――ミッドチルダ動乱で使われた地球製兵器の存在は管理世界に波紋を巻き起こした。純粋科学でも『対策』を施せば魔導師を圧倒しうるという実績が生まれた事で、管理局の管理下を抜けだそうとする動きが生じ、それを右派は弾圧しようとしたが、主流派が抑えこんだ事で未然に防がれた。だが、管理局内部の派閥抗争は地球と出会ったことのショックで沈静化したと思われたが、逆に右派が『自分たちの正義のためならば、犠牲やむなし』という危険思想に染まっている事を知らしめる結果になり、管理局主流派と改革派は規律引き締めの名目で右派を粛清することを決め、機動兵器を保有する機動六課にお鉢を回した。
――機動六課 隊舎
「と、言うわけや」
「要するに、右派の野郎どもを『汚物は消毒だぁー!』すりゃいいんでしょ?武子さんからフルアーマーガンダムの調整頼まれてたし、ちょうどいいや」
なのはは割り切って任務に当たるつもりなのがわかる。なのはは管理局右派を危険視していた故、粛清する事に抵抗感はなかった。属しているロンド・ベルには治安維持部隊の側面もあり、エゥーゴから分裂した過激派『エグム』やハマーン軍残党、ジオン公国残党、ネオ・ジオン残党、ティターンズ残党などと日頃から交戦する日々だったため、慣れたためだ。
「フルアーマーガンダムか。確かアレって一年戦争中には実機は無かったんじゃ?」
「最近、発見された記録だと、およそ10機くらい、RX-78-2と3タイプとセットで生産されてて、終戦間際のア・バオア・クーで投入されてたみたいなんだ。そのテストは概ね良好で、戦後に最終型のフルアーマーガンダム3号器ってのも使われたみたい」
「一年戦争の置き土産かぁ。でも、こうして見ると、オーパーツじゃないの?トリプルビームライフルだし」
「うん。今となっちゃ、もっとすごいのゴマンとあるけどね」
武子が使用しているフルアーマーガンダムはB型で、G3ガンダムを素体に使うタイプだ。その爆撃能力は一年戦争の水準を超越しており、Zガンダムにも匹敵する。一年戦争時の、MS黎明期に設計されたのにも関わらず、である。コックピット部は元来、コアブロック設計であったが、近代化改修の際に全天周囲モニターとリニアシートを搭載した兼ね合いで廃された。格納庫に置かれた、素体に合わせてかグレーを基調とし、一部は青で塗装されているフルアーマーガンダムは、RX-78タイプの生き残りである事を示すフェイスも相成って、存在感を醸し出している。
「フルアーマーガンダムにはもう二つのプランがあって、一つはガンダムのBパーツを巨大ブースターユニットに変更し、4門のビーム砲を装備したMA、もう一つは宇宙用の高機動型だって。MAタイプはアムロ少佐の活躍で没って、もう一つはエンジン開発に難航してる間に終戦して、これもポシャったそうな」
「MA案って、後年に実現しとるやん。デンドロビウムやろ、ディープストライカーやろ」
「うん。その原案がそれ。後者は戦場で高機動型ザクが猛威振るってたから、その対策も兼ねてたって聞いたな」
「なつい名前や。MSVやん」
「それだよ、それ。あれの威力は伝説的で、ジムの上位機種だったスナイパーカスタムの中隊を一機で返り討ちにしたとか、戦後もアナベル・ガトーがジム・カスタムを撃退したとか武勇伝があるんだ。ただ、そのポテンシャルに比例して、一年戦争の時の技術力じゃ推進剤の消耗が激しかったんだ。それで戦況を覆すだけの数は生産されなかったって話。マニアの間じゃ『リックドム造らないで高機動型ザク造ってれば……』って空想もされるくらい人気だよ」
