短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)



――野比家がお馴染みの一軒家であった時期のこと。のび太達によって、結構、無茶な事をしていた。それは、ドラえもんの道具で、『ブルートレイン』にされた事が数回あるからだ。黒江達が転生を重ねた後では、ちょうど無敵砲台事件からある程度の時間が経過し、その年のドラえもんの誕生日になった時だった。

「今回もミステリー・トレインでドラえもんの誕生日を祝う事になったんだよ、三回目だったかな」

「ああ。そろそろ、ドラえもんの誕生日か。タイムマシン使って参加するわ。防大は下級生の身分だと、外泊できんからな」

「そうだったね。んじゃ、呼べる人に声をかけといて」

「わかった。今回は増えそうだな」

2000年の秋口、ドラミの発案でミステリー・トレインでドラえもんの誕生日を祝う事になり、タイムマシンを駆使すれば、防大の外泊の問題は大丈夫なので、黒江に声がかかった。

「今回は防大の寮の前に出ていて。どこでもドアで迎えにいくから」

流石に『三回目』ともなると、少年期であっても、長い付き合いという認識があるので、フランクな接し方になっているのび太。


「例のウチを道具でブルートレインにするの、今回もドラミちゃんに買ってもらったって」

「おいおい、月賦で買えねぇのかよ、ドラえもん」

「あいつ、三つくらい月賦でヒーヒー言ってるから、これ以上は

「あいつ、破産するタイプだな」

「なにせ、どらやき増やすために、イキアタリバッタリサイキンメーカーを二つも買ったとか?」

「アホかーーー!」

ドラえもんが『イキアタリバッタリサイキンメーカー』(本当に、行き当たりばったりで細菌を作る道具)を二つも増やした事にツッコむ黒江。

「せっかく、はーちゃんの紹介も済んで、落ち着いたと思ったのに」

この頃にちょうど、のび太は青年期の自分の手引きで、キュアフェリーチェ/花海ことはを預かっており、紹介が終わり、ことはもようやく生活に慣れてきた頃である。



「今回は何人呼ぶ?」

「呼べそうな人たちに声をかけてみて。綾香さん、複数の時間軸を行ったり来たりで忙しいでしょ?」

「ああ。別の時間軸じゃ、ダイ・アナザー・デイの真っ最中。『前回』と時間がズレたからぁ。何人かは休暇を取れるだろう。長丁場になりそうだからな」

『三回目』における『ブルートレインはのび太の家』の案件はダイ・アナザー・デイの最中に行われた。ダイ・アナザー・デイが長丁場になり、(ドラえもん世界と時間の流れが違うのもあり)隊員と協力者に疲労が見られた事から、疲労回復と貴重な休暇を兼ねて、今回は何回かに分けて、慰安旅行が行われる事になった。

「今回は備えをしていくよ。何せ、組織に時間軸の違いは関係ないから」

「ネイサーから、ゲッターでも用意すんのか?」

「大人のぼくが量産型ゲッタードラゴンを借りる手筈をつけたって。ゲッタードラゴンくらいの性能があれば、だいたいは事足りるよ」

「ま、シャインスパークついてる仕様なら、100万馬力に上がってるからな」

「グレートマジンガーも用意してもらうよ。確か、接収したブラックグレートが使えるはずだから」

「前回は『事態が長引いた』からな。てっとり早く終わらせようぜ。銀河連邦警察には?」

「大人のぼくが連絡を入れたはずだよ。じゃ、また連絡するね。今度は智子さんに連絡入れるから」

「おう。今はお前の時代にいるから、用意できたら、また連絡入れる」

黒江はタイムマシンを駆使することで、複数の時間軸を行き交っていた。のび太も時間軸の違う自分同士でやり取りを行い、情報を共有していた。そのためか、のび太本来の聡明な一面が『小学生のうちに』表に出始めていた。調とことはという『妹分』を得たことで、気持ちがシャンとしたおかげだろう。なお、その二人は出征中だが、旅行のことを知らせれば、戻るだろう。壮年の自分からは『義理の娘』となるであろう、プリキュア戦士の存在を知らされ、子供である自分としては、なんとも言えない気持ちになってくる。当時に12歳前後である彼が『自分が40代以降の年頃に養子になる若者の妻となる女性』のことを知らされるのは当然ながら、(タイムマシンによるものであっても)複雑な心境である。彼自身は『これから思春期を迎える』のだから。


