短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)



路線を乗り換えた、野比家ブルートレインは、新幹線以上の速度に加速し、北海道を目指す。ここで、食堂車の様子を見てみると――


――食堂車

「ヒガシは本を書いてるって?」

「ええ。何か、新作にしたいんだって」

「回想録でも書いてんのか?お、この弁当、うめぇ」

「あんたねぇ」

食堂車に行った黒江は、崎○軒のシュウマイ弁当を食べていた。風呂から出た智子は珍しく、バスローブ姿だ。

「オメーがバスローブ姿なんて、珍しーな」

「後輩達の前だし、偶には気分変えたかったのよ」

智子は以前より吹っ切った態度を見せる事が多くなり、コーヒー牛乳を手元に置いている。俗っぽいと言われそうだが、今の智子にとっては、風呂あがりにコーヒー牛乳を飲むことが至福の時間なのだ。

「でも、よく考えてみると、死んでるかもしれない時間軸で、PCとかデジカメとか弄くってんなんて、不思議な話よね」

「私達の生まれた時間軸からしたら、本当だったら、しわくちゃのババアになってるはずだしな、この時代だと。それがラップトップとかケータイ弄くってるんだから、不思議だよな」

そう。1920年代前半生まれで、大戦中に青年を迎えている二人は、西暦2000年時点では、80代間近の老婆となっている。曾孫がいても不思議でない年齢だ。なので、のび太の両親とも、『子供』か、『孫』と言っても差し支えないほどに年齢差がある。

「たぶん、ここにいる10代の連中のほぼ全員が1910年代後半から20年代までに生まれてるなんて、のび太の親御さんは信じないだろうな」

「でしょうね。……ぷぁ―!やっぱ、風呂出たらコーヒー牛乳ね!」

「フルーツ牛乳も飲んでみろって。いけるから」

「バナナオレはどーなのよ?」

「あ?愛飲飲料だけど?」

「コーラだけかと思った」

「黒田のやつに影響されて、飲み始めたからな。コーラは。なんでも、506のB部隊にいた奴から教えられたそうだが……」

「そいや、506ってどうなったの?」

「光太郎さんから教えてもらった。事実上の解散だそうだ。ガリア王党派と諜報部の対立で醜態を晒したガリアを守る義理はないと、各国が対立してな。凍結扱いにしたが、事実上は解散だ。黒田を呼んだのはそのためもある」

――そう。506はガリア内部のゴタゴタに巻き込まれた挙句、内部の不和を追求される形で事実上の解散を通達され、隊員の処遇は宙に浮いている状態だった。黒田を呼び寄せたのは、黒江が、黒田の能力を惜しんだ事もあるが、黒田が手当を欲しがった事、統合戦闘航空団に招聘されるほどの人材を前線が欲しがったせいもある。

「ロザリー少佐と偶然会って、話してみたんだけど、彼女、自分の力不足を嘆いてたよ。隊をまとめられなかったって」

「那佳が接着剤になってたっていうけど、本当?」

「ああ。あいつのおかげで纏まってたんだが、ガリア王党派の策謀が光太郎さんの手で明るみに出たから、ドゴールの手腕に疑問符がついて、存在意義そのものが揺らいだんだ」

「所属地域が前線でなくなりつつあるのと、ドゴールの政治手腕に疑問符がついたのが、トドメか……」


「連邦軍のおかげで、欧州の前線はロマーニャに集束し始めてる。おまけに剣の奴が、グレートで以て、防衛の任についた。統合戦闘航空団置く必要あるか?」

「ないわね」

そう。グレートマジンガーの来訪が、506統合戦闘航空団の凍結の一因となったのだ。また、グレートマジンガーの存在は、ハルトマンを大きく成長させるきっかけともなっており、坂本には内緒で、飛天御剣流を鍛えていた。

「ハァ!」

屋上スペースで、大真面目な顔で、剣を素振りするハルトマン。人の知らないところでは、努力を怠らないのがわかる。そのため、ハルトマンの秘密を知るのは、ハルトマンに飛天御剣流をもたらした張本人達と、彼女が密かに想う剣鉄也、マルセイユだけだ。バルクホルンにも明かしていないため、文字通りの秘中の秘であるのが分かる。

