補足:この特別編はガンダムSEEDのHDリマスター版放送記念の特別編です。
(本編とも繋がっています)
これは連邦軍の一方面軍が要塞ごと遭遇した、ある不思議な出来事。彼等の行動がある世界の運命を変えてしまった。
これから語られるのはその世界では決して語られない出来事
―
遺伝子操作を受けた人類と、そうでない人々が混在する世界`コズミック・イラ`。この世界は民族紛争や宗教紛争が激化し、
なおかつ石油資源の枯渇や環境汚染の深刻化、世界不況が起こり、世界各地で代表勢力による分割が行われ、世界各地でブロック化が起った世界。
その結果、5つの大国が生まれ、その大国の主導で宇宙移民が促進された。
ある時、この世界における重要な出来事が起こった。それはこの世界で`天才`として名を馳せていたある一人の男の告白であった。
その男の名を「ジョージ・グレン」。彼は理工学やスポーツなど、様々な分野で成功を収め、万能とも称されていた。
彼は木星探査に思いたときに自分が通常の人間よりも能力を遺伝子レベルで強化された人間で有ることを告白。遺伝子強化の方法を地球圏に与えた。
これがきっかけで`コーディネーター`と呼ばれる人種が生まれた。 ただし問題点も多くあった。やがて人口が増加した、
遺伝子操作がなされた人類`コーディネーター`は国家を作った‘ナチュラル‘と呼び見下している。
それが異世界で言えば、スペースノイドとアースノイドのように対立が生まれた。
軍備の面では人型機動兵器を主力としているが、個人プレイが目立ち、軍隊として未熟な側面を持つ。
さらに部隊レベルでの独断専行の虐殺も実行する輩も一部存在するなど規律の徹底が成されていない。
それが能力を過信した故がことなのか。地球連邦宇宙軍宇宙要塞ルナツーと駐留していた2個連合艦隊はこの未知の世界に迷い込んでしまったのである。
(原因は工廠で開発中の試作型過給器装備の波動エンジンの暴走)
「何?ナチュラル共の艦隊共が我らの邪魔をしているだと?放っておけ。奴らの作った兵器など恐れるに足りん」
「しかし議長閣下…」
議長と呼ばれた壮年の男‘パトリック・ザラ‘は遺伝子操作がなされた人間―彼らの言葉で言えば「コーディネーター」と呼ぶべき人種の中でもタカ派の急先鋒として知られる人間である。彼等は異世界での戦争が終盤に差し掛かる時期のため、その頃、既に歪んだ選民思想に染まっていた彼にとって、たとえ異世界の住民であろうと地球の人間は排除すべき存在としか映っていなかった。
「諄い!なら殲滅しろ。場合によっては‘アレ‘を投入する」
「そうだ。今後の戦況次第で投入するか否かを決める。準備を進めさせておけ」
「ハ、ハッ!」
「ところで‘奴‘らの行方はつかめたのか?」
「基地に逃げこむ姿が確認されました。どうやら政府や軍に働きかけるつもりでしょう」
「そうか。御苦労、下がれ」
「ハッ」
ザフト内部では自分達の出張こそが正義と疑わないタカ派が幅を効かせつつある。
彼等の行動に疑念を持つものも少なくないが、この現状では動きが取れなかった。頼りのハト派は支柱であった前議長が公然と処刑されてから、すっかり鳴りを潜めてしまっている。 唯一、前議長の娘が最新鋭艦を奪取して元地球連合軍の軍艦「アークエンジェル」、中立国籍の「クサナギ」と協力してゲリラ的な抵抗を行っているが、情勢は芳しくない。
(頼む…上手くいってくれよ…この計画が最後の望みだ…)
副官は議長室を出ると一目がない場所まで歩くと特殊な改造がなされた電話でどこかに連絡を取った。
「ああ、……そうだ。…と言えば分かる」
彼は何をなそうとしているのか。それはまだ明らかにされるべきではない。いずれ日の目を見る事になる時まで。
「彼等をよろしくお願いいたします。情報はいつもの場所で受け渡します」
「いいのかね。君ほどの立場の者が」
「地位や名誉など、とっくの昔にかなぐり捨てました。国民は平和を望んでいるのです。彼は間違ったことをやろうとしている。それを止めるのが私の役目です」
ナチュラル排除思想が蔓延るザフト軍内部でも現議長に疑問を持つ人間は多く存在している。
‘彼‘もまたその一人であり、ザフトの良心はまだ封殺はされていない事を示していた。
「`彼等`が護衛しているので暗殺の危険はないと思うが…君も気をつけてくれ」
受話器越しに聞こえる割と若い男性の声。そしてザフトの未来を憂慮する一人の将校。運命の糸は複雑に絡み合いつつある。そしてそれが彼等の未来にどう作用していくのか。
―同時刻 地球連邦宇宙軍拠点「ルナツー」
コズミック・イラに転移してしまったルナツーは連邦宇宙軍の防衛拠点として運用されている宇宙要塞である。ここに`この世界の住民`の船がドックに入っていた。一つは大西洋連邦軍と言う組織に属していた強襲機動特装艦「アークエンジェル」。さらにオーブと称する中立国の「クサナギ」、3つ目の赤い彗星も真っ青の派手な塗装を施されたのがザフトからの脱走艦「エターナル」である。この三隻はいたるところに損傷を受けており、修理を担当する工廠の造船部の人間を悩ました。連邦の規格に合わないので、装甲板をコピーし、それを改めて生産する必要が生じ、手間がかかるのだ。
