短編『次元震パニック』
(ドラえもん×多重クロス)
――1947年に起こった次元震で出会うことになった501統合戦闘航空団の同位体らだが、お互いの違いが大きすぎたため、B世界側はほとんどA世界の戦闘には貢献出来ない有様であった。太平洋戦争も事実上は開始されていたこの頃、黒江達は表向きは五輪に向けての練習名目で基地に駐留していたが、事実上は実戦任務に等しかった。B世界側のウィッチ達は対人戦では戦力と見なせない者がいるため、転移してきたほぼ全員が南洋島の新築ホテルに軟禁状態となった――
「どうして、私達を出さないのですか、閣下」
「こちらの都合を考慮してくれるかしら、中佐。こちら側の貴方達は作戦行動をしているし、相手は怪異ではなく、人よ。そんな状況に若い子を出したところで、戦ってくれる?」
「そ、それは…」
「それと、混乱を避けるためよ。それは分かって頂戴」
「ええ。それは分かっております。ですが、宮藤さんやリネットさんが何かさせろと」
「顔を隠しての救難任務でもさせるわ。こちらの二人とはあまりに違いすぎるもの」
「ペリーヌさんは?姿が見えないようですが」
「彼女は復興に専念すると言って、予備役になったわ。こちらではね。その欠員は扶桑のウィッチで補ったわ」
501統合戦闘航空団はA世界では、64F麾下の部隊となったために責任者は武子である。階級も戦功で中将に昇進しており、基本世界と同一の階級であるミーナBはいささか緊張していた。A世界では、坂本の更に上の世代が未だにブイブイいわせている事が否応なしに示されたため、ミーナは久方ぶりに自分より上の世代とお互いに現役として接する機会を得た事になった。
「扶桑の比率が増えたのですか?」
「こちらでは、特務への引き抜きなどでロマーニャやオラーシャ系のウィッチは皆無になって、ペリーヌも予備役になったから、その欠員を余裕のある国から補充するしかなくてね」
これは嘘である。実際はサーニャもルッキーニも隊を離れずに別名義で所属し続けているが、敢えてそれを説明する必要はないからだ。
「隊長、コーヒーをお持ちして参りました」
「入って」
「彼女は?」
「紹介するわ。紅城トワ少佐。ペリーヌの後任よ」
ぬけぬけと『紹介』する武子。こうしたふてぶてしさはダイ・アナザー・デイで培われた軍隊流の処世術である。実際はペリーヌの別人格であるが、表向きは予備役になったペリーヌの後任という形で『紅城トワ』は存在している。さる勲功華族の娘というプロフィールも偽装されて。トワは出自的に日本人には見えないのだが、ハーフという形で押し通している。太平洋戦争前後の時期、ペリーヌはこのような形で軍隊に在籍し続けていた。声色は他人の空似という事で通している。両者が似すぎているのが原因だが。
「紅城トワ少佐であります、中佐」
「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐よ、よろしく」
トワとしては『騙す』ことに罪悪感があるが、目の前のミーナは『同位体』であるため、別人として接するのが一番である。(扶桑の戦闘服姿であるのもあり、トワにはそれっぽさはある)
(いいんですの、隊長)
(全てを話す必要はないもの。それに、貴方がプリキュアである事は当面は伏せとくわ。今は、のぞみの事を説明するので精一杯だもの)
(……なるほど)
この日までに、のぞみは錦の同位体相手に錦の姿からキュアドリームに変身し、『プリキュアシューティングスター』で模擬戦を逆転勝利するという反則技を行使した。ドリームになると、姿と声色がまるっきりの別人になるのもあり、その説明に追われた武子。それで、トワのことは後回しにしたのだ。
(のび太に偵察を頼んだわ。宣戦布告は向こうが公式に出してないから、法的には戦争状態には無いから)
(どこへ?)
