短編『異聞・扶桑海事変』
(ドラえもん×多重クロス)
――扶桑海事変は最終局面を迎えた。ゲッターの力を得た圭子、マジンカイザーの力を与えられた智子。そして。
「なんだ……私の両腕が黄金に……?」
ゲッター線と光子力に刺激されたか、自身に眠る新たなる才能と、運命の因果が呼び覚まされ……そして……。
「ここは宇宙空間!?んな馬鹿な!?」
この時、自身の内なる新たな才能と因果が目覚めた黒江は宇宙空間に似た空間にいた。これは彼女自身の最終的な因果が紡がれた証でもあった。
「その黄金の輝きは、お前自身が最終的に得る『剣』の証だ」
気が付くと、またも別の自分がいた。今回は若き日の自分でなく、20代後半の外見となった、『更なる未来』の自分自身であった。黄金で装飾たっぷりの甲冑を身に纏っており、威圧感たっぷりであった。
「オメーなら分かると思うが、私はお前から見ても『未来の自分自身』だよ。おおよそ、200歳超えになった時のな」
「なぁ!?に、200ぅ!?」
彼女は死後、生前に装着していた山羊座の黄金聖衣と一体化し、昇神した後の時系列の黒江自身だった。
「聖闘士星矢は読んでたっけ、お前の時間軸だと」
「読んでるよ」
「そうか、なら話は早い。私は最終的になるんだよ、山羊座の黄金聖闘士に」
「嘘だろ、おい!?」
「マジなんだな、これが。その時間軸から近いうちに、私は黄金聖闘士になるんだよ。それが実際にある世界が見つかってな。それで200年の月日を生きる事になる」
――そう。黄金聖闘士ともなると、弟子を育てて引退でもしないかぎり、200年は現役である事がままある。それ故、年齢相応の老い果てた姿でなく、若々しい姿である。
「マジかよ!」
「大マジだ。兜や竜馬さんに便乗して、私もお前に力を与えに来たって訳だ。同じ自分だし、例え時系列的に、小宇宙に目覚めてなくとも、その片鱗は使えるはずだ」
「片鱗だって……?」
「そうだ。右腕の『エクスカリバー』、左腕の『エア』。私が開眼する聖剣の力。お前、御前会議で将校を手刀で斬ったろ?あれはそれが宿る運命の因果が現出した証だよ」
「因果……」
「そうだ。今から山羊座の黄金聖闘士として、お前に力を貸す。受け取れ」
黄金聖闘士の方の黒江は、両腕に宿る聖剣の力を、過去の自分に分け与えるという行為を行った。これは黄金聖闘士となる運命を確かにするためでもあるが、ミッドチルダ動乱当時の自分の地力では、怪異の背後にいる者には及ばない事を知る故だ。
「なんで、その力を私に?」
「この歴史改変を楽しんでる、馬鹿ジジイの神がいるもんでな。そいつをとっちめてやらんと気がすまねー。これはウラノスのジイさんからの頼みでもあるんでな」
「神ぃ!?つーか、ウラノスって……ギリシア神話の?」
「そそ。アテナに200年も仕えていりゃ、ガイアやウラノスとかの原初の神々に謁見する機会もあるんでな」
――そう。アテナに長年使えていると、アテナのお供で、隠居しているガイアやウラノスなどに謁見する機会はある。ガイアやウラノス達は、ゼウスに追放されたクロノスの悪戯に悩んでおり、『クロノスをとっちめてやれ』とアテナに言い、アテナから更に黄金聖闘士に下令された事がある。黒江が話術でガイア、ウラノスからも気に入られていた事もあり、彼女の死後に実現したのである。
「オリンポス十二神よりも偉い、原初の神々ご公認だ。暴れてこい!」
「神さまご公認かよ!ハッ、こりゃ面白え!やぁってやるぜ!」
なんと、原初の神々の公認という、ある意味ではゼウス以上の錦の御旗を得た黒江は、更に未来の自分からの『贈り物』を受け取り、過去の自分の体を動かすという、複雑怪奇な状況で戦うこととなった。
――智子が召喚したカイザーブレードは、周囲を唖然とさせた。智子といえば備前長船だが、それとはまったく無関係の西洋の剣を、胸から召喚したのだから、当然であった。
「カイザー……ブレード……!?お、おい、ちょっと待ってくれ。なんで、カールスラント語の後がブリタニア語なんだ!?ここは『Schwert des Kaisers』になるだろ!?」
「ガランド、一応、ブリタニア語でもカイザーは通じるぞ」
「本当か!?知らなかった、それは……。まぁ、地方によってはカイゼルとも言うのは確かだが……」
「お、おい見ろ、ガランド!あの子、ストライカーを履いてないぞ!?」
「馬鹿な!?ウィッチは最低でも、箒使わんと飛べんはずだぞ!?
