短編『ブルートレインはのび太の家』
(ドラえもん×多重クロス)



――今回、ハインリーケが『アルトリア』に覚醒した事により、エクスカリバー使いが増殖し、野比家を訪れていた者だけでも、合計で二人はエクスカリバーを有する事になった。ハインリーケは前世が前世がだけに、精度が一番高い。黒江はエアにリソースを取られているので、実は技の精度は高くない。黒江は雷と併用する事で、威力を引き上げているので、純粋な斬れ味はハインリーケの方が優れていた。買い物を終え、野比家トレインに帰還すると、ドラえもんの道具で、受信したのび太の地元のローカルTV局『あけぼのTV』の街頭インタビューコーナーが大受けだった。

「ハインリーケさん、何時になく落ち着いた態度ですねぇ。つーか、騎士服姿だったんですか?」

「笑うでない。これでも妾は頑張ったのじゃぞ!?」

黒田は腹がよじれるくらいに大笑い、当のハインリーケは顔を真っ赤にしている。

「邦佳さん、笑いすぎですよ」

「いや、だって〜」

騎士服姿のハインリーケは、大昔の女性騎士のような風格があり、落ち着いた佇まいもあって、TVのインタビューアも緊張しているような雰囲気であった。調は黒田を諌め、某掲示板を見る。

「そうか、2000年だと、あの掲示板って、まだアングラなんだ」

「もう5,6年先なら、ゲームも出てたはずだし、アニメもやってるはずし、そこも一般化してるから、反応が凄いことになったはずだよ」

時代が時代なので、後々のような盛り上がりはなく、黎明期なのがわかるが、ハインリーケの風貌が『アニメキャラみてぇだ』という書き込みが多かった。これがあと5年から6年もすれば、『セイバーさんキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!』や、『リアルセイバーさんwww』と言った書き込みで盛り上がるのは容易に想像できる。あの掲示板の書き込みには特徴があるので、時代ごとの変化も容易にわかる。

「これがあと、10年も先なら、ツイ◯ターとかで呟かれたりしただろうがだろうから、かなり盛り上がるはずですよ。少佐はセイバーリリィの方ですけど」

「ある意味、本物だからね」

「じゃが、ある意味では考証の練り込み不足じゃぞ。円卓の騎士の時代にプレートアーマーはない。チェインメイルかバンデッドアーマーが主流だったのじゃが、見栄えの都合だろうな」

ハインリーケは前世の記憶から、断言する。プレートアーマーが現れたのは、円卓の騎士の時代の遥か後になる。なので、コスプレ衣装一式の様式は、正確には少なくとも13世紀以降の時代の様式に相当する、騎士の服装としてはかなり後期の時代のものだ。

「……のび太、お腹が空きました」

「そのままの台詞ですね、少佐」

「腹が空いたのは事実じゃぞ」

「今、下原少尉と用意するんで、待って下さい」

ハインリーケが冗談めかして、『そのまま』の台詞を言う。のび太は笑う。そのままだからだ。調が立ち上がり、台所に向かう。下原が台所に立っている手伝いに行くのだ。野比家のキッキン周りは1990年代前半に取り替えたものなので、2000年当時の最新のものに比べると古いが、1940年代のものに比べれば、遥かに洗練されている。システムキッチンが現れたのは昭和40年代後期の事。下原は家が台所の設備に無頓着な学者の家なので、転生しても、システムキッチンを使ったのは、家が自分の子や孫世代に世代交代した後の晩年期の事なので、嬉しそうである。

「あれ、少尉。システムキッチン使った事ないんですか?」

「うちね、私の代まで学者一家でね、システムキッチン入れたのも、転生する前は私の晩年期だったんだ。兄たちや父は竈に拘っててね。私の晩年の頃にすぐ上の兄が亡くなってからなの」

「古風ですね」

「元々、私の家は農家だったんだ。曾祖父の代にご一新があってからは学者で食ってるけどね。上京したのは父が帝大の教授になった頃だから、大正の頭くらいなんだ」

「なんだか歴史の中の出来事みたいです」

「しょうがないよ。私達の子供の頃はご一新をリアルタイムで見てきた世代のお年寄りがごろごろいたし、東郷平八郎元帥も私達には『最近まで生きてた偉人』の感覚なんだし、その辺はね」

下原にとっては、明治や大正はそれほど遠い過去という感覚はなく、むしろ平成の世のほうがよほど遠く未来に感じる。これは生まれが1927年で、この時代の70代前半相当のお年寄り達と本当は同い年であるためだ。また、レヴィ(圭子)にしても、生まれ故郷の北海道は久しぶりなのだが、景色が60年近くの歳月で変化した事には感慨深く、連絡船が廃止されているのもカルチャーショック(転生しても)らしい。

「そう言えば、レヴィさんが青函連絡船って言いかけて、引っ込めてたけど、知ってるのに、口に出るものなんですか?」

「そうだよ。いくら知ってても、実際に見ないと実感って沸かないよ?私達の頃は青函連絡船も華やかなりし頃で、氷川丸も現役貨客船だしね」

「あの横浜にある?」

「うん。確か、北米サンフランシスコ航路の任に就いてるはずだよ。日本帝国みたいに徴用して使うほど輸送船や病院船に余裕がないわけじゃないし、いくつかの優秀船舶が買い上げられただけだよ」

