短編『ジェノサイド・ソウ・ヘブン』
(ドラえもん×多重クロス)



――2000年から2001年までの期間は、調がほぼ単独で常駐して、野比家を守護していたわけだが、当然ながら、シンフォギアは成り代わり時の黒江同様に維持し続けていた。その過程で、シンフォギアの形成に心象が影響する事を突き止め、2001年以降は修行用途に応じて、忍装束、騎士服、メイド服などのサブタイプの派生が発生できる事を確認。それ以後はTPOに応じて、最適な形状のギアを使い分けていた。その過程で発見したのが、自分にもエクスカリバーがあることだった――


「師匠と同じ力が、エクスカリバーが私の右腕にあるって事は……左腕は…?」

2000年のある日。調は自分にエクスカリバーが宿っている事を確認した。従って、左腕には乖離剣エアが眠っている事になる。そのため、切歌が一時的にやってきた時が、エクスカリバーの初披露という事になる。その力はシンフォギアに関係はないので、当然、切歌を戸惑わさせた。更に、イガリマの力がイガリマの本質で無いことを話すと、切歌はパニックに陥った。調がエクスカリバーの発現時に垣間見たチャネリングによれば、イガリマは斬山剣であり、鎌ではないのだという。それを話すと、切歌は自らのアイデンティティの否定に等しいためか、調の言うことに耳を貸そうとせず、怒った箒のアガートラームにぶん殴られ、一喝された。

「馬鹿者!友達なのだろう!?ならば、耳を傾けたらどうなのだ!?」

箒の声がマリアと酷似していた偶然もあり、シュンとなる切歌。

「まぁまぁ。箒さん。この子が信じられない気持ちはわかりますよ」

のび太が窘め、切歌に理由を聞く。すると、イガリマの鎌は『調との絆の象徴』で、黒江にそれを指摘されると、頭が真っ白になって、何も考えられなくなって、刃を向けたと言ってきた。それを聞いたのび太、箒、調、レヴィ、タカオ、菅野は顔を見合わせて一斉にため息をついた。

「こりゃ重症だぞ。オイ、調。このガキがこじらせた責任取れよ」

「うーん。参りましたよ、大尉」

「この子、相当アンタの事を好いてるみたいよ?どーすんの」

「タカオさーん〜!」

「うーむ。これが噂に聞いた、百合という奴か……」

箒もギア姿で座り込んで悩む。なんともシュールな光景である。

「頭が真っ白な時に行動するとろくなことが無いんだよなぁ」

「お、確か……」

「ええ。三日前の算数のテスト。慌てたもんで当てずっぽうで書いたら、先生にどやされまして」

のび太は自爆する。これが切歌の心に多少の余裕を与えた。のび太が一同を代表して、質問と現状の説明を行う。この時に、タカオは便宜上の仮名『青樹タカオ』を名乗っている。調が黒江が好き勝手した後では、学園生活は居心地悪いとし、自分を頼ってきた事を告げる。当然、クリスが改めて、後輩として面倒を見ようとしていた矢先に居なくなったので、クリスが情緒不安定に陥った事を切歌は告げる。

「帰ったら、クリス先輩には『すまない』って伝えてくれる?切ちゃん。リディアンには退学届け出したし、元の世界にいても、違和感を感じさせるだけだから、私はここにいるって決めたの」

「なんでデスか!?元の世界で私やマリア、みんなと一緒にいるのが嫌なのデスか!?」

「そういうわけじゃないよ。だけど、みんなが求めているのは師匠の奔放な振る舞いで、私自身じゃない。それもあるから、ね?」

調は黒江の奔放な振る舞いに戸惑ったのも、のび太を頼った原因だとはっきり言う。実際、騎士であったため、生真面目になった調と奔放な黒江とでは、態度がまるっきり異なるので、黒江がいた立場に居座る事に罪悪感があり、それも居なくなった理由なのだと。そのために退学届を出したとも。

