――IS学園へバダンが部隊を派遣したことを知ったミケーネ帝国=百鬼帝国連合軍は漁夫の利を得るべく、あしゅら男爵を指揮官とした部隊を派遣。IS学園をこれまた襲う算段であり、ISのさらなるデータ収集も兼ねた作戦であった。この作戦を察知した神隼人はすぐに宇宙科学研究所の兜甲児に連絡した。ちなみに、神隼人は2201年現在、早乙女研究所がゲッター線の暴走事件で壊滅し、ゲッターチームが自然消滅したので、地球連邦政府内の日本行政府が設立させた研究機関『NISAR』、正式名称、日本国際航空宇宙技術公団へその所属を移しており、実戦派の科学者へ見事に転身していた。そこで新ゲッターロボ(当初はあしゅら男爵らが保有していたゲッターロボ號を改めて作るはずであったのだが、すべてのデータが全て渡っている事への懸念から持ち出しに成功していたゲッターロボGの設計図もアイデアに加えて、基本設計に変更を加えた機体)の建造中であった故に彼は動けないため、甲児に連絡をとったのだ。
「はい、こちら宇宙科学研究所で……あ、隼人さん。どーすか、ネーサーのほうは」
「こちらのほうは順調だが、世間話をしに電話かけたんじゃあないぞ」
「なんです?」
「実はこっちで空間転移の反応をキャッチしてな。どーやらミケーネと百鬼の野郎どもが事を起こすつもりだ」
「何だって!?それで奴らの転移先は!?」
「時空管理局側の通達によれば、IS学園だ。こちら側のIS学園がと同じ座標で狂いなく転移が確認された。向こう側には仮面ライダーBLACKRXがいるとは言え、メカを持ち出されては不利だ。それでお前に連絡したわけだ」
「よっしゃ、任しとけ……おっと今はカイザーもグレートも使えないんだった……」
「それは心配ない。こっちで政府への許可はとった。流石にカイザーは無理だったが、グレートマジンガーは使える。鉄也にも断りは入れてある」
「そうか、サンキュー!」
甲児は隼人との電話を終えると、すぐに防護服に着替えて戦闘準備に入る。グレートマジンガーに乗るためだ。その途中、箒と出くわして問いただされたが、甲児はその性格故、箒に事の経緯を告白した。言わずにはいられなかったのだ。
「と、言うわけだよ」
「何だって!?糞ッ、ミケーネ、それに百鬼め……!それでお前が行く事になったのか……?」
「ああ。今すぐに動けるのは俺くらいなもんだからな。なあに大丈夫さ、IS学園にいる箒ちゃんの友達は俺が守る。俺は天下の兜甲児様だぜ」
甲児はいつもの調子で箒を勇気づける。箒やデューク・フリードはベガ星連合軍への備えの関係で動けない。それ故の箒の悔しさは顔の表情からにじみ出ており、甲児の手を握る箒の手がいつになく震えている。本当なら自分が行って、みんなを助けたいのだろう。その目には涙さえ滲んでいた。
「……大丈夫だよな、みんなは大丈夫だよな……?甲児、約束してくれ。みんなを守るって…」
「ああ、だから心配すんなよ。そのために俺が行くんだからさ。俺は天下の兜甲児さまだぜ?」
甲児は今にも泣きだしそうなほど取り乱している箒をなだめ、落ち着かせる。数年来の友情は不思議と箒に安心感を与え、いつものように肩を叩かれる。それは甲児なりの箒への気遣いだった。そして箒は駈け出していく甲児の後ろ姿をいつまでも見送っていた。
外に出ると、ゴッド・マジンガーの新基地となる予定の建築中の拠点、通称、“ゴッドの砦”から運ばれてきたブレーンコンドルが鎮座していた。甲児はグレートマジンガーの操縦はこれで二度目だが、今回はグレートの全機能を把握しているので、以前よりポテンシャルを引き出せる自信がある。乗り込み、ブレーンコンドルのエンジンを起動させる。
『エンジン始動、ブレーンコンドル、スイッチオン!!』
滑走路が無いが、ブレーンコンドルはすぐに飛び上がり、超音速飛行でゴッドの砦へ向かい、湖につくと、臨時で設けられたグレートマジンガーの格納庫からいつもの合図で呼び出す。
『マジーンゴー!!』
湖からグレートマジンガーが出現する。今回は戦闘力向上のために最初からグレートブースターをつけている。そして、うまく操縦しつつブレーンコンドルを勢い良くグレートの頭部へドッキングさせる。これがまた難しく、甲児や鉄也などの操縦技術に優れる人間でなければ、ドッキングする事も出来ない。(バレンドスがドッキングできたのはそれだけの腕を持つからである)
『ファイヤー・オン!!』
その叫びとともにグレートマジンガーの目覚めの咆哮が轟く。そしてすぐにグレートブースターを吹かし、転移ゲート(時空管理局の技術援助でこの時期に実用化されたばかりの転移装置。これで波動エンジン艦に頼らずとも異世界への転移が可能となった)が設けられた空域に向けてマッハ5で向かい、ゲートへ勢い良く潜る……そして……。
