃箒は現在最高性能のISで、姉の束から与えられた「赤椿」を纏っているが、剣道で鍛え上げた動体視力を以てしても軌跡を追うのが精一杯なほどの(鍛えられたVF乗りでも同様)凄まじい速さの何かが自分に攻撃を仕掛けてくる。旋回する一瞬で確認した機影は飛行機、それも無人の`戦闘機`。
(馬鹿な!?無人機はどこかの軍事大国がISに対抗するために開発してるとは聞いていたが、現行機の域は出ないはず……それに対空戦闘用はまだのはずだ!?)
それは21世紀頃の人間なら当然の驚きであった。無人機は2010年代の時点では偵察機が戦場で活用されている程度であり、戦闘機タイプは殆どが研究段階で留まっている。それはあくまで現行機の延長線上に位置する。だが、目の前のモノはその常識を全て吹き飛ばすに値する凄まじい代物。空戦機動も現行機のそれとは比較にもならない機敏さで彼女を追い立てる。
(なっ、ISの機動性についてこれるだと……!?)
ゴーストは箒の知るどの航空機よりも限りなく鳥に近い機動で紅椿に追従してくる。しかもミサイルらしきものを撃ち出す準備を行なっている。おそらく同時にプログラムを対戦闘機用から対人用へ切り替えているのだろう。準備完了と同時にとても「ミサイル」とは思えない速さのそれが何十発と打ち出される。
「く、くぅっ!!」
箒は赤椿の展開装甲の応用によるスラスターなどを駆使して、モビルスーツの常識で言えば「AMBAC」と呼ばれる姿勢転換を行なう。人ゆえの、人形のゴーストに対する利点。ハイマニューバミサイルを「雨月」、「空裂」との呼称を持つ刀剣武装で斬り払う。ただし全てではない。22世紀最新鋭のミサイルはバジュラや宇宙怪獣のような「異形の化物」にも対応できる機動性を持つ。数機が攻撃を「掻い潜り」、彼女に命中する。IS自慢の防御も絶対では無い。数発で山を消し飛ばす高性能爆薬満載のミサイルは確かにISの装甲を一部でも穿ったのだ。
「ハァ…ハァ……」
ミサイルの破片が顔に切り傷を作ったのか、箒の左頬からは血が流れていた。「信じられない」と言った表情で武装を構え直す。
−ISが在来兵器を一線からほぼ駆逐した理由。それは機械よりも迅速な思考が可能となり、機銃やミサイル、艦砲などの在来兵器を避けつけない防御力もそのひとつ。だが、それはあくまで自然の進歩スピードで発達している21世紀頃の兵器と比べた上での話。OTM(Over Technology of Macross)、タキオン粒子関連技術などがもたらされ、自然の進歩スピードなら『一千年、最悪一万年はかかる』進歩をわずか数十年で成し遂げ、更に飛躍した22世紀末の超・軍事技術はISの防御力の優位を揺るがしたのである。
「見ろ。あの小娘、目を白黒させておるわ」
「当然でしょう。IS以外にISの防御が抜かれたのですから」
グールの司令室でブロッケン伯爵は笑みを浮かべる。それは作戦目的が順調に進行していることへの満足感から来る感情だった。ISの防御には不可視のシールドがあるが、膨大なエネルギーを消費する。シールドをその火力で消し去った後、稼働時間の限界まで追い込み、鹵獲する。それが作戦の骨子であり、わざわざ異世界に転移してまで成し遂げる最大目的であった。ゴーストはそのユダ・システムによってGなどを考えない超絶的速度と人体に遠慮しない「マシン・マキシマム」の思想に基づいた超機動性で箒をひたすら翻弄する。
−負けるわけにはいかないんだ……!ここで退けば……コイツらは間違いなくこの一帯を焼き払う!だから……!
箒はその一心で戦った。そして一か八かで左右の斬撃武器のうち、雨月を構えて反転してくるゴーストに突進した。
「おぉぉああああぁッ!!」
それは一か八かの破れかぶれな攻撃にも思えた。だが、空戦を行なっている内に箒が見出した「活路」はそれしかなかった。全てを互いにすれ違う一瞬に賭けた。その一瞬を信じて、目一杯の力で剣をゴーストに突き刺す。彼女は一瞬の勝機を必死にたぐり寄せたのである。ゴーストは出力をエンジンに回していた都合上、エネルギー転換装甲は比較的、剣を貫き通しやすい強度であった。ゴーストは箒の乾坤一擲の攻撃で機体を貫かれ、制御を失って黒煙をはきながら墜落していく。
だが、それは箒にとっても致命的な危機を招いた。長時間の空戦の結果、武装が光の粒子となって消えていく。それはエネルギー切れを意味する。そしてそれを好機と見たブロッケンはいよいよ作戦最終段階の開始を号令した。
3機の新手の飛行機がキャタピラ−無限軌道−を持つ幾分ずんぐりむっくりした巨大ロボ−ゲッター3−へ『合体』し、両腕を高高度まで伸縮させ、箒を捕獲しようと手を伸ばしてくる。だが、その秘めた力を発揮しているとは言いがたい紅椿は「エネルギー切れ」を起こしていて、回避がままならない。
−一夏!!