――のび太が次に声をかけたのは、智子だった――



「のび太、『今回も』頼んだわよ。あれないと、列車旅の気がしない」

「分かってますよ、冷凍みかんでしょ?」

「そそ」

「あ、今回は酒、いります?」


「前線で血で血を洗う争いしまくってるから、気晴らしにちょうどいいわ。用意」

「了解です。」

「それと、駅弁が食べられるようにしときなさいよ?三回目だけど」

「ドラえもんのグルメテーブルかけで一発ですけどね。松阪牛とか近江牛でも」

「い、いや、流石にそこまでは……」

「それじゃ、横浜の焼売弁当とか、チャーハンはどうです?」

「ああ、あそこの。頼んだわよ〜」

「了解です」

――次は、圭子。圭子はカメラマン&フリージャーナリストをしているため、この時は休暇を取り、のび太の世界における都内のビジネスホテルに泊まっていた。

「今回は外観はやっとけ。快速列車風だぞ」

「いいんですか、ケイさん」

「古めかしい豪華列車は仕事で飽きるほど乗ったんだよ。たまには最先端の快速列車の旅の気分を味わいてぇんだ」


圭子は『前回』と違い、列車の外見は違う方向にこだわるようである。快速列車(小田急電鉄の特急ロマンスカーのようなもの)に乗りたいと言い、前回と違い、戦いの最中なためか、圭子自身の変化のためか、『前回』ほどは旅にこだわらないようだった。

「そんなわけだ。みんなの都合ついたら、あたしに連絡してくれ」


――2000年の8月31日。この日、のび助と玉子は、のび太の年の離れた従姉で、北海道のおばさんの娘『すみれ』が挙式を挙げるついでの東北地方への旅行でしばらく留守にすると、のび太に言い、(結婚して以来の夫婦水入らずの旅行)圭子とドラえもんに、のび太を任せ、出かけていった。この日はのび太の夏休みの終了日(2000年当時は八月三一日まで夏休みがあった)なので、ウィッチたちをフル動員で宿題を片付けてもらうという、本末転倒の状態だった(この傾向は中・高・大に進学しても変わらない)。

「ほれ。お前の言うとおりに、算数のドリルは片付けておいたぞ」

「理科はあたしの妹のウルスラに聞いた内容のを書いといたよ」

旧504出身では数少ない、その後も64Fに所属した内の一人『ドミニカ・S・ジェンタイル』(1945年当時は大尉。その後に彼女は中佐に昇進。1946年以降は相方共々、魔弾隊に所属した)とハルトマンが理科と数学を片付け、国語は、真美がのび太が夏休みで一冊だけ読んだ本の『十五少年漂流記』の読書感想文をまとめる。

「のび太くん、読書感想文、まとめたよ」

「ありがとうございます、真美さん。ティアナさんは?」

「ティアさんは、ストライカーで買い物中だよ。でも、ストライカーで買い物しても、誰にも気にされないんだね、ここ…」

「僕たちがいつも、タケコプターで飛んでるおかげかも」

「え〜!」

普段は丁寧な口調の真美だが、年下(真美は1920年代の生まれであり、1980年代生まれののび太は孫ほどの差がある)ののび太相手では、意外とフランクに接している。また、背丈が14〜5歳(1945年当時)にしては低い(時代的に仕方がないが)ため、身長はこの時点でも、140cm台前半と小柄であるので、玉子には『小学生』に間違えられたという。その時は流石に憤慨したとの事。

「だって、一昨年、ドラえもんのエネルギーポンプがぼっ壊れて、そのまま近所に墜落した時なんて、ウチに『お宅のまんまる頭の短足ロボが〜』って連絡行ったし」

「嘘ぉ!?」

流石に慣れ過ぎと、真美の顔に書いてある。のび太は更に爆笑必至なエピソードを話す。

「お、そうだ。僕が唸ったエピソードを話しますよ。ドラえもんに去年、宿題を頼んだら、タイムマシンで違う時間の自分同士でやろうって話になって、それが問題なんですよ」

「問題って?」

「違う時間って言っても、二時間おきだったから、違う時間の自分から何度も起こされる羽目になって、8時間後にはブチ切れて、自分自身に『野郎!!ぶっ殺してやる!!』って台詞吐いてましたよ」

