−フロンティア船団での戦いは激戦を極めていた。この日の戦闘にも黒江は参加していた。
愛機の「ナイトメア」の火力を生かした一撃離脱で、バジュラの比較的大型のタイプを仕留める。

「良し、二機目撃墜っと」

だが、その離脱のオーバーシュートの隙を別のバジュラに突かれ、被弾しまう。つまり先ほど落としたバジュラを囮代わりにし、別の個体が攻撃を加えたのだ。歴戦の勇士である黒江もこれはさすがに対応出来ず、被弾を許してしまう。

「うわあっ!?し、しまった!!」

攻撃の直撃をモロに受け、さしものアーマードバルキリーを思わせる重装甲を誇るVF−17Dも悲鳴を上げる。ファイター形態で胴体とエンジンに高威力攻撃を被弾した影響か、エンジンが一機停止、片肺飛行を強いられる。変形機構、武装も使用に支障をきたした。これは被弾率が低い黒江にしては珍しく、滅多にない重大な損傷でもあった。

「くそっ!被弾した、戦闘続行不能!!撤退する!!」
「大尉、援護します!ここからだとバトルフロンティアは無理だ、クォーターに着艦してください!」
「アルト、恩に着る!頼むぞ!」

早乙女アルトのVF−25Fの援護を受けながら黒江は最寄りの航空母艦たる、マクロス・クォーターへ撤退する。ファイター形態での着艦となったが、ここで思わぬ損害に気づく。

「くそっ、降着装置がいかれてやがる!変形機構だけじゃなかったのか……」

先程から降着装置のスイッチを何回入れても反応が全くなく、計器には今しがた故障との表示が入る。黒江はこの状況にも窮することはなく、最後の手段に打って出る。

「クォーター、聞こえるか?降着装置が故障した。これから胴体着陸(着艦か?)を試みる」
「分かりました、すぐに要員を待機させます」
「恩に着る」

クォーターのブリッジオペレータの一人「ラム・ホア」との通信を交わし、着艦時の万が一の時のために要員を待機させてもらうと、黒江は生きているエンジンのスロットルとフラップを操作して着艦に入る。多少手洗いが、これしかバルキリーを持ち帰る手段はない。
慎重かつ大胆に操縦し、クォーターへ着艦する。

轟音を立てながら黒江は愛機を着艦させる。この際の損傷は激しく、強引な手段で着艦させたのもあって、全損扱いとなり、使える部品を取り出された後は廃棄されてしまった。
こうして愛機を失った黒江だが、前々からオズマらに頼み込んでいたブツが届いたという知らせが医務室で軽い診察を受けた後、クォーターで療養していた彼女の元へ届いたのは
この六時間後の事だった。

 

−六時間後、マクロス・クォーター内格納庫。

格納庫に一機の真新しいVFが鎮座していた。ナイトメアとは異なる系統の機体であることは一目瞭然で、新星インダストリー製のものである事を示す、VF−1以来の流麗なフォルムが印象的だ。VF−1と異なるのは可変翼が後退型可変翼ではなく、前進翼という点だ。この機体の名は「VF−19A エクスカリバー」。VF−25登場以前はこの機種と「VF−22 シュトゥルムフォーゲルU」がVFの「最高水準」の双璧を成していたほどの凄まじい高性能を持つ。かの「イサム・ダイソン」大尉が試作機のテストパイロットを努め、本土の防空網をぶち抜いたがために軍内や政府に配備抑制論が幅をきかせた逸話まで持ち、VF乗りのエースパイロット御用達の機体である。このエクスカリバーは「ブリデン島の正統なる統治者の証で、アーサー王が持つ聖剣」の伝説を命名の際に肖って名付けられたという噂もあるほどで、噂によれば命名者は英国人との事だが、真偽の程は明らかでない。

「大尉、お前にプレゼントだ。艦長が骨を折ってくれてな、バトルフロンティアで熟練者やエース用に製造された機体をちょろまかしてくれるように取り計らってくださった。しかも本国仕様だ」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」