箒は思わず目を閉じて想い人でもある幼なじみの名を心のなかで叫ぶ。だが――
その時、ゲッター3の腕が何かによって断ち切られ、辺りに血のように油を撒き散らす。箒はその何かの正体に目を見張った。地面に巨大な剣……−一見すると西洋で使われたツーハンデッドソードにも思える−が突き刺さっていた。そしてその刀身に反射して、その剣を投擲した主の姿が写りこんでいた。その姿は悪魔のような紅の翼を持つ、巨大な漆黒の魔神のようにも思えた。
「魔……神…?」
一言だけそういうのが精一杯だった。その巨大なその魔神は剣を天空に掲げて、箒が`知る`声で叫んだ。
『やいてめえら!!これ以上はこの俺、兜甲児と魔神皇帝……『マジンカイザー』がいる限り好き勝手はさせねえぜ!!箒ちゃんをいたぶってくれた礼はたっぷりさせてもらぜ!!』
−魔神皇帝、マジンカイザー。その鋼の勇姿は確かに、この世界に破滅を齎さんとする者を止めるために現れし`魔神`であった。そして自分を名指しして叫ぶその声はたしかに箒の知るあの男のものだった。
「甲児……!?まさか……あの魔神には甲児が乗っているのか!?」
箒はその男の名を叫ぶ。魔神皇帝を操りし資格を持つただ一人の男。その名は兜甲児。甲児は不敵な笑みを浮かべながら留学時に新調した防護服を身に纏って、カイザーパイルダーのコックピットに座っていた…。
−マジンカイザーはその勇姿を見せつけた。その圧倒的存在感は正に鋼の魔神そのもの。
剣を掲げるその姿からも容易にそれは連想できる。頬から血を滴りさせながらも箒はこの最強の援軍に沈んでいた気持ちを再起させる。
「甲児……、本当に甲児なんだな!?」
『ああ、そうだぜ。箒ちゃん。下がるんだ、後は俺とカイザーに任せてくれ』
箒はカイザーにドッキングしているカイザーパイルダーのコックピットに座っているのは1970年代のSFアニメで見られるセンスのパイロットスーツを着込んでいるが、確かに兜甲児であると確認した。かぶっているヘルメットのバイザーからは甲児の強い眼差しを、正義を守るという、強い意志を秘めた目が確認できた。
−カイザーの登場にブロッケンは闘志を燃やし、カイザーに向けて外部スピーカーをオンにして兜甲児へ再会の挨拶を交わした。
『久しぶりだな、兜甲児。我輩の声はよもや忘れてはいないな?』
『当たり前だ、テメェの声は忘れたくても忘れられねぇよ。ブロッケン伯爵。生き返っていたなんてな……それも飛行要塞ごと。てめえもミケーネに生き返らせられたのか……なにせドクターヘルを生き返らすくらいだから不思議じゃないけどな』
『フハハ……そうだ。我らはミケーネ闇の帝王様によって蘇った。兜甲児、貴様を地獄へ送るためにな!』
『ヘッ、何度蘇ってもこの俺とカイザーが倒してやるぜ!!』
甲児は高らかに宣言する。たとえ何度蘇ってもマジンカイザーが倒すまでだと。それは箒に敵と甲児との因縁を瞬時に理解させるほどにわかりやすい言葉でもあった。
『先手必勝だ!!ターボスマッシャーパ――ンチ!!』
マジンカイザーが突きだした片腕が猛烈な高速回転を始め、まるでドリルのごとき音を立てながら右腕が凄まじい速さで打ち出される。螺旋のような回転をしながら打ち出されたそれは鋼の鉄拳となって立ち塞がる全てを粉々に撃ち砕いていく。俗に言う「ロケットパンチ」であるが、その威力はオリジナルとは段違いで、超合金Zをも粉々に砕くほどである。
人が避難し、無人になったビルをいくつか綺麗に貫きながらターボスマッシャーパンチはゲッター3のゲッター合金を粉砕しながら胴体部に大穴を開けていく。その間、わずか数秒。乗るパイロットはゲッター3を攻撃した際に確認している。かつての戦友の魂のない『別個体』。甲児はこのような形で蘇らせられた巴武蔵、それを使役するブロッケン伯爵に憤りを隠さない。
『ルストトルネード!!』
カイザーの口のスリットから超合金ニューZほどの強度がなければ為す術もなく原子に還させるほどの凄まじい酸を含む暴風が吹き荒れる。箒はカイザーの後ろに下がっていたが、それでも余波で吹き飛ばれそうになる。何せ技を繰り出しているカイザー自身も吹き飛びかねないほどの威力をルストトルネードは秘めているのだ。ゲッター合金さえ為す術もなく風化し、塵に返す。
(こ、これが甲児のいうマジンカイザーの力なのか!?まるでデタラメじゃないか……!)
箒は究極の魔神皇帝の力の一端を垣間見、唖然としていた。この世界の全ての兵器を明らかに超える戦略級の凄まじい破壊力と、どんな攻撃でも傷つかない文字通りの絶対的な装甲は正に神と言っていい。
―ここでスーパーロボットの圧倒的な力の一端が示されたわけである。スーパーロボットは基本的に味方には神、敵には悪魔に例えられるほどの戦力を誇る。元祖スーパーロボットのマジンガーZにしても、米国最盛期の米国海軍ニミッツ級原子力空母を初めとする空母機動部隊一個分に相当するほどの戦闘力を持っていた。(一般向けの文献では分かりやすく、第7艦隊とされる場合が多い)絶対的覇権を誇った時代の米国にとって、空母機動部隊は最も重要な戦略的立ち位置にあった艦隊であり、平時においては、空母機動部隊と原子力潜水艦は米国の力のシンボルでもあった。それに相当するというだけでも凄まじい力の一端が垣間見える。裏を返せば、その数十倍の力を持つマジンカイザーは一機で複数の空母機動部隊を一瞬で殲滅する事も、ひいては一瞬で国そのものを滅ぼす事も容易に出来る、最強の魔神なのだ。
ブロッケンはこのカイザーの圧倒的破壊力にも動じる事無く、次の指令を発する。格納庫から赤・白・黄色の三色にそれぞれ彩られたゲットマシンが発進し、彼らの目の前で合体を敢行する。ゲッターロボの基本形態であり、総合的戦闘力に優れた第一形態「ゲッター1」へ。
「アイツら一体何を……!?」
『合体するんだよ』
「合体だと……そんなバカな、漫画じゃあるまいしそんなことが……!?」
『それをいうなら俺がこんなスーパーロボットに乗ってる時点でそんな常識ぶっ飛んでるぜ。それにさっきのゲッター3の合体は見たんだろう?』
「そ、それはそうだけど……」
『よく見ておきな。あれがあのスーパーロボット……ゲッターロボの本領だ』
甲児のいう通り、ゲットマシンは赤・白・黄の順で並び、後方の2機が最初に合体する。それは21世紀科学の常識を真っ向から打ち破る衝撃の光景であった。