「どんな?」

「え〜と、飛鷹型航空母艦の母体の橿原丸級貨客船。元々、戦時に空母にできるように助成金出してたから、あれ。優秀船舶建造助成施設って政策でね。航空機と航空ウィッチの母艦に戦争になったら改造できるようにしておくのを条件に助成してるんだ。日本郵船から『詐欺だ』のどうの言われてるけど、私達には関係ない話なんだけどねぇ」

この旅行前、下原が読継新聞で目にした記事には、日本郵船のわがままぶりが報じられていた。橿原丸級貨客船と新田丸級貨客船を買い上げるからよこしてほしいと言ってきた日本郵船。これは空母の主流が50000トン級以上の大型に移り変わる時代であるのを知る日本郵船の希望的観測からの要請であったが、扶桑海軍としては上層部は賛成であった。これは当時、空母艦載機のジェット戦闘機化で大型空母を少しでも多く必要としていたからで、地球連邦海軍からスーパーキャリアを買い上げる資金にしたかったのだが、現場が猛反対した。特に、スーパーキャリアは当たり前だが、元からウィッチ運用は考慮されていないので、ウィッチ母艦として最適な大きさを持ち、艤装も当時としては比較的新しく、運用に熟れてきた飛鷹型を取り上げるのはまかりならんと宣言したのだ。更に、鬱憤の溜まっていた艦所属ウィッチ達が見学に来ていた日本郵船のある重役の反軍的物言いに我慢ならず、殴打してしまうという騒動が起こり、赤松が自衛隊から呼び出されて、事の収集に当たる事態となった。その際に、日本郵船側の非が自衛隊(赤松)から咎められたので、『彼個人の見解であり、社の総意ではない』と社長が釈明する騒動になった。その顛末が報じられていた。結果、日本郵船は扶桑で払い下げ候補に上がっていた『大鷹型』(書類上。正確には改名前の名のままだが、空母にはされていた)を購入する事で手打ちにした。また、海上護衛総隊には、亡命リベリオンが持ち込んだが、空母としての使い道が無くなる軽空母が代替として(大鷹型は海上護衛総隊が運用の希望を出していて、運用中だった船もあった)与えられた。また、ウィッチたちを侮辱した精神的苦痛の賠償金も兼ねて、かなりぼったくって売った(通常の倍)ので、自衛隊からましゅう型補給艦の設計図を要求する余裕も生じた。その事が報じられている。

「扶桑の最大手新聞を取ってるから読んだんだけど、向こう側の重役が空母ウィッチたちをかなり侮辱したらしいんだ。パワハラもんだって、大先輩が言ってた」

下原は元は海軍出身であるので、空軍移籍後も海軍ウィッチとの繋がりを維持し、生え抜き空母搭乗ウィッチたちの苦難に同情している。当時、空母ウィッチ達は自己での作戦行動能力をベテランの空軍移籍により、ほとんど喪失してしまっていた。一部残った幹部らが再建に奔走しているが、平均飛行時間は400時間から500時間というひよっ子ぶりであった。これはマリアナ沖海戦の際の搭乗員の飛行時間より数値の低いもので、空軍部隊の洋上勤務の推進が行われている背景も、そこにある。その施策の推進は、海軍ウィッチ達には我慢ならぬものだった。しかしながら、当時は空母艦上機が大きく革新を遂げていく時代に入っていた事、国民や政治家にある、扶桑海以来の飛行戦隊への信頼度の高さと、クロウズがレイブンズには及ばなかったという事実もあり、政治的に軽んじられていたのは確かである。特に、レイブンズが突如として舞い戻り、扶桑航空の主導権を再度握った事も重なり、海軍航空ウィッチに鬱憤が溜まっていたのは事実だ。

「その事件で、海軍空母部隊の再育成が脚光を浴びたんだ。先輩達は普通のパイロットとしても優秀だけど、私達の代になると、飛行機のパイロットになれるほど密度の高い教育はされなくなっていたし、輸送機の操縦は従卒や他兵科に任せる事になってたの」

ウィッチ教育は戦時になると、ウィッチとしての技能と知識だけを詰め込む速成教育に切り替わっていた。下原や菅野の代では簡略化がだいぶ進んでおり、練習機の舟形ユニットが宮藤理論型の零式練習脚に置き換えられていたのもあり、飛行機の操縦技能はGへの覚醒で得たものである。Gではない通常ウィッチたちの多くは不用品扱いに憤然としていたが、飛行時間が少なすぎるのは事実だ。