「そんな!態度が違っても、別にいいじゃないデスか!なんでそんな事を……」

「騎士として、それは許せないんだよ、切ちゃん。騎士としての矜持がね」

「騎士……?」

「私は別の世界で騎士だった。10年もやってれば、騎士の誇りに目覚めるもんだよ。それに、あの学舎に居たら、私は偽物になってしまう、私自身のいた場所でも、私が築いた居場所でも無いから」

はっきりと、切歌へ告げる。切歌は青ざめていく。クリスが『連れ戻して来い』と言い、願いを託されたが、それが果たせないからだ。切歌のこの世の終わりのような顔を見かねたか、箒がある事を調に告げる。黒江が前々から、マリアや風鳴弦十郎に頼んでいた、最後の置き土産を。

「調。防大にいる綾香さんからの伝言だ。リディアンのことだが、通信課程への切り替えができるそうだ」

「え……」

「綾香さんは前々から、お前がここに来る事を読んでいてな。手を打っておいたんだ。通信課程と実技試験で卒業資格を得られないか、と」

黒江はシンフォギア世界を去る前、調のために手を打っていた。それが通信課程への切り替え、実技試験での卒業資格の授与だと。黒江はマリアにはその事を伝えており、『私があいつにしてやれる置き土産といえば、こんくらいだからな』と微笑っている。箒のこの一言で、切歌の顔がぱぁっと明るくなる。これで希望が生まれたからだ。

「貴方は救いの神デス!えーと…名前、なんでしたっけ」

「やれやれ。さっきも言ったろう?聞いていなかったのか?篠ノ之箒だ。マリアのアガートラームを借りている者さ」

箒は何気にアガートラーム姿であるので、声色もあり、ここで頭が完全に冷静になったので、マリアと似た雰囲気を感じ取る切歌。違うのは、箒はマリアと違い、ツンデレキャラなのだが。

「師匠……、私のために……」

ジーンと来たのか、ポロリと涙ぐむ調。その肩をバンバン叩き、「これで一件落着だぞ、調」と先輩風を吹かす菅野。普段が黒江、レヴィの使いっ走りなので、こうした光景は珍しかった。また、薬を服用(タバコ形であるので、外で吸っていた)していたレヴィが戻ってきた。ガイちゃんはTVを見に、居間に行っている。

「ヤレヤレ。おい、ガキ共。あたしとタカオは飯かってくらぁ。なんか欲しいもんあったらメールしろよ」

腰を上げて、喉の薬を咥えつつ買い物に出かけるレヴィ。こういうところに、元の姿での優しさを潜ませているのもレヴィらしい。

「あ、この街、コンビニないですよ」

「マジかよ!」

「商店街の惣菜屋かスーパーに弁当有るはずですよ」

「そっか。んじゃちょっと遅くなるぞ」

のび太の街、ススキヶ原には、のび太が中学校三年にならないと、コンビニが開店しないというのが弱点だった。これはスーパーと地元商店街が街の普段の買い物需要を満たしていたからで、地元商店街のある店が数年後に世代交代で店じまいし、需要と供給のバランスが崩れたことで、コンビニが商店街に食い込む事になる。また、それを期に街の再開発が始まり、2008年には野比家は家を立ち退く事になる。(駅はその再開発で駅ビルになったとか)レヴィとタカオは2000年当時の昭和の風情漂う駅前へ出かけていき、家にはそれ以外が残された。

「ん、パパは会社だし、ママは生け花教室で今日は遅いっていうし、ドラえもんは寝てる。切歌ちゃん、ウチのパパとママが来たら挨拶するんだよ?」

「は、はいデス」

「よし、これで一件落着っと…」

「まて、寝るな。宿題やれ」

「え〜!」

「だっても明後日もない、私が見てやるから、宿題済ませろ」

箒がのび太を机に座らせ、宿題をさせる。箒はこういうところは厳しい。のび太は知らなかったが、実は駅前にコンビニが一件あるのだが、のび太は駅前に行くことも稀であるため、そのコンビニの存在には気づいていない。また、ススキヶ原の再開発は2003年にそこ以外に、別のコンビニが出店した事がきっかけで具現化するので、コンビニの増加こそ、ススキヶ原に21世紀の風を吹かせたのである。