(真珠湾よ。太平洋共和国から借りるって形であそこを使っている既成事実があるから、それを戦時でも強引に押し通すつもりなのよ。たぶん、真珠湾は艦砲射撃で火の海にせざるを得ないでしょうね)
青年のび太はこの時期、日本連邦の依頼で64Fに公式に協力しており、この日は宇宙科学研究所からダブルスペイザーを借り、強行偵察に出ていた。ウィッチ世界ではパナマ運河相当の運河が地形の関係で大規模ではなく、戦艦や空母などの大艦は史実の運河建設以前の時代のように、大西洋からの迂回コースを取るしかない。そのためか、扶桑海軍は太平洋艦隊の戦力を楽観視していたが、日本側に叱責され、真珠湾の無力化が戦争での第一次目標と定められた。47年になると、太平洋艦隊も増強されていると思われているので、のび太がダブルスペイザーで強行偵察に出たのだ。当時はダイ・アナザー・デイでの戦訓でアイオワ級戦艦が艦隊決戦の主力と見做されなくなり、代わりにモンタナ級戦艦がその座についた頃である。日本側からは想定外だが、水上艦隊が増強され、航空戦力の増強が二の次にされたとする調査結果は信じられていないが、リベリオンもウィッチ主体の航空戦力構築をしていたため、ダイ・アナザー・デイで数少ないウィッチ兵力が大打撃を被り、通常戦力に切り替えたが、ダイ・アナザー・デイでは付け焼き刃的運用に終始し、そこを日本連邦が突く形で勝利した。だが、日本連邦でのウィッチ兵科はその存在意義がサボタージュとクーデターで疑問視され、竹井元少将の生存中は政治的に存続を約束されたが、彼が死去した後の然るべき時に解消するという流れとなっていた。前年からの戦友会のウィッチ紹介のボイコットで、兵科を維持するための必要人数を継続的に確保できる見通しが立たなくなりつつあったからだ。その流れにより、ダイ・アナザー・デイで懸念された『ウィッチ同士の戦闘』は大規模に生起する可能性は減少したものの、ウィッチ兵科の命運は竹井少将の威光でどうにかなっているようなものである。太平洋戦争の本格化も近い時期においては、双方共に政治的事情航空戦力の増強にどのような意味合いを持たせるのか、思案していたとも言え、64Fとその他いくつかの精鋭部隊のみがウィッチの受け皿として存続している。ダイ・アナザー・デイを境に通常装備の部隊に切り替えられたウィッチ部隊はかなりに登ったが、運用ノウハウ維持とウィッチを軽視していないという政治ポーズを見せるため、いくつかの精鋭部隊のみが維持されている。
「わが隊はウィッチの運用ノウハウ維持という政治的事情と有事即応の2つの事情を抱えてるのよ。だから、年齢の高さを理由に、外すわけにもいかなくてね」
「それで、年齢が20代の幹部が大半を占めるのですね」
「20代と言っても、戦闘力は貴方達を超えるわ。元々、一騎当千の強者であった者達を集めてるから」
「どうして、そのような事に?」
「この世界特有の事情が絡むから、説明が難しいのよ。世界そのものが変容したから」
ミーナBはキョトンとするが、A世界はある意味では特殊な世界である。黒江達が25歳を超えて尚も最強を誇り続け、501以外の統合戦闘航空団は508以外が統廃合で消えているという。本来であれば、501が単独でベルリンまで開放するはずだが、この世界では、ティターンズとの太平洋戦争に参加しているため、そういうわけにもいかなくなったのである。太平洋戦争こそ、今次大戦の天王山であり、ティターンズの残党にこの世界が完全に屈するか否かの瀬戸際である。その戦に巻き込まれつつあるのがB世界の彼女らだ。
「それに、扶桑ウィッチが全ウィッチで最強の座を欲しいままにしてる時点で、貴方達の世界と違うわ。私達の世代が貴方達の礎を築いた事になってるから、若い子らの反発と裏腹に、私達の世代は軍隊の屋台骨を担っているのよ」
「なっ!?」
「政治的に、10代半ばまでのウィッチは都合が悪くなったのよ。それと、ウィッチの寿命を乗り越えた者が現れたわ。それが運良く、撃墜王で鳴らした者だったから、政治屋が気を良くしたのよね」