真美は想像した場面があまりにも面白そうだったらしく、大笑いだ。ドラえもんも、流石に切れると『野郎!!』や、『ぶっ殺してやる!!』という台詞回しになるのが可笑しく、ドラえもんの愛嬌ある姿と正反対の過激な台詞のミスマッチに、笑いのツボが押されたらしい。

「は、ハハ……お、可笑しい〜。ドラえもん君、そんな事言うんだ」

「ドラえもん、意外にフランクで、過激ですよ」

と、言った辺りで、ライーサ・ペットゲンとティアナが帰ってきた。この二人も休暇が取れたのだ。

「ただいま〜」

「おかえりなさい。デザートとか買ったんですね」

「ドラえもん君に頼むのも悪いし、ある程度は用意しないと。でも、ちょっと恥ずかしかったなぁ〜。制帽無しの軍服で行ったから、何故だが、スーパーで注目されちゃって」

ライーサが言う。ライーサは制帽無しでの軍服姿でスーパーで行ったのだが、ススキヶ原では見ない、10代の金髪美少女なので、スーパーの奥様方の注目を浴びてしまったのだ。しかも、見るからに外国人なのに、日本語ペラペラなためもあり、商店街でも周囲の視線を感じてしまい、気恥ずかしかったらしい。

「たぶん、ライーサさんがこの辺りじゃ見ない、金髪の美少女だったからですよ。外国人はこの辺には滅多に来ないし」

「うーん。なんかそんな感じでもなかったなぁ」

ライーサは基本、カールスラント軍制式のカーキー色の作業服で通している。日本の夏は、この時点では既に『1945年当時のアフリカよりも(湿度の関係で)暑い』ため、長袖姿なのも奇異に見えたのだろう。

「少尉の服装が長袖だからじゃ?この時期は半袖が当たり前だし」

「そうかも。アフリカじゃ当たり前だったんだけどね、これ。シャワー浴びてくるよ」

「いってらっしゃ〜い」

ライーサはシャワーを浴びに行く。ティアナは巫女装束と小具足姿で、割と涼しい格好なので、そのまま本を読んでいる。

「そういえば、のび太。前に、なのはさんにあたしの事を知らせたのって、あなた?」

「いえ、スバルさんです。ほら、ティアナさんの一件、子供時代のなのはちゃんに言ったんですよ。そうしたら、なのはちゃん、すごく引いてました。まぁ、結局は似たことををしでかしましたけど」


子供時代のなのはに、ティアナの一件を話したのは、スバルである。なのは当人と言っても、時空管理局で10年ほど勤務した後にあたる『青年期』と『少女時代』とでは、考え方の方向性が違っており、少女時代のなのはは、青年期の自分が取った選択に『どん引き』と言っていいほどの反応を見せた(とはいえ、結局は別の人物に似たことをしてしまったわけだが)。それで、『ティアナに詫びたい』と言い、その結果、手紙で、『子供時代の自分が、大人の自分の行為に謝罪する』という奇妙な事になったのだ。なのはが『本来の流れの自分』と、根本的に生き方を変えていく事を選んだのは、ティアナへの制裁まがいの行為をしてしまった自分の暴走を恥じたことが理由の一つだが、やはり、それと似たことをしてしまうあたり、なのはは根本的に(父と兄が武道をしていたためか)体育会系である事が窺える。

「あたしに非がないわけじゃないけど、なのはさん、子供の自分がしてるハードすぎる特訓を棚に上げて、あたしの特訓をやめさせようとした『大人の自分自身』を、『恥ずかしい』って言うくらいにどん引きだったのよね。どう返事すればいいのか、悩んだわ」

「なのはちゃんはたぶん、自分が現在進行形でしてる事を棚に上げて、悪意がないけど、他人に自分の考えを押し付けてた事に気づいたんでしょう。それで自己嫌悪したんだけど、似たことをやっちゃうあたり、脳筋に近いなぁ、思考回路。ぼくでも、もうちょいマシだけどなぁ」

「そうか、本来の『大人のなのはさん』にトラウマとしてつきまとってた『11歳の撃墜の後のリハビリと、後悔』が連邦軍のおかげで消えたから、なのはさんの考えがポジティブなんだ……。魔力も絶頂期のままってことになる」

