短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)
――次元震パニックは新たな段階に達し、銀河連邦警察もその調査に着手した。高齢になった義父のコムに代わり、銀河連邦警察の高官に抜擢された宇宙刑事ギャバンは自ら捜査の指揮に乗り出し、配下の宇宙刑事であるシャイダー、特務刑事であり、今はスピルバンとコードネームを変更した伊賀電に現地での調査を指令した。その知らせを受けた黒江AはS.M.Sのツテで、ペガサス級やカイラム級では、ガイアに追従不可能であるとし、マクロス・ツーサード級(マクロスクォーターのサイズで問題になったマクロスキャノンの出力や効果範囲の問題などの解決、クォーターの機動性の両立を目指した新型のダウンサイジング型マクロス級)を引っ張ってきた――
「悪いなー!仕事が入った。しばらくはホテルでゆっくりしていてくれ!」
「お、おいっ!……これがここの私かー……」
「関心してる場合!?私達のけ者扱いよ!?」
「仕方ないって。私達はエクスウィッチだぞ?行って何の役に立つんだよ。それに、ここの私達は現役バリバリだから、心配ないぞ」
「嘘!?あがりがないの!?」
「復活したらしい。極稀だが、そういう事はあるんだそうな」
「そんな!?そんな話……」
「あいつらのお手並み拝見と行こう。この世界で最強と謳われるレイブンズの力って奴を」
「レイブンズ?」
「陸軍三羽烏のここでのチーム名らしい。メンバーが私、『桂子』、お前だそうだ。フジの奴はメンバーじゃない」
「な!?」
「アイツから資料はもらった。見てみよう」
黒江Bと智子Bは部屋で、Aから渡された資料を見始める。A世界で自分たちがどのような生き様を刻んでいるのか。当時の映像を黒江Aが選別して編集したスペシャル映像を見始めた……。
――ホテルを出た黒江A、智子A、マルセイユは、武子が送ってきた連絡用のVF-11で黒江が呼び寄せたマクロス・ツーサード級『ティル・ナ・ノーグ』に着艦し、それでガイアと合流し、更にスピルバンのグランナスカ、シャイダーのバビロスも加わって連合艦隊を結成。欧州へ向かった。ツーサード級は相応の規模の艦載機を積んでおり、その中には、グレートマジンカイザーやマルセイユのΞガンダム、黒江のプルトニウスもあった。
「あれ?Gカイザーだ。鉄也さん、エンペラーで来るとか聞いたけど」
「カイザーは予備だよ。ジュンが持っていけと言ってな」
「鉄也さん。結婚生活はどうです?」
「ボチボチってところだ。贅沢な暮らしは慣れんから、普通の一軒家買ったよ」
「鉄也さんらしいですね」
「子供が出来るから、タバコは控えるように言われてな。20超えて吸い始めたら、ジュンが身ごもってなぁ」
「でも、なんでGカイザー持ってきたんです?さやかさんとかが代理で…」
「無理だ。カイザー系はゴッドのシンクロシステムを模した機構があってな。さやかやジュンでは扱えん」
鉄也もデザリアム戦役後を終えると20代に入り、喫煙者になったらしいのだが、すぐにジュンが身ごもったらしく、家庭人として苦労し始めたのが分かる。また、マジンカイザー系のマジンガーはパイロットとの同調を高めるため、ゴッドのシンクロシステムを模した機構が新たに組み込まれ、相当な精神力が必要である。ボスもしくはグレース・マリア・フリードが代理候補に上がっているのだが、Gカイザーは元祖以上にじゃじゃ馬なため、当面は鉄也専用機との事。
「Gカイザーは元祖カイザーよりも攻撃的な武器が多く、グレートの特性が強化されている。当然、飛躍的にパワー、スピードが上がっているから、量産型グレートマジンガーでの俄仕込みは通じん。当面は俺が使い分ける必要がある」
「似たような武器多くないっすか?」
「いや、Gカイザーにはブレードがなくてな。そこはエンペラーのほうが使い勝手いい」