ウィッチの寿命を乗り越えた。端的にGウィッチを表す表現である。実際、1947年にもなると、ハルトマンの世代もあがりを迎え始める頃だが、Gウィッチ化した者は前線勤務を続けている。日本連邦では、政治的に『エースパイロットは前線で戦ってナンボ』という認識を大衆が持つため、ダイ・アナザー・デイ作戦以降はエースパイロットが後方に下がって教官任務を行う事自体が減少し、前線で戦功を挙げる事が至上と見られる風潮が強まった。ウィッチは交代要員が確保できなくなっていたため、パイロットよりその傾向が強まっている。政治的に戦闘単位をとんでもない数値にまで引き上げる必要が出てしまったのも、前線配属ウィッチの人数が減った一因である。
「その弊害として、前線に若い子が出れなくなったから、新人でも16歳と『高齢』になってね。その兼ね合いで、私達は定年まで前線勤務が通達されてるわ。軍縮が模索されて、ウィッチ関連の予算が減らされた関連って事になってるわ」
武子は政治家と内務関係者嫌いなため、政治的折衝は黒江と圭子のすることを裁可する程度である。この頃には近衛師団は憲法改正を大義名分に、日本側の要望で『近衛連隊』に縮小され、同師団の若手参謀の多くが左遷させられるなど、軍隊に大鉈が振るわれた。大本営は廃止されたものの、統合参謀本部・統合幕僚会議の有事の避難用用地として、松代大本営は工事が継続され、より堅固に作られている。地中貫通爆弾や『核兵器』は愚か、衛星軌道からのマスドライバー攻撃にも耐えられるように構造が強化されて。『わがままで金食い虫』のウィッチへの予算が減らされた代わりに、それらへ予算が費やされた。ダイ・アナザー・デイ以降、ウィッチ関連装備の開発が一時的に鈍化しているのは、政治的理由が大きかった。Gウィッチの活躍で一定規模の予算は約束されたが、兵科の長期の維持は不可能と見抜く者が現れ、一部には技能資格を取りまくり、つぶしが効くようにする者も出てきている。
「どうしてなのですか」
「一般大衆の福利厚生等を充実させ、国家中枢の防護をするって触れ込みで、軍事予算が減らされた兼ね合いよ。それと、五輪と万博を開くから、ね」
「万博はともかく、五輪に多額の国家予算を?」
「貴方の思ってる五輪とは違うわ。そうね、戦前のベルリン五輪を更に大袈裟にしたような国威発揚の場になったのよ」
それが大まかな状況である。当時、ロマノフ朝は日本のアナーキストが起こした革命(未遂)で甚大な被害を蒙り、更に日本がロシア系国家に一種の不信を抱いていた事もあり、援助が形式的なものであった事、同位国のロシア連邦が冷淡だった結果もあり、ロマノフ朝は国家として衰退期に突入してしまった。ロシア連邦が援助に乗り出し、ロマノフ朝が安定を取り戻すには、更に十年近くの時間を必要とした。サーシャの復権もそれと時を同じくするため、ロマノフ朝に降って湧いた災難は日本連邦のウィッチ世界での超大国化を促進させたと言える。
「そんな状況なのに、何故?」
「リベリオンが貴方達のような来訪者の手に落ちて、その傀儡政権になり、扶桑と太平洋戦争をやろうって流れになったからよ。扶桑はその準備と五輪と万博を並行して行うから、ウィッチの予算が減らされたのよ。一部の精鋭に予算を充当するという建前で」
扶桑は再開発と防備強化に予算を費やし、ウィッチ関連予算を減額したため、軍部は必然的に精鋭部隊のみを維持し、軍学校育成期間を延長する選択肢しか取れなかった。Gウィッチは時勢も味方する形で、この時期には『扶桑ウィッチの精強さの証』とプロパガンダされた。実際は他国軍所属もいるが、ダイ・アナザー・デイを境に、連合軍の主導権が日本連邦の手にある事で『自軍扱い』であった。
「それと、カールスラントが政府主導で軍縮をしたから、我々が矢面に立たされたのよ」
「なぜ?」
「この場では説明は無理よ。とにかく、扶桑の統合参謀本部と私達の意志で連合軍は動くということだけは頭に入れて頂戴」
「は、ハッ…」
ミーナBは驚きっぱなしである。この世界では扶桑が連合軍の主導権を握り、ブリタニアとカールスラントが人員と機材を連合軍に供出し、三国の支援で自由リベリオンは軍を事実上運営している。その事を明確に告げ、少なくとも、カールスラントは軍事的主導権を喪失した事を教える武子。
