短編『異聞・扶桑海事変』
(ドラえもん×多重クロス)



――さて、逆行した扶桑陸軍新三羽烏は遅かれ早かれ自分達が事変の経緯を書き換えるための言わば『狂言回し』に近い役割を背負わされている事を自覚していた。大人としての精神状態を与えられたのは、この事変で無念の死を遂げた者達の願いが時を超えて作用し、運命が自分達を選んだためであると悟ったのだ。


「お前達は未来を知っていると言ったな。黒江」

「はい、隊長」

「海軍の堀井大将を出し抜ける材料は無いのか?」

「あります。あのノータリン野郎を出し抜く格好のモノがね」

「それはなんだ?」

「マルサン計画で二番艦まで建造が認可された次期主力戦艦ですよ。艦政本部の一部や米内閣下しか知らないA級軍機で、18インチ砲を三連装九門積んだ超弩級艦。標準排水量65000トンの化け物です」

「紀伊型のおよそ1.5倍の排水量と世界最大の大砲か……よく造れるな」

「手始めに呉、横須賀、長崎の工廠を拡張して造るんですよ。もう一番艦は起工されたはずです」

「それで完成した暁につく名前は?」

「国の別名でもある『大和』です」


「大和、か……ずいぶん大層な名前じゃないか」

江藤はこの時に初めて、後に扶桑皇国の象徴となるであろう超弩級戦艦の名を知った。国の別名を頂くというだけで、海軍がその艦に駆ける期待が伺えるが、紀伊型がその前座にすぎないことを知ったのだ。

「紀伊型戦艦は元々は前大戦後の八八艦隊計画の一環で計画していたものにすぎないですが、今回の大和型は空母建造の煽りで中止になって標的艦になって沈められた一三号型とワシントン軍縮でダメになった金剛型の後継を兼ねた、全くの新設計です。ヒガシが運良く絵心あるんで書かせましたが、こんなのッス」



圭子にこの日までに書かせておいた大和型戦艦の絵を江藤に見せる。運良く絵心があった圭子が描いたその絵は特徴を大まかに表していた。細部のディテールに問題はあるものの、『だいたいあってればいいだろ』という事で江藤に提出された。長門型戦艦が小さく見えるほどの大きさを誇り、一八インチ砲(46cm砲)を乗っけるために幅が異様に広くなっている船体。紀伊型までとは世代が違うとひと目で分かる塔型艦橋……。まさに新世代だ。

「こんなのを二杯も造るのか?」

「あとで追加されて四杯になります。金剛型や扶桑型の代替で」





史実では大和型戦艦は量産される予定で、四隻から五隻の建造が予定されていた。目的は旧世代になった扶桑型と金剛型の後継。黒江もミッドチルダ動乱で大和型戦艦が二隻揃う光景を目にしているが、壮観である。扶桑海軍は前大戦後から軍拡志向であるが、ロンン軍縮会議(ネウロイが去った後に世界の海軍が軍拡を目指したために、世界のバランス調整と国家財政の健全化という名目でやはり締結された。紀伊型の建造が延びた理由はこれ)でしばし建艦を控えた影響で紀伊型と長門型を除けば(加賀型戦艦は空母の需要に応えるために空母化。天城型の後期建艦分が政府によって外交の道具にされたため、加賀型がその埋め合わせに空母化された。ただしその代わりに13号型巡洋戦艦が水中弾の標的になって軍縮の施行代わりに廃棄されている)旧型艦しかない海軍が『最強の戦艦』を欲しがるのは至極当然のことだ。

「こんなのを作ってるんじゃ紀伊型を出し惜しむ理由はないってことだな?」

「そういう事。これを奴に叩きつけ、陛下の威光を以って、米内閣下の手引で堀井を罷免させる手筈になってます。奴が反抗したら問答無用で首をこうやります」

黒江は自分の首を斬る真似をしてみせる。飛天御剣流の心得を得た今の自分なら相手に『痛み』を感じさせない一瞬で命を断つ事もできると示して見せる。剣技を7年で達人と言える領域にまで鍛え上げたというのを暗に示唆する。実際、北郷を二人がかりとは言え、今一歩まで追い詰めた実績から鑑みるに、できるものと考えていい。しかし黒江は江藤の手前、自信満々に振る舞っているが、内心はヒヤヒヤであった。


(とは言え、絶対に奴が陛下の言うことを聞くかは確証はない……下手したら悪代官並の理屈で陛下を殺そうとするだろう。史実の五・一五事件のこともある。コイツのバスターライフルで師団の一個や二個はぶっ飛ばさないといけなくなるかもな)