「確かに、あのソード、斬艦刀並にでかいですからね」
「どっかの骸骨の魔神皇帝みたいにガン=カタやらかせるわけでもないしな」
グレートカイザーはブレード系の装備がない。カイザーソードに機能が一本化したためだろうが、鉄也としてはエンペラーブレードをGカイザーに持たせて対応している。また、カイザーソードはZEROの導き出す因果律に縛られているため、それが通じない武器であるエンペラーソードをGカイザーで呼び出した事もある。武器の使用法が音声入力である共通点を使った荒業である。
「それに、あの大きさだと取り回しが難しいからな。それにカイザーソードは放熱板が変形するから、破壊されると、バーニングブラスターが撃てなくなる。そこが難点だ。」
「なるへそ」
「柔軟性はエンペラーが上だ。ゲッター合金入ってるから、反応速度がいい」
「微妙に性能の違いが?」
「そうだ。Gカイザーを剛とするなら、エンペラーは柔だな。最大戦速やパワーに差はないが、武器の威力はエンペラーが超えている」
動力源が複合であるためか、武器の破壊力ではエンペラーがGカイザーを上回ることが明言された。これは光子力反応炉単体か、それに補助の陽子炉とゲッター炉を積んでいるかの違いである。
「まあ、一言で言うなら、Gカイザーはボディの動きがソリッドでな。滑らかさが少ないんだ。感覚の違いのようなものだから、見ただけじゃ分からんだろうね」
「う〜ん」
「空手と拳法のようなものさ。感覚の違いの領域だからね、これは」
Gカイザーとエンペラーの違いについて盛り上がる二人。テストパイロット経験者としての『技術屋』の共通点からか、鉄也は黒江を妹分の一人として扱っている。黒江も技術的なところを気軽に相談できるためか、鉄也の事は『職場の先輩』として頼りにしている。前史では『剣』と呼んでいたが、今回は鉄也との関係が前史よりも進んだため、『鉄也さん』と呼んでいる。
――今回はB世界へのデモンストレーションも兼ねているので、64Fの主力機である『VF-19』/『VF-22』/『VF-31』を動員している。ツーサード級の格納庫にある機体は、地球連邦軍でも地球本国でなければ見ない組み合わせであり、64Fが扶桑で実質的に元帥府に代わる最高階層として特権を持つことがわかる。維持費用はSMSと業務相互委託契約を交わして工面しており、SMSも人員の引き抜きに政府によって歯止めをかけられたため、機体の提供にサービスを拡大したらしい。これは連邦空軍の当代の司令官が民間軍事会社嫌いで通った生え抜きの職業軍人であったためと、彼が政治的に圧力をかけられる名家の出身であった事が原因である。そのため、人員の引き抜きが政治的に難しくなったSMSは扶桑軍に接近し、VFなどを提供する代わりに、扶桑がSMSの実務部隊に人員を提供する相互提携を結んだのだ。黒江がコネを持っていた事もあり、64Fは他部隊が持てていないAVFや24シリーズを受領出来たのである。他部隊の殆どが正規ルートでの旧世代機(本土防空部隊でも17)なのに対し、64はその契約のため、別ルートで新鋭機を調達した。(VF-25はルーデルや赤松などの指揮官が使う傾向があるが、ガランドは19を好む)VFはストライカーの戦法が応用可能なため、MSのパイロットに専念しているマルセイユを除けば、GウィッチはVFの搭乗資格を得ている。また、黒江は19系に乗り換えて以降は前進翼系を好んでおり、19や31を使い、29も確保している。これは運動性能の高さを好んだからである――
「ふう。ジャンヌさんのおかげで諦めてくれた」
「あの二人は折れてくれたか?」
「ジャンヌさんのおかげで」