「私達が客人ということは承知しております、閣下。ですが、坂本少佐はどうなされたのでしょうか」
「あの子は45年で現役を退き、今は海軍の空母の管制官になったわ。最も、出向という形で、我が隊に籍は残しているわ。扶桑に空軍ができた影響、とだけ覚えておいて」
「ありがとうございます」
「ただ、技能維持のための飛行は認めるけれど、戦闘への参加は許可できないことになるわ。転移してきたウィッチは対人戦争をするつもりで戦っていない子が多いし、特に、芳佳は元々、そういう気質だもの」
「ええ…」
この時の会話で、B世界のウィッチ達はA世界で生起済みの戦争には直接は関わることにならないだろうという見込みが伝えられた。だが、芳佳BとリーネBが『力があるのに、何もしないのは怖い』と主張し、揉め事を起こしてしまうという、武子も予想外の出来事が起こってしまう。その最大の揉め事は、共に転移してきた黒江達の同位体が『名の知られた元ウィッチ』である事を知った芳佳Bが、すっかりホテル暮らしに慣れきっている彼女らと揉めたことだった。黒江達は普通に行けば、45年には『飛行は可能だが、戦闘能力はもはやない』エクスウィッチ(あがったウィッチを指す言葉)でしかない。
「このアホ!坂本みたいに、あがっても戦おうってのは物好きのやることだよ!」
「飛べるんなら、戦えるってことじゃないですか!」
「私達を坂本と一緒にするな!!」
と、揉め事を起こす芳佳B。怠惰な暮らしに慣れきっていた黒江Bらへの反感で意見を言いに言ったが、全員が坂本のようにはなれない事を知る黒江B達と罵り合いの様相を呈してしまう。ホテルには一般客(軍の関係者だが)がいないわけではないため、フロントで派手にやり合うウィッチに引いている者も多い。フロント係からの通報で駆けつけた黒江Aは罵り合う二人を仲裁する。
「バカ野郎共が!何しとるんじゃ!!」
「あいた〜!何するんですか!」
「場所を考えろ!フロントでみっともない事するんじゃねぇ!!」
黒江はまず、芳佳Bにデコピンし、別の自分自身にはビンタする。黒江Aが見てみると、智子Bは(芳佳Bが智子の過去の名声を知らないのもあって、智子Bの気にしている事をズバリと言ったらしい)号泣しており、芳佳Bがかなり厳しい言葉を浴びせた事が窺えた。
「お前、コイツに何を言った?」
「私は、『何か出来ることがあるはずなのに、あなた達は何もしていないじゃないですか。何もしないでいて、怖くないんですか?』って言っただけです」
「このバカチンが。ここにいるこいつらは既にあがって何年も経っとるんだぞ?少しは立場を考えてやれっての!」
頭を抱える黒江A。芳佳はある意味、坂本の直接の弟子としては最後になる人物であり、その思考に亡き宮藤博士(実父)と坂本の影響を強く受けている。そのため、力を持つ、あるいは持っていたのに、傍観に徹する事を激しく嫌い、それで周囲と衝突する事がある。この場合もそのケースである。智子Bは『したくともできない』事情があると言ったが、芳佳Bは単なる逃げ口上と捉えた。それで罵り合いにまでなってしまった。
「この俺はこいつとは同姓同名の別人に等しいから、同じ風に考えちゃいかん。坂本の悩む様子を見てるんなら、それと同じようなことがあったって事だろ?」
「でも、坂本さんは…」
「あいつはお前の親父さんを直接知っている。だから、諦めが悪いんだよ。こいつらはあがりを宿命として受け入れたんだ。なら、それなりの身の振り方ってのがある。少しはその気持ちを分かってやれ」
「……」
芳佳は自分が正しいと思った事は誰に言われようとも曲げない。それが基本世界と同じような経緯を辿った場合の黒江達が失っていた『若さ』であり、『ひたむきさ』である。芳佳Bの言い分は分かるが、別の自分や智子の立場というものも理解してやるべきである。黒江Aは諭すように言い聞かせ、芳佳と別の自分達の双方の顔を立てる。
「いいか?坂本が力が失う事を恐れるように、こいつらは往年の力をもう奮えない。それだから、俺達の影武者を辞退したんだ。飛ぶので精一杯にまで魔力が落ちてるからな」
「じゃあ、あなたは…?」