なのはの言う通り、ザクU系事実上の最高位機種『高機動型ザク』は端的に言えば、『ザクの皮を被ったゲルググ』と言われ、連邦軍を恐れさせる活躍を見せた。だが、製造コストが元来のザク五機分とも言われるほどに高騰、更に操縦難度の高さがネックとなり、主力機となり得なかった。実際、ジオン軍としては『少数生産の『エースパイロット専用機』として見ていた節があり、『ジョニー・ライデン』、『シン・マツナガ』、『アナベル・ガトー』、『ユーマ・ライトニング』などのエースパイロットへ各型が回され、相応の活躍を見せた。その他、23世紀で出版される一年戦争の仮想戦記では、『高機動型ザクが量産されて、ソロモンで無双する』筋書きが三種の神器であるほどだ。
「アレってどうなん?実際」
「シミュレータで動かしたけど、Zよりも、じゃじゃ馬だよ。気がついたら燃料タンクがカラになってる事多いくらい。エースパイロットじゃないと戦闘行動出来ない。だからリックドムに負けるんだな。あれも悪くはないんだけど、連邦軍のスナイパーカスタム系に負ける程度だしな」
――平均練度の低下に悩んでいたジオン軍としては、ザク系に似つかわしくない操縦性は最大のネックであり、コストパフォーマンスの問題で、リックドムを場つなぎにしたのが実際の事情である。だが、リックドムは相対的に連邦軍のジムスナイパー系統やガンダム系に見劣りしていたため、連邦軍の反抗を防ぐことは叶わなかった。そのために、リックドムは連邦軍側から見ると、ザクに比べて低評価気味であるのが窺える。フルアーマーガンダムの立案も高機動型ザクの性能に脅威を覚えたからともされるためだ。
「なのはさん、弾丸の詰め込み終わりました〜」
整備班からの報告を受けたなのはは頷き、フルアーマーのコックピットに乗り込む。今回は暗殺任務なので、単独での出撃だ。格納庫のドアが開き、そこから出撃する。一年戦争の機体としては破格のジャンプ力を見せ、右派の会合が行われている郊外の都市へ向かった。数十分ほど行軍し。右派が会合を開いている郊外都市の近くに機体を止め、肩のキャノン砲を稼動させる。正確にはロケット砲なので、煙が立ち上り、敵に発見されやすいリスクがあるが、科学兵器が絶えて久しいミッドチルダでは逆に攻撃予想範疇外という利点から、暗殺任務には持って来いだ。
「えーと。市街中心部の市議会に照準合わせて……、高速ロケット弾装填っと。会合はあと10分で始めるはず。」
――予定時刻になると同時に、ロケット砲を放って着弾を待つ。マッハ5で飛翔するロケットを迎撃できる魔導師は今や、全員が前線に配置されており、後方地域であるこの地にはいない。それが主流派の確信的な情報提供だった。
「6、5、4、3、2……1。」
轟音とともに爆炎が上がる。付近の管理局分署の通信量が増え、付近の警備員の怒号混じりの通信が入り交じる。なのはは高みの見物とばかりに、乗機を離脱させ、まんまと逃げおおせる。その途中で誤魔化しも兼ねて、敵に喧嘩売ってこいと言われていたのを思い出し、行軍中の敵MS隊を発見、攻撃をかける。今回はドムを主体にした中隊だ。
「さて、調整した補助推進器のテストだ!」
なのははスロットルを開き、フルアーマーの背部ランドセル部のスラスターに加え、脚部スラスターを使う。この状態での突進力は、一年戦争中のMSとしては最高峰である。装甲材とフレームを最新のに換装しているため、一年戦争時より機体重量が軽量化されているので、運動性も改善されているという副産物も生じた。
「頼んだよ、フルアーマーガンダム……!いっけええええ!」
肩部7連ミサイル、膝部6連ミサイル×2、更に背部複合式大型ミサイルランチャーを一斉射撃する。ミノフスキー粒子散布下なため、命中率は70%行けばいい方だが、出鼻を挫くにはちょうどいい。中隊の中央突破をするべく、掃射した。数秒後、ドムは熟練者の乗る機体以外は粉砕され、ザクはミサイルで原型がないほど粉砕される者が大半であった。