調AはジャンヌがBを諭してくれた事に安堵しているようで、黒江に安心した顔を見せた。Bは自分であるが、性質は異なる。従って、ジャンヌの言うことを聞くかは分からなかったが、ジャンヌの生前から備えているスキルのおかげもあり、説得に成功した。シンフォギアも箒やフェイトと自分で充分に間に合っているし、ジャンヌやモードレッド、アルトリアという英霊もいる以上、敢えてBを駆り出す必要はないのだ。
「でも、ちょっと可哀想でしたね。天羽々斬、フェイトさんに渡して、組み込んでますよね?」
「ああ。フェイトの奴、大喜びで組み込んでたな。翼Bには効いたろう?」
「落ち込んでました」
「だろうな。Aのほうにはまだ知らせてねぇんだ、実は」
「まだなんですか?」
「あいつ、天羽々斬に愛着あるからな。ちょっとアイツで遊びすぎてな、成り代わってた時。サンダーボルトブレーカーやサンダーブレーク当てた事あるんだ。それで天羽々斬をコピーしてたなんて言ってみろ。キレてイグナイトしかねん」
「師匠〜?」
「だから魔導師のデバイスのモードだって事にしとけば角もたたんだろう、と…」
「まー、翼さん、師匠が翼さんの声で『ETERNAL BLAZE』歌ったのが一番堪えたとか」
「あれはまだいい方だぜ?まったく、メンタルが変に脆いな。よし、今度はフェイトとデュエット聞かせちゃる!」
「なのはさんが怒りますって」
「あいつの声じゃフェイトとデュエットできんだろ?あいつ、高校時代の文化祭でやっとるくせに」
「マリアが愚痴ってましたよ?私に成り代わってた時、『only my railgun』歌いながら超電磁砲撃ってきたって」
「威嚇だけどな。クリスには悪いが、リディアンの学園祭の歌合戦は優勝掻っ払ったかんな。今でも愚痴られるよ」
黒江はシンフォギアでの単独行動を終える前の末期、リディアン音楽院の学園祭に堂々とシンフォギア姿で乗り込み、学園祭での歌合戦を得意のナンバーを歌うことで優勝をかっぱらい、味方になった後に、クリスに愚痴られた事がある。殆どワンマンショー化し、アンコールで『FIRE BOMBER』のナンバーも数曲歌った。B世界では、調と切歌が二人で学園祭に乗り込み、ツヴァイウィングの『逆光のフリューゲル』を歌った出来事に相当する。違うのは、黒江は歌で起こせるチバソング値が成り代わり前の調と切歌を数段上回っているため、観客を一瞬で魅了できる。
「今度会ったら“JUDGEMENT”されなかっただけ有りがたいと思っとけって言っとけ」
「黒子さんよろしく、ですか?」
「思い出した。お前、常盤台に、お前に似た声の能力者がいたそうだ。水流操作系で」
「本当ですか?美琴さんに頼んで送ってもらおうかな…制服」
調の声色を聞いた御坂美琴は、婚后光子のお付きである『泡浮万彬』の事を思い出したらしく、黒江にその事を伝えており、美琴曰く『調ちゃんが良ければ、ウチの学校の制服送りますよ』とのこと。ラルとの入れ替わりが前史にあった影響か、美琴は今回,ラルのフランクな面を見せるようになっており、魔術(魔法)のことは全て知っている。しかし、自分の能力は科学サイドでのみ通用するものであると理解はしていたためか、歴史の流れをある一定のところまでは変えず、上条当麻に関するところだけを曲げる決意である。そこのところはラルのサバサバした性格を受け継いだのが分かる。なお、ラルとの感応と入れ替わりの名残りにより、今回はウィッチ世界でダイ・アナザー・デイに入る辺りでラルの記憶と力が覚醒しはじめ、銃器や戦闘術の知識を手に入れている。
「あいつも忙しいから、連絡はめったにつかないぞ?この間はむぎのんとやりあって、ラルの口調使って挑発したら、むぎのんキレたそうな」
「麦野沈利相手に、ラル総監の口調で?やりますね」
「ラルの影響だろうな。あいつ生来の口調じゃ、むぎのん相手にゃ『子供扱い』だからな。つか、むぎのん。声が確か、シャーリーに似てるんだよなー」
「むぎのんって、師匠、会ったことが?」