3隻の艦載モビルスーツについては、驚きの連続であった。何とほとんどがバッテリー駆動で、核動力なのは一部のワンオフで造られたガンダムタイプのみだったのである。
ルナツーにいて今回の件に巻き込まれた、MSの修理を担当するアナハイム・エレクトロニクス社のエンジニア達は「何でこれだけの機体がバッテリーで動くんだ!?」と誰もがびっくり仰天。双方の技術の違いが示された例と言えた。情報収集のための`保護`とは言え、思わぬ成果を得たのだ。
3隻に搭載されていた機体の内、ガンダム系と思わしき高性能機は連邦軍による研究とミノフスキー粒子散布時の戦闘に適応させるための改装に回されている。これらの機体の一部には原子炉が搭載されており、パイロット達は動力源に関するデータの提供を拒んだのだが、この要塞や駐留艦隊の機体は皆、原子炉よりもさらに強力な核融合反応炉か、それ以上の代物で駆動すると知らされると皆が唖然としたそうである。量産機については、艦隊の搭載機では如何せん、小型高性能化が進んだ世界のMSと比べると性能不足が明らかであったのに加えて、ルナツーでの弾薬補給が効かないという観点から連邦軍の制式採用機が工廠から提供された。(種類はジャベリン。彼等を味方に引き込みたい政治的な思惑もあって、軍は敢えて最新鋭に属する機体を提供した。ジャンク屋からの非正規ルートで彼等本来の弾薬を補給するのはあまりにも危険な上に、足をつけられる。それにザフトと連合の高性能機に対抗するには普及量産機では難しいため)
「しかしまあ……違う世界って言っても考える事は同じなんだな」
ルナツーの格納庫に配備されている「RGM−122 ジャベリン」の小柄な機体を仰ぎ見る、連邦軍とは違う軍服を着込むこの将校の名は「ムウ・ラ・フラガ」。アークエンジェルの乗員の一人である。
「でも凄いですよムウさん。この機体、小さいのにストライク以上のパワーを持ってます。ところでこのショットランサーって、実戦で使えるのかな?」
ジャベリンのコックピットにいるこの少年兵は「キラ・ヤマト」。聞く話に居ればこの世界における初のガンダムパイロットだとの事。彼も異世界のMSに興味があるようである。
「OSの調整無しに誰でも動かせる上に、なおかつ整備性はいい……、すげえもんだな」
フラガやキラ達パイロットはルナツーでミノフスキー粒子散布下での訓練を受けている最中なのだが、ある程度の基礎があるとはいえ、操縦システムの違いなどで戸惑いがあるのか、意外とてこずっているらしい。彼等の本来の愛機はミノフスキー粒子散布下での戦闘に耐えうるように改装中だ。どうしても出撃しなくてはならない時はここの機体を借りなくてはならないだろう。はたしてこの艦隊の言う`ミノフスキー粒子散布下でも戦闘に自分達が適応できるのだろうか。ムウは前途多難な生活に頭を悩めつつも、自身もジャベリンの隣にあるジェガンのコックピットのハッチを開け、機体を起動させた。
このルナツーでの彼らの処遇は取り決められていないが、首脳陣には地球連邦軍の編成についてのデータベースが一部配布されていた。驚きなのは恒星間航行は当たり前、長距離移民船団も多く銀河に散らばっている事、兵器の各種装備が自分達の世界のそれよりおよそ数世代は先んじている技術で構成されているといった技術面、感心した面としてはキラの愛機「フリーダム」や「ストライク」の様なタイプが代々、軍の象徴として扱われている事である。世界は違っても人の考える事は同じであるらしい。幸いエネルギー以外は自給自足できるだけの設備は備えているそうなので、元の世界に戻れない場合でもMS用のエネルギーを確保する必用があるが、それ以外は大丈夫らしい。正に自給自足体制がある程度整っているといっていい。この要塞一つでこの世界の軍事バランスを変えられるだろう。そうフラガは踏んでいた。事実、その通りであった。
−地球連邦軍の軍備は様々な戦乱で飛躍的に強化を遂げ、遂には戦闘機でマッハ20以上の速度を、
モビルスーツで`質量を持つ残像`を繰り出すまでに至った。
その驚異的技術を恐れるものがあった。一時的に介入した「コズミック・イラ」暦で連邦軍と運悪く相対してしまった勢力である。
彼らは自らの争いに突然介入した連邦軍を撃滅すべく、幾度と無く兵力を送り込んできたが、兵器の性能差と搭乗員の練度の差に阻まれて敗北していった。
これはその時に連邦軍側が記録したレポートである。
−現地の暦でコズミック・イラ71 9月16日
地球連邦軍ルナツー駐留艦隊はこの1週間前より本格的にコズミック・イラでの生き残りをかけての行動を開始、
現地の`協力者`達の手を借りての情報収集に当たった。