「精が出るな」

「あ、黒江少佐」

「ここだろうと思ってな。どうだ、私と手合わせするか?」

「いいよ。仕合は必要だしね」

「よし、やるぞ!」

木刀を使っての仕合が始まった。百戦錬磨であり、更に聖剣の片鱗が目覚めつつある黒江と、剣を持って日が浅いハルトマンとでは、ハルトマンの不利である。だが、意外にも、ハルトマンは身軽さを武器に、示現流と飛天御剣流などの剣技を組み合わせる黒江の剣を躱し、渡り合う。ハルトマンの表情は、ウルスラすら見たことがないほどに殺気に満ちたそれに呼応し、黒江も狂奔モードになっていく。

「飛天御剣流・龍槌閃!!」

「甘いよ!!」

「な、何!?」

龍槌閃を放つ黒江だが、ハルトマンは黒江も驚愕する技を見せた。それは黒江が、以前に雲耀を発動前に迎撃され、手痛い傷を負った時に食らった技で、ハルトマンが知るはずのない技だった。

「ハァアアッ!!」

(た、対空の……『牙突』だとぉ!?)

そう。それは黒江を『犬娘』と呼び、黒江がいつしか陥っていた、自らの剣技への自惚れを、叩きのめす事で正してくれた人物――元・新選組の生き残りであり、その三番隊組長であった男『斎藤一』――の技だった。斎藤は、藤田五郎として、明治を生きる身でありながらも、緋村剣心達の前では旧名で通している。黒江を圧倒し、当時の切り札『秘剣・雲耀』を容易く迎撃してみせ、『阿呆が。犬娘、お前程度の使い手など、幕末の頃にいくらでも見てきた。太刀筋も示現流を身につけたばかりの奴らに毛が生えた程度。俺が敵と見るほどではない』と、タバコを咥えながら言った。この時が、黒江が明確に『剣技で敗北した』初の事例だった。この時の苦い敗北が、黒江を剣技に邁進させ、現在の修羅場をくぐるのを躊躇しなくなる思考に繋がっていた。

――牙突三式を食らうが、なんとか受け身を取る。ハルトマンの攻勢は続く。

「おわわわっ!?どこで覚えやがった!?その突き、足の運び方……どう見ても剣を持って数ヶ月のやつの動きじゃねーぞ!?」

黒江は驚愕した。ハルトマンの動きは、まるで斎藤一のようであったからだ。違うのは、戸隠流忍術と隠流忍術の影響が見え隠れしており、隠流の技である『満月斬り』を使ってきたところだ。木刀なので、エネルギー波を飛ばすのだが、そのエネルギーがハルトマンの固有魔法と組み合わされるので、かすっただけで、頬が斬れるのだ。

「いってぇ!!かまいたちかよっ!くっそ、それならって……うっ!!」

「飛天御剣流・龍巣閃!!」

「ぐ……しまった……龍巣閃をまともに……!」

龍巣閃の乱撃を食らい、服と皮膚の各部が切り刻まれる。かまいたちのように。痛みで片膝をついてしまう黒江。トドメの龍槌閃が迫るが、黒江はここで死中に活を見出し、なんと龍槌閃を龍翔閃で迎撃したのだ。双方の木刀が交錯した瞬間、負荷に耐えられなかった木刀が『パァン』と壊れる。両者はそれで正気に戻る。

「いつつ……。まったく、末恐ろしい奴だぜ、お前は」

「ごめ〜ん。つい熱くなっちゃってさ」

「風呂から出たら、フルーツ牛乳おごれよな〜いつつ……」

龍巣閃のダメージで顔をしかめる黒江。ハルトマンに肩を借りて歩く。

「クソ、こんなことなら、宮藤を誘うんだったぜ……」

と、芳佳を誘わなかった事を後悔しつつ、風呂に入る。ハルトマンに体を洗わせ、寝間着に着替える前に、風呂を出たところに置いてある冷蔵庫(ドラミ設置の自動販売機兼用)からフルーツ牛乳を取り出し、グイっと飲み干す。