「リベリオン海軍よりはマシだったんだけどね。あそこは200で実戦に出してたから」

扶桑の航空兵育成は選抜的であり、厳格なものだったが、戦時でウィッチが必要になったので、44年の前半では、扶桑は500時間の訓練を受けた者をウィッチ/航空兵問わず部隊に送り出していた。しかし、ウィッチも航空兵も消耗戦になるのが予想されたため、課程を更に短縮しようとしていたのを、日本は800時間を飛んでいないと実戦に出さないようにする、扶桑海軍航空隊にとってのちゃぶ台返しをやらかした。日本はマリアナの七面鳥撃ちの記憶があるため、1000時間は必要とも言い、課程をむしろ長期化させた。また、機材を一気にジェット機やターボプロップ機に更新させたため、教育の手間が余計に増えたとぼやいている。減ったウィッチの穴埋めに義勇兵を雇用したのもあって、ウィッチ達の居場所は縮小していた。これは特攻隊が100時間あまりで特攻に行かせれていた事を理由に、日本が主導してカリキュラムを長期化させたため、並の新兵ウィッチより、鍛えなおせば、短期間で一級の戦闘機搭乗員になる義勇兵のほうが使い出があるからだ。更に言えば、赤城や天城の例だが、空母がウィッチ母艦になった場合、ウィッチ8名、艦戦16機、艦攻8機と、笑えないほど搭載数が減るため、艦載機数が米国型空母より少ない日本型空母では、軍事的な弱点になる。ウィッチが持っていた軍事的利点の『消滅』もあって、エレベータを専有する割に、もたらす効果が薄れたウィッチを、敢えて空母に置く意義が薄れたので、ウィッチ装備は雲龍型や飛鷹型航空母艦に回され、翔鶴、大鳳などはウィッチの同時発着数を減らし、ジェット戦闘機を多く載せる編成に移行している。これは両艦がGウィッチ用母艦になったのと、Gウィッチは通常パイロットも兼任できるので、即座に機動兵器で出撃できる利点があるからだ。

「義勇兵を穴埋めに雇ったから、未熟なウィッチを出せなくなったとか同期がボヤいててね。おまけに英語教育の徹底もやってるから、脱落者が出始めてるんだ」

ウィッチは元来は『魔力さえあれば、農民の子供でも一定期間の軍務を終えれば、名士扱いになる』のが農村部にとっての魅力であったが、農村部には『教育を過剰に受けて、都会に出てゆかれても困る!』という事情があり、都会への働き手の流出を恐れ、ウィッチの新規供給を細らせていた。従って、ウィッチの損失補償に支障が出たので、義勇兵を雇うのは当然の帰結である。これを重く見た天皇陛下の玉音放送で、不敬罪を恐れた農村部も渋々ながらウィッチ供給に協力的になったが、その時には農村部の女子が今までと同じ感覚で入れるほど敷居の低いものではなくなっており、『魔力があっても、教育程度が低すぎて、弾かれる』という問題が発生しており、救済措置として、『日本で高・大を卒業する留学を経ていれば入隊できる』というカリキュラムを発表している。これは求められる知識が遥かに高度化してしまったため、40年代の女子における一般的な学歴『小学校卒』では足りないのだ。(44年時点で中学校に行けていた芳佳やみっちゃんはエリート層に入る。しかしながら、今回では、扶桑が連合国に加盟した時点で、日本とほぼ同じ学制にはなっていたが、農村部には高校以降に行かせない家庭も多かったのも事実だ。これは明治期以前の世代の者に多い『女子に教育は必要なし』の思想が農村部には残っていたためだ。そのため、日本の『誰でも大学に行ける権利がある』の思想の流入に反対したのは農村部に多い。都会は戦力確保のために欲しがった)そのため、ウィッチの確保数の先細りを天皇陛下が心配し、地方を行幸し、女子教育の普及を促し、玉音放送でも言及する事態になった。これに顔面蒼白になった農村部は不敬罪を恐れ、ウィッチとなっていた子たちを次々と送り出す。集団就職のウィッチ版だ。従って、いやいや送り出された者も多いので、長くは軍に在籍しないと見込まれており、実質的に数合わせである。軍部もそれら集団就職者には後方部隊か、自衛隊への斡旋を行っており、残ったのはその内の数割だ。親が第一次世界大戦の従軍者、あるいは祖父母が日露戦争相当の戦いに赴いた経験を持つ『軍OB(OG)の親族』であった。

「で、宮藤さんが人員を振り分けてるんだけど、『軍に残れるのは3割いけば良い方』って言ったんだ。その時はショックで…」

「少尉?」

「私は、坂本さんからウィッチとしての心構えを教えられて育ったの。リバウにいた時……私がまだ新兵だった頃で、クロウズの絶頂期だった頃。常々、先輩たちのようになりたいって言ってたんだ。その時にGだったって分かったのは、つい最近だけど」

坂本は今回、絶頂期の時には既にGウィッチであったので、下原には特に厳しく接した。大成すると分かっていたからだ。下原は未覚醒時には恨んだ事もあるが、坂本が時々見せる自嘲的な姿に戸惑った。そして。常々、友情を大事にしろとも言っていた。前史での黒江との悲劇が坂本を変えたのだ。また、『私は昔、ある奴を泣かせてしまってな』と語った事が、前史における黒江との事であった事は芳佳から覚醒後に知らされた。黒江に対して、坂本が献身的なのはそれが理由だと。

「坂本さん、黒江先輩に対してした事が、死ぬまで心に引っかかってね。私が最後に会った時にも『私は最低のことをしてしまった』ってこぼしてた。だから、黒江先輩に仕える事を選んで、新兵だった私にこういったの。『自分一人で何でも出来ると思うな!』って」