黒江を機体の所へ案内したオズマ曰く、「ジェフリー・ワイルダー」艦長が連邦軍時代のツテや人脈を使ってバトルフロンティアにいる熟練搭乗員やエースパイロット用に本国から特別に製造が許された「VF−19A 太陽系直掩艦隊仕様」の内の一機をちょろまかし、黒江の手に渡るように取り計らってくれたとの事。機体は既に黒江が乗ることを見越してか、塗装が大日本帝国陸軍飛行第64戦隊の部隊マークとノーズアートが描かれた上で、大戦中期以降の日本軍航空機の制式塗装の「機体上面を濃緑色、下面を明灰白色」に塗り分けられている。実に手が細かい。

「ところで、少佐。どうしたんですか、その顔」
「昨日、ランカのやつに色々と投げられてな……死ぬかと思った。アイツの夢に反対しちまったんでこの様だ」

オズマは痣の残る顔を曇らせながらため息を付く。妹のランカが歌手を目指している事は知っていたが、兄として身を案じる彼は頭ごなしに妹に反対してしまった。それがランカの堪忍袋を切れさせてしまい……

「お兄ちゃんのバカぁぁぁっ!!」

……とランカは怒った弾みで、その場にあるものを手当たり次第にぶん投げた。時計、座布団、CD、フィギュア……はたまたフライパンや包丁。彼は必死に避け、包丁を含めた殆どを避けた。だがフライパンまではよけきれず、直撃してしまった。その際の痣は一日たってもまだ消えていない。

「頭ごなしに反対するからですよ、あの年頃は難しいんですから」
「頭じゃわかっちゃいるんだが……兄としてはどうもな……」

オズマは妹が夢を叶えるという嬉しさと自分の手を離れるという寂しさが交錯する複雑な感情を垣間見せた。黒江は本来の姿の年頃がオズマに近いためか、彼に色々とアドバイスを送ったりしているが、今回はちょっと複雑だ。

「私からも言っておきますから」
「頼む。おっ、思い出した。フェイトちゃんに伝えてくれ、`FireBomber`のCD買うんなら今度の日曜日にしろと」
「どうしてです?」
「アイランド1にある、いきつけのCDショップから電話があってな。今度FireBomberが久しぶりにアルバム出すからそれでキャンペーンを行うそうだ。値段も3割以上値引くそうだからお得だぞ」
「少佐はFireBomberのファンでしたね」
「ああ。ファーストアルバムから買ってる。自分で言うのも何だが……筋金入りのつもりだ」

オズマ・リーは熱気バサラがボーカルを務める人気ロックバンド「FireBomber」の熱狂的な大ファン。そのファンぶりは妹のランカを引かせるほどで、作戦コードに彼らの楽曲のタイトルを使うほどの入れ込みよう。(ちなみにこのことに関してはどこからか、そのFireBomberのボーカル・ベース担当のミレーヌ・ジーナスへ伝わっており、彼女曰く「嬉しいような、恥ずかしいような……」の談)なので、CDショップにも知り合いは多く、普通なら業界人しか手に入れられない情報も手に入れる事が出来る。それを使って黒江へ伝えたのだ。(この時に黒江が教えられたのはFireBomberの久しぶりのアルバム「Re.FIRE!!」の事である)オズマはこういった筋から好きなアーティストのCDの情報を入手、活用。
コレクションに加えていた。そのためその筋では知られているとか。

−黒江はナイトメアに変わる愛機としてエクスカリバーを手に入れた。これ以後、彼女はウィッチ出身者では最初のVF−19系統乗りのエースパイロットとして名を馳せていく事になる。そして彼女がエクスカリバーに乗ったことで、ウィッチ達(各国問わず)のVF訓練志願者が本国で急増することになる。

 

 

 

 

−マクロス・フロンティアでの戦乱は否応無く同船団を訪れていたフェイト達をも巻き込んだ。フェイトはランカ・リーの歌手デビューを見届ける一方で、連邦軍とS.M.Sの戦列に加わっていた。この時期にはフェイトもVF乗りとして`一人前`の腕を身につけており、戦闘に生き残る事でVFがこの世界の人類が掴みし翼であることを理解し始めていた。定時通信での義兄の「クロノ・ハラオウン」との会話でそれが伺えた。

「VF(Variable Fighter)……か。データは見させてもらったが、上層部にはそれらを取り上げた上で魔道士部隊を進駐させろという声がある。どうやら魔導師の優位性を揺るがす兵器の存在は認められないと吹聴する事務方出身者が言い出してるらしい」
「やっぱり。アレは量産型の一機でも山は消せるほどの力はあるから。それに大気圏内でも音速の五倍を超えるスピードと機動性がある。自分達の選民意識を揺るがす力は認められない……って訳だね」

