短編『翼は天を駆ける〜聖闘士の世界〜』
(ドラえもん×多重クロス)
――ミッドチルダ動乱が激しくなる中、フェイトは前々から『行きたくない』とぼやいていた聖闘士星矢の世界を発見してしまい、事実確認のため、ドラえもんとのび太についてきてもらい、その世界が聖闘士星矢世界のいつの時間軸に当たるのかという確認をしてもらっていた。
――聖闘士星矢の世界 西暦1990年
日本がバブル景気の絶頂期に達し、繁栄を謳歌していたこの時代、人知れず、知恵と防戦の女神『アテナ』の降臨が245年ぶりに起き、叔父に当たる海神『ポセイドン』、兄に当たる、存在を抹消されていた太陽神『フォェボス・アベル』との聖戦が巻き起こり、その度に彼女を守護する役割を負う88人の闘士『聖闘士』達が神をも打ち破ってきた。その聖闘士とは、「拳は空を裂き、蹴りは大地を割る」と言い伝えられるほどの超人的な能力を得た闘士のことで、大まかに三つの階級に分かれる。最下層の青銅聖闘士は雑兵よりは上の立場だが、本来は戦線では上級聖闘士の補助要員とされる。強さは音速拳を放つ程度であるが、極稀に黄金聖闘士を受け継げる才覚を持つ者が出現する。前聖戦時の老師・童虎と牡羊座のシオン、1990年においては、星矢達である。次の白銀聖闘士は一般的な青銅聖闘士より強く、戦線では中級の立場である。概ね、雑事や中規模戦闘に対応するのだが、1990年では内紛で大きく数を減らし、更に青銅聖闘士でありながら、黄金聖闘士級の強さを誇る星矢達がいるので、本来の立場からすれば形無しの状態となっている。最後の黄金聖闘士は、神々との聖戦などの有事でなければ、招集もされないほどの人智を超えた力を有する最上級の闘士で、神にも抗える力を持つ。黄道十二星座を守護星に抱いており、その通りに12人しかいない。ただし、内紛で数人の死亡者が生じているのが、この時期のアテナの持ち駒の現況であった。しかも、最高レベルの戦力である、双子座、射手座を欠く状況であり、来る聖戦を前に戦力を減じていた。
――日本 とある地
「どうやら、ポセイドンとの聖戦が終わった後に、太陽神やルシファーとの聖戦が起こった世界線のようだよ」
「う〜〜ん……やばいやばいやばい!!死ねる!!」
タイムテレビで、この世界の過去の聖戦を目の当たりにしたフェイトは冷や汗タラタラであった。光速拳が飛び交い、射手座の黄金聖衣を纏った星矢が黄金の矢でルシファーを撃ちぬく場面が映しだされる。アニメではなく、実際に起こっている『現実』だ。フェイトの護衛についていた箒は、この凄まじい光景に圧倒され、開いた口が塞がらない。
『俺達に残された小宇宙よ……!極限まで燃え上がり、究極の小宇宙『セブンセンシズ』に目覚めさせてくれぇぇぇ!』
星矢の叫びと共にオーラが滾り、射手座の黄金聖衣が彼に装着される様子も映しだされる。射手座の黄金聖衣はヒロイックなデザインであり、黄金の輝きも相なって、神々しささえ感じる。この射手座の黄金聖衣は本来の持ち主の『射手座のアイオロス』が死亡しているため、聖衣の意志のままに、正義の為に戦う若き青銅聖闘士の元へ装着される事が多かった。後に、彼がアイオロスの後継者となる事も考えると、それは必然とも言えるものであった。
「ちょっといいか?セブンセンシズとは、いったいなんだ?」
「あれ?読んでたのに、知らないんですか?」
「しょうがないだろ!幼なじみから借りて、チラッと読んだ事しかないんだから」
のび太がドヤ顔するのに、思わず赤面する箒。のび太は優越感に浸りつつも、分かりやすく説明してあげる。セブンセンシズがなんなのかを。箒は凄く悔しそうだったが、聖闘士星矢はチラッとしか読んでないため、のび太に教えてもらうことにしたのだ。
「セブンセンシズとは、第六感を越える第七感の事です。これに目覚めると、小宇宙を最大限燃やせる様になり、拳や蹴りの速さは光速に達します。これより上のエイトセンシズもあるんですが、『死ぬことなく生きたまま地上界と冥界を行き来することができる』チート能力なので、この時点で目覚めているのは、黄金聖闘士でも最高級の力を持つ『乙女座のシャカ』だけです。セブンセンシズに達する事こそが、黄金聖闘士の資格を得る最低条件なんで、これがこの世界での強者になるための壁です」