『チェェンジ!!』
ジャガー号とベアー号が合体し、ゲッター1の腕と足がまずフレームで飛び出し、ゲッター合金の装甲がそれをチップ状に覆っていく形でゲッター1の各部分を形成する。そして最後のイーグル号が変形していき、ゲッター1の顔などになり、残りの機体と合体を終える。
『チェェェェェンジ!!ゲッターァァァァァァァァァァッ……ヌゥゥワン!!」
―初代ゲッターロボ。かつて巴武蔵と共に果てたはずのスーパーロボットはその骸から再生された武蔵の器だけの個体と共に黄泉から蘇らせられたのである。箒をさらに驚かせたのは背中からマントが出て、たったそれだけで空を飛んだのだ。摩訶不思議以外の何物でもない。
ゲッターロボは初代の時点で後継機や強化発展型(真ゲッター1)らの基本となる武装のベースはほぼ出揃っている。肩の突起から片刃の斧が飛び出し、振り下ろす。それをカイザーはカイザーブレードで受け止める。斧と剣がぶつかり合う鈍い音が辺りに響く。甲児は鉄也と違って武器を使って戦う機会はあまりなく、最近ではグレートマジンガーの初陣となった戦いで、ミケーネの先鋒隊の精鋭とグレートのマジンガーブレードを使って戦ったもの、押され気味であった程度である。だが、留学期間中に鍛え上げたせいなのか、それなりに使いこなしてみせる。
「ブ、ブロッケン伯爵!!」
「うろたえるな!!ドイツ軍人はうろたえないッ!!」
現在のグールのクルーはブロッケンが元々ドイツ国防軍の将校であった関係で、他勢力である、ナチ残党から交流も兼ねて派遣された元空軍と海軍の出身者達である。(ミケーネは軍部の壊滅状態と国民の絶対数が足りないせいもあって、クルーが確保出来なかったゆえの措置で、ブロッケンの生前の人脈を使い、人員を工面してもらった)
「ちょうどいい余興だ、我輩自らあのISのお嬢さんにとどめをさしてやろう。ハッチを解放せよ」
「ハッ」
ハッチを解放し、ブロッケンはなんといつの間にか空軍の降下猟兵の装備一式に(武器は降下猟兵用制式ライフル「ラインメタルFG42自動小銃」など)。(武装はバダン及びミレニアムから融通してもらった)着替え、ご丁寧にドイツ軍制式ヘルメットまでかぶって出陣した。
「ハハハ……いい気分だ。地獄が見える」
との一言を残し、カタパルトから打ち出され、一人降下猟兵をしながら箒に迫った。
「くっ、私には黙って見ていることしかできないのか……!?」
―箒は自分のために戦ってくれている甲児に守られている事にこれ以上ない歯がゆさと悔しさをにじませ、拳を再び握りしめる。幼い時に幼なじみに守られ、そして今、甲児に守られている。一度か二度会っただけだというのに、甲児は自らの身の危険を顧みずに自分を守ってくれている。その気持ちが彼女にかえって強い意志を持たせた。想い人でもあり、幼なじみでもある「織斑一夏」を今度は自分が守る、守りたいという気持ち。その気持ちに「赤椿」は応えた。展開装甲から粒子が放出され、機体が輝きを増し、ゼロに等しかったはずのエネルギー量も回復していく。
「こ、これは……!?まだ……まだ戦えるというのだな……ならっ!!」
これが赤椿の秘めた能力「絢爛舞踏」。完全なら無尽蔵のエネルギー供給能力を誇る、赤椿の力。箒の姉「篠ノ之束」が何らかの意図をもって、妹に与えし力。頬から流れる血はあえてぬぐわず、そのままで迫るブロッケン伯爵を迎え撃った。
ブロッケンは地上に降り立つと以前より強化されたサイボーグ体である身体能力で箒に肉薄した。ラインメタルFG42自動小銃を牽制代わりに放つと、跳躍し、携帯していた刀剣(種類はクレイモア)を突き立てる。
「Guten Abend、Fraulein(こんばんは、お嬢さん)!!」
「貴様……よくもっ!!」
−辺りはすっかり日が陰り、夜になりかけている。なので、ブロッケンはドイツ語で挨拶をする。それを剣の攻撃で返す箒。既に箒が交戦を始めてから数時間が経過しているのに関わらず、他のISらの援軍が一切来ないのか。それはIS学園に侵入していた武装親衛隊の人外たちが奮闘しているのと、ミノフスキー粒子が濃い状態が続き、外部との交信が断たれている状態だからであった。
ブロッケンはISを纏う箒と対等に渡り合っていた。箒も実家が剣術道場である故に剣道を嗜んでおり、中学時代は全国大会優勝経験もあるのだが、ブロッケンは出自がナチス・ドイツ軍人であり、軍隊で鍛えあげられている上に豊富な実戦経験を持つ。その差が大きく現れていた。ブロッケンは戦場を渡り歩き、さらにドクターヘル軍団を成立させる過程で、各国の伝統ある最大勢力のシンジゲートやマフィアを自らの手で乗っ取り、軍団の資金源とした過去がある。そのため人を殺す事に何ら躊躇いなどない。クレイモアを縦横無尽に振るい、箒を圧倒した。
「フフフ……ハハハッ!!どうした小娘、怖いのか?我輩を殺すのが!!」
「く、くうぅっ……だ、誰が!!」
箒は殺し合いは無論、したことはない。日常から剣術は嗜んではいたが、あくまで自らを律するため、自らの心の奥に潜む力への欲求を抑えるためのもので、戦国時代の武将のように「人を殺める」ためにはやってはいない。ISでの戦いは人を殺すというのはまず起きない。なので、真の意味での殺し合いへの恐怖が心の奥にあるのだ。それをブロッケンに見透かれたのである。
−この小娘、剣筋と言おうか、太刀筋と言おうか……に怯えがある。やはりこの時代の日本人の例には漏れんか……。
箒の表情は必死そのものだが、その太刀筋には怯えがある。それを敏感にブロッケンは感じ取り、攻撃を強める。彼の太刀筋には迷いはなく、油断すると箒の腕の一、二本はもっていきそうな勢いで剣を振るう。
−箒は実家の剣術でもある、自らが習得している篠ノ之流剣術でブロッケンと剣を交えているが、太刀筋に怯えがあるのを自分でも自覚していた。心のどこかに自らの剣−暴力−で人を殺してしまう事への恐怖がある。だが、目の前にいるのは甲児に言わせれば「因縁のある敵」。甲児が既に一度地獄へ送ったという、いわば「墓場から蘇った使者」。平たく言えば甲児は「侵略者には死あるのみ」という心理で戦えというのだ。このナチス・ドイツ軍人に対して。
−しっかりするんだ、篠ノ之箒!!ここでこいつらの暴挙を許したら一夏やみんなが業火に焼かれるかもしれないんだぞ!!