フェイトは`公務員`的な管理局よりもさらに厳格な規律や規則がある軍隊やそれに準じる組織に身を置いたためか、長年に渡って存続した組織の例に漏れず、組織全体の統制に緩みが生じている管理局の上層部の怠慢に憤っていた。そして管理局は本来の規律で定められた「管理外世界には不干渉」の方針をねじ曲げつつある。その背景には余りにも発達しすぎた地球連邦が持つ超科学兵器の危険性があるが、地球連邦からすればそれは「内政干渉」以外の何物でもない。それがもし、地球連邦軍の逆鱗に触れれば彼らは国家中枢を破壊することくらいは何ら躊躇うことなく実行するだろう。ガミラス帝国の場合や白色彗星帝国の場合がそれだ。ヤマトに本星の都市を根こそぎ壊されたことで国そのものが瓦解したガミラス、国家中枢を喪失した白色彗星帝国はアンドロメダ星雲の領域に跨る帝国を維持不能となり、内から自壊した。地球連邦軍は惑星破壊可能なビーム砲(波動砲やマクロスキャノン)や銀河をも破壊可能な兵器(ブラックホール爆弾)を実用化し、常に脅威に備えている。管理局が一部の強硬論者達の言いなりになって強硬に動けば、地球連邦は管理局を侵略者と認定し、ミッドチルダ本星に草の根一個すらも残らぬほどの凄惨なる殲滅戦に打って出る可能性もある。そうなればミッドチルダの滅亡を意味する。

「何とか上の連中を押しとどめさせて。唯でさえ地球連邦は侵略者との戦争を連続して経験して政治家達はピリピリしてるし、ファーストコンタクトが最悪で、ミッドチルダのことはまだ疑心暗鬼なんだから」
「わかっている。僕のほうも母さんのほうの人脈で事務方やお偉方に手を回す。後はレジアス閣下の英断を期待するしかないな」

クロノはこの当時の時空管理局の上層部のトップの一人の名を出し、時空管理局の理性が拡大志向を抑えられるかにかけるとフェイトに告げる。そのクロノの憂慮はいい方向に当たり、この時の報告がなされた後の公開意見陳述会でレジアス・ゲイス中将が強硬派や若手将官らを一喝で黙らせる形で地球連邦との融和路線を継続させると決定。それは高評議会も了承したという。それは何のためなのか。最高評議会の構成員たちにしかそれはわからない。

「大丈夫なのか、戦闘機のパイロットなどやって。母さんやアルフも心配してるぞ」
「大丈夫だよ。綾香さんやS.M.Sの皆さんがついていてくれるし。……母さんたちには心配しないでって伝えておいて」
「分かった」

通信を終えると支度し、滞在しているホテルの外に出て買い物に出かける。この日はミッドチルダや自分達の地球にいるみんなへのおみやげを買いに出かける日である。早乙女アルトやミハイル・ブランなどにも付き合ってもらっての買い物である。軍資金は多めに持っていった。

−フロンティア船団 サンフランシスコエリア

「あ、いたいた。フェイトちゃ〜ん、こっちこっち」
「ミシェルさん」

ミハイル・ブラン(愛称ミシェル)がフェイトを出迎える。今回はS.M.Sを動員しての買い物であるのか、アルトの他にルカ・アンジェローニ、はたまたオズマ・リーもいるそして、その傍らにはランカの姿があった。

「ランカさん!?どうしたんですか今日は」
「今日はオフなんだ。それでアルト君に話してくっついて来たんだけど、お兄ちゃんがそれを見てて……」

兄の余りのシスコンぶりに呆れてしまうランカ。オズマのシスコンぶりは他の隊員たちをして何も言えなくなるほど。

「オズマ少佐……それでついてきたんですか?」
「そうだ。コイツら……ルカはともかくもミシェルに妹は任せられん。アルトのほうがまだまし……いや似たようなもんか」
「……」

アルトはいまいちそういうところにだらしがないことは自覚していたのか、苦笑する。フェイトも子供ながらにアルトが持つ八方美人的側面に気づいていたのか、この日の三日前にシェリルとランカに見せる、どっちつかずのような態度を見せるアルトに一言物申し、アルトもそこを自分の悪いところだといい、フェイトにそのうち自分なりの『答え』を出すと告げた。