「生き返るぜ〜。ほれ、ハルトマンも」

「サンキュー」

やっている事のレベルは昭和30年代の小学生とほぼ同レベルである。だが、この風呂を出た後のフルーツ牛乳ORコーヒー牛乳の一気飲みはウィッチ達に一気に広まり、休暇明けに黒江が新501基地に自動販売機を設置させることになるのだった。


――ブルートレインは既に、東京を出、東北へ向かい始めている。路線変更の都合、東北付近で青函トンネルを通れる路線に乗らなくてはならない。この時代、まだ北海道新幹線は開通しておらず(ここから15年ほどの年月がある)、北海道の小豆工場へのオールマイティーパスによる見学申し込みなどの用意があるため、ドラミは出かけていった。


「そういえば、私達504に配属されるはずだったって奴はどんな奴だったんだ?」

「ああ、うちの中堅に入りだしてる子だったのよ。本当はその子達が送り込まれるはずだったんだけど、輸送艦艇の安全や、時勢を考慮したり、練度の不安もあって、私達に白羽の矢が立ったってわけ。もっとも、あなた達の隊がこっちに吸収されるのは驚いたけどね」

「あんたは竹井少佐とどういう関係だ?大尉」

「私達が士官になりたての頃に配属されてきた新人たちの一人だったのよ、あの子。当時は三人の中で一番のド下手で、オドオドしてる引っ込み思案な子だったけどね」

ドミニカに、智子が言う。竹井が今の性格になる前の姿の生き証人なので、竹井の秘密を色々と知っている。そこが竹井の誤算であった。

「へえ。あの少佐がね」

「あの子、昔は可愛い性格でね。坂本の後ろにくっついてたのよ。あの子はリバウの時が全盛って言っていいから、あの時は、数いる新人の一人って見られてたっけ。ただ、親が佐官で、祖父が少将だった家柄だから、親や祖父の七光りって声が絶えなかったのよ」

智子は竹井の人生を語る。扶桑海の後半当時、竹井は練度不足を揚げ足に取られ、誹謗中傷を受ける事も少なくなく、自分たちが誹謗中傷を黙らせた事も一度や二度ではない。特に、家柄が明治維新以前からの武門だったのもあり、竹井は親戚内からもかなり誹謗中傷を受けた。それは兵学校を首席で合格しても同じであり、竹井は血の滲むような努力の果てに、今の『リバウの貴婦人』という地位を築いた。それ故、自分の大切な者達を傷つけられると、激昂し、前後の見境がなくなる。これは西沢も若本も、坂本も揃って証言する、竹井の隠れた性質である。だが、同時に、坂本や西沢などがピンチになると、狼狽し、まともに指揮が取れなくなり、口調が子供時代のそれに逆行してしまうという弱点も抱えてしまった(声のトーンも高めになる)。その弱点が顕現するのは、ここからそう遠くない時間である。

「なるほど。あんたたちは、私らが子どもの時に、今の私達くらいの年代だったんだな?と、いうことは実年齢はいくつだ?」

「圭子で、もうじき26、綾香が24、私は23。一般的には、これから盛りの年代なんだけど」

そう。三羽烏は、ウィッチの常識で高齢者でも、一般的には『若輩者』である。この世界では、20代は戦士として『高齢』だが、肉体的には盛りである。仮面ライダー達の改造時の年齢が20代なのも、そのためだ。

「そうだよな。すっかり忘れていたが、20代は若いんだよな」

「そうよ。未来じゃ40代でパイロットしてる人もいるんだし、20代なんてぴちぴちよ。ったく、ミーナは、あたし達を『ロートル』扱いしてんだから」

「いや、この間に言ってたが、あんたらが『スリーレイブンズ』じゃないかと感づき始めてたぞ?」

「やっと、か。どんな感じ?」

「ハルトマン少佐が色々と動いて、扶桑海事変の資料を見せてる。それで、あんたに気づき始めてた」

そう。智子こそ、扶桑海事変の英雄の一人であり、扶桑で最高人気のウィッチの一人なのだ。ミーナは、智子に関しては、モデルの人形を、『扶桑ウィッチの理想像を形にしたもの』と解釈していた事もあり、確信にはいたっていないものの、黒江と圭子が『扶桑海の英雄』と同一人物であると気づき、自らの浅さかさを恥し、愕然としている所をドミニカは目撃した。