『彼ら`協力者`達は自分たちより凡そ世代が3世代ほど違うほどの技術格差に驚愕したが、
特に彼らは我が方のモビルスーツが`核融合炉で稼働する`事に腰を抜かしていた。
−単純なジェネレーター出力では彼らの持ち込んだガンダムタイプ`フリーダム`の方が上だが、
旧世代の原子炉とミノフスキー式核反応炉とでは発電効率で隔世の差があり、より効率的なエネルギーの活用ができるというと納得していた−
コズミック・イラの一般的なモビルスーツは超電導バッテリーのようなもので稼動している。
そのためビーム兵器の使用に一定の制約が生じる。しかしルナツー所蔵モビルスーツは核融合炉稼働なので、
ビームを乱射しても作戦行動時間に影響は受けないし、予備のEパックも敢行することで射撃回数を増やせる。
さらに機体によっては強力な兵器を複数敢行可能なのもコズミック・イラ暦の機体に対するアドバンゲージであった。
『この日はプラントの部隊と初交戦であったが、AVFのVF−19AとVF−22一個小隊でお釣りがくるほどであった』
この日の連邦軍はモビルスーツを出さなかった。単に出し惜しみしたのではなく、出せなかったのである。
転移によって生じた電磁パルスが全部隊の機動兵器のアビオニクスに不具合を生じさせ、その解消に追われていたのだ。
一週間かけての復旧作業で真っ先に復旧したのがバルキリーであり、それしか出撃可能に持っていけなかっただけである。しかし熱核バーストタービンエンジンの繰り出すスピードとその火力は戦力差を補って余りあった。
連邦軍のルナツー所属であることを示す迷彩カラーリングのVF−19とVF−22の一個小隊は一撃離脱戦法を駆使し、
プラントのモビルスーツと対等に渡り合った。プラント側のパイロット達は`ただのモビルアーマー`に見える
(ジオンのモビルアーマーとは概念が根本から異なり、コスモタイガーやブラックタイガーのような宇宙戦闘機の延長線上に位置する汎用戦闘機に過ぎない)
機体に翻弄されるという事実を受け入れられずに絶叫する。
『なんで……、何で俺達がナチュラルのモビルアーマーなんぞに圧倒されるんだよぉぉぉぉ〜!!』
プラントの主力モビルスーツ「ジン」のあるパイロットはジンの主力武装の76mm重突撃機銃を乱射しているのに目の前を乱舞する戦闘機に掠りもしない事に苛立ち、叫びを上げる。
自分たちは能力が通常の人間より数段優れた`コーディネーター`であり、その叡智が創り上げた兵器であるジンを駆っているという自尊心が彼らの士気を高揚させている。
その自尊心は目の前の戦闘機によって粉々に砕かれていく。戦闘機なら上からの攻撃なら躱すことはできないはずだとなんとか真上に陣取る。絶好の位置からの攻撃だ。
トリガーを引こうと指を伸ばすが……。
『バカチンが。このVF−19`エクスカリバー`をただの戦闘機だと思うなよ』
『!?』
彼と相対していた前進翼のVF−19は瞬時にバトロイド形態へ変形し、そのスピードでジンの懐に飛び込んで拳を見舞った。ただの拳ではない。
ピンポイントバリアシステムを応用した光の拳だ。
『うぉりゃあ!!ピンポイントバリアパーンチ!!』
`エクスカリバー`の拳がジンのコックピットを派手にぶち抜き、沈黙させる。相対速度を考えると未熟練者にとっては`死`を招きかねない行為であるが、VF−19のパイロット達はAVFを駆ることを許された熟練者ぞろいである。新兵がシミュレーションで犯すような失敗を犯すほど未熟ではないし、チキンでもなかった。
他を見回すと、シュトゥルムフォーゲルUのマイクロミサイルの火力と機体の機動性に恐れをなして逃げ出すが、圧倒的スピードの追尾から逃れられず、ガンポッドの掃射で落とされる者、または熱核バーストタービンを全開にした両機に追いつこうと無理な加速を行い、機体の設計限界を超えた加速で機体が空中分解する者も居た。この戦闘でのキルレシオはVF−19及びVF−22が4機撃墜する間にジンは反撃もままならないので4対0と記録され、バルキリー側の圧倒的勝利に終わった。この戦闘の様子を要塞で`観戦`していた連邦軍の協力者−連邦軍からは3隻同盟と呼ばれる−達はそれぞれの感想を述べる。
「人形に変形する戦闘機ねぇ……凄いもんだ。下手な可変モビルスーツより空戦能力あるし、当たり負けしてねえ」
「こっちのモビルスーツより変形速度も速いし、火力もある。侮れませんよ」
「極限まで鍛えられた`鋼の翼`……あれが彼らの力なのですね」
「ただの戦闘機って甘く見ると痛い目あうな、敵じゃなくってよかったよ」
主要人物−キラ・ヤマトを初めとする面々−は連邦軍がデモストレーションも兼ねて中継したバルキリーの姿に関心が高いようで、その話題に持ちきりとなる。だが、裏をかえせば`敵に回ればいつでも撃沈できるぞ`という無言の圧力でもあった。連邦軍はその点の`プロハガンタ`はお手の物なので、さりげなく頭にすり込むサブリミナル効果で彼らを取り込んでいった。