「フェイトちゃん、FIRE BOMBERのCD買うときは俺の名を出せ。それだけでCDショップの店員が値引きしてくれる」
「お兄ちゃん……まだやってたの?やめてよ恥ずかしいから……」
「人間好きなもんを手に入れるときは全力を使うもんだ。別に恥ずかしくないぞランカ」

それに対し、フェイトはなんとも言えなかった。ランカは兄がFIRE BOMBERのCDを買うときに店員と交渉して値引きさせる光景を何度か見てきた。それは妹にすれば「凄く恥ずかしい」光景。このFIRE BOMBERマニアぶりは釣りキチの黒江綾香も驚くほどのものである。それほど打ち込める物があるという点にフェイトはオズマを羨ましく思った。

 

 

−その頃、バトル・フロンティアに一機のVFが着艦していた。黒くカラーリングされた「VF−22S シュトゥルムフォーゲルU」である。そのパイロットは。

「まさかダイヤモンドフォースの君がフロンティア船団に派遣されるとは……どういった任務かね」
「自分の任務は船団長直々に言い渡された特務であります。そのような質問にはお答えできません」
「特務……まあよかろう。マックス船団長の決定ならたしかだろう」

−ガムリン木崎である。彼は熱気バサラ捜索のためにフロンティア船団にはその一環で訪れただけだが、
たまたまフロンティア船団が戦時状態であったために同船団の戦闘に加わることがなし崩し的に決定された。
まさか軍司令に面と向かって「熱気バサラを探してるだけです」とは言えないので、「特務」だとはぐらしたのだ。
彼はバサラの放浪癖に呆れつつもこうして捜索を行なっているのだ。マクロス7船団のエースパイロットである彼が来訪することは何を意味するのか。
フロンティア船団の上層部は計りかねていたが、実際はそれだけの理由である。S.M.Sの敏腕傭兵に匹敵する腕を持つ彼の存在はフロンティア船団の連邦軍にとって大きかった。

こうしてガムリン木崎はフロンティア船団に協力することと相成ったが、当のバサラ本人はそんな事などつゆ知らず、相変わらず歌い続けていたとか。

 

 

 

 

−地球連邦軍の軍事力は結果的にだが、時空管理局を恐れさせた。波動エンジンやマクロスなどの超テクノロジーが当たり前となっているので、民生分野も凄いと思われたが、そちらには医学・エネルギー工学・環境関連技術などの重要分野を除けば、人々の暮らしそのものは21世紀頃と比べてもそれほど劇的な変化は無かった。その理由は昔の戦乱で日本が一旦発明した便利なひみつ道具の数々が失われ、軍事分野はともかく民生分野での文明レベルは大まかに言えば、21世紀中頃の水準にまで一度落ち込んだからであった

「どうしてこんな凄い移民船を造れるのに暮らしそのものは私たちの時代の地球とそんなにとそんなに変わってないんですか?」
「ああ、それは意図的にそうしたのさ。民族的多様性を維持させるためとかで昔の街並みを再現したんだよ。地球の復興もその一例さ」

オズマはフェイトにフロンティア船団のアイランド1の街並みが21世紀頃の世界各国、特に日本とアメリカやイギリス、中国の街並みが多く再現されている理由を教える。このサンフランシスコエリアなどは坂が多いところまで忠実に再現されているし、山の手などもまるで日本にいると錯覚するほどの再現度である。それは戦乱で荒廃した地球本星も同様で、かつての主要都市などは帝都・東京と第二帝都のロンドンなどの例外を除いて、戦争で廃墟と化したところも多く、最盛期であった21世紀頃の姿を基準に復興を行なっている最中である。

「例えばニューヤーク……昔で言う所のニューヨークは最も栄えていた20世紀終わり頃を基準に復興中で、戦争で失われた`エンパイア・ステート・ビル`なんか3代目が建てられている途中だ」
「3代目?200年経ってまだ3代目なんですか?」
「俺も学生の頃に学校で習っただけなんだが、オリジナルが建材的寿命を迎えた21世紀末に2代目が計画されて、22世紀に入ってオリジナルを再現した2代目が造られたんだが、ゼントラーディの爆撃で塵になったから3代目が造られてるんだ」
「へえ。そんなことがあったんですか」