「もしかして、あの剣、古の魔女の箒の役目を持っていたものなのか?」
北郷とガランドは、智子の姿とカイザーブレードに衝撃を受ける。なんと、ストライカーを履いていないで飛行している上に、カイザーブレードなる大剣を構えているのだから、当然の事だった。
「受けてもらうわよ、怪異!この宇宙最強の皇帝の剣『カイザーブレード』を!」
智子はミッドチルダ式飛行魔法と、未来で得た新たな固有魔法の一つ『加速』を使用する。それにより、炎を纏ったカイザーブレードは音速の速さで、立ち塞がる爆撃機型ネウロイを文字通りに『まっ二つ』にする。刀で割るように壊すのが当たり前の時代、カイザーブレードのように『装甲を文字通りに叩き斬れる』剣はむしろあり得ないのだ。智子は更に、足が自由に使えるメリットが生じたのを活用し、加速を活用し、小型怪異を回し蹴りで撃墜する。それはある仮面ライダーに似ていた。
(あいつ、『天道』さんみたいな事しやがるな。あの人は俺様系だから、茂さんに似てるんだよなあ)
智子の戦闘方法がどことなく、前に一度だけ会った『平行時空にいる仮面ライダー』を思わせるのを感じ取り、微笑む黒江。
「さて、私もやるか!」
黒江は未来の自分から与えられた力を、断空剣に上乗せして放つ。
「行くぜ!断・空・剣!!」
前口上は省いて、エクスカリバーの力を上乗せして放つ。するとこちらは断空剣のエネルギーがエクスカリバーと共鳴し、威力が余計に上がったらしく、盛大に振り下ろした先の敵機や海底までも叩き斬った。そのため、盛大に水柱が立ち、巻き上げられた水がかかり、怪異を弱らす。
「ま、マジかよ……これで『片鱗』だって……?」
断空剣の元々の切れ味にエクスカリバーが上乗せされた結果、戦略級とも取れる威力を見せる。怪異は海水という脅威に怯えたか、中核の個体がビーム攻撃を激しくする。ベテラン勢の複数が、この乱射を防げずに被弾し、落ちていく。
「クソ、古参のシールドじゃあれは防げねーか!……な、なんじゃありゃ!?」
『ゲッターァァァァビィィィ―ム!!』
上空から圭子の声が響き、ゲッタービームが照射される。これにより、怪異の小型は半数近くが消滅する。
「なっ!?ひ、ヒガシ!?」
ISの投影モニター越しに写る圭子は、まるで『出る作品を間違えたんじゃあるまいか』と黒江に思わせる程に、ゲッター線の匂いをプンプンさせている姿だった。流竜馬を思わせる、『意志のこもった』目、どう考えても、物理的におかしいとしか言い様がないマフラー、真ゲッタートマホークと、顔に浮かぶゲッターの模様が、圭子が高濃度ゲッター線を浴びた証だった。
「よくも仲間を傷つけてくれたな、怪異共ぉぉぉぉ!!今日でテメーらを終いにしてやるぜぇぇぇっ!」
高濃度ゲッター線に当てられたため、口調が荒いの一言に尽きる状態に変貌し、体からゲッターエネルギーを滾らせている圭子。緑色のエネルギーを纏った真ゲッタートマホークを引っさげて、戦場に舞い戻った。普段は全く使わない語尾になっているのが、ゲッター線で引き出された闘争心と、圭子本来の冷静さとがぶつかり合っている状態だと言えた。
『まずい!!全員、退避だ!!巻き込まれるぞ!!』
黒江は艦娘を含めた全員に退避を叫ぶ。今の圭子は闘争心に飲まれかけ、理性が半分飛んでいる状態と推測する。それは的中していた。ストナーサンシャインの凝縮されたゲッターエネルギーを浴びた圭子は、理性と闘争心が激しくぶつかり合った状態なのだ。
『全弾ぶち込む!!うぉおおおおおおおおおおおおお!!」
圭子はその証拠に、左手に持ったゲッターマシンガンを乱射しまくる。弾切れを気にせずに乱射し、雄叫びを上げる姿に、黒江は恐怖すら感じる。
『アッハハハハ!!ヒャッハァ―――!!』
と、完全に愉悦の表情になった圭子は、理性が半分吹き飛んだ姿で暴れる。味方の識別がなんとかなっているのが救いだが、完全に理性が吹き飛んだら、それはわからない。怪異を破壊する事を『愉しむ』姿に、周囲は恐怖する。それは三羽烏の残りの二人であっても例外ではない。
「ち、ちょっと、綾香!何あれ!?」
「ヒガシはゲッター線に呑まれかけてる!あのままじゃ完全に理性がぶっ飛ぶぞ!」
二人は事の重大さを理解し、呼びかける。
「圭子、圭子、圭子ぉぉぉ!」
「おい、ヒガシ!応答しろ!おい!おいったら!!」
しかし、二人の懸命な呼び方にも応じず、圭子はゲッタートマホークと、ゲッター線で増強された腕の破壊力で、物理的にコアを引きぬき、握り潰す。
「ハハハァハハ!フフフフハハ!」
と、まるで得物を見つけた時の獣のような闘争本能に突き動かされる圭子。残された理性も薄れてきている。
(あっちゃ〜、今のあいつにストナーサンシャインは強すぎたようだな)
(お、おい、ストナーサンシャインを直接浴びせたのかよ!)
(竜馬さんがやったが、ミッド動乱の時点のあいつじゃ『生存欲から来る闘争本能の湧き上がり』を制御しきれてないようだな。おし、正気に戻してやるよ。物理的にな!)
(物理的ってなんだよ、物理的って!?)
(体を又借りするぞ!)
(お、おいっ!)
黄金聖闘士としての自分が更に主導権を取った状態になった黒江は、その時間軸の自らが持つ技能で以って、圭子を正気に戻そうとする。その技能とは。
『悪いが、一発殴らせてもらうぜ、ヒガシ!ライトニングボルト!!』
それは後の黄金聖闘士としての自らの持つ技の一つだった。漢字表記では『雷光電撃』とされるこの技、光速で圭子の脇腹に命中した。周りからは『ISで殴った』ようにしか見えないが、智子はライトニングボルトの存在を知っていたため、腰を抜かす。
「ライトニングボルトぉ!?嘘でしょ!?」
『ガ……ハ……!ハッ……!?く、黒江ちゃん、わ、私は……?」
「お、やっと正気に戻ったな。手荒だったが、お前を戻すにゃ荒療治が必要だったんでな。見ろ、周りの連中がドン引きだぞ」
「え〜!?な、なにそれぇ!?」
「ゲッター線に呑まれかけて、お前、北斗の拳の雑魚敵みたいに『ヒャッハー―!』なんて叫んでたぜ」
「本当?」
「おう」
「あ―――!……ま、いいか!」
「ま、いいかで済むかよ!ドン引きされてんだぞ?」
「使い魔の暴走と言っておけばいいでしょ?実際、そういう事はないわけじゃないはずだし」
「五十六のおっちゃんに頼むしかねーな…、こりゃ」
黄金聖闘士時代の精神になった黒江は、事の全てを知っているため、周りからの通信の殆どを上手くやり過ごす。だが、親友の智子には誤魔化しきれないため、ミッドの魔導師から習得した念話で説明をする。
(なんでライトニングボルトなんて使えてんのよ!?)
