1945年 アフリカ 


「黒江ちゃんから話は聞いてるわ。すぐになんとか手配しましょう」

「ありがとうございます少佐。急にこんな事……」

「友人のピンチは放っておけないのが私たちの性質なのよ。任せなさい」

加東圭子はすぐに机に置いてある電話のダイヤルを回し、上層部に事を伝える。迅速な対応にフェイトは嬉しさを見せる。

「失礼します、ケイさん。飲み物をお持ちしました」

「入って」

執務室に入ってきた一人のウィッチにフェイトは驚愕した。そのウィッチは扶桑陸軍の戦闘服を纏っているもの、見間違えるはずはない。その人物は紛れもなく、行方不明のはずのティアナ・ランスターであったからだ。

「テ、ティアナ……!?」

「フェイトさん……?」

二人はしばしお互いの顔を見合わせ、一時の沈黙の後に「えぇぇぇ!?」と驚きあったとか。これが2人の再会のなれそれである。






――ティアナは扶桑での原隊を書類上、`扶桑陸軍航空隊飛行第64戦隊`とされており、
黒江綾香や穴拭智子なども書類上はそこへ復隊したという事になっている。史実では加藤建夫中佐が率い、加藤隼戦闘隊として知られた。多くの撃墜王を輩出した同隊に所属するというのは日本軍航空隊の誉とも言うべきものである。かくして、ティアナは元の世界の仲間と一年越しに再会した。(フェイトはミッドチルダの動乱で連邦軍や連合軍に救援を依頼するために訪れた。護衛として、仮面ライダーZX=村雨良が同行している)










「お久しぶりです、フェイト隊長」

「うん。まさかティアナが扶桑陸軍に入ってたなんて……驚きだよ」

「はい、色々あって。連邦宇宙軍に入ってたなのはさん(穴拭智子からなのはの事は聞いていた)とはこれでおあいこですよ」

「確かに。でもなんでそのことを?」

「スバルや智子……いえ、穴拭中尉から聞いてましたから」

陸軍式敬礼で出迎えるティアナにフェイトはかつて連邦宇宙軍に協力したときの癖か、海軍式敬礼で答えた。フェイトにとってもティアナにとってもしばらくぶりの再会である。積もる話は山ほどある。特にフェイトはある。
まず最初にあの時、地球で言うところのメカトピア戦争の際にお互いに出会わなかったのはどうしてだろうと問いかけた。

「簡単ですよ。ある程度の帳尻あわせが働いたんでしょう」

「帳尻合わせ?」

「のび太君の子孫のセワシ君を例にとっても、運命が変わっても生まれてくる事に代わりがないでしょう?それはどこかで剛田家の子孫と結婚するようになるからで、多少どこかが変わっても大きな流れには影響はない。つまり、あたしとフェイトさん達が機動六課ができた時に出会うのは歴史の必然みたいなもんです」


ティアナはこの時既に空戦で自信をつけていたせいか、機動六課と別れる前の、どこか強さに焦っている感じは微塵もなかった。態度も凛としており、堂々としている。それをフェイトに指摘されると恥ずかしそうにこう答えた。

「今のあたしが強くなれたのは穴拭中尉や黒江大尉、それとストームウィッチーズの皆さんのおかげです。みんなのおかげであたしは`飛べたし、強くなれた。だからウィッチとしての誇りがあります」

それは陸戦魔道師から航空ウィッチへの転向という経歴を辿った彼女が持つウィッチとしての「心」だった。ミッドチルダで`翼を持てなかった`彼女は別世界で機械の翼を得たことで“羽ばたき”、こうして戦っている。その事を大切にしているのだ。フェイトもなのはが19歳となった今でも、穴拭智子達にシゴかれた日々を大切に思っている事は知っているし、自分も黒江綾香に「仕込まれた」事を誇りに思っている。だから今でも、終戦時に黒江綾香から受け取った日本刀(銘は正宗)を持っている。