「おっと!」
レバーとフットペダルを駆使し、バク転して、ザクのヒートホークを避ける。その一瞬を突いて、相手の頭部に蹴りを入れ、距離を取る。人間臭い動作だが、素体の改修の際にムーバブルフレームを導入したから可能な敏捷性である。
「さて、MS越しにできるか、やってみるか」
なのはは、機体に独自に携行させていたガンダム・ピクシー用のビームダガーを構えさせ、自身の体得した御庭番式小太刀二刀流を再現しようとする。なのはは、本来ならば実家の流派を継げる身だが、幼い頃から『それは兄と姉の役目』と思って生きてきたため、それ以外の流派を手広く習得することにしたのだ。MSでそれができるかと言うと、23世紀時点ではYESである。モビルファイターからのスピンオフが進んだため、間接部の柔軟性、即応性などはモビルファイターと同等レベルに達したためだ。
「フッ!」
元々、砲撃戦用の機体であるフルアーマーガンダムだが、素体は白兵戦で当代最強を誇ったRX-78である。片方のビームダガーをヒートホークやヒートサーベルをいなす目的で使い、もう片方で斬り裂くという芸当も可能であり、素性の良さを示した。
「秘儀・回天剣舞!」
それはかの世界にて、四乃森蒼紫が使う剣技を擬似的に再現したものだった。回転しながらダガーで三連撃するこの技、重装甲で鳴らしたドムを一撃で破壊するほどの威力を発揮する。
「さて、次だ!」
フルアーマーガンダム本来の『火力による一点突破』。それはなのは本来の素養にも合致しており、応戦する敵をその火力で破砕しつつ、格闘戦をこなす。
「ジャイアント・バズ!?おわっ!」
ドムの一機が咄嗟にジャイアント・バズを発射し、その至近弾でバランスを崩し、転倒してしまう。そこへ追撃でヒートサーベルを突き入れようと攻撃をかけてくる。
「クソっ!」
攻撃をかけてきたドムを蹴り飛ばしながら立ち上がり、リーチの長い通常のビームサーベルに得物を変え、飛び上がる。そして、円月殺法の要領で弧を描くように、サーベルを動かし、乾坤一擲のタイミングで振り下ろす。
「隠流・満月斬りぃぃ!」
なのはは状況に応じて、流派と技を使い分ける方向で鍛錬してきた。これは最大奥義の習得が一子相伝であった飛天御剣流などを考慮に入れてのもので、その操縦にフルアーマーGは良く応える。この戦闘を管理局上層部はプロパガンダに使うのだろう。それで自分は英雄と祭り上げられる。それを思うと、気が重くなるなのはだった。
――その日の内に、この日の一連の事件は『敵のロケット弾攻撃による悲劇』とプロパガンダされ、関係者は2階級特進の措置が取られ、なのはは『敵をフルアーマーガンダムで撃退した功労者』と報道され、なのはとしては不本意ながら、攻防戦での功績と併せて、管理局では大変栄誉有る勲章を授与された(旧体制の軍隊の名残りである風習)。飛行64戦隊にフルアーマーガンダムを返却し、自身はZZの慣熟訓練に明け暮れた。フェイトのほうが慣熟は早く、彼女がZを一通り扱えるようになったのは、のび太がゴールデンウィークを迎える一週前のことだった。ロンド・ベルに転属し、ジュドーと共に教官任務についていたカミーユ・ビダンからも関心される早さだった。
――格納庫
「ふむ……、合格だな。しかし、ここまで速いのは珍しいよ。」
「本当ですか?」
「ああ。Zは操縦難度高いから、機種転換に一年かかったりするのが当たり前なんだ。君のように数週間で終えるのは珍しいのさ」
「へぇ〜」