(細かい説明はできんが、今のわたしゃ、お前が来た『ミッド動乱』よりも後の時間軸の私自身が体を動かしてるんだよ!だから撃てんの!)
(えーと、つまり……って、又借りじゃないのそれぇ――!)
(そういうこと!)
(え?すると……?あ、あなた、まさか!?)
(今は詮索は無しにしてくれ。すぐ後で分かる事だしな)
(ちょっと――!気になるじゃないのぉ!教えなさいよ――!)
(やなこったい!)
と、子供じみた念話で智子を丸め込むと、黒江(黄金)は断空剣を咄嗟に空中に放り投げ、右の手刀で襲い来る三機の小型怪異を斬り裂く。エクスカリバーはネタバレになるので、それとは別の技を放つ。
(一応、転向するかもと思ったから、訓練は受けてる。やるぞ!)
「我が眼前の敵を斬り裂け、獅子の大鎌よ!!『ライトニングクラウン!!』」
電撃を纏った手刀を鎌のように大きく振るい、怪異を消滅させ、落ちてきた断空剣を握り直す。
「あらよっと!」
その時の黒江の旋風の右腕は電撃を纏っていた。大半のウィッチには、ISの能力と誤魔化せたが、聖闘士星矢を読んでいた智子にはバレバレだった。
(今の技、『獅子の大鎌』って!?あんた、まさか!?)
(バーロー、それじゃねーよ。私は別の星座だとだけ言っとく。あ、蟹や魚じゃねーからな)
(そこって重要な事?)
(ああ。噛ませ犬だろ、その星座。受け悪いし……子孫にも)
(そこかい!)
黒江(黄金)は自らの行く末を示唆しつつ、ISと聖闘士の双方の力で怪異を屠る。その大暴れぶりとは周囲を唖然とさせる。ゲッター線に呑まれかけたため、肉体に負担がかかった圭子だが、ゲッター線の力をなんとか制御し、疲労を回復させ、戦い続ける。炎の剣で斬る智子、黄金のオーラを迸らせながら、拳、火器、剣と臨機応変に対応する黒江、正気を取り戻し、斧、拳、銃撃で戦う圭子。それをバックアップする黒田。4人の戦いぶりは当事者間の伝説として言い伝えられていく。大和・長門の対空砲弾による支援、瑞鶴と加賀によるエアカバーもよく機能しており、扶桑海軍がミッドチルダ動乱で空母機動部隊の編成を積極的に行い、運用するようになるきっかけの一つとなったのであった。
――しかし、良い影響ばかりではない。若き日の坂本が、この奇跡をウィッチの力によるものと理解し、後に、一種の『ウィッチ万能主義』を信仰してしまう遠因にもなってしまう。(坂本が『ウィッチに不可能はない』という言葉を後世に口癖にするのは、この時に起こった奇跡を、ウィッチの力と理解してしまった事も原因の一つであった)。それ故に生じてしまうが、黒江がそれを知り得るのは、これより遥か後年、新501で同僚となった時である上、坂本が抱え込んでしまう性格となった事もあり、坂本を擁護する手を打ちきれず、(それでも最善は尽くした)平時を迎える1950年代後半は閑職(その頃に妊娠、出産を経る)に回される未来に繋がる。こればかりはどうやっても回避不可能な未来であり、坂本の気質が『平時よりも有事で必要とされる人材』なことの裏付けとなったのだった。
――嵐の中を航行する聯合艦隊の主力の多くは長門、尾張、陸奥も例外なく中破以上の損害を負い、更に第二艦隊が離反し、黒江が傷めつけたために、予備兵力を失った聯合艦隊は、消耗戦により、航空戦隊も新鋭機以外の稼働機を大きく減らしていた。圭子はある決意を固める。
『黒江ちゃん、智子!』
『なんだ?ヒガシ』
『圭子、何?」
『あれをやるわ!』
『……いいのか?』
『ええ。血潮が燃えるのなら、ただそれだけで何もいらないわ。艦隊はもう長くは持たない。前の時のように、第二艦隊が砲弾を撃つわけでもないし、大和や長門だけじゃ火力が足りない。あいつを倒すにゃ、ストナーサンシャインとシャインスパークの連撃で装甲を消滅させて、カイザーブレードと断空光牙剣をコアに叩き込むしかない。その陽動には、大和と長門の零式通常弾が必要よ』
『聞いたな、大和、長門!大ボスに零式通常弾を陽動でぶち込め!その間隙を私らで突く!!加賀と瑞鶴はエアカバーを頼む!』
『了解!』
「問題は聯合艦隊の直掩だが、航空戦隊も消耗して、今すぐのエアカバー形成は無理だし……」
『それは私たちに任せなさい!』
『何!?』
『お前たちは第六駆逐隊の……!?』
『こんな事もあろうかと思って、夕張さんにくっついてたのよ〜!』
『夕張め……あとでとっちめんとな』
「第六駆逐隊!?なら丁度いい!直掩頼めるか!?」
「任せなさい!こんな事もあろうかと、長10cm高角砲を持ってきたわ!」
「長10cm?お前らの装備じゃないだろ、それ」
「細かいことは気にしないでよ、もう!」
聯合艦隊の前に出現した第六駆逐隊(暁、響、雷、電)の艦娘。暁が『夕張が連れ込んでいた』と報告し、黒江は早速、直掩に就かせる。長門は思わず、額を抑えて溜息をつき、黒江も思わず装備の事を突っ込む。