「ああ、学園都市に遊びに行ったら、むぎのんのグループに絡まれたんだよ。もちのろん、全員ゲドゲドに叩きのめしたけど。『原子崩し』なんぞ、黄金聖闘士の前には有象無象の一つにすぎないって事だ」
「そうか、レベル5と言っても、視覚や認識力があがったわけじゃないんだ」
「相手の能力を認識する速さは常人レベルなのは変わらんからな。それに、一方通行の能力も神格には効かないらしいしな。美琴はラルの力を持つことで、常人を超えたからな。そこがむぎのんに有利なところだ。シールドは使えなくても、聖人くらいの身体強化は出来るようになったらしいしな」
美琴はラルとの入れ替わりの副産物が今回になって発現し、身体機能の強化を軍ウィッチと遜色ないレベルで行える様になり、神裂火織と渡り合えるレベルに飛躍している。また、ラルがGであるため、感応と入れ替わりを経験していた美琴もGウィッチ化しており、その記憶が蘇ったため、ラルのような落ち着いたハスキーな声も出せるようになり、口調も意識すれば変えられるようになった。麦野沈利と偶然に対峙した際には、ラルの声と口調で挑発して、自滅を誘うという戦法を用いたという。
「美琴さんは何するつもりですか?」
「上条さんへの恋路を成就したいんだよ。名前忘れたけど銀髪幼女のライバルがいるから」
御坂美琴の目的はずばり、上条当麻への恋路を成就させる事だが、インデックスという強力なライバルがいる。進む道は同じでありたい美琴だが、Gへの覚醒で自分の新たな立ち位置を探し求めている節があった。そこは切歌と敢えて距離をおく事で、自分の新たなアイデンティティを求める調Aとの共通点だろう。
『まもなく本艦隊は大気圏突入を行う。艦載機搭乗員は出撃準備に移れ』
艦隊は高高度飛行で欧州に向かう。宇宙艦であるので、衛星軌道からの降下で30分以内にたどり着く。放送も入る。まもなく大気圏突入を行うのだ。
「さて、出撃準備だぞ。調。自分のVF-31のチェックしとけ」
「はいっ」
ガランドが501Bの援護に呼び寄せた連合艦隊。マクロス・ツーサード級、改アンドロメダ級、銀河連邦警察のグランナスカ、バビロス。トランスフォーム機能を三隻が持つ豪華ぶりである。それらがロマーニャ上空に降下した段階で501Bの索敵網もキャッチした。怪異と、それに乗じて現れたリベリオン本国艦隊に戸惑い、統制された行動が取れない501B。そこに割って入る形になった。
――敵に撹乱された坂本BとミーナBは雲の中に逃げ込む。そこへリベリオン本国艦隊に加わっているティターンズの『VF-11C』が襲いかかった。二人はストライカーの機動力で逃げたが、宇宙時代の電子機器を要するジェット機とレシプロでは、速度差は歴然としていたし、ティターンズのパイロットはそれなりの熟練者もおり、二人の動きを読んでいた。捕捉され、ガンポッドの銃口が向けられるが、別の方角からの攻撃でそれが粉砕される。二人はその方角へ振り返る。
『バーロー!雲に逃げるな!レーダーには映ってるぞ!』
『ったく、あんたはどこでも世話焼かすんだから』
インカムに入った声は、坂本Bが7年ぶりに聞く声だった。いや、一人は一年ぶりだが。
『その声はまさか!?』
『そうだ!ここは私らに任せな!!』
――雲を切り裂く、天翔ける聖剣――
坂本BとミーナBは、雲海を切り裂くように飛来したそれに目を奪われる。黒江Aと智子Aが駆る『VF-19』であった。機体は二代目で、国籍マークなどは日本連邦の日の丸に変更されているが、飛行64Fのマークが描かれてもおり、坂本Bは、ガランドが呼び寄せた援軍が何であるかを悟った。
「み、美緒。今のは?」
「味方だ……。ガランド閣下の仰られた『この世界』で最強を誇る『レイブンズ』。そいつらが今のに乗っている」
「!?普通の戦闘機だったわよ、今の!?」
『普通の戦闘機じゃねぇぜ!!』
黒江はわざわざ音声スピーカーに切り替えて、戻ってきて変形を披露する。ミーナBは開いた口が塞がらない。坂本Bは自身の記憶の黒江と違い、ノリが良いことを実感した。