そう、黒江は元の時空からIS『旋風』を持ち込んでいる。その戦闘力は赤椿をも凌ぐが、その火力を実現させているのがWガンダム系列のMSからのスピンオフで搭載されたバスターライフルである。エネルギーカートリッジ方式であるために弾数は有限だが、一発当たりの火力は本家大元のそれと同等である。つまりウィングゼロに比べれば可愛いもの、インターネットが普及した時代の中規模都市の1日の電気消費量分のエネルギーが射線軸の全てを破砕する。これに耐えられる装甲は超合金Zや合成鉱Gなどのスーパーロボットのもののみである。この時代からみればオーパーツと言えるので、使わないようにしているが、軍強硬派の動きいかんによっては使用もやむを得ないと決意する。

(あいつらのようにいかんかもしれん……だが、可能性を切り開くためには多少の無茶は必要だ。元の時代の連邦が作らせたっつー新しいガンダムもそのためのものだって聞く……可能性の獣。一角獣の名を持つガンダム……懸けてみるしかねー!)









黒江は逆行前にニナ・パープルトンのツテでアナハイムが連邦軍の軍事計画の一環で極秘に新たなガンダムタイプを開発している事を知らされた。サイコフレームを全身に用い、戦乱で失われたスーパーロボットのいくつかを補うための『決戦兵器』として建造されたユニコーンガンダム。当初の計画でのオールドタイプの怨念をレビルが断ち切って、計画を強引に軌道修正させて生み出した『可能性の獣』との異名を与えられたガンダム。



――人は人であるゆえに可能性を切り開く可能性を与えられた。





……という学説が近年唱えられるようになったが、歴代のガンダムパイロットやスーパーロボット乗りたちが可能性を切り開き、人の可能性を体現してきた事が大きい。その実証実験も兼ねて新型ガンダムは建造された。旋風にも部分的にサイコフレームが、サイコミュシステムと共に小型化されて組み込まれている。(そのためにオプション装備にはフィン・ファンネルが含まれている。ISのオールレンジ攻撃兵器の名称は『ビット』であるが、未来世界ではMSのオールレンジ兵器は『ファンネル』なので、そちらの名称がつけられている)この1930年代で用いるにはオーバースペックであると常々自覚しているが、万が一の際には使わざるを得ない。





「黒江、上の大馬鹿野郎共を黙らせるにはお前達の未来の記憶が必要になる。多少脚色しても構わん」

「了解です。この戦は元々、人的損害の割に得たものはわずかしか無い『負け戦』ですからね。あ、昨日の内に機甲本部に7年後の高性能戦車の情報をリークしました。奴さん、腰抜かしてました」

「そりゃそうだろう。今の最新型の九七式は歩兵直援用の57ミリ砲なんだ。それがいきなり75ミリや90ミリ砲なんて化け物みたいなのを積んで突っ走るのが10年もしない内にバンバン量産されて、しかも『対戦車用』用途が主流になるんじゃ腰抜かすのも当たり前だ。写真見た時は私も驚いたぞ」




「東條のメガネザルヤロウが戦車開発に与えた影響は計り知れない。戦車兵と砲兵の縄張り争いに、無駄な戦死者……それを吹っ飛ばすために選んだんです。リークする戦車の種類。戦車戦で無類の強さを見せた奴を中心に、インパクトのある奴を」

黒江が陸軍機甲本部にリークした戦車の情報は以下の通り。Y号戦車『ティーガー」(T、U)、M26パーシング、『センチュリオン』(後期型)、IS-3。いずれも将来的に戦車戦で活躍するであろう強力な戦車だ。火砲は90ミリから120ミリ。どれも97式が子供の玩具に見える重戦車(センチュリオンはMBTであるが、この時代にはMBTの概念がないので、重戦車と江藤や機甲本部に告げた)だ。チハが一個軍団で襲いかかろうが鎧袖一触で粉砕できるだろう。

「九七式が早くも時代遅れになってる事を知らされた機甲本部の奴らの反応は?」

「電話口で分かるくらいにブルってましたよ。ションベンちびった奴も出たそうっす。120ミリって言えば吹雪型駆逐艦の主砲の口径ですから、そんなのが陸を走ってくるなんて考えもしなかったそうです。お笑いですがね」

「チハの後継が計画されてるそうだが、いきなり75ミリ砲戦車なんて造れると思うか?」

「無理っすね。75ミリ戦車砲を造るには技術的ハードルが高い。場繋ぎて対戦車能力をマシにした『チヘ』の量産が早くなるくらいでしょう。チトは早まってもせいぜい1,2年……チヌなら42年中にはできるかも」