「おし、これで聯合艦隊の心配は無くなった!大和、長門!」
『了解!全主砲、一斉打方用意!てぇーーーっ!!』
大和と長門はこの時、最新の砲術用語である一斉打方を使用した。砲術用語も年を追うごとに変化しており、砲塔の全門を一斉に放つ事を『一斉打方』と定義するのは、この年の頃で、まだ普及はしていない意味の用語だった。これは扶桑軍の軍艦の砲の指向設備が水圧式であり、しかも一つの水圧器で行うため、出力配分が小さく、砲塔の一斉射撃を行うと、発射速度が落ちるのが常で、紀伊型でようやく解決に至ったばかりの問題であったためだ。(後に、正式に砲術用語の教科書も大和達に合わせる形で改変、普及する)直接照準で一斉に放たれた零式通常弾は、大ボスの超大型怪異を揺るがし、爆煙に包む。その隙に圭子は体に満ちるゲッターエネルギーを腕に集め、球体状に凝縮させていく。空間からもゲッター線を集める。
『うおおおおおおおおおおあああああああああああっ!!』
溜めの態勢でストナーサンシャインを形成させていく圭子。『前に包むように構えた両手のなかで集束させ、エネルギー弾を生成する』という行為の威圧感、まるで太陽を作るかのような姿は、周囲のウィッチ、艦隊要員を黙らせていた。その様子は、本格医療のため、医療ウィッチに運ばれ、天城に降り立った武子からも視認できた。
『圭子、圭子!貴方、何を!?』
『武子、命にゃ賭け時ってのがあるわ。今がその時よ』
『圭子、あなたまさか!?』
武子は思わず、怪我した身でありながらも立ち上がり、悲鳴を上げる。圭子が死を賭した攻撃をしようとしているように感じたからだ。それほどにストナーサンシャインは印象的だった。
『ストナァアアアア!!サァァァンシャイィィンッ!!』
最大に増幅させたゲッターエネルギー弾を、乾坤一擲のタイミングで投げる。そして、炸裂するストナーサンシャイン。怪異は悲鳴を上げ、再生しようとするが、凝縮されたゲッターエネルギーをモロに浴びたため、再生できずに装甲が崩れていく。だが、装甲を二重にする事でコアを守った怪異は、圭子へ反撃をしようとするが、黒田がゲッターランサーで内殻へ一撃を入れる事で、それを止める。
「先輩、今です!」
「サンキュ、那佳!」
これで隙が出来たため、圭子は最後の一撃のために上空へ浮かび上がり、ゲッターエネルギーを全開放し、魔力と融合させる。
『ゲッターァァァァシャイィィンッ!!』
魔力との融合の産物か、ゲッタードラゴンと同様に青白いエネルギーで圭子が包まれ、その余剰エネルギーか、放電が散っている。智子も同時にカイザーブレードの刀身を青白い炎で包み、背中にその攻撃の余剰エネルギーを活用した、鳥の翼のような『炎の翼』が現れる。また、黒江は断空剣に意識を集中させ、天に掲げる。
「あの人達は何をする気だ……?」
「見てわかんねー―のか!?最終攻撃しかねーだろ、あの姿!」
「これがあの子達の……」
「最後の力だっていうのか……!?」
「扶桑のウィッチはでたらめだ……!」
と、坂本、若本、江藤、北郷、ガランドは思い思いに、三羽烏の行為を傍観し、感想を述べる事しかできない。三人の攻撃前の動作の迫力は、全ての者を釘付けにし、息を呑み、見守る事しかできなくしていた。
『シャイィィンスパ――――クゥ!』
『必殺!!火炎十文字斬りぃぃぃぃぃぃ!!』
『我、邪(よこしま)を払わんと空(うつろ)を断ち、神の威光もて牙突き立て、剣を振るわん!称して、断空光牙剣!!うぉおおおおおおっ!!やぁぁってやるぜ!!』
黒江の場合は黄金聖闘士時の精神状態で放ったため、後のエクスカリバー及び、エアの発動時同様の口上となっていた。シャインスパークで内殻が消滅し、火炎十文字斬りでコアを覆う装甲が斬られ、とどめの断空光牙剣が次元ごと、怪異を完全に葬り去る。同時に周りの怪異も一斉に次元の裂け目に飲み込まれていく。シャインスパークで精魂尽き果てた圭子は黒田に回収される。そのエネルギーのせいか、台風は消滅し、青空となっていた。しかし、すぐに突風が吹き戻すため、エンジン全開で吹き飛ばされないように踏ん張る。しかしながら、不運にも十数人は吹き飛んだし、駆逐艦が何隻か、あまりの突風に煽られて転覆するが、大まかには乗りきれる。全てが終わった後、誰かが叫んだ。
『勝った、俺達は勝ったんだ―――ッ!』
誰かがそう叫びを上げる。やがてそれは全将兵に伝染し、怒号のような歓声が響く。
『全将兵に告げる!吉田司令長官以下の司令部は機能不全なので、私が指令する。我が連合艦隊はこれより、母港へ凱旋する!』
長門の通信が全艦に伝えられる。女性の声であるのに戸惑った将兵も多かったが、艦隊司令部の事実上の不在、凱旋の歓喜の中では気にされず、全艦が整然と母港へ帰投を始める。
――事後 天城 飛行甲板
「ふう。どうよ、武子。私の必殺技は?って、何よその顔は?」
