短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)



――黒江は今、重大な局面に直面していた。それは……。

「マジかよぉ〜!オーマイガーァ!なんてこったぁ!」

と、頭を掻きむしってリベリオン人張りのリアクションをする黒江。未来世界での休暇の最中に元の世界に呼び出されたのだが、彼女を待ち受けていたのは、なんと事故で現れた『平行世界の自分自身』との邂逅だった。どうして、こうなったのか?それを説明せねばなるまい。


――1947年のお盆。史実で言えば『カスリーン台風』と名付けられたであろう台風が扶桑を直撃した。その台風は史実の数倍の規模を誇り、更に落雷を伴っていた。だが、その台風はとんだ置き土産を残していったのだ。世界各国で似たような現象が起こり、次元震も観測された事から、扶桑軍は時空管理局・連邦軍と連携して事に当たったのだが……。


――扶桑 東京郊外

「あ〜いつつ……ネウロイの巣に飲み込まれたと思った時は死ぬかと思った。……ん、ん、ん!?な、なにここ!?」

彼女は黒江である。だが、正確に言えばボラー戦役従軍中の彼女自身ではない。平行世界の彼女だ。彼女が目にしたのは、連邦軍の手で開発が進んでいる池袋付近だった。数年の開発により、高層ビル群が建設され、23世紀の世界の大手商業テナントも多く入っており、彼女には別世界にしか見えなかった。

「いけぶくろえき……池袋駅ぃ!?嘘でしょ!?この辺り、こんなハイカラだったっけ!?」

そう。1940年代の池袋は本来、20世紀末以後の繁華街への発達が始まったばかりの頃である。だが、連邦軍の手により、23世紀の同地に存在する商業店が同じような形の土地で出店してきたりしため、過程をぶっ飛ばす形で繁華街化したのだ。彼女が驚くのも無理かしらぬ事であった。辺りを散策するが、わけがわからないほどに繁華街化が進んでいた。

「う、嘘でしょ〜わ、わ、私、ひょっとして、未来に来ちゃったわけぇ〜!?」

と、大いに困惑する。この世界の彼女自身に比べると、口調に女性らしさが残っている。コンビニの前のベンチで落ち込んでいると……。

「……ひょっとして、黒江ちゃん?」

「そ、その声は……ヒガシ、ヒガシか!?」

圭子だった。彼女も黒江(B)と同じ世界の住人である。アフリカで観測任務についていたのだが、目が覚めたら扶桑にいたのだ。そのため、アフリカの戦闘スタイルのままだ。

「良がったぁ〜!何がなんだが分からないところだったんだよぉ〜!」

感極まって、思わず圭子に泣きつく黒江。圭子も狼狽え気味である。

「……ひょっとして黒江ちゃんもなの?」

「え?まさかお前も?」

「そうなのよ。アフリカにいたはずなのに、気がついたら扶桑にいるわ、持ってたライカ落としてるわ!あ〜!あれお気入りだったのにぃ!」

と、圭子も涙目だった。愛用のカメラが無くなっていたため、気がついた後は大パニックで、自分の周辺を探しまくったが、見つからなかったのだ。

「それでその格好なのか?」

「そゆ事。訳がわからないったら……え?」

その時、ふと拾った新聞記事を詠んだ圭子の顔色が変わる。日付が問題なのだ。

「せ、1947年の8月!?」

「そんな馬鹿な!?たった数年でこんなに変わるはずがない!どう見たって、20年、いや30年くらい違ってるようにしか!?」

「く、黒江ちゃん、これ見て……」

「ん?な、なにこれ!?我が空軍の誇る『空軍三羽烏の活躍の軌跡』ぃ!?」

それはこの世界における彼女ら自身を含めた空軍三羽烏の活躍のプロパガンダ記事だった。そのため、二人は顎が外れそうになった。詳しく読んでみると……。

「何々……加東圭子大佐。1930年代前半に入隊した古参ウィッチで、扶桑海事変では『斧や鎌を用いる戦闘スタイル』で名を馳せ、また、魔力砲撃を得意としており………!?魔力砲撃って!な、な、な、な、なにこれ!?」

圭子は書かれている自分の『経歴』にめまいがした。自分は狙撃で名を馳せたはず。智子や武子のようなスタイルではなかったはずだ。写真になっている自分の姿が『ハルバードを持って不敵に笑う』ものであったのもあり、顎が外れかけるほどに唖然とする。声が震えだしながらも、黒江の経歴を読む。