「チヘか……スペックはどうなんだ?」

「ハッキリ言って、チハよりはマシな程度、焼け石に水です。正面装甲は50ミリ、主砲は貫通力を高めた47ミリ砲……今のスポンジ弾みたいな57ミリよりはマシですがね。チヌでようやく75ミリになりますが、ありゃ戦車というより自走砲だし……しかも90式野砲の転用。これも出来がいいおもちゃの域を出ません。本命は45年に出てきますが、それでも欧米列強に比べると一歩遅れてますよ」


「悲惨だな……」






三式中戦車は主砲口径こそ列強に追いついたが、威力不足なのは相変わらずで、しかも発射機構が引き金式ではないという急造兵器。1945年では4式や5式系列が主力化されたので、早くも一線から下げられて簡易トーチカや移動砲台扱いである。黒江は急造兵器という点を差して『出来がいいおもちゃ』と言った。そして4式も5式も性能的には1945年の水準では遅れており、改善型が出始めている。それを江藤は『悲惨』だと評した。つまり戦車不要論に振り回された挙句に機甲戦力で欧米列強の後塵を拝するまでに落ちぶれると。それを教えられたであろう機甲本部は今頃、顔面蒼白で戦車開発を強力に推し進めているだろうが、遅れは安々と取り戻せないだろう。





「もし、戦車開発が遅れたままで他所の国と戦争に入ったらどうなっていた?」

「グダグダで戦中にあれこれ迷走した挙句に負けるでしょうね。21世紀になっても追いつけたか……」

そう。大日本帝国の場合は第二次大戦の敗北まで遅れた機甲戦力の技術を欧米列強レベルに戻すことは実質叶わず、その後の陸上自衛隊でも欧米列強の水準に追いついたのは1990年制式の『90式戦車』が最初である。それほど陸軍主流派の施策のツケが後世にまで残り続けたわけである。

「お偉方は明治大帝陛下時代の歩兵中心時代に青年期を送った奴らだ……。第一次大戦に本格的に陸軍部隊を送っていれば今頃、大陸領土を失うことにはなってなかったろうに」

扶桑はウィッチ部隊を第一次大戦で送ったが、それは設立されたばかりの航空部隊であって、陸戦部隊では無い。悲惨な塹壕戦を目にしていれば近代的機甲戦力を軽視することはなかったはずである。カールスラントのように、とはいかないまでもガリアと同水準にはなれたはずだと江藤は嘆いた。













――圭子は臨時で航空部隊を率いて奮戦していた。北郷と武子が発熱と筋肉痛(インフルエンザ)に感染し、部隊指揮が不可能となったために、圭子が臨時で海軍部隊に至るまでの総指揮を執っていた。

「でぃぃぃぃぃや!」

圭子の獲物は日本刀ではなく、ナイフである。これは戦闘タイプが銃主体であった故であるが、未来世界での復帰以降には磨きがかかり、重爆撃機タイプネウロイであろうとコアまで貫いて切り裂くほどの威力を発揮するようになった。実はこの戦法、未来世界での地球連邦軍のデータベースに記録されていた別世界のガンダムである『ストライク』や『インパルス』のデータを参考にして組み立てたもので、ナイフを敵に突き立てるのはストライクを、二つを同時に構える点や荒く使うところはインパルスの戦闘データを参考にしている。ちなみにナイフは官給品では強度不足だったため、後世のサバイバルナイフを参考に自作したとの事。魔力を切っ先に集中させて突き刺して、重爆型ネウロイのコアを破壊する。

「各小隊は残弾と魔力の残り、それに自分の活動時間を確認しろ!機体の行動半径を超えると帰れなくなるぞ!」

「はいっ!」

ストライカーユニットは魔力で作動するが、ウィッチ個人の素養に関係無く、エンジンの稼働時間は基本的に通常の戦闘機と同じ程度である。どのようなウィッチであってもユニットの稼働限界時間を超えて行動をした例はない。それはたとえ宮藤芳佳であっても例外ではない。圭子はその点を重視して、部隊に注意を促す。この時期の魔導エンジン内蔵型ユニットは初期型で、航続距離が短いからだ。自分たちが早めにロールアウトさせた大戦初期世代は編隊の統一性を重視する江藤の命で使用を控えているので、この時は圭子は他の皆と同じ九七式戦闘脚で飛行をしていた。

(九七と九六だともうじき限界時間が来る……そろそろ潮時だな)

「各部隊は戦果を知らせ!」

「第一小隊、四機撃破」

「第二小隊、三機撃破!」

「第三小隊、二機撃破しました!」





それぞれの小隊が戦果を報告する。やはり一番戦果を上げたのはエースが多く在籍する第一小隊である。全体の総数は火器が貧弱なのを補って十分な戦果だが、大勢には影響はしないだろう。仕方がないが、相手はアメリカ並みの物量と、ちらほらB-29並の分厚い防御装甲を持つ者も出始めている。99式一号機銃ではキズすらつかない防御だ。

(おそらく、殆どのウィッチは格闘戦で落としたんだろうが、そろそろこの時の金属で作られた武器じゃ通じなくなる。ビーム・サーベルでも持って行こうかな?)