そしてルナツーに駐留していた「第17機動中隊」の母艦のラー・カイラム級の格納庫には連邦のモビルスーツパイロットの中では指折りのエース「青き閃光」の乗機となる、
ロールアウト間もない青い量産型ガンダムF91が静かに鎮座していた……。キラたちはまだ知らない。`本当のガンダム`を……。そして。その青いF91がその一端を彼らに示す事を……。
−C.E.71年9月。連邦軍要塞「ルナツー」が遭遇した事件における最初の艦隊戦が行われた。
我々の協力者−3隻同盟−が未知の小惑星(ルナツー)へ逃げ込んだ事を察知した各陣営が艦隊を差し向けてきたが、我々はこれを臨時に第5艦隊旗艦を拝命したアンドロメダU級戦艦(元々は白色彗星帝国戦時に連邦軍最新鋭であった、アンドロメダ級の二番艦として竣工予定であったのを、当のネームシップが戦闘であっけない幕切れに終わった事を期に改良のために工期延長され、武装は新造し、船体の足りないパーツはドックごと破壊された姉妹艦達の無傷であった資材を流用し、更に船体構造を白色彗星帝国の火炎直撃砲などにも耐えうるように強化した結果、別艦と言える性能向上を果たしたので艦級が変更された)「ネメシス」を中心にした艦隊で迎え撃った。
−ルナツー内部では見るからに「超弩級戦艦」である複数の艦艇が出撃準備を整えていた。連邦軍の誇る波動エンジン搭載型戦艦達だ。
ネメシスとその廉価版と言える「主力戦艦」級(波動エンジン搭載艦としては安価で数を揃えるべく、短期間で大量配備を見込んだためと、
艦容に大昔の超弩級戦艦の面影が残るので各地域行政府(旧各国政府)達が想い想いの名で呼びたがるのが見込まれたため、特定の艦級名は冠されていない)
である。
この時期にルナツーに駐留していた主力戦艦級は後期生産型の「サウスダコタ」、「マサチューセッツ」、「セント・ジョージ」、
前期型の数少ない生き残り「金剛」、「榛名」、「高雄」、「ヴィットリオ・ヴェネト」であった。
それらを護衛するは主力戦艦改級戦闘空母第10番艦「コロッサス」、同級13番艦(12番艦に動力系の不具合が出たので先に竣工)「クイーン・エリザベス」、14番艦「蔵馬」である。前衛の巡洋艦と駆逐艦も波動エンジン艦で固められており、外宇宙航行艦で固められたこの臨時編成艦隊は少なくとも砲撃戦では無敵と言える陣容であった。
「空母の護衛付き打撃艦隊か……アレだけで本当に大丈夫かよ」
ルナツーから迎撃のために出港していく臨時編成の第5艦隊の陣容にいささかの不安を見せるのは3隻同盟のメンバーのカガリ・ユラ・アスハだ。数で押し切ろうとする地球連合(ただしこの時はプラントの要塞攻略が控えているので、中規模の分遣隊規模)軍の艦隊、更にそれを討つと同時にルナツーに匿われている脱走艦「エターナル」を奪還せんとするプラントの事実上の国軍「ザフト」。両方合わせるとかなりの規模になるが、それをルナツーは戦艦7隻、空母3隻を中心とする比較的小規模な艦隊で迎え撃とうとするのだ。数だけ見れば不利そのもの。カガリの隣にいるラクス・クラインも不安そうに俯く。
「ええ。彼らは本当にあれだけで勝てるとお思いなのでしょうか…?」
「何、あれだけで十分だ」
「あなたは……?」
「地球連邦軍、月面軌道艦隊旗艦「バトル13」艦長、キム・キャビロフ中将。君たちの事は基地司令から聞いている」
ルナツーにたまたま寄港していたバトル級(新マクロス級の戦闘艦部分の超巨大戦闘空母)の第13番艦「バトル13」。
(その偉容は連邦軍のなるべく見せたくない情報に分類されるので、彼女らには一分しか公開していない)その艦長であり、元SDF−1「マクロス」のブリッジオペレーターの一人でもあったキム・キャビロフ中将が軍服姿で現れた。彼女は今や寿退職した同僚らとは対照的にゼントラーディ軍との和解後も軍に残り、異例の若さで将官にまで上り詰め、「キャビロフ学校」なる独自の派閥すら保有するに至り、改革派の発言力回復にも一役買った連邦随一の女傑である。年齢は宇宙勤務故、戸籍上の年齢と肉体的年齢は差があり、肉体的に言えば20代前半頃である。
「あれらは外宇宙航行用に造られた艦艇だ。無論、同等の外宇宙航行用の艦艇を持つ敵の砲撃に耐えられるように造られているから、この世界の兵器ではほぼ勝てん」
「が、外宇宙だぁ!?嘘だろ……」
「外宇宙って……冥王星より外なんですの?」
「そう。正確に言えば銀河の外だ。マゼラン星雲やアンドロメダ星雲までだったらおよそ半年もあればいける」
「……」
カガリとラクスはその言葉に思わず絶句する。外宇宙航行は惑星間航行以上に困難を極めるのは如何に素人でもわかる。
それ用の船は自分たちの常識では未だどの国でも机上の空論に過ぎない。それを当たり前のようにサラっと言ってのけるキャビロフに、
ルナツーが元あった世界は一体どんな世界なんだと、唖然としてしまった。