呆然とする武子。その原因に気づかない智子。
「オメー、気づいてないのか?瑞鶴、鏡頼む」
「はい。鏡よ」
「……なぁ!?」
そう。智子は変身した状態のままなのだ。自身にはそのような感覚は無かったので、鏡を見て、始めて気づいて驚く。
「……気づいてなかったのか?」
長門が言う。何気なく、普通に混じっている。
「あったりまえでしょ!?普段は攻撃する一瞬だけだし……なんでなの?」
「それは貴方が持っているカイザーブレードが、あなたの使い魔とのシンクロ率を極限にまで高めた副次効果によるものでしょう。多分、今日一日はその状態のままかと……」
「嘘ぉ!?」
大和からの宣告にガクリと落ち込む、青髪、銀の瞳と使い魔のしっぽと耳が出現したままの智子。武子はそんな智子の姿を見て、安心したように、『クスッ』と微笑む。
「良かった……どう変わっても、智子は智子なのね……」
「ちょっとぉ、それどーいう意味よ、武子」
「だって、大人になって強くなっても、根本的なところは明野時代と変わってないもの」
「流され気味なのも、な」
「綾香ぁ!」
「お、そうだ。改めて紹介する。軍艦の化身の『艦娘』だ。ここには戦艦に集まって貰った」
「軍艦の化身!?」
そう。この場にいる艦娘には、この時期に生まれていない軍艦も含まれているが、そうなのだ。
「そうだ。私は戦艦長門だ」
「私は次期主力戦艦の大和です」
「それじゃ、あなたがあの、65000トン級の!?」
「ええ。あと3年もあれば完成する『一号艦』が私です。大和型一番艦に当たります」
「大和型……」
大和の超弩級(この時代、女性の身長は130pも珍しくはないため、180cmを超える大和は超長身であった)に長身、扶桑撫子を体現した風貌に、思わず惹きつけられる。
「オホン。この長門を無視してもらっては困るな」
咳払いする長門。この時代の一番人気の軍艦であったため、妙な対抗心があるらしい。長門は艦歴の長さを象徴するかのように、筋肉質のガッチリした外見で、大和とは方向性の違いがある。
「あら、ごめんなさい。確かに、長門の艦歴の長さが反映された外見ね」
「連合艦隊旗艦を20年務めた経験は伊達ではないということだ。大和の奴はあと三年しないと生まれんはずだがな。これで大和の存在はモロバレだから、中尉がマスコミにリークした内容を軍令部と艦政本部は正式に公表せねばならなくなるだろう。が、軍令部が海軍省へ、海軍省は陸軍省へ文句をいうだろうから、中尉らは広告塔として使い潰して左遷だろうな」
「なんでそんな事をする必要があるの?」
「第一級の軍機にしてる軍艦を軍内に公表したようなものだからな。末端までバレバレになったから、もう隠し通せん。観戦武官らも見てるしな。それと、連合艦隊の第二艦隊が丸ごとクーデターという前代未聞の不祥事だ。それを揉み消すために、大和の存在は使われるだろうが、第二艦隊の人員はアリューシャン方面へ島流しだろう。お上も怒るだろうからな。だが、艦政本部は人事的に報復を目論むだろうし、勲章の代わりに、恩賜の軍刀を与えられた異例なケースだし、嫉妬を買っているだろうからな」
「上の連中は何考えてるのよ、全く!」
「派閥抗争しか脳がないのだ、赤レンガの連中や参謀本部の連中もな」
「中尉達は秘密兵器の大和をバラしたのよ?左遷で済むくらいなら御の字よ。ただ、今回の事で参謀本部は中尉たちの扱いに困るだろうから、当面は英雄扱いで、しばらくは宙に浮くわね。プロパガンダ映画も撮られるだろうし」
瑞鶴が補足する。軍上層部の不況は買うだろうが、英雄として祭りあげなくては、軍隊の信頼を取り戻せないし、大陸領土をほぼ失った事による国民の不満を逸らさなければならない命題がある。それ故、三羽烏が英雄扱いされるのは目に見えている。
「もっとも、中尉達は計算済みだろうけど」
「そうだぜ。どの道、穴拭をスオムスに行くように仕向けないといかん都合があるからな。それは変えられない。何があってもな」
「綾香……」
「私も過去の自分の体を酷使したからな。特にライトニングボルトやクラウンは、今の体だと、負担が大きかったようだ」
腕に包帯を巻いている黒江。終わった直後、IS越しとはいえ、小宇宙を練れる前の時間軸の体で、小宇宙前提の技を連発したので、肉体が悲鳴を挙げ、腕を負傷していたようだ。
「どうしたのよ、それ!」
「いやあ、マジで技を連発したら、過去の肉体が耐えられなくてな。筋断裂と関節炎になっちまった。筋断裂は微細なのが多数で、一ヶ月半はこの状態だ」
「無茶しすぎよ!未来の貴方が超人でも、この時代じゃ『ちょっと鍛えてる未成人の女の子』なんだから。元の貴方が知ったら……」
「深層で見てるから問題ない。痛みが走って、医務室に駆け込んだ時は怒られたけどな。まぁ、超回復期待したから、自然治癒に期待してんだ」
笑い飛ばす黒江。