「それは私も分るよ。私も……綾香さんと一緒に飛んで、強くなれたから」

そう言ってフェイトは日本刀を取り出して机に置く。それは綾香といつか肩を並べて戦う時に使うつもりの正宗だった。

「これは……?」

「前の時に綾香さんからもらったの。私はあの人達に背中を任せられる強さを持ちたい。だからあの時から特訓を続けてきたの」


それは8年もの間、来る日も来る日も特訓に励んだフェイトの思いだった。出会った日から綾香の背中を追いかけ、その強さと心に憧れてきた一途な思い。秘剣をモノにするために努力を重ねた。ある日は竹を添え物切りし、またある日は素振り……。中学と高校では剣道部に入り、大会にも出場した。高校時代の剣道部顧問には「剣に特別な思いを抱いているな」と言われた事もある。

「これはその時のために使うつもりのモノなの」

(綾香さん……あなたが蒔いた種は実ってますよ……)


ティアナはフェイトの綾香への憧れに共感し、微笑んだ。それはお互いの思いが重なったことへの嬉しさでもあったかもしれない。次いで、話題はフェイトの疑問になった。歴代ライダーが時空管理局のことを知っていたのは先にティアナと出会い、共に戦ったからなど……フェイトにとっては初耳な事も多かった。

「それじゃ、あの時には知ってたんですか、村雨さん」

「ああ。ティアナとスバルの事もあったから君には黙っていた。歴史に影響を与えないように……ね。時には変えてはいけない運命もあるのさ」

それは村雨良(仮面ライダーZX)なりの気遣いだった。ティアナやスバルの知る歴史を言えばフェイトは運命を変えようとするだろう。そうなると歴史に悪影響が出かねない。(ティアナを機動六課に招聘しない、時空管理局に入らないなど……)変えられる運命があるように、変えてはいけない運命もあるのだ。

「でも……なんで……なんで、あなた方は改造された運命を敢えて受け入れたんですか!?タイムマシンがあるならあなた方の運命だって変えられるはずです!」

フェイトは村雨に詰め寄った。それはいくら過ごしている時間が自分の元々の時代ではないとは言え、タイムマシンというものがある世界に生きながら「普通に生きて、幸せに暮らす」生き方を捨ててまで修羅の道を歩み、“異形”のバケモノと言えるで仮面ライダーとして生きる選択をしたのか。自分がどんなに望んでも手に入れられなかった“幸せ”を手に入れられる権利を持ちながら、それを何故捨てたのか。大人になってからその疑念が強まっていたフェイトはその想いを村雨にぶつけた。村雨は歴代ライダーが持つ想いを代弁するように答えた。

「……人々は昔から悪に対しての絶対的な『正義』を求める。本郷さん……仮面ライダーは改造された当初は人間に戻る為の研究をしていたそうだ。ショッカーを倒した暁にはそうするつもりだった。だが、悪と正義……、
組織と仮面ライダーの存在が知られるにつれて仮面ライダーを求める声は大きくなった。
人々は悪に対抗するための偶像を本郷さんに見出し、すがるようになった。組織もそれを逆手にとって仮面ライダー型の改造人間を作った」
「それが二号さん……?」

「そうだ。一文字さんは一号と出会うことで仮面ライダーになることを選んだ。本郷さんの力になるには、悪を打ち倒すためにも、改造された体を受け入れて戦うことだったからなんだ。本郷さんは今でもそのことを“本当に良かったのか?”と悔やんでいる」



村雨は今でも本郷猛が後輩達を地獄の道づれにしてしまった事を悔やんでいることを話す。本来なら自分一人で終わらすべき道に10人もの男を道づれにしてしまった本郷猛の苦悩。
そしてその運命を受け入れた男達の過酷な宿命。

「俺達だって最初から崇高な使命感で戦っていたわけじゃない。最初は復讐を行動原理にしていたライダーもいる。俺やV3はその最たる例だ。あの人は目の前で家族を皆殺しにされ、俺は目の前でたった一人の肉親だった姉さんを殺されている」