−第5艦隊はショックカノンによってアウトレンジ攻撃を行なう事になり、射程が長い(40cm〜51cm砲)戦艦群の主砲塔が回転し、敵艦隊の方角に砲を向ける。
「敵はこの距離ならまだ攻撃されんと思っとるな。全艦、突撃隊形!!砲・雷撃戦用意!!まずは地球連合とかいう危ない連中の出鼻を挫く!!」
地球連邦軍は保有する優れた情報網で、この世界の地球連合を支配する危険思想の情報を手に入れており
かつてのティターンズより危ない思想が蔓延っている事に危険を感じ、真っ先に排除することにしたのだ。
アンドロメダ級と主力戦艦級の大口径ショックカノンの方向が砲身の仰角をあわせ……ネメシス艦長がサッと手を振った瞬間、戦艦群の主砲が火を吹いた
同時に空母群はコスモタイガー、VF、モビルスーツなどの艦載機を発進させた。
ショックカノンの光芒は見事に地球連合の艦隊の先頭の駆逐艦を一発でぶち抜き、後ろにいた250M級戦艦(連合軍での名称はネルソン級)をも撃沈せしめた。
ミノフスキー粒子を散布したので照準はあまりアテにはならないが、初弾命中は天佑であった。これに連合は焦る。
「敵艦の攻撃です!!」
「馬鹿な……この距離でか!?遠すぎる……奴さんは日本海軍か!?」
連合軍の艦隊司令はこの時代にアウトレンジ戦法をやられるとは思ってもいなかったのか、顔色が見る見るうちに青ざめていく。
大昔の大日本帝国海軍が戦艦大和で夢見たアウトレンジ攻撃の再現は戦艦乗りとしては心胆を寒からしられてしまう。
「て、提督!敵機襲来!!戦闘機です!!」
「モビルスーツではないのか!?」
「は、はい!!」
それは一番槍で飛来したコスモタイガー隊であった。単座型と雷撃型が混じった編成ながらも見事な動きで対空砲火を回避し、急降下爆撃を加える。
中には敵艦の主砲が真正面から来るのをバレルロールで回避し、そのまま砲身にミサイルを撃ちこむ猛者も現れる。
「全機、敵艦隊の先鋒は俺達で料理するぞ!!」
「了解!!」
このコスモタイガー隊の隊長は一年戦争以前からの軍歴を持つ、2199年時点で45歳の老兵。
一年戦争中は同僚たちが当時の主力機「セイバーフィッシュ」からモビルスーツの「ジム・ライトアーマー」へ兵科そのものを転科していくのを尻目に、
宇宙戦闘機一筋でいた男。戦闘機復権の立役者である名機「ブラックタイガー」が造られるとすぐに乗り換え、愛機とした。
年齢的な問題で、白色彗星帝国戦の際には退役していたが、本土防衛のために復帰させられ、コスモタイガーで奮闘した。
白色彗星帝国戦後は再度の退役はせず、前線の戦闘機乗りとして生涯を終えるつもりで空母「コロッサス」の乗組となった。その戦闘機乗り人生の華を咲かせるべく、戦っていた。
その所属部隊の名は「第41戦闘攻撃飛行隊`ブラックエイセス`」。第二大戦中はF4Uで日本軍と戦った歴史を持つ部隊の一つで、
竣工間もなくまだ固有の戦闘機隊を持たないコロッサスに今回配属されている飛行隊。乗組となった彼が今回の事件にあたり、前の乗艦の部隊をそのまま転属させたのだ。
なので、英国名の空母にアメリカ軍系の部隊が艦載機部隊で乗っているという、アンバランスさを生んでいた。
「ハハハ、こりゃいいねぇ。まるでおもちゃの船を沈めるみてぇだ!」
と、連合軍に悪態をつきながら戦艦の艦橋に一発お見舞いし、そのまま護衛艦を機銃掃射で沈める。
「サイコ野郎どもめ、コスモタイガーの戦闘力を甘くみんなよ」
アメリカ系らしく、わざと敵旗艦とおもしき大型艦の艦橋すれすれに飛び、艦橋から視認できるように中指を立てて、敵を挑発してみせる。その様子を見た連合軍の司令は……
「おのれ、アメ公めが!!ふざけおって!!」
「し、司令、落ち着いて!!」
「これが落ち着いていられるか!!あんなふざけたポーズを取るのは絶対ヤンキー共に決まっとる!!私を侮辱しおって!!」
司令はどういうわけかポーズに過敏までに反応を示し、艦の火砲を全てコスモタイガーに向けるが……。その前に飛び去っていく。コスモタイガーはその性能を示したわけである。
「`ティルピッツ`、炎上!!」
「ええいっ……我々がこうも一方的になぶられるだと……それも戦闘機と戦艦に……まだ射程に入らんのか!?」
次々に舞い込んでくる悲報に怒りを積もらせる連合軍艦隊司令。お株を奪われるアウトレンジ攻撃と戦闘機による航空攻撃。
モビルスーツによって『過去の遺物』として葬り去られたはずの戦法で、しかも過去に自分たちが得意としていたはずの戦法でもって、甚振られるというのは、
自分たちにとってこれ以上ない屈辱である。
「司令、ようやく射程に入りました!!」
「よし!一番艦及び二番艦は撃ち方始め!!三番艦以降は射程に入り次第、砲撃!!」
司令は「戦艦には戦艦で」の法則で砲撃戦に打って出た。空母艦載機群に発進を命じつつ、無傷の戦艦群(艦載機射出後の旗艦のアガメムノン級含め)を艦隊から分離させた。