「坂本少佐は師匠の事を?」

「ええ。素直になれなくて、自分勝手な思い込みで喧嘩別れして、自分の子供に邪険に扱われる老後だったから、坂本さんは、若い姿で先輩に詫びたくて、転生したと思う」

「そうですか…。それで坂本少佐は……」

「だから、自分は先輩みたいな英雄になりそこねたって言ってたんだ。あの時、絶頂期だったのに、自虐的な面があるの不思議に思ってたんだ」

坂本はGへの覚醒後はクロウズとして名を馳せていた時期でも、戦果を誇ることは少なく、あこがれの人として、黒江の名を挙げているなど、黒江の事を意識していた。そして、未覚醒だった当時に、黒江の事を羨まむ発言をする坂本に訪ねた事がある。坂本はこう言った。『上には上がいる。人の可能性は限りが無いから、羨んでも妬む必要は無いし努力すれば追い付き追い越す事も出来ない訳じゃない。夢を裏切らなければ、夢も応えてくれる、諦めるまでは何事も終わらんからな』と、前史でウィッチ全体のために生きた黒江や芳佳を意識した一言を言っていた。転生前の黒江の強さを、1942年までに追い抜いていたが、Gウィッチであり、聖闘士でもある今の黒江には及ばない事も意識していた。黒江は『昔のオレ(黒江は二度目の転生での自衛隊入隊後から、オレという一人称も使うようになった)なら勝てるぜ?だがよ、今はその比じゃねーぜ』と笑い飛ばしている。(黒江は二度目の転生後は自衛隊仲間に漢女が多く、その影響で『オレ』を使うようになったとのこと)坂本はそれをその時点で知っており、前史で宮藤に注力した結果、同じ部隊にいても構ってなかった事の償いでもあったのだろう。

「前史で私、宮藤さんを意識しちゃって、先輩に迷惑かけた事あるんだ。それもあって、リバウにいた頃は私に目をかけてたのかも」

下原はGへの覚醒で解けた疑問を話す。料理をしつつ。そこはプロだ。坂本が『友情』と『償い』を口癖のように言っていた本当の理由を。坂本は前史で娘により、軍関係者と強引に縁切りをされた事や、最期まで黒江が自分を探し続けていた経緯から、今回は仲間であった者、これから仲間になるはずの者には優しい面を見せるほうが多い。黒江へは特にそうであり、黒江の誘いにはすぐに乗る。下原に目をかけていたのも、自分の愛弟子であるからだ。

「今だからわかるんだ。坂本さんは若い姿のままでいたかったと思うんだ。ずっと。人生で一番に楽しかった時期だって言ってたから…。常々。だから、今回は嬉しいの、私」

下原はGウィッチに覚醒した事に肯定的である。坂本の晩年の悲劇を最も死の直近まで知っていたからだろう。そこが今の自我の消失を恐れているミーナとの差であった。ハインリーケがアルトリアと融合し、新たな自我になった事をハイデマリーから伝え聞き、恐れを抱いた。黒江達が戦間期の自分を捨て、前史の自分のやり直しを選んで、体を前史の自分に委ねたように思えたからだろうと、下原は推測していた。実際は、黒江がそうであるように、『前史の経験が加味されて、判断基準が高度になり、死の直前の状態に精神が熟成する』だけだ。

「先輩達がそうだけど、人格が上書きされるわけじゃなくて、経験が増えたから、心が最終的な状態になるだけなんだけど、転生自体が特異なケースだから理解されなくてね。突然変異って見られてる。これって結構堪えるよ」

「私も似たような事体験しましたけど、久しぶりに親友と再会した時、なんて言おうか、疎外感感じました。一度は大人になってたから、その目線で見ると、今までの自分が子供のようにしか思えなくて……。師匠の記憶や感情がフィードバックしてたせいもあるかな?自分達が始めにやろうとしてた事は自分達の独善でしかなかった事に気づいちゃって…。ヒーロー達を見てると、つくづく実感するんです」

調は日本の歴代スーパーヒーロー達の存在を知り、轡を並べて戦った事で、自分達が大義名分として掲げていた事が『薄っぺら』であった事を痛感した。その事と、黒江の感情と記憶がフィードバックした事で、自分達の決起の背後にいた『パヴァリア光明結社』の事も『自分達を蜂起の口車に乗せた連中』と見ている。ヒーロー達が果てしなき戦いに(パヴァリア光明結社は、先代黄金聖闘士の中でも三強と讃えられる天秤座の童虎がその力を以て蹂躙した事でほぼ壊滅しており、錬金術では神と同質の力には打ち勝てない。元の世界が動乱に巻き込まれる可能性はグンと低くなっている)

「私の元の世界は、老師・童虎が本気だしたおかげで、ほとんど平和になった。人同士が戦わない限りは。錬金術も、小宇宙の前には『チャチな力』でしかない。それを目の当たりにして、私は選んだんです。師匠が仲間を求めてるのなら、それになろうと」

調は、黒江と行動を共にする理由の一端を述べる。一つは童虎や黒江の『圧倒的な力』に魅了された事、もう一つは自分達が掲げていた大義も、ヒーロー達が信ずるモノに比べれば『ちっぽけで独善的』でしかなかったと実感した事、黒江が仲間を求めている事に共感した事が、自分の身を黒江達の裁量に身を委ねた理由だと。

「だから、多分……、別世界での私が、ここにいる私を見れば、『偽善者』って言うでしょうね。だけど、私は見たんです。師匠が辿ってきた生き様、痛み、戦いを。だから、もしも別世界の私自身が立ち塞がったのなら、ねじ伏せるまでです。それが私が取った選択です」

黒江もそうだが、たとえ別次元の自分であろうが、仲間を軽んじるような真似は許さない。それが黒江が前史で『ホテル事件』を起こした背景だ。調も、マリアや切歌を『自分が守護すべき者』と考えるようになっており、二人を過酷な戦いに駆り出すのは忍びないと、自分が率先して戦いの因果に飛び込む選択を取った。(後に、マリアや切歌も悩んだ末にその選択を取り、パルチザンに参加するのだが、調は別次元の自分と敵対することも厭わないあたり、レイブンズ流の思考回路と化しているし、『ねじ伏せる』と言う辺り、黒江の思考が特に入っている)