――数日前

「お、扶桑海の記念人形じゃないか?懐かしいな。どうしたんだ?」

「はい。今朝、私宛に、杉田大佐からプレゼントとかできたんですよ」

「おお、そうだったのか。あいつの若いころを模して造られてるからな、これ。映画仕様だけど。この人や他の三羽烏達には本当に世話になったなぁ」

と、昔を懐かしむ坂本。と、そこへ。

「あら、二人とも、何してるの?」

「ミーナか。宮藤が杉田大佐からプレゼントされたそうなんだ」

「そうなの。ん……?その扶桑人形、誰かに似てるような……」

「何言っているんだ?モデルが身近にいるだろ?」

「え!?」

「穴拭のやつだよ。あいつが14歳の頃の容姿を模しているんだよ。この人形は」

「え、え、え!?そ、それじゃ、あの人は……」

「扶桑海の英雄であり、この人形のモデルになった、1930年代当時では指折りの撃墜王。それがあいつ、穴拭智子だ」

「!?!?★★※〜!?」

「……知らなかったのか?」

「当たり前よ!そ、そんな人物なら、後方に退いて、管理職にでもついてるはずでしょ!?」

「そうでもない。むしろ、戦後は疎まれたんだぞ?功績がありながら、スオムス行きになったんだ。ウルスラ中尉の元上官、といえばいいか?」

ここで、ミーナの顔色が青ざめる。ウルスラの上官。つまりスオムスいらん子中隊の隊長であると自動的に考えついたからだ。

「あ、お、おい。どーしたミーナ。ミーナ?」

「あー、今のがショックだったんだよ、坂本少佐」

「ハルトマン」

「ウルスラの上官って言ったら、大先輩だからね。トモコ大尉は。それに、うちの組織系譜的にも原型になった部隊の隊長って言ったら、本来はミーナより立場が上になっても可笑しくない。その人が知らずに部下になってた。上層部にばれたらって、考えちゃったんだろうね。ミーナって、穿った見方しがちな傾向あるから」

そう。ミーナは上層部の指令などを鵜呑みにしない点があるが、智子達の赴任に関しては、悪い面が出た。ミーナの考えているような『裏の思惑』はなく、素直に増援だったのだが、リウィッチが知られていないことや、智子達の書類に目を通したが、年齢が先に立ち、実績をサラッと見た程度であったのもあり、上層部の送り込んだ管理官と考え、冷遇気味であった。しかし、智子の前歴が明らかになった事で、冷遇気味であった事が、『上層部に知れたら大事になってしまう』というネガティブな発想をしてしまい、大混乱して倒れてしまったのだ。

「もう、しょうがないなぁ。あたしが担いでいくから」

「頼む。しかし、そんなにパニックになる事か?」

「ミーナは、少佐にまず相談しにいってたでしょ?そこに大尉たちが加わって、決済しちゃうようになったから、少佐と話す機会が減った。仕事は楽になったけど、精神面がねぇ」

「ああ、ちょっと前に加東から指摘された。そんなことなのか……?ハルトマン」

「そんな事。特に、大尉たちなんて、少佐の先輩なんだよ?面と向かって相談しにくい事も多いんだよ。しょうがないから、ミーナはあたしが面倒見るよ」

「すまんな」

と、ハルトマンがミーナを運んでいった、わずか10分後。

「あ、穴拭大尉達はいるか!?」

「うわぁ!?ど、どうしたんですか、バルクホルンさん」

「す、すまん、宮藤。じ、実は妹から、手紙が来てな……。読んだら」

「読んだら?」

「大尉達は、8年前の動乱の撃墜王と言うではないか!そ、それでサインを色紙にだな……その……なんだ」

「お安いご用だぞ、大尉」

「く、黒江少佐!」

「ガハハ、サインだったら慣れてるからな。なんだったら、直接渡そうか?、いや、今は少佐か」

「と、とんでもない!わ、私事にあなたを巻き込むわけには……」

「ハルトマンが、クリスとマルセイユとの記念写真が出来たからって、受け取りにいくそうだから、ついでに渡しとこうか?パトロールついでに寄ってくるくらい良いだろ?」

「わ、私も同行させて頂きます!」

と、いうわけで、パトロールを名目に、ロンドンで療養生活のクリスにバルクホルンは会いに行く事になった。黒江が愛機のVF-19Aを動かしたので、バルクホルンは大いに狼狽えた。