心のなかで自らを叱咤し、奮い立たせる。それは幼なじみの織斑一夏を守るという意志が恐怖心に勝った事の表れでもあった。
「おおおおおっ!!」
ブロッケンのクレイモアを雨月で迎え撃ち、隙を見張らい、もう一方の空裂でエネルギー刃を放出し、ダメージを与える。戦いに対し、腹を決めた事による、迷いのない見事な斬撃。だが、ブロッケンの体はそれに耐えてみせた。切り裂かれた軍服の切れ端からは血と体の機械部分がチラッと確認できる。
「いい攻撃だ、Fraulein(お嬢さん)。これならヴァルハラから蘇った甲斐があるというものだ」
ニヤリと薄笑いを浮かべると、凄まじい速さでその場を立ち去り、グールへ跳躍し、戦いを切り上げる。ちなみに彼はドイツ人なので北欧神話の神々の楽園で黄泉国を表現している。首を分離しなかったのは初心者には刺激が強いからである。
「ハァ……ッ。か…勝った……いや、勝ちを譲ってくれたのか……?」
箒はなんとか退けることに成功したことに安堵しつつも、自分の内なる恐怖心を敵に見透かれた事実を以って自らを律し、曲がりなりにも自分は剣術の使い手なのだということを自覚する。
「そうだ、甲児は……?」
既にさっきの場所からマジンカイザーの姿は消えている。ゲッターロボと空中で対決しているのだろう。その証拠に空中から甲児と相手が技名を派手に絶叫する声が響いてくる。箒は赤椿(本来なら`紅椿`というべきだが、`近くて遠い世界`なので名の表記が異なる。後に箒自身がその違いに気づくのだが、それは後の話である)の背部推進スラスターを吹かし、カイザーらがいる高度へ上がる。
−そこで彼女が目にしたのはスーパーロボットのヘビー級対決とも言うべき光景であった。
『光子力ビーム!!』
『ゲッターァァビィィィム!!』
カイザーの光子力ビームとゲッター1のゲッタービームがぶつかり合う。威力はゲッターロボ側が最大出力で放っているので、カイザーが全力を出していないとはいえ、カイザーと互角の出力であり、派手に爆発を起こす。
『さて、カイザーの新技を試すか!』
それは整備の際にグレートマジンガー用の予備パーツが組み込まれたからこそなせる技。グレートマジンガーのように雷を呼び寄せ、その雷を耳に受ける。違うのはグレートマジンガーが指でサンダーブレイクを誘導するのに対し、カイザーはカイザーブレードで雷を誘導する所である。甲児はサンダーブレイクと区別をつけるために別の名をつけた。その名は。
『トールハンマーブレイカー!!』
これはマジンカイザー版サンダーブレイクとも言うべき技である。威力はマジンカイザーの動力伝達機構の耐久性がグレートマジンガーや後のUFOロボグレンダイザーよりも優れているせいか、グレンダイザーのスペースサンダーをも超える。ゲッター1の装甲を超えてコックピットに電撃が伝わり、パイロットを気絶させたらしく、ゲッター1はバランスを崩し、墜落していく。
『ゲッター……お前はこの時代には存在しちゃいけねえ物だ……あの世にいる武蔵の魂の為にも、この俺がここで葬ってやる!!』
甲児はそう叫ぶとカイザーの大技の態勢を取る。胸の放熱板が灼熱に彩られ、カイザーの双眼が輝き、彼はその技名を今一度叫ぶ。
『ファイヤーブラスターァァァァ!!』
全てを焼き尽くす神の炎はゲッター合金をも瞬時に溶解・融解させ、大爆発を起こす。
ちなみのこの時のゲッターとマジンガーの対決は後に目撃者たちによって「魔神伝説」として語られ、後に都市伝説化するのだが、甲児は無論知る由もない。
同時に上がってきた箒も思わずその爆発の余波にバランスを崩しそうになる。
「う、うわあああっ!!」
ゲッター炉の凄まじい爆発の衝撃波に吹き飛ばされそうになるも、スラスターを全開に吹かし、なんとか態勢を立て直す。そして甲児のもとに駆け寄る。
「甲児!!」
『箒ちゃん!大丈夫だったかい?』
「あ、ああ。な、なんとかな。あいつらは一体……?」
『俺たちの……いや、人類の敵だよ」
「人類……?大げさすぎないか」
『誇張や語弊じゃねえさ。俺達はあいつらと戦争やってるからな。話すと長くなるけどな』
甲児はブロッケンとの関係をこういった。甲児は人類を守るためにマジンガーZやカイザーを駆って戦った。ブロッケンはかつてはドクターヘルの、現在はミケーネ帝国の兵として彼らの野望に加担している。それは十分に戦争といえる戦い。その戦いのことはそう簡単に語り尽くせるものではない。
『……楽しませてもらったぞ、兜甲児、それと可愛いFraulein(お嬢さん)。また会おう』
『てめえ、どういう意味だ!!』