「黒江、ここでのお前はそんな感じか?なんと言おうか、明るいな」
「よう、坂本二号。楽しんでるからな!それにこっちは色々あったんだ。お前、こっちのお前みたら驚くぞ?」
「それは後で聞くよ。若い連中が見たら腰抜かすしな」
「そうだ。サーニャのことはお前とミーナには言っとく。ややこしい事になったしな。こっちだと」
「閣下から聞いたよ。当人には言うなと言われてな。宮藤に聞かれてないといいが。問い詰められても、別世界のことだし」
「あいつ、基本的に『こうだ』となると、突っ走るしな。たとえ別世界のことだって言っても、憤るだろうしなぁ。当人がいうのが一番だろ。サーニャ、革命騒ぎで扶桑に『九条しのぶ』って偽名で帰化してな。それで扶桑軍にその名前で入隊して、前線に戻る計画だ」
「九条家に養子に入ったのか!?」
「そこのところはまだ源田の親父さんに聞いてねぇからなー。そういう事になったというのは聞いてる」
「源田大佐と付き合いがあるのか?」
「直属の上官だし、空軍司令官だよ。ここでは。扶桑海の頃から付き合いがあって、私は343空の長官に招聘されていたから、そのまま空軍で上官になった」
「お前が源田サーカスの子飼いになると思わんだ」
「話してみたら、おもしれぇおっさんだったしな」
A世界では、源田実の子飼いの将校として知られるレイブンズ。源田はレイブンズの後ろ盾とされ、彼女らを統制できる参謀ということで、レイブンズ現役復帰後に重宝されだした。ミッドウェーの失策から、日本側に後ろ指をさされた事もあったが、黒江を制御出来る男という存在価値と、空自幕僚長であった同位体の功績で、一時の懲罰の空気を乗り越えた。ブルーインパルスの創設者であるのもプラスであり、『政治家としては三流だが、軍人としては一流』であるため、政治家に転向させるよりも、軍人でいさせる事が安全と思った政治家も多い。また、元軍人の政治勢力化を恐れる日本の内務派閥からは、永田元軍令部総長の入閣や、源田実の空軍司令官への就任に反対論が多かったが、扶桑での内閣制度の強化や、扶桑で無名の参謀が空軍司令官に抜擢される事に反対する軍人は多く、結局はそのまま承認された。空軍司令官は、現場のガス抜きも兼ねた人選と評されている。これは当初、源田は候補には上がっていたが、日本の内務系派閥は公安警察の上村健太郎部長か、源田より先輩の佐薙毅海軍大佐を推した。これは空自幕僚長の就任順に準じていたが、扶桑の制度的に文官の軍事組織のトップ就任は不可能である。彼らに取っては、我の強い源田より、組織に従順と見られた佐薙が適任だと見られた。その事から源田の空軍司令官就任の可能性は若干低かったが、黒江達の存在や343空、ブルーインパルスの功績もあり、彼は無事に空軍司令官となった。同位体が第三代航空幕僚長であるので、ある意味では当然の人事とも言える。坂本Bは関わりがそれほどないが、配下の隊員に慕われるカリスマ性には敬意を払っていた。(Aが反発していたのは、戦前戦中の主張の変化に対しての事であり、転生後は真意を知ったからか、逆に敬意を払っている)この世界で黒江達とどういう風に知り合い、三人をどのようにして『子飼い』にしたのか気になる坂本Bであった。
「ミーナ、これが私の先輩だ。最も、この世界での、だが」
「うむ。そこのところはややこしいがな」
「扶桑のウィッチって、みんなこうなの……?」
「いや、こいつらよりも上の人がいてなぁ」
「扶桑ウィッチは縦社会だかんな。私達は序列二位だよ」
「そちらでも、大先輩はご健勝のようだな」
「まっ、名物だよ。まっつぁんは」