「暖機運転は済んでるな?」

「ハッ。エクスカリバーの装備はファストパック込みにしてあります。ロンドンまでなら、巡航で15分もあればいけるでしょう」

「穴拭、ブレイザーで行けるか?」

「Okよ。デュランダルのスーパーパックの配達待ちだったけど、今回はブレイザーで充分ね」

「あ、あの、少佐。これをわざわざ使うのですか?」

「たまには乗らんと、腕が鈍るしな」

パイロットスーツに着替える黒江と智子。連邦軍のそれだが、もちろん、カスタマイズしている。Exギアなので、スーツ周りやメットのカラーリング面の自由は効く。

「少佐、これを着とけ。VFは荒い運転するから、死ぬぞ?」

「耐Gスーツとメットですか?」

「そうだ。着ないと、あまりのGで気絶するぞ?偵察込みで空力限界まで行くからちゃんと全部閉めろよ?」

「わ、分かりました……」

ジェット戦闘機に必須の装備品を着こむバルクホルン。黒江のエクスカリバーには、バルクホルンが、ブレイザーバルキリーには、ハルトマンが同乗している。

「さて、発進するぞ!!」

――ジェット戦闘機特有の轟音が響く。基地に熱核バーストタービンのエンジン音が響き、寝ていたルッキーニやサーニャが起きてしまう。


「う、うじゅ、うるひゃいにょー〜〜!!」

と、寝起きで呂律が回らず、サーニャは、『な、何!?ね、ネウロイの爆撃!?っいたぁ〜……』

と、ベットから落ちてしまうほどだった。サーニャが起きてしまったので、エイラは怒り心頭で、『なんなんだよ、この超うるさい音は〜!』とキレ、なんと着の身着のままで、圭子に突撃した。

「加東中佐!なんなんだよ、さっきの音は!!」

「どうしたのよ、エイラ。寝間着のままで」

「んなことはどうでもいい!と・に・かく!説明してくれ!サーニャが起きちまったじゃねーか!」

「ああ、あれ?熱核バーストタービンのエンジン音よ」

「はぁ!?ジェットエンジンの音ぉ!?」

「そうよ。双発が二機だし、おまけにバーストタービンだから、エンジン音がシュワルベよりもっと大きいのよね。そうか、サーニャが起きちまったか」

「うじゅ、うるさいよぉ〜!耳がいたぁい〜!」

「お前もか。こりゃ宿舎の壁を防音にしないとな。私達は慣れちゃってるけど、お前らはなぁ」

そう。圭子達は日常になっていたので、半ば失念していたが、ジェットエンジンの轟音は、1945年の人間には『耳障りな騒音』と捉える者も多かったのだ。それを思い出した圭子は、エイラとルッキーニに高性能耳栓を渡す。