それはかつて栄華を誇った紐育の成れの果てを示す言葉であった。2199年時にはかつて世界で最も栄えている都市とされた頃のニューヨークの面影は失われ、単なる復興途上の街でしか無い。それがかつて超大国として栄えた米国の残照であった。

「そう言えばあのマジンガーZの操縦者……甲児って奴はどうしたんだ?姿が見えないが」
「甲児さんならマジンカイザーの解析で今日は来れないそうです」

「マジンカイザー?ああ、あのグレートマジンガーの後継機みたいなやつか……大型になれば強いってわけじゃないぞ」

アルトはマジンカイザーについてコメントする。アルト達のような移民船団にもマジンガー達の勇名は轟いているが、マジンガーが代を追うごとに大型化が進んでいる事にはいささか懐疑的であった。マジンガーZは18mと標準サイズであったが、グレートマジンガーはエンジンの高性能化と飛行機能の内蔵化により大型化して25mである。マジンカイザーやゴッド・マジンガーに至ってはほぼ30mに到達している。彼としてはスーパーロボットの数々が大型であることには疑問を持つようである。

「なんかその辺はわからないんですけど、マジンカイザーはプロトタイプの一体がゲッター線で進化したイレギュラー的なロボットですから色々と調べないといけないらしいですから」
「ゲッター線?あれは機械も進化させられるのか?」
「らしいです。内部構造もグレートのそれと同じ水準にまで進化していたとかで甲児さんはそれの解析をしてるんです」

マジンカイザーはそもそもマジンガーZの製作過程で造られたプロトタイプの内の一体が進化した姿。兜甲児によればこのような経緯があったという。

 

 

 

 

 

 

―2199年 初夏頃

 

アメリカより一人の青年が日本に降り立った。その人物の名は「兜甲児」。前大戦にて活躍したマジンガーZの操縦者として知られている青年である。現在は戦いを剣鉄也とグレートマジンガーに委ね、静養を兼ねたアメリカ留学の最中だが、急遽帰国したのだ。

「何なんだ?‘最後の遺産‘ってのは……」

 彼を日本に呼び戻したのは光子力研究所所長の弓博士からの一枚の手紙だった。手紙には「遺品を調べている内にある事が分かった」と記されていて、それを調べるために帰国したのだ。そもそも彼を米国から呼び戻した原因は甲児の祖父「兜十蔵」博士が残した一枚のメモと写真にあった。そのメモには余りの邪悪さゆえに封じられた一体のマジンガーの存在などが記されていた。その名は「デビルマジンガー」。あの十蔵博士をして、「恐ろしい機体」と言わしめたほどの邪悪な魔神。その復活を阻止するためにはあらうる手段を講じなくてはならないと聞かされていた。その強さはZは愚かグレートすら凌駕するやも知れぬという。

―マッドサイエンティストであった祖父すらも心から恐れさせた悪魔。それに対抗する術などあるのだろうか。

(デビルマジンガー……。おじいちゃんを恐れさせたっていうほどの……俺をアメリカから呼び戻すなんて)
悪魔の名を持つ魔神。その恐怖を奮うのを阻止しなくてはならない事への不安か、武者震いをするのを感じた。マジンガーZを失った今の自分に何が出来ると言うのか。
甲児は戦いをグレートマジンガーに任せきりの自分に悔しさを滲ませ、拳を握りしめる。

―前大戦でZを失ったばかりに最終決戦に参加できず、何人かの戦友を死なせてしまった。
その事を引きずっているのは確かかもしれない。

「鉄也さんに任せているだけじゃだめだ。落ち込んでたら俺の名が傷がつくってもんだ」

余談ではあるが、この世界における甲児と鉄也の関係は史実のようにひたすらギクシャクした物ではなく、幾度かの戦いを共にした戦友として良好な関係を保っている。
鉄也の事をさんづけで呼んでいるのも、甲児が鉄也の年齢をきちんと年上だと認識しているためである。(史実での甲児は鉄也に同年代な風に接していたのでくんづけだった)そして弓博士からの手紙の最後の部分に記されていた「祖父の最後の遺産」とは何なのか。謎は深まるばかりである。