そう。V3の風見志郎は家族を全員殺されて復讐に走り、怒りと憎悪をダブルライダーに指摘されているし、村雨自身もたった一人の姉を目の前で処刑されている。その事への怒りは100年以上が経過した今でも忘れられない。だが、村雨は姉の幻影が記憶のなかった自分をバダンの楔から解き放ってくれた事で仮面ライダーへの第一歩を歩めたといった。

「俺をバダンから本当の意味で解き放ってくれたのは姉さんだ。あの時に見たのは幻影だったかもしれん。だが、紛れもなく姉さんだった。あの時に言った言葉を今でも覚えている。『もう二度と忘れん……バダンの無情 、姉さんの無念……、 そして俺の……無力を……』……と」

「……!!」

村雨は自身が改造前の記憶を完全に取り戻した時に発した言葉を覚えていた。
そしてその瞬間に見た`優しく、いつも自分を守ってくれた姉`の幻影。今でも村雨はあれは姉が自分を助けてくれたと思っている。
それが仮面ライダーになるきっかけの一つだと。最後に自分たちの存在意義を告げる。

「人々が仮面ライダーの存在を求め続ける限り仮面ライダーは死なん。……だから俺達は仮面ライダーであり続ける。たとえ未来永劫生き続ける運命だろうが、人間の自由を守るためにな」

村雨は自分を含める歴代の11人ライダーが運命を受けいれ、人から見れば異形としか言いようのない体で生き続ける理由をそう締め括った。フェイトの知る戦闘機人のように先天的に機械の体ではなく、後天的に、しかも本意でないままに機械の体となった者が多い彼らがその体で生きることへの決意に触れたフェイトは改めて圧倒され、二の句が告げないほどだった。



(ティアナは既にそれを知っていた。それを知った上で彼らと共に戦ったの……!?)


「……ティアナ、私も戦うよ。ここでただ救援の依頼をするだけで、何もしないわけにはいかないよ」

「……フェイトさんの事だからそういうと思いました」

巫女装束に小具足姿のティアナはそんなフェイトの心中を悟り、無言でうなづく。
仮面ライダーの宿命を知る故に、彼らに協力した。さらにネウロイという脅威に立ち向かう為に鋼の翼を手にした。フェイトはティアナが戦いで手にした真っ直ぐな心に触れる事で、心の成長を阻害する殻を破るきっかけを得た。




















――スバルは過去の経験からか、相変わらずなのはの姉のような立ち位置にいる。それは帰還後でも変わらず、事情を知らない人々からは不思議がられている。なのははあの不思議な体験の賜物、スバルと以前の歴史より打ち解けており、姉妹感覚で気軽に会話を愉しむまでに進展していた。

「今度の反攻作戦……うまくいきますかね」

「扶桑や地球連邦に協力を仰いで、ひとまずの楔を打ち込むのが目的だからね。何でも指揮は王立国教騎士団のヘルシング卿が取るとか」

「あの人ですか?思い切った策を取ったなぁ」

ここで二人が名を上げた「ヘルシング卿」とは、旧英国の化物殲滅機関の長で、23世紀でも影響力を持つ円卓会議の一員の「インテグラル・ファルブルケ・ウィンゲーツ・ヘルシング」の事である。とても女性に見えない風貌と威風堂々な風格を持つ強靭な性格の持ち主。威圧的にも見える態度をとる人物だが、こういう時には最も頼りになる人物の一人だ。
なのはとスバルはは仮面ライダー達の仲介で彼女と面会し、事情を説明。すると、彼女は冷静にこう言った。「……遂に動き出したか」と。その時に彼女は王立国教騎士団が彼らの一派にに襲撃されたことを話した。




「あの時は本当に焦った。何せウチの人員のほぼ全てが全滅し、あまつさえグールにされたんだからな。その時に敵に言われたのがこの一言だ。“小便はすませたか? 神様にお祈りは? 部屋のスミでガタガタふるえて命ごいをする心の準備はOK?だ。まあ、そのセリフはウチの執事がそっくりそのまま返したが」
「大丈夫だったんですか」