「連邦軍の医療技術で、腕の傷跡以外はリンカーコアへの後遺症もない。叱咤したりして、考えを正してくれる大人達も連邦軍にいる間はいたし、自分が死にかねない特訓で強くなっていく『スーパーヒーロー』達の背中を見てる。だから、自分の殻に閉じこもってるように見える、大人の自分が嫌だったんでしょう。今じゃ、口癖は『吶ぉ喊〜!!』とか、『努力と根性!』とかですよ。まぁ、2000年代以降の生まれの子には通じないんですけどね、この手のスポ根的なのは」

「あたしの知ってるなのはさんと、方向性が90度は違うわね」

連邦軍に籍を置いた経験がある、なのはAは旧トップ部隊やロンド・ベルの影響を強く受けている。ゲームで言えば、攻撃的な精神コマンドがずらりというあたりか。師と仰ぐ二人が戦前の敢闘精神旺盛な世代の人間であったのもあり、回避術を鍛えた。その結果、中学3年時以後の空戦魔導師としての戦闘技能は防御力よりも『回避と攻撃性に定評を持つ』とされるようになり、智子の回避マニューバ、黒江の阿修羅じみた『強い攻撃性』を併せ持つようになっていた。

「今じゃ、『教導隊きっての異端児』扱いで、この間なんて、同僚にパワパラ働いた上官を思いっきりぶん殴って、自宅謹慎食らったって話してましたよ。何でも、その上官が『ママ〜!!』って泣き喚くくらいの一撃を左でしたとか。まぁ、飲んだくれにやさぐれそうですけど」

「うっそぉ。本来のなのはさんが聞いたら卒倒モンね」

「品行方正とは言いがたいですから、今のなのはちゃん。確か、始末書も書いた事あるとか?」

のび太が言う事から、なのはの成長は、ティアナの知る方向とは全く違うのが分かる。特に教導隊に居ながらにして、上官に絶対服従でもない、教本通りにも教えない事から、『実戦肌』の魔導師を育てるのに定評を持つようになっていた。特に、エリート部隊である教導隊在籍者でありながら、自宅謹慎、棒給5割カットの経験ありである。そのため、品行方正さが通常は求められる教導隊の異端と言われている。これは英雄である故、マスコミがなのはの味方である事、なのはの帰還を大々的にプロパガンダしたからという理由もあり、不祥事になるのを恐れた上層部が、なのはへの刑罰には気を使っているからだった。それ故、なのはのいる教導隊の人事は時空管理局の悩みのタネであった。

「わーお、反骨精神旺盛ね。まるで綾香さんみたい」

「黒江さんの影響、そういうところでバッチリ出てるんですよ、なのはちゃん」

黒江と圭子のの影響が出たのが、正義感が強いところであり、上官が同僚をいびるのを見ると、それを咎める光景も多かった。特にその事件の『被害者』となった上官は、事務方からの出向で、パワパラの感覚や意識が薄かった。それが陰湿だったのもあり、なのはは思わず、幻の左で殴ってしまった。しかし、なのはのパワーは、もはや青銅聖闘士の上位の者と同等に達していたため、一発で肋骨が6本折れるほどの重傷を負わせてしまい、棒給カットの罰に服している。その事件以後、高官の間で、『高町なのはの上官になる時はくれぐれも注意しろ』との秘密連絡があり、教導隊に事務方出身の隊長が着任する事はほぼ無くなったという。(もっとも、本人のやらかしで窓際族になるが)

「なのはちゃん、智子大尉の自信家なところと、黒江さんとケイさんの攻撃性を持つようになったから、ティアナさんの知る姿とは違う成長をしましたよ」

「智子さんより、綾香さんの方が強いかも。智子さんは流されやすい質だし。」

『今回』においては、黒江の影響が50、智子が20、圭子が30程度の割合影響を与え、なのはは成長した。そのため、『あたしが負けるわきゃないっしょ』という自信家なところ、『さあて、どう料理するか。生かして返さねーぞ』という攻撃性を持つ面が青年期以後に明確になって表れた。黒江の濃いキャラクターぶりは、なのはがゲッター線を浴びていた事もあり、影響を濃く受けた。そのため、智子の影響は薄く、黒江と圭子の影響が濃いという状態になった。そのためか、圭子のように、ゲッターに乗りたがる面もある