『Fraulein、君の学校……IS学園だったか?は吾輩の配下が今まで抑えていた。だが、今やその必要は無くなった』
「な、何っ……!?貴様、まさか……一夏を……みんなを……!?もしそうなら……今、ここでその爆撃機ごと貴様を叩き斬るっ!!」
『おお、それは怖い。安心しろ。それはない』
ブロッケンのこの言葉に箒は思わず語気を荒らげる。IS学園が制圧されたのなら、友人たちはただでは済まないのは想像できる。箒の刀剣武装を持つ腕が怒りで自然に震えている。ブロッケンは彼かしらぬ飄々とした態度を見せながら無線でそういう。
「伯爵、潜入部隊がISのサンプルを奪取に成功。先ほど帰投を完了しました。ただし第二世代機ですが」
「構わん。闇の帝王様も満足なされるだろう。次元転換装置を作動させよ」
「ハッ」
このグールには闇の帝王の手によって、異世界を行き交うために次元転移を実現させる装置を搭載させていた。だが、試作型であるゆえに欠点があり、装置を内蔵する母艦から半径数百mの物を巻き込んで転移させてしまう。
−グールの周りの空間が歪んでいく。甲児は次元転移してきたため、行きの時の状況と似ていることに気づき、その兆候を察知。とっさに叫んだ。
『まずい!!箒ちゃん、カイザーの手の中に入れ!!早く!』
「え!?わ、わかった!!」
箒がカイザーの拳の中に入るのと、グールが転移したのとはほぼ同時であった。空間が歪み、光が彼らを包み……2人は意識を失った。
−`チュンチュン`という、小鳥の声で甲児は目覚めた。甲児はあたりの風景を確認する。夜だったはずが、朝になっている。気絶していたにしろ、そんなに時間が経過するはずはない。慌ててカイザーパイルダーの時計を確認してみると、日付が元の世界でのそれに戻っていた。時計では元の世界で転移した時から数秒しか経過していないことになっている。
「元の世界に戻れたのか……奇跡だな」
甲児は息を大きく吐いて、ひとまず安堵する。だが、問題はカイザーの手の中で眠る箒のことだ。図らずしも連れ込んできてしまった。あのままであったなら彼女は下手をすると、次元断層に引きずり込まれ、永久に亜空間を彷徨うハメになった可能性が高い。カイザーの中にいたから、それを免れた。事故に近いが、連れ込んできてしまったことは後で詫びるとして……。問題は身元引き受けだ。引受人は自分がなるとして……どうするべきか。
「う、うぅん……?」
『気がついたかい?』
「あ、ああ。眠ってしまったのか……ん!?な、なんだこれは!?」
箒は思わず飛び起きてしまった。夜であったはずの空が太陽がギンギラギンに輝く朝になっている上に、気温が段違いに違う。汗が吹き出そうな凄まじい暑さ。天気予報では涼しいはずだ。それに場所も内陸部だったはずが、いつの間にか海上にいるのだ。驚かないはずはない。
『場所は……地図だと香港近くの海上らしい』
「ほっ、香港ぅぅぅっ!?馬鹿な!!私たちは日本に居たのだぞ!?それがなぜいきなり香港にいる事になっている!?説明つかないぞ!?」
『それは……俺の故郷の`世界`だからだよ』
「お前の`世界`……?」
『そうだ。俺はそもそもは君の世界の人間じゃない。ゲッターロボやゴーストもこの世界からアイツらが持ち込んだものだ。21世紀頃の科学力じゃあんな兵器は作れない。高度な無人戦闘機はもちろん、合体ロボも……。』
「確かにそうだが……」
箒はいくらISがオーバーテクノロジー気味の兵器だといっても他の兵器は20世紀末とさほど変わりはない事を冷静になって考えてみる。するとやはりカイザーらの存在はどう説明がつくのだろうか。
『俺がいるこの世界は年数で言えば、西暦2199年。22世紀が終わる2年前。色々戦争やら、宇宙からの助けやらがあって技術があり得ないほど上がったからスーパーロボットが作れるようになったのさ』
「22世紀の終わり……それなら説明つかないことはないが……」
『とにかく香港でいったん休もう。君のこともあるしね』
「あ、ああ。分かった」
箒は半信半疑でカイザーの手から離れ、ISで飛行を再開する。
−今は甲児についていくしかない。何がなんだかわからないが……。
彼女は香港へ進路を向け、カイザーに追従していった。甲児は前途多難を感じ、ただただため息をつくのみであった。
−その翌日、香港で甲児は欧州にいる黒江に事の経緯を話した。即日で箒を預かる事が決定され、箒もそれを了承した。
ここに至り、箒は自らの運命が大きく変わりつつあることを自覚し、元の世界に残してきた幼なじみのことを想い、寂しげにうつむいた。
−一夏……、この戦いが終わればまたお前に会えるのか……?