「長門の言う通り、英雄が海軍と陸軍の派閥抗争の道具にされるだろう事は一部良識派にしてみれば好ましくはない。それを避けるための方策が取られる。そういう事だ。今回は海軍が悪いから、お上に知られれば、全面的に全員の首が飛ぶ可能性が大だ。海軍はその報復を考えるだろうからな。まぁ、私達は『役目を終えた』から、この時間軸にいられるのもあと僅かだろう。もって数ヶ月……」
「そう……。時間が来たのね?」
「ああ。」
――扶桑海事変の事後処理はその後の数ヶ月をかけて行われた。元大陸領土住民の本土及び南洋島への移住に伴う、本土戸籍謄本への復活及び、陛下の名における義援金交付。軍部内部では、大陸領土の大半を失った責任を取る形で、大陸領土方面軍(主に陸軍)の首脳と参謀が予備役編入とされた他、新兵器の制式採用と更なる増強が急務とされ、この時から電探・逆探などの索敵装備、噴流推進(ジェット、ロケット)の有望性が黒江のおかげで評価され、多額の研究予算が改めて下りた他、火力増強が急務とされるようになる。海軍はこの時に第二艦隊に配属されていた将兵の多くが、事を知った陛下に『国賊』と罵倒された結果、嶋田繁太郎大将の第二艦隊司令辞任、参謀達以下のアリューシャン諸島への島流しという懲罰人事が行われた。帰還後、怪我で軍病院に入院し、進退伺いを出した吉田善吾は責任を取る形での辞任となり、後任は山本五十六大将が任じられ、大戦勃発初期まで任を全うする。
――三羽烏と黒田は、最大の功労者として、功一等金鵄勲章を授与され、その様子は新聞でも報じられた。海軍からは『北郷部隊』と言われる舞鶴飛行隊出身の64F在籍者が選ばれ、同様の功績とされた。同時に坂本と竹井は少尉へ特進、兵学校へ入学する事が通達された(後に、若本は兵学校卒でない特務士官となる)。『扶桑海の閃光』が撮影に入ったのもこの頃だ。この時は、黒江は出演を固辞(ただし、家族に押され、結局は端役で出るが)したものの、当時に在籍したウィッチの多くが本人役で出演し、ビジュアル的に栄える智子を主役に添えたため、娯楽映画が自粛されていた時勢には大ヒットを記録した。後に太平洋戦争時に公開される『来た、飛んだ、落っこちた』と比較される事が多くなる(実像は後者、娯楽映画としては前者)が、当初の目的は果たし、この時に志願した者が1940年代以後のウィッチ隊の前線を担う事になる。
――艦娘達の存在は、扶桑艦ばかり現れる事が続いたのもあり、当面の間は極秘扱いとされ、連合艦隊の提督らの秘書としての日々を過ごす事になる。連合軍結成後も、各国海軍、そしてウィッチの不平等感を煽ることを恐れたチェスター・ニミッツ提督の提言で艦娘の極秘扱いは続けられ、亡命リベリオンの結成、太平洋戦争の勃発の後、『来た、飛んだ、落っこちた』に彼女らが参加することで公表される事になる。
――三羽烏と黒田に『その時』がやって来たのは、冬のある日だった。立ち会ったのは、武子や、北郷、江藤、源田実、山口多聞、小沢治三郎、山本五十六、米内光政、井上成美、陸軍高官では、今村均、山下奉文が、また、後の上官でもあるアドルフィーネ・ガランドが立ち会った。
「ほんじゃ、親父さん達。後を頼んます」
「貴様等の『後事』は俺達が引き受ける。空軍設立の時には誘うからな」
源田実が言う。
「お願いします」
「君らには世話になった。おかげで我軍の改革の種が蒔かれた」
山本五十六が言う。
「戦艦の影響力を見くびっていたよ。君らのいう『核兵器』で破滅戦争が訪れるよりは、大艦巨砲主義の競争が続いたほうが健全かも知れんな……」
井上成美が言う。この時期までに公表された大和型戦艦は国内外に大きい反響を残し、結果としては扶桑皇国の国威発揚となった。核兵器の存在も知らされ、それが発達し、最終戦争に怯えるよりは戦艦を使い続けたほうが健全だと悟ったのだろう。
「ボタン一つで街や惑星が吹き飛ぶ戦争に比べりゃ、戦術兵器の優位で一喜一憂する戦争のほうがよっぽど健全ですよ、井上さん。それはよく覚えておいてください」
「ああ」
黒江、圭子の言葉に頷く井上。戦艦の存在が戦争抑止力になるのなら、多少の経費は目をつぶれと示唆する二人に折れた形だ。
「貴官らには驚かせられたよ。私が空軍総監か。確かに面白い未来だよ」
「ガランド『閣下』、あなたはカールスラント空軍、いや、連合軍空軍を率いるに値するお人だ。敵はいると思いますが、臆さないで進言してください。あなたのその気質こそが後に必要になるんです」
「閣下、か……。なんだかこそばゆいな……。空軍総監が私の未来だと言うのなら……。黒江中尉、君が使ったあの推進機、使ってみたかったのが本音でな」
「ジェットの事なら安心してください。44年には試作型がロールアウトして、あなたが指揮下に置きますから」
「本当か!?」
「ええ。あと6年以上先ですけど」
「ちょっと待ってくれ。6年後だって?」
「はい」