「人間って、環境によって変わるって言うけど、まるで別人ね」

「なのはちゃんの場合、いい子でいようとする、無意識の鎖が外れた事、ありのままに生きようと考えるようになったのが大きいかも」

なのはの不幸は、きちんと叱咤激励してくれる大人の不在である。のび太は『なのはが仮面ライダー達と出会って、彼ら仮面ライダーがかつて、自らが恩師の立花藤兵衛、谷源次郎らから受けたように、なのはを叱咤激励したのが大きなプラスになった』と分析している。また、正義は必ずしも善の立ち位置とはならないことを、ジオン残党狩りなどで実感したため、その辺りを強く意識している。これは黒江らも、プリキュアらも同様である。

「あと、なのはさん、戦争してきたから、正義は善とは限らない事を知ったからってのもあるかも。綾香さんが言ってたんだけど……」

黒江は『今回』、着任早々から、ミーナが躊躇うような判断を下し、顰蹙を買った事もある。ロマーニャの南部のとある街を『航続距離不足』を理由に切り捨てると示唆したら、ルッキーニが猛抗議をし、ミーナも不快感を示した事がある。ミーナと激しい口論になり、ミーナは『何故、こう簡単に人々を切り捨てられるの!?』と怒声を発した。ある日のことだ。それを聞いたルッキーニが独断で出撃してしまい、それを追って、智子が出撃。たまたま、圭子とティアが先行して、501に合流するために飛行中であったため、智子が連絡を取り、ルッキーニを追う羽目になった。戦闘は智子と圭子がカタをつけた。この出来事は黒江の計算の内であったが、

「って事があったのよ。ミーナ中佐、どうにも『大局的に人間同士の戦局を見れない』のよね。怪異との戦争じゃ無くなりかけてるから、余計に目立つだけだろうけど。弾薬と燃料を使っちゃってね。例の反攻作戦に備えて、備蓄しろって言われてんのに」

「言っちゃなんですけど、あなた達は戦争のプロですからね。話聞くと、末期の旧日本軍以下のアマチュアにしか思えませんよ」

人間同士の戦争においては、『合理性』も大事になる。ティアナや三羽烏は、人間同士の戦争に慣れっこであるため、合理的判断ができるが、ミーナは『(対人の)戦争アマチュア』であるため、怪異との戦争の常識を、人間同士の戦争にも持ち込む傾向があったのだ。その時はこのような言葉で、二人を黙らせた。


『正面から迎撃するだけが人間相手の戦争じゃねーのよ?お前ら。向こうは地元マフィアがパルチザンしてくれるから、此方から行かなくても大丈夫なんだがなぁ、敵は怪異じゃねーし。それに、出ていった先で10分も戦えない距離まで出ていって何が出来る?」

と。そう言い終わった黒江も、トラックをシャーリーやドミニカに運転させ、KS750で出ていった。

「どうせ途中で燃料(魔法の触媒として、燃料が必要である)切れて、どっかに不時着するだろうし、アフリカ組迎えついでに行ってくる」

との一言を残して。

「それで、その時はルッキーニが誰かさんに声似てたから、なんか無性にムカついたわ……」

「あ、わかります」

ルッキーニの声は高めであるが、スバルに似ていたので、ティアナとしては無性にむかっ腹が立ったらしい。その時はティアナの活躍により、ティターンズの飛行大隊を撤退に追い込み、全員で戦闘機を20機以上を一方的に撃墜したと話す。

「スターライトブレイカーを撃って、敵の飛行大隊を撤退させたんだけど、ルッキーニが唖然としてたの思い出した。それでルッキーニに質問攻めされたわ」

時空管理局の魔導師の強みは、『魔力を大威力の砲撃に用いる事ができる』点である。それは魔女には負担が大きすぎてできない。普通の魔女の魔力では『撃った後の消耗』を回復できないからだ。