B世界でも、赤松はいるようである。赤松は扶桑ウィッチの序列第一位の二人の内の一人。A世界ではレイブンズの保護者ポジションにいる。扶桑は、ウィッチにはっきりした序列があり、レイブンズは志願年度的に、序列第二位に位置する。これは江藤と北郷も入るが、レイブンズの次の世代である坂本達が本来なら引退する年齢に達していたためで、最近では北郷/江藤と赤松達は戦間期世代と一括りされる。47年は本来なら、ハルトマン/バルクホルン世代も衰えが見え始める頃であり、ミーナも若返っていなければ引退しているような時代である。A世界では忘れられがちだが、本来なら、服部静夏などの世代が働き盛りになっていなければならないはずの時代であるのだ。
「お前らが前線に立ち続けなくてはならない理由は聞いたが、なんとも言い難いよ。いくら対人戦が主体になったからと言って、お前らを再び駆り出すなど」
「お前、こっちで似たようなこと言ってたよ、昔」
「そりゃ、引退したはずのお前らがカムバックするなんて聞けばな、どこの世界でも言いたくなるさ。しかし、お前。そんなSFじみたもの、よく動かせるな」
「まー、飛行機もロボも、慣れれば簡単だしな」
黒江Aは忘れていたが、初見の者は可変戦闘機に戸惑う。可変戦闘機は登場当初、一条輝も工藤シンもだが、その操縦に戸惑った。彼らが戦った頃に比べれば、可変戦闘機の操縦は簡単になったので、黒江もフロンティア船団への滞在時に覚える事に成功した。これはVF-1の後期型以降はHOTAS化が進められているためで、後は機種ごとの癖をつかむのが重要と言える。黒江はゼネラル・ギャラクシー系列より、新星系がしっくりきたので、17の全損後は、一貫して19などの新星系を愛用している。そのため、黒江たちのVFはイサム・ダイソンのパイプの関係もあり、新星系である。
「お前ら、下手に動くな。敵のロングレンジ誘導ミサイルの餌食だぞ。正面戦闘は私達に任せて、他の連中を守ってやれ」
AはBより気さくであると同時に、全体的に面倒見がいい。そこが人気の一端を担ってもいる。言うなれば、Bから真面目さを薄めた代わりに、人当たりの良さとギャグキャラ的メンタルを獲得したと言える。口調はキツいが人当たりは悪くない。ツッコミ的なギャグ口調が混じる親しみやすさがあるのだ。それでいて、戦闘では無敵であるのも、信頼される理由である。坂本Bは頷き、ミーナBを連れて、空域を離脱していった。
――こちらはバルクホルンBとハルトマンB。彼女らはVF-11編隊と対峙する羽目に陥っていた。当然、MG42機関銃程度の火力では、直撃しても旧世代型とは言え、エネルギー転換装甲には通用するわけがなかった。また、絶対的な速度差により、そもそも取り付くのが困難であった――
「は、速すぎるよ〜!」
「私達が良いように翻弄されるだとぉ!?くそ、弾幕を貼れ!!大口開けて飛ぶジェットはエンジンに異物を吸い込むのだけは怖いはずだ!」
「んなに弾ないよ〜!」
「つべこべ言うな!!火力が通じない以上はこれしか方法がない!!」
バルクホルンはMG42を乱射するが、当然、礫のように弾かれていく。魔力で1.5倍の威力にはなっているが、元が機関銃なので、エネルギー転換装甲には通じない。お返しとばかりにガンポッドが火を噴く。30ミリ砲なので、当然、B29であろうと蜂の巣になる威力であり、ウィッチならシールドなしには防御不可能である。ハルトマンが咄嗟に取り付き、シュトゥルムを叩き込むが、装甲強度がハルトマンの想定を遥かに超えており、シュトゥルム程度では凹みすら出来ず、逆に弾かれてしまう。だが、姿勢がよろめくくらいの威力は有り、フラップを吹き飛ばす程度の損害は与えたものの、バトロイドに変形されて振り払われる。ハルトマンもこれには絶望したような表情を浮かべる。だが、その11をビームが撃ち抜く。二人はワケが分からなかったが、そのビームを放った主が光と共に飛来する。
「あ、あれは……!?」
――ハルトマン、トゥルーデ、下がれ!!――