「それじゃ、私はとっくにあがり迎えてるじゃないかぁ〜〜!なんてこったぁ!!」
と、カールスラント軍人にしては派手なアクションで嘆くガランド。ジェットが実用化される年代には、自らは23歳を超えているからだろう。
「いや、飛んでますって。シールド貼れなくなっても無断で」
「よっしゃあああああ!!」
小躍りし、派手に喜ぶガランド。後の地位についた後の振る舞いを考えると、この頃は歳相応の若さをみせていると言えた。
「敏子から聞いたが、私を下半身不随になる未来から救ってくれたそうだね」
「はい」
「どのうち、来年度には上がりを迎える身だったから、死も覚悟していたが、君らのおかげで、坂本達を泣かせずにすんだ」
「いえ。前の歴史での艦隊の行いを思えば、貴方を助けたかったんです。坂本もそれで、上を恨んでましたし……」
「そうか……。私も軍を去ることにしたよ。敏子に誘われてね。どうせ次の戦争に駆り出されるなら、付き合えって」
「隊長〜、いいんすか?」
「いいだろ?お前らに助けられた、この借りは必ず返す。どうせ次の戦争に動員されるなら、やってみたかった事をやってみたいのよ」
そう。北郷章香が五体満足で事変後を過ごす事自体、本来はあり得なかった事である。史実での彼女は、砲撃を阻止したのと引き換えに、下半身不随の重傷を負っている。それが坂本が後年、上層部を恨むようになる根源の一つとなるのだ。それを解消してやりたい故に、先手を打ったのが本当のところだ。結果、北郷は江藤に引っ張られる形で、軍を中佐で退役(第一次現役時代)、江藤敏子とともに喫茶店を営む事になる。
「武子……」
「智子……、圭子ぉ……」
三羽烏の元祖メンバーと言える三人は、武子が珍しく、泣き崩れる側に回っていた。これは精神年齢の差と言えた。
「ほら、泣かないの。永遠の別れじゃないんだから」
「で、でも……、別れたら、あなたの本来の精神は今日までの記憶を失うのよ……?本当にそれでいいの!?」
「こればかりは神様の啓示みたいなものだから。私達がここに来れたのも奇跡みたいなものだしね。」
圭子が言う。
「そうよ。私達は最善を尽くした。あなたが私達を理解してくれて、本当に助かったわ。……ありがとう。武子」
「どもごぉ〜〜!」
感極まって、声に濁点がつく程大泣きする武子。ギュッと智子を抱きしめ、別れを惜しむ。
「先輩達〜そろそろですよ〜」
「分かった」
その時、不意に風が吹く。同時に4人を光が包む。
「武子、私の執務室にボールペンが入ってると思うけど、それは私の忘れ物だから、1945年になったら渡して。その時にこの『奇跡』の理由が分かると思うから。
「分かったわ、必ず、必ず渡すから!」
「約束よ」
「あ、先輩、私の家には給金届けてくださいよ〜」
「こんな時にそういうセリフ言う!?まったく……」
「性分ですから。それじゃ」
『1945年に、また会おう』
それが三羽烏と黒田が、この時代で言った最後の言葉だった。4人を包む光が激しくなり、弾ける。全てが終わった後には、倒れ伏す4人の姿(黒田は肉体そのものが急成長したため、外見はそのまま)が残された。
「1945年……。たとえ、何があっても絶対に生き残ってやるわ……。あなたたちとの約束だから……。」
誰にも聞こえないように呟く。それは武子の潜在意識に深く刻まれ、歴史の帳尻合わせで、事変の記録が改竄されても、強い想いが『智子達と何かの約束を交わした』という記憶を保持させる事に成功するのだった。
――こちらは光に包まれている最中の黒江。
『どうやら私の役目も終わったようだな』
黒江(黄金聖闘士)がミッドチルダ動乱の時の自らと別れを告げる。
『ちょっと待ってくれ!私はなんで小宇宙に目覚めるんだ!?教えてくれ!』
『言わないほうがおもしれーから、パス。人生のネタバレにも関わるしな』
『そんなに重要なことなのか?』
『そうだ。200年も生きることになるんだし、結構重要なファクターだしな。私が小宇宙を目指すきっかけ。まぁ、お前の時間軸なら、それほど遠い未来じゃないから、大まかには言っとく。お前は近い内に、私たちが心の拠り所にしてる人達と同じ姿を持つ敵に絶望を味あわせられる事になる』
『心の拠り所……まさか!?』
『そうだ、あの人達だよ。そうとだけ言っとく。それをきっかけで小宇宙を目指すのさ。おっと、今回はここまでだ。後は自分自身の目で確かめろ』
『……分かった。ありがとう、バァさん』
『ああ、青春を楽しみなよ、若造』
『あばよ』
お互いに悪態をつきながらも笑い合う、異なる時間軸の二人。一方は23歳の青春真っ只中、もう一方は、見かけはともかくも、200年を生きた後の『老人』。去る間際、黄金聖闘士としての彼女は手を降って別れを告げる。その時の右腕だけに聖衣を纏うという『チラ見せ』を行う老獪さを見せる。
(あれは黄金聖衣……!?それじゃ私は黄金聖闘士に!?)