「で、帰った後に、あたしがケイさんの弟子筋だって言ったら、中佐に意味深な顔されたわ……納得って顔で、口から泡吹いて、卒倒したわ。」

「そりゃ、ビームをブッパするなんて、ウィッチの常識超えてますから。口から泡くらいでよかったじゃないですか」

「それって褒めてんの、貶してるの?」

「褒めてるつもりですよ、ぼくは」

全くフォローになっていない。そこがのび太らしかった。その次の日の夕方4時、のび太が黒江を迎えに行き、連れてくる。

――翌日

「どうだ準備は?」

「80%ね。6時には出るぞ。皆は二階の別室で待機してもらってる」

「おし、経路の確認だ。ローカル線から小田急線、中央線、そこから新幹線とか使って、北海道だろ?青函トンネル通れるっけ」

「新幹線規格で作ってるし、2015年あたりには北海道新幹線がある程度開通してるし、行けるはずだ」

「四次元で突き抜けるから、途中まで町中を通るのか。目立つぞ。わかってることだけど」

「しょうがないだろ。踏切から乗り入れるんだからな」

「運転は自動か??」

「有人だけど、自動操縦もついてるから、運転手は二交代制ね。夜のうちしか動かないから、途中でどっかに止めて休憩にしましょう」

「よし。あと2時間で日が暮れるな。食料品の点検と、自衛用の武器の点検をさせておくよ」

「頼む」

万が一を考え、ウィッチ達には武器を一つ持たせている。今回は64Fのメンバーが増えたので、何回かに分けての慰安旅行となった。第一回目は非番のウィッチたちでメンバーが固まったためだ。無論、万が一、家に強盗が入れば、M2重機関銃、ボフォースの40ミリ砲、『ホ5』航空機関砲(20ミリ砲)が突きつけられる事になる。正にプライベート・ライアンものだ。そのため、装備を点検した黒江は『お前ら……いったい何とドンパチする気だ?戦闘機や怪異を相手にするんじゃないんだぞ……』と突っ込んだ。それを聞いた一同は気まずそうだった。圭子は、以前ののび太の指摘の通り、ベレッタの次世代モデル『ベレッタM92』にサイドアームを変更し、のび太はスーパーレッドホークを選んでいる。スコープは狙撃用途のため、メーカー推奨のリューポルド×8である。(近距離では早打ちするので、スコープは使わないため、狙撃用途につけた)。黒江も南部十四年式、それとM29、デザートイーグルの三種類を野比家に隠しているが、フルサイズの航空機関砲を持ってくるとは予想外に過ぎ、流石に乾いた笑いが出た。

「お、お前ら。強盗が入ってきて、それを撃ったらミンチより酷いぞ……?」

「あ、そうか。対人って考えが抜けてた」

ドミニカが言う。

「あ、すみません。つい、いつもの癖で」

真美が詫びる。戦車も破壊できるボフォースを持ってきたからだ。

「私も九九式二〇ミリ持ってきちゃいました」

下原が言う。

「俺も五式三〇ミリ……」

菅野が気まずそうに言う。

「護身用って言ったら、拠点防衛装備が並んでた、何か恐ろしいものの片鱗を見ちまったよ」

そう。ウィッチたちが持ち込んだ装備は、どれもこれも『対人には威力過剰、戦車も破壊できる』代物である。如何な熊でも一撃で粉砕可能であるばかりか、相手が装甲車で突撃してこようが、一撃で装甲ごと貫いて、一撃で破壊できるのだ。さすがの黒江も、これには乾いた笑いをせざるを得ない。この時の逸話が、後のウィッチ世界の広辞苑に『ウィッチ脳』という項目を作らせ、『過剰な火力に疑問を持たない考え方および、そういう考え方をする人。 非戦闘地帯での念押しの護身用装備と聞いて、フル装備を持ち込んだ逸話が元になったと言われる。』という文章が載せられたとか。

「どうだ……どうした?顔が真っ青だぞ」

「ケイ、あいつら、拠点攻撃用装備持ち込んできやがった……マジでどうしよう」

と、珍しく弱気な台詞だ。

「のび太、なにかあるか?拠点防衛装備じゃ、いったい何と戦うんだ?」

「お、そーだ!押入れの壁紙秘密基地に、前に、米軍から分捕っておいたカービンとか置いてあったんだ!それを配りましょう。拠点攻撃装備は怪人とかじゃないと、存分に使えないし」

「そりゃそうだ。よし、出してこい」

「はい」

以前、美琴達が来た時、米軍特殊部隊に襲撃され、その彼等から分捕ったM4カービンなどを思い出した。一部はモデルガンとごまかし、棚の上に置いてあるが、大半は壁紙秘密基地に入れてあったのだ。整備はしてあるので、ちゃんと稼働する。