砲撃戦を戦う腹づもりであった。`海軍軍人`として砲撃戦を戦うのは昔から誉とされる。彼もそのご多分に漏れなかった。
連邦軍側もそれに応えた。戦艦群を分離させ、砲撃戦に打って出る。海軍のセオリー通りに単純陣での突撃である。
「敵モビルスーツ、我が方のモビルスーツと接敵。交戦中」
「コスモタイガー隊は?」
「コスモタイガー、帰投しました」
「よし……全艦、目標、敵艦隊!砲撃準備!!最初は奴さんに撃たせてやれ」
「分かってますね、艦長」
「うむ。嬲るのは気分のいいものではない。正々堂々と砲撃戦で葬ってやらんと彼らも成仏できんだろう」
彼らは地球連合軍との砲撃戦前というのに落ち着いている。自艦の性能に絶対の信頼を持つ故の余裕である。波動エンジン搭載艦はその膨大なエネルギーに耐えうるために装甲は強靭なものを用いている。その性能は`装甲でビームを弾ける`ほど。それは対ガミラス戦での旧型外惑星航行艦とガミラスの駆逐デストロイヤー艦の戦闘で証明されているからだ。
「おっ、来たな」
ネネシスめがけ、敵艦の砲撃の光芒がほとばしる。ネルソン級からの2連装大型ビーム砲の砲撃である。だが、その光はショックカノンやメガ粒子砲と比べて遙かにエネルギー量が小さい。この程度は蚊に刺されるようなもの。何発食らおうと装甲で弾ける。横っ腹に当たったもの、破壊エネルギーのはずの光そのものが装甲を貫けず、偏向してしまう。
「あの時のガミラスの奴らの余裕が分かったよ」
「ああ、艦長は確かガミラス戦の後期まではM-21741式宇宙戦艦(連邦軍が以前に使用していた外惑星間航行戦艦の一つ。ヤマトの建造が始まってからは旧式化していたが、
ガミラス戦時まで外惑星艦隊で使用されていた)で指揮をとっておられましたね」
「ああ。あの時は砲撃戦は勝てず、空母艦隊で持ちこたえていたからな。それが今やこうして余裕でいられるんだからな……波動エンジン様々だ」
波動エンジン搭載艦の装甲を撃ちぬく出力を持つビームはこの世界には存在しない。
たとえアークエンジェル級の陽電子破城砲を以てしてもアンドロメダ級の船体装甲の前には蟷螂の斧となってしまう。
「艦橋部を狙われてもその前に超合金と硬化テクタイト板の複合装甲の防御シャッターを展開すればいいだけの話。」これは修理を引き受けた際に、艦のデータをコピーした際の技術者達の言葉。連邦は3隻同盟の艦艇の修理を引き受けた裏でルナツーの保有するAI(軍需産業の一つのネルガル重工製)を使用してハッキングを行ったのである。ドラえもんがいた時代の−22世紀初期−の超AIに迫る処理能力を`取り戻した`ものならばこの程度は容易な事であるが、あくまで情報収集が目的なのでそれ以上は行なっていない。友好ができればそれに越したことはないからで、致し方無い事でもあった。
「さて、遊びは終わりだ!!全艦・全砲塔一斉射撃!!奴らを塵に返してやれ!!」
アンドロメダU級の51cm砲と主力戦艦級の40cm砲(ショックカノン)が一斉に火を噴く。
威力はガミラスの駆逐型デストロイヤー艦を一発でぶち抜く。それが束になって連合軍を襲ったのだ。ネルソン級達はそれぞれ違った最期を遂げる。中央部へ命中したと同時にベニヤ板のように艦体をしならせたと思えば中央から裂けて爆発する艦、艦橋部を破壊され、操艦不能となって僚艦と激突して互いに爆発した艦もあれば、主力戦艦級に一矢報らんと炎上しながらも最期の一撃をミサイルと砲撃の一斉射撃で加えて逝く艦もあった。その艦「ロドネイ」は一矢報いた。先頭の主力戦艦級「ヴィットリオ・ヴェネト」の一番砲塔を近距離からの攻撃で炎上させ、自らの命を引換に同艦の戦闘能力を削ぐ。
「一番砲塔、損傷!!炎上中!!」
「消化、急げ!!砲塔の可動は!?」
「砲塔の稼働装置に異常!!今すぐの修理は不能!!」
「一矢報いられたな……ちぃっ」
「ヴィットリオ・ヴェネト」艦長は舌打ちする。まさか一番砲塔使用不能の損害を受けるとは……と予想外の損害の起きさに思わず驚愕する。
−幸い旗艦と僚艦が敵旗艦以外の艦艇を相手取ってくれているが……この艦級にはまだ改善の余地が多いな。
艦長は主力戦艦級の改良の余地はまだ大きいことを実感し、同艦に戦闘を継続させた。
−モビルスーツは地球連合軍主力機「ストライクダガー」と地球連邦軍側は主に主力機「ジェガン」シリーズとその後継機「ジャベリン」、数合わせのジャベリンに至る前の小型量産試作機「ジェムズガン」の対決となったが、その中に二機だけガンダムタイプが混じっていた。青い「ガンダムF91」の量産仕様機と、ひときわ目立つVの光の翼を持つそのガンダムタイプの名は「V2ガンダム」。パイロットはウッソ・エヴィン。
「すまんねウッソ君。V2を運びに来てもらっただけだったのにこんなことに巻き込んでしまって」
「いいんです。この世界の争いを止めるのが僕の役目なら……僕はガンダムに乗ります」