――こちらはIS学園。バダンとRXの戦いへ漁夫の利を狙って介入したあしゅら男爵と百鬼帝国はIS学園のアリーナの天井を百鬼メカの火力で破壊し、その姿を見せる。
「フハハ、ハハハ……久しぶりだな、RX、そして小娘ども」
「貴様、あしゅら男爵!!何故この世界にいる!!」
「知れた事、貴様らを倒すためよ。そのためにはバダンも利用させてもらったがな」
RXの叫びにあしゅら男爵は百鬼メカの肩の上で悠然と答える。その男と女の半身を持つ外見はIS学園の面々へ衝撃を与えた。男と女の声が重なるように別々に響き、同じ言葉を喋るのは正に衝撃的の一言。その怪奇さに鈴も一夏も息を呑む。しかも巨大ロボットの肩に乗っかっているという、普通ではありえないシチュエーションは以前、シャルから聞いていた話が嘘ではないという事が改めて分かったのだから当然である。
「なんであんたが百鬼帝国のメカを率いてんのよ!」
「同盟を結んだからさ。だからブライ大帝から借り受けたというわけだ」
「だから共通の敵であるあたしたちを倒そうって腹ね、あくどい連中の考えそうな事ね」
「ははは……なんとでもいうがいいさ」
智子と圭子の悪態にもあしゅら男爵は動じない。そしてあしゅら男爵はその身体能力を以ってして行動に出た。目にも留まらぬスピードで飛び降り、「コンピュータより早く思考できる」とされるハイパーセンサーでも追いつかないほどの速さで織斑一夏(白式展開済み)の首根っこを掴みあげ、柔道の要領で一本背負いをかけた。その威力はあしゅら男爵の超人的な身体能力と相成って、物凄い破壊力を発揮した。アーマーに罅を入れ、あまりの衝撃で床が大きく凹み、亀裂が走るほどに。一夏はその衝撃で気を失い、慌てて鈴が介抱に向かう。そのスピードに反応できたのは光速にも対応可能な反応速度を誇るRXのみであった。RXはすぐにあしゅら男爵へ反撃するが、RXの徒手空拳にもあしゅら男爵は反応して見せ、RXの攻撃も紙一重で避けてみせる。そしてRXパンチとあしゅら男爵の拳がぶつかりあり、どういう原理か、大爆発を起こす。爆炎が晴れ、RXは手応えがない事に気づき、あしゅら男爵の姿を探す。
「どこだ、あしゅら男爵!」
「まあそう焦るなRX、いや南光太郎。お楽しみはこれからよ」
爆煙が晴れると同時に他の一同が一斉に攻撃を加えるも、あしゅら男爵はその全てを避けきる。もはやその所業は常人のそれを超越した凄まじい動きで、バイオライダーに救出されたばかりのセシリアのブルーティアーズのオールレンジかつ、ビーム偏向射撃すら全弾避けきる。
『この程度のオールレンジ攻撃で私が捉えられるものか!』
フンッと鼻息を鳴らしながら彼はセシリアの乾坤一擲の攻撃を避けきる。ここまでいくともはや超人の所業だ。偏向したビームすら紙一重で避けるというのは、もはや強化人間やニュータイプ並みの超反応である。服の所々をかすったビームが焦がしているが、それだけだ。そしてあしゅらの合図に百鬼メカが動きを見せる。セシリアをその巨大な腕で掴み、人質と言わんばかりにこれ見よがしに見せつける。
「何故、何故、私が一度ならず二度までもこんな目にあわなくてはならないんですの〜〜!?」
本日、二度目の拘束(後にこの日のセシリアの運勢は最悪であったとの事)にあうセシリア。無論、ISのスラスターを緊急噴射するもの、前回以上に強い力が加わっているために微動だにしない。虚しくスラスターの噴射炎が燃えるだけだ。そしてロボのマニピュレータの圧力が強まる。
「くぅぅ……離し…、離しなさい!!このぉっ…!」
セシリアはブルーティアーズのビットで攻撃を加えるが、火力不足のために百鬼メカの腕の装甲が温まるだけであった。これにセシリアは目が点になった。鋼鉄は愚か、チタン合金も薄紙のように貫くはずのビームが『装甲で弾かれる』
「セシリアを離しなさいよコラァ!!」
これには鈴も双天牙月で百鬼メカの腕を切り裂こうとするもの、装甲強度がこの時代の素材とは桁違いなために刃が通らず、弾き返される。
「なっ!?双天牙月が通じない!?嘘でしょ!?」
これには彼女も驚愕を顕にする。それどころか、刃のほうが装甲に負けて刃こぼれを起こしている。刃自体は折れなかったが、刃こぼれが酷く、使用不能に陥った。既に未確認ISとの戦闘でエネルギーを消耗していた鈴と甲龍には、衝撃砲『龍咆』を撃つ余力は無い。いや、あったとしても百鬼メカに使うにはいささか威力不足だろう。燃費がいいのが売りの機体とはいえ、全力での長時間戦闘は流石に想定外だったのか、鈴はシールドエネルギーが殆ど尽きかけている事に気づき、驚愕する。
(くっ、龍咆を撃ちすぎた……あいつがいればエネルギーなんて気にしないで済むのに……!)