「23世紀の高性能耳栓だ。これで金属系騒音の多くはカットできる。これで場凌ぎをしつつ、遮音壁の建設予算を請求する。お前らからもミーナ中佐に具申を頼む」

「わかった。ジェットエンジンって、耳に堪えんなー。耳がまだキンキン言うぜ。でもさ、これで音の低減ができるのか?」

「してみろ。ちょうど、防衛担当の連邦軍部隊の熱核エンジンのテストが始まったから、威力が実感できる」

エイラは言われるままに耳栓をしてみる。すると。

「すげえ!音が小さくなった!エンジン音が気にならない程度になってる!」

と、大喜びだ。ルッキーニも。

「うじゅ!本当だ〜〜!」と表情がパァッと明るくなる。

「エイラ、サーニャにも渡してやれ。あいつも喜ぶだろう」

「ああ、ありがとう!」

と、勇んで、サーニャのもとに向かうエイラだった。


――同時刻、ハルトマンに自室に担がれて行ったミーナは、ハルトマンに命じて、智子の資料を改めて、持ってこさせる。

「ミーナ、これでもう二回目じゃん。まだ信じないの?」

「確証が持てないのよ、確証を。昔に先輩に聞いた話だと、スリーレイブンズの一人は青髪だったって思い出したのよ!」

「だぁから〜」

ハルトマンは、半分呆れていた。しょうがない事だが、扶桑海事変の記録映像は殆ど無く、しかもその時の智子は『覚醒している』状態だったのだ。その事を知っていたし、前にも言ったはずだとため息だ。


「お、同じ髪形……でしょう?エーリカ」

「同じだってば。どこからどうみたって同じ髪形だって!髪と瞳の色を変えてごらんよ!」

と、いうハルトマン。珍しい呆れ顔だ。

「……ま、まさか……。で、でも……」

「分かった?」

「信じられない……どういうことなの?」

と、狼狽えるミーナ。

「はぁ……。いったはずだよ?大尉は青い炎出せるって。それを身に纏った姿がそれなんだよ」

ハルトマンがツッコミ役という、珍しい光景である。ハルトマンはミーナがここまで疑心暗鬼に陥っていた事を、改めて嘆いた。

(ん、もう〜!疑心暗鬼になりすぎ!昔の仕打ちのせいか!?ここまで疑ってかかるなんて。まるで、ドラえもんの道具にあった、なんかの薬でも飲んだみたいだなぁ)

と、この頃には黒江達のツテで、ドラえもんとの面識があったので、ミーナが陥っている心理状態に、ドラえもんのひみつ道具を連想したのだ。

「スオムスいらん子中隊の隊長にして、サイレントウィッチーズの初代隊長、穴拭智子……本当に本当なのね……?」

「なんだったら、本人が帰って来たら、変身してもらおうか!?」

ここまで来ると、さすがにハルトマンも苛立ったようだ。ハルトマンが怒声混じりの態度を見せるのは、極めて珍しいため、ミーナは顔を曇らせる。

「……ごめんなさい。私の悪い癖ね。昔、ダウディング閣下が更迭されて、あのマロニー大将になってから、疎んじられてきてた後遺症かもしれないわね」

「いくらそれだって、ひどすぎだよ。あたしまで疑られてるのかって思うよ〜!もうこうなったら〜!」

ハルトマンはおもむろに、携帯電話を取り出し……。

「あ?ルーデル?あたしだけど」

「!?」

ミーナの顔が一気に青ざめる。電話先がカールスラント空軍の中の最古参級の大佐『ハンナ・ルーデル』であったからだ。

「聞いてよ、ルーデル〜!ミーナがね〜!」

ハルトマンは疑われたのが頭にカチンときたらしく、ルーデルに通報したのだ。しかも直通のホットラインだ。ミーナは、みるみるうちに冷や汗がタラタラである。

「ハルトマン、中佐に替わってくれ」

「あ〜い。ミーナ、ルーデルだよ」

「大佐、お、お久しぶりです」

「中佐。貴官の疑り深さはどうにかならんのか?ハルトマンが訴えるなど、よほどだぞ?」

「も、申し訳ありません!!大佐のお手を煩わせてしまい……」

こうなると、ミーナも中間管理職の悲哀を溢れだす。今回は自分に非があるため、ひたすらペコペコ謝っている。いつの時代もそうだが、電話口越しにペコペコしている姿は、まるで日本のサラリーマンだ。