15歳のうら若き乙女の純情と思慕は異世界という特異な場でも健在であった。幼なじみへの思いを胸に、箒は黒江や兜甲児と共に欧州へ向かった。
−箒がいなくなった世界ではナチス・ドイツ残党というイレギュラーで世界は混乱に陥っていた。第二次大戦から7、80年も経過しているはずの時代にナチス・ドイツという時代錯誤としかいいようのない存在はIS学園は愚か、世界各国をも震撼させていた。
−国連 安全保障理事会
「なぜクソッタレ野郎どもが生き残っていたのだ!!」
「ナチの高官らが南米に逃げ延びた記録は残っているが……いくらなんでも生きているはずはない。その他残党がいたとしても、もう100年近い歳月が経っている。組織としての体をなしているとは考えられん」
「しかし我が国が日本から報告された書類によれば若者たちで構成され、ヒトラー・ユーゲントも確認されている」
「何と…?」
彼等は国連安保理の理事国の代表。ナチス・ドイツという時代錯誤的な議題で招集されること自体が異例中の異例だが、『ナチス・ドイツは生きていた』という事実は覆しようがない。戦後の様々な国の人々によるナチ戦犯に追求からも逃れ、軍隊としての規律も保った上で往年の軍隊としての姿を長年にわたって保ったというのは、にわかには信じがたい。
「ドイツから何か回答はあったのか」
「駄目だ。奴さんは『ウチはヒトラードイツとは関係ない』の一点張りだ。アレもどうかと思うね」
米国の代表はドイツ連邦共和国のヒトラー時代とは関係を絶ちたいがゆえにヒトラー時代の全てを葬り去ろうとする姿勢に呆れを見せた。それは米国の同盟国で曲がりなりにも「大日本帝国の後身を自認する日本国」とは対照的だからだ。当時の当事者たちの殆どは天に召されている時勢、戦争の記憶は殆ど消えかかっており、同じように、戦後しばらく米軍に抵抗していた日本軍の残党もおよそ2、30年程度で駆逐された。(これは日本には知らされていない事実)ナチスも同様に南米かどこかに潜んでいたと思われるが、何故今頃になって現れたのか。彼らにはわからなかった。
国家間レベルの情報でさえこの有様なので、当事者とは言え、一機関に過ぎないIS学園に分かるはずはなく、学園関係者らは一様に困惑するばかりであった。箒の想い人で、周囲からはあまりの鈍感さにより「唐変木」と言われてしまっている織斑一夏もナチという大昔に滅んだはずの一団に当惑を隠せなかった。
「いったい何なんだよ……ナチス・ドイツって……7、80年くらい前に戦争に負けて滅んだはずじゃなかったのかよ……」
「一夏……せめてあたしがいれば……」
「鈴、そんな事言うなよ。俺はお前たちを守れただけでもいいんだよ」
現在、一夏は戦いで負傷したラウラ・ボーデヴィッヒやシャルロット・デュノア、セシリア・オルコットらの見舞いの帰りであった。一夏と同年代、なおかつ専用機を保有する人員の中で無傷であったのは、箒と同じようにたまたまオフで買い物に出かけ、別の場所にいた凰鈴音だけであった。3人はそれぞれ人智を超えた能力を持つ兵士らに翻弄され、シャルの場合は撃とうとしたアサルトライフルの銃口にStG44の弾丸を叩きこまれ、超至近距離での暴発で負傷。セシリアは自慢のビットを全て叩き落され、(セシリアのブルー・ティアーズには箒が行った先の22世紀世界のファンネルのように有機的なオールレンジ攻撃を行えるほどには機敏さは無く、ナチ残党には軽く見切られる程度である)苦手な接近戦に持ち込まれた末に敗北。既に倒されていたラウラと併せて、3人が負傷してしまった。一夏自身も無傷ではなく、斬り合いの末に、名誉の負傷を負い、顔に切り傷が数箇所ある。鈴は自分がいない間にそのようなことになっていたこと、`自分がその場に居れば少なくとも一夏だけでも守れたはずだ`という気持ちが心を押しつぶしそうになった。しかし事はそう単純ではないのだ。
一夏も鈴も第二次大戦から戦後100年近くを経た時代でさえ、まだナチの生き残りがおり、なおかつ未だにヒトラーの唱えたナチズムを実現させようとしている事に信じられない気持ちであり、鈴はこんな肝心な時に不在である箒に苛立ちを隠せなかった。
(あのバカ……、みんなが大変な時にどこで油売ってんのよ!)
肝心な時にいない箒に対して憤慨する鈴だが、実のところ、箒は彼女らの想像を遙かに超える過酷な戦場に身を置いていた。それが箒が実力的に代表候補生であるはずの鈴やセシリア、シャルをも上回る事に繋がっていく。
一夏も箒のことを心配していたが、それ以上に困惑する一人の女性がいた。一夏の姉で、クラス担任の織斑千冬である。彼女も箒が日本のどこにもいないということに驚愕していた。
親友の妹が行方不明となったというのは実にまずい。個人的にも、国家機関的にも、だ。
「篠ノ之がどこにもいない?馬鹿な……昨日まではいたのでしょう?」
電話の応対に出ている千冬は箒が行方不明になったという連絡を箒が宿泊していた旅館から受け、普段冷静な彼女もこれには困惑を見せた。TVのニュース映像で流された巨大な爆撃機と謎の巨大ロボットの激しい戦闘。この事件は箒が宿泊していた地域で起こったという。
(束の奴も篠ノ之が探知できないと騒いでいたが……まさか……)
千冬は過去に自衛隊やドイツ連邦軍で佐官レベルの階級を有した、元軍人である。それ故に最悪の事態を考えてしまう。最高性能を誇るISを保有している箒がそう安々と敵に捕まるとは考えにくいが、それでも考えずにはいられない。箒がどこにもいない以上は。
だが、事態は千冬の想像を絶するほどの大きさを以て進行を見せていく。
通常兵器でありながら、超絶的パワーを見せたマジンカイザーと甲児の存在が世界各国に知れ渡るにつれ、自衛力狂化を名目に、通常兵器の復権の動きが広がり、