歯噛みして悔しがる鈴。箒の絢爛舞踏さえ使えればエネルギーなど気にしないで戦えるのだが、不幸にもこの場には箒はいない。普段は恋のライバル程度にしか思っていなかった
箒の重要さに改めて気づき、自身の未熟さを恥じる。だが、そんな鈴を尻目に智子が動いた。振り下ろされた右腕に乗っかり、そのまま駆け上がっていく。
「ふそ……もとい……日本陸軍軍人なめんな〜〜!!うぉぉぉっ!!」
流れで扶桑と言いかけたのを慌てて日本に訂正するお茶目さを見せながらも智子はウィッチとしての力を発動させ、刀を鞘から抜く。
そしてそのまま肩へ駆け上がると、片肩から下を刀でバッサリと切り裂く。それでとっさにセシリアを救出し、無事に着地する。その時の智子の姿は凛々しかったので、セシリアも思わず見とれてしまった。
「大丈夫?」
「え、ええ。ありがとうございますわ……」
だが、この攻撃に百鬼メカの操縦士たる百鬼衆は怒り心頭。ビームを乱射し、周囲をお構いなしに破壊しまくる。今のRXたちには百鬼メカを正面から破壊可能な手段はなく、為す術も無いと思われたが……。
「あしゅら男爵、付近に転移反応!!」
「何?」
別の百鬼衆からそう報告され、あしゅら男爵は空を見上げる。すると空が綺麗な青空であったはずが、いきなりなんの前触れ無く曇天になり、一瞬で雷雲に包まれ、雷を発する。不思議と雨はふらない。だが、雷は確かに発生している。そして雷はそこだけを狙ったかのように『落ちる』。まるで誘導されたように。これにあしゅら男爵は`まさか`と僅かに焦りを見せる。この光景に見覚えがあるからだ。既にバダンは興が削がれたとばかりにこの場から戦闘員のみを残して撤退している。なので、この場にいるのはあしゅら男爵らとRXら、少数の戦闘員だけだ。雷を放っていた雷雲が切れ、その主の姿が現れる……。それはまさしく彼らがよく知る、『偉大な勇者』そのものだった。
「あ、あれは………ぐ、ぐ……グっ、グレートマジンガーぁ!?なんでここに!?」
智子が驚きの声を上げる。その姿は正しくグレートマジンガーそのものだったからだ。ゴッドの砦でカイザーでない新マジンガーのテストベットとして使われていると聞いていたからだ。そして操縦者の剣鉄也もその新マジンガーの計画に関わっており、グレートマジンガーを動かせる状態ではないからだ。この思わぬ来訪者に一同は言葉を失う。そしてグレートマジンガーは更なる動きを見せる。サンダーブレークである。
『サンダーブレイク!!』
この声で操縦者の素性が割れた。正規操縦者の剣鉄也ではなく、もう一機の魔神たるマジンカイザーの操縦者である兜甲児の声だったからだ。
「こ、甲児、あんたどーしてここに!?」
『だいたい説明すると、隼人さんから連絡受けてね、あの人が色々と手を回してくれたんだ。グレートマジンガーを鉄也さんから借り受けたっーわけよ。さあて、百鬼どもに一発お見舞いしてやるぜ!!ドリルプレッシャーパーンチ!!』
甲児は智子に自分がやってきた目的を説明すると、本格的に行動を開始する。グレートマジンガーの右腕部分に突起が複数せり出し、勢い良く高速回転しながら撃ち出される。ドリルプレッシャーパンチである。超合金ニューZ製の拳が唸りをあげながらドリルの如き回転で敵を討つ。これに鈴、セシリア、そして簪はポカーンとグレートマジンガーの勇姿を見上げる。いきなり現在科学を明らかに超越した科学力を以てして造られたとしか思えない、『ヒーロー』のようなロボットが現れたのだから当然といえば当然であるが、特に目を輝かせていたのは簪であった。既に天井は跡形もなくぶっ飛んだので、簪のいた場所からでもグレートマジンガーの勇姿はたんまりと拝めたわけであるが、『雷を背に現れる』という出来過ぎなシチュエーションも相なって、簪に強烈な印象を与えた。
「なにあれ……?でも……」
思わず呆然と見上げてしまう。無論、それがグレートマジンガーというスーパーロボットであることはわからないのだが、ヒーロー然としたその姿に、アニメオタクである性故に何か安心感のようなものがこみ上げてくるのを感じる。それが何か直感的に分かるような気がしたのだ。自分が幼少期から求めてきたものが何であるかを。何がヒーローをヒーローらしめるのかを……。