「なるほど……第7感、か……訳が分からんぞ。」
「この世界じゃ常識ですから。白銀聖闘士だって、最大でマッハ5ですよ?ISで防御できるんですか?イーグルトゥフラッシュやサンダークロウの破壊力を受け止められるとは……」
「マッハ5なら、フル稼働状態でなんとか出来そうだが、光速となると……無理だろうな。さすがの姉さんも深宇宙での作業までは想定してないだろうし」
「第一、絶対防御だって『絶対』じゃないし、ギャラクシアンエクスプロージョンやアトミックサンダーボルト、エクスカリバー、天魔降伏とかの超絶凄い技を受け止められないと思いますよ。星々も砕くし」
「……う、うむ……万が一、それが来たら死を覚悟せねばならんか……」
黄金聖闘士の力は平均して、神に抗える水準である。そんなものは、単なる機械であるISのキャパシティで防御できるわけがない。いくら絶対防御と言っても、それは21世紀の現在兵器を基準にしたもので、小宇宙を燃焼して起こす超常的な現象は想定外もいい所。聖衣の素材はオリハルコンなどの複合素材で、最上級の黄金聖衣は現在兵器では、傷一つつけられない堅牢性を持つが、神の攻撃はそれを更に超えた神聖衣(神の防具に限りなく近い聖衣)にならなければ受け止められない。
「ええ。でも、神の攻撃は黄金聖衣でも無理ですから、階層構造があるんですよ、聖衣は」
「ややこしいな……。もう、何がなんだか分からんぞ……」
「ドラゴンボールだって、超サイヤ人の変身段階で階層があるでしょう?それみたいなもんです」
「う、うーん」
のび太の例えは分かりやすいような、分からないようなもので、箒は首を傾げ、「?」マークを浮かべる。聖闘士の力は実際に体験しないと実感が沸かないが、生死がかかっているのは確かだ。
「なるべくなら穏便に行きたいなぁ。フェニックスだと『問答無用!』とか言って、鳳凰幻魔拳撃ってくるの目に見えてるし、氷河さんも『ダイヤモンドォォ……ダストぉぉぉ!』だろうし、紫龍さんは下手打ったら廬山昇龍覇……、星矢さんは『ペガサス流星拳!!』とか言って、話聞かないだろうし……。ここはアンドロメダの瞬さんか、黄金で、なおかつ事実上の指導者の『老師・童虎』さんに会えればいいんだけど……。」
「そうは問屋がおろさないだろうな。部外者の僕達が会っていきなり、『聖域に危機が迫ってます!』って言っても門前払いがいいところだよ?巻き込まれて助けられない限りは無理なんじゃないか?」
「どうやって?この後のハーデスとの聖戦に巻き込まれて『助けてくださ〜い!』とかいうつもり?」
「事実上、それしかないだろうなぁ。だって、普通、部外者の僕達が、知られている限りの聖戦の全てを知っていて、しかも先代黄金聖闘士の名前も言えるなんて、敵のスパイと勘違いされる公算が大だぜ?」
「確かに……」
「なにより、ぼく自身が時の神に喧嘩売ってるようなもんだぜ?わざと巻き込まれて、助けて貰ったほうがいいって。怪しまれずに聖域に入れるしね」
「ツキの月使うとかは?」
「あれかぁ。あれは高くてねぇ……ぼくのお小遣いじゃなかなか買えないんだよ。持ち合わせはこの一個だけだし」
「箒さんじゃ効き目薄いから、また僕かぁ……なんかいつもこんな役目なんだから」
――のび太がドラえもんに言及した『ツキの月』とは、ひみつ道具である。ゴツゴーシュンギクという薬草から取れた物質を凝縮させ、服用者にご都合主義的ないい事を起こす作用を持つ薬品である。過去のアニマル惑星の冒険で効き目ばっちりの効用を見せたが、条件に『普段は全くついてない人ほど、凄い効用がある』という項目があるため、またも満場一致でのび太が使う事に決められているが、飲むタイミングが問題である。
「なんだ?その、ツキの月というのは」
