－｀兵団｀との戦いからおよそ７年以上の月日を経たなのはたちはナチスドイツの残党軍の魔手から仲間を救うべく、
あの世界で受領し、数年間整備をしながら秘匿していたかつての戦いでの愛機
「VF－19 エクスカリバー」と「VF－22 シュトゥルムフォーゲルⅡ」を使用。救出戦に赴いた。
－２人はこの事が時空管理局の規定や規則に真っ向から違反する行為である事は十分に認識していた。
上層部の中にはあの世界との国交が成立してもなお、｀魔法こそ全て｀を公言する至上主義者が多い。
これを理由に管理局での地位や名誉を全て剥奪されてもおかしくは無い。だが、２人は後悔などしていなかった。
仲間を救う事にリスクを恐れていて何になるのだ。
たとえ管理局での地位と名誉を全て失おうとも、守りたいモノのために命をかける事は何ら恥じるものではない。
それはあの世界での多くの人々が証明している。
ジオン軍にしてもそうだ。
彼等はやり方こそ間違っていたが、テロリストの汚名を被ってもなお戦い続けている。
それは敵ながら見事だと多くの地球連邦軍の兵士も認めている。
「……通信？」
「よう２人とも。数年ぶりだな」
「し、茂さん！？どうしてミッドに！？」
２人のバルキリーに通信をかけてきた相手はかつてスバルが共に戦い、そして自分達も世話になった男。
｀栄光の７人ライダー｀と称される、初期の仮面ライダー達の内の一人「仮面ライダーストロンガー＝城茂」だった。
仮面ライダー達はもっぱらクライシス帝国との戦いを続ける傍ら、その活躍の場を次元世界にまで広げていた。
彼等はバダンを始めとする歴代暗黒組織の源流となったナチス残党の行動を察知し、数人がミッドチルダに来訪していた。
城茂はその内の一人であった。
「ナチ共の行動を調べていたんだが、ビンゴだったようだ。事情は大体聞いてるからそっちに加わる」
「そうですか、ありがとうございます。それで茂さんの他には誰が？」
「洋の奴に村雨、それと光太郎だ。クライシスの動きが怪しいとかで……」
「ジャーク将軍がまた何かを企んでるんですか？」
フェイトはクライシスの最高指揮官の名を言う。あの世界で知った｀悪｀の一端を担う男。
ここ数年ほど追っている暗黒組織の事が気がかりなようである。
ジェイル・スカリエッティすら比較にもならないほどの圧倒的な存在はフェイトに深く脅威を与えていた。
「改造人間」。それが彼女を執務官として、より強く行動させる要因となっていた。
「それはまだわからん。取り敢えず２人とも市街地の公園に着陸してくれ。そこで落ち合おう」
「了解」
２人はバルキリーを市街地の公園に向かわせ、てっとり速いところにガウォーク形態で着陸する。
キャノピーを開放し、降りると4人の仮面ライダーがやって来ていた。
ストロンガーにスカイライダー、ライダーZXとRXの４人だ。
「お久しぶりです」
「ああ。君達も元気そうで何よりだ」
４人の仮面ライダー達はそれぞれ２人と握手しあう。
ライダー側にとっては1、2年ほどしか経過していなかったが、
別の地球で年月を経たなのはにとっては彼等と別れた時から8年もの月日が経過していた。
時間の流れのいたずらが成せる技だが、ライダー達には年月の重さを実感させる光景だった。
「本来なら再会を喜びたいんだが、そうもいかなくなってしまった」
「奴らには分別をわきまえてもらわんと。スカイライダー、そっちのほうはどうだった？」
「俺が担当した方はまだV2の爆撃はされてなかったから避難誘導は容易だった。ついでに途中で兵士を数人返り討ちにしてきた。RX、君は？」
「俺も先輩とだいたいは同じでした。ただ、気になることがあって……」
「気になること？」
「ええ。途中であの｀足音｀が響いたのを聞いたんです」
「RXさん、足音って？」