「君の場合は多分、VFで航法とかが身についてたから、その辺をすっ飛ばしたおかげかもな。注意事項としては、Zはガンダリウム合金製だが、機動性重視だから、全体的に装甲は薄めだ。ZZのような耐弾性はないからあしからず」
「わかってます」
「ならいい。これは私事だが、まさか俺のアイデアが採用されて、生産されるとは思ってもなかったが、存外、いい仕事するもんだ、アナハイムは」
「設計に関わったんですか?」
「正確には、グリプスの時にアストナージさんが俺のアイデアを出したら、そのまま採用されたのさ。まさか、Zプラスとかが造られるとは思ってなかったが」
「ん?ZZはどうなんですか?」
カミーユが精神崩壊していた時期に、Zの量産と追加生産がなされていた事は、当人としてはびっくりごとで、療養を終え、軍に戻った時、Zプラスやリゼル、リ・ガズィが生産されていたのは開いた口が塞がらなかったのがカミーユ自身の口から語られた。元々、ジュニアモビルスーツなどのホビーに夢中になっていた(両親が家庭を顧みなかった事への不満の捌け口と、名にコンプレックスがあったからでもあった)身故、ちょっとした遊びで、リック・ディアスにガンダムmk-Uのフレームとフライングアーマーをつけた設計をアストナージに見せたら、なんとZ計画を進めていたアナハイム・エレクトロニクスに提出され、採用されたのだ。それで生み出されたZガンダムはグリプス戦役以後、RX-78に代わる連邦軍の新世代技術の象徴とされたように、彼の才能は技術士官であった両親譲りと言える。
「ZZはまた違う思想で設計されたから、SがZの後継機種の位置付けになる。あれはRX-78にZの可変機構を組み込んで『Gアーマー』を単独で実現させたようなもんだ。だから欠点もあるんだ」
「と言うと?」
「合体機構が複雑だから、ジョイント部とかが意外に脆い上に、応力がバックパックに集中するんだ。それが設計上の難点になってて、フルアーマー化が進められた要因なんだ」
カミーユは装甲強度は高いものの、構造上脆い点があるZZをさほど評価していないようである。それを再設計したSに高評価を与えているのは、期待構造上の難点が解消されているためだ。
「なるほど」
「ただ、耐弾性はMA級だから、一点突破に使える。ジュドーや俺みたいに、ZZを真っ向からのドッグファイトに使うほうが珍しいのさ」
――カミーユとジュドーはフルアーマーZZで格闘戦を行える腕の持ち主だが、一般にはフルアーマー形態のZZは試作機のファッツのように、砲撃戦MSとしての運用が推奨されている。通常形態でも格闘戦を行えるパイロットは限られており、ロンド・ベル出身者か、ニュータイプでもなければ無理である。
「最後に、君の友達のなのはちゃんのシミュレータのデータを見たが、筋はいいが、もう少し反応速度を早くしないとな。格闘戦になると咄嗟の判断がモノを言う。伝えといてくれ」
「分かりました」
カミーユはなのはの強化型ZZのコックピットに座り、機体からシミュレータのデータをコピーする。次回の講義の際に使用する教材にするようだ。意外に面倒見がいいあたりは、年月を経て、自身が後輩を持つようになったためである。
――そのなのはは、帰還した後は上層部のプロパガンダに祭り上げられ、すぐに記者会見場に連れて行かれ、帰ってきた時は脳みそをフル回転させたために、精神的に憔悴しきっており、部屋に入ると、そのまま寝てしまった。翌朝、箒が起こしに行くと、寝巻きも着ないで、着の身着のままでいびきかいて、寝ているという、あまりに女子力が低い姿であったため、箒に溜息をつかれ、呆れられたという。のび太たちからの誘いまであと五日になったある日のことであった。
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