圭子の記憶ではそろそろネウロイの防御装甲は更に厚さが増圧しつつ複合装甲化しているはずで、陸軍はますます戦線維持が困難になるはずだ。今度の出撃の時には黒江からビーム・サーベルでも借りようかと考えつつ、帰路についた。




















――本国 軍令部

「何、ウィッチの小娘が何やら嗅ぎまわって米内や山本らに接触している?」

「ハッ。他には岡田啓介閣下にも話が……」

「ふん、岡田の爺さんに何ができる?こっちには皇族軍人の『かの方』がいらっしゃるのだ。泳がせておけ。万が一の時は排除しろ」

「ハッ」

(それが例え陛下であろうとも……フフフ)







海軍大将の堀井は1938年当時に大将となっていた軍人の中では比較的若手である。明治元年生まれの長老たちが軍を去っていく中で保守派の重鎮となっていた。彼は皇族軍人であるさる方(軍令部総長)を傀儡にし、その威光を悪用し、今の地位を得た。竹井醇子の祖父の遺したウィッチ組織を都合がいい『捨て駒』として用いるつもりだったが、山本五十六らに察知された。が、彼は余裕だった。如何に山本五十六や米内光政らが動いたと言っても、彼らは少数派。多数派の自分たちが押しつぶせばいい。そう考えていた。だが、彼の野望は既に『陛下』に伝えられていた。







――帝都 皇居

「『中尉』、入りたまえ」

「ハッ。失礼致します」

海軍長老、岡田啓介大将の仲介で中尉昇進辞令の通達を名目に本国に召還された智子は、陛下に拝謁し、堀井の野望を陛下に詳細に伝伝えた。陛下は皇族の中でも長老となっていた時の軍令部総長の威光を傘に不埒な悪行を働く堀井に激昂、『威光を悪用して、いたいけな少女の願いを無に帰すなど許せぬ、朕自ら近衛師団を動かし、成敗してくれる!!』とまで宣言してしまうほどであった。岡田がそれをなだめ、三羽烏をいっぺんに中尉へ昇進させるのを陸軍参謀総長の杉山元に追認させた。

「これは海軍始まって以来の不祥事である。岡田、何か手立てはあるか」

「残念ながら陛下、現役を退いている私では軍に対して限定的にしか影響を及ぼせません」

「青年将校らは『昭和維新』を掲げ、財閥や重臣らを始末しようとの不穏な情報も入っております。下手に表立って動きますと、陛下のお命が危のうございます」

「そうなのか、杉山」

「ハッ……恥ずかしながら。陸海軍の青年将校らはウィッチに予算が割かれる事に不満をありありと表しております。『限られた時間しか奉職出来ない女共より俺達の方がお国のために役に立つ』と」


「耳の痛い話であります。自分たちは限られた時間の中でお国や陛下に奉職するのが努めでありますが、定期的に総入れ替えが行われることで兵力の質が長期的に安定しないのが古今東西の国の悩みですが……」

「うむ……『上がり』は古今東西の少女らの宿命であるから、出来れば解消させてやりたいが」

ウィッチは某歌劇団並の人気があるが、それは『儚い花』のように、10代のうちしか前線任務につけないという点が受けているのであって、死まで奉職できるようになっては志願者が激減する可能性が高い。戦国時代のように死の瞬間まで戦おうとする者はいるかどうかと陛下は嘆く。



「今の若者らは良くも悪くも軍に志願することを『ファッション』として捉えていない。10代のうちの『お遊び』で、将来に有利となる資格程度にしか考えていない者も多いし、その当たりが青年将校の反発を招くのです。私達としては是非にも解決したい問題です」

「どうにかできれば若い者の不満も消えると思うのだが……」

「そうですね」

その問題は7年後に解決とまでは行かないまでも解明は進むのだが、この場で言うべきことではないので、智子は杉山に同意し、頷くふりをする。




「では陛下、私はこれで」

「うむ。場合によれば御前会議の重臣達を予め籠絡させておいたほうがよかろう。西園寺に話を通しておくように」

「ハッ」

岡田啓介はこの後、陛下のお墨付きを得たことで行動の大義名分を獲得。米内光政らと共謀して陸海軍の主流派を追い込むための手段として、智子らを利用するようになる。智子らも今後のために海軍改革派を上手く利用することにし、互いに利用仕返す形で軍の近代化を進めていく事になる。『時の陛下』も巻き込んで。



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