「調、聞いてもいいデスカ?」

「何?」

「なんで、シンフォギアのままなのデス?体への負担が…」

「修行の一環。師匠と同じ力が目覚めて、LINKERを打つ必要もなくなったし、修行で展開してるの。いざという時に役に立つからね、これ」

この時はノーマルタイプのギアであったが、その姿で畳の部屋でくつろいでいるのは、なんともシュールさを感じさせる。のび太に勉強をさせている箒もだが、シンフォギアの贅沢な使い方と言える。戦闘以外で展開できるのも、元の世界での法律(異端技術の結晶とされていたので、日本や国連から機密指定されていたのがシンフォギア世界での位置づけだが、未来世界(その過去にあたる、のび太世界)やウィッチ世界では、スーパーヒーローが普通に活動しているので、妙な動きをする傾向がある学園都市への抑止力として、大っぴらにされている)に縛られていない証であるが、この時点の切歌には羨ましくもあり、嫉妬してしまう光景だ。自分と違い、二人はシンフォギアへの適合係数が自分より遥かに上回っている(むしろ、黄金聖闘士クラスの才覚が目覚めたので、存在の位が聖遺物を超えているので、普段着と変わらぬ感覚である)からだ。

「なんデスと!?」

「つまりだな、私と調は恒常的に纏えるし、しかも何ら負担がかからんという事だ。神の闘士になっている以上、普通の人間を超えているしな」

「うぅ……!ズルいデス、ズルいデス〜!そんな反則が……」

「そう悲観するな。覚醒めれば、調でも、ここまでなれるという事だ。お前にも素養があるやもしれんぞ?調と対になる聖遺物を持つのだろう、お前は」

「で、でも、調はあの人の力を、そっくりそのまま引き継いだのデスよね?」

「別に、この力は選ばれた者だけが覚醒める力じゃない。切ちゃんにも資格はあるんだよ」

調はこの頃から、『たとえ、手を握らなくとも、精神的には切歌を救済できる』とする思考を持つようになり、精神的に切歌を導く行動を取るようになった。切歌への依存がのび太たちへの思慕に変わった故の行動でもある。

「そうだ。お前が調を失ったと思うのなら、その手で再び掴み取ればいい。それだけの事だ」

箒は一夏の事が絡まなければ、元々の落ち着いた態度と雰囲気を保てる(逆に言うと、一夏が絡むと、一気に子供っぽい側面が出てしまうが)ため、箒と同し魂魄を持つ、マリア・カデンツァヴナ・イヴと似た、落ち着いた振る舞いを見せた。マリアと違い、風鳴翼に似た堅い口調ではあるが、切歌にとってはマリアに諭されたような感覚であった。

「なんだが、マリアに言われたみたいな気分デス……」

「よく言われたものだよ、調と初めて合った時は」

箒は調の姉弟子であり、調が来たことで、黒江・赤松組の『下から二番目』の序列に上がった。体育会系な序列だが、軍隊にいる人間達の集まりだと、自然とそうなる。箒はこの時点で中尉、調も後に少尉と、軍籍を得るので、必然的にそういう世界に足を踏み入れる事になる。扶桑ウィッチは過去の名残りで、先達が後輩を鍛える文化が色濃く、それはGウィッチでも変わりはない。そのため、自然と序列が決まる事になった。

「あなた達はなんで、シンフォギアを纏ってるのデスか?」

「調もいうように、修行の一環だ。神の闘士と言っても、新参者なんでな」

「そんな、修行着みたいな……」

「私達にとってはそういうものだよ、切歌」

シンフォギアはもはや、二人にとってはフルポテンシャルを引き出せるものではない。そのことも、力の次元が根本的に違うことの証明であった。

「ん?なんデスか、あれ」

「ああ、モデルガンと言って、置いてる本物の銃。弾は抜いてあるけどね」

「えぇ!?」

「こうでもしないと、本物の銃は持てないさ。ドラミちゃんにどやされるしね」

ドラえもんの寝床の押入れの下の箱に入れられていた銃に気づく切歌。それはモデルガンらしくするため、弾を抜かれた上で、入れられているが、有事には整備して使用する。合法的に保有できるようになる、のび太青年時まで、こうした手法が続けられていく。そのため、如何にドラミの目を誤魔化すかが、この時期ののび太とドラえもんの主題であった。