「俺は現役バリバリのトップエースだよ。こいつとは事情がまるで違うし、この世界最強の一人を自負しとる。だからだ。お前んとこのハルトマンやエイラだろうが、余裕のよっちゃんだ」
黒江Aは自分の実力をそう表現した。レイブンズとして、A世界で君臨し続けている一人として。空自でも教導群在籍経験を持ち、地球連邦軍ではロンド・ベルに属するなりの実力というものは、B世界のウィッチが初顔合わせでどうにか出来るものではない。模擬戦をしたところ、黒江Aはロッテ戦法も一級、格闘戦はハルトマンBとエイラが空中ではっきりと怯え、格闘戦に持ち込まれた末にノックアウト。坂本Bが防戦一方になり、狂奔の一端を見せると、『鬼だ…!』とすくみあがるほどの強さを単騎で見せ、なおかつコーチング(教導群時代の癖だが)する余裕を見せた。これはのび太が成人後以後は時たま、VFでの模擬戦をしあったり、バンキッシュ・レースに共同で出る仲であること、連邦宇宙軍航空隊の異端児『イサム・ダイソン』に可愛がられ、彼から戦技を教わっているため、統合戦闘航空団の撃墜王も形無しである。
「お前…、あれほどの力、どうやって…?」
「色々とあってな。長い時間と努力で、あそこまで実力を上げた。お前が考えるよりも長い時間だよ」
ぼかしてはいるが、膨大な時間と手間を掛けて、自己研鑽に励んだ結果、黒江Aは揺るぎない『最強のケッテ』、『無双のシュヴァルム』の長機の地位と名誉を得た。別の自分自身が驚くほどに実戦慣れしている様を見せつせるかのように言う。
「お前はまだヒヨコ以下のタマゴみたいなもんだが、素質はある。実戦には連れてってやれんが、救難班に顔を隠してなら参加させられる。別のお前はエースパイロットだから、顔も知れてるから、色々と不味いし」
「タマゴってなんですか!」
「比喩だよ、比喩。丁度いい。お前らに良いものを見せてやる」
「え?」
「本来なら、極秘だがな」
黒江は自分の責任で部外秘の代物を見せに連れ出し、基地の大ハンガーを見せる。
「これは……?」
「俺達が部外秘にしてる機材の集積所だよ。芳佳、お前が使ってる震電の改良型もある」
「え!?」
「お前の機材はこっちに予備パーツがないから、多くは使わせてやれんが、そいつの同型機なら融通してやれる。最も、坂本の要請で改修自体はしてるが」
芳佳Bの持ち込んだ震電ストライカーはA世界では、機材焼却事件の影響によるレシプロ機としての開発資料の散逸、残された機体がそのままジェットストライカーユニットに作り直されたため、レシプロストライカーユニットの実用機としては生産されていない。震電改良二型、通称は震電改二。ダブルデルタ翼を分割したような主翼を持ち、携帯装備は折り畳み式リボルバーカノン、ホ155-U、各種魔導誘導弾、好みの格闘装備。第二世代宮藤理論の国産試作機の側面を持つ、この時点ではできたてほやほやの最新鋭機だ。
「すごい…これが震電の…」
「こっちだと、一部のウィッチがクーデターを起こした時の余波でレシプロ機としては完成させられなくてな。こっちのお前のダンナさんがジェット機に作り直して完成させた。47年にもなれば、ジェットも熟成するさ」
501統合戦闘航空団のB側はバルクホルンを除いて、バルクホルンの事故を理由に、ジェット機に拒否反応を示しているが、戦時のままで二年もの月日が経過すれば、ジェットストライカーユニットも実用性のあるものが現れる。
「そっか、ここは二年後なんですよね」
「お前の世界とは繋がってないがな。それに、ジェットの教義も独自に制定した。誘導ロケットが実用化されて、単純な一撃離脱戦法が陳腐化したからな」
黒江達がダイ・アナザー・デイで確立させたのが、誘導弾を持つ場合のジェットストライカーユニットでの空戦の基本理論である。また、ジェットストライカーユニットが普通に出回れば、ジェットストライカーユニット同士や高速怪異との巴戦は起きるという戦訓を知らしめた。カールスラント空軍がパニックに陥ったのも、自分達の想定が覆った上、ジェットでの従来型空対空戦闘が普通に起こりまくり、一撃離脱戦法前提の教義は誘導弾戦闘が始まった時代には時代遅れになったからである。
「お、外に出て空を見てみろ。管野がまた馬鹿やらかしてやがる」