「先輩を見てるみたいだよ、その言い方」

「最近、よく言われます。……ん、コク出てますか?」

「ん、出てる出てる」

二人が作っているのはカレーであった。出かけたのが週末であったので、海軍連中が食べたがったのだ。カレールーを味見してみる二人。調は実のところ、カレーに縁が薄い。幼少期は日本にいたはずなので食べたはずだが、幼少すぎる上、孤児院に保護されてからの物心ついた時にはアメリカ在住だったので、日本が生み出したカレーライスは実のところ食べた経験が事実上ない。そのため、菅野達が『カレー食いてぇ!!』と喚いているのに乗っかったわけだ。

『帰ったぜ〜』

「あ、菅野さんだ」

菅野は見回りなどに従事していたので、帰るのが遅くなった。そのためか、服をすぐに脱ぎ、のび太が気を利かせて沸かしておいた風呂に入る音が台所に聞こえてきた。

「あ、菅野さん、風呂入ったみたい。食事終わったら、先に入っていいよ。私は片付けあるから」

「すみません」

野比家の出先での家事は下原と調の担当になっている。菅野達にやらせるのは無理だし、リベリオン系の連中(ジェーンがいたが、彼女は菅野と交代で相方のドミニカと見回り中だ)は大雑把なところがあるし、レヴィやマルセイユは論外。真美は今回は任務が入ったので、途中合流の予定となっているので、まだいない。その間は下原と調が中心である。

「そろそろハルトマン少佐が来る時間だね。多めに材料買っておいたから、大丈夫だと思うけど」

「やぁやぁやぁ、遅くなった〜」

「あ、来たみたいですね」

ハルトマンの疲れた声が聞こえてくる。のび太が出迎えるが、追加の客がいた。バルクホルンであった。

「あれ、バルクホルン少佐も来たんですか」

「こいつを放ってはおけんし、ちょうど休暇が取れたのでな。ミーナを見送ったら、ハルトマンが何やら準備していたので、問い詰めた」

「おかげでトゥルーデに捕まっちゃってさ、ノビタ」

「失礼な、私はお前やマルセイユの保護者としてだな……」

「え〜。レヴィとかいるじゃん〜」

「あの方は普段はともかく、あの姿では、そういう柄ではないだろう!」

「少佐、そんな事言うと、レヴィさんに遊ばれますよ」

「ほー、言ってくれるな?少佐」

「じ、准将閣下!」

「ほら、言わんこっちゃない」

「この姿だから、大佐でいいぜ、少佐?軍籍は別に持ってるからな。それに今はオフだから気にすんな」

圭子は本名での扶桑皇国軍人籍と、レヴィとしての亡命リベリオン軍籍を保有している。後者はアイゼンハワーが非合法活動用の身分として与えたもので、彼が手を回して書類を作り、極短期間で仕立て上げたもので、書類上は『リベリオン軍の情報部所属の軍人』である。圭子としての落ち着いた佇まいと対極に位置する、レヴィとしての粗野な振る舞いは、バルクホルンを戸惑わさせる。

「別の国の軍籍を作れるものなのですか?」

「高官が工作すれば、軽いものさ。情報部所属の軍人なんてのは、普段は別の部署にいる事になってるしな」

地球連邦軍もそうだが、軍籍を作る工作は軍閥が蔓延る時代にはよく行われ、シャア・アズナブルなどの元・ジオン軍人は軍閥時代に行方不明の連邦軍人の軍籍を買い、成りすましている(軍籍情報が一年戦争で散逸した幸運もあるが)。亡命リベリオンは見方を変えれば、アイゼンハワーとニミッツなどが率いる、扶桑へ亡命した軍閥であるので、レヴィに軍籍を与えるのは容易なことだ。

「中華系リベリオンという事にしてある。中華系は世界各地にいるから、国が滅んでも、民族だけは残った事になる。だから意外に多いぞ?華僑」

「うーむ。いつ見ても信じられません。まるで別人だ」

「あたしはまだ原型残っとるぜ?ハインリーケを見てみろ、驚くぞ」

「なんじゃ、お主も来たのか、バルクホルン少佐」

「は、ハインリーケ少佐!?なんだその格好は!?まるで100年以上前の騎士のような……」

「落ち着け、玄関で騒いでどうする?」

「いや、その……」

ハインリーケの声はアルトリアへの覚醒が起こっているので、それまでよりトーンが低めかつ、凛とした声となっている。その変化はバルクホルンを驚かせた。また、プロテクターは外しているが、騎士服であったのがインパクト大だった。

「とりあえず、積もる話があるのでな。居間で話そう。『私』の前世にまつわる話もせねばなるまい」

「ミーナには言ったけど、トゥルーデには言ってないよね?」

「うむ。一緒に来てくれ」

一人称を『私』と言ったが、ハインリーケとしてではなく、円卓の騎士であり、ブリタニアの王であった『アルトリア・ペンドラゴン』として話すからか、一人称を切り替えたのだろう。居間でハインリーケはGウィッチとしても特殊な立場であることを話し始める。前世がブリタニアの伝説の英雄であったという特殊性を。