「黒江綾香中佐。扶桑軍きっての剣術の名手であり、扶桑海事変の功労者としても知られる。中佐はその鬼気迫る戦いぶりから『魔のクロエ』と諢名されており、接近戦では三羽烏最強との呼び声も高い……。三羽烏で最初に三桁の撃墜スコアに到達した手練である……!?」

「さ、三桁ぁ!?私、現役期間中にそんなに落とした覚えないわよ!?せいぜいその半分だ!」

黒江B自身も驚きの『自分のスコア』。100機の大台に達しているのだ。これは彼女が本来の現役期間中に記録した51機の倍に達している。

「三羽烏の最後の雄、穴拭智子少佐……三羽烏最年少で、扶桑海事変での活躍や、第507統合戦闘航空団『サイレントウィッチーズ』の初代隊長としても高名で、本国帰還後の飛行64Fにおいても幹部であり、同隊隊長の加藤武子大佐とは航空士官学校の同期であり、親友である……!?」

最後まで読み終わった圭子は信じられないと言った様子だった。自分を含めた三人の経歴が全く異なっているのだ。それもあがりを迎えて久しいはずの1947年でも『前線で飛んでいる』のが前提で書かれているのだ。当然だった。途方に暮れるとは正にこの事だ。と、そこに見慣れない装甲車が停車する。降りてきたのは武子だった。

「貴方達、早く乗って!」

「武子(フジ!?)!?」

「いいから早く乗りなさい!車の中で話を聞くから!」

「あ、ああ」

二人を装甲車に乗せた武子は従卒に車を出させる。

「市ヶ谷地区に向かって」

「ハッ」

車は市ヶ谷地区に向かう。その途中、二人は武子から事の重大さを知らされる。それは……。

「それじゃ、ここは別の世界の扶桑なの!?」

「そうよ。その証拠に、貴方達が現役で飛んでるって記事あるでしょ?」

「ああ、だから私と黒江ちゃんが現役で飛んでるのね?安心したって言うか、なんて言おうか……待てよ。私達が現役ってことは……貴方も!?」

「そうよ。説明がややこしいんだけど、私達は現役で飛んでるわ。空軍の高級将校としてね」

「待ってくれ、空軍って、戦前に構想があったけど立ち消えになったっていう?」

「そうよ。この世界だと、46年に正式に発足して、飛行戦隊と海軍基地航空が一つの空軍に再編されたわ。だから軍服も新しくなったのよ」

「なんかリベリオンの軍服ぽいといおうか、海軍の夏服ぽいといおうか……」

「参考にされたのよ。それでね」

武子は空軍軍服姿である。未来世界の航空自衛隊とその後身たる国防空軍の軍服が採用されているため、リベリオン軍っぽさがあった。武子は戦闘の際も軍服で通しているため、新軍服の中でも動きやすい格好で過ごしていたのだ。

「貴方達と同じような例は世界各国で報告されてるわ。同時多発的に起こった現象でね。ウチでの事の起こりは、今から2日くらい前。台風が直撃した時、横須賀に一機の二式大艇が不時着したわ。その二式大艇はこの世界で登録されていない機番だった上に、今じゃ使われなくなった海軍基地航空の周波数で通信をかけてきたのよ。不時着して、救出のために海軍陸戦隊が改組した海兵隊の救難部隊が二式大艇の中に入ったのよ。驚いた事に、中にいた人間はその場にいないはずの人間だったのよ。坂本美緒、宮藤芳佳、それと坂本の従卒……ちょうど機材調達のために本土に戻ってた私は国防省に呼び出されて、応対したのよ。話を聞いていく内に、それぞれの『別世界の同位体』である事が分かった。坂本少佐もすごく驚いてね…」

――二日前 市ヶ谷地区 国防省ビルの一室

「これはどういうことだ!なんで陸軍省に連れていかれるんだ!それに何故、私をこんなところに拘束するんだ!?」

立腹する坂本B。訳がわからない内に連れこまれ、芳佳や土方共々に拘束された状態なのだ。戸惑うのも無理はなかった。

「君に面会人だ」

「私に?誰だ?」

「私よ」

「貴方はまさか、加藤大尉……?お、お久しぶりです……」

「久しぶりね。話を聞きたくて来たの。ごめんなさいね。ちょっと手荒な方法だったけど、周りにパニックを起こさせないないために連れてきたのよ。貴方の部下の宮藤芳佳さんや土方兵曹と、ね」