「あの子、私より下に見えましたよ?」
「年齢はお前とどっこいだよ。チビで童顔だからだな」
「あの子、508の雁淵孝美に執着してるそうだけど?」
「ああ。一緒に飛びたいし、崇拝してるんだよ。この前は俺がノシてやったが、今度は錦相手に喧嘩売りやがったな。どうなっても知らんぞ」
「あ!あの子、錦さんのストライカーユニットを一個、拳で駄目にしましたよ!?」
「剣一閃か。こっちのあいつと同じ失敗してやがる」
「どういうこと、綾香」
「見てりゃ分かる」
一同はハンガーの外に出て、上空で行われていた模擬戦を見てみる。すると、A世界の中島錦とB世界の管野直枝が模擬戦をしている。管野が優勢で、模擬戦用の隼三型ストライカーを片肺飛行に追いやったのだが。
『先輩、イキってるガキをお仕置きしていいですか?』
『管野にはいい薬になる。実力を見せてやれ』
『了解っす』
その時だった。錦がストライカーユニットを停止させ、随伴している撮影班にユニットを渡し、手を離してもらい、そのままフリーフォールのような態勢で落下していく。芳佳Bと智子Bが狼狽え、悲鳴をあげるが、錦はそこから変身を敢行する。
『プリキュア!!シャイニングメタモルフォーゼッ!!』
錦こと、夢原のぞみがこの二年で自家薬籠中の物にしたもの。それはシャイニングドリームへの任意での変身である。掛け声が一部、シャイニールミナスと被っているが、のぞみの頭脳では新規の掛け声が作れなかった故の便宜上の掛け声である。この日も錦の姿からの直接変身を行い、その勇姿を見せた。ちなみに青年のび太曰く、『のぞみちゃんの素はガキの頃のボクと似てるからなぁ』との事で、そこはのび太からも嘆息され気味である。
「何ぃ!?へ、変身しやがった!?」
『想いを咲かせる奇跡の光、シャイニングドリームッ!』
のぞみの転生後数年の成果。それはかつての単独での最強形態たるシャイニングドリームへの任意での変身であった。これはその上の形態に開眼したからでもあるが、シャイニングドリームのスペックを完全に自家薬籠中の物とした証であった。
「な、何あれぇ!?ど、どゆこと、綾香!?」
「耳元でピーピー喚くな!あいつ、ここだと、副業が正義の味方なんだよ」
「何よそれー!」
「とにかく、そうとしか言えねぇよ」
黒江Aはヒロイックな姿になった錦に驚きっぱなしの智子Bを宥め賺す。芳佳Bも目を丸くしている。
「正義の……味方」
「そうだ。あれがアイツがこの世界に限って得た力さ」
多少の嘘を入れるが、半分は本当だった。薔薇と天使をモチーフにした華麗なコスチューム、天使を連想させる、白い鳥のような翼、ピンク色の長髪など、全てが変わっている。空中でそれを目の当たりにした管野はあまりのチートぶりに喚き散らす。
「んだよ、どうなってやがる!?」
「さあて、模擬戦でストライカーユニットをぶっ壊すような子はお仕置きだよ、直枝?」
「子供扱いすんじゃねぇ!!」
ドリームは翼を広げ、その力の片鱗を見せる。得物はスターライトフルーレに持ち替えて。そのスピードは管野の想像を超えたものであり、スーパープリキュアの面目躍如と言えるものだ。だが、それを以てしても苦戦しまくるあたり、ティターンズが抱える超人達のバケモノぶりがよく分かる。リベリオンのコミックヒーローのように、箒無しで空を飛ぶドリームに管野は無謀にも挑む。蛮勇とも取れるが、それが彼女なりの実力を図る手段であった。
「スピードだけなら、音速を超える怪異との戦闘で…!?」
「あいにく、スピードだけが取り柄じゃないんだよ。蝶のように舞い、蜂のように刺す…ってね」
ドリームはドラえもんとのび太から教えられた、ボクシングのかつてのチャンプが言ったという『蝶のように舞い、蜂のように刺す』という一言を言い放ち、管野の背後を取る。振り返った管野はとっさに模擬戦ではめったに行わないステゴロ戦法で対応せんとするが、百戦錬磨のドリームには尽く通じない。それどころか、デコピン一発で痛烈なダメージを食らう始末。芳佳Bの目から見ても、実力差は明らかであった。
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