「少佐が……ブリタニアの伝説の王で、円卓の騎士ぃ!?」

「そうだ。ただし、伝説は長い歳月の流れで脚色されている。私は性別を偽って王位についたのだ。それ以外は伝説の通りになる」

「それでは、その気になればブリタニアの王位継承権が?」

「ミーナ中佐、いや、大佐か……にも言ったが、今のブリタニアの王位継承権というのは、ステュアート朝の血統が残っており、尚且つハノーファー朝の者が持っておる物。たとえ円卓の騎士という事を証明したとしても、私は王位継承権には関われぬよ」

円卓の騎士。ブリタニアの伝説で、1940年代でも人気のある題材である。Gウィッチとしてのハインリーケはその生き証人という事になる。だが、確かに伝説の通りのエクスカリバーは持っていると明言し、この服装と髪型は王位を継ぐ前の修行中の時の姿とほぼ同じものだと注釈をつけた。

「あくまでも肉体と精神がセットで王権だ。たとえ、かつての王の魂だけとか、別の王朝などに王位の移譲がなされた後は継承権も無くなる。ブリタニアは何回も王朝が変わっているから、ロザリー中佐のほうがよほど正当な王位継承権者だ」

ハインリーケは『アルトリア』としての心境を話す。一度は王位についた事がある者である以上、身についた風格というのは大きい。特に、円卓の騎士であったのだから、並の歴代の王よりよほど威厳がある。王権が1940年代よりずっと大きかった時代を生きていたからだろう。

「私は絶対王政よりもずっと前の時代を生きていた。王位というものも、1940年代とは意味合いが全く違う。一概には比べられないものと考えてくれ」

アルトリアとしては、自分より王位に相応しい者はいたという不満を当時は抱いていたが、結果として、自分が英雄で、騎士像の理想像にされていることには苦笑交じりの思いであるらしい。

「私はエクスカリバーを引き抜いた事自体に後悔はなかった。が、私で良かったのか?という思いがあった。今となっては遠い昔の出来事だが」

エクスカリバーを引き抜いた事が自分の王位継承の理由であるが、彼女は『当事者』としては複雑な心境があると漏らした。最終的に、子であるモードレッドに殺されるが、『自分が認めなかったから、モードレッドは歪んでしまった』という後悔を抱いている事、モードレッドの魂がペリーヌとして転生している可能性を告げる。

「そうなったら、あいつは苦しむ事になるのでは?前世が円卓の騎士なら、ガリアの愛国者であるあいつは驚くしかないはず」

「モードレッドは私に反発していたからな。もし、目覚めたとすると、二重人格になるやもしれん。ペリーヌは強烈な愛国者で、強固なアイデンティティがある分、人格が共存する事になるのは想像に難くない事だ」

「確かに、財産をガリアに捧げるほど愛国心の強いあいつが、モードレッドの人格と融合を拒むのは有り得そうな事だ」

バルクホルンも、ペリーヌは親族や家族を目の前で失うという境遇であり、祖国愛がずば抜けているのはよく知っている。そのため、前史では覚醒しなかったとも考えられる。今回でモードレッドになろうとも、ペリーヌは融合を拒むだろうと、ハインリーケ(アルトリア)は予測し、バルクホルンもそれに同意した。実際、ガリアの復興に粉骨砕身のペリーヌが円卓の騎士になり、ブリタニアに鞍替えするのは想像できない。ハインリーケは、自分はアルトリアとしての自己を受け入れたが、ペリーヌは『ペリーヌ・クロステルマン』であり続ける強い意志があり、モードレッドとしての覚醒を押さえ込んでいる可能性を示唆する。おそらく、自分がアルトリアに覚醒したことでの共鳴でのフラッシュバックは起こっていようと推測し、ペリーヌは苦しんでいようとする。

「私は王位にいたものとして、自分の子との軋轢をどうにかできなかった事を恥じているよ、少佐。私は前世では14で王位についた。若すぎる、と思うかもしれないが、当時は14で充分な年齢だった。一桁で王位を継いだ王は世界を見ればいくらでもいる。……だが、後から考えてみれば、その若さが、私の生きた前世で犯した過ちの一つかもしれん」

ハインリーケは落ち着いた調子で話すが、前世の失敗を悔やんでいるところも大きいのを滲ませた。一人称を「私」で通しているのもあり、それまでの『世間知らずな貴族』ではなく、騎士道の理想像にされるほどの大人物に、バルクホルンは思えた。

「貴方をどう呼べば?少佐、いや、『陛下』?」

「昔の事だ、『陛下』は必要ない。今は王では無いしな。あとは、皆が見てないところでは『アルトリア』と呼んで欲しい。それが前世での本当の名だ。リーダーシップを取ろうとして失敗したのが私だ。陛下と呼ばれるのは、呪縛に囚われているようで、好きにはなれない。冗談で言うのはいいが」

ハインリーケは一つだけ注文をつけた。それは自己の呼び方。事情を知る者達だけでの状況では『アルトリア』と呼んでほしいと。『アーサー王伝説』の呪縛に囚われていたため、転生してまで、それに縛られたくはない本心だ。