女性しか扱えないISの存在意義に疑問を呈する軍が次第に増えていく。ナチス・ドイツ残党の存在への危機感もあり、先進国は10年ぶりほどに通常兵器の開発予算を数倍に増大させ、第二次大戦直前を思わせる軍拡競争へ引た走る。一夏たちもその流れに翻弄されていくことになる。そして……彼等は次元も、世界も超えたナチス・ドイツ、ひいてはバダンの野望に巻き込まれていく。
−旧フランス `ヌーボ・パリ`近く パリ湖付近(パリは一年戦争の惨禍で湖化、水没した。その後に新たに旧パリの市街を模した街を周りに再建している途上)
市街地では、RGM−89R「ジェガンR型」がライフルを連射し、兵団の`ザンダクロス`を撃ち倒す。エネルギーパックを交換し、銃撃戦を継続する。隣では61式戦車の150ミリ滑腔砲が火を噴き、トーチカを破壊する。戦闘が行われる、かつてフランスの誇った`花の都`の骸が眠るこの地に三人のウィッチが舞い降りた。未来世界に滞在中の扶桑陸軍「新三羽烏」の面々の穴拭智子、黒江綾香、加東圭子である。
「ここがフランスのパリ……」
「正確に言えば`昔、パリだった`ところだ。あの湖がパリの市街があった場所だ」
「ガリアのウィッチが見たら泡吹いて倒れそうな光景な事……特にあの`青の一番`には見させられないわね」
「……だな。彼女にはきついだろう」
圭子はこのフランス地域の惨状に元の世界での501統合戦闘航空団のメンバーで、ガリア(フランス)への想いが強いペリーヌ・クロステルマンには絶対に見せられないと言った。それはその通りだった。ペリーヌは財産を復興の為に擲つほどの想いを持っている。それにこの世界でのフランス、特にパリの惨状を見たら一瞬で発狂しかねないと目星をつけた。
「今回は私達が先行して派遣されたんでしょう?`この世界`に行くことになった武子はどう思ってるのかしら」
「フジか?アイツヤキモチ焼いてたぜ」
「え、武子が?誰に?」
「私だよ、私。近頃はさ、穴拭、お前の相棒つーか、僚機のポジションに落ち着いた感があるだろ?それを電話で話したらさ……」
黒江は2人に道中、電話で話した事を話す。内容は「黒江が加藤武子にヤキモチ焼かれた」というもの。確かに親友の智子と所属が違い、それぞれ別れてから久しい武子にとって黒江が僚機に落ち着いた事は羨ましい以外の何者でも無い。
−近頃はコンビとして定着した2人の関係に羨ましく思うのも当然ね。あの子の気持ち、分からないわけでもないなぁ。
加東圭子は以前(扶桑海事変当時)はそこまで親しくなかった黒江と智子が互いに共通点を持ったことで意気投合し、互いに`親友`として接する様になった事に微笑ましく見ていた。圭子はそんな二人の`お姉さん`的ポジションに落ち着き、二人をさらにまとめている。3人はヌーボ・パリの前線司令部に着任の挨拶に赴いた。
「加東圭子少佐、穴拭智子中尉、黒江綾香大尉。以上の3名、ただ今着任いたしました」
「ご苦労。状況は説明するまでもないだろう……おっ、来たな」
「へ?」
3人がキョトンとする間もなく、凄まじい衝撃が司令部を襲う。兵団の砲撃が司令部近くに着弾したのである。
「見てのとおり、敵は140ミリ迫撃砲で定時砲撃を行っている。敵はフランスからオランダまでをベルギーを守る最後の砦としている。……というわけでここは最前線。砲弾が飛び交っている訳だ」
「は、はぁ」
「君たちの力、期待しているぞ」
「はいっ」
3人は挨拶を済ませると、戦場の様子を見て回る。迫撃砲で撃破され、擱坐した「ヌーベルジムV」の残骸や専用運搬車両で運ばれる損傷したモビルスーツ。負傷した兵士を運ぶ担架……、地面に点在する塹壕やトーチカはハワイの時とはまた別の戦場の雰囲気を感じさせている。
「すげえなこれは……」
「……で、どうするの?」
「一応偵察の名目だからな。とりあえず凱旋門へ行こう」
「凱旋門?」
「ああ。レプリカだけど再建されてるからな」
ジープで3人は戦場を通り抜ける。地図によれば再建された「ヌーボ・パリ」は意図的にかつての旧パリ市街の周りに位置するように作られている。市街にはエッフェル塔や凱旋門などの嘗てのフランス国家のランドマークのレプリカが、水没したオリジナルを模して再建されたものが立っている。政府はパリ復興のシンボルとして宣伝するつもりであったようだが、今次大戦の開戦によって頓挫。完成の宣伝用の垂れ幕がボロボロになってもまだ垂れ下がるその様は戦争の無常さを嫌でも感じさせる。3人は再建凱旋門を通りぬける。市街の境ではでは連邦欧州方面陸軍の第3機甲師団が戦車戦を行っていた……。
「あそこの部隊に事情をきこう。なにかわかるかも知れない」
「賛成」
黒江はジープを走らせ、同師団に合流。ここから3人のパリでの戦いが始まる……。この日、レビル将軍は欧州方面軍へ一つの電報を打った。
`パリは燃えているか?`と。それは欧州方面の戦いの激化を見込んでの一報であった。レビル将軍によれば「3人を派遣したのもそれが理由であった」という。後にこの時の連邦軍司令部の幕僚の一人であった「山南」提督は日誌にこの日の事を`パリは燃えているか`と書き残していたという。
欧州戦線のディジョン=ロングヴィック空軍基地では欧州戦線で戦う空軍の戦力がなし崩しに結集していた。可変モビルスーツも多数が配備され、Zプラス系列が待機していた。機体のカラーリングは制式のものだが、部隊マークは旧・フランス空軍の伝統を受け継ぐモノ。(中には旧・アメリカ空軍系列の部隊の機体ではウェイブライダーにノーズアートが描かれていたりする。シャークマウスなど)
この戦線はハワイでの連邦の勝利以後、敵との競り合いが激しくなっている。22世紀最後の年を迎えても、戦争はなおも続いていた。ある地域などは無数のゲッターロボGにさながら「炎の七日間」状態にされたという恐ろしい情報も耳に入っている。連邦軍はあしゅら男爵の動向を注視しつつ、鉄人兵団戦線を戦っていた。
そんな中、大気圏内運用テスト代わりに改修・追加生産された、ΖプラスC1Bst型も大気圏内任務に最適化された装備・武装を以て配備され、基地の攻撃任務についていた。大気圏内でもその火力は健在であり、兵団側にもコスモタイガー雷撃型以上の「死の鳥」として恐れられていた。