「貴官の気持ちは分かるが、そこまで疑ってかかる必要はない。もうマロリーはいないし、奴は死んでいるのだぞ」

「死んだ?」

「ああ。東部戦線に送られたんだが、飛行機が事故って墜落したそうな」

1945年時点では、トレヴァー・マロリー大将は、ネウロイ研究を咎められ、中将へ降格の上、東部戦線に左遷させられたが、移動中に飛行機が山に衝突し、死亡したとされていた。だが、実は彼が仕組んだ事であり、偉大な兄へコンプレックスを抱いていた彼は、兄がエベレストで遭難するのを密かに望んでいたが、兄の生還は彼のコンプレックスを増大させた。更に、子供の頃から、何でもできる兄へコンプレックスを持ったまま成人した事、第一次世界大戦に従軍した際に、ウィッチ達が自分を含む男性兵士に尊大に接したなどの理由により、現在の男尊女卑な思考となった。そして、人類兵器のネウロイ化研究を推し進めさせたが、ウィッチ達の動きや、地球連邦軍の超技術の流入で、研究の意義そのものに疑問符がついた。最も、子供を戦わせる事に嫌悪感を持つ美点もあったが、ウィッチ達がそんな彼の持論を『ウィッチの敵』と排斥したのが、彼を歪ませる要因とも言えた。501に新人のリーネを送り込んだのも、その要因となった会話の輪の中心にいた、ミニー・ビショップ(リネットの実母)を逆恨みしていたためだ。

「それは良かった……いえ、残念ですね」

「いや、無理に取り繕らなくても結構だ。奴は多くのウィッチに嫌われていたからな」

「ありがとうございます。しかし、何故、マロリー大将の事を?」

「うむ。ここ最近、ウィッチ達や軍の配置が敵に読まれて、壊滅する被害が続出しているのだ。ここまで正解だと、内部からの漏洩を疑うを得ない」

「まさか」

「そうだ。マロリー大将だけでなく、他にも内通者がいるのだ。奴らの存在を、ウィッチ排斥のいい機会と思ったりする、な」

「マロリー大将は内通者だと?」

「そう目されていたが、奴は死んだ。それ以外の線を探っている」

そう。ウィッチ達がこの時期から、急激に対人戦の血みどろの地獄を見ることになってゆく原因に、ティターンズの支配で、ウィッチを排除しての安寧を得ろうとする思惑、ティターンズを世界の支配者にふさわしいと見た者、ウィッチを対人戦に駆り出すことへの反発があった。特に、後者の根は深く、後に自衛隊を生み出す土壌となり、自衛隊閥が軍閥を圧迫した時代すら出現するのだった。


「この分だと、20年後も戦い合うのが日常になるやもしれん。私や貴官の子の時代になっても。確実に戦争はチンギス・ハーン以前の頃の様相に戻りつつあるからな」

「それでは……!」

「そうだ。私達ウィッチが、普仏戦争以前のように、お互いに銃を向け合う時が来つつある。それが戦争のあるべき姿なのかもしれんが……」

「大佐、私達はどのような選択を取れば……?」

「弱気になるな。たとえ人相手であろうが、『守りたい何か』を守り、信念を貫け。未来世界の仮面ライダーや、スーパー戦隊の皆様方のように、人間の自由のためにな」

「自由?」

「ナチのクソッタレ共も、正義を謳って戦争を始めた。だから『自由のため』に戦え。正義は必ずしも善とは限らないからな」

ルーデルは、歴代ライダーやスーパー戦隊を引き合いにだし、ミーナを導く。先達として、同志として。彼女もまた、歴代ライダーや歴代スーパー戦隊の姿に影響され、その背中を追っていたのだ。

「前置きが長くなったが、本題に入る。貴官のところに送り込まれた三人だが、正真正銘のスリーレイブンズだ。ハルトマンのいうことは確かだ」

「……本当なのですね?あの三人が……」

「こんな時に嘘言ってどうする。見かけは15、6だが、実年齢は私とそう変わらんぞ」

「あ、ち、ちょっとめまいが……」

「なんだ?執務の疲れでも出たか?」

「じ、実は……」

ここで、ミーナは恐る恐る告白した。これまで、三羽烏を冷遇気味であった事を。ロートルと見做していた事も告げる。

「単なる若作りの飛べるエクスウィッチだと思ってました……」

「気持ちはわからんでもない。だが、あの三人は『ウィッチの範』となるべき逸材だ。リウィッチの成功例であり、その身を以って、軍に尽力している。これがロンメルに知られたら、貴官は査問委員会行きだったぞ」