スタークジェガンを駆る隊長機からの通信にウッソはこう答えた。彼はかつてリガ・ミリティアを勝利に導いたニュータイプ。年はジュドー・アーシタよりも下。彼はかつては不法居住者の集落であった「ポイント・カサレリア」出身で、ザンスカール帝国崩壊後は同地で隠居生活を送っていた。彼の功績により、白色彗星帝国戦後には同地区が連邦から正式に居住区として認められた。ウッソは白色彗星帝国戦後は戦いに戻るつもりはなかったが、同地に放置されていたV2ガンダムの悪用を恐れた政府の要請で、ルナツーにV2を預けるために来訪していた。そこで巻きこまれたわけである。
「ウッソ・エヴィン、V2、行きます!!」
V2は軍による整備と改修を受けたため、ザンスカール帝国戦時を超えるスペックを有する。ミノフスキードライブユニットの有り余るパワーは歴代ガンダム最速の速度と機動性を与えている。そのスピードは凄まじく、V字の残像を残して消え、F91以外のモビルスーツが置き去りにされるほどのスピードを発揮。その速さはストライクダガー部隊の隊列を一瞬で崩すほどであった。
−V字の光の翼が空間にはためく。連邦にとっての次世代型動力源「ミノフスキードライブ」を搭載し、ザンスカール帝国戦争後期以降のリガ・ミリティアの象徴であったV2にとって、熱核融合炉さえ積んでいないストライクダガーなど木偶の坊に過ぎない。ビームサーベルを使った剣戟で蹴散らしながら道を切り開く。
「お願いだから僕の邪魔をしないでくださいよ!!死にたいんですか!?」
ストライクダガーの一機がビームサーベルで斬りかかるが、逆にV2のビームサーベルにサーベルの光芒ごと機体を切り裂かれる。サーベルを押し切ったように見えるのはV2のサーベルの出力が圧倒的であるゆえにストライクダガーのサーベルのビームをかき消してしまったためだ。圧倒的パワーと運動性。機体の動きも柔軟かつ俊敏。これにストライクダガー隊のパイロット達は恐怖した。
「なんだよ、なんだよあのガンダムタイプはぁぁぁっ!!」
一機がライフルを乱射してくるがビームシールドが弾く。ビームシールド(正確に言えば似たような技術)はこの時代の兵士たちにとって一部の機体にしか(連合軍曰くユーラシア連邦だけの技術との事)搭載されていないはずの最新装備。
門外不出であるはずの装備が目の前のガンダムタイプに搭載されている。
それはこのストライクダガーを駆る、地球連合軍内のユーラシア連邦兵にとっては恐怖そのもの。
「なんで、なんで……あれがぁぁっ…!?」
次の瞬間、彼はV2の光の翼に断ち切られ、戦死した。これが連合・ザフト双方を恐怖の渦に叩き落す光の翼を持つガンダムタイプの伝説の始まりであった……。
−さて、青いガンダムF91のパイロット「ハリソン・マディン」大尉は連邦随一の腕を誇るエースパイロット。連邦には珍しくエースの異名持ちで、
「青き閃光」の異名を持つ。ただし、性格に問題がいささかある。それはロリコンであることで、部隊の兵士たちの悩みの種であった。それを除けば優秀な軍人。
彼はF91の性能を存分に発揮。連合の背後に控えるザフトのモビルスーツ隊を蹴散らす。
「この程度か……私を満足させられる奴はいなさそうだな……」
敵機はF91の機動性についてこれないようで、面白いくらいに落ちていく。ウェスバーを使わずとも流れ作業的に落とせるというのは退屈その上無い。
噂のザフトの誇る新鋭機の姿も見えるが、機種転換中のようで、数は少ない。
「さて、この青い閃光が相手をしてやろう!!」
ハリソンはザフト新鋭機の部隊に向けてF91を吶喊させる。ビームライフルの射線をバレルロールやインメルマンターンなどを使って回避する。
AMBAC`と併用したその機動は鋭く、連合と比べてモビルスーツ戦に慣れているザフトのパイロット達も舌を巻く。
「アイツ、速い!!」
「小型がなんだってんだ!!小さいだけのナチュラルの人形のくせに……!」
ザフトのパイロット達は口々にF91が小型である事と連合系の機体に見られる特徴を備えていたため、そう罵倒する。だが、F91はその常識を覆す力を持つ。
「もらった!!」
「何っ!?ゲイツよりも速い!?」
「F91を舐めるなよ」
F91はザフト最新鋭の「ゲイツ」以上の小回りの良さで背後を取り、ビームサーベルを突き刺す。それは一瞬の出来事。
小型機ゆえのスピードと小回りの良さ、ビームシールドでの防御力をこれでもかと見せつけ、青いガンダムF91はその能力でザフトを圧倒する。
それはガンダムタイプであるゆえの力。ザフトも連合もその意義に気づくのはまだ先の事であった。
−地球連邦軍ルナツー要塞は地球連合とザフトの戦争が凄惨な殲滅戦になることを予見、調停のために、戦力の整備を急いでいた。
一部隊の応戦中にもこうした整備は続けられ、基地内に配備されているRGM−89R「ジェガン」やRGM−122「ジャベリン」の全機の整備が完了していた。