23歳の黒江は驚きつつも、そこで魂が元の時代に戻った……。
――ミッドチルダ動乱中のミッドチルダ 機動六課臨時隊舎
「ふぁああああ……。あれは夢だったのかしら?夢にしては現実的だし……」
圭子は執務室に机に頭を乗っけて、伸びていたポーズの状態で目覚めた。先程までの出来事は夢だったのかと考えつつも、執務室を出て、洗面所で用を足し、顔を洗う。そこから出てきたあたりで武子とばったり出会う。
「武子……?」
「圭子、忘れ物よ」
武子が手に持つそれは圭子が事変の時間軸に置き忘れてきた、ボールペンを待機状態とする、敷島博士作のゲッターデバイスだった。その瞬間、先程までの出来事が現実であった事を実感し、歓喜のあまりに『いやったあぁぁぁぁぁ!!』と大声を張り上げる。だが。ある事にも行き着く。それは自分の魔改造を自分で行ったという事だ。
『おわぁぁぁぁ〜〜!やっちまったぁぁぁ!』
と、歓喜の次の瞬間には、恥ずかしさのあまりにその場にへたり込む。
「やっと『逢えたわね』……圭子。8年近くも待ったんだから。」
「約束は守ったろ?ちゃんと」
「ええ、確かに。『お帰りなさい』」
「ああ、『只今』」
武子も実はボールペンを見るまでは忘れかけていたが、ボールペンを見た瞬間に全てを思い出し、虫の知らせに従い、トイレにいくふりをし、手始めに圭子と会ったのだ。
「さて、久しぶりに会ったんだし、今日は夕飯をおごってよね」
「う〜ん、ま、まぁ、いいでしょ」
「あ、私も便乗させてもらうわよ〜」
「私もだ。今月はオケラなんでな」
残りの二人も姿を見せる。考える事は同じだったのだ。
「あ、あんた達ねぇ〜〜!」
「はいはい。宛にさせてもらうわよ、『ケイさん』」
「わーった、わーった!もうこうなりゃやけだ!!カフェテリアで好きなの奢るわよ!』
「流石、ヒガシ!そうこなくちゃな。あ、黒田の奴にも聞いておこ」
「はぁ……もう好きにして……」
こうして、三羽烏の扶桑海事変の改変はひとまずの成功で幕を閉じた。必ずしもすべてが上手く行かなかったが、彼女らの望んだ結末は十分に手に入れたのだった。
――扶桑海事変時には親密であったカールスラントと扶桑皇国の関係は、後のミッド動乱におけるナチス・ドイツとの交戦がきっかけで、扶桑皇国側(主に軍事関係者、外務官僚など)が嫌気がさし、政治的に距離を置いたことも重なり、扶桑皇国軍におけるカールスラント信仰は薄れ、代わりにリベリオン信仰が台頭していく。陸軍のドクトリンも火力重視+機動戦になり、軍備整備傾向も変化を生じるのであった。また、ガランドが大和の事を報告した事で、カールスラントは海軍再建計画『Z計画』を草案。実行するも、怪異の本土制圧で御破算となる。後に、地球連邦軍が『カールスラントは海軍再建にご執心だ』と漏らすほどに連邦軍への海軍建造依頼を行う事になる。その後は衰退したガリア・ブリタニアに代わるヨーロッパ随一の軍事大国の地位を得る。
――ブリタニアは、大和の欺瞞スペックをそのまま信頼しており、キングジョージX世級戦艦に過度の大口径砲を求めなかった。これは第二次ロンドン軍縮条約を目論んでいたからでもあるが、それは大戦の勃発で有名無実化し、急遽、ライオン級戦艦を計画し、完成させる。ブリタニア連邦の財政がガタガタであった都合、海軍軍備の急速な近代化は不可能であり、チャーチルが大和の真のスペックに憤慨し、後の『セントジョージ級』となる大戦艦を作らせたため、ブリタニア海軍航空隊は、空軍のお下がりに長年甘んじるのだった。陸軍は新型戦車『センチュリオン』のロールアウトと同時に躍進。以後はセンチュリオンを各地に輸出。その外貨と、連邦の財政援助が入ったのが福音となり、かつてのヴィクトリア朝時代の威容こそ失うものの、衰退スピードは緩やかになる。それはチャーチルが望んだ未来でもあった。
――リベリオン合衆国は、大和の真のスペックに感づき、第二次軍縮条約が有名無実化するのを見越し、ノースカロライナの次の戦艦からは加速度的に強大化し、ついにはモンタナ級を完成させるに至る。だが、ティターンズの介入で覇道への野望は脆くも崩れ、皮肉にも、国家そのものの分裂という憂き目にあい、かつての同胞らと刃を交えることになる。せめての慰めは、モンタナ級の真価は存分に発揮され、紀伊型戦艦の陳腐化を証明し、仮想敵の大和型と渡り合える事が証明された事であり、リベリオン軍人はこれを以って、『我々はヤマトに負けてはいない』と自らを奮い立たせる。しかしながら、分裂状態は40年以上に及び、分裂状態当初の若手軍人が高官になるほどの年月が生み出した『意識の差』が、再統一後のリベリオンの歪みとなり、結果として、史実アメリカ合衆国ほどの影響力は持てぬまま、21世紀を迎えていく。
――ガリアは怪異、ティターンズの双方に痛撃された事もあり、国力を大きく減じ、軍事面では戦前期の空母機動部隊整備計画を棒に振る形になる。植民地の多くがティターンズ側に与したせいもあり、戦前期の影響力を喪失、21世紀頃には『もっとも没落した旧・植民地帝国』の汚名を引っ被ってしまう。だが、執念により、政治的影響、軍事力の双方で一定の規模を保ったという。また、大戦中に奪われたアルザス級戦艦はティターンズの手でその性能を証明され、冷戦終結後に、ティターンズ政権が解体された際に現存艦が返還されたという。
――ロマーニャ及び、ヴェネツィアは対照的な行く末を辿る。ロマーニャは連邦の財政・軍事的援助により、大国としての地位を得る。同時に隣国からの亡命者も多く受け入れた事で、グレートマジンガーの攻撃で頼みの海軍をほぼ0にまでされたヴェネツィアと違い、冷戦終結後には海軍大国として君臨。ヴェネツィアを取り込んで、冷戦終結を迎えるが、それに反発する者達は多く、新たな火種となるのだった。
――扶桑皇国は地球連邦軍とティターンズ残党の戦いの最前線に立たされた結果、急速に中興を迎え、ブリタニア連邦の衰退に伴い、次代の超大国として君臨するようになる。21世紀以後は完全に『扶桑皇国総理大臣=世界のリーダーシップ』という認識が定着し、国際連盟に代わる『国際連合』の安全保障理事会の議長国として君臨するなどの権勢を誇るようになる。その頃には華族が存続した戦後日本のような政治体制を確立させていたため、戦後日本と戦前日本の長所を併せ持つ国家として、また史実でのアメリカ合衆国の立場に立たされた国家という自覚を持つようになる。
――『彼女らの努力で、扶桑は繁栄を謳歌する事に成功した。彼女らの行為の全てが成功したとは言い難い面もあったが、彼女らは最善を尽くした。源田実司令の人生の末期に直接立ち会ったのも、この五人だった。穴拭智子、黒江綾香、加東圭子、黒田那佳、加藤武子……』
部下であった服部静夏の回想録より。
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