「ああ。コイツもいたしな」

夜の執務室に入ってきた一人の長身の成人男性−アーカード−と呼ばれる……をインテグラは紹介する。アーカードと名乗ったその男性は信じられないが`、吸血鬼であった。

「私に取って容姿はあまり意味はなさない。その気になれば姿は変えられる」

「そ、そうなんですか」

「彼」は自分の今の容姿に特に意味はないとも言った。それは過去には少女の姿をしていた事も差しているのかも知れない。吸血鬼の中でも最高の力を持つアーカードとも成れば姿は自在に変えられるし、今、その場で少女の姿に変身することもできる。だが、彼本来の姿と言えるのはこの男性の姿らしい。

「お前達のような小娘がよく生き残ってきたものだ。中々持って見かけによらずたいしたタマだ。興味を沸かせる」

「ち、ちょっとマスター!女の子を前にしていきなりいうセリフじゃありませんよそれ〜!!」

アーカードの傍らにいる女性は「セラス・ヴィクトリア」。アーカードの従者のような立ち位置の女吸血鬼。元々はイギリス警察の婦警だったので、「婦警」との通称が付いている。彼女は死の間際にアーカードに選択を与えられ、吸血鬼となった。人間としての己をいまいち捨て切れない様子が見受けられるが、時に恐るべき素養を垣間見せる。コメディーリリーフ的なこともやる。

「それでたどり着いたのがミレニアム、最後の大隊」

「最後の大隊……?」

「最も今は師団規模に膨れ上がったようだが……。ナチの生き残りは陰謀論や都市伝説の通りに多くが極秘に生き延びた。多数が南米に逃れ、再起の時を待った。その内の最大勢力がショッカーから連なる歴代の暗黒組織だ。君たちの世界を襲ったのはそれとは別の一派だろう」



その時にインテグラが話した事は信じ難いが、襲撃し、首都を制圧したドイツ国防軍は主に夜に活動する事から裏付けは取れる。実際、管理局の局員の中には永遠の命と若さに誘惑され、裏切った者も多数存在する。誘惑に負けるのは何故であろうか。


「ヘルシング卿、ローマが動き出したそうです」

「そうか。ちょうどいい。奴らから手紙も届いている」

……と、日本人のなのはと同年代の少女が報告に部屋に入ってくる。HELLSING機関へ派遣されている、聖人の神裂火織である。実は彼女、HELLSING機関に合流して早々にアンデルセン神父と対峙するはめになり、彼の驚異的身体能力、再生能力などに驚愕したのであった。


‐その様子を少し示そう。


「はぁ、はぁっ……`再生能力`……!?あなたは本当に……人間なのですか!?」

聖人である神裂をして、こう言わしめたアンデルセン。それほどに恐ろしかったのだ。刀を鞘内で僅かにずらす動作の影で操る七本の鋼糸で目標を切り裂く「七閃」の直撃を食らったはずが、傷が塞がっていくのだ。しかも銃剣術は常軌を逸した狂気によって驚異的速さを誇り、聖人である神裂ですらも、反応しきれず、壁に追い詰められる。

「フン。これが新教の聖人か……話にならん」

「ニィ」と不敵に笑い、そう言い放つ彼は戦いを楽しんでいるように彼女には思えた。自分と同格、あるいは更に上の力を持つ聖人との戦いでも相手からアンデルセンほどの狂気は感じなかった。だが、ローマ正教(カトリック)の切り札とされるこの男は吸血鬼の真祖たる「アーカード」と対等に渡り合うなどの驚異的戦闘力を発揮し、聖人であるはずの自分をこうして追い込んでいる。それが神裂には信じられなかった。聖人と渡り合い、生き残った人間には心当たりがあるが、それは例外中の例外のハズだ。神裂と仲良くアンデルセンに仲良く銃剣を突き立てられているインテグラは、その直前、プロテスタントとカトリックの間にあるはずの協定に触れたが、アンデルセンはそれを意にも介さず、
こう言い放った。