「この道具の事ですよ。飲んだ人はご都合主義ないい事が起こりまくるんですが、その強さは普段の運の無さに比例するんで、のび太くんに飲んでもらうんですけど、タイミングが重要なんです。効き目は三時間ですし」
ツキの月は統合戦争のゴタゴタで製造技術の一切が喪失し、ドラえもんの持つものをリバースエンジニアリングしなければ再製造もままならないひみつ道具の一つである。その効用故に、他国に危険視されたのだ。箒は未来世界の統合戦争で日本が爆撃を受けた理由をここで悟った。
「ほんと、あれは僕しか飲めないからなぁ。箒さんも『気をつけてよね』……」
この最後の言葉に、箒は「!」と突っかかった。語尾がタメ口だったからだ。
「ん?ドラえもん。ちょっといいか?のび太がなんで私にタメ口なんだ!?いくら生年月日は私のほうがずっと下とは言え、肉体的には私が上なんだぞ!」
「も〜、のび太くんったら、気をつけなよ。美琴さんみたいな事になってるよ」
ドラえもんがのび太を諌める。のび太はTPOはちゃんとわきまえている男なのだが、御坂美琴が普段、箒にタメ口を聞いていた影響だと思われるが、美琴も対外的には箒に敬語で接するようにしていたのだから、ドラえもんのお叱りも至極当然だ。
「ご、ごめんなさい。美琴さんの影響で」
「わかっているならいいが、今度から気をつけろ。年上の人には例え、一歳差でも敬語使えよ。それが年功序列というものだ。(全く、美琴の奴め。前に、子供に悪影響出るから、やめろと言ったんだが……今度、連絡取るときに言っておくか)」
箒は剣道部員でもある故、年功序列はきちんと叩きこまれている。軍隊などの体育会系のところでは階級や入った期、年齢が一つ違うだけでも厳しい上下関係があるので、将来のことも思って、ドラえもんと箒はのび太を諌めたが、その元凶である、美琴は元の時空で、2歳年上である上条当麻にタメ口を聞いているように、気を許した相手にはタメ口を聞いてしまうところがある。箒は『子供の教育に良くない』と、美琴にやめろと言った事があるが、のび太に悪影響が出てしまった以上は言っておく必要があると考え、美琴に連絡取るときに、そのことで怒っておこうと決意したのであった。
――ドラえもん達がやってきた時刻よりちょうど数時間前、この世界の冥界では、かつて非業の最期を遂げた、聖域の前教皇であった牡羊座の元黄金聖闘士『シオン』が死の眠りから呼び覚まされ、魂の状態でハーデスが誘いをかけてきたのだ。
『シオンよ……かつて教皇であったうぬであれば、アテナの首を持ってくるのは容易なはず。そうすれば現世に蘇えらせてくれようぞ』
『ハーデス……、この牡羊座のシオン、死したとは言え、アテナの聖闘士の端くれ。貴様などに魂を売ると思うか!前聖戦時に死んだ天馬や水鏡達の無念は死しても忘れてはおらぬ!!』
冥界の棺から呼び覚まされたシオンの姿は、死亡時の248歳の老いさらばえた姿でなく、前聖戦時の10代後半の姿であった。魂だけとなっている故、姿形は望む姿を取れるが、彼の場合は『前聖戦時の若かりし頃』であるのが窺える。ハーデスは当然ながら前聖戦時の記憶を保持しており、シオンの絶頂期の力は知っている。並み居る黄金聖闘士が内乱なり戦闘で死亡していく中、シオンは童虎と共に生き残ったからだ。そして、前聖戦時に依代となった少年『アローン』の親友であった聖闘士の事も記憶していた(……が、ハーデスは後に星矢の姿を見て、初めて思い出すので、その事を忘れたい気持ちがあったのだろう)。それを踏まえ、ハーデスはシオンを誘惑する。シオンはハーデスと話をする内に、存命中に為すことができなかった事を思い出した。アテナが聖戦の度に纏ってきた聖衣を当代のアテナに教える事を。
(そうだ。生きていた頃に成し遂げなかったあの神聖衣の事を、当代のアテナに伝えなくては……!デスマスクやアフロディーテ達の話では、私がサガに殺されてから、20年近くの歳月が流れていたと聞く……。ええいサガめ……『カインとアベル』よりは単純だが、面倒な男め!)