「それに今、裏で行われ始めてる『日本連邦』が表に出ないことにはね」

「そうだな。あれが成功しないと、日本で大っぴらに銃は持てんしな」

「ウィッチ世界とこの世界は連合を模索してる。それぞれの思惑でね」

「それぞれの思惑?」

「うん。日本は深刻になる少子高齢化と、死に体の経済をどうにかしたい、もう片方は扶桑は太平洋戦争を勝ち抜くための技術力が欲しいのさ」

のび太の言う通り、日本連邦が模索され始めた背景には、日本の少子高齢化への恐怖と、失われた20年になるのを恐れる財界の思惑、扶桑の技術力への渇望があり、それぞれ一致して構想されたものだ。実際、扶桑は21世紀から貰い受けた技術で軍の完全なる近代化に成功し、ウィッチ世界の覇権を握るに至る。無論、黒江たちが相応の血を流した末の結果であるが。

「もっと危ないのはこの奥だけどね」

押し入れの下の段のダンボールの脇のポスターをめくって壁紙秘密基地を見せる。中には23世紀世界の最新兵器がずらりであり、それを見させ終えると、人差し指を口の前に立てるのび太。

「何デスカ…あれ」

「23世紀の世界の最新兵器。僕らが管理してるのさ」

「そんな管理で大丈夫なのデスか?それに見つかったら」

「大丈夫。押入れの下の段なんて、ママ調べないし、それに、日本連邦の事はトップシークレットだしね」

「どうしてデスか?」

「わかりやすくいうと、戦前の日本と戦後の日本が一緒になるようなもんさ。細かいところで違うからね。そこのすり合わせに10年以上かかるだろうね」

「華族、旧皇族、軍隊……。そこも違うから、派閥争いは必ず起きる。揉めるのは、まず華族だろう。日本側は将来的廃止を言うだろうが、綿々と勢力を維持した華族も多いしな。あまり、どうこうは言えないだろう」

「どういう事なんデスか」

「昔に華族だったような家は、没落でもしてない限りは名家として残っているんだ。だから、扶桑の華族の廃止には強く言えんはずだ。自分たちの名家のブランドの否定にもなるからな」

扶桑華族の廃止は日本との違いが明らかになるにつれてトーンダウンし、ついには立ち消えとなる。更に、旧皇族の取扱い(扶桑では現在進行系で皇族である)で揉めに揉めたこともあり、皇族・華族の問題は結局、羽柴宗家、織田宗家、徳川宗家という戦国三大大名家の当主たちの連名で『問題なく扱われてる制度を此方に無いからと廃止を求めるとはみっともない事このうえ有りませんな、なんの事とは申し上げられませんが』との声明で立ち消えとなり、問題視した者たちは今度は軍隊に照準を合わせ、その構成員と数年後に判明した黒江が標的にされてしまう。これは扶桑首脳陣の最大の懸案で、実際に防衛庁(後、防衛省)の中では、扶桑軍と統合した場合の主導権を取れるように画策する派閥も存在し、その派閥が黒江の幕僚長就任を潰すわけだ。(黒江がいよいよ一佐になった後、叙爵と将官への道が約束されるに至り、ようやく事の重大さを悟った彼らは、統括官のポストで幕僚長に換えるように事務次官に要請する事になる。また、自衛隊制服組は黒江の将官昇進を露骨に渋る参謀本部を黙らせるため、陸上幕僚長が上奏し、准将の階級を規定させることで、制服組は黒江への禊とした)その結果、黒江は将補在任中、事実上の無役の期間があり、準備室長のポストが宛てがわれ、空将昇進が作戦中になるわけだ。黒江が空将になったのは、防大入学からほぼ20年後になったが、これは扶桑軍人出身者の昇任を意図的に遅らせる措置が二年ほど行われたのと、政権交代直前に『扶桑軍人の優遇』に異議が唱えられたためだ。(黒江の後の扶桑軍人出身者は数年ほど防大コースを辿った将校もいたが、ある年度からは幹部学校に行かせられるようになった。これは見かけの年齢はともかく、既に基本課程を終えている現役将校を教育する場ではないと、防大が黒江とその後の数人で学んだからだ。下士官ならともかく、現役士官を送り込まれると、教官達も戸惑うし、古参学生も手荒な事ができなくなるからだ。そのため、黒江の入学から三期後からは、下士官ウィッチが防大送り込みの人員に、現役やエクスは出向か幹部学校留学に変更され、防大の負担はこれで減ったのだった。)