−その欧州戦線に配置されている部隊の内、旧米軍時代からの伝統のマーキングの他に、美少女のノーズアートが描かれた、空軍第31戦闘攻撃飛行隊の所属のΖプラスC1Bst型は欧州の兵団主要航空基地で、オランダの「フォルケル航空基地」の空爆任務についていた。追従可能なように改良されたΖプラスD型を護衛機として従え、兵団の迎撃部隊を最大戦速で軽く振りきり、悠然と空爆を開始した。
− オランダ フォルケル航空基地
「てっ、敵機襲来!!」
「迎撃用意!!クソッタレ、迎撃部隊は何をしていた!?」
「軽く振りきられたようです」
「何っ、すると……例の`あれ`か!?要撃隊は離陸急げ!!兵舎にいる内にやられるぞ!!」
基地司令は連邦空軍の攻勢の切り札とも言える、銀翼の怪物「ハミングバード」の猛威をこう形容した。ハミングバードの超高速爆撃は兵団の一般兵ではまず捕捉すら不能、精鋭を以てしても一撃をかけるのが精一杯で、次が続かないという有様。これはB−29に煮え湯を散々飲まされた大日本帝国陸海軍航空隊と似たような状況であった。
−ハミングバードは「落とせるものなら落としてみせろってんだ」と言わんばかりに平然と飛行し、反復攻撃を行なう。その回数は一度や二度ではない。精度の高い急降下爆撃で兵舎などが盛大に破壊される。絨毯爆撃は誘導爆弾のミノフスキー粒子による精度の低下でおおまかな定時爆撃や大編隊などの攻撃任務、示威行動など以外にはあまり用いられなくなり、少数精鋭部隊などでは急降下爆撃が再び活用されるようになった。ハミングバードは高度な制御技術による急降下爆撃での安全性も確保されている。火力による近接航空支援も行えるのでハミングバード数機で下手な爆撃機中隊以上の活躍が期待できる。なので、ハミングバードは重宝されていた。
「各機、好きに暴れろ。ただしやる程度は心得ておけ」
「了解」
−空軍は元々宇宙軍が造った優秀な戦闘爆撃機とも言える、このハミングバードをどうにか「地上でも活用できないか」と模索。アナハイム・エレクトロニクス社は空軍の要求に答え、地上用装備に最適化した機体を造った。白色彗星帝国戦を生き延びた試作機をベースに地上で各種テストを行ない、装備を一部地上任務に適したものへ変えて生産された機体が空軍の切り札の一つであった。
「撃て撃て!!アイツを何としても地上にキスさせろ!!」
「無茶言わんでくださいよ!!速すぎて対空砲じゃ照準が追いつけません!!」
「ならば対空ミサイルは!?」
「護衛機の対レーダーミサイルや偵察機のハッキングで役に立ちません!!どうしろというんです!!」
「根性だ!!弾幕を晴れ、`下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる`だ!!」
「どうなっても知りませんよ!」
迎撃を行なっている兵団の鹵獲兵器「アベンジャーシステム」が一斉に弾幕とばかりにスティンガーミサイルを撃つが、ミサイルの誘導機能は無力化されているので当たる可能性は低い。だが敢えて撃ちだされる。「もしかしたら近接爆発でダメージは与えられるかもしれない」というわずかな、実に淡い期待をもって。だが、長年の戦争で電子戦などに手馴れた連邦軍はミサイルを逆誘導する芸当で半数近くを回避。残りもあさっての方向に消えていく。
銀翼をきらめかせ、まるで何もなかったように悠然と飛び去っていくハミングバードの編隊は連邦軍の希望をもたらす、日本神話で言うところの「八咫烏」とも言うべき威力で「ハチドリ」の名に似合わない勇名を馳せていく。この一方的とも言える戦闘の模様はすぐさま前線の兵団指揮官に伝えられた。
−兵団前線基地 スイス「シヨン城」
戦線の一つを担当する「シャール」大将は前線で恐れられるこの「ハチドリ」への対応に追われていた。兵たちの中には機影を見ただけで敵前逃亡する者も出る有様。偵察隊が撮影に成功した地上駐機時の同機の写真を手に取る。
「うぅ〜む……。いかにも高速爆撃機と言った容貌だな……エンジンも重装備を同時にドライブさせられる大出力のジェネレーターを積んでいると思われる」
「閣下、この機体が恐ろしいのは、重装備にも関わらず超高速で飛行することです。我が方には今現在追従可能な兵士はおりません」
「誰でも高速飛行可能にする追加ユニットの新規開発は?」
「本国工廠で研究中ですが、推進関係に手間取っておりまして……」
「本国の技術班は何をやっているのだ……せめて新型装備を行き渡らせなければ戦線維持もおぼつかないだぞ!」
「わ、分かっております!!」
シャールはイラツキを隠さずに本国から赴任間もない技術将校に言い放つ。彼はハワイ戦の敗北以後、連邦の攻勢が始まった欧州戦線の苦境を本国に繰り返し通達している。本国の新装備開発の遅延に最も焦っている将軍の一人である彼は報告書を読むなり、対応策の思案に暮れる。兵からの信望の厚い彼は兵士たちの悲鳴をなんとかしようと奮闘しているのだ。だが、物量を売りにする鉄人兵団も次第に連邦軍の手馴れた対物量攻撃戦法の前に敗れ去るケースが増大してきている。その最たる例がハワイ戦である。欧州戦線の安定に温々としていた輩は連邦の反攻の前に敗れ去っていき、今、前線指揮官として配属されているのは以前の戦いで戦功を上げた指揮官たちに全て代替わりしている。
「せめて……接収したゴーストの調整が終われば……マシになるのだがな」
彼は開戦時に連邦軍から接収した無人戦闘機「ゴースト」の改修が終われば戦況も少しは増しになるとため息をつく。連邦軍の生み出し「怪鳥」というべきゴーストは皮肉にも、鉄人兵団の尖兵となって、その猛威を振るう日も近い。
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