シオンは自身の死後しばらくして死に、冥界入りした部下らから事情を聞いたらしく、自身を殺害した『双子座のサガ』を詰った。サガは死後は善の人格に統一されているのだが、悪の人格が成した悪行に責任を感じており、生前の非礼を詫びたのだが、双子座の宿命からはサガも逃れられなかったのかと落胆している。それ故、自身の若かりし頃に在任していた、サガとその弟のカノンの先代に当たる黄金聖闘士『双子座のカイン』、『双子座のアベル』を思い出したのである。彼らはサガとカノンよりも複雑な存在であったが、はっきりと善悪が分かれていた(アベル曰く、悪の心がカインにもあったとのことだが)。なので、多重人格であったサガを改めて詰ったのだろう。サガとしては悪人格がやったとは言え、自身の愚行である故、責められても文句は言えない立場であるが。
「現世に蘇えるには条件がある。私の元部下達を幾人か帯同させてくれぬか?いくら私でも、一人では骨が折れる仕事だ」
「良かろう」
「それと、私の肉体は出来れば絶頂期の姿にしてくれぬか?死した時の老いさらばえた肉体では、戦いもままならぬのでな」
「そのようなこと、容易い事だ。予にとって、うぬが望む姿の肉体の創造など児戯にも等しい」
いくつかは本当のことと、嘘を混ぜたシオンの回答だった。現実問題、自らの愛弟子『牡羊座のムウ』らは青年へと成長し、かつての自らに劣らない強さを身に着けているのは容易に想像が付く。唯一、衰え果てた姿で聖闘士を続けているであろう親友が昔年の猛虎に例えられる力を維持していれば、老いさらばえた姿では太刀打ち出来ないと踏んだからだ。絶頂期の無敵を誇った頃のパワーであれば、童虎と対等に渡り合える。そう考え、絶頂期の姿を望んだのだ。
「……!」
気が付くと、生者の証である肉体の鼓動を感じる。死んだ時の弱り果てたものでなく、青年時代の精気に満ち溢れていた時のものだ。燃焼できる小宇宙のパワーも、記憶している絶頂期の頃のそれに回復している。
「このパワー……あの時のままだ……」
ハーデスに与えられた牡羊座の冥衣を纏った姿のシオンは不本意ながらも、生前の悔いを果たすべく、行動を起こす。仮初の肉体であるが、絶頂期のそれを得たので、その気になれば冥闘士を全員倒す事も可能だ。
(だが、この肉体は仮初のもの。現世の時間で半日も持てばいい方だろう。それがハーデスに取ってのフェイルセーフなのだろう。だが、私が教皇として、やり残した事は果たさせてもらう!水鏡、天馬……先代アテナ……そして我が戦友の先代黄金聖闘士達よ……私を見守ってくれ!)