「それと、心配されてるのがあっち寄りの人達の軍人への誹謗中傷や隣地だね」

「ああ。それは特に上の方が怯えてるな。特に大西瀧治郎閣下は地球連邦軍の一部にやられたばかりなのに、今度は日本のに怯えてるというぞ」

「栗田健男中将なんて、大和さんが心配してますけど、ショックで郷里に引きこもってますものね」

この時期から懸念されていたのが、地球連邦軍の一部兵士の暴走で明らかとなった『指導層への誹謗中傷や私刑』で、扶桑が44年から45年の中頃まで悩まされた問題であり、その再来を日本が引き起こす事が懸念され、実際に起こった。そのため、大西瀧治郎は空軍高官への移籍に再教育が必須とされ、人事的に苦労を重ねるし、井上成美は提言の真意の説明に追われるのに嫌気がさして空軍へ移籍していく。(比叡によれば、戦時中の大将昇進を凍結する「大将不要論」を掲げていたため、塚原二四三の同位体が大将昇進を井上が邪魔していると怒り狂っていた事へ罪悪感を抱き、その贖罪も兼ねたらしい。その辺りが同位体との微妙な気質の差異だろう)また、後に空軍の司令官を決める人事は日本側が、当時に公安警察部長であった上村健太郎を中立性から推し、それが不可能であると分かると、佐薙毅参謀を推すなど、源田を避けていた。これは我が強い源田を嫌う背広組OBの働きが関係していた。しかし、佐薙参謀は扶桑で反G閥に属しており、レイブンズを統制できないと見なされ、予定通りに源田が就任する。源田の我の強さは、扶桑では『俊英の特権』として肯定的に見られており、レイブンズと10年来、懇意である事が就任の決め手でもあった。そのため、源田はこの内定を武器に、343空に戦線のGウィッチを根こそぎ所属させ、64F再建の柱とする。本来は新人ウィッチを多めに入れたかったのだが、日本側が難色を示したり、新人ウィッチの取り合いになったため、不本意ながらも完全なエースパイロット部隊となる。そのため、45年の計画時に343空のリストに入れた若年ウィッチは文字通りに縁故でねじ込んだ雁渕ひかりのような例で、実に少人数であった。そのため、極天隊の規模も他部隊の若手を教習する場所という程度の規模であった。極天隊が大規模化するのは、海軍空母ウィッチ隊の再建の任務も押し付けられてからとなる。また、黒江の元々の固有魔法である数値化の活用を目論んだ空自が航空開発実験集団の影響下に置くという名目で、『飛行開発実験団分室』を64F内部に置く事を提案し、実際に戦時中に置かれる事になる。そのため、64Fはいつしか、飛行戦隊どころか二個上の飛行師団単位にまで規模が膨れ上がり、戦時中はその編成が存続したことから、『特別編成戦隊』と書類上で処理されたという。また、名称は64『飛行戦闘団』と改称し、扶桑空軍の何でも屋として、宇宙戦艦の操艦、整備術まで教えたことから、宇宙軍大学校の渾名さえつく。これは黒江のことで、専任テスト部隊の再建に天皇陛下が難色を示した故の折衷案の結果で、黒江が多忙を極めた時期にもなる。