「何故、貴方が宮藤の事を……?」

「宮藤さんのことはよく知っているわ。よく、ね」

武子は巧みに坂本Bを懐柔する。自分には竹井のことで恩義がある故、強く出られないのを知っているし、坂本も竹井が自分を師と仰いでいるという関係を知っている故、自分の言うことなら聞いてくれると考えたからだ。

「さて、貴方はどうして二式大艇に乗ってたの?」

「は、はい。ロマーニャにネウロイが出現したという報を耳にしまして、それでその救援のために向かったのですが、途中で大嵐に遭遇したんです。それは不思議な大嵐にで、七色に光っていたんです。そこに突入して……気がついたら雲は晴れたのですが、燃料漏れが起こり、私は急いで天則で近い本土に戻るように命じたんです。それで本土に戻った辺りで燃料が切れたんです」

「なるほど……。ロマーニャに怪異、か。幸か不幸か、その心配は無くなったわ」

「どういうことですか?」

「今年は『1947年』なの」

「19……47年!?じ、冗談ですよね?」

「気の毒だけど、冗談じゃないわ。今年は正真正銘、1947年。しかもそのお盆なのよ。誰か、少佐に新聞を」

「ハッ」

兵士が持ってきた新聞記事を武子が坂本に渡す。坂本の顔がみるみるうちに顔面蒼白に陥る。『1947年』。それの意味する事は『未来である』事だ。更に空軍という文字を見つけ、パニックに陥る。坂本がここまでパニックになったのは武子も見たことがなかった。

「ど、ど、ど、どういうことなんですか、武子さん!47年って!私達は未来に飛ばされたんですか!?それじゃロマーニャは、ロマーニャは!?」

「落ち着きなさい!ロマーニャは開放されたわ。これを見なさい」

それは武子が持ってきた人事発令書の写しだった。開いてみると、以下のことが書いてあった。『穴拭智子、少佐に任ず。連合軍総司令部発、501統合戦闘航空団宛。黒江綾香、中佐に任ず。以下同文。加東圭子、中佐に任ず。以下同文。宮藤芳佳。中尉に任ず。以下同文』という三軍一斉発令の一部の内容であるが、明らかに内容が変であった。それはとっくのとうに現役ウィッチを引退したはずの穴拭、黒江、加東の三人が現役の扱いで、501の一員と扱われているのだ。

「な!?あの三人が現役扱いで501に!?それに宮藤が……中尉!?これ、本物ですよね?」

「そうよ」

「何が何だかわからないですよ〜!」

パニックになる坂本B。ここで種が明かされる。ここは坂本の知る『世界』ではない別の世界である事、この世界には別の自分がいることなどが説明される。その時に武子の階級が大佐である事も説明された。

「空軍?新設部隊ですか?」

「陸軍飛行戦隊と海軍の基地航空隊の統合でね」

「わ、私も空軍になったのでしょうか…」

「あなたの同位体は母艦航空団の前線統制官ね」

「海軍に残れたのか……。それじゃこの頃には私は迎えてますね?」

「ええ。教官や航空管制の道を選んだわ。この世界じゃ、『あがりをどうにかする』方法があるけど、あなたの同位体はそれを敢えて受けなかったわ」

「あがりをどうにかする方法、か。確かに、ウィッチ本来の摂理に反している。私ならそうしないでしょう。しかし何故、貴方方はそれを?」

「詳しくは言えないけど、戦争が激しくなって、ウィッチが人手不足に陥ったの。そこであがりをどうにかする方法が必要になって、私達はそれを受けた。それで絶頂期の魔力を取り戻して、今に至るって感じ」

「そう言えば、気のせいか、私よりも若く見えますね?あの頃とお変りない」

「ま、まぁね」

そう。武子は一度若返っているため、坂本よりも外見が若々しいのだ。それと何故、現役に戻ったかをはぐらかす。とても言えないからだ。『人同士の戦争で人員が辞めていき、その窮地を脱するために取られた施策』で現役に戻ったなどとは。坂本との面会を終え、ほっとした僅か二日後には、黒江と圭子が転移してきたため、またも対応に追われた。



――このような事は世界各国で発生し、中には本人同士で殴り合いになったケースもあったり、撃ち合いになったケースもあった。状況を鑑み、連合軍は時空管理局に調査を依頼すると同時に、転移してきたウィッチ達の事実上の軟禁状態は数日に及んだ。