シオンは肉体を得たと同時に行動を開始する。同じく肉体を与えられたサガ、シュラ、カミュ、デスマスク、アフロディーテらと合流し、逆賊の汚名を被ろうとも、自身が教皇としてやり残した事を果たす事を誓う。サガ達は無言で従ってくれ、改めて謝意を示す。更に死んでいた幾人かの白銀聖闘士も加え、敢えて逆賊を装いつつ、目的を果たすべく動き出した。この時のシオンの胸中には、親友の水鏡、その弟子の天馬星座の天馬(現世における天馬星座の星矢の前世での姿。容姿は星矢と瓜二つ)、そして若き日に忠誠を誓った先代のアテナの姿が浮かんでいた。彼らは複雑な思いを交錯させつつ、現世に蘇っていく。
――ドラえもん達はツキの月の使用どころに悩みつつも中国へ足を運んだ。目的は生存している聖闘士の中では一番の人格者であり、261年もの月日を生きる最古参の黄金聖闘士『天秤座の童虎』と接触するためだ。彼はこの時代では、身長140cmほどの小柄な老年の男を装っているが、実際は先代アテナであった『サーシャ』より仮死法を受けており、心臓の鼓動が一年に10万回しか脈打たない状態故、実際の加齢は一年にも満たず、老いた体の中に絶頂期の頃の肉体を隠し持つ。若返った状態では体型や体格も大きく異なり、長身で筋肉隆々の青年になる。この若返った肉体が彼本来の姿である。箒はドラえもんが持って来た童虎の姿のスケッチ(道具でスケッチしたもの。老年時と青年時の双方の姿が書かれている)を見て、思わず唸る。
「う〜む……老いた姿が仮の姿としても、体格まで、まるで違うというのはなぁ。どこがどうして、30cmも長身になるんだ?」
「神様の力ですから。体格変えるのもお茶ノ子祭々なんでしょう」
童虎は仮死法を受け、外見は歳相応の老いさらばえた姿だが、実際は243年前の青年の姿を留めている。体格まで違うのは欺瞞のためでもあると思われ、箒はそのギャップについてこれないようだ。しかし、この力を行使したのは神である。その程度のことは児戯に等しいのである。童虎はおそらく、聖戦の始まりを悟り、既に廬山を離れ、ギリシアへ向かい始めたと思われる。
「急ぎますよ。彼の足なら、一日で中国大陸を抜けかねませんから」
「何ぃ!?」
ドラえもんのこの一言に面食らう箒。自分達の最高に早い移動手段『空を飛ぶ』よりも早く動ける人間がこの世にいるというのかと。だが、光速の拳を放つことが平常の人間にとって、広大な中国大陸も『ゴルフ場を散歩するような感覚』に過ぎないのだろうかと。
――かくれマントの大型版を羽織って、中国大陸を飛び始めた一同。こうして、一同の思惑が絡み合う中、遂に邂逅の時がやってきた。
――その日の深夜 中国大陸のインドにほど近い地
「フム。儂を追って来ている者達よ。姿を現したほうが身のためじゃぞ。主らの位置は既に掴んでおる」
老師・童虎は小宇宙を滾らせ、自身を追ってきた者らへ警告を発する。老いさらばえたこの肉体は仮の姿ではあるが、周辺数キロ範囲を焦土へ変えうる力は発揮できるからだ。それに応えるように、声が響く。
「姿は見えないのに、僕達の位置を掴むとは……さすがは『老師』……いや、こうお呼びすべきですね。天秤座の黄金聖闘士『天秤座の童虎』」
「ほう。儂の事を知っておるのか」
「ええ、とても、ね。貴方が前聖戦時の生き残りの黄金聖闘士であり、かつては親友であった白銀聖闘士『杯座の水鏡』、教皇であった『牡羊座のシオン』と切磋琢磨していた事も……」
「何……お主がなぜ水鏡を知っている……あ奴は243年前の前聖戦で……、そう。この儂が……!」
これにはさすがの童虎も驚く素振りを見せた。この時代、前聖戦を記憶していたのは、13年前に死んだ教皇のシオンと自分のみ。しかも前聖戦の際に裏切り者の汚名を被ってまで目的を果さんとし、童虎自らが引導を渡す形になってしまった幼馴染であり、親友であった水鏡の事は、シオン亡き後、もはや自分しか知らないはずだからで、警戒心を見せる。