なのはの疑問にRXは答えた。それは彼が改造された当初の姿「仮面ライダーBLACK」であった頃からの因縁であったと。
ここで少しだけ過去に遡る。
そもそも南光太郎は本来、ゴルゴムという暗黒組織の次期支配者の候補「世紀王」の一人「ブラックサン」として、
19歳の皆既日食の日に改造を受けた。
その際にもう一人の男が改造手術で改造された。その男の名は秋月信彦。
光太郎と兄弟同然に育ち、光太郎も家族として認識していた男だ。
だが、ゴルゴムの改造手術の際に脱出できず、そのまま強化され、彼等の言う「世紀王 シャドームーン」となってしまった。
その後はBLACKと幾度と無く戦い、ゴルゴムを事実上率いた。
光太郎を一度死に追いやったのもシャドームーンであり、光太郎にとっては最大級の宿敵なのだ。
「だが、シャドームーンは死んだはずだ」
「ええ。奴は確かに俺が……」
RXも半信半疑だった。ゴルゴム神殿の崩壊はシャドームーンを葬ったはずだ。だが、あの特徴的な足音は聞き間違えるはずはない。
紛れもなくあれはシャドームーンの足の強化装具｀レッグトリガー｀が醸しだす音色だ。どう言うことなのか。それは光太郎さえ分からない。
6人はただただ、疑問が大きくなるばかりであった。
「取り敢えず私たちはバルキリーで制空権を確保します。ストロンガーさん達ははやてちゃんたちを頼みます」
「任せろ。それと政府から連絡があって、｀第13課｀と王立国教騎士団が動くそうだぞ」
「え！？HELLSING機関はともかくもヴァチカンがぁっ！？」
「ああ。信じがたいが事実だ。ヴァチカンの｀キ◯ガイ｀共が動くからスプラッタ劇は覚悟しとけよ」
「……は、はい」
なのはとフェイトはストロンガーからの言付けに驚いた。ヴァチカンの｀第13課と言えば、
裏の世界では｀過激さ｀で世界一と言われ、表向きは存在しないとされる13番目の｀課｀である。
それはキリスト教の十二使徒になぞらえた課を持つ事に由来する。その中でも任務内容故に
秘匿されているのがイスカリオテのユダの名を持つ13課。イエス・キリストを裏切った十二番目の使徒にして、
その後を埋める使徒がいたので｀十三番目｀に数えられることもある裏切り者の名を冠している。
人員は過激そのもので、悪魔、化物、異教、異端の殲滅を目的にしているだけあって凄まじいの一言。
中でも有名なのがアレクサンド・アンデルセン。その凄まじさはなのは達も聞いただけであるが、恐ろしさのあまり
震えが止まらないほど。そのためストロンガーはイスカリオテの人員を｀キ◯ガイ｀と評したのだ。
これで6人はお互いに行動指針を確認しあい、ライダー達ははやて達の救出を、なのはとフェイトは制空権確保を行なうべく、
バルキリーを離陸させた。
－新暦70年代のミッドチルダを混乱に陥れた｀聖王の揺りかご｀。その艦内に整備された区間が存在した。艦載機格納庫である。
大多数は無人のガジェットドローン（一般空戦魔道士よりは強力な機動性を持つ空戦タイプ）Ⅱ型だが、有人機が存在した。
それは連邦軍のバルキリーを見た経験がある人間なら必ず驚愕の渦に叩き込むであろう代物であった。
「ほう。よくこんなモノ入手できたな。バルキリーなど……」
「ええ。私が漂着した世界で受領し、馳せ参じる時に持ってきた愛機ですよ」
ナチスドイツの軍服を着込んだ20代の男はこう言った。
そしてその機体は名機｀VF‐1バルキリー｀をそのまま発展させたような外見を持つ可変戦闘機であった。
そしてその横にはそれより一回りほど大きいカナード翼装備の機体が駐機されている。
機体には、かつてナチスドイツで初のジェット機部隊として名を残した
｀コマンド・ノヴォトニー｀でヴァルター・ノヴォトニー少佐が駆っていた機体の機番が刻まれていた。
そして、バルキリーのパイロットらしきその男はノヴォトニー少佐と全く同じ容貌を持っていた。
『敵機、接近中でぇ～す』
「スカリエッティの奴、何考えて10何人も女の子作ったんだ？まったく……」
「まったくです。あの女フェチめ」
スカリエッティの作った｀ナンバーズ｀の一人『クワットロ』から報告が入る。
｀ナチス軍｀の一員であった彼等はスカリエッティの｀趣味｀はいったいどうなってる？と、訝しぶ。
だが、敵がこの揺りかごに接近する以上は迎撃する。大抵はガジェットで事足りるが、
今回は｀敵機｀というのだから、通常兵器を、それも戦闘機を持ち出してきたのだろう。
地上本部にあった兵器は所詮あの｀大戦｀の時のM4シャーマンらしき兵器が大半を占めていたから、噂の機動六課が独自に調達していた兵器だろう。
クワットロが伝えてきた特徴から言って、恐らくは22世紀の世界の
「部隊を率いて迎撃してくれるかね」
「お任せください」
揺りかごから発進する｀エネミーバルキリー｀、略してEVA。（連邦軍内では敵に奪われた機体、敵がバルキリー同様の運用法で運用する機体などにこのコードネームを適応している）
しかしそのコードネームは適当では無い。
その機体こそ、「VF－1 バルキリー」のもうひとつの進化形とも言うべき機体。
その名を「VF‐2SS バルキリーⅡ」。その銀翼は祖を同じくするバルキリーに向けて牙を抜いた。
‐VF‐19とVF‐22を駆る、大人なのはとフェイト（空戦魔道士である2人にとってこの事はいささか不本意である。しかしさほど抵抗感は無い。
宇宙では普通に使っていたし、パイロットとしての訓練も受けていた。それ故に取った最後の手段であった。
飛行魔法がECMで妨害されている以上は致し方無い）はレーダーの反応と、視認した敵の機影に驚愕した。
「……えっ！？そ、そんな……なんであんなモノが……！！」
それは立場は違えど、互いにあの戦場を生き残った2人をさえ驚愕の渦に叩き込む敵だった。ギャラクシー船団との戦闘経験を持つフェイト、
正規軍に属したなのはさえも見たことが全くない｀未知のバルキリー｀であったからだ。しかも初弾先制とばかりに、マイクロミサイルを乱射してくる。
「ど、どうする！？」
「ひとまず散開しよう。まずはそれからだよ」
「う、うん！」
2人は敵性バルキリーの放つミサイルに対し、20世紀後半以降のミサイル回避の常套手段｀チャフ｀及び｀フレア｀を散布し、急加速しながら急旋回する。
それなりに戦闘機乗りのセオリーは弁えているのである。だが、敵はバルキリーの性能だけで勝てるような機動は取っていない。
それはミサイルを撃ったと速やかにドックファイトに入れるよう、編隊を解くが、瞬時に出来ていることが証明している。地上の降下猟兵をきちんと援護しつつ自分達を攻撃してくる。
つまりあの敵機はナチスドイツ残党の味方という事になる。なのはは操縦桿を握る手に冷や汗が流れているのを自覚しつつ、
敵の姿を確認しようと一旦反転、牽制にガンポッドを一斉射しながら、敵機と交錯する。
その時。相手の機体に描かれているマーキングに目を疑った。
それは戦史にその名を刻んだ、初のジェット戦闘機運用部隊『コマンド・ノヴォトニー』の部隊長にして、
258機を撃墜したドイツ空軍のエースパイロット『ヴァルター・ノヴォトニー』少佐のそれだった。
「…な……ッ。こ、コマンド・ノヴォトニー……！？」
そのマーキングを持つ部隊の名に戦慄せずにはいられない。
戦史にその名を刻んだ伝説のエースが自分達の前に立ちふさがる。なのはとフェイトにとって、これ以上無い強敵だった。
‐こちらはヴィータ。彼女もまた防衛戦に参加していた。
ナチスドイツの降下猟兵達の武器「StG44」の（対魔法弾装填）射撃の前に地上本部の一般魔道士に負傷者が続出し、
戦線の維持が難しくなり初めている現況は悔しい以外の何物でも無かった。
だが、本局の空戦魔道士達はその翼をもがれたに等しい状態の戦いを余儀なくされている。
こうなっては戦技教導隊の猛者たちも宝の持ち腐れに過ぎない。敵ながら、統制され、しかも陸戦の精鋭である降下猟兵達の動きは見事だ。
「ヴィータ三等空尉、地上本部が陥落したそうです！」
「何だと！？くそぉ、早すぎる！！」
「撤退命令がなされました、ここは退くべきです！」
「ふざけんな！！アタシはまだ戦える！！ここで退いたら、死んで逝った奴らに顔向けできねえ！！」
「しかし、もう戦線はズタズタです！！レジアス中将閣下も名誉の戦死を遂げられ、統制が乱れております！！総崩れになりつつある今、もはや防衛は無理です！！」
ヴィータは拳を地面に叩きつけながら｀ちくしょう｀と叫んだ。
守るべき市民も仲間も守れずに、何が時空管理局の空戦魔道士だ。何が機動六課だ。何がベルカの騎士だ。
憤りと悔しさの入り交じった感情で涙を浮かべている。そしてヴィータに撤退を進言した地上本部の魔道士もまた、ナチスドイツの凶弾に倒れる。
Kar98k小銃の狙撃仕様を持つ狙撃兵の仕業だった。
その場に倒れこむ魔道士にヴィータは駆け寄る。その魔道士は泣きじゃくるヴィータをなだめるように穏やかな表情をしていた。
「しっかりしろっ……ここで死ぬんじゃ……」
「……私はもう助かりません。最後にこれを……娘に……」
「あ、ああ……ッ」
それは彼がいつも大事にしていた家族との写真だった。
‐それをヴィータに渡した瞬間、彼は事切れた。穏やかな死に顔だった。ヴィータは一人、立ち尽くした。
また目の前で仲間が逝った。悲しみや無力感が彼女の心を襲う。心が押しつぶされそうな彼女を救ったのは―――。
『諦めるな！！』
バイクの爆音と共に一人の男が現れる。ヴィータは涙を必死にぬぐい、その男の名を呼んだ。
「つ、筑波さん！！」
― その男は筑波洋。仮面ライダー8号｀スカイライダー｀。RXと共にミッドチルダに来訪していたライダーの一人。
バイクを運転しながらヴィータの方へやってくる。そして座席から立ち上がり、一定のポーズを取る。
それは彼の改造人間としての機能を目覚めさせるための｀スイッチ｀だった。
―筑波洋は力の限り叫んだ。その変身コードを。
『スカァァァイッ……変んん……身ッ！！』
スカイライダーとなり、そのままスカイターボを加速させる。
『ライダーァァァァァブレイク！！』
これがスカイライダーの得意とするマシンにより体当たり。高震動発生装置を発動させ、そのまま兵士たちへ特攻していく。
それは仮面ライダー達がそれぞれの行動を開始した事を示していた。
マッハの速度で突っ込んだスカイターボに壁ごとひき逃げ（！）される哀れな人物は……
「ち、ちょ、待……」
「悪いが問答無用だ」
ナンバーズの11番目「ウェンディ」はスカイターボのライダーブレイクの軸線上にいたので直撃を食らってしまった。
このため彼女はその後病院送りになってしまったとか。
もっと悲惨な運命をたどった姉妹達はいた。例えば、ナンバーズの3番目の「トーレ」は仮面ライダーZXと交戦するも……
「ZX！！イナズマキィィィ――ック！！」
仮面ライダーZXはRXには及ばないが、歴代仮面ライダーの中では有数のパワーを誇る。
その上、バダンが最高技術を費やして創り上げた｀大首領の器｀である。
鋭い赤い光に包まれたZXは稲妻となって上空から一気に飛び蹴りを食らわした。
その凄まじい破壊力にトーレの障壁は発泡スチロールのように砕け、両腕を塵に還元されていく。
そして神の怒りの雷のような凄まじい衝撃がトーレを吹き飛ばす。
仮面ライダーZXの最強技である、
「ZXイナズマキック」は仮面ライダーストロンガーが超電子ダイナモでようやく実現した「超電稲妻キック」と同等のポテンシャルを誇る。
それを証明する如く、炸裂の瞬間、赤い稲妻が落ちたような現象が発生する。
その破壊力はトーレの肉体内の機械にも重大な破壊をもたらし、彼女の意識を暗闇の底へ落としていった……。
彼女は意識が暗闇に沈む瞬間、仮面ライダーの大いなる力に仇なした事を後悔し、仮面ライダーという存在を敵に回したらどうなるか、を思い知った。
ナンバーズと仮面ライダー。その違いが現れた戦闘と言えた。
‐歴代仮面ライダー達の存在は時空管理局も掴んでいた。
だが、自分達でさえ実用化を見送った｀改造人間｀をいくら次元世界で有数の科学力を誇るとはいえ、
あの世界が実用化出来ているなど、上層部は一部除いて『与太話』と一笑に付していた。
まして、無償で正義の為に戦い、それに殉じるなど、どんな酔狂な奴だ……と。しかし確かに｀彼等｀は実在した。
そしてその証明がここにはあった。ナチスに対し、抵抗すべく六課の指揮をとっていた八神はやての前に現れたのは、
ミッドチルダを訪れていた城茂＝仮面ライダーストロンガーであった。
「テメエが八神はやてか？」
「そうやけど……あんたは一体何者なん？なんで私の名を知ってるん？」
「なのはからテメエの事は聞いてたからな。ここはもう持たん、早く脱出しろ」
「で、でも……！ここで私たちが逃げたらクラナガンはあいつらの手に落ちるんやで！？」
「バカヤロウ！！なのは達はお前に死なれたくねえんだよ！お前も指揮官の端くれならこの状況がどういうことか解るだろう！！」
男‐城茂の言うことは確かだった。もはや首都はナチス残党が跳梁跋扈する｀死都｀へ成り果てていた。
管理局の敗勢は明らか。
地上本部の建物には第二次大戦で滅んだはずの忌々しい国の旗｀ハーケンクロイツ｀と旧ドイツ軍の軍旗が翻り、
陸戦魔道師の抵抗はもはや散発的にしか見られない。
頼みの綱であるはずの管理局本局は｀ゆりかご｀を恐れるあまり、次元航行艦を出し渋っている。
今はなのはとフェイトがバルキリーでエリオとキャロ、その他の面々の救出に赴いているが、
彼等の繰り出した敵性バルキリーと空戦に入ってしまっている。
‐状況は知っていた。だが、自分達なら状況を打開できる。そう思っていた、そう思い込んでいたのかもしれない。
しかし決断が遅れれば仲間を失うことを意味する。はやてはしばしの沈黙の後、断腸の思いで六課隊舎の放棄を決断した。
副官のグリフィス・ロウランらは反対したが、
ここで六課が分断されれば、
各個撃破されるという最悪の事態になる事は重々承知していたので、はやての説得により応じた。
「……よく決断した。退路の確保は俺にまかせろ」
城茂は重い決断を下し、様々な思いが去来し、憤りに震えるはやてを励ますかのように彼女の肩をポンと叩く。
そして不敵な笑みを浮かべ、六課隊舎に侵入してきたナチス残党兵たちの前に立ちふさがった。
「往生際が悪いお嬢さん方だ いくらあがこうが逃げようが無駄だ
あきらめろ もはやこの首都に、この死都におまえたちが逃げる所も隠れる所も存在しない あきらめろ人間！！」
兵士の一人の啖呵を切った台詞に対し、はやては即応戦しようとするが、城茂はそれを制止する。
「なっ……どういうつもりや！？死ぬつもりやんか！？」
「俺にまかせろといったろう？アイツら‐バダン‐の害虫駆除は俺の役目だ」
城茂はそう言うと、腕にしていた手袋を抜き捨てる。はやて達は驚愕した。男の両手はコイル状の機械になっていたのだから。
確かにミッドチルダには戦闘機人は存在したが、アレは機械を最初から受け入れられる肉体であることを前提にしていた。
だが、この男の手は明らかに機械だ。義手のたぐいでないのは一目瞭然だが、一体なんのために、と誰もがそう思った。
「う、腕がコイル……？」
「義手じゃないよな？あれじゃとても……」
六課の面々の驚きをよそに、城茂は腕を動かし、ポーズをとりながら両手を擦り合わせた。まるでその身に電気を発生させるかのごとく。
そして腕には確かにその力の象徴たる、電光が彼に宿っていた。そして、叫んだ。
『変んん……身ッ！！ストロンガー！！』
‐その瞬間、目もくらむ閃光が走り、何かの作動音らしき音も同時に響きわたる。
そして閃光が晴れると、そこにはカブトムシを思わせる鉄仮面の男が立っていた。
胸のS字マークや赤を基調とするスーツ、緑の複眼などはまるで、一昔前のTVの特撮ヒーローだ。そしてその男は声高らかに名乗りを挙げた。
『天が呼ぶ……、地が呼ぶ……、人が呼ぶ……、悪を倒せと俺を呼ぶ！！俺は正義の戦士……仮面ライダーストロンガー！！』
はやては仮面ライダーという単語にすぐにハッとなった。｀仮面ライダー｀。
なのはとフェイトが8年前出会って以来、畏敬の念を持っていると言う、あの世界に伝わる伝説の戦士。
その一人が今自分の目の前にいる。信じられないといった気持ちでストロンガーの勇姿を見つめていた。
「嘘やろ……仮面ライダーやて……！？」
ナチス残党はストロンガーの出現にも動じることはなかった。むしろ意気往々としている。まるで裏切り者を始末できることを喜んでいるかのように。
「ほう。貴様が仮面ライダーストロンガーか。貴様の噂は聞いているこの裏切り者の｀
「ブラックサタンの事か？あいにくだが、俺は貴様らを倒すために改造手術を受けたんでな」
「大したものだ。だが、貴様が目覚めたとあれば、｀あのお方｀もお喜びになられる」
「何……！？まさか奴が……！？」
「……さあな。お喋りはこれまでだ」
兵士たちの手に握られるStG44が一斉に火を噴く。ストロンガーの超合金製のボディーは物ともしないが、はやてたちに当たれば負傷は免れない。
脱出を促し、兵士を蹴散らす。唸る鉄腕、打ち込まれるキック。はやて達はその勇姿に心強さを感じていた。
「エレクトロファイヤー！！」
何百万ボルトの高圧電流にナチスドイツ残党の化物といえども焼かれていく。
戦闘用改造人間としてのレベルの高い性能もそうだが、
ブラックサタンやデルザー軍団との激しい戦いの経験を生かしたその戦いぶりに、
はやては開いた口がふさがらない思いだった。
「テメエッ、逃がすかよぉぉっ！！」
機動六課を逃がすまいと、ジェイル・スカリエッティの配下の戦闘機人姉妹「ナンバーズ」の9番目の少女「ノーヴェ」が
ストロンガーに挑んできた。
自身のスペックに絶対の自信があるのだろうか。単独で襲いかかってきた。
ストロンガーはノーヴェが戦友のスバルに顔も声も似ている事を気づいたのか。こう独白した。
(……まるで姉妹だ。と、なるとアイツと共通の遺伝子……大元の｀クイント・ナカジマ｀の遺伝子を使って造られた奴か……。
となると超電子ダイナモでぶっ殺すわけにもいかねえな)
彼は切り札の超電子ダイナモは使わないと決めた
もし、少女がスバルと共通の遺伝子、つまりスバル達の元になった「クイント・ナカジマ」の遺伝子を使って作られたのなら、
スバル達とこの少女は｀姉妹｀になるからだ。
超電子ダイナモを発動させた状態での攻撃はたとえキック一発でも、戦闘機人相手では威力がありすぎて、相手の土手っ腹を軽く貫いてしまうからだ。
「でりゃああぁ！！」
その容姿の通りにノーヴェはスバルの｀ウィングロードに似たモノ｀を発動させ、似たような武器(名はガンナックル)で殴りかかった。
だが、ストロンガーは｀お見通しだ｀と言わんばかりに軽く攻撃をいなし、脇腹に一発膝蹴りを入れる。
「ガッ！？」(なっ……これが……仮面ライダーの力なのか…！？)
(やはり経験は無いようだな。あいつより動きが読みやすい)
ストロンガーは拳を体を動かせないで回避すると、お得意の一撃を首もとに食らわす。
「悪リィがてめえにいちいち構ってる時間はねえんだ。とっとと寝てろ！！ストロンガー電ショック！！」
ゼロ距離で高圧電流の電気エネルギーを食らわせ、さらに手刀をノーヴェに食らわす。改造人間に打撃を与えられるほどの一撃だ。
当然彼女は電気エネルギーを直接浴びせる攻撃に耐えられるほどタフではない上に、
改造人間でさえ脳が揺さぶられるような凄まじいショックを与える攻撃に耐えられる訳はなかった。
彼がノーヴェと戦闘した時間は僅か一分。一蹴されたというのが正しいだろう。
歴戦の猛者たるストロンガーの前に赤子の腕をねじるかのように一蹴された。
－ナチス・ドイツはこの少女をどういう風に扱っているのだろうか。
「さて……問題はコイツがナチに洗脳されてないか、だな。RX、お前のライドロンに放り込むぞ」
「わかりました」
「ほれっ」
その線は薄いだろうが、引っかかる点である。
とりあえず
「ちょっとその車、誰の車やね」
「RXの愛車だよ。次元だって超えられんだぞこれ」
「凄いのはすごいんやけど、それじゃ仮面ライダーじゃなくって仮面ドライバーちゃう？」
「あ、お前、言ってはいけないタブーを……」
……はやてと仮面ライダーストロンガーの2人の会話はもはや漫才と化していた。そしてRXにノーヴェを任すと、2人は逃避行に入った。
－ミッドチルダの動乱へ馳せ参じた4人の仮面ライダー。秘匿していたバルキリーを使用したなのは。ミッドチルダは戦乱の業火に焼かれていた。
「あんたら、本当に改造人間なん？」
「そうだ。戦闘用だったり調査用だったり様々だが、その時々の最高技術で俺達の体は改造された。
まあRXはそれに進化が加わったから物凄い事になったけどな」
はやては撤退中に仮面ライダーストロンガーに問いかけ、彼は自分が改造人間である事をあっさり認めた。
仮面ライダー達は全員が改造人間であり、
その能力ははやての知る戦闘機人を遙かに上回る。その上に先程も格闘型の戦闘機人を一蹴した事実から、
なのはやフェイトが過去に語った、彼らが幾多の悪を打ち倒したという武勇伝を裏付けるその強さが頷ける。
「……突っ切るぞ！！しっかりつかまってろ！」
「は、はいな！」
彼の愛車「カブトロー」のエンジンが唸りを上げ、時速300キロの猛速で敵の放火の中を突っ走る。
弾丸が飛び交う中をバイクで突破するというある意味無謀な芸当だが、ストロンガーのバイクテクニックはそれを可能としていた。
ブラックサタンやデルザー軍団と戦ったときにモトクロス戦を行う機会が多く、その際に鍛えられたからだ。（無論、現役当時のトレーナーである立花藤兵衛の教えもある）
｀ジャリリリ……｀とタイヤが地面を擦る音が響く。見事なテクニックで敵のオートバイ兵の追跡を躱して行くストロンガー。
はやては振り落とされないようにストロンガーの背中にしがみつくのに必死だ。
「……！」
はやての、ストロンガーの背中に回している腕の力が自然と強まった。
－無理も無い。人外なナチス・ドイツ残党軍将兵の攻撃は熾烈を極めているが、
統制が取れている分、返って恐ろしさを感じさせる。
そして、はやての常識ではとっくの昔に滅び去ったはずの軍隊が亡霊のごとく存在するというのは恐怖以外の何物でも無かった。
ストロンガーはそんな彼女を勇気づける。
「……怖いか？」
「う、うん……」
「……大丈夫だ。俺を信じろ」
彼の言葉は不思議と安心感が湧き出る。｀仮面ライダー｀という存在であるからという単順なものではない。
彼の荒っぽい言動、そして間近に見た強さ、彼らの覚悟。その全てを背負う大きな背中。
―この時、はやてはストロンガーにどことなく、幼い頃に亡くした父親の面影を見出していたのかもしれない。
―奏でられる戦争音楽。静かに褐色の狂気と誇りはミッドチルダを飲み込もうとしていた。