そして彼は光子力研究所にて新たな力を手にする。

「先生、ゴットは完成が遅れていると聞きましたが……?」
「いや、ゴットではない。`皇帝`だよ、マジンカイザー……それがデビルに対抗できる魔神だよ」

光子力研究所の責任者「弓弦之助」博士は一つの事実を告げた。それはある存在を
兜甲児に知らしめることでもあった。

「第七格納庫を知っているね」
「はい。事故があって封印されたという……。でも何でそれを……」
「皇帝はその事故を引き起こした機体なのだ……しかも驚くべきことが分かった。この写真を見たまえ」

写真にはどう見てもグレートを発展させた外見を持つ新型のマジンガーが写っていた。完成予想図でみたゴット以上に強そうな外見をしており、いかにも風格溢れる姿をしている。

「新型……のマジンガー?」
「いや正確にはプロトタイプのマジンガーZがゲッター線で進化した機体……。皇帝はその進化で生まれたのだ」
「ゲッター線?まさかアレは機械も進化させられるのですか……?」
「これを見ると、そう思わずを得ない。早乙女博士に話を聞いてみたが、私の推測を頷けてくれたよ」

―光子力研究所の開かずの格納庫でそれは眠っていた。かつて兜十蔵博士がZの開発過程で生み出したプロトタイプマジンガーの一体がゲッター線を浴びて進化したロボット。マジンガーZは愚か、グレートマジンガーすらも凌駕する力を得た現時点での最強の魔神。弓博士らはこの機体に「皇帝」の異名を付けたと言う。Z以前の機体ですらも現行機を超越するほどにまで進化させられるゲッター線。何故この機体を進化させたのか?それは深い謎である。それはゲッター線研究の第一人者たる早乙女博士をしても未だ未知の領域なのだ……。

さて、甲児は格納庫に案内され、新たな魔神を目にしていた。全てが大きかった。
体や腕の太さなどはグレートマジンガーよりも力強く見えるほどに太く、逞しく感じさせる。大きさもグレートより頭一個分以上大きい。全体の形状はマジンガーZよりはグレート寄りだ。放熱板の中央部にZのエンブレムが存在する。Zとグレートの双方の血筋の始祖が進化した物とはとても思えない。各部形状はグレートマジンガーと似通っているが、Zの力強さも持ち合わせる印象を甲児に与えていた。

「こいつが…マジンカイザー」

甲児はこの魔神の名を呟いた。所内で`マジンガーの中のマジンガー`、`魔神皇帝`とのコードネームで呼ばれていたのを正式にそう名づけた。ゲッター線で進化しただけあって、性能は今までのマジンガーとは次元そのものが異なり、装甲は超合金ニューZをも遥かに超える強度のニューZα(超合金Zがゲッター線で進化し、ニューZを遥かに超える強度を得たために便宜上名付けられた。エンジン(ゲッター線で進化した反応炉心)出力はZの20倍以上と言うバケモノじみた存在。(後にその力は真ゲッターロボなどと対等と判明)

コックピットとなる小型戦闘機「カイザーパイルダー」は元々プロトタイプであった関係で搭乗メカが存在していなかったのを、弓博士らが新造したらしい。ブレーンコンドルの発展型なのがよく分かる。パイルダーに乗りこむと甲児は操縦桿を操作して、パイルダーをカイザーとドッキングさせる。

「パイルダーオン!!」

―すごいパワーだ!!Zの10倍なんてもんじゃねえぞ!?

甲児は操縦桿を握っていて、それ越しに伝わってくるカイザーのパワーに身震いするのを感じた。Zの扱いに慣れているはずの自分が震えている事に驚きを感じていた。

「へっ……どんなマシンでも人間の心が合わされば…ってね!」

甲児は早速カイザーの機能を検索する。背中にスクランダーが収納されている所を見るとグレートのような内蔵式なのか、それともオプション装備だったものが進化することで機体と融合したのか。

「カイザースクランダー、GO!!」

叫びと共に翼が展開され、テスト飛行を開始する。

Zとは段違いのスピードや上昇力を見せるカイザーはまさに`魔神の降臨`といった威圧感を醸しだしていた。
これが魔神皇帝の目覚めだった。これ以後、兜甲児はゴッドマジンガーの代打として、マジンカイザーを駆る事となる。神に代わり、魔神を統べるべき存在「皇帝」を。

 

 

 

 

 

 

「……と、甲児さん曰く、そういうわけらしいです」
「なるほどね。ゲッター線で進化した存在……でもなんでゲッター線はその……プロトタイプマジンガーをカイザーにまで進化させたんだ?」