――未来世界で戦う空軍三羽烏はこの報を聞き、緊急で一時帰国。別の自分と対面する羽目となった。


「マジかよぉ〜!オーマイガーァ!なんてこったぁ!」

と、頭を掻きむしってリベリオン人張りのリアクションをする黒江A。予想外の事態に、流石に大いに狼狽える。

「お、お前が……この世界の私なのか?」

「そうだせ。ややこしい話だぜ、ったく」

黒江Aは別の自分にも、いつもの調子で接する。姿形は同じに見えるが、微妙にAのほうが身長が高かったり、筋肉質である。

「まさか別の自分と会うなんてなぁ。これぞ次元世界の不思議の一つだな」

「う、うむ……」

AのフランクさにBは戸惑う。圭子はあまり外見上は変化無しだが、性格面や戦闘面で差があるため、その事を問いつめられ、困る。

「そ、そんな事言われてもなぁ……」

と、困る圭子A。

智子は。

「うわぁ〜!めっちゃ恥ずかしい〜!」

「ち、ちょっと!説明しなさいよ!何が恥ずかしいのよ〜!」

と、こちらはAのほうが悶えている。Bは何が何だか分からずに困惑している。未来世界で習得した技などを言うのが恥ずかしいのだ。いずれもAのほうが背丈が高いという外見上の差異があったり、髪の色素が薄かったりしている。これは未来世界の地球の紫外線の強さなどに起因する。

「おお、そうだ。折角、こうして会えたんだ。模擬戦してくれないか?」

「OK。なんだか面白そうね。智子、相手してやりなさい」

「え〜!なんで私が!あなた達が行けば……」

「私は聖闘士だし、本気出したらあいつらまとめて、ボロ雑巾は間違い無しだ。ヒガシはヒガシで、別の意味で危ない。こういうのはお前が適任だ」

「あ〜〜!もう!!分かったわよ、やりゃいいんでしょやれば!!あんたの刀、借りるわよ」

「おう。向こうの度肝抜いてやれ」

と、いうことで、坂本Bの発案で模擬戦を行う事となった智子。智子A一人に坂本B、黒江B、智子Bがよってかかる構図となった。お互いの使用機種はお互いの魔力差もあり、キ84と紫電改(第一線を退いた型であるので、確保しやすかった)だった。


――第一撃はB側が取ったが、智子Aは対応して見せる。

(へぇ。これが私達の本来の歴史における剣筋……今となっちゃ見切れないものじゃないわね)

坂本の刃を躱し、いなす。坂本Bは嬉しそうに言う。

「流石は穴拭。別世界でも、その剣技は健在のようだな」

「こちとら現役張ってんのよ?これくらい見切れないってわけじゃないわ」

智子Aは冷静に振る舞う。坂本の剣技は冴えはあるが、突進気味なところがある。それが分かれば対応のしようはいくらでもある。問題は……。

「チェストぉぉぉぉ!」

「そっちから?あらよっと!」

黒江Bの急降下からの斬撃を避ける。黒江はどこの世界でも第一撃から突っ込むのは同じなようだ。

「あんたはどこでも突っ込むの好きねぇ。さて、ここは二天一流で行くか!」

「何!?二天一流だと!?」

智子Aは二天一流の心得があるところを見せる。二天一流は何でもありな兵法で、黒田も知らず知らずに会得していた。智子は宮本武蔵当人から本来の二天一流を会得しており、そのためにB側の常識と異なる型もあった。坂本、黒江、智子Bは三人がかりで襲いかかるが、実戦軽戦の差、剣術の腕の差、動物的感の精度の差が次第に表面化し、相手が三人がかりでも智子は有利に戦いを進める。

「はぁっ!!」

「ぬぬっ……く、クソぉ!一撃が重いっ…!」

黒江Bは智子の一撃を受け止めるが、地力が違うため、腕にダメージが入る。肉体の基礎的スペックはそれほど差はないが、魔力による強化率が違うのだ。智子AにはBが失った『絶頂期の魔力』という最大のメリットがある。更に基礎筋力が数年の激戦で鍛えられていた事もあって、本来は基礎パワーで上回る黒江を押す程に向上したのだ。

「ハァっ!」

「な、何ぃ!?」

次いで、目にも留まらぬ連撃が加えられる。しかも防御の間すら与えぬ峰打ちである。その気になれば、余裕で全身に大ダメージを与え得る龍巣閃の応用だが、峰打ちである故、黒江Bは痛みに顔をしかめつつも耐え抜く。