「あ、師匠からだ。ウィッチ世界でティターンズがリベリオンの軍需産業をフル稼働させ始めたって偵察衛星の解析が出たらしいです」

「と、いう事は、大きい戦が現地で起こるな」

ウィッチ世界の風雲急が伝えられ、軍人である箒、また、今はまだ軍人ではないが、騎士であった調の顔に緊張が走る。リベリオンが大きい作戦の準備に入った事を否応なしに示す知らせである。遠からず、ウィッチ世界で戦う定めとなったという事を自覚する。


「扶桑の西島亮二造船官に問い合わせたら、播磨型『越後』の最終艤装を急がせてもらうってさ」

「あ、起きたんだ、ドラえもん君」

「このメールでね」

西島亮二造船少将。扶桑では大和型に携わった後、引き続き、三笠型、播磨型も携わる。今や扶桑きっての工程管理の名手として名を馳せている造船官である。ドラえもんは日本連邦の立役者の一人である故、軍需産業に太いパイプを築いており、西島亮二造船官もその一人である。ドラえもんはこの時期、既に扶桑の招きでジオフロント形成を主導する立場にあり、扶桑の軍艦造船の自由度の飛躍的増大はドラえもんの功績である。

「越後は間に合いそうだって?」

「うん。パルスレーザーの納入が間に合ったって。美濃は無理そうだって。砲身の輸送が遅れ気味なんだそうな」

播磨型は大和型の60口径砲研究で半分以上がドック入りしていた穴を埋めるため、特に建造が急がれた。45年晩春の段階で、突貫工事で播磨がなんとか完成、試運転段階に入っていたが、二番艦を予定された美濃は主砲砲身の輸送が手違いで遅れ、能登は船体以前の問題であった。そのため、次に完成しそうな越後を二番艦にする事になった。美濃は三番艦に直され、後日竣工。能登は工事中にラ級の被検艦へ切り替えと、色々トラブルも起こっていた。そのため、稼働状態であった大和と甲斐が急遽、作戦参加が決められるなど、意外なやりくりの苦労が起きたと、ドラえもんに西島は知らせてきた。大和と甲斐が参加する予定はないはずであり、この状況をなんとかするため、大和型最後の妹『三河』の建造が決定される。

「ん?待て。連合艦隊、今、M動乱から立て直し中のはずだぞ?大和型は主砲換装工事中のはず」

「大和と甲斐が送られるから、本土が手薄になるから、大和型がもう一隻予算通ったとか」」

「間に合わんだろ」

「ええ。今後のための予備で一隻用意しとくんだそうで。これで大和型は打ち止めで、次からは播磨に完全移行だとか?」

「これで戦艦は6隻か。空母は?」

「不明だそうで。艦載機のテスト中ですからね。旧軍式空母の改装、2018年じゃ『付け焼き刃』とか、専門家の間で物笑いの種にされてます」

「まぁ、大鳳も翔鶴も装甲甲板がいらないとか言われてたしな。実際は耐熱甲板は装甲甲板を兼ねているんだが」

ダイ・アナザー・デイを準備する扶桑軍は空母の改装に追われてもいて、現役で最有力の三隻をジェット空母化したものの、軽空母並の搭載機数に落ち込んでいる。そうした対策をプロメテウスで補おうとしたが、日本に『1940年代にあんな大きな船は動かせない』と物笑いの種にされた影響で投入が遅れる事になる。そのため、増強が後回しにされがちのブリタニア空母部隊も駆り出されることになるなどの混乱が生じ、結局はプロメテウス級の投入がなし崩し的に決定され、参戦していた米空軍をも驚愕させるのだった。