「ま、まさか」

「加東中佐は、ロンメルと懇意だ。そうなると、まず聴取会議に呼ばれるのがあり得た。そうなる前に気づけて良かったな」

「……はい」

「彼女達はロートル扱いされている裏で、職責を拡大解釈し、放置状態の502、504の統合に影響力を行使している。最も、連邦の後ろ盾があっての事だが。今は506も統合する案が持ち上がっている」

「506まで!?どうして!?」

「あの部隊はワケありでな。多分、決議されると思う。ただ、メンバーの集結が非現実的とする声があるから、奥の手を使うそうだ」

「奥の手?」

「山本閣下はそうおっしゃられた。何だかはわからんが。いいか、一応は、この私も501JFWの一員だということを忘れるな。事務上の管理運営担当とは言え、な」

「はっ……」

そう。実は、ルーデルは、ガランドの配下となり、501の管理運営の責任者となっていた。ミーナが実務を取り仕切る裏での管理運営が主な仕事である。そのため、501基地にはいない。それを改めて自覚したミーナは、この後、三羽烏の取り扱いなどで、ルーデルの教えを請う事になる。



――この時に、話題に出た『奥の手』が、ロザリー・ド・エムリコート・ド・グリュンネ中佐とそっくり同じ声を持つ『翔鶴』、『瑞鶴』による嘘の指令であるとは、知る由もない二人。退役して隠居を決め込んでいたロザリーだが、この事がきっかけで起きた、戦後の騒動の結果、ペリーヌが隊長を引続ぐまでの『ちょっとだけ』の期間、残務整理も兼ねての現役を続行するのだった。。



――ルーデルとの電話を終え、伝説のスリーレイブンズが自らの配下に収まったという事実に、驚きで打ち震えていた。その様子を、ドミニカは目撃したのだ。

「……という感じだった」




「なげーよ!30分以上もかかったじゃねーか!」

「しょうがないだろー!重要事だったんだから!」

「だからってな、もっと要約しろよ!おかげで頭がこんがらがってきたぞ!」

と、お互いにいい年していながら、やっている事は小学生レベルだ。やがて、やってきたジェーンに頭をポカンとされる。

「ん、もう、大将も、少佐も何してるんですか」

「じ、ジェーン!何も叩くこたぁないだろー!?」

「おー、いつつ…。ホント、手加減してくれよ、大尉……」

二人を仲裁するため、頭をペチーンと、ぱーで叩くジェーン。そんな事をしている間に、関東地方を早くも抜けようとする車窓の風景が見えた。

「あれ?もう関東地方抜けんのか?早いな」

「と、いうことはトウホクか?」

「どうやら、そうらしいな」

『ただいま、時速320キロ、320キロ―』

「速っ!」

そう。320キロは、この時代の新幹線をも上回るスピードである。リニアモーターカーには劣るが、それでも、陸上では充分に早い。昔の旅客機や爆撃機並の速度である。関東地方をあっという間に抜けるのも分かる。

「こりゃ、トランプする時間しかないかな」

「ポーカーでもすっか?」

「いや、もう、トウホクとすると、そう時間はかからんから、できんだろう」

「そうだな、このスピードだと、あと一時間もあれば、東北の端っこだな」

そう。320キロの速さは、この時代の新幹線にも出せないというわけではないが、その速さをカーブや都市圏でも維持できるという点が、22世紀ひみつ道具の利点だ。

「そろそろ、運転手の交代ね」

「ん?そうか。最後はしずか、お前か?」

「はい。たけしさんに運転させられないんで。それじゃ」

「おう。頑張れよ」

服装を着替えたしずかが廊下を歩いて行く。ジャイアンが運転したら、スピードの出しすぎの事故は確実であるので、しずかが運転するのも頷ける。と、そこに。


『きゃああああああああああああああああ!!』

と、耳を劈く断末魔が響く。

「な、なんだ!?」

「下原の声だぞ!?」

二人がガタッとバーの椅子から立ち上がると、そこには……。そして、わずかに聞こえる、この世のものとも思えぬ歌声……。それは黒江に、あることを思い出させる。

「あの音痴ゴリラ、とうとう死人出しやがったか!?」

―と。ジャイアンの歌への評価が垣間見える本音を言う。実際、黒江当人も死にかけたことがあるので、辛辣であった―



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