「悪いわね、綾香。あんたの攻撃は私には通じないわよ」

「なんだと、お前……!」

「ここ数年、『一緒に飛んで』ば、あんたの動きくらい読めるわよ。次に何をしようって事もね」

智子Aも次第にスイッチが入りだしたようで、黒江Bを挑発する。黒江Bは僅かにだが、怒りのボルテージが上がってくる。

「ナメた事言ってくれるじゃないか!」

怒りのスイッチが入ったか、黒江Bは痛みに耐えながらも、剣を振るう。だが、智子は後世のボクシングで『蝶のように舞い、ハチのように刺す』と謳われた、とあるチャンプを思わせる動きで、黒江Bの斬撃を避けまくる。

「これでどうだ!」

「このパワー……雲鷹!やっぱり使うのね」

「そうだ。実戦じゃ、ここぞという時にしか使わなかったけどな!お前にこの太刀、見切れるか!」

「んじゃ、私も本気出すわ!はぁあああああっ!」

黒江Bが秘剣『雲耀』を発動させるが、智子は刀を合体させると、刀に魔力を集中させる。双刃に合体させた青白い炎が宿る。そしてそれが光となる。これに智子Bが驚愕する。

「何あれ!?ツバメ返しじゃない!?それに魔力が炎になってるなんて!?」

「そう!これが私の新しい必殺技よ!その刀、折らせてもらうわよ、綾香!」

「何!?」

『双ぉぉぉ炎んんんんざぁぁぁんっ!!』

それは智子Aの誇る必殺技の一つで、ウィッチの何人かも習得した『双炎斬』だ。技の習得がミッドチルダ動乱の後期の時期にずれ込んだため、扶桑海事変では用いていない。本来は炎の力を集約させて斬り裂く技であるので、刀を折るに留める。

「うわあああああっ!?」

黒江Bの雲揚のエネルギーを飲み込んだ双炎斬のエネルギーが黒江Bの刀を直撃する。黒江Bは自分が青白い炎に飲み込まれるような錯覚を覚え、思わず叫んでしまう。そして波動に刀を折られ、吹き飛ばされる。同時に智子Aはそのエネルギーの余波で模擬戦での勝利条件である『吹き流しの切断』を達成する。

「黒江!?あれがこの世界の穴拭の力なのか……!ならば!」

坂本Bは自分も魔力を刀に集中させる。それは坂本本来の力ではなかった。

「烈風ゥゥゥゥ斬!」

坂本は自身の必殺技を見せるが、それは扶桑ウィッチで禁忌とされ、諸刃の剣と言える烈風斬そのものだった。

「なっ!?あんたやっぱり……!」

それが何であるか悟った智子は気を高ぶらせ、怒りを垣間見せる。烈風斬のエネルギーを刀に吸収し、それを自分の攻撃エネルギーに転化する。雷が走り、そのエネルギーを纏い、突撃した。

『雷ぃぃ光ぉぉぉざぁぁん!!』

坂本Bの持つ『烈風丸』を叩き壊すため、智子は敢えて、変身していない状態での最高威力の技を放った。

「なっ!?」

坂本は慌てて、烈風丸で受け流すつもりだったが、烈風丸を本気でへし折るつもりな智子の全力の一撃はいなせず、烈風丸の刀身をへし折る。すると、今までに烈風丸が坂本から吸収したであろう全魔力が放出され、それが一気に負のエネルギーとなって一体化・実体化する。それを過去にこの扶桑で沈められた艦の怨念も拾い上げ……宇宙怪獣とも怪異でもない存在を創造する。

「な、何……!」

「烈風丸の魔力が負のエネルギーになったんだ!まさか……こんなバケモノを造るエネルギーが……」

そう。皮肉な事だが、智子が烈風丸を破壊した事で、貯めこまれたエネルギーが実体化したのだ。それは艦娘を髣髴とさせる姿ではあった。それは烈風丸の魔力が付近を漂っていた実艦の『比叡』や『雲龍型天城』の怨念を吸収し、それを具現化させたと言ってよいクリーチャーとも、艦娘とも取れる異形の存在だった。

「あんた達は下がりなさい!早く!」

智子は模擬戦を打ち切り、とっさに本格戦闘の準備に入る。その際にストライカーを脱ぎ捨て、変身を敢行する。

「ハァッ!!」

炎を纏い、翼を具現化させる。完全に戦闘態勢に入った証である。それを察知した黒江Aも無電で坂本Bらを下がらせ、黄金聖衣を纏って怪物と対峙する。烈風丸の魔力が怨念を取り込んで生み出した怪物は何者か?そして、次元震は何を意味するのであろうか?



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