ミシェルがもっともな疑問を言う。プロトタイプマジンガーというのだから各所に問題を抱え、なおかつZよりも性能的には劣っていたはずである。それをなぜゲッター線は現行最新機の「グレートマジンガー」さえも遥かに凌ぐほどの性能へ進化させたのか。

「それはわからないそうです。甲児さんも、まして、ゲッター線研究の第一人者の早乙女博士さえゲッター線の全容は解明できていませんから」
「全てはゲッター線の意志のもとに……か。機械さえも進化させるというのかゲッター線は……」
「カイザーが生まれた理由について分かっているのは一つだけ。それは`悪魔の魔神`へ対抗するためだそうです」
「待てよ、それってまるで悪に利用されたマジンガーがあるみたいじゃないか」
「あるそうです。甲児さんのおじいさんの兜十蔵博士が遺したメモによれば失敗作として封印されたはずの機体があって、感情をエネルギーに出来る機構を備えさせたけど、それが欠陥品で`憎悪`や`怨恨`、`狂気`などの負の感情に異常な反応を示したんです。正義の魔神を望んだ彼にとってそれは`意に反した、恐ろしい悪魔を創り出した以外の何物でも無かったそうです」

フェイトは旅の途中で甲児から聞かされた限りの話をS.M.Sの面々に伝える。アルト達は地球本星が異常に`第3のマジンガー`の建造に拘っているという噂の理由をこれで理解した。

「本星は敵にそのマジンガーが奪われたから、それに正面からやり合える新しいマジンガーを持とうとしてるわけか……兜博士だってその場合は想定していたはずだから……カウンターパートは用意しようとしていたはず……それが噂の`神`なのか」

オズマは伝わってくる噂でしか知らないが、新たなマジンガーは`神`の名を関するらしい事は知っていた。それで言ったのだ。

「でもその神は動力源に重大な問題を抱えていて、今年に入って戦時になった影響で開発が事実上、棚上げされてます」

ルカが言う。軍需産業の家庭の子息である関係上、そういうことは耳に入ってくるからだ。

「光子力研究所も焦っているそうです。そこにマジンカイザーが発見されて……それで」
「渡りに船で戦力化したわけか……拾いもんを使うとどうなるかわからねえってのにな」
「使えるもんは何でも使えって言葉もあるぞアルト」

一行はサンフランシスコエリアを走る、レトロチックなケーブルカーに揺られながら話を続ける。かなり速い時刻なためか彼ら以外の一般客はまだいない。
一行のマジンガーに纏わる話はまだまだ続いた。

 

 

 

 

 

 

 

-惑星「エデン」 

エデンに調査にきていた八神はやては管理局が`無人世界`として認識していた惑星がいつの間にか自分の知るそれとは別の`地球`の植民地となっていた事を、
当然ながら宇宙は果てしなく広いというのを再確認していた。彼女らの地球は彼等の言う`地球`とはそれぞれ銀河の反対側に位置する事が判明。
お互いが言わうる反地球の関係だと言う事実に仰天していた。

「まさか反地球が実在するなんて……驚きや」
「宇宙は広いからな。何があっても別に不思議でも無いぜ」

はやての傍らにいるのは連邦軍きってのバルキリー乗りのエースである「イサム・ダイソン」大尉。彼はかつて次期主力戦闘機開発計画「スーパーノヴァ計画」でYF−19に搭乗した事で名を知られる。ロイ・フォッカー少佐の活躍を湛えて作られた「ロイ・フォッカー勲章」を過去数度受賞したもの、問題行動により剥奪されたという問題児でもあった。だが、人工知能の暴走の危険性を示すシャロン・アップル事件にて親友であったガルド・ゴア・ボーマン(YF−21のテストパイロットでもあった男。ゼントラーディ2世であったとの記録が残っている)をかの`シャロン・アップル`の意志に操られた無人戦闘機「X-9」との交戦で失っていた。それから何年か経過した現在においても彼の命日に墓参りを欠かさず、時を経たゆえか、態度にも幾分かの落ち着きも見られるようになっていた。イサムにしてみれば現在の移民船団の軍の任務がほぼ無人戦闘機に取って代わられた事は胸糞悪い以外の何者でも無かった。