「プロメテウス見せたら大笑いされたそうです」

「何故だ。史上最後の洋上空母だぞ?」

「デカすぎで、奴さんの手に余ると」

「地球連邦軍が最後に建造した洋上空母の集大成だというのに、連中はデカさだけで笑うのか」

「いや、性能は褒めてるんですが、1940年代に使うにはどこの国も港湾整備やドックがないとか」

「なければ造ればいいだろう!全く、日本の軍事音痴は呆れるな」

呆れる箒。ドラえもんと軍事色が濃い会話をするので、今なら、ラウラといい友達になれそうである。実際、箒は空母着艦などの空母搭乗員に必須のノウハウを、その経験者であるラウラに聞いており、同じ軍人になったという共通点から、この時期にはラウラとの関係は改善されていた。ラウラも箒が軍人になった事には驚きつつも、良き相談相手になっており、黒江が箒の姿になっていた時は黒江の味方であり、一夏を諌めるなど活躍していた。(ラウラはドイツ軍人であるが、特定の軍には属していないので、ある意味、箒をコーチングするうってつけの人物であった。黒江の招きで、プロメテウス級の着艦テストもしており、『船体が米軍の空母よりも大きいから、新兵でも安心して着艦できるだろう』と感想を述べた。512mの巨体は、たとえ21世紀基準の大きさの戦闘機であろうと100機以上積み込めるほどなので、ラウラにとっては『陸の飛行場に着陸する時並の安心感』だった』らしい。船というのは揺れるものだが、空母や戦艦になると、揺れはほとんどない。揺れるにしても、気にならない程度である。

「まぁ、『ある物で最大かつ、小さくまとめてきた』のが日本ですから、アメリカ的な『大は小を兼ねる』の発想は理解されないんですよ。播磨だって、350mである必要性が2016年くらいに問われてますよ」

「ああ、それは見たな。門数を忍んで、大和型の砲塔換装型にしたほうが安上がりとか。実際、日本の過去はそれでいく予定だったからな」

「砲が6門艦は示威には使えても、実戦で使えないっていうのが鉄砲屋から出てますからね。三連装四基は現実的なんですよ、鉄砲屋にとっては」


「いくら大和が砲の換装は考慮されていたとは言え、51cmは艦橋構造のさらなる強化と、艦全体の再設計が必要になるはずだが」

「そこですよ、問題は。大和の砲換装の限界は51cmですか、扶桑の技術力だと、相当にドック入りしないと無理だし、リベットを溶接で組み直すのに、新造と同じだけの費用がかかる。だから、宇宙戦艦の要領で少しずつ、少しずつ作り変えていったんですよ」

ドラえもんの言う通り、大和型は構造の作り変えや武装の近代化を段階を追うごとに行い、50口径砲の打撃力が敵に対して不足したので、60口径にする選択が最終的に取られた。これは45口径51cm砲6門にする妥協案が鉄砲屋(宇垣纏など)から反対されたためで、地球連邦軍も60口径46cmショックカノンをヤマトなどのテスト代わりに試作し、扶桑の大和型に載っけているが、肝心の部品である『砲身』の輸送が遅れており、それも大和型と播磨型の工事に悪影響を生じさせ、ローテーションの都合で、まだ稼働状態の大和型を作戦参加させる運びになったのである。また、日本の無茶苦茶な防御要求を満たすには、23世紀の技術力がどうしても必要であるため、参加艦へ波動カートリッジ弾の搭載が次善策で行われたりする。また、オートメーション化により、乗員が1000人を超える程度まで抑えられたため、実のところ、少人数化が問題視されてしまった海自の護衛艦よりは余裕がある程度だ。また、日本へのアピールに、視力の良い乗員が見張り役についていることも広報されている。


「扶桑はそれこそ、パラダイム・シフトもんですしね。いきなり、コンピュータ制御の戦闘システムが戦場の華になって、ジェット戦闘機やらが飛び交う。おまけに、装甲列車は電化で使えない公算大だし」