このさらなる援軍に織斑千冬と山田真耶は呆然としていた。流石の千冬もヒーローのみならず、『巨大ロボット』までもが一夏たちを助けに現れたというのは全くの想定外だったらしく、唖然としてしまっていた。
「お、織斑先生……あ、あれは……」
「わからん……だが、敵ではないのは確からしいな」
流石の彼女も普段の冷静沈着さは表面的に崩してはいなかったもの、グレートマジンガーというのは明らかなイレギュラーには内心では明らかな動揺を見せていた。
――なんだというんだ……あの「RX」といい、このロボットといい……理解を超えた事態がこうも立て続けに起こると、平静を取り繕うのも無理が……!
これが現在の千冬の心境である。仮面ライダーBLACK RXのみならず、グレートマジンガーまで現れたという事態はさしもの彼女も冷静さを保つのは難しくなっているのがよく分かる。しかも明らかに現在科学の常識を超える光景が立て続けに起きては千冬と言えども冷静ではいられない。そこに通信が入る。圭子だ。
「聞こえますか。こちらは加東圭子です」
「あなた、あの時の……どういうことですか、あれは!?説明してください!」
真耶は以前、圭子たちが見学に来ていたことを覚えていた。なので、声の主が誰か、すぐに分かったのだ。アタフタしながら問いただそうとする真耶を制し、自分が通信に答える。
「こちらは織斑千冬だ。君はあの時の……であってるかな?」
「ええ、構いませんよ、千冬さん。あなたのことは箒から聞いてます」
「篠ノ之から……か。君はアレのことを知ってるのか?」
「ええ。あれは味方です」
「味方?」
「ええ。何せあれは偉大な勇者ですから」
「偉大な勇者……?」
圭子は千冬に言う。『偉大な勇者』と。千冬は改めて、グレートマジンガーの勇姿を仰ぎ見る。ロボットアニメ然としたフォルム、そして鉄の巨体。どう考えても常識の範疇では測れない。ISの操縦者であった身から見てもグレートマジンガーはそれほどに非常識だったからだ。偉大な勇者は悠然と空にそびえ立つ。
『覚悟しやがれあしゅら男爵!全滅だ〜〜!』
突撃を開始するグレートマジンガー。グレートブースターを身に纏い、超高速で空中戦を行って見せる様はまさにロボットアニメが現実に出現したかのようである。
『ニーインパルスキック!』
グレートの膝からスパイクがせり出し、そのまま串刺しにして一機を撃墜する。横合いからの敵には脛の両側に内蔵されたブレードをせり出した上で回し蹴りを加える。バックスピンキックだ。まるで往年のカンフー映画スター『ブ○ース・リー』を思わせるアクションである。その様子をモニター越しで確認した千冬はこれでグレートマジンガーが現時点の科学では到底作りえない兵器であることを察した。たとえ篠ノ之束であろうと。
(あのような滑らかな動きをするロボットなど今の科学ではどの国も、どの科学者でも……アイツを以ってしても無理だ。今世紀初めに作られていたAS○MOもそうだが、人間のように自然な動きを機械で実現させるには多くの技術的課題をクリアしなければならない。無人ISにしてはかなりそれに近いが、ISの動作を全自動化させたにすぎん。あれは人を乗せた『搭乗型』。それをあのように…!)
そう。IS以外の搭乗型兵器は操縦者の対G保護を厳重にする必要があるために機械的ポテンシャルの限界を極められない。特に戦闘機でそれは顕著であり、この世界で戦闘機が衰退してしまった原因はISに対しての利点がそんなに見いだせなくなったからだ。しかし、グレートマジンガーは人型でありながら古今東西のあらゆる有人ジェット戦闘機より速く飛び、しかも搭乗者に過剰な負担をかけないで人同様の動きをする。千冬が驚愕したのはその点だ。ついつい武器の破壊力ばかりに目が行ってしまうが、千冬はその慧眼でこの事件の本質を見極めようとしていた。
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