「イサムさん、その花は?」
「今度、地球に行く時にダチの墓に供える奴さ」

彼はあの事件の後から親友であった男を弔う事を片時とも忘れてはいない。あの事件は何だったのかと自問を繰り返し、今でもゴーストが正式装備化された事に疑問を持つ。ある程度自制されたといっても……と。彼はVF−25の試作機が作られた際にはテストパイロットを務めた。噂のS.M.S.がメサイアをどのように扱っているか興味もあるので、この任務に志願したのだ。ちなみに彼はVF−19Aの定期点検でのエンジンテスト後の試験飛行の後にはやてやリィンフォースUと出会った。イサムはかつて、ロンド・ベルに属していた経験があるので、こういう時の心当たりということでブライト・ノアに問い合わせた。ブライトから時空管理局という組織の事を聞かされ、(植民惑星まで情報は行き届いていなかったので初耳であったとの事)、彼等が調査のために人員を送っているという通達があったと告げられた。
はやてから半信半疑で聞いていたもの、ブライトからの裏付けもとれ、彼は時空管理局という組織の実在を認知したのだ。

「……というわけで俺は当分帰れない。友達にはお前のことを伝えとくぜ」
「道中気ぃ付けて」
「この4日間、有難うございました〜」
「オウ。変な言い方だが、地球には気を付けろ〜。色々やばいから」

イサムは飛鷹が停泊している宇宙港ではやて達を民間の星間連絡船への搭乗ターミナルまで見送り、
自身は飛鷹への着任の挨拶に赴く。

飛行甲板には飛鷹所属の航空隊が新たに受領し、艦に搬入される「VF-25//MF25 メサイア」の銀翼が輝いていた。彼もまたフロンティア船団へ向かう。
今は時を隔て、年齢が開いてしまった友の現況を知るため、そして彼の子がどうなったのかを知るためであった。

はやてはこの時初めて未来世界の一端を垣間見た。そしてイサムと出会った事で、「空を飛ぶ事」の意味を自身に問い直すきっかけとなった。
「飛ぶために生まれたような」軍人としては破天荒なイサムの姿勢ははやてに大きな影響を与えることになる。

 

 

 

 

 

‐新星インダストリーは来るバジュラに対する決戦兵器として新型機の開発を急いでいた。その名は「YF‐29`デュランダル`」。開発検討段階の年次はVF‐25と同年度だが、
前進翼機として造られることになったので、エクスカリバーの後継にふさわしいナンバーということで、29の番号が与えられた。
実質的にはVF‐19の正統後継機の側面を持つ超高性能機として開発がなされていた。
一時は高推力エンジンの織り成す加速時や空戦機動時の人体への荷重の問題が既存技術ではほぼ解決不可能とされ、頓挫しかけていたが、
フロンティア船団がバジュラから超高純度のフォールド・クォーツを多数入手した事で、新技術の開発をに成功、問題が解決されて試作機が建造中であった。

VF‐19AとVF‐25Fをベースに、2機の空力特性のチェックと機体構成の検討用に改造された技術実証機でそれぞれの機構の実験を行い、VF‐25のトルネードパックから得られた実戦データを反映させて
更にそれをブラッシュアップさせたものを標準装備予定。エンジンも新型が用意される事になり、実質は次世代VFと言ってもいいほどである超高性能を実現する。

 

「コイツならバジュラと同等、いや圧倒できる機動性が発揮できる。何せ`生身で高度な空戦機動ができる`ほどの快適さだ」
「ゴーストにも余裕だな」
「VF‐19の後継にはふさわしいかもな」
「何がだ」
「コイツのペットネームだよ。軍は聖剣としてデュランダルと名付けたそうだよ」
「おフランスの伝説に肖ったのかね。今度はさしずめ天之尾羽張か、ジョワユーズか」

それらは神話上の剣の名である。可変戦闘機の9ナンバーの型番はVF‐9を皮切りに剣の名を冠される事が通例となっている。今回はバジュラへの切り札として、エクスカリバー同様に聖剣の名を付けられた事に軍の期待が見て取れる。
技術者達は一様にそう笑い飛ばす。

‐デュランダルは無人戦闘機が台頭してきている時勢でも、あくまで「自らの手で空を翔けたい」という人間の願望が生み出し翼であるかもしれない。
人類史上最強の翼は静かに産声を上げた。


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