「ひいふうみっっと……。こんなもんだね」

「M4カービンに、ベレッタM92、それとSIGか。まぁ、この時代の標準だな。ガバメントは古くなってるからな」

「特殊部隊ねぇ。あの子達に理解できるかしら」

「私達の時代で言えば、空挺部隊みたいな位置づけだからな。23世紀の空間騎兵隊がその後継みたいなもんだし、分かるだろ」

特殊部隊という概念が確立されたのは、戦時中の英国の特殊空挺部隊の創立以後である。しかし、対怪異戦争では必要性がないため、その部隊はウィッチ世界では創立されていなかった。ティターンズとの戦争に様相が切り替わっていく過程で必要になり、1945年に創立された。ウィッチ世界では『ウィッチ至上主義』とも言うべき風潮があり、彼女らは通常兵科の特殊部隊というモノに反対した。だが、ウィッチ達には対人戦における『重大な弱点がある』事を指摘され、ダイ・アナザー・デイ中には押し黙った。それは『多くのウィッチは人に銃口を向けられない』という点である。これは『怪異との戦争に特化した教育が1930年代後半から進められた『ツケ』であり、人々の倫理観が対人戦争に慣れていない表れでもあった。

「すいません〜先輩、遅くなっちゃいました」

「お?黒田、お前来たのか?シフトの関係で来られないかと思ったが」

「こんな面白い話、黙っちゃいられませんよ。アイザック君しか都合つかなかったんで、同行してもらいました」

「ど、どうも」

「おう。ゆっくりくつろいでくれ」

イザベル(イザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール)も黒田と共に、同行してきたらしい。彼女、家の事情と、両親の暴走で元は男として育てられた(父親はベルギカの元警官で、現在、手に職をつけるため、探偵業の立ち上げ中)ため、一人称が僕である。外見的にもボーイッシュであるため、パッと見るだけでは女性と分からない。

「閣下、ここは本当に何もかもが違うんですね」

「そうだ、少尉。ここは歴史から何まで違う世界だ。慣れろとは言わんが、そういう世界があると勉強するんだ、いいな?」

「はい」

イザベルは頷く。この世界は、二度の世界戦争で世界がイギリス中心から、アメリカ中心に書き換えられた世界であり、23世紀までには日本中心の世の中へ変貌する事になっているが、それまでにおびただしい数の血が流れるのだ。なんとなく、『血なまぐさい』世界という思いがあるらしい。だが、これまでに怪異に滅ぼされた文明や人を考えれば、どっちもどっちだ。黒江が、勉強しろといったのは、そのためだ。

「そう固くなるな。むしろ気楽になれる世界なんだ、ここは。寝首をかかれる事もないし、むしろ世界有数に安全なんだ、日本は」

「そうなんですか?」

「日本語さえ分かって、喋ればば、おのぼりさんの外人にも優しいしな。喋れなくても、筆談すれば通じる教養はあるしな」

そう。日本は固有の文化さえ理解すれば、世界有数の住み心地の良さである。イザベルにそれを示唆する。既に、ドラミは残りの面々を迎えに行っており、合流して、踏切までのレールを敷いていると連絡が入る。

「みなさ〜ん。そろそろのび太君の部屋に一旦、集まってくださーい。出発前に武器を渡しときます〜」

ドラえもんがメガホンで皆に知らせ、皆に集まってもらう。しかし、主賓がやることではないので、流石に黒江が『お前がやるこたぁないだろ。のび太にやらせろよ』と言うが、『どうも世話しないと落ち着かなくて』という、子守りロボとしての性分を見せた。それと『のび太くんだと、不安が…』と言い、あまり親友を宛にしていない台詞をサラっと言ってのけたため、黒江も呆れた。