「わかりました。できる範囲で協力します、アルトリア」

「これで一件落着だね」

「しかし、あなたがエクスカリバーを使える事は隠さないで良いのですか?」

「黒江准将がバンバン使っているからな。私が使っても、問題あるまい」

「エクスカリバーのバーゲンセールですな」

「私が一番精度高く、准将が一番に低い。が、あの方はエアを持っているが故のことだからな」

「ところで、気になってたんですが、その顔は?」

「ああ、私は准将達と違って、まだ能力を制御できなくて。それで精神状態に合わせて、前世の姿に自動的になってしまう……。驚かせてすまない」

「なるほど。准将達の能力は制御されたためのものか…」

「ああ。だから、私もその内には制御できるようになると思う」

後に、彼女も変身能力の制御に成功。アルトリアとしての姿と、ハインリーケとしての姿の使い分けに成功する事になる。ある意味で、黒江が後に、コミケの売り子にするのも頷ける。


「ごはんですよ〜」

のび太達が居間にいた三人を呼ぶ。話を終えた三人(ハルトマンは立ち会っただけ)は食事へ向かった。




――同じ頃、黒江は2005年に滞在しており、名誉毀損の訴訟を戦う傍ら、日本連邦の将来的な結成が報じられ始めた頃でもあるため、あるホテルに宿泊し、新聞を読んでいた。日本の中道系新聞までは連邦結成に肯定的、左派はどれもこれも反対だった。理由は単純明快『軍国主義の皇国と手を組んだら、ロシアと中国に攻められる』というトンチンカンな理論、はたまた、皇国には、一少尉が皇室から直接、指揮権を移譲されていた過去がある事を指して、『文民統制のぶの文字も知らぬ愚か者』と馬鹿にするものまで存在した。武子が一時的に指揮権を移譲されたのは、クーデター事件で内閣も議会も機能麻痺、皇室が国家緊急権を使っただけだが、それを文民統制の観点から論ずるのは的外れである。元々、扶桑陸軍はプロイセンの影響大だが、政府や議会はブリタニアの影響で、かなりの権限を有する。政府と議会の機能麻痺状態でも、皇室は動かなくてはならない。これが国家緊急権を行使しなければならない時。反対論者の多くは戦争を知らない。これが扶桑側に失笑を買う事でもある。連邦結成後、『連邦政府の名のもとに』という文面で日本側にも導入される。これは扶桑側の太平洋戦争が日本側に波及する事が予測され、日本に火の粉が降りかかるのが素人目にも見えていたからであった。また、数年後の政権交代でちゃぶ台返しされる『自衛隊内に元帥相当の将を置く』、『扶桑軍の事は扶桑側に任せる』(再度の政権交代後、合議で取り決める事項は合議で決定に改定)などの事項はこの時点で内定していた。日本の左派は『将官を全員クビにしろ』、『自衛隊の人員を彼らより上位としろ』だの、馬鹿げたルールを作りたがり、ウィッチを得体の知れない存在と排除しようともしていた。扶桑でウィッチ関連の募集や新陳代謝が鈍化した理由は彼らに原因があった。結果、ウィッチ兵科の消滅の要因の多くは日本からの左派的・反ウィッチ思想の流入でもあり、Gウィッチが実質的にウィッチ兵科の最後の華を飾ったのも、ウィッチ兵科の維持が不可能と判断されたからだった。

「たしか2009年だよな。翁の孫のユキヲくんがお花畑しだす時代は。あれで翁は脳血管破裂だもんなー」

黒江は新聞を読みつつ、ため息をつく。2009年に鳩山一郎の孫『ユキヲ』が総理大臣になった途端にちゃぶ台返しし、扶桑の外交官が、『前政権からの引き継ぎと言うものは無いのですか?合意書まで進んでるものを今更変更とか調印まで進める意味が無いですね、何時また卓袱台返しにあうかわかったもんじゃない!』と猛抗議を加え、それを聞いた鳩山一郎が激怒し、ユキヲを直接怒鳴りつけるという出来事も起こる。この時に血圧が上がりすぎた鳩山一郎は緊急搬送で入院、ユキヲはパニックになって内閣総辞職と、醜態を晒す。彼の次の総理の管チョクト(くだ・ちょくと)の代で、ユキヲの提案から軍関連のトーンダウンが三段階起こる。第一段階はユキヲ時代のそれを修正した『三軍を時間をかけて縮小させ、自衛隊に近い規模にして統合させる』というものだ。時間をかけてというのは、当時の左派政権内部の急進派がこだわった文面だった。これは外圧で潰える。アイゼンハワーやド・ゴール、チャーチルが相次いで来日し、『国際連盟の常任理事国である扶桑には相応の軍事的負担をする義務がある』と外圧をかけたのだ。左派も国際的圧力に恐れを為したか、次第に内部崩壊を始める。『他国の要望により、軍は縮小しつつも一定の規模で据え置き、やがて統合させる』という第二弾が出された時には、彼の政権も大震災で虫の息であった。そのまた次の政権で『陸軍を大幅に減らし、空海を主体にした構成に改革して据え置き』という案が出されたが、扶桑で暴動が起こる。彼が首脳会談に来た時にそれに合わせて暴動が起こったのだ。扶桑では1946年を迎えていた頃だ。結果、『三軍はそのまま、ただし自衛隊と統合運用するための機関を置く』という交代前の案に一周した。再度の政権交代が起こった後、連邦結成の動きが加速し、同時に黒江らへの冷遇も終わった。