「退く!?退くだと!?我々が!?我々神罰地上代行のイスカリオテの第13課か!?ナメるなよ売女(ベイベロン) 我々が貴様汚らわしい新教(プロテスタント)どもに引くとでも思うか?」

なんと、普通の人間であるはずのアンデルセンに聖人が押され、この有様であった。その後、彼が首を括り取ったはずのアーカードがその再生能力で蘇生、セラスが負傷した身ながらも、20ミリライフルを携えて突きつけると、アーカードの不死性を理解し、撤退した。そのためヴァチカンの真の切り札に改めて驚いているのだ。












――さて、翌日、インテグラはあらうる手段でHELLSING機関を襲ったグールと`出来損ない`の吸血鬼の言い残したミレニアムという
言葉の意味を探し、やがてそれが「ナチス・ドイツ残党の一派」であることをおぼろげに掴み、この日にローマ正教側が手紙で「会合を持ちたい」と言って来たのを機会に、王立軍事博物館で彼らと接触した。しかしイスカリオテ側の言葉は部外者たるなのは達でさえもが腸が煮えくり返るような凄まじい言葉の連発であった。

「それがどうした」

「なんだと!?」

「こちらが下手に出ていれば調子にのりやがる お前ら、“異教徒”のクソ雑巾共が2人死のうが、2兆人死のうが、何人死のうが知ったことか。法皇猊下直々のご命令で無ければなどと話などするかグダグダぬかさずに話を聞け異教徒のメス豚共」


これが極めつけ。なのはは思わずレイジングハートを介さずに砲撃魔法をぶっ放ちそうになり、スバルはディバインバスターを、神裂は気付かれないように七天七刀に手を掛ける。だが、この言葉にアーカードがすぐに反応した。

「メス豚!?」
「!!」

「さすがは泣く子も黙る第13課 言うことが違う 四方の諸族を統治して平和を与え法をしき まつろう民は寛容を。逆らうものは打ち倒す。何も変わらんね 2200年前からお前らローマは何も変わらん」
「`吸血鬼(ノスフェラトゥ)、アーカード 国境騎士団のゴミ処理屋!!殺しの鬼札!!生で見るのは初めてだ はじめまして「アーカード」」

「はじめまして、マクスウェル そしてさようならだ 貴様は`私の主と、主の友をメス豚と呼んだ お前 生きてここから出られると思うなよ ぶち殺すぞ人間(ヒューマン)!!」

銃を持ち、撃鉄も起こし、怒りを見せるアーカード。マクスウェルにこう切り返した彼に内心、賞賛を贈る3人であった。












――ミッドチルダでは、機動六課のライトニング分隊副隊長であり、八神はやての守護騎士「ヴォルケンリッター」の将「シグナム」はナチス残党軍と戦いを繰り広げていたが……。

「……貴様……何者だ!」

シグナムは闇夜に光る銀色の体を持つ男にそう言った。シグナムは感じていた。特徴的な足音、そしてバッタを思わせる緑の複眼……。
長い月日を過ごしていた彼女も今までに感じたことの無い凄まじい威圧感をその男は出していた。月の光に照らされるその姿は強者としての風格を醸しだしていた。男は一言だけ言った。どことなく重く、風格あふれる声で、自らを表すその名を……。仮面ライダーと全く同様の改造人間足り得る男は……

「我が名は……シャドームーン」

BLACK、いやRXの戦いの宿命が再び動き出す。闇夜に銀色の体が不気味に輝く。シャドームーンは仮面ライダーと同型の改造人間であるので、仮面ライダーと殆ど姿は同じである。
だが、その力は飽くまで仮面ライダーと決着を付けるために使われる。シャドームーンはかつて、「影の王子」と呼ばれたその力をもってして、優位に戦いを運んでいた。