「まぁ、アレは21世紀からすれば、古臭いからな。改良型の依頼は出してるらしいが」

九四式装甲列車の陳腐化と撤廃の検討は扶桑軍にとっては由々しき事態であり、先回りして、23世紀技術での改良を依頼しているが、装甲列車そのものが40年代に絶えているため、難航している。また、列車の電化が強引に推し進められてゆく影響で、扶桑の持つ蒸気機関車の行き場なども問題になったりするなど、解決に時間がかかる難題が重なったのも、連合の結成が遅れた要因だった。(全電化は、本来、扶桑では技術が成熟し、軍事的安全が確保されるだろう昭和30年代以降を予定していた)つまり急激な軍事的パラダイム・シフトが扶桑を混乱させたのも事実であり、扶桑は外地の領有で日本左派と揉め、結局、無残に日本左派が政治的に敗北するなど、2016年頃まで揉めまくる伏線は既にあった。経済は双方の為替レートの違いによる混乱が予想され、日本銀行と扶桑銀行の抗争も予測された。そのため、地球連邦の仲介で当面はやりくりという事になるなどの困難が伴った。結果、日本の意識が根本的に変化し始める時代まで、それらの解決はできなかった。警察は派閥抗争で統合に失敗し、軍隊よりも派閥抗争があるとされる不名誉を蒙り、連絡組織の設置(後に指揮組織へ改組され、一応の統合がなされる)に収まるという点で、警察の悲劇とされた。これは日本側に内務省が存在しないが故の齟齬も含まれていた。また、軍隊は基本的に日本側はあまり干渉する事を避けたが、要望という形で、空軍の人選を推薦する事はあったために色々な誤算も生じ、大西瀧治郎は高官の座を逃し、一時は原則的に、将官の移籍を避けるようにしたいとする要望もあったが、同位体に史実の失態の責を負わせるのもあんまりだとする意見に配慮し、比較的に有能とされる将官のみを選抜し、軍高級官僚として勤務させることで手打ちにされ、現場は佐官級の昇進で統率させる事になり、そのため、カリスマ性のある源田実の司令就任は必然だった。黒江たちに特権が与えられた理由はそこにあり、新設の64戦隊は実質、空軍司令部直属であり、全航空兵力中で最高の戦力を誇る以上、前線で使い倒されるため、そのために必要とされる権限を与えなければならないと判断されたためだ。機材の先行受領権、未来兵器の使用権など、兵器関連だけでも与えられた特権は扶桑全軍でも、近衛部隊以上とさえ謳われるほどのもので、人的・機材的にも最高レベルのモノが集められたので、部内から扶桑版『44戦闘団』と、地球連邦軍からは『扶桑のキマイラ隊』と評される陣容となるのだ。


「私達もそこに協力するように通達されてるからな。もれなく、私達は戦線に動員される」

「ええ。間違いなしに最前線でしょうね」

「調、私達にできる事はないデスか!?」

「戦争に加担するし、それに別世界の戦争だから、S.O.N.G.の介入は完全に無理だよ」

「そんな…、なんとかならないのデスか!?」

「有志の形で参加するしかないね。それしか方法はないよ」

「なら、それで……!」

「切ちゃん。これは今までのノイズとの戦いでも、私達がフロンティア事変で目指した方向とも違うし、相手は正真正銘の人だし、それ以上の相手も普通にいるんだ。ましてや、シンフォギアの力が有限の切ちゃんが行っても、足手まといに…」

「足手まといにはならないデス!私だって、ずっと訓練は続けてきたし、あの人のことを知ってからは、調を追いかけるために……私は…」

「…切ちゃん……。箒さん」

「……うむ。その意気や良し!帰ったら魔鈴さんにもっと鍛えてもらうように言っておこう」

「マリ…じゃなくて、箒さん!」

「ドラえもん、魔鈴さんに連絡を頼む」

「分かりました」

「お前は聖域で鍛え初めて、まだ日が浅い。まだ時間はあるから、それまでになんとか初歩でもいい、モノにしろ」

「は、はいデス!!」

こうして、自分なりの覚悟を示したことで、箒に認られ、ダイ・アナザー・デイへの参加が内定した切歌。だが、乗り越えるべき壁はまだまだ多い。実際、作戦中に小宇宙の技は使えてないが、体内洗浄からのインターバルが従来より短くなっている恩恵は得ている。また、これが将来への布石になるのである…。



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