「で、12年にいきなり将補、15年に将になって、16年に対外任務統括官。ほんと、あいつら余計なことしかしねー」

黒江の出世も4年以上ストップしていた事になる。最も、ブルーインパルスを離れる11年頃には叙爵が通達されたのと、扶桑で准将になっているのを考慮し、実質的には代将扱いであった。それが正式に将補になるのが翌年のこと。黒江は准将だけであれば、一佐の最上位として遇されただろうが、叙爵が効いたのだ。黒江のように、戦功で爵位を与えられる者は厄介と見られた。ちゃぶ台返しのショックが覚めやらぬ頃であり、防衛省は黒江が近いうちに子爵に昇格し、永世華族となる事を知らされ、将官に上げて対応した。また、黒江にホイホイと爵位を与える昭和天皇は軽率だと批判する声が日本の評論家の中にあった。また、黒江は日本で言えば『新華族』(後から戦功で任ぜられた)に相当するので、日本の旧華族からも批判が見られたが、『飛行機乗っただけで騎士爵貰える国よりマシだろ?勲功に対してで、宮内省と貴族院の賛同有りで決まってるんだし』と意に介さないが、日本でも霞会館に出入りする権利は得た。

「ん、ペーター・シュトラッサー、結局、返還するのか。20年代に売った意味ないじゃん」

ホテルに入っていた扶桑の新聞には『ペーター・シュトラッサー、我が国に返還される』の一面記事が踊っていた。ペーター・シュトラッサーは元々、天城型の四番艦だった空母で、航海機器や航空艤装の違いから、相方の戦没で結局、持て余していた空母だ。結局はUボート増強に伴い、祖国へ返却されたので、悲運の空母と言えよう。また、持て余していた影響で再生の手間もかかる。カールスラントは恥をかいたのだ。

「代わりに、Uボートを購入ねぇ。カールスラントは驚いてるな」

扶桑は攻撃型潜水艦が不足しており、日本からウィッチ搭載潜水艦の静粛性の問題がつつかれたのもあり、伊号潜水艦はすべての運用が停止状態になっていた。実働戦力がないのも問題なので、ペーター・シュトラッサーと引き換えに、Uボートの購入でケリがついた。扶桑も今更、ペーター・シュトラッサーは欲しくはないが、Uボートは是非にも欲しい。そのため、実質的には旧式空母はUボートのついでに返してもらう扱いである。。改装から10年以上経ち、空母としては完全に旧式化したペーター・シュトラッサーは元の『愛鷹』に戻して、ウィッチ用に回す運用が望ましい。艦齢の進行もあり、第一線空母としての運用は難しい。カールスラントが手を入れた箇所の構造的問題もあった。そのため、大量に余った雲龍型が各用途に転じていった(空母として運用されないまま空母籍から外れた個体もいた)のと同時に、日本に更に売却され、空母赤城のセットなどとして映画撮影に使用されたという。(銀幕で姉を演ずる姿は、日本にある意味で感動を与えたという)また、大量の用途転換と除籍で第一線空母は逆に不足し、質で数を補うため、スーパーキャリアと、45000トン級改装空母(13号型の部品を流用した)の建造が進められていると書かれている。45000トン級空母は繋ぎであり、ミッドウェイのように、60年代相当世代までが乗ればいいという算段だろう。しかし、大型空母の建造が終わるのは3年くらいの大作業である。

「空母が完成して、実戦配備は三年前後。45000トンは確か、13号の連中の改造だよな?4年かかるだろうから、かなり激戦期の竣工になるだろうな」

黒江は、改装空母最後の華になるそれらを知っている。前史で乗艦した記憶があるからだが、かなりの工事で配備が遅延していた記憶がある。しかも激戦で酷使するはずなので、状態が悪い一隻は戦後すぐに廃艦された記憶すらある。

「たしか住重が空母の整備とかやってたはずだよな。明日、先方に伝えて動いてもらうか。アングルドデッキは欲しいし」

黒江は翌日、住重に連絡し、空母改装の受注を扶桑の海軍工廠から奪う形で勝ち取り、彼らが持っている技術を注ぎ込んだ結果、ミッドウェイ級(改装後)ほぼそのままの威容の大型空母となって生まれ変わり、蒼龍と飛龍を退役に追い込んだほどの高性能ぶりを見せる事になる。その艦が出揃うのは1949年以降ではあるが、扶桑に近代空母の何たるかを教育する事になる。


「あ、のび太?今回はそっちの旅行行けそーにねーから、調の面倒頼んだ。明日、住重に乗り込んで教えることでけたから、予定が開かねぇんだ」

「分かりました。お仕事、がんばってください」

「2005年の次は2009年にも行かないと不味くてな。吉田翁の護衛なんだ」

「行ったり来たりですね」

「本当だぜ。代わりにガイちゃんに連絡入れとくから、向かわせるよ」

「Zちゃんは?」

「北海道滅亡させられたらたまらんよ」

黒江はガイちゃんに信頼を置いており、度々つるんでいた。ガイちゃんは基本、23世紀に滞在しているが、黒江があーや呼びを許す人物の一人である。その事から度々駆り出されていた。黒江はのび太との電話を終えると、ガイちゃんに連絡を取り、2000年の北海道へ向かわす。黒江がガイちゃんに置く信頼は高く、実質的には保護者としての黒江の代わりを務めるケースも多く、同じ聖剣使いである共通点も大きい。黒江はホテルをチェックアウトし、ガイちゃんに野比家を任して、自分はオートバイでホテルを去っていった。



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