「ふんっ!」

今のシャドームーンにはかつての得物であり、次期創世王の証であった剣、サタンサーベルは失われていた。だが、その代わりに以前、BLACKと戦った時よりパワーアップした事を示す新たな力、シャドーセイバーを手にした。その切れ味はレヴァンティンをも凌ぎ、剣士として相当な実力を持つはずのシグナムをも次第に追い詰めていく。その身体能力はRX、ZXの両名と対等なほどに上がっていた。

「ぐっ…!!」

一撃で、かなり防御力があるはずのバリアジャケットがまるで薄紙のように切り裂かれ、一部、裸体が顕になる。跳躍し、互いに斬り合う時の出合い頭の攻撃でこのダメージは大きかった。


――これが改造人間……!桁外れのパワーとスタミナ切れがない体……このままでは!

シグナムはスタミナが切れてきて、次第に自身の動きが鈍ってきている事をひしひしと感じていた。空中機動が取れず、地上での肉弾戦を余儀なくされた事はハンデとも思わない。だが、相手は機械のボディーを持つ改造人間だ。(改造人間のことはフェイトから知らされていた。そのためシャドームーンがサイボーグの一種であることを察することができた。)
圧倒的にスタミナ面で的に優位なのは明らかであった。それとシャドームーンの繰り出す攻撃一つ一つのダメージがとてつもなく大きい。



「貴様は何故、この世界に現れた!?……答えろ!」

「我が目的はただ一つ。仮面ライダーBLACK RXと戦う事だ」

シグナムはこれでシャドームーンの目的を理解した。この男は仮面ライダーと戦うだけにこの世界へやって来たのだと。仮面ライダーへの闘争本能が彼を突き動かしているのか。
そしてシグナムの放った「鞭状連結刃」形態、シュランゲフォルム のレヴァンティンの攻撃をシャドーセイバーで弾き、軽くいなすと、
シグナムのバリアジャケットを袈裟懸けになぎ払い、薄紙のように切り裂く。レヴァンティンを杖替わりにして立とうとするが、それまでの攻撃のダメージが祟り、足に力が入らない。
足がガクガク震えて立てないのだ。出血のためか、視界もぼやけてきている。

「くそ……っ……!」

そんなシグナムの闘志をシャドームーンは賞賛する。そして敬意を評すると同時に戦士へのせめての慈悲と言わんばかりに、シャドーセイバーを構えた。その時だった。

『待て!!』

「来たか……太陽のキングストーンを持つもう一人の世紀王……」

その声は南光太郎だった。キングストーンの共鳴などの様々な要因でこの場に急いで駆けつけたのだ。

(やはり生きていたのか……シャドームーン、いや信彦……!!)

南光太郎は複雑な心境でシャドームーンを見据える。そして宿命が再び動き出したことに悔しさを滲じわせながら右腕を天に捧げながら叫んだ。

『変身ッ!!』

彼の変身機能が作動し、ダブルタイフーンを思わせるベルト「サンライザー」が光を発しながら彼を`超人`へ変化させる。ZXまでのライダーとは趣を異にする、マフラーを持たない緑と黒のボディーを持つ仮面ライダーへ……。

そしてシグナムを守るかのように、地面に降り立って名乗りを挙げる。

「俺は太陽の子!!この世の生、生ける物全てを守る!!仮面ライダーBLACK RX!!」

RXはその勇姿を見せつけると、早速戦闘を開始する。シャドームーンをRXキックで吹き飛ばし、シグナムの安全を確保すると、安全な場所へ運ぶ。そしてシャドームーンへ叫ぶ。それは南光太郎個人としての叫びであった。

「どういう事だシャドームーン!!また再び…あの悪夢を蘇らせようというのか!?なんとか言ってくれのぶひこぉぉぉっ!」

だが、シャドームーンは無言であった。RXの言葉など耳に入らないかのように。一言だけ言う。

「我が名はシャドームーン。仮面ライダーBLACK RXを倒すために地獄から蘇りし死の使者」

RXはその言葉で全てを悟った。信彦は『死んだ』。かつてのゴルゴムの世紀王としてのシャドームーンも『死んだ』。今ここにいるのはシャドームーンであるが、かつての彼ではない。クライシスと並ぶ強敵として蘇りし事を。