「そちらではモビルスーツが小型化される段階まで技術が進んでいるのですか」
「そうだ。昔、20世紀頃に大型のスポーツカーがもてはやされた時代が終わったのと同じように、モビルスーツも小型化が行われた。
最も軍の制式機を小型機に統一する案もあったが、工廠施設の改装や製造ラインの組み換えの手間とコストもあって半々で落ち着いた」
アークエンジェルの艦長であり、元々は技術士官であったマリュー・ラミアスはルナツーに駐留中のバトル13の艦長であり、連邦軍中将の「キム・キャビロフ」中将と対談していた。
マリューは元々、地球連合内で最初にモビルスーツを作った大西洋連邦(旧合衆国)の軍人であり、
現在はムウ・ラ・フラガの愛機となっている「ストライク」などの輸送を当初は担当していたという経緯があるためか、
地球連合のもう一つの可能性とも言える地球連邦のモビルスーツには興味があるようだ。クサナギに搭乗していたモルゲンレーテのメカニックらも匿われてからというもの、
自社製の「M1アストレイ」よりも遙かに設計的洗練度が高く、性能も良い「ジェガン」に興味津々である(ジェガンは2199年時にはどちらかと言えば`旧世代`機に入っているため、
地球連邦軍側もジェガンに関しての情報はある程度の開示は許可した)。
マリューは運良く、連邦軍が現在ジェガンやその小型化機「ヘビーガン」から機種転換を進めているジャベリンを見学する機会を得た。
背中に二対の槍がマウントされているその姿は現在、敵と戦っている「ガンダムF91」の影響を受けている事が分かる。
「小型モビルスーツは大型機と比べ、どのような利点が?」
「大型機より小回りが効き、パワーも高いのでビームシールドが使えるという点だ」
「ビームでシールドを……」
「小型になったおかげで軽くなってるから余剰出力も多く確保できる上にジェネレーターが小型高性能のものが乗ってる故の恩恵だ。
ただしその分、製造コストが大型機より高くなったから議会受けは良くないがね」
そう。今、地球連邦軍はビームシールドを持つザンスカール帝国やクロスボーン・バンガード残党に対処出来るモビルスーツの整備を急務とし
2199年12月までにジャベリンを本星に3000機配備する計画を議会に提出した。
その計画は戦時となったことで1000機までは承認されたもの、残りは旧型機の再利用に留めるようにと変更されてしまった。
なので、本来は戦前の計画で2200年代中頃に退役予定であったジェガンを延命させて継続使用するハメになり、各部隊で独自の現地改造が許可されるまでになったのである。
「議会受け……ですか。戦時中とは言え、大変なのですね」
「議会の左派や財務省への借りも作っておかないと予算がもらえないからな。なので部隊の中には既存の機体を好き勝手に改造してるのが多い。例えばあれだ」
キャビロフは格納庫にあるいくつかの実例を見せる。それはジェガンを有り合わせの資材で`魔改造`した機体で、ジム・スナイパーUのバイザーを追加装着し、
AW50狙撃銃を模した狙撃用ライフルを持つ機体(同機を愛用していた、旧英軍系のエースパイロット部隊が独自に改造し、ライフルを新造させたもの。
正式装備のKar98k型ではしっくりこないため、ジェガンへの転換を機に用意させた)、ジム・ストライカー用のウェラブル・アーマーを取り付け、
ツインビームスピアなどを持つ機体などが置かれていた。
「現地改造ですか?地球連合では許可されていなかったので新鮮です」
「そうか。だが、昔からどの軍隊もやっている事だ。新兵器がおいそれと造られるわけではないからな」
キャビロフは第二次大戦中の事例を例に出す。例えば、米軍もM4戦車の生存性を高めようと努力していたし、
日本軍も零戦の火力を上げようと30ミリ砲を積んだ機体を現地改造で作っていた。
既存の機体をどうにかして戦力向上させようとするのは古今東西の軍隊も一緒である。そう言ってモビルスーツの隣で整備されている宇宙戦闘機の姿が見える。
「あれは?」
「今、我が軍の主力戦闘機を務めているコスモタイガーUの後継を争っている試作機だ。なんでもコスモファルコンとコスモパルサー、コスモミラージュというらしいが……」
マリューが見たそれは2200年代以降の地球連邦軍の防空を担うであろう次期主力戦闘機のトライアル機であった。
ルナツーで無重力化テストが行われており、それに実戦装備を施している光景である。コスモファルコンはブラックタイガーの開発チームの作であるようで、
その系統を受け継ぎ、機体デザインにその面影がある。一方のコスモパルサーはストレートに現行機を発展させた外見である。
最後の機体はかつてのミラージュシリーズの流れを組む機体である。今は試艦上戦闘機という立場であるこの3機は数年後、コンペでその飛行性能を争う事になる。
そしてそれは開発チーム同士の意地のぶつかり合いでもあった。