「驚いておいでですね、老師。ですが、僕達はあなたの敵ではありません」
かくれマントを脱いで、姿を見せるドラえもん一同。ドラえもんの姿に面食らったか、さすがの童虎も「ほう……近頃の狸は人の言葉をしゃべりおるのか」としか言えなかった。
「老師。あいにくですが、ぼくは狸じゃなく、猫です。それにロボットです」
「ロボットとな?じゃが、今の科学では、お主のようなロボットなどは到底造れんはずじゃか」
童虎はこの1990年の科学力がどんなものか存じており、ドラえもんのような二足歩行ロボットなどは夢のまた夢である事は知っている。それ故、怪訝そうな表情を見せる。だが、ドラえもんの『生物ではない、機械の駆動音』がするのを聞き取り、あながち嘘ではないと察し、とりあえず話は聞くことにした。
「ふむ……すると、お主らはこの世界とは別の次元からやってきたとな?」
「ええ。僕たちはこの時代から数百年後に当たる時代の日本から来ました。こことは別の次元の。貴方たちの戦いは、僕たちの次元では『漫画』や『アニメ』などとして知られていまして……」
「ふむ……そちらが別の次元である以上、我らの戦いがそのような形で伝えられているのも至極当然じゃな」
「すんなりと信じられるのですか?」
ここで箒が初めて発言する。いくらなんでも荒唐無稽な言い分を聞いてくれただけでも驚きなのだが、あっさりと信じてくれたのが信じられないようだった。
「お嬢さん。儂は既に261年という月日を生きておる。俗世の常識では『100年も生きれば長寿』なのだから、儂の存在そのものが常識外れなんじゃよ」
童虎は箒に、孫か曾孫に話しかけるように、優しく答える。だが、その瞳には闘志がみなぎっている。
「ところで、お主らはどこまで儂らや聖域の事を知っているのかね?」
この質問にはドラえもんが答えた。
「はい。少なくとも243年前の前聖戦で、あなたとシオンしか生き残れなかった事、天馬星座の星矢の前世が、前聖戦時の同じ星座の聖闘士『天馬』である事、今回のハーデスとの聖戦は貴方方が勝つことは」
「ほう。どうやって勝つのだ?」
「星矢が神聖衣を発現させるのですよ。アテナの血を浴びていたおかげでね」
「なんと……あ奴め。天馬の転生であるのなら、生まれ変わっても聖闘士となり、その使命を全うしたというのか……」
童虎は243年前に死した仲間が、現在における愛弟子の仲間として転生し、再度同じ聖衣をまとい、遂に伝説の神聖衣を出現させるに至ったというのは感慨深いようだ。これも天馬の友であり、ハーデスの243年前の依代であった「アーロン」の願いだったのだから。
「ただ、老師。貴方方は……」
「うむ。それは薄々感づいておる。それもまた運命じゃ。次代を星矢達が担うのも、な。じゃが、前聖戦時のような犠牲を払うのは、もう沢山じゃ」
「それじゃ、老師」
「運命というのは変えられるものじゃ。ハーデスを星矢が倒したように。お主らも共に聖域へ往くが良い。我らが事態を事前に知っておけば、聖戦を好転させられるやも知れぬ」
童虎は自身のかつての友のことが決め手となり、ドラえもんらを信じることにし、共に聖域へ行くことになった。奇しくも、この童虎の選択により、歴史は異なる状況を見せ始める。蘇る牡羊座のシオンを始めとする亡き聖闘士達、それを捨て駒代わりにする冥王ハーデス。それを迎え撃つ『姪』(神としての)のアテナ率いるアテナ軍。その聖戦はイレギュラーな要素により、運命は変わり始める。
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