「お客さんなのに何やってんの?こっち来て座って!ほら、どら焼き有るから!」

と、のび太は上手く誘導し、1階の応接室に『隔離』する。しかしながら、先ほどの発言は心外なようだ。

「ん?なんだこれは?カービン銃じゃないか?」

「そうですね、大将。形が全く違いますけど、M1に似た何かを感じます」

のび太から渡される、M4カービンに、自分達の知る『M1カービン』の匂いを感じたらしいドミニカとジェーン。それにシャーリーが補足する。

「そりゃそうだって。こいつはガーランドから二世代離れた小銃のカービン版だよ」

「そうなのか、通りで……」

「つまり、小銃が二回交代して、その二回目の小銃のカービン版ですね?」

「うーん。ちょっと違うかな。正確に言うと、アサルトライフルっーんだよ。アサルトライフルってのは、BARと小銃を合わせた様な物だぜ」

「BARと小銃を合わせたようなものか……時代が進むと、便利なヤツが出てくるんだな」

「いや、それはそれで色々と不都合が出て、フルサイズ小銃をバトルライフル、市街地用の小口径短射程のアサルトライフルって住み分けがされてるんだ」

「ふむ……。ん、なんだ、少佐。その小さいのは?」

「MP5。ドイツ製のサブマシンガンで、トンプソンM1やM3サブマシンガンの銃器としての系統の子孫に当たる銃さ。整備はめんどいが、市街地にゃ、これでいい」

シャーリーは、いつの間にかヘッケラー&コッホのMP5を手に入れていたようだ。市街戦を想定しているあたり、今回の想定される戦場を読んでいると言える。

「ドイツ製か……」

「サブマシンガンはVz61も用意してありますけど、MP5ですか、シャーリーさん」

「Vz61はストッピングパワーが不足してるしな。第一、あれはテロリストが持つような銃だぜ」

シャーリーとのび太の会話は『プロ』としてのそれであった。ストッピングパワーという、二次大戦中には知られていない言葉が飛び交う光景に、ドミニカは時代の違いを実感する。

「それに、スコーピオンは暗殺者やテロリスト御用達のイメージが有るからちょっとね、信頼できる銃なんだけど」

「Mr.Cliceも使ってたし、銃器としてはいいんですけど、テロリスト御用達ってのはねぇ」

「のび太と言ったな。お前、いったい何者だ!?ふつーの小学生が、プロの軍人と普通に銃器の会話できるかつーの!」

流石に、ドミニカは突っ込まずにはいられない。。プロの軍人と対等に銃器の会話が可能な小学生など、リベリオンでも見ないからだ。

「大尉。このガキはあたし以上の使い手だぞ」

と、そこで圭子が話に入ってきた。のび太の才能と実力に最も驚愕し、その才覚に羨望を覚えているのが圭子自身であり、扶桑海の電光とまで謳われた自分が、『実力で敵わない』と認めた唯一の存在がのび太だからだ。

「何、小僧が貴方以上の実力を?」

「早打ちは並ぶ者がない。0.1秒もあれば引き金を引き終わっている。私はせいぜい0.4秒だ」

そう。のび太は早打ちならば、あのゴルゴ13をも上回る速さである(青年期以降の数値だが)。圭子が構えようとした瞬間に、のび太は発砲しているほどの差があり、圭子はそこで実力差を感じているのだ。三羽烏最速の早打ちタイムで、1937年当時の扶桑最強の狙撃手であった圭子も、のび太の更なる次元の才能(しかも訓練なし)の前には霞むのである。しかも脳を経由しない反射行動と言っていい。本業は精密射撃とは言え、圭子はのび太をライバル視しているのだ。


「0.1秒……!?凄い!」

ドミニカの相方であるジェーンが唸る。それを聞いて、のび太はご機嫌らしく、ご機嫌な時のしまりのない顔をする。このギャップが出会う人々を戸惑せるのだ。(二人はその後、パットンの指令で再訓練施設行きになるので、ダイ・アナザー・デイの後半には参加しないことになる。)

『のび太さ〜ん。準備終わったわ。踏切でみんなと一緒に合流するわ』

「OK。プリキュアのみんなは後から合流するそうです。それじゃ、皆さん、出発します。……発車よーい!」

ドラミからの連絡を受けたのび太が、机に座り、机に置かれたマスコンを操作し始める。家を変形させる『トレインモード』のトランスフォームレバーを入れる。すると、野比家が再構築され、青色の車体と金帯を持つ『ブルートレイン』に変形する。編成は六両。これは玄関口と裏口が乗降用車両として再構築された事、浴室が再構築され、大浴場になって、一つの車両になったからだ。そして、家の各部の窓は、各車両の窓として分配される。鉄道マニアが見たら大喜びの姿に変形した野比家。外観は(今回は)1980年代以降の観光用の快速列車風の流線形のフロントノーズを持つ。後部に『ハッタリの効いた、ドラえもんの紋章が配された客車が連結した』編成で、列車名の表示が『野比』となっている。


――列車が発車する。車輪が動き始め、これからの旅の前途を祝福するかのようなミュージック『taking off』(映画版999の挿入歌)がムードもりあげ楽団によって奏でられて……――。




※あとがき 今回の改訂では、出張版執筆以降の設定を反映させました。



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