二人の脳裏に直接語りかけてくるテレパシー。そのテレパシーの声はハルトマンには懐かしい声だった。そして、ハルトマンは声の正体に気づいた。
「ハンナ!?今、ハンナの声が聞こえた気がする……」
「ここは別世界だぞ!?あいつがいるはずが……!」
『ところがどっこい、いるんだな!!』
超音速で飛来するΞガンダム。塗装は本来のトリコロールカラーに戻されており、ガンダムとしての存在感を強調するカラーリングとなっている。ミノフスキーエンジンを積み、ビームバリアを展開して飛ぶため、30mの体躯になってしまっているが、ある種のハッタリにもなる。MSはVFに弱いというのがある種の定説だが、Ξは同じフィールドで戦えるため、そこが第5世代機の威力である。
『いけぇ!!』
Ξの肩部メガ粒子砲が火を噴く。ZZの設計思想とνガンダムの長所を併せ持つΞは、大型MSとしては最強のガンダムに相当する。大型MSは技術的にみると、旧態依然とした形態に思えるが、物理的強度は小型機より上なのと、小型機よりも整備が楽なため、前線では好まれる。そのため、マルセイユはΞガンダムを愛機にしていた。
「ハンナ!?い、いや、この世界の……」
『細かい挨拶は後だ後!とにかく、お前たちは他の連中を守ってやれ!お前らでやっとということは、ヨシカやリーネは逃げるのでやっとだぞ!』
「そ、そうだ、トゥルーデ!」
「お前に言われるのは癪だが…仕方がない!」
バルクホルン達を行かせ、自分は戦闘を開始するマルセイユ。戦場に音楽が流れ出したのは、ちょうどそれと同時だった。
――その曲とは――
――マクロス・ツーサード級――
「お前の出撃を引き止めたのは、このためだ」
「FIRE BOMBERの曲歌いたいんですね、ケイさん」
「最近は綾香がやってたから、偶にはあたしも歌いたくなるさ」
圭子は黒江に次ぐサウンドエナジー値を叩き出せるため、出撃しないで、後方でミンメイアタック要員になる事が多い。これはレイブンズの歌エネルギーの高さの順番に由来する。そして、その数値が特に高い黒江と圭子は、高度な音楽ヘ育を受け、ミンメイアタック要員でもあった。シンフォギア装者である調も、ミンメイアタックに動員される事となり、シュルシャガナのギアを展開した状態で歌うことになった。
「んじゃ、行くぜ!」
圭子と調は歌い始める。FIRE BOMBERの楽曲を歌い、それが戦場に流れる。ミンメイアタック。本来はゼントラーディやプロトデビルン用戦法だが、戦意高揚になるため、地球連邦軍は対人戦にも用いている。ある意味、歌巫女を現代に甦えさせたような光景であり、ダイ・アナザー・デイ作戦時に効果が実証されるまでは、ウィッチ世界は懐疑的だった。歌の研究が進んでいる23世紀世界がもたらしたこの戦法はまさに「戦歌」の復活であった。また、FIRE BOMBERのバローダ戦役での事例と、異世界よりシンフォギアがもたらされた事は僥倖であり、シンフォギアは戦闘用の防具以外の用途を見出された。所謂、サウンドブースターの簡易的なものとしてだ。そのため、歌う内に、シンフォギアのリミッターは自然と外れ、エクスドライブモードに移行する。調はミンメイアタックにシンフォギアをブースター代わりに用いるのはまんざらではなく、ノリノリで歌っている。曲は『REMEMBER 16』である。また、調も黒江の記憶から、ギターも弾けるため、二人はその気になれば、のど自慢大会荒らしになれるのは間違いない。
――二人のサウンドエナジーは戦場を震わせる。戦場に歌が響くことに微妙な表情を浮かべるミーナBであるが、古今東西、戦場に音楽はつきものである。アラモの戦いの際に音楽が流されているように。その事例を思い出したが、曲調がアコースティックギターで奏でる曲調であるため、戸惑うのだった――
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