こうしてシャドームーンと対峙したRX。かつてより遙かに強くなった彼をしてもシャドームーンは強敵であった。シャドームーンが復活した事でパワーアップを果たした事を悟ったRXは短期決戦に持ち込もうとした。だが、二段変身を含むすべての動きを読まれていることも相まって苦戦を強いられていた。

「何故だ、動きを全て読まれている!!」

「無駄だ、既に貴様の命は我が手中にある」

「……何!?」


この時既にシャドームーンはRXの全能力を把握していた。彼とクライシスとの戦いを事前にモニターしていたからだ。例えRXがバイオライダーになろうともその対策はきっちりできる。ゲル化の瞬間に熱攻撃を加えればいいからだ。

「……くっ、バイオブレード!」

RXは瞬時に青のカラーリングの多段変身形態「バイオライダー」となり、バイオライダー形態での必殺武器「バイオブレード」での剣戟に打って出た。シャドームーンのシャドーセイバーとがぶつかり会い、火花を散らす。その剣戟は実戦慣れしている両者の腕によって凄まじいものとなっている。辛うじて出来た隙に浸け込むように、バイオブレードにエネルギーを充填し、それで袈裟懸けに叩っ斬る。俗にいうスパークカッター`だ。シャドームーンの強化皮膚硬度を考えればこの程度の攻撃では到底致命傷には成り得ない。だが、一撃でも加えればいい。そんな思いで光太郎は剣を振り下ろした。

「……ほう。なかなかの腕だ。流石はRX。楽しめたぞ」

「……待て!それはどういう意味だ、シャドームーン!」

「勝負は預けるぞ、RX」

シャドームーンはRXとの戦いを優勢に運びながらも、わざと生かしたかのように閃光と共に姿を消す。饗が削がれたとでもいうのだろうか。

「一体どういうつもりなんだ信彦……」


光太郎は変身を解き、気絶しているシグナムをお姫様抱っこするとその場を立ち去った。この一戦は彼の宿命の再動を意味していた。2人の世紀王の争いという重き宿命はまだ終わっていないのだ。この事ははやてにも伝えられた。



――機動六課 臨時隊舎

「シャドームーン?」

「ああ。俺達仮面ライダーと対等に戦える改造人間で、光太郎の昔の親友だった男だ。奴が生きていたとなれば、強敵だ」

筑波洋がはやてにシャドームーンの脅威を説明する。しかもRX同様の存在に進化しうる、RXと対になる改造人間であることは重大事項。

「RXが太陽のエネルギーであの姿になったように、そのシャドームーンが月のエネルギーをオーバーロードするまで浴びたら白いRXに進化しかねないんやな……そのキングストーンつーのはとんでもないロストロギアやね……」

「しかしキングストーンそのものがゴルゴムしか造れなかった代物だし、バダンも欲しがってるくらいのモノだ。下手に管理局が手を出してたら創世王に星ごと消されてしまうと思う」

「ゴルゴム、か。何万年の昔からあったっつー暗黒組織で、創世王は次元も操れる力を持ってたのがいまいち現実感無いんやけど……」

「俺が戦った時は創世王は死にそうだったからね。元々は今の俺に近い姿だったらしいけど」

光太郎がブラックとして対峙した時のゴルゴム創世王は寿命寸前の衰え果てた姿であり、本来の姿は分からない。だが、おぼろげながらも全盛期の創世王はRX状態の自分とほぼ同じ姿ではなかったのだろうかと推測していた。

「RXとしての姿は創世王としての姿だと?」

「確証はない。だが、キングストーンが俺に言った言葉から推測すると、そうなる」

RXとしての姿は創世王に近い力を得た証なのだろうか。それは誰にも分からない。シャドームーンもその可能性がある以上は重大な脅威である。どうすればいいのか